説明

高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法および装置

【課題】実際の列車と相似な三次元形状の列車模型を用いることにより、列車模型の回転を抑えて、より模型実験の精度向上を図ることができる、高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法および装置を提供する。
【解決手段】高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、軸対称列車模型用の回転車輪5Aを有する発射装置5を有し、ピアノ線1によってガイドされる、矩形部13と軸対称部14とが形成された列車模型2を前記発射装置5によって高速で発射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法および装置に関するものであり、特に、その模型列車の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、列車がトンネル入口に突入すると、トンネル内には圧力波が発生し、この圧力波はトンネル内をほぼ音速で伝播する。そして、この圧力波がトンネル出口に到達すると、外部へパルス状の圧力波が放射され、低周波音として観測される。
【0003】
これらの高速列車の空気力学的現象の解明、性能評価のためには、実験装置を用いた模型実験が有効な手段の一つと考えられる(下記特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3739642号公報
【特許文献2】特許第3642423号公報
【特許文献3】特開2006−44609号公報
【特許文献4】特許第3686561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜3の模型実験においては、軸対称形状(円形断面)の列車模型が用いられている。このように列車模型が軸対称形状(円形断面)である場合、車両周りの三次元的な流れや、車両床下の流れの圧力波への影響を模擬できないという問題がある。
【0006】
この問題を解決して模型実験の精度を向上させるためには、実際の列車と相似な三次元形状の列車模型を用いることが必要である。
【0007】
しかし、上記した特許文献4の発射装置により断面が矩形の三次元形状列車模型を発射させると、列車模型に軸を中心とした回転力が生じて列車模型が回転してしまう。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、実際の列車と相似な三次元形状の列車模型を用いることにより、列車模型の回転を抑えて、より模型実験の精度向上を図ることができる、高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、軸対称列車模型用の回転車輪を有する発射装置を有し、ピアノ線によってガイドされる、矩形部と軸対称部とが形成された列車模型を前記発射装置によって高速で発射させることを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、前記列車模型の前記矩形部が前記発射装置の前記回転車輪に挟み込まれることにより、前記列車模型の水平を保ち前記列車模型の回転を防止することを特徴とする。
【0011】
〔3〕上記〔2〕記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、前記発射装置の前記回転車輪はゴム付き発射輪であり、このゴム付発射輪のゴムには前記列車模型の前記軸対称部の外周面に接触する断面凹部が形成され、前記発射装置による前記列車模型の発射時に、前記断面凹部の両端部に形成される隆起部に前記列車模型の前記矩形部の四隅部が当接するように配置することを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔2〕記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、前記列車模型の前記矩形部と前記軸対称部との境界における段差は、前記発射装置の前記ゴム付き発射輪の外周にほぼ合致する曲率半径を有するようにしたことを特徴とする。
【0013】
〔5〕高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置において、軸対称列車模型用の回転車輪を有する発射装置と、この発射装置によって発射され、ピアノ線によってガイドされる、矩形部と軸対称部とが形成された列車模型とを具備することを特徴とする。
【0014】
〔6〕上記〔5〕記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置において、前記列車模型の前記矩形部が前記発射装置の前記回転車輪に挟み込まれることにより、前記列車模型の水平を保ち前記列車模型の回転を防止するようにしたことを特徴とする。
【0015】
〔7〕上記〔6〕記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置において、前記発射装置の前記回転車輪はゴム付き発射輪であり、このゴム付き発射輪には前記列車模型の前記軸対称部の外周面に接触する断面凹部が形成され、前記発射装置による前記列車模型の発射時に、前記断面凹部の両端部に形成される隆起部に前記列車模型の前記矩形部の四隅部が当接するように配置することを特徴とする。
【0016】
〔8〕上記〔6〕記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置において、前記列車模型の前記矩形部と前記軸対称部との境界における段差は、前記発射装置の前記ゴム付き発射輪の外周にほぼ合致する曲率半径を有するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、列車模型の形状を工夫した三次元列車模型とすることにより、従来の軸対称列車模型用の発射装置を用いて高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験を行うことができる。そのため、模型実験装置のコストを抑えると共に模型実験の精度の向上を図ることができる、データ生産性の高い模型実験方法および装置を得ることができる。
【0018】
また、ゴム付き車輪を有する発射装置は、従来の発射装置を用いることができるため、模型実験装置のコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例を示す高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置の概略構成図である。
【図2】図1の模型実験装置における列車模型の形状を示す図である。
【図3】図1の模型実験装置におけるゴム付発射輪と列車模型の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の模型実験方法は、軸対称列車模型用の回転車輪を有する発射装置を有し、ピアノ線によってガイドされる、矩形部と軸対称部とが形成された列車模型を前記発射装置によって高速で発射させる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の実施例を示す高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置の概略構成図、図2は図1の模型実験装置における列車模型の形状を示す図であり、図2(a)はその列車模型の側面図、図2(b)はその列車模型の正面図、図3は図1の模型実験装置におけるゴム付発射輪と列車模型の正面図である。
【0023】
これらの図において、1はピアノ線(例えば、直径5mm)、2はピアノ線1をガイドして発射される、矩形部(ほぼ矩形の断面を有する)13と軸対称部(円形断面を有する)14とが形成された列車模型(構造の詳細は後述)、3は第1の固定部、4は第2の固定部であり、ピアノ線1は第1の固定部3と第2の固定部4との間に張られている。また、ピアノ線1に沿って第1の固定部3側から順に、回転車輪(ゴム付き発射輪)5Aを有する発射装置5、発射された列車模型2の速度を測るための速度センサ6、発射された列車模型2が突入するトンネル模型7およびトンネル模型7を通過した列車模型2を止めるための制動装置9が配置されている。さらに、トンネル模型7には圧力計8が配置されている。
【0024】
本発明の模型実験装置の列車模型2は、図2に示すように、矩形部(例えば、長さL1 は400mm)13と、この矩形部13に接続される軸対称部(例えば、長さL2 は600mm)14とを備えている。矩形部13は、流線形の先端部11Aを有する傾斜面11を含む断面が矩形状の先頭部12を有している。また、15は矩形部13と軸対称部14との境界における段差部であり、実験装置の長手方向断面で見たときに発射装置5の回転車輪5Aの外周にほぼ合致する曲率半径を有している。この列車模型2の長手方向中心部には、列車模型2をガイドするピアノ線1を通すための孔16が形成されている。
【0025】
ここで、矩形部13と軸対称部14からなる列車模型2の長さを、例えば1000mm(L1 :400mm+L2 :600mm)としたのは、列車模型2の全長が発射装置5の隣り合う回転車輪5Aの間(L3 :1300mm)に位置することができるように構成するためである。回転車輪5Aの回転速度は、次第に回転数が高くなるように駆動されるため、ピアノ線1に沿って配置される各回転車輪5Aの回転速度は異なっており、列車模型2の発射装置5からの出射部に近づくにつれその回転速度は大きくなっている。列車模型2は隣り合う回転車輪5Aに跨がることなく配置されているので、1対の回転車輪5Aにより発射され、ピアノ線1に沿って配置された各回転車輪5Aを通過することで次第に速度が高められ、最終的に発射装置5から高速で発射することができる。
【0026】
また、図3に示すように、列車模型2の軸対称部14は、回転車輪5A上に配置されるゴム17の凹部17Aに接触するように形成され、列車模型2の矩形部13の四隅部13Aは、回転車輪5A上に配置されるゴム17の突起部17Bに接触するように形成されている。
【0027】
このように、列車模型2に矩形部13を設けることによって、図3に示すように、矩形部13の四隅部13Aが回転車輪5A上に配置されるゴム17の突起部17Bに挟み込まれ、従来の特許文献4に開示されているような軸対称列車模型用の発射装置を用いても、列車模型2の水平が保たれその回転を防止することが可能になる。
【0028】
また、軸対称部14が発射装置5の回転車輪5Aと広い面積で接することにより、列車模型2と回転車輪5Aの間の滑りを抑え、列車模型2を高速で発射させることが可能になる。
【0029】
さらに、列車模型2を実際の列車と相似な三次元形状とすることで、軸対称形状(円形断面)の列車模型を使用した場合に比べて模型実験の精度の向上を図ることができる。
【0030】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法および装置は、列車模型の形状を実際の列車の形状により近づけて、模型実験の精度向上を図り得るトンネル圧力波の模型実験方法および装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 ピアノ線
2 列車模型
3 第1の固定部
4 第2の固定部
5 発射装置
5A 回転車輪(ゴム付き発射輪)
6 速度センサ
7 トンネル模型
8 圧力計
9 制動装置
11 傾斜面
11A 流線形の先端部
12 先頭部
13 矩形部
13A 列車模型の矩形部の四隅部
14 軸対称部
15 矩形部と軸対称部との境界における段差部
16 孔
17 ゴム
17A ゴムの凹部
17B ゴムの突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸対称列車模型用の回転車輪を有する発射装置を有し、ピアノ線によってガイドされる、矩形部と軸対称部とが形成された列車模型を前記発射装置によって高速で発射させることを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法。
【請求項2】
請求項1記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、前記列車模型の前記矩形部が前記発射装置の前記回転車輪に挟み込まれることにより、前記列車模型の水平を保ち前記列車模型の回転を防止することを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法。
【請求項3】
請求項2記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、前記発射装置の前記回転車輪はゴム付き発射輪であり、該ゴム付発射輪のゴムには前記列車模型の前記軸対称部の外周面に接触する断面凹部が形成され、前記発射装置による前記列車模型の発射時に、前記断面凹部の両端部に形成される隆起部に前記列車模型の前記矩形部の四隅部が当接するように配置することを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法。
【請求項4】
請求項2記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法において、前記列車模型の前記矩形部と前記軸対称部との境界における段差は、前記発射装置の前記ゴム付き発射輪の外周にほぼ合致する曲率半径を有するようにしたことを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験方法。
【請求項5】
(a)軸対称列車模型用の回転車輪を有する発射装置と、
(b)該発射装置によって発射され、ピアノ線によってガイドされる、矩形部と軸対称部とが形成された列車模型とを具備することを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置。
【請求項6】
請求項5記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置において、前記列車模型の前記矩形部が前記発射装置の前記回転車輪に挟み込まれることにより、前記列車模型の水平を保ち前記列車模型の回転を防止するようにしたことを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置。
【請求項7】
請求項6記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置において、前記発射装置の前記回転車輪はゴム付き発射輪であり、該ゴム付き発射輪には前記列車模型の前記軸対称部の外周面に接触する断面凹部が形成され、前記発射装置による前記列車模型の発射時に、前記断面凹部の両端部に形成される隆起部に前記列車模型の前記矩形部の四隅部が当接するように配置することを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置。
【請求項8】
請求項6記載の高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置において、前記列車模型の前記矩形部と前記軸対称部との境界における段差は、前記発射装置の前記ゴム付き発射輪の外周にほぼ合致する曲率半径を有するようにしたことを特徴とする高速鉄道におけるトンネル圧力波の模型実験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−281682(P2010−281682A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135183(P2009−135183)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】