説明

高電圧パルス発生装置

【課題】イグナイタを小型化して、規格化されたイグナイタケースに簡単且つ安価に収納することのできる高電圧パルス発生装置を提供する。
【解決手段】高圧パルストランス2,3を2個備え、その各高圧パルストランスの一次巻線21,31を並列に接続してスイッチ素子4を介して充放電コンデンサ5に接続し、前記各高圧パルストランスの二次巻線22,33を放電灯1とともに直列に接続した構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メタルハライドランプ等の高輝度放電灯(以下、放電灯と略称する)を装着するソケットと該放電灯を起動させる高圧パルス電圧を発生するイグナイタ(起動装置)を収納するイグナイタケースが一体化されたイグナイタ一体型放電灯に用いる高電圧パルス発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のイグナイタは、放電ギャップやサイリスタ等のスイッチ素子がオンすることにより、放電用のコンデンサに充電された電荷を、スイッチ素子を介して高圧パルストランスの一次巻線を含んだ経路に放電し、高圧パルストランスの二次巻線に発生する高圧パルス電圧を放電灯へ印加して、放電灯の管内でブレークダウン(絶縁破壊)を起こさせ、アーク放電へ移行させている。そして、このブレークダウン時に発生するサージ電圧を吸収するサージ吸収素子と、放電用コンデンサに充電された電圧による感電を防ぐための放電抵抗を備えている。
【0003】
スイッチ素子がオンする電圧は一般的に800V程度であり、放電灯を確実に点灯させるのに必要な高圧パルスは一般的に25kV程度であるので、結合係数や損失を考慮すると、高圧パルストランスの一次巻線と二次巻線の巻数比は3ターン対150〜200ターン程度となる。また、イグナイタの温度上昇を抑制するために巻線抵抗は0.6Ω程度(水銀フリー用)に抑える必要がある。
【0004】
これらの条件を満たす高圧パルストランスを1個で実現しようとすると、規格化されたイグナイタケース内に納めるには、高圧パルストランスの二次巻線に平角銅線を使用するなど、高圧パルストランスを小さくする措置を施すことが必要である。しかし、平角銅線は導線自体が高価なだけでなく、楕円形に施す巻線工程も数十秒と長時間を要するため、製造コストも高価となる。
【0005】
高圧パルス発生時に二次巻線に発生する電圧は低圧側から高圧側に向かって高くなる。また、高圧パルストランスの出力である高圧パルス電圧を高くするには、結合係数を大きくすることが必要であるが、一次巻線のスイッチ素子側と二次巻線の高圧側には高圧パルス発生時に高電圧が印加されるため、耐電圧の確保が必要となり、高圧側まで一次巻線が巻けず、結合係数の確保が困難である。
【0006】
二次巻線が積層巻き構造の場合は二次巻線間の耐電圧の確保が必要であり、巻き枠が増える分コアの断面積が小さくなってしまうので、整列巻き構造が最適である。しかし、整列巻き構造で平角銅線を使用しないで、断面円形の銅線を使用して上記条件を満たす安価な高圧パルストランスを1個で構成する場合、コアは長軸方向に長くなってしまい、規格化されたイグナイタケース内に納めることが困難である。
【0007】
一方、従来、放電灯を装着するソケットとイグナイタを収納するイグナイタケースを一体化した装置として、特許文献1と特許文献2とがある。特許文献1には放電灯の電極に正負両方の高圧パルスを印加する放電灯点灯装置が開示されている。また、特許文献2には高圧パルストランスを分割した車両用前照灯装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−298190号公報
【特許文献2】特開平8−315630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1は、放電灯の電極に正負両方の高圧パルスを印加する高電圧パルストランスは1つであり、特許文献2は、高圧パルストランスを分割しているがトランスとしては1つであり、特許文献1,2の構成によっては、イグナイタを小型化して規格化されたイグナイタケースに簡単且つ安価に収納することはできないという課題があった。
この発明は上記の課題を解消するためになされたもので、イグナイタを小型化して、規格化されたイグナイタケースに簡単且つ安価に収納することのできる高電圧パルス発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る高電圧パルス発生装置は、高圧パルストランスを2個備え、その各高圧パルストランスの一次巻線を並列に接続してスイッチ素子を介して放電用コンデンサに接続し、前記各高圧パルストランスの二次巻線を放電灯とともに直列に接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、高圧パルストランスを2個備え、その各高圧パルストランスの二次巻線を放電灯とともに直列に接続したので、それぞれの高圧パルストランスは小型であっても、その高圧パルストランスの二次巻線に誘起された高電圧を加算して放電灯に印加するため、放電灯を確実に起動させることができる。また、2個の高圧パルストランスはそれぞれ小型に構成できるので、規格化されたイグナイタケースに容易に収納することができ、安価な高電圧パルス発生装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による高電圧パルス発生装置の構成を示す回路図である。
【図2】この発明の実施の形態1による高電圧パルス発生装置の高圧パルストランスの構成を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態2による高電圧パルス発生装置の構成を示す斜視図である。
【図4】この発明の実施の形態3による高電圧パルス発生装置の構成を示す回路図である。
【図5】この発明の実施の形態3による高電圧パルス発生装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、この発明に係る高電圧パルス発生装置の実施の形態1を図面に沿って説明する。図1はこの発明の実施の形態1による高電圧パルス発生装置の構成を示す回路図であり、この高電圧パルス発生装置は、メタルハライドランプ等の高輝度放電灯を装着するソケットと該放電灯を起動させる高圧パルス電圧を発生するイグナイタ(起動装置)を収納するイグナイタケースが一体化されている。そして、一次巻線21,31がそれぞれ並列に接続され、二次巻線22,32が放電灯1と直列に接続された第1の高圧パルストランス2および第2の高圧パルストランス3と、スイッチ素子4と、放電用コンデンサ5と、放電抵抗6と、サージ吸収素子7を備えている。
【0014】
図2は第1の高圧パルストランス2の構成を示す断面図である。図2において、透磁率の高い材質で構成されるコア10の外周に巻きつけられ高電圧を発生する二次巻線22と、この二次巻線22の外周をスペーサを兼ねた端面部材13を介して覆うボビン11と、このボビン11の外周の二次巻線低圧側に巻きつけられ放電用コンデンサ5の放電電流がスイッチ素子4を介して流れる一次巻線21とを備えている。図2は第1の高圧パルストランス2の構成を示したが、第2の高圧パルストランス3の構成も同一構成であるから説明を省略する。
【0015】
次に、動作について説明する。図示を省略したDC/DCコンバータから端子T1に充電電圧が供給されると、放電用コンデンサ5が充電される。この放電用コンデンサ5が充電された段階でスイッチ素子4がオンする(または、自発的にオンする)と、放電用コンデンサ5から放電電流が、第1の高圧パルストランス2の一次巻線21および第2の高圧パルストランス3の一次巻線31を流れる。これによりその第1の高圧パルストランス2の二次巻線22および第2の高圧パルストランス3の二次巻線32に高電圧が発生して、この高電圧は、二次巻線22、二次巻線32が直列接続されているため加算されて放電灯1に印加され、放電灯1の電極間をブレークダウンさせて起動する。ブレークダウン後は、アーク放電に移行し、端子T2に印加された電圧によって放電灯1を点灯させる。若し、ブレークダウン時にサージ電圧が発生したとき、このサージ電圧はサージ吸収素子7で吸収される。
【0016】
以上説明したように、この実施の形態1によれば、高圧パルストランスを、第1の高圧パルストランス2と第2の高圧パルストランス3によって構成したので、イグナイタケース内の配置の自由度が増し、容易に規格化されたイグナイタケース内に納めることができる。
【0017】
そして、2つの第1の高圧パルストランス2と第2の高圧パルストランス3の二次巻線22,32と放電灯1を直列に接続したので、放電灯を確実に点灯できるだけの高圧パルスを発生できる。また、各高圧パルストランスのコア10を棒形状とし、二次巻線9を断面形状が円形の巻線の整列巻き構造とすることで、コア10および二次巻線9のコストの低廉化と巻線工程の短縮による製造コストの低廉化が可能となる。
【0018】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2による高電圧パルス発生装置の構成を示す斜視図である。図3において、図1と対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明を省略する。図3において、この実施の形態2による高電圧パルス発生装置は、規格化されたイグナイタケース12内に第1の高圧パルストランス2と第2の高圧パルストランス3をL字形に配置格納したものである。
【0019】
この配置格納構成により、第1の高圧パルストランス2と第2の高圧パルストランス3は磁気的に結合されるため、第1の高圧パルストランス2および第2の高圧パルストランス3を磁気的にはあたかも一つのパルストランスとして動作させることができ、結合係数が高くなる。なお、このイグナイタケース12の図示しない面にはソケットが設けられており、このソケットに高輝度放電灯1が装着された構造である。
【0020】
よって、この実施の形態2によれば、高圧パルストランスの巻数比を小さくすることが可能となり、第1の高圧パルストランス2と第2の高圧パルストランス3を小型化でき、規格化されたイグナイタケース12内への収納がより容易となる。
【0021】
実施の形態3.
図4はこの発明の実施の形態3による高電圧パルス発生装置の構成を示す回路図である。図4において、図1と対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明を省略する。この実施の形態3は第1の高圧パルストランス2の二次巻線22を放電灯1の一方の電極側1bに、第2の高圧パルストランス3の二次巻線32を放電灯1のもう一方の電極側1aに接続し、二次巻線22、放電灯1、二次巻線32を直列に接続した構成である。
【0022】
図5は実施の形態3による高電圧パルス発生装置により放電灯1に印加される高圧パルスを示した特性図であり、この特性図を参照して動作を説明する。放電灯1のどちらか一方の電極側1aに印加される第1の高圧パルストランス2の二次巻線22の出力14に対し、放電灯1のもう一方の電極側1bに印加される第2の高圧パルストランス3の二次巻線32の出力15の極性を逆にすることで、放電灯1の両電極間の電位差として放電灯1が確実に起動できるだけの高電圧の出力15を、放電灯1の電極間に印加することができる。
【0023】
以上のように、この実施の形態3によれば、二次巻線22、放電灯1、二次巻線32を直列に接続した構成であるので、第1の高圧パルストランス2の二次巻線22の出力14および第2の高圧パルストランス3の二次巻線32の出力15をそれぞれ従来の1/2に低減できる。この結果、高圧パルストランスの一次巻線と二次巻線の間の耐電圧も1/2となり、耐圧部材が簡易となる。また、結合係数も向上するため、高圧パルストランスの小型化が可能となる。
【0024】
実施の形態4.
図2に示したように、第1の高圧パルストランス2および第2高圧パルストランス3において、コア10を棒形状とし、第1の高圧パルストランス2および第2高圧パルストランス3のそれぞれの二次巻線22および二次巻線32を断面形状が円形の巻線の整列巻き構造とする。
この実施の形態4によれば、第1および第2の高圧パルストランスの二次巻線22および二次巻線32を断面形状が円形の巻線による整列巻きとしたので、コア10と二次巻線22および二次巻線32のコストの低廉化と巻線工程の短縮による製造コストの低廉化が可能となる。
【符号の説明】
【0025】
1 放電灯、2 第1の高圧パルストランス、21 一次巻線、22 二次巻線、3 第2の高圧パルストランス、31 一次巻線、32 二次巻線、4 スイッチ素子、5 放電用コンデンサ、6 放電抵抗、7 サージ吸収素子、10 コア、11 ボビン、12 イグナイタケース、13 放電灯の電極間に印加される高圧パルス、14 第1の高圧パルストランス2の二次巻線2の出力、15 第2の高圧パルストランス3の二次巻線3の出力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧パルストランスを2個備え、その各高圧パルストランスの一次巻線を並列に接続してスイッチ素子を介して充放電コンデンサに接続し、前記各高圧パルストランスの二次巻線を放電灯とともに直列に接続したことを特徴とする高電圧パルス発生装置。
【請求項2】
2個の高圧パルストランスをイグナイタケース内にL字形に配置収納したことを特徴とする請求項1記載の高電圧パルス発生装置。
【請求項3】
放電灯の一方の電極側に接続された第1の高圧パルストランスと、放電灯の他方の電極側に接続され前記第1の高圧パルストランスと正負逆極性の電圧を出力する第2の高圧パルストランスとを備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の高電圧パルス発生装置。
【請求項4】
断面形状が円形の二次巻線と棒形状のコアにより構成された高圧パルストランスを備えたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の高電圧パルス発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−267521(P2010−267521A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118598(P2009−118598)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】