説明

高電圧機器用絶縁性組成物

【課題】エポキシ樹脂,石炭灰等から成る絶縁材料を用いた絶縁性組成物において、単に電気的物性を付与すると共に地球環境保全に貢献するだけでなく、絶縁性組成物として十分な機械的物性を付与すると共に、その絶縁性組成物の製造効率を高める。
【解決手段】少なくともエポキシ樹脂(エポキシ化亜麻仁油等),石炭灰(フライアッシュ等),硬化剤を混合して成る絶縁材料を加熱硬化して得られ高電圧機器の絶縁構成に用いられる高電圧機器用絶縁性組成物であって、前記の石炭灰は、エポキシ樹脂と石炭灰との相溶性を高める加熱気化した表面処理剤(シランカップリング剤等)により、加熱減圧雰囲気下で表面処理され、予熱(例えば150〜180℃で予熱)後に混合(例えば、エポキシ樹脂100phrに対し500phr〜550phrの割合で混合)される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧機器用絶縁性組成物に関するものであって、例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた高電圧機器(重電機器等)の絶縁構成に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた高電圧機器(重電機器等)の絶縁構成(例えば、絶縁性を要する部位)に適用(例えば、屋外に直接暴露して適用)されるものとしては、化石原料(石油等)由来のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(石油等を出発物質とした樹脂)をマトリックスとし硬化剤,充填剤(例えば、多量のエネルギーを消費して精錬されたシリカ,アルミナ等の無機充填剤)等の各種添加剤を適宜混合して得た絶縁材料を加熱硬化した組成物(以下、絶縁性組成物と称する)、例えば該絶縁材料を注型して成る絶縁性組成物により構成された製品(モールド注型品;以下、絶縁性製品と称する)が、従来から広く知られている(例えば、特許文献1)。なお、絶縁材料の各成分においては、混合工程の前に適宜予熱することにより、該混合性を良好(例えば、混合物の粘度の低減)にしたり、その後段の硬化工程に係る硬化時間等の短縮化を図ることができ、製造効率が向上することが知られている。
【0003】
また、社会の高度化・集中化に伴って、高電圧機器等の大容量化,小型化や高い物性(例えば、電気的物性(絶縁破壊電界特性等),機械的物性(曲げ強度等))等が強く要求されると共に、前記の絶縁性製品に対しても種々の特性の向上が要求されてきた。例えば、絶縁性製品の物性を左右する熱硬化性樹脂として、化石原料由来物質(限りある資源)が多く利用されてきたことから、地球環境保全(省エネルギー化,CO2排出抑制による温暖化防止等)を考慮して、処分対象である絶縁性製品(例えば、寿命,故障等によって処分される製品)を回収し再利用(リサイクル)する試みが行われている。
【0004】
しかしながら、その再利用方法は確立されておらず殆ど行われていない。例外的に、品質が比較的均一な部材(絶縁性製品に用いられているPEケーブル被覆部材)のみを回収しサーマルエネルギーとして利用されているが、このサーマルエネルギーは燃焼処理工程を要するため、地球環境を害する恐れがある。また、焼却処理する場合においても、種々の有害物質やCO2を大量に排出するため、前記同様に地球環境を害する恐れがある。
【0005】
絶縁性組成物の各成分において少しでも非化石原料由来物質を適用(例えば、充填剤として、無機充填剤と木質資源等の有機充填剤とを併用)する試みが知られているが(例えば、特許文献2)、絶縁性組成物全体での適用割合としは僅かであり、大半は化石原料由来物質に依存した成分によって占められているものである。
【0006】
また、絶縁性組成物の必須成分のうちの一つである熱硬化性樹脂として生分解性樹脂(例えば、ポリ乳酸系樹脂)を適用する試みが知られているが(例えば、特許文献3)、該生分解性樹脂は、比較的溶融(例えば、100℃程度の温度で溶融)し易い物質であるため、高電圧機器(使用中に100℃程度に温度上昇し得る高電圧機器)への適用は危険視されている。
【0007】
さらに、生物由来物質を用いた架橋組成物を適用する試みも知られているが(例えば、特許文献4)、硬化剤としてアルデヒド類を用いたものであり、常温程度の温度雰囲気下(例えば、印刷配線ボードにおける温度環境)では高い機械的物性を有するものの、高温雰囲気下(例えば、高電圧機器等の使用環境)では十分な機械的物性が得られ難い。
【0008】
ここで、一般的にエポキシ樹脂と称される熱硬化性樹脂が適用された絶縁性組成物においては、体積比,重量比で最も多く配合されている成分は充填剤である。このことから、該エポキシ樹脂の充填剤として、火力発電所等の副産物として生成される石炭灰を適用(JIS A6201−1999のフライアッシュI種,II種,III種等の石炭灰を再利用;例えば、非特許文献1)する試みが行われ始めている。絶縁性製品中に内装されるインサートの線膨張率や放熱特性等を考慮する場合には、前記の石炭灰を例えば少なくとも40vol%以上(必要に応じて70vol%以上)程度の範囲で適用することが考えられる。このようにエポキシ樹脂に対する充填剤として石炭灰を適用することにより、該充填剤においては新たな製造エネルギーが消費されることはなく、二酸化炭素の発生も伴わないことから、十分な電気的物性,機械的物性を有する絶縁性組成物を安全に適用できると共に、地球環境保全に貢献できる可能性があるものとされていた。
【特許文献1】特許第3359410号公報
【特許文献2】特開2004−171799号公報
【特許文献3】特開2002−358829号公報
【特許文献4】特開2002−53699号公報
【非特許文献1】「資源として広く活用されているCOAL ASH」,パンフレット,日本フライアッシュ協会,平成16年4月。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記のように製造効率を考慮して高温(例えば、130℃以上の温度)で予熱された石炭灰を用いると、該石炭灰(少なくとも一部)においてポラゾン反応によるブロック状に固化する現象が起こり、エポキシ樹脂に対して石炭灰を均一分散できなくなり、機械的物性が低くなってしまう。
【0010】
なお、前記の均一分散を考慮して、前記の低温(例えば130℃未満)で予熱された石炭灰を用いると、前記の混合時の粘度が高過ぎたり、その後段の硬化工程に係る作業時間の長くなってしまい、製造効率が悪化してしまう。また、絶縁材料中の石炭灰の配合割合を少なくすると、絶縁性組成物自体の線膨張率が高くなってしまい、例えばインサート(絶縁性製品中に内装される金属インサート等)を用いる場合には、該インサートと絶縁性組成物との線膨張率の差により熱応力が大きくなってしまうことから、機械的物性が低くなってしまう。
【0011】
以上示したようなことから、エポキシ樹脂,石炭灰等から成る絶縁材料を用いた絶縁性組成物において、単に電気的物性を付与すると共に地球環境保全に貢献するだけでなく、絶縁性組成物として十分な機械的物性を付与すると共に、その絶縁性組成物の製造効率を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記の課題の解決を図るためのものであって、エポキシ樹脂,石炭灰等から成る絶縁材料を用い、良好な製造効率で十分な機械的物性を付与できる高電圧機器用絶縁性組成物を提供することにある。
【0013】
具体的に、請求項1記載の発明は、少なくともエポキシ樹脂,石炭灰,硬化剤を混合して成る絶縁材料を加熱硬化して得られ、高電圧機器の絶縁構成に用いられる高電圧機器用絶縁性組成物であって、
前記の石炭灰は、エポキシ樹脂と石炭灰との相溶性を高める加熱気化した表面処理剤により、加熱減圧雰囲気下で表面処理され、予熱後に混合されたことを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記のエポキシ樹脂は、エポキシ化亜麻仁油であることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記の石炭灰は、フライアッシュであることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3記載の発明において、前記の表面処理剤は、シランカップリング剤であることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4記載の発明において、前記の表面処理は、加熱減圧炉中に前記の表面処理剤,石炭灰を配置し、その表面処理剤を加熱真空により気化し石炭灰と接触させたことを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5記載の発明において、前記の予熱の温度は、150℃〜180℃であることを特徴とする。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6記載の発明において、前記の石炭灰は、エポキシ樹脂100phrに対し500phr〜550phr用いたことを特徴とする。
【0020】
請求項1〜7記載の発明のように表面処理された石炭灰を用いることにより、ポラゾン反応によるブロック状に固化する現象が惹起されないようになる。このため、該石炭灰の予熱温度を低温(例えば、130℃未満の温度)に設定したり配合割合を少なくする必要は無く、該石炭灰をエポキシ樹脂に対して均一分散し易くなる。また、インサート(絶縁性製品中に内装される金属インサート等)を用いた場合には、該インサートと絶縁性組成物との線膨張率の差が小さくなる。
【0021】
請求項2記載の発明においては、非化石原料由来物質の配合割合が増加する。
【発明の効果】
【0022】
以上、請求項1〜7記載の発明によれば、電気的物性を付与すると共に地球環境保全に貢献するだけでなく、絶縁性組成物として十分な機械的物性を付与すると共に、その絶縁性組成物の製造効率を高めることが可能となる。また、請求項2記載の発明においては、前記の地球環境保全により貢献することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態における高電圧機器用絶縁性組成物を詳細に説明する。
【0024】
本実施の形態は、少なくともエポキシ樹脂,石炭灰,硬化剤を混合して成る絶縁材料を加熱硬化して得られ高電圧機器の絶縁構成に用いられる高電圧機器用絶縁性組成物であって、前記の絶縁材料において単に混合前予熱された石炭灰を用いるのではなく、エポキシ樹脂と石炭灰との相溶性を高める表面処理剤による表面処理、および予熱された石炭灰を用いる。前記表面処理は、加熱気化された表面処理剤を加熱減圧雰囲気下にて石炭灰と接触させて行われる。
【0025】
表面処理方法としては、例えばインテグラルブレンド法,湿式法,スプレードライヤ法等が一般的に知られているが、これら各方法は比較的大掛かりな専用設備を要したり処理時間が長く掛かってしまう等の理由により、例えば製造コストが高くなってしまう可能性がある。一方、加熱減圧炉等を用いて、前記のように加熱気化した表面処理剤を用い加熱減圧雰囲気下で表面処理する方法によれば、前記のような大掛かりな専用設備は不要であり、低コスト化を実現できる可能性がある。具体例としては、ロータリーポンプに接続された加熱減圧炉中に対し、表面処理剤,石炭灰をそれぞれ別々に配置(例えば、各々の所定形状の容器(SUS缶等)に入れ、それら容器を所定距離隔てて配置)し、所定時間(例えば、炉内温度,到達減圧度,石炭灰量,容器表面積に応じた時間)放置することにより、加熱真空により気化した表面処理剤を石炭灰と接触させる方法(以下、加熱減圧法と称する)が挙げられる。
【0026】
エポキシ樹脂としては、一般的な高電圧機器に適用されているものが挙げられ、例えばエポキシ化亜麻仁油,エポキシ化大豆油等の植物由来(非化石原料由来)のものも挙げられる。また、不飽和脂肪酸である動植物油から成るエポキシ化物においても、非化石原料由来物質として適用することが可能である。
【0027】
充填剤である石炭灰としては、例えば火力発電所等の副産物として生成される石炭灰を適用(石炭灰を再利用)でき、具体的には非特許文献1に示すようなフライアッシュ(例えば、I種,II種,III種)が挙げられる。フライアッシュの種類の違いによって、目的とする高電圧機器用絶縁性組成物の物性において多少の差異はあるが、それぞれ環境性,経済性等が優れている点で共通している。なお、充填剤の配合割合は、目的とする高分子組成物に応じて適宜設定すれば良いが、多過ぎる場合には混合・注型性を損なう恐れがある。
【0028】
表面処理剤としては、エポキシ樹脂と石炭灰との相溶性を高めるものを適用し、例えばシランカップリング剤等が挙げられる。
【0029】
硬化剤としては、例えばエポキシ樹脂と反応し得るアミン類,酸無水物類,フェノール類,イミダゾール類等の種々のものが適用でき、ヒマシ油系ポリオール等の植物由来のものも適用できる。
【0030】
前記の硬化剤の配合量は、例えばエポキシ樹脂のエポキシ当量を算出し、そのエポキシ当量に基づいた化学量論量を添加(例えば、化学量論比に対し1.0として添加)する。このような硬化剤の配合割合は、例えば目的とする高分子製品に要求される物性の優先順位によって適宜設定され得るものである。
【0031】
前記のエポキシ樹脂,石炭灰,硬化剤の他に、例えば作業性の向上(例えば、作業時間の短縮等),成形性,Tg特性,機械的・物理的物性,電気的物性等の改善を図る目的で、種々の添加剤を適宜用いることができ、例えば硬化促進剤(硬化剤の硬化の起点;例えば有機過酸化物,アミン類,イミダゾール類等),反応抑制剤,反応助剤(反応(Tg特性)を制御する目的;パーオキサイド等)等を適宜併用することが可能である。
【0032】
なお、高分子成分等にパーオキサイドを添加して混合すると、その混合物は時間経過と共に粘度が上昇し、生産性が低下(例えば、混合性,成形性が低下)する恐れがあるものの、可使時間(ポットライフ)が例えば60分以上であれば良好な生産性を有するものとみなすことができる。
【0033】
本実施形態の絶縁性組成物における架橋は、本質的に硬化剤によるものであって、硬化条件や前記の硬化促進剤,反応抑制剤,反応助剤等の有無によって架橋構造が影響を受けることはない。
【0034】
例えば、硬化条件(温度,時間等)は、目的とする絶縁性組成物の物性を得るために適宜設定(例えば、硬化促進剤の種類や配合量等に応じて適宜設定)されるものであり、該硬化条件が異なっても該物性自体に大きな差が生じることはない。また、反応促進剤,反応抑制剤は、反応性を高めたり安全(抑制)にして作業性や生産性等を改善する目的で適宜適用されるものであり、該反応促進剤,反応抑制剤の種類や配合割合が異なっても該物性自体に大きな差が生じることはない。さらに、反応助剤は、前記の反応促進剤,反応抑制剤と同様に反応性を調整(例えば、パーオキサイドの場合は、Tg特性の調整)するために適宜適用(例えば、硬化条件や硬化促進剤等の種類,配合量に応じて適宜適用)されるものであり、該反応助剤の種類や配合量が異なっても該物性自体に大きな差が生じることはない。
【0035】
[実施例]
次に、本実施の形態における高電圧機器用絶縁性組成物の実施例を説明する。
【0036】
まず、下記表1に示すように、エポキシ樹脂として非化石原料由来物質であるエポキシ化亜麻仁油(ダイセル化学社製のダイマックL−500)100phr,硬化剤としてフェノール樹脂(住友ベークライト社製のPR−HF−3)化学量論量(本実施例ではエポキシ樹脂100phrに対し61phr),無機充填剤である石炭灰としてフライアッシュ(東電環境エンジニアリング社製のフライアッシュII種(JIS A6201−1999))300phr〜550phr,硬化促進剤としてイミダゾール(四国化成社製の2E4MZ)1phrを混合して種々の絶縁材料S1〜S4,P1〜P7を得た。
【0037】
なお、各絶縁材料S1〜S4,P1〜P7に用いたエポキシ樹脂,硬化剤は、前記の混合工程前において、それぞれ150℃の温度で予熱し、フライアッシュはそれぞれ以下に示す方法により表面処理,予熱したものとする。
【0038】
まず、絶縁材料S1〜S4の場合、フライアッシュ2kg,シランカップリング剤(信越化学社製のKBM−403)200gをそれぞれ5リットルSUS缶,500デシリットルSUS缶に入れ、ロータリーポンプに接続された加熱減圧炉中に対し前記の各SUS缶を所定距離隔てて配置し、その炉内が100℃・1kPaに達してから1時間放置することにより表面処理した。また、表面処理後、該炉内温度を150℃または180℃に昇温させて2時間放置することにより予熱した。
【0039】
試料P1〜P7の場合、インテグラルブレンド法によりシランカップリング剤でフライアッシュを表面処理した後、100℃,130℃,150℃の何れかの温度で予熱した。
【0040】
【表1】

【0041】
そして、前記のように作製した各絶縁材料S1〜S4,P1〜P7の混合・注型性(相対評価),粘度(P・s)をそれぞれ測定し、その結果を下記表2に示した。また、前記の絶縁材料S1〜S4,P1〜P7をそれぞれ金型注型し温度150℃,20時間の熱処理(三次元架橋)を行うことにより、種々の絶縁性組成物の試料(10mm×5mm×200mmの試料)を作製し、三点曲げ法による室温雰囲気下の曲げ強度(MPa),TMAによる線膨張率(E−06)をそれぞれ測定し、その結果を下記表2に示した。なお、下記表2の混合・注型性の欄において、記号「◎」は優れた結果の場合、記号「○」は十分な結果の場合、記号「×」は不十分な結果の場合、を示すものとする。
【0042】
【表2】

【0043】
<インテグラルブレンド法を適用した場合>
表2に示す結果から、インテグラルブレンド法により表面処理した絶縁材料の場合、絶縁材料P7のようにフライアッシュの予熱温度が比較的高温であると、その予熱によってフライアッシュが固化してしまい、混合性が低下し注型ができなくなることを読み取れる。
【0044】
また、絶縁材料P1〜P6のようにフライアッシュの予熱温度が比較的低温であると、前記のようなフライアッシュの固化は起こらず、該フライアッシュの配合割合を比較的少量にした場合には、該絶縁材料自体の粘度が抑えられ混合・注型性が良好となるものの、十分な曲げ強度が得られず、線膨張率が比較的高く(一般的な絶縁性製品中に内装されるインサート(鉄:銅:アルミニウム=12:17:22の割合のインサート)の線膨張率と比較して高く)なってしまうことを読み取れる(例えば、線膨張率33×10-6では大き過ぎる)。
【0045】
さらに、絶縁材料P1〜P6のようにフライアッシュの予熱温度が比較的低温の場合、該フライアッシュの配合割合の増加に伴って絶縁性組成物の曲げ強度が上昇し線膨張率が低減される傾向が観られるものの、該絶縁材料自体の粘度が上昇し混合・注型性が不十分となることを読み取れる。
【0046】
すなわち、インテグラルブレンド法を適用した場合には、フライアッシュの予熱温度を比較的低温に設定したり該配合割合を減らさなければ、絶縁性組成物の作製が困難あるいは製造効率が低下し、たとえ該絶縁性組成物を作製できたとしても機械的物性等が低いものとなることを判明した。
【0047】
<加熱減圧法を適用した絶縁材料S1〜S4>
一方、加熱減圧法により表面処理した絶縁材料の場合、絶縁材料S1〜S4のように予熱温度が比較的高温に設定されても、該フライアッシュが固化することはなく、該絶縁材料自体の粘度が抑えられ混合・注型性が良好となることを読み取れる。また、絶縁性組成物の曲げ強度が十分であり、線膨張率も比較的低いことが読み取れる。
【0048】
すなわち、加熱減圧法を適用した場合には、フライアッシュの予熱温度を比較的低温に設定したり該配合割合を減らさなくとも、例えば前記のインテグラルブレンド法を適用した場合と比較して、十分な機械的物性等を有する絶縁性組成物を効率良く作製できることを判明した。
【0049】
ここで、前記の絶縁材料S2,S4,P5を用いて、それぞれM16(50mm長)の鉄ボルトをモールドすることにより円筒状の絶縁性製品(Φ50mm×150mm)を各々10個作製し、それら絶縁性製品を−40℃まで冷却したクラック発生の有無を調べ、その結果を下記表3に示した。
【0050】
【表3】

【0051】
表3に示す結果から、インテグラルブレンド法を適用した絶縁材料を用いた場合には、殆どの絶縁性製品においてクラックが発生してしまったことを読み取れる。
【0052】
一方、加圧減圧法を適用した絶縁材料を用いた場合には、全ての絶縁性製品においてクラックが発生しなかったことから、例えば前記のインテグラルブレンド法を適用した場合と比較して、インサートと絶縁性組成物との線膨張率の差が小さく、熱応力が抑えられること読み取れる。
【0053】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0054】
例えば、絶縁材料の混合条件や硬化条件は、エポキシ樹脂,充填剤やその他の各種添加剤等の種類や配合量に応じて適宜設定されるものであり、本実施例で示した内容に限定されるものではない。また、前記のエポキシ樹脂,充填剤等の他に、目的とする絶縁性組成物の特性を損わない程度の範囲で種々の添加剤(例えば、実施例以外の添加剤)を適宜配合した場合においても、本実施例に示したものと同様の作用効果が得られることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエポキシ樹脂,石炭灰,硬化剤を混合して成る絶縁材料を加熱硬化して得られ、高電圧機器の絶縁構成に用いられる高電圧機器用絶縁性組成物であって、
前記の石炭灰は、エポキシ樹脂と石炭灰との相溶性を高める加熱気化した表面処理剤により、加熱減圧雰囲気下で表面処理され、予熱後に混合されたことを特徴とする高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項2】
前記のエポキシ樹脂は、エポキシ化亜麻仁油であることを特徴とする請求項1記載の高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項3】
前記の石炭灰は、フライアッシュであることを特徴とする請求項1または2記載の高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項4】
前記の表面処理剤は、シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項5】
前記の表面処理は、加熱減圧炉中に前記の表面処理剤,石炭灰を配置し、その表面処理剤を加熱真空により気化し石炭灰と接触させたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項6】
前記の予熱の温度は、150℃〜180℃であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項7】
前記の石炭灰は、エポキシ樹脂100phrに対し500phr〜550phr用いたことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の高電圧機器用絶縁性組成物。

【公開番号】特開2009−99333(P2009−99333A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268481(P2007−268481)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】