高選択性ポリマー−ナノ多孔質粒子膜構造
水の精製(塩類および溶解有機物の除去)および気体分離の両方において有用な高選択性ポリマー−ナノ−多孔質粒子膜構造、またはZeoTIPS膜、ならびに当該の製造方法を提供する。当該膜は、少なくとも1種類のナノ多孔質粒子;微小多孔質ポリマーマトリクス;および約0.3nmから約1nmの範囲の孔を含むことができる。ポリマー−ナノ−多孔質粒子膜を製造する当該方法は、少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を高温でポリマーおよび希釈剤の均一な溶液に混合して混合物を形成させる工程、ならびに混合物を冷却して微小多孔質ポリマーマトリクスを凝固させる工程を含むことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年5月12日に出願された米国仮特許出願第60/894,234号の利益を主張し、この米国仮特許出願は本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
長年にわたって、サイズが類似した化学種を効率よく分離することができる膜を作り出すことが望まれてきた。一般的な用途としては、気体の分離(O2/N2およびCH4/CO2など)、逆浸透による水からの有機物および塩類の除去、ならびにパーベーパレーションによるエタノールと水との分離などが挙げられる。
【0003】
例えば界面重合法、位相反転法、および蒸発キャスティング法などの従来の処理過程によって作られるポリマー膜が、分離用途に長い間用いられてきたが、研究者および製造業者らは、ほぼ同一サイズの化学種の効率的分離を達成する十分に狭い孔サイズ分布を得ることができなかった。これは一つには、ポリマー鎖のパッキングの結果としてポリマー膜にみられる、孔サイズ分布が原因である。ポリマーは100%結晶でないために、エントロピー効果が原因となって一部の鎖間の間隙が他より大きくなる。さらに、一般的にポリマー膜はより大きい分子の回転自由度を制限することができない一方で、より小さい分子の無制限な動きを可能にするため、より大きい分子が膜を越えて拡散するのを防ぐのは困難である。これらの現象は、流動/選択性のトレードオフを引き起こし、ポリマー膜の有効性が限定される。
【0004】
例えばゼオライトなどが平坦なシート状の膜の形に構造化された無機材料を使用することによって、より精密なサイズ・ベースの分離を達成しようとする試みが行われてきた。これらの膜は、孔サイズ分布が狭いため、より大きな可能性を示す。しかしながら、壊れやすい性質および難しい形成過程のために、これらの膜はまだ広範囲に使用されていない。さらに、これらの膜は中空糸の形に作ることができないため(体積に対する表面積比が高くなる)、体積に対する表面積比がこれらの膜の使用をさらに限定する。より優れた化学的安定性および熱安定性を必要とする用途では、セラミック膜がポリマー膜よりも一層優れていることが実証されてきた。しかし、これらの膜は、しばしば高価であり、作るのが困難であり、また壊れやすい。
【0005】
過去10年にわたって、上述の膜の短所に対する解決策として、混合マトリクス膜が提案されてきた。連続的な低透過性のポリマーマトリクスにゼオライト粒子を懸濁することにより、ポリマー膜では不可能だった分離を達成することが可能になった。この改良は、懸濁ゼオライト粒子をポリマーマトリクス中に固定することによって得られる。これらの粒子は、一種類の化学成分の透過性を実質的に低下させつつ、他の化学成分の透過性を増大させるように選択される。その結果、所望の透過性成分は、同じポリマーでできた純粋なポリマー膜よりも速く混合マトリクス膜を通過する。さらに、不要の化学成分はゼオライト粒子周囲のより複雑な経路を移動することを余儀なくされ、その結果、その成分の移動度が低下し、全体として所望の成分に対する選択性が増大する。しかし、混合マトリクス膜は、ゼオライトフィルムと同じく短所が無いわけではない。例えば、このような混合マトリクス膜は、分離能が限られている。ゼオライト粒子は連続的な分離層ではないため、ポリマー膜に対してわずかな改良しか達成することができない。さらに、選択性の低下を引き起こす、ポリマー−ゼオライト間の接着の悪さに多くの研究者らが取り組んできた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分離の成功度はまちまちであるが、数多くの膜が使用されてきた。しかし、現在進行中の重要な研究の目標としては、より精密なサイズ分離が残されたままである。したがって、残っている課題は、連続的ゼオライトシートの効果を備えるが、混合マトリクス膜の柔軟性および耐久性を備える膜を作り出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本発明は、分離のための微小多孔質混合マトリクス膜に関する。より具体的には、水の精製(塩類および溶解有機物の除去)および気体分離の両方において有用であって、熱により誘導される相分離によって形成される高選択性ポリマー−ナノ多孔質粒子膜構造、またはZeoTIPS膜に関する。微小多孔質混合マトリクス膜は、微量混入物質を化学物質流から除去しなければならない場合に、種々の逆浸透、パーベーパレーション、およびナノ濾過用途に用いることもできる。
【0008】
本発明の膜には、従来の膜に優るいくつかの利点がある。ZeoTIPS膜は、従来のポリマー膜、ゼオライトフィルム、および混合マトリクス膜の著しい利点を維持しつつ、数多くの不利な点を排除している。第1に、これらの膜は、高い選択性によって、困難な気体分離および困難な水精製のステップを成し遂げることができる。さらに、ZeoTIPS膜は、ゼオライトフィルムと異なり、容易に中空糸を作ることができ、表面積が広い構造を形成することができる。対照的に、従来の多くの膜は、中空糸と比較して体積に対する表面積が低い、平坦なシートにすることができるだけである。中空糸は、より狭い空間により大きい表面積を生み出すための膜モジュール内にぎっしりと詰め込むことができ、このモジュールによって、従来の膜よりも一層高い流動性を得ることができる。また、選択されるゼオライトの種類を変化させることによって、特定の用途のための特定の目的を持つZeoTIPS膜を作るために、様々な孔サイズを備えるゼオライトを使用することもできる。さらに、これらの膜は、従来の膜に付随する壊れやすさの問題、および費用の問題を克服する。
【0009】
一般的に、本発明の膜は、ナノ多孔質粒子、微小多孔質ポリマーマトリクス、および約0.3nmから約1nmの範囲の孔を含む。一般的に、本発明の膜は、ナノ多孔質粒子を提供すること、ポリマーおよび希釈剤の均一な溶液を提供すること、ナノ多孔質粒子を高音でポリマーおよび希釈剤の均一な溶液に混合して混合液を形成すること、混合物を冷却して微小多孔質ポリマーマトリクスを凝固させること、および任意で希釈剤を抽出することにより作られる。
【0010】
本発明の特徴および利点は、以下の実施形態の説明を読むことにより当業者に容易に明らかになるだろう。
【0011】
開示の一部の具体的な例となる実施形態は、一部分において、以下の説明および添付の図面を参照することによって理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】膜を横断する連続的な微小多孔質の経路が存在しない、ZeoTIPS膜の概略図を示す。
【図2】ポリ(メチルメタクリレート)、1,4−ブタンジオール、およびエチル基の付加により表面を修飾したタイプ4A分子篩粒子で形成されたZeoTIPS膜のSEM像を示す。
【図3】イソタクチックポリプロピレン、ジフェニルエーテル、およびタイプ4A分子篩粒子で形成されたZeoTIPS膜のSEM像を示す。
【図4】懸濁されたゼオライトによるセルサイズを予測するために実証的関係を特定する、デジタル画像解析プロットを示す。
【図5】ZeoTIPS膜は、(a)連続するボイドおよび未被覆のゼオライトと平行するポリマー相として、または(b)連続するボイドおよびポリマー被覆ゼオライトと平行するポリマー相としてモデル化できることを示す。膜内輸送は、図の上部から底部へ経路IまたはIIを介して生じる。
【図6】示された膜の上部から底部への2種類の透過について、ZeoTIPS分離の概略図を示す。破線は、より大きい成分の経路を表す。実線は、より小さい成分の経路を表す。
【図7】表1に示したデータを用いた、理想的および理想的でないZeoTIPS膜(ボイド対ポリマーの比が3:1)、および緻密な混合マトリクス膜の選択性を示す。
【図8】表1に示したデータを用いた、理想的および理想的でないZeoTIPS膜(ボイド対ポリマーの比が3:1)、および緻密な混合マトリクス膜の透過性を示す。
【図9】ポリマーの透過性が様々である、理想的ZeoTIPS膜(ボイド対ポリマー体積比3:1、Pv=750.05×10−18m2/s Pa(100 Barrers))についての選択性を示す。
【図10】矢印がポリマーの透過性増加(黒い点)を示す理想的ZeoTIPS膜、矢印がβの増加(白い四角)を示す理想的でないZeoTIPS膜、および矢印がポリマーの透過性増加(黒い三角)を示す緻密な混合マトリクス膜の性能を示し、1991年のRobesonの上限[1]および商業的魅力領域が共にプロットされている。全てのポイントは、20体積%のゼオライト添加に相当し、ZeoTIPS膜の全てのポイントはボイド体積対ポリマー体積の比が3:1に相当する。
【図11】ポリマーの透過性が様々である、理想的ZeoTIPS膜(ボイド対ポリマー体積比3:1、PVAcのマトリクス)についての選択性を示す。
【図12】ポリマーの透過性が様々である、理想的ZeoTIPS膜(PVAcのマトリクス、Pv=750.05×10−18m2/s Pa(100 Barrers))についての選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、様々な変更および代替形態の影響を受け入れることができるが、具体的な例となる実施形態は、本発明を開示された特定の形態に限定しようとするものではなく、むしろ、添付の特許請求の範囲によって一部示されているように、本開示は全ての変更およびその均等物を包含するものである。
【0014】
(説明)
本発明は、分離のための微小多孔質混合マトリクス膜に関する。より具体的には、本発明は、水の精製(塩類および溶解有機物の除去)および気体分離の両方において有用であって、熱により誘導される相分離によって形成される高選択性ポリマー−ナノ多孔質粒子膜構造、またはZeoTIPS膜に関する。このような膜の製造方法も、本明細書に記載される。本明細書において使用されるように、「ZeoTIPS膜」の用語およびその派生語は、液体−液体熱誘導相分離(L−L TIPS膜)によって形成され、さらに少なくとも1種類のゼオライト粒子を含む膜を表す。
【0015】
特定の実施形態において、本発明のZeoTIPS膜は、特に、所望の精密な分離を達成するために必要とされる狭い孔サイズ分布となっている。当該膜は、ゼオライト粒子に多孔質マトリクスを提供することによりゼオライトフィルムおよび従来の混合マトリクス膜両方の欠点に対処したものであり、これによって、粒子のみが分離に関与することが可能なる。この独特の構造によって、より優れた耐久性と柔軟性とともに連続的なフィルム状ゼオライト膜と同じ分離能が得られる。
【0016】
特定の実施形態において、L−L TIPS膜は、最初にポリマーを高沸点の希釈剤と高温で混合し、2つの成分を実質的に均一な相に溶解−混合する段階により形成される。希釈剤は、高温でのみポリマー用の溶媒としての役割を果たし、均一な溶液を冷却することによって、ポリマーに富んだ連続相の中にポリマーに乏しい相の小滴を形成する。希釈剤に富む小滴のサイズを制御する要因としては、均一な溶液中のポリマー濃度、粗大化時間に影響する冷却速度などが挙げられる。凝固の際に、希釈剤の小滴が、最終的な膜のセルを形成する。最終的に、希釈剤は揮発性溶剤で抽出され、膜は乾燥され、開いた微小多孔質構造が残る。これらの膜は、柔軟で安価であり、単に冷却速度またはポリマー濃度を調節することで一定範囲内の所望の任意の孔サイズに調整することができることから、特に、マイクロ濾過に有用である。しかし、これらの膜は、所望の精密な分離を達成するために必要な狭い孔サイズ分布を備えていない。
【0017】
一般的に、本発明のZeoTIPS膜は、ナノ多孔質粒子、すなわちゼオライトをポリマーおよび希釈剤の均一な溶液(ポリマー−希釈剤系)に高温で混合することによって形成される。限定のためではなく説明としてであるが、ポリマー系希釈剤相の分離温度未満まで冷却する際に、懸濁されたナノ多孔質粒子の間に希釈剤の小滴が形成する。冷却は微小多孔質ポリマーマトリクスをさらに凝固させる。希釈剤を抽出すると最終的な構造がもたらされる。希釈剤の抽出は、一部の用途には不要であるかもしれず、膜は、マトリクスの内部に希釈剤の一部が残っていても、依然機能する場合もある。マトリクスは、1つのナノ多孔質粒子にも閉塞されることなく完全に膜を横切る微小多孔質チャネルが1つもなく、透過する粒子を通じて拡散するしかないような状態に形成される(図1)。本発明の微小多孔質混合マトリクス膜は、必要に応じて、意図される用途に適したシート状、チューブ状、または分離のために広い表面積を可能にする中空糸状など、しかしこれらに限られない、任意の形状に形成することもできる。
【0018】
特定の実施形態において、ZeoTIPS膜が首尾良く形成されるメカニズムは、以下のステップで発生させることができる。まず、ゼオライト粒子が均一な溶液中に懸濁される。限定のためではなく説明としてであるが、冷却の際に、粒子を取り囲む微小多孔質ポリマーマトリクス中に希釈剤の小滴が形成し始める。小滴が成長する際に、ポリマーおよびゼオライトのための希釈剤の親和性が等しいことを前提とすると、小滴の壁がゼオライト粒子の形状に合致するように変形する。系が凝固する時、ゼオライトは、ポリマーによって実質的にその場に固定され、従来の微小多孔質膜であれば微小細孔が存在しているであろう場所を塞ぐ。その結果、微小細孔が「ブロックされ」、隣接するセル間の連結を妨げる。粒子により十分な微小細孔が「ブロックされ」る場合、ゼオライトは臨界添加に達し、膜を横切って到達することのできる連続的な微小細孔経路はなくなる。
【0019】
膜の製造に用いられるポリマーは、実質的には任意の不透過性ポリマーとすることができる。ポリマーの適切な例としては、それに限られないが、ポリオレフィン類、ポリオレフィン類を含むコポリマー(例えば、ポリエチレンコビニルアルコール、ポリ(エチレンコアクリル酸)、およびポリ(エチレンコビニルアセテート)など)、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ(ビニリデンフルオライド)、およびポリ(メチルメタクリレート)などが挙げられる。これらのいずれかを含むコポリマーは、本発明の組成および方法において有用である場合がある。
【0020】
膜の製造に用いられる希釈剤の選択は、特に、ポリマーの溶解性と比較して、希釈剤の溶解性に応じて選択されればよい。特定の実施形態において、希釈剤は高沸点の任意の化学物質であってもよく、室温で液体であっても、または液体でなくてもよい。希釈剤の適切な例としては、それに限られないが、ジフェニルエーテル、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、およびドデカノールなどが挙げられる。
【0021】
特定の実施形態において、製造過程に用いられるポリマー−希釈剤系は、高温でのポリマーと希釈剤との間の相互作用の結果として、膜中のセルのサイズを決定する主要要因である場合がある。これらの相互作用の性質は、系ごとに著しく変化して差し支えない。系の相分離の挙動が特定の要求を満たさない場合には、処理条件における大きな変化が必要とされる場合もある。例えば、セルが十分に大きくない場合、セルがより大きく成長できるように、冷却速度を遅くする必要がある可能性もある。これは、処理時間を長くし、より多くの処理機器が必要になる可能性もある。ポリマー−希釈剤系は、表面修飾なしでナノ多項質粒子が微小多孔質マトリクスと十分に相互作用するか否かも決定する。製造過程に用いられるポリマー−希釈剤系は、イソタクチックポリプロピレン(iPP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ(エチレン・コアクリル酸)(EAA)およびポリ(エチレンコビニルアセテート)(EVA)の希釈剤としてジフェニルエーテル、希釈剤としてシクロヘキサノール、1,4−ブタンジオール、およびポリ(エチレングリコール)を含むポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の系、希釈剤としてグリセロールおよびPEGを含むポリ(エチレンコビニルアルコール)(EVAL)の系、ポリスチレン−ドデカノール、ならびに状態図と物理的データと広範囲の官能基と結晶化度とが容易に入手可能であるその他任意の系を含んでもよい。
【0022】
本発明の膜に用いられるナノ多孔質粒子は、一般的にSi、Fe、Ge、P、およびAlなどの元素の酸化物を含むゼオライトから作られている。特定の実施形態において、ゼオライトは、広く入手可能で安価な、タイプ4Aの分子篩であってもよい(図2および3)。特定の実施形態において、ゼオライトはタイプ3Aの分子篩であってもよい。特定の実施形態において、ゼオライトはタイプ5Aの分子篩であってもよい。特定の実施形態において、ゼオライトはタイプXの分子篩であってもよい。ゼオライトは、合成物または天然物であってもよい。特定の実施形態において、本発明の組成及び方法において、金属−有機構造体および有機分子篩が有用である場合もある。特定の実施形態において、ナノ多孔質粒子は、約0.3nmから約1nmの範囲の孔を備える、約0.5から約15μmの範囲のサイズとすることもできる。
【0023】
広範囲におよぶ官能基がゼオライトの表面に結合していてもよい。一般的に、結合する可能性がある官能基は、ゼオライト表面のアルコールと反応する可能性がある有機官能基である。これらの修飾としては、それだけに限らないが、グリニャール処理および様々なシラン化など、文献にある様々な方法で行うことができる[4]。これらの処理は、緻密な混合マトリクス膜においてポリマー−ゼオライトのより密接な相互関係を達成する目的で行われている。
【0024】
本発明のより良好な理解を助けるために、以下に具体的な実施形態の実施例を示す。以下の実施例は、本発明の全体の範囲を限定するまたは定義すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
特定のポリマー−希釈剤系の実現可能性については、以下のステップにより膜を形成することによってテストを行った。まず、所望の量のポリマーペレットおよび希釈剤を密閉された試験管に加え、均一性を確保するために定期的に撹拌しながら、ポリマーの融点を超える温度で約48時間加熱する。溶液が均一になった時点で、液体窒素により凝固させ、室温に戻す。この固体試料の一部を秤量し、適当な量のゼオライト粉末と共に新しい試験管に加える。試験管を密閉する前に、小さいマグネチックスターラーを加える。この試料は、ポリマーの融点を超える温度で再び約2時間加熱する。懸濁液を撹拌するために、数分ごとに希土類元素マグネットを使用する。これは、懸濁液の粘性が高いために行わなければならず、他の撹拌方法は効果がない。十分に撹拌された時点で、懸濁液は液体窒素中で凝固させ、室温に戻す。固形試料の薄片1枚を次にホットステージ上で所望の温度で加熱し、制御された速度で冷却する。押出しフィルムの冷却速度を再現するために、ホットステージで許容される、実行可能な最も速い冷却速度である125℃/minを用いる。膜は、希釈剤を除去するために、適切な溶媒を用いて24時間抽出する。走査型電子顕微鏡(SEM)解析は、ポリマーがゼオライト粒子と好適な相互作用を行っているかどうかを明らかにする。
【0026】
ホットステージ法で系が実行可能であると認められる場合、さらに膜をLeistritz社の2軸スクリュー押出機により形成してもよい。押出過程で制御される条件は、ほとんど冷却速度に関連する。フィルムは、加熱されたグラスファイバースクリーンのベルト上の空冷を用いて形成する。ベルトの温度は、膜の冷却速度の制御において最も重要な要素である。さらに、フィルムの厚さを変更して、良好なポリマー−ゼオライト間の接着を促進するのに十分にゆっくりと冷却しつつある間に作ることのできる最も薄いフィルムを判断する。フィルムの厚さは、金型スリットの幅を変えることによって、懸濁液の流速を速めるまたは遅くすることによって、または巻き取り速度を調節することによって、変化させることにより変更される。選択された冷却方法が効率的であるかどうかを決定するために、SEM解析が用いられる。
【0027】
(実施例2)
押出しによって形成される膜は、デッドエンド圧力セルで純水を用いてテストすればよい。これらのテストは、ゼオライト添加の臨界点を実験的に測定するために用いられる。300psigの圧力下で、即時の著しいフローを生じない膜は、臨界点を越えていると見なされ、上述のモデル予測と比較するための正確な臨界点を見いだすために、およそ20〜35%のゼオライト添加の範囲をテストすればよい。
【0028】
臨界点を越えていると認められる膜は、逆浸透による脱塩能についてテストすればよい。0.1M NaClおよび0.1M KClの溶液を、撹拌されたデッドエンドセル中にて300psigで用いればよい。
【0029】
同じ膜は、ガス分離能についてテストすることもできる。低圧力透過セル用いて、膜中の酸素および窒素の透過性を30psigで測定すればよい。
【0030】
(実施例3)
粒子添加の影響を特性付けするために、以下の3つの実験を用いればよい。第1の実験は、32枚の膜で構成される。実験の計画は、JMPソフトウエアを用いて作成する。この計画はデュプリケートのある中心複合計画であり、非線形作用を扱うことができる。冷却速度(50℃/min、88℃/min、125℃/min)、ポリマー重量%(20%、27.5%、35%)、およびゼオライト粒子添加(20%、27.5%、35%)の3つの要素が導入される。これらの3つの範囲は、ZeoTIPS膜に対する適度な範囲として、過去に実験を通じて決定された。ゼオライト粒子添加の計算は、懸濁液の各成分を考慮して行う。この実験セットの全ての膜は、iPPおよびDPEを用いて作製された。
【0031】
第2および第3の実験は、ポリマー−希釈剤−ゼオライト相互作用の変化によって誘起されるセルサイズの変化を調査する。これらのセットに対して選択される系は、PMMA−シクロヘキサノールおよびPMMA−1,4−ブタンジオールであり、冷却速度が50℃/min、ポリマー重量%が20%、ならびにゼオライト粒子添加が0、12.5、20、27.5、および35%で、それぞれ5枚の膜が形成された。さらに、第4のセットの膜は、0%および12.5%のゼオライト添加で作られる2つの膜で構成され、第2および第3のセットと同一条件でiPPおよびDPEで作られる。ゼオライトは、PMMAに対してよりもシクロヘキサノールおよび1,4−ブタンジオールに対してより高い親和性を備え、重要な要因は、これらの2つの膜の間のセルサイズが大きく異なることである。これは、ゼオライトが希釈剤に対してよりもポリマーに対してより高い親和性を備えるiPP−DPE系との比較に用いる。セルがゼオライト粒子自体よりはるかに小さくない限り、希釈剤と比較したポリマーに対するゼオライトの親和性の違いはセルの成長に影響する、と仮定される。所望の構造を備えるZeoTIPS膜を作るために必要な条件の予測を目指した見識をもたらすために、この作用が及ぶ範囲が調査される。
【0032】
Image Pro Plus(Media Cybernetics, Inc., Silver Spring MD)により、各膜のセル領域の測定を行うことができる。各試料において合計50セルを測定し、各々の結果は、セル体積のアナロジーとして使用される、セル断面平均面積とする。当該の測定結果は図4に示され、セルサイズは、一定のポリマー重量%および冷却速度で減少し、最低サイズを抜けると、ゼオライト添加の増大とともに増大する。
【0033】
(実施例4)
理論的モデル化
ZeoTIPS膜の性能を理論的にモデル化するために、平行連続配列における混合物ポリマー、ボイド、およびゼオライト粒子単位として、膜構造をモデル化する。図5は、理想的ZeoTIPS膜の略図を示す。図5(a)の上部から下部へと透過するものと考えること。透過する分子は、濃い灰色のポリマー領域(経路I)を通って、拡散によって通過することができる。別の、または平行する経路(経路II)は、連続するボイド−ゼオライト−ボイドの配列を通って通過する分子に対するものである。すなわち、膜を通じた移送は、平行−連続方式でモデル化することができる。もちろん、ゼオライト粒子はしばしばポリマーの相に被覆されると文献に示されていることから、図5(a)に示されるような、このような理想的な膜を作るのは簡単なことではない。
【0034】
緻密な混合マトリクス膜の形成は、ゼオライト粒子の表面に相間領域をもたらす可能性があるということが、文献で十分に裏付けられている[2]。この相間のポリマーは、バルクポリマーよりもより緻密な、または密度が低い場合もある。ゼオライト表面近くのより緻密なポリマーの場合、ポリマー相を通って透過する分子の拡散は、ボイドおよびゼオライトを通るものよりはるかに少ないことから、図6に示される理想的なZeoTIPS膜には関係がない。ゼオライト表面近くのより密度が低いポリマー領域の場合は、形成の間に生じるストレスの結果であり、これらの膜の形成方法の故にZeoTIPS膜においてそれほどの懸念事項とはならない。ZeoTIPS膜は、溶媒キャスティングによって形成されるのではなく、多くの緻密な混合マトリクス膜がそうであるように熱で誘導される相分離によって形成され、溶媒の蒸発が膜形成方法である場合に生じるストレスよりもポリマーの凝固の間の希釈剤放出に伴うストレスは顕著に少ない。さらに、高温により、緻密な混合マトリクス膜形成と同様に、ZeoTIPS膜の形成においては大きなストレスは生じにくい。これらの相間領域はZeoTIPS膜において顕著でありにくいため、したがって、ここで論じられるモデルには含まれない。
【0035】
そこで、図5(b)は、ゼオライト粒子が不均一な厚さのポリマーの層で被覆されている、より現実的ではあるが理想的ではないZeoTIPS膜の略図を示す。ポリマー被覆の部分の様々な濃淡は、ボイド−ゼオライト−ボイド配列に関連する平行および連続した経路を区別するために用いられている。以下に示されるモデルは、非理想的な膜について作成されており(図5(b))、このモデルを理想的な場合に単純化することができることを示す(図5(a))。
【0036】
平行−連続モデルの構築
図5(b)に示されるように、非理想的なZeoTIPS膜においては不均一な厚さのポリマー被覆が各ゼオライト粒子にある。この被覆は、ゼオライトのポリマーに対する親和性が希釈剤に対する親和性を上回る場合に形成する。図5(b)に示されるように、被覆されたゼオライト自体は、ポリマーがゼオライトと連続かつ平行である、平行−連続配列によって表されている。すなわち経路IIは、この経路に平行なゼオライト−ポリマー部分に相当する領域IIIを含む。以下の展開では、変数Pおよびψは透過性および体積の比をそれぞれ表す。上付文字のo、I、II、およびIIIは、それぞれ膜全体、経路Iのポリマー、経路II全体(領域IIIを含む)、および領域IIIを表す。下付き文字のP、V、およびZは、ポリマー、ボイド、およびゼオライト成分を意味する。図5(b)の経路IIを通じた透過が方程式(1)によって記載される。
【0037】
【化1】
PIIIは、図5(b)のゼオライトおよび斜交平行模様のポリマーに示されるような、経路IIの平行成分の透過性を意味し、次式に定義される。
【0038】
【化2】
方程式(3)および(4)に定義されるように、変数、ψIIIZおよびψIIIPは、図5(b)の経路II部分内のゼオライトおよびポリマーの体積分率を意味する。
【0039】
【化3】
方程式(5)および(6)に定義されるように、変数、ψIIZおよびψIIPは、膜の経路II部分全体におけるゼオライトおよびポリマーの体積分率を示す。
【0040】
【化4】
方程式(5)および(6)において、係数βは、ゼオライト粒子の被覆に関与する、膜中の全ポリマーの比を示す。方程式(5)および(6)において、下記の方程式(7)および(8)に定義されるように、変数、ψoPおよびψoVは、ポリマーおよびボイドの全体積分率を示す。ψoPおよびψoVは、膜の形成に用いられるポリマー−希釈剤−ゼオライト懸濁液中のポリマーおよび希釈剤の体積分率を用いて推定される。方程式(9)において、ψIIVは、方程式(9)において定義されるように、膜の経路II部分内のボイドの体積分率を示す。膜を作るために用いられる懸濁液中のゼオライトを無視したポリマーおよびボイドの体積分率 は、ψ*Pおよびψ*Vと表される。
【0041】
【化5】
総膜透過性は、方程式(10)に示されるように、経路Iおよび経路IIの透過性の相加平均である。
【0042】
【化6】
理想的なZeoTIPS膜は、ゼオライトの周囲を被覆するポリマーがなく、その結果、図7(a)および8に示されるように、基本的に共連続的な構造をもたらす。この構造は、ポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの親和性のバランスによって達成することができる。このような相互関係は、ゼオライトをシリカに近似させて、2つの成分のHildebrand可溶性パラメータを用いてポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの液体−固体の相互作用強度パラメータを比較することによって、量的に比較することができる[3]。理想的なZeoTIPS膜を表すために、方程式(1)および(10)においてβ=0(厚さ0を表す)に設定する。その結果得られる方程式が、この理想的な膜を表現する(11)および(12)である。
【0043】
【化7】
方程式(11)および(12)において、Pv、Pp、およびPzの用語は、それぞれ、ボイド、ポリマー、およびゼオライトの透過性を示し、Ptotalは、膜全体の平均透過性を示す。膜成分の体積分率は、ψoV、ψoPおよびψozによって表される。方程式(11)および(12)は、Robeson et al.[4]による過去の解析と同等である。以下に論じられる結果は、ボイド対ポリマーが3:1の一定比の膜に関わるものであり、ゼオライト添加における変化は、この比に影響を及ぼさない。膜の選択性は、分離される成分の透過性の比として、標準的な方法で定義され、以下の解析では、酸素および窒素である。
【0044】
【化8】
モデル化の結果
以下の結果は、Mahayan and Koros[1]により示されたポリマーの透過性データ、および同様に文献[6、7]から得たデータに基づいたZimmerman et al.[5]により計算されたゼオライト4Aデータによる計算に基づくものである。本明細書に用いた透過性および選択性は、表1にまとめられている。本明細書でZeoTIPS膜に対して作成されたモデルは、緻密な混合マトリクス膜と酸素/窒素分離について下記で比較される。比較のために使用されたポリマーはポリ(酢酸ビニル)であり、ボイド透過性は、自由裁量で750.05×10−18m2/s Pa(100 Barrers)に設定される。様々なQ2ボイド透過性の影響が以下に論じられる。
【0045】
【表1】
上記で作成したモデルのシミュレーション結果を、同一ポリマーの緻密な混合マトリクス膜についてのシミュレーション結果とともに図9および10に示す。緻密な混合マトリクス膜のデータは、非理想的ZeoTIPS方程式においてβ=1およびψ*V264=0に設定することにより得られ、修正MaxwellモデルによりMahayan and Koros[1]により得られたデータに類似している。両方の図でモデル化されたZeoTIPS膜は、3:1のボイド対ポリマー比を含む。図9および10では、実線および破線は、ポリマー−希釈剤−ゼオライト親和性の観点から有用なZeoTIPS膜の範囲を表している。実線は、図5(a)に示された構造に相当する、ポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの親和性が等しいことを表している。破線は、図5(b)のゼオライト表面のポリマー被覆の様々な厚さに相当する様々な値のβとともに、ポリマー−ゼオライトの強い親和性および希釈剤−ゼオライトの弱い親和性を表している。βの増大は、被覆の厚さの増大に対応する。
【0046】
緻密な混合マトリクスの近似において、透過性はやや増大し(図8の点線)、ゼオライトの添加増大にしたがって選択性は顕著に増大した(図7の点線)。もちろん、添加は実際には100%には到達できず、したがって、選択性は、実際にはマトリクスポリマーの選択性の2から3倍をはるかに越えて増大することはできない(表1では5.9として報告されている)。しかし、ゼオライト粒子をポリマーマトリクスに加えることにより、図7に示されるように、実際に混合マトリクス膜の分離効率が上昇する。
【0047】
形成過程で重要なポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの相互作用のバランスをとる、ボイドとゼオライト粒子との直接的な接触が、理想的なZeoTIPS膜には必須である。強力なポリマー−ゼオライト相互作用の場合、この相互作用をポリマーおよび希釈剤に対するゼオライトの親和性が等しくなるようシフトさせるために、ゼオライト表面の修飾を用いることができる。このようないくつかの修飾が文献に引用されている[1、8]。
【0048】
図9および10の実線は、図5(b)に概略的に示される、理想的な平行−連続モデルを表し、すなわち、至適な膜性能を表している。なお、膜を通じた微小多孔質連結性を防げるには、20体積%超のゼオライトが必要あることが当研究室で実験的に示されていることから、20体積%未満のゼオライト添加に対してプロットは実際には有効ではない。ゼロから約25%まで添加が増える場合、選択性が大きく増加するが、これは、気体分子はボイドを通じてゼオライトに迅速に移動することができるという事実の結果であり、さらに、酸素がポリマーを通過するよりもゼオライトを通過する場合により高い透過性を持つため、窒素よりも一層容易に膜を通過し、その結果ゼオライト粒子自体の選択性に近い選択性をもたらす(表1では、37になると報告されている)。透過性は添加が増加するとともに低下するが、酸素は低透過性のポリマーマトリクスを通過する必要がないため、緻密な混合マトリクス膜の透過性よりも常に高いままである。
【0049】
非理想的平行−連続モデル(図9および10の破線)も、透過する種は膜を横断する時に少量のポリマーのみを通って拡散するという事実があることから、混合マトリクス膜を上回る顕著な向上を示す。膜中の全ポリマーの半分がゼオライト粒子の被覆に寄与する場合でさえ(これは、β=0.5;非現実的な最悪の場合のシナリオ)、緻密な混合マトリクス膜と比較してZeoTIPS膜は依然として好適な選択性および透過性を示す。
【0050】
膜を作製する際の目的は、図9および10の実線で示される理想の場合に近づく膜を製造することである。これは、ポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの親和性が等しい適切なポリマー−希釈剤系を選択することにより、またはポリマーおよび希釈剤に対するゼオライトの親和性の平衡を保つために、ゼオライト表面を膜形成前に化学的に修飾することにより達成することができる。そこで、残りの考察は、この理想的な場合に焦点をあてる。
【0051】
図9は、ポリマーの透過性がゼロに低減したときの選択性の上昇を示す。25体積%ゼオライト添加での選択性は、約20から約36に上昇する。ゼオライトは膜の唯一の選択的成分であるため、ポリマー透過性がゼロであるときの選択性は、ゼオライトの選択性と一致する。さらに、図9は、図9のPO2=2.0の場合のように、マトリクスがゼオライトフィラーよりも高い透過性をもつ場合でさえも、ZeoTIPS膜が依然として有用であることを示している。これは、ゼオライト粒子を含む、透過性が高い連続したボイドの結果である。この結果は、ポリマーがゼオライトよりも高い透過性を持つ場合にポリマーマトリクスにおける向上があまり見られない緻密な混合マトリクス膜とは対照的である。このような場合、酸素の選択性が低減する一方、透過性はわずかに上昇するのみである。
【0052】
ZeoTIPS膜による性能強化の重要性を最も良く理解するためには、文献により十分裏付けられた、Robesonによって提案された上限について考察するのが有用である[1]。理想的なZeoTIPS膜は、上限よりも顕著に高い効率的な分離を生み出す。図10の結果は透過性ポリマーマトリクスを備える膜に関連するが、透過性がゼロの点は理想的なZeoTIPS膜モデルに含まれている。データポイントは全て25体積%のゼオライト添加の膜に関し、ポリマーの透過性が理想的ZeoTIPS膜で減少すると膜の選択性が増加する(図10の黒い点)。非理想的なZeoTIPSの場合、ポリマーがゼオライトの表面を被覆する量が増加するにつれ(図10の白い四角)、選択性および透過性の両方が減少するが、値は依然として上限よりも十分上にある。25体積%ゼオライト添加の緻密な混合マトリクス膜(図10の黒い三角)は、研究されたポリマー透過性の全ての値について、上限の下に留まっている(PO2=0ポイントは、DMMMを含まない)。
【0053】
上記のシミュレーションを行うにあたり、ボイドの透過性を独断で10に設定した。図11は、ボイドの透過性に対するモデルの感度を示し、ボイドの透過性低下に伴い選択性が低下するのを示している。ボイド透過性が不当に低いとしても、透過性がポリマーマトリクスの透過性よりも高い限りは、選択性は依然として緻密な混合マトリクス膜よりも有意に高い。
【0054】
図12は、ZeoTIPS膜における、ボイド体積対ポリマー体積の比の効果を示している。ボイド/ポリマー比が高いほど、膜の微小な多孔性が上がるために選択性が高くなる。しかし、比が3:1よりも高くなると、押出しに対して低すぎる粘性になって、凝固された膜における構造的な一体性を得るには低すぎるポリマー濃度になってしまう可能性がある。
【0055】
結論
ZeoTIPS膜の透過モデル化は、ZeoTIPS膜がゼオライトと平行でボイドと連続するポリマーとしてモデル化される場合、緻密な混合マトリクス膜の性能を上回る改良の可能性を示している。膜の性能は、気体分離ポリマーについてのRobesonの上限を上回ると予測される。改良が最大限に示されるのは、ポリマーの透過性を要する混合マトリクス膜と対照的に、理想的ZeoTIPS膜中のポリマーが分離される種に対して不透過性である場合である。理想的なZeoTIPS膜は、ポリマーがゼオライト自体より高い透過性を持つ場合でさえ、混合マトリクス膜の性能を向上することが予測される。また、ボイドの透過性が最大のとき、およびボイド体積対ポリマー体積の比が最大であるが、少なくとも1つのゼオライト粒子でブロックされた各微小多孔質経路が依然として残っている場合、膜の効率は最大化される。最後に、ZeoTIPS膜構造が非理想的であっても、ポリマーがゼオライト粒子を被覆する場合には、緻密な混合マトリクス膜と比較して選択性および透過性の顕著な上昇がある。
【0056】
本発明の広範にわたる範囲を説明する数字的な範囲およびパラメータは概算値であり、具体的な例で説明される数値は、過去にできるだけ精密に報告されたものである。しかし、あらゆる数値は本来的に特定の誤差を含んでおり、必ずしもそれぞれのテスト測定における標準偏差に由来するものとは限らない。
【0057】
従って、本発明は、記載のならびに本来備わっている、結果および利点を達成するために良く適合している。多数の変更が当業者により成される可能性があるものの、一部、添付される特許請求の範囲によって説明されるように、当該変更は本発明の精神の範囲内に含まれる。
【0058】
【化9】
【0059】
【化10】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年5月12日に出願された米国仮特許出願第60/894,234号の利益を主張し、この米国仮特許出願は本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
長年にわたって、サイズが類似した化学種を効率よく分離することができる膜を作り出すことが望まれてきた。一般的な用途としては、気体の分離(O2/N2およびCH4/CO2など)、逆浸透による水からの有機物および塩類の除去、ならびにパーベーパレーションによるエタノールと水との分離などが挙げられる。
【0003】
例えば界面重合法、位相反転法、および蒸発キャスティング法などの従来の処理過程によって作られるポリマー膜が、分離用途に長い間用いられてきたが、研究者および製造業者らは、ほぼ同一サイズの化学種の効率的分離を達成する十分に狭い孔サイズ分布を得ることができなかった。これは一つには、ポリマー鎖のパッキングの結果としてポリマー膜にみられる、孔サイズ分布が原因である。ポリマーは100%結晶でないために、エントロピー効果が原因となって一部の鎖間の間隙が他より大きくなる。さらに、一般的にポリマー膜はより大きい分子の回転自由度を制限することができない一方で、より小さい分子の無制限な動きを可能にするため、より大きい分子が膜を越えて拡散するのを防ぐのは困難である。これらの現象は、流動/選択性のトレードオフを引き起こし、ポリマー膜の有効性が限定される。
【0004】
例えばゼオライトなどが平坦なシート状の膜の形に構造化された無機材料を使用することによって、より精密なサイズ・ベースの分離を達成しようとする試みが行われてきた。これらの膜は、孔サイズ分布が狭いため、より大きな可能性を示す。しかしながら、壊れやすい性質および難しい形成過程のために、これらの膜はまだ広範囲に使用されていない。さらに、これらの膜は中空糸の形に作ることができないため(体積に対する表面積比が高くなる)、体積に対する表面積比がこれらの膜の使用をさらに限定する。より優れた化学的安定性および熱安定性を必要とする用途では、セラミック膜がポリマー膜よりも一層優れていることが実証されてきた。しかし、これらの膜は、しばしば高価であり、作るのが困難であり、また壊れやすい。
【0005】
過去10年にわたって、上述の膜の短所に対する解決策として、混合マトリクス膜が提案されてきた。連続的な低透過性のポリマーマトリクスにゼオライト粒子を懸濁することにより、ポリマー膜では不可能だった分離を達成することが可能になった。この改良は、懸濁ゼオライト粒子をポリマーマトリクス中に固定することによって得られる。これらの粒子は、一種類の化学成分の透過性を実質的に低下させつつ、他の化学成分の透過性を増大させるように選択される。その結果、所望の透過性成分は、同じポリマーでできた純粋なポリマー膜よりも速く混合マトリクス膜を通過する。さらに、不要の化学成分はゼオライト粒子周囲のより複雑な経路を移動することを余儀なくされ、その結果、その成分の移動度が低下し、全体として所望の成分に対する選択性が増大する。しかし、混合マトリクス膜は、ゼオライトフィルムと同じく短所が無いわけではない。例えば、このような混合マトリクス膜は、分離能が限られている。ゼオライト粒子は連続的な分離層ではないため、ポリマー膜に対してわずかな改良しか達成することができない。さらに、選択性の低下を引き起こす、ポリマー−ゼオライト間の接着の悪さに多くの研究者らが取り組んできた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分離の成功度はまちまちであるが、数多くの膜が使用されてきた。しかし、現在進行中の重要な研究の目標としては、より精密なサイズ分離が残されたままである。したがって、残っている課題は、連続的ゼオライトシートの効果を備えるが、混合マトリクス膜の柔軟性および耐久性を備える膜を作り出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本発明は、分離のための微小多孔質混合マトリクス膜に関する。より具体的には、水の精製(塩類および溶解有機物の除去)および気体分離の両方において有用であって、熱により誘導される相分離によって形成される高選択性ポリマー−ナノ多孔質粒子膜構造、またはZeoTIPS膜に関する。微小多孔質混合マトリクス膜は、微量混入物質を化学物質流から除去しなければならない場合に、種々の逆浸透、パーベーパレーション、およびナノ濾過用途に用いることもできる。
【0008】
本発明の膜には、従来の膜に優るいくつかの利点がある。ZeoTIPS膜は、従来のポリマー膜、ゼオライトフィルム、および混合マトリクス膜の著しい利点を維持しつつ、数多くの不利な点を排除している。第1に、これらの膜は、高い選択性によって、困難な気体分離および困難な水精製のステップを成し遂げることができる。さらに、ZeoTIPS膜は、ゼオライトフィルムと異なり、容易に中空糸を作ることができ、表面積が広い構造を形成することができる。対照的に、従来の多くの膜は、中空糸と比較して体積に対する表面積が低い、平坦なシートにすることができるだけである。中空糸は、より狭い空間により大きい表面積を生み出すための膜モジュール内にぎっしりと詰め込むことができ、このモジュールによって、従来の膜よりも一層高い流動性を得ることができる。また、選択されるゼオライトの種類を変化させることによって、特定の用途のための特定の目的を持つZeoTIPS膜を作るために、様々な孔サイズを備えるゼオライトを使用することもできる。さらに、これらの膜は、従来の膜に付随する壊れやすさの問題、および費用の問題を克服する。
【0009】
一般的に、本発明の膜は、ナノ多孔質粒子、微小多孔質ポリマーマトリクス、および約0.3nmから約1nmの範囲の孔を含む。一般的に、本発明の膜は、ナノ多孔質粒子を提供すること、ポリマーおよび希釈剤の均一な溶液を提供すること、ナノ多孔質粒子を高音でポリマーおよび希釈剤の均一な溶液に混合して混合液を形成すること、混合物を冷却して微小多孔質ポリマーマトリクスを凝固させること、および任意で希釈剤を抽出することにより作られる。
【0010】
本発明の特徴および利点は、以下の実施形態の説明を読むことにより当業者に容易に明らかになるだろう。
【0011】
開示の一部の具体的な例となる実施形態は、一部分において、以下の説明および添付の図面を参照することによって理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】膜を横断する連続的な微小多孔質の経路が存在しない、ZeoTIPS膜の概略図を示す。
【図2】ポリ(メチルメタクリレート)、1,4−ブタンジオール、およびエチル基の付加により表面を修飾したタイプ4A分子篩粒子で形成されたZeoTIPS膜のSEM像を示す。
【図3】イソタクチックポリプロピレン、ジフェニルエーテル、およびタイプ4A分子篩粒子で形成されたZeoTIPS膜のSEM像を示す。
【図4】懸濁されたゼオライトによるセルサイズを予測するために実証的関係を特定する、デジタル画像解析プロットを示す。
【図5】ZeoTIPS膜は、(a)連続するボイドおよび未被覆のゼオライトと平行するポリマー相として、または(b)連続するボイドおよびポリマー被覆ゼオライトと平行するポリマー相としてモデル化できることを示す。膜内輸送は、図の上部から底部へ経路IまたはIIを介して生じる。
【図6】示された膜の上部から底部への2種類の透過について、ZeoTIPS分離の概略図を示す。破線は、より大きい成分の経路を表す。実線は、より小さい成分の経路を表す。
【図7】表1に示したデータを用いた、理想的および理想的でないZeoTIPS膜(ボイド対ポリマーの比が3:1)、および緻密な混合マトリクス膜の選択性を示す。
【図8】表1に示したデータを用いた、理想的および理想的でないZeoTIPS膜(ボイド対ポリマーの比が3:1)、および緻密な混合マトリクス膜の透過性を示す。
【図9】ポリマーの透過性が様々である、理想的ZeoTIPS膜(ボイド対ポリマー体積比3:1、Pv=750.05×10−18m2/s Pa(100 Barrers))についての選択性を示す。
【図10】矢印がポリマーの透過性増加(黒い点)を示す理想的ZeoTIPS膜、矢印がβの増加(白い四角)を示す理想的でないZeoTIPS膜、および矢印がポリマーの透過性増加(黒い三角)を示す緻密な混合マトリクス膜の性能を示し、1991年のRobesonの上限[1]および商業的魅力領域が共にプロットされている。全てのポイントは、20体積%のゼオライト添加に相当し、ZeoTIPS膜の全てのポイントはボイド体積対ポリマー体積の比が3:1に相当する。
【図11】ポリマーの透過性が様々である、理想的ZeoTIPS膜(ボイド対ポリマー体積比3:1、PVAcのマトリクス)についての選択性を示す。
【図12】ポリマーの透過性が様々である、理想的ZeoTIPS膜(PVAcのマトリクス、Pv=750.05×10−18m2/s Pa(100 Barrers))についての選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、様々な変更および代替形態の影響を受け入れることができるが、具体的な例となる実施形態は、本発明を開示された特定の形態に限定しようとするものではなく、むしろ、添付の特許請求の範囲によって一部示されているように、本開示は全ての変更およびその均等物を包含するものである。
【0014】
(説明)
本発明は、分離のための微小多孔質混合マトリクス膜に関する。より具体的には、本発明は、水の精製(塩類および溶解有機物の除去)および気体分離の両方において有用であって、熱により誘導される相分離によって形成される高選択性ポリマー−ナノ多孔質粒子膜構造、またはZeoTIPS膜に関する。このような膜の製造方法も、本明細書に記載される。本明細書において使用されるように、「ZeoTIPS膜」の用語およびその派生語は、液体−液体熱誘導相分離(L−L TIPS膜)によって形成され、さらに少なくとも1種類のゼオライト粒子を含む膜を表す。
【0015】
特定の実施形態において、本発明のZeoTIPS膜は、特に、所望の精密な分離を達成するために必要とされる狭い孔サイズ分布となっている。当該膜は、ゼオライト粒子に多孔質マトリクスを提供することによりゼオライトフィルムおよび従来の混合マトリクス膜両方の欠点に対処したものであり、これによって、粒子のみが分離に関与することが可能なる。この独特の構造によって、より優れた耐久性と柔軟性とともに連続的なフィルム状ゼオライト膜と同じ分離能が得られる。
【0016】
特定の実施形態において、L−L TIPS膜は、最初にポリマーを高沸点の希釈剤と高温で混合し、2つの成分を実質的に均一な相に溶解−混合する段階により形成される。希釈剤は、高温でのみポリマー用の溶媒としての役割を果たし、均一な溶液を冷却することによって、ポリマーに富んだ連続相の中にポリマーに乏しい相の小滴を形成する。希釈剤に富む小滴のサイズを制御する要因としては、均一な溶液中のポリマー濃度、粗大化時間に影響する冷却速度などが挙げられる。凝固の際に、希釈剤の小滴が、最終的な膜のセルを形成する。最終的に、希釈剤は揮発性溶剤で抽出され、膜は乾燥され、開いた微小多孔質構造が残る。これらの膜は、柔軟で安価であり、単に冷却速度またはポリマー濃度を調節することで一定範囲内の所望の任意の孔サイズに調整することができることから、特に、マイクロ濾過に有用である。しかし、これらの膜は、所望の精密な分離を達成するために必要な狭い孔サイズ分布を備えていない。
【0017】
一般的に、本発明のZeoTIPS膜は、ナノ多孔質粒子、すなわちゼオライトをポリマーおよび希釈剤の均一な溶液(ポリマー−希釈剤系)に高温で混合することによって形成される。限定のためではなく説明としてであるが、ポリマー系希釈剤相の分離温度未満まで冷却する際に、懸濁されたナノ多孔質粒子の間に希釈剤の小滴が形成する。冷却は微小多孔質ポリマーマトリクスをさらに凝固させる。希釈剤を抽出すると最終的な構造がもたらされる。希釈剤の抽出は、一部の用途には不要であるかもしれず、膜は、マトリクスの内部に希釈剤の一部が残っていても、依然機能する場合もある。マトリクスは、1つのナノ多孔質粒子にも閉塞されることなく完全に膜を横切る微小多孔質チャネルが1つもなく、透過する粒子を通じて拡散するしかないような状態に形成される(図1)。本発明の微小多孔質混合マトリクス膜は、必要に応じて、意図される用途に適したシート状、チューブ状、または分離のために広い表面積を可能にする中空糸状など、しかしこれらに限られない、任意の形状に形成することもできる。
【0018】
特定の実施形態において、ZeoTIPS膜が首尾良く形成されるメカニズムは、以下のステップで発生させることができる。まず、ゼオライト粒子が均一な溶液中に懸濁される。限定のためではなく説明としてであるが、冷却の際に、粒子を取り囲む微小多孔質ポリマーマトリクス中に希釈剤の小滴が形成し始める。小滴が成長する際に、ポリマーおよびゼオライトのための希釈剤の親和性が等しいことを前提とすると、小滴の壁がゼオライト粒子の形状に合致するように変形する。系が凝固する時、ゼオライトは、ポリマーによって実質的にその場に固定され、従来の微小多孔質膜であれば微小細孔が存在しているであろう場所を塞ぐ。その結果、微小細孔が「ブロックされ」、隣接するセル間の連結を妨げる。粒子により十分な微小細孔が「ブロックされ」る場合、ゼオライトは臨界添加に達し、膜を横切って到達することのできる連続的な微小細孔経路はなくなる。
【0019】
膜の製造に用いられるポリマーは、実質的には任意の不透過性ポリマーとすることができる。ポリマーの適切な例としては、それに限られないが、ポリオレフィン類、ポリオレフィン類を含むコポリマー(例えば、ポリエチレンコビニルアルコール、ポリ(エチレンコアクリル酸)、およびポリ(エチレンコビニルアセテート)など)、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ(ビニリデンフルオライド)、およびポリ(メチルメタクリレート)などが挙げられる。これらのいずれかを含むコポリマーは、本発明の組成および方法において有用である場合がある。
【0020】
膜の製造に用いられる希釈剤の選択は、特に、ポリマーの溶解性と比較して、希釈剤の溶解性に応じて選択されればよい。特定の実施形態において、希釈剤は高沸点の任意の化学物質であってもよく、室温で液体であっても、または液体でなくてもよい。希釈剤の適切な例としては、それに限られないが、ジフェニルエーテル、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、およびドデカノールなどが挙げられる。
【0021】
特定の実施形態において、製造過程に用いられるポリマー−希釈剤系は、高温でのポリマーと希釈剤との間の相互作用の結果として、膜中のセルのサイズを決定する主要要因である場合がある。これらの相互作用の性質は、系ごとに著しく変化して差し支えない。系の相分離の挙動が特定の要求を満たさない場合には、処理条件における大きな変化が必要とされる場合もある。例えば、セルが十分に大きくない場合、セルがより大きく成長できるように、冷却速度を遅くする必要がある可能性もある。これは、処理時間を長くし、より多くの処理機器が必要になる可能性もある。ポリマー−希釈剤系は、表面修飾なしでナノ多項質粒子が微小多孔質マトリクスと十分に相互作用するか否かも決定する。製造過程に用いられるポリマー−希釈剤系は、イソタクチックポリプロピレン(iPP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ(エチレン・コアクリル酸)(EAA)およびポリ(エチレンコビニルアセテート)(EVA)の希釈剤としてジフェニルエーテル、希釈剤としてシクロヘキサノール、1,4−ブタンジオール、およびポリ(エチレングリコール)を含むポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の系、希釈剤としてグリセロールおよびPEGを含むポリ(エチレンコビニルアルコール)(EVAL)の系、ポリスチレン−ドデカノール、ならびに状態図と物理的データと広範囲の官能基と結晶化度とが容易に入手可能であるその他任意の系を含んでもよい。
【0022】
本発明の膜に用いられるナノ多孔質粒子は、一般的にSi、Fe、Ge、P、およびAlなどの元素の酸化物を含むゼオライトから作られている。特定の実施形態において、ゼオライトは、広く入手可能で安価な、タイプ4Aの分子篩であってもよい(図2および3)。特定の実施形態において、ゼオライトはタイプ3Aの分子篩であってもよい。特定の実施形態において、ゼオライトはタイプ5Aの分子篩であってもよい。特定の実施形態において、ゼオライトはタイプXの分子篩であってもよい。ゼオライトは、合成物または天然物であってもよい。特定の実施形態において、本発明の組成及び方法において、金属−有機構造体および有機分子篩が有用である場合もある。特定の実施形態において、ナノ多孔質粒子は、約0.3nmから約1nmの範囲の孔を備える、約0.5から約15μmの範囲のサイズとすることもできる。
【0023】
広範囲におよぶ官能基がゼオライトの表面に結合していてもよい。一般的に、結合する可能性がある官能基は、ゼオライト表面のアルコールと反応する可能性がある有機官能基である。これらの修飾としては、それだけに限らないが、グリニャール処理および様々なシラン化など、文献にある様々な方法で行うことができる[4]。これらの処理は、緻密な混合マトリクス膜においてポリマー−ゼオライトのより密接な相互関係を達成する目的で行われている。
【0024】
本発明のより良好な理解を助けるために、以下に具体的な実施形態の実施例を示す。以下の実施例は、本発明の全体の範囲を限定するまたは定義すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
特定のポリマー−希釈剤系の実現可能性については、以下のステップにより膜を形成することによってテストを行った。まず、所望の量のポリマーペレットおよび希釈剤を密閉された試験管に加え、均一性を確保するために定期的に撹拌しながら、ポリマーの融点を超える温度で約48時間加熱する。溶液が均一になった時点で、液体窒素により凝固させ、室温に戻す。この固体試料の一部を秤量し、適当な量のゼオライト粉末と共に新しい試験管に加える。試験管を密閉する前に、小さいマグネチックスターラーを加える。この試料は、ポリマーの融点を超える温度で再び約2時間加熱する。懸濁液を撹拌するために、数分ごとに希土類元素マグネットを使用する。これは、懸濁液の粘性が高いために行わなければならず、他の撹拌方法は効果がない。十分に撹拌された時点で、懸濁液は液体窒素中で凝固させ、室温に戻す。固形試料の薄片1枚を次にホットステージ上で所望の温度で加熱し、制御された速度で冷却する。押出しフィルムの冷却速度を再現するために、ホットステージで許容される、実行可能な最も速い冷却速度である125℃/minを用いる。膜は、希釈剤を除去するために、適切な溶媒を用いて24時間抽出する。走査型電子顕微鏡(SEM)解析は、ポリマーがゼオライト粒子と好適な相互作用を行っているかどうかを明らかにする。
【0026】
ホットステージ法で系が実行可能であると認められる場合、さらに膜をLeistritz社の2軸スクリュー押出機により形成してもよい。押出過程で制御される条件は、ほとんど冷却速度に関連する。フィルムは、加熱されたグラスファイバースクリーンのベルト上の空冷を用いて形成する。ベルトの温度は、膜の冷却速度の制御において最も重要な要素である。さらに、フィルムの厚さを変更して、良好なポリマー−ゼオライト間の接着を促進するのに十分にゆっくりと冷却しつつある間に作ることのできる最も薄いフィルムを判断する。フィルムの厚さは、金型スリットの幅を変えることによって、懸濁液の流速を速めるまたは遅くすることによって、または巻き取り速度を調節することによって、変化させることにより変更される。選択された冷却方法が効率的であるかどうかを決定するために、SEM解析が用いられる。
【0027】
(実施例2)
押出しによって形成される膜は、デッドエンド圧力セルで純水を用いてテストすればよい。これらのテストは、ゼオライト添加の臨界点を実験的に測定するために用いられる。300psigの圧力下で、即時の著しいフローを生じない膜は、臨界点を越えていると見なされ、上述のモデル予測と比較するための正確な臨界点を見いだすために、およそ20〜35%のゼオライト添加の範囲をテストすればよい。
【0028】
臨界点を越えていると認められる膜は、逆浸透による脱塩能についてテストすればよい。0.1M NaClおよび0.1M KClの溶液を、撹拌されたデッドエンドセル中にて300psigで用いればよい。
【0029】
同じ膜は、ガス分離能についてテストすることもできる。低圧力透過セル用いて、膜中の酸素および窒素の透過性を30psigで測定すればよい。
【0030】
(実施例3)
粒子添加の影響を特性付けするために、以下の3つの実験を用いればよい。第1の実験は、32枚の膜で構成される。実験の計画は、JMPソフトウエアを用いて作成する。この計画はデュプリケートのある中心複合計画であり、非線形作用を扱うことができる。冷却速度(50℃/min、88℃/min、125℃/min)、ポリマー重量%(20%、27.5%、35%)、およびゼオライト粒子添加(20%、27.5%、35%)の3つの要素が導入される。これらの3つの範囲は、ZeoTIPS膜に対する適度な範囲として、過去に実験を通じて決定された。ゼオライト粒子添加の計算は、懸濁液の各成分を考慮して行う。この実験セットの全ての膜は、iPPおよびDPEを用いて作製された。
【0031】
第2および第3の実験は、ポリマー−希釈剤−ゼオライト相互作用の変化によって誘起されるセルサイズの変化を調査する。これらのセットに対して選択される系は、PMMA−シクロヘキサノールおよびPMMA−1,4−ブタンジオールであり、冷却速度が50℃/min、ポリマー重量%が20%、ならびにゼオライト粒子添加が0、12.5、20、27.5、および35%で、それぞれ5枚の膜が形成された。さらに、第4のセットの膜は、0%および12.5%のゼオライト添加で作られる2つの膜で構成され、第2および第3のセットと同一条件でiPPおよびDPEで作られる。ゼオライトは、PMMAに対してよりもシクロヘキサノールおよび1,4−ブタンジオールに対してより高い親和性を備え、重要な要因は、これらの2つの膜の間のセルサイズが大きく異なることである。これは、ゼオライトが希釈剤に対してよりもポリマーに対してより高い親和性を備えるiPP−DPE系との比較に用いる。セルがゼオライト粒子自体よりはるかに小さくない限り、希釈剤と比較したポリマーに対するゼオライトの親和性の違いはセルの成長に影響する、と仮定される。所望の構造を備えるZeoTIPS膜を作るために必要な条件の予測を目指した見識をもたらすために、この作用が及ぶ範囲が調査される。
【0032】
Image Pro Plus(Media Cybernetics, Inc., Silver Spring MD)により、各膜のセル領域の測定を行うことができる。各試料において合計50セルを測定し、各々の結果は、セル体積のアナロジーとして使用される、セル断面平均面積とする。当該の測定結果は図4に示され、セルサイズは、一定のポリマー重量%および冷却速度で減少し、最低サイズを抜けると、ゼオライト添加の増大とともに増大する。
【0033】
(実施例4)
理論的モデル化
ZeoTIPS膜の性能を理論的にモデル化するために、平行連続配列における混合物ポリマー、ボイド、およびゼオライト粒子単位として、膜構造をモデル化する。図5は、理想的ZeoTIPS膜の略図を示す。図5(a)の上部から下部へと透過するものと考えること。透過する分子は、濃い灰色のポリマー領域(経路I)を通って、拡散によって通過することができる。別の、または平行する経路(経路II)は、連続するボイド−ゼオライト−ボイドの配列を通って通過する分子に対するものである。すなわち、膜を通じた移送は、平行−連続方式でモデル化することができる。もちろん、ゼオライト粒子はしばしばポリマーの相に被覆されると文献に示されていることから、図5(a)に示されるような、このような理想的な膜を作るのは簡単なことではない。
【0034】
緻密な混合マトリクス膜の形成は、ゼオライト粒子の表面に相間領域をもたらす可能性があるということが、文献で十分に裏付けられている[2]。この相間のポリマーは、バルクポリマーよりもより緻密な、または密度が低い場合もある。ゼオライト表面近くのより緻密なポリマーの場合、ポリマー相を通って透過する分子の拡散は、ボイドおよびゼオライトを通るものよりはるかに少ないことから、図6に示される理想的なZeoTIPS膜には関係がない。ゼオライト表面近くのより密度が低いポリマー領域の場合は、形成の間に生じるストレスの結果であり、これらの膜の形成方法の故にZeoTIPS膜においてそれほどの懸念事項とはならない。ZeoTIPS膜は、溶媒キャスティングによって形成されるのではなく、多くの緻密な混合マトリクス膜がそうであるように熱で誘導される相分離によって形成され、溶媒の蒸発が膜形成方法である場合に生じるストレスよりもポリマーの凝固の間の希釈剤放出に伴うストレスは顕著に少ない。さらに、高温により、緻密な混合マトリクス膜形成と同様に、ZeoTIPS膜の形成においては大きなストレスは生じにくい。これらの相間領域はZeoTIPS膜において顕著でありにくいため、したがって、ここで論じられるモデルには含まれない。
【0035】
そこで、図5(b)は、ゼオライト粒子が不均一な厚さのポリマーの層で被覆されている、より現実的ではあるが理想的ではないZeoTIPS膜の略図を示す。ポリマー被覆の部分の様々な濃淡は、ボイド−ゼオライト−ボイド配列に関連する平行および連続した経路を区別するために用いられている。以下に示されるモデルは、非理想的な膜について作成されており(図5(b))、このモデルを理想的な場合に単純化することができることを示す(図5(a))。
【0036】
平行−連続モデルの構築
図5(b)に示されるように、非理想的なZeoTIPS膜においては不均一な厚さのポリマー被覆が各ゼオライト粒子にある。この被覆は、ゼオライトのポリマーに対する親和性が希釈剤に対する親和性を上回る場合に形成する。図5(b)に示されるように、被覆されたゼオライト自体は、ポリマーがゼオライトと連続かつ平行である、平行−連続配列によって表されている。すなわち経路IIは、この経路に平行なゼオライト−ポリマー部分に相当する領域IIIを含む。以下の展開では、変数Pおよびψは透過性および体積の比をそれぞれ表す。上付文字のo、I、II、およびIIIは、それぞれ膜全体、経路Iのポリマー、経路II全体(領域IIIを含む)、および領域IIIを表す。下付き文字のP、V、およびZは、ポリマー、ボイド、およびゼオライト成分を意味する。図5(b)の経路IIを通じた透過が方程式(1)によって記載される。
【0037】
【化1】
PIIIは、図5(b)のゼオライトおよび斜交平行模様のポリマーに示されるような、経路IIの平行成分の透過性を意味し、次式に定義される。
【0038】
【化2】
方程式(3)および(4)に定義されるように、変数、ψIIIZおよびψIIIPは、図5(b)の経路II部分内のゼオライトおよびポリマーの体積分率を意味する。
【0039】
【化3】
方程式(5)および(6)に定義されるように、変数、ψIIZおよびψIIPは、膜の経路II部分全体におけるゼオライトおよびポリマーの体積分率を示す。
【0040】
【化4】
方程式(5)および(6)において、係数βは、ゼオライト粒子の被覆に関与する、膜中の全ポリマーの比を示す。方程式(5)および(6)において、下記の方程式(7)および(8)に定義されるように、変数、ψoPおよびψoVは、ポリマーおよびボイドの全体積分率を示す。ψoPおよびψoVは、膜の形成に用いられるポリマー−希釈剤−ゼオライト懸濁液中のポリマーおよび希釈剤の体積分率を用いて推定される。方程式(9)において、ψIIVは、方程式(9)において定義されるように、膜の経路II部分内のボイドの体積分率を示す。膜を作るために用いられる懸濁液中のゼオライトを無視したポリマーおよびボイドの体積分率 は、ψ*Pおよびψ*Vと表される。
【0041】
【化5】
総膜透過性は、方程式(10)に示されるように、経路Iおよび経路IIの透過性の相加平均である。
【0042】
【化6】
理想的なZeoTIPS膜は、ゼオライトの周囲を被覆するポリマーがなく、その結果、図7(a)および8に示されるように、基本的に共連続的な構造をもたらす。この構造は、ポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの親和性のバランスによって達成することができる。このような相互関係は、ゼオライトをシリカに近似させて、2つの成分のHildebrand可溶性パラメータを用いてポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの液体−固体の相互作用強度パラメータを比較することによって、量的に比較することができる[3]。理想的なZeoTIPS膜を表すために、方程式(1)および(10)においてβ=0(厚さ0を表す)に設定する。その結果得られる方程式が、この理想的な膜を表現する(11)および(12)である。
【0043】
【化7】
方程式(11)および(12)において、Pv、Pp、およびPzの用語は、それぞれ、ボイド、ポリマー、およびゼオライトの透過性を示し、Ptotalは、膜全体の平均透過性を示す。膜成分の体積分率は、ψoV、ψoPおよびψozによって表される。方程式(11)および(12)は、Robeson et al.[4]による過去の解析と同等である。以下に論じられる結果は、ボイド対ポリマーが3:1の一定比の膜に関わるものであり、ゼオライト添加における変化は、この比に影響を及ぼさない。膜の選択性は、分離される成分の透過性の比として、標準的な方法で定義され、以下の解析では、酸素および窒素である。
【0044】
【化8】
モデル化の結果
以下の結果は、Mahayan and Koros[1]により示されたポリマーの透過性データ、および同様に文献[6、7]から得たデータに基づいたZimmerman et al.[5]により計算されたゼオライト4Aデータによる計算に基づくものである。本明細書に用いた透過性および選択性は、表1にまとめられている。本明細書でZeoTIPS膜に対して作成されたモデルは、緻密な混合マトリクス膜と酸素/窒素分離について下記で比較される。比較のために使用されたポリマーはポリ(酢酸ビニル)であり、ボイド透過性は、自由裁量で750.05×10−18m2/s Pa(100 Barrers)に設定される。様々なQ2ボイド透過性の影響が以下に論じられる。
【0045】
【表1】
上記で作成したモデルのシミュレーション結果を、同一ポリマーの緻密な混合マトリクス膜についてのシミュレーション結果とともに図9および10に示す。緻密な混合マトリクス膜のデータは、非理想的ZeoTIPS方程式においてβ=1およびψ*V264=0に設定することにより得られ、修正MaxwellモデルによりMahayan and Koros[1]により得られたデータに類似している。両方の図でモデル化されたZeoTIPS膜は、3:1のボイド対ポリマー比を含む。図9および10では、実線および破線は、ポリマー−希釈剤−ゼオライト親和性の観点から有用なZeoTIPS膜の範囲を表している。実線は、図5(a)に示された構造に相当する、ポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの親和性が等しいことを表している。破線は、図5(b)のゼオライト表面のポリマー被覆の様々な厚さに相当する様々な値のβとともに、ポリマー−ゼオライトの強い親和性および希釈剤−ゼオライトの弱い親和性を表している。βの増大は、被覆の厚さの増大に対応する。
【0046】
緻密な混合マトリクスの近似において、透過性はやや増大し(図8の点線)、ゼオライトの添加増大にしたがって選択性は顕著に増大した(図7の点線)。もちろん、添加は実際には100%には到達できず、したがって、選択性は、実際にはマトリクスポリマーの選択性の2から3倍をはるかに越えて増大することはできない(表1では5.9として報告されている)。しかし、ゼオライト粒子をポリマーマトリクスに加えることにより、図7に示されるように、実際に混合マトリクス膜の分離効率が上昇する。
【0047】
形成過程で重要なポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの相互作用のバランスをとる、ボイドとゼオライト粒子との直接的な接触が、理想的なZeoTIPS膜には必須である。強力なポリマー−ゼオライト相互作用の場合、この相互作用をポリマーおよび希釈剤に対するゼオライトの親和性が等しくなるようシフトさせるために、ゼオライト表面の修飾を用いることができる。このようないくつかの修飾が文献に引用されている[1、8]。
【0048】
図9および10の実線は、図5(b)に概略的に示される、理想的な平行−連続モデルを表し、すなわち、至適な膜性能を表している。なお、膜を通じた微小多孔質連結性を防げるには、20体積%超のゼオライトが必要あることが当研究室で実験的に示されていることから、20体積%未満のゼオライト添加に対してプロットは実際には有効ではない。ゼロから約25%まで添加が増える場合、選択性が大きく増加するが、これは、気体分子はボイドを通じてゼオライトに迅速に移動することができるという事実の結果であり、さらに、酸素がポリマーを通過するよりもゼオライトを通過する場合により高い透過性を持つため、窒素よりも一層容易に膜を通過し、その結果ゼオライト粒子自体の選択性に近い選択性をもたらす(表1では、37になると報告されている)。透過性は添加が増加するとともに低下するが、酸素は低透過性のポリマーマトリクスを通過する必要がないため、緻密な混合マトリクス膜の透過性よりも常に高いままである。
【0049】
非理想的平行−連続モデル(図9および10の破線)も、透過する種は膜を横断する時に少量のポリマーのみを通って拡散するという事実があることから、混合マトリクス膜を上回る顕著な向上を示す。膜中の全ポリマーの半分がゼオライト粒子の被覆に寄与する場合でさえ(これは、β=0.5;非現実的な最悪の場合のシナリオ)、緻密な混合マトリクス膜と比較してZeoTIPS膜は依然として好適な選択性および透過性を示す。
【0050】
膜を作製する際の目的は、図9および10の実線で示される理想の場合に近づく膜を製造することである。これは、ポリマー−ゼオライトおよび希釈剤−ゼオライトの親和性が等しい適切なポリマー−希釈剤系を選択することにより、またはポリマーおよび希釈剤に対するゼオライトの親和性の平衡を保つために、ゼオライト表面を膜形成前に化学的に修飾することにより達成することができる。そこで、残りの考察は、この理想的な場合に焦点をあてる。
【0051】
図9は、ポリマーの透過性がゼロに低減したときの選択性の上昇を示す。25体積%ゼオライト添加での選択性は、約20から約36に上昇する。ゼオライトは膜の唯一の選択的成分であるため、ポリマー透過性がゼロであるときの選択性は、ゼオライトの選択性と一致する。さらに、図9は、図9のPO2=2.0の場合のように、マトリクスがゼオライトフィラーよりも高い透過性をもつ場合でさえも、ZeoTIPS膜が依然として有用であることを示している。これは、ゼオライト粒子を含む、透過性が高い連続したボイドの結果である。この結果は、ポリマーがゼオライトよりも高い透過性を持つ場合にポリマーマトリクスにおける向上があまり見られない緻密な混合マトリクス膜とは対照的である。このような場合、酸素の選択性が低減する一方、透過性はわずかに上昇するのみである。
【0052】
ZeoTIPS膜による性能強化の重要性を最も良く理解するためには、文献により十分裏付けられた、Robesonによって提案された上限について考察するのが有用である[1]。理想的なZeoTIPS膜は、上限よりも顕著に高い効率的な分離を生み出す。図10の結果は透過性ポリマーマトリクスを備える膜に関連するが、透過性がゼロの点は理想的なZeoTIPS膜モデルに含まれている。データポイントは全て25体積%のゼオライト添加の膜に関し、ポリマーの透過性が理想的ZeoTIPS膜で減少すると膜の選択性が増加する(図10の黒い点)。非理想的なZeoTIPSの場合、ポリマーがゼオライトの表面を被覆する量が増加するにつれ(図10の白い四角)、選択性および透過性の両方が減少するが、値は依然として上限よりも十分上にある。25体積%ゼオライト添加の緻密な混合マトリクス膜(図10の黒い三角)は、研究されたポリマー透過性の全ての値について、上限の下に留まっている(PO2=0ポイントは、DMMMを含まない)。
【0053】
上記のシミュレーションを行うにあたり、ボイドの透過性を独断で10に設定した。図11は、ボイドの透過性に対するモデルの感度を示し、ボイドの透過性低下に伴い選択性が低下するのを示している。ボイド透過性が不当に低いとしても、透過性がポリマーマトリクスの透過性よりも高い限りは、選択性は依然として緻密な混合マトリクス膜よりも有意に高い。
【0054】
図12は、ZeoTIPS膜における、ボイド体積対ポリマー体積の比の効果を示している。ボイド/ポリマー比が高いほど、膜の微小な多孔性が上がるために選択性が高くなる。しかし、比が3:1よりも高くなると、押出しに対して低すぎる粘性になって、凝固された膜における構造的な一体性を得るには低すぎるポリマー濃度になってしまう可能性がある。
【0055】
結論
ZeoTIPS膜の透過モデル化は、ZeoTIPS膜がゼオライトと平行でボイドと連続するポリマーとしてモデル化される場合、緻密な混合マトリクス膜の性能を上回る改良の可能性を示している。膜の性能は、気体分離ポリマーについてのRobesonの上限を上回ると予測される。改良が最大限に示されるのは、ポリマーの透過性を要する混合マトリクス膜と対照的に、理想的ZeoTIPS膜中のポリマーが分離される種に対して不透過性である場合である。理想的なZeoTIPS膜は、ポリマーがゼオライト自体より高い透過性を持つ場合でさえ、混合マトリクス膜の性能を向上することが予測される。また、ボイドの透過性が最大のとき、およびボイド体積対ポリマー体積の比が最大であるが、少なくとも1つのゼオライト粒子でブロックされた各微小多孔質経路が依然として残っている場合、膜の効率は最大化される。最後に、ZeoTIPS膜構造が非理想的であっても、ポリマーがゼオライト粒子を被覆する場合には、緻密な混合マトリクス膜と比較して選択性および透過性の顕著な上昇がある。
【0056】
本発明の広範にわたる範囲を説明する数字的な範囲およびパラメータは概算値であり、具体的な例で説明される数値は、過去にできるだけ精密に報告されたものである。しかし、あらゆる数値は本来的に特定の誤差を含んでおり、必ずしもそれぞれのテスト測定における標準偏差に由来するものとは限らない。
【0057】
従って、本発明は、記載のならびに本来備わっている、結果および利点を達成するために良く適合している。多数の変更が当業者により成される可能性があるものの、一部、添付される特許請求の範囲によって説明されるように、当該変更は本発明の精神の範囲内に含まれる。
【0058】
【化9】
【0059】
【化10】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を高温でポリマーおよび希釈剤の均一な溶液に混合して混合物を形成させる工程と、
該混合物を冷却させて微小多孔質ポリマーマトリクスを凝固させる工程とを含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子が:天然ゼオライト;合成ゼオライト;金属−有機構造体;有機分子篩;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子が:天然ゼオライト;合成ゼオライト;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を官能基と反応させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記官能基が:エチレン基;エステル;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが:ポリオレフィン;ポリスチレン;ポリスルホン;ポリ(ビニリデンフルオライド);ポリ(メチルメタクリレート);ポリエチレンコビニルアルコール;ポリ(エチレンコアクリル酸);およびポリ(エチレンコビニルアセテート);それらの任意のコポリマー;ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記希釈剤が:ジフェニルエーテル、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ドデカノール、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の希釈剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記希釈剤を前記混合物の冷却後に抽出する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記希釈剤の抽出が揮発性溶媒により行われ、次いで乾燥させる、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記微小多孔質ポリマーマトリクスが約0.3nmから約1nmの範囲のサイズの孔を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種類のナノ多孔質粒子;微小多孔質ポリマーマトリクス;および約0.3nmから約1nmの範囲の孔を備える膜。
【請求項12】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子が:天然ゼオライト;合成ゼオライト;金属−有機構造体;有機分子篩;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を含む、請求項11に記載の膜。
【請求項13】
前記微小多孔質ポリマーマトリクスが:ポリオレフィン;ポリスチレン;ポリスルホン;ポリ(ビニリデンフルオライド);ポリ(メチルメタクリレート);ポリエチレンコビニルアルコール;ポリ(エチレンコアクリル酸);およびポリ(エチレンコビニルアセテート);それらの任意のコポリマー;ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含む、請求項11に記載の膜。
【請求項14】
さらに希釈剤を含む、請求項11に記載の膜。
【請求項15】
前記希釈剤が:ジフェニルエーテル、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ドデカノール、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の希釈剤を含む、請求項14に記載の膜。
【請求項1】
少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を高温でポリマーおよび希釈剤の均一な溶液に混合して混合物を形成させる工程と、
該混合物を冷却させて微小多孔質ポリマーマトリクスを凝固させる工程とを含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子が:天然ゼオライト;合成ゼオライト;金属−有機構造体;有機分子篩;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子が:天然ゼオライト;合成ゼオライト;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を官能基と反応させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記官能基が:エチレン基;エステル;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが:ポリオレフィン;ポリスチレン;ポリスルホン;ポリ(ビニリデンフルオライド);ポリ(メチルメタクリレート);ポリエチレンコビニルアルコール;ポリ(エチレンコアクリル酸);およびポリ(エチレンコビニルアセテート);それらの任意のコポリマー;ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記希釈剤が:ジフェニルエーテル、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ドデカノール、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の希釈剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記希釈剤を前記混合物の冷却後に抽出する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記希釈剤の抽出が揮発性溶媒により行われ、次いで乾燥させる、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記微小多孔質ポリマーマトリクスが約0.3nmから約1nmの範囲のサイズの孔を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種類のナノ多孔質粒子;微小多孔質ポリマーマトリクス;および約0.3nmから約1nmの範囲の孔を備える膜。
【請求項12】
前記少なくとも1種類のナノ多孔質粒子が:天然ゼオライト;合成ゼオライト;金属−有機構造体;有機分子篩;およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のナノ多孔質粒子を含む、請求項11に記載の膜。
【請求項13】
前記微小多孔質ポリマーマトリクスが:ポリオレフィン;ポリスチレン;ポリスルホン;ポリ(ビニリデンフルオライド);ポリ(メチルメタクリレート);ポリエチレンコビニルアルコール;ポリ(エチレンコアクリル酸);およびポリ(エチレンコビニルアセテート);それらの任意のコポリマー;ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含む、請求項11に記載の膜。
【請求項14】
さらに希釈剤を含む、請求項11に記載の膜。
【請求項15】
前記希釈剤が:ジフェニルエーテル、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ドデカノール、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の希釈剤を含む、請求項14に記載の膜。
【図1】
【図2】
【図6】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図6】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−521290(P2010−521290A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553738(P2009−553738)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/056630
【国際公開番号】WO2008/112745
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(591217403)ボード オブ リージェンツ, ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム (49)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/056630
【国際公開番号】WO2008/112745
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(591217403)ボード オブ リージェンツ, ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム (49)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【Fターム(参考)】
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