説明

鬱病患者の自殺行動の予防治療のためのミルナシプラン塩酸塩の(1S,2R)鏡像異性体の使用

本発明は、精神医学的障害の患者を治療して上記患者の自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させおよび/または1または数種類のSSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬による治療によって誘発される自殺行動の危険性を制限する目的で使用するミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神医学的障害の患者の治療を目的とした薬剤を調製し、自殺行動または自殺念慮の危険を制限するためのミルナシプランの実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体の使用、特にミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体、F2695の使用に関する。更に具体的には、本発明による鏡像異性体F2695は、鬱病の治療を目的としており、このような種類の疾患は自殺衝動の高い危険性と関連している。
【背景技術】
【0002】
世界的には、百万の人々が毎年自殺しており、1−2千万人が自殺を試みている。気分障害、特に大鬱病性障害(MDD)および双極性障害は、最も一般的に見られる自殺に関連した精神医学的状態である。自殺に対する主要な(精神医学的および身体的疾患)、第二の(心理社会的)および第三の(人口統計学的)危険因子は確認されている。共存症的精神医学的疾患、特に不安症状または障害は、自殺行動の危険性を有意に増加させる。従って、危険な状態にある患者を確認するには、現行の標準的危険評価や予防措置の価値は限定的なものである可能性があり、不安や動揺の重篤度の評価が一層効果的となる可能性がある。
【0003】
患者がMDDと診断されたときには、幾つかの治療が可能であるが、それらのほとんどは抗鬱薬の使用に依存している。
【0004】
選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)のような典型的な抗鬱薬の使用は、静座不能、感情脱抑制、感情鈍麻、治療の第一期中に観察される鬱病の運動遅延の緩和によって伝達される躁病または精神病性反応の組合せによると思われる自殺の危険性を増加することがあることが示唆されている(Healy D, PloS Medicine 2006)。
【0005】
実際に、FDA(アメリカ合衆国食品医薬品局)の報告によれば、大鬱病性障害(MDD)、強迫性障害(OCD)または他の精神医学的障害の小児および青年における9種類の抗鬱薬(SSRIなど)の短期(4−16週間)のプラシーボコントロール試験の統合分析では、これらの抗鬱薬の1つを投与された者の最初の数ヶ月の治療中に自殺行動の思考(自殺衝動)を表す有害事象の危険が大きくなることを示している。更に、4400名を上回る患者を参加させる24の試験の全部について、これらの抗鬱薬を投与された患者におけるそのような事象の平均危険度は4%であり、プラシーボでの危険度の2倍の2%であった(FDA、2005年2月3日、http://www.fda.gov/cder/drug/infopage/paroxetine/default.htm:での処方情報pdfを参照)。
【0006】
自殺行動の治療に関連した活性化に先だって、FDAは、総ての抗鬱薬は小児および青年における自殺思考および行動の危険性を増加させることがあるというブラックボックス警告を出した。このブラックボックスは、あらゆる広告に引用され、添付文書に含まれなければならない。更に、新たな薬物指針は、このような薬物を得る者総てに配布されなければならない。次いで、療法士や家族による緊密な観察が、このような薬物で治療した患者を見守ることが必要であると考えられる。
【0007】
従って、小児用の抗鬱薬処方が急激に減少し(Gibbons RD, American Journal of Psychiatry 2007; 164: 1356-1363)、公衆衛生への影響が不確定となった。しかしながら、これに先立って、米国医学会および米国精神医学会はいずれも、これらの薬剤が有効である可能性がある患者にとってこれらの薬剤を利用する機会が減少していることに警報を鳴らしている。
【0008】
従って、自殺行動または自殺念慮を刺激しない抗鬱薬の代替品、すなわち自殺の危険性を増加することなく精神医学的障害を効果的に治療する薬剤を見出すことが緊急に求められている。更に重要なことには、自殺の危険性は、恐らくは鬱病以外の精神医学的障害の患者よりも鬱病患者における主要な問題であることが知られているので、精神医学的障害、特に鬱病の患者における自殺の危険性を実際に減少させる薬剤が緊急に求められている。
【0009】
この治療法は、年長の患者より自殺行動に敏感な小児、青年および十代の若者のような若年の鬱病患者に特に適している。この治療法は、自殺行動または自殺念慮を有する年長の患者の治療を目的とするものでもある。
【0010】
今日では、リチウムが最も一貫して自殺防止効果を示してきた薬剤である。しかしながら、3種類の新規な非定型抗精神病薬もこのような用途に報告されており、セロトニン5−HT、ドパミンDおよびa1アドレナリン作動性受容体(米国特許第2007/0281925号公報)に高親和性を有する抗精神病薬であるセルチンドール、5−HT2C受容体拮抗薬(WO2004/082584号公報)、および非定型抗精神病薬であるクロザピンは、統合失調症または精神医学的障害のヒト患者における自殺行動を制限する可能性がある(Munro J et al, Brain Journal Psychiatry 1999, 175:576-580)。
【0011】
セロトニンの変動によって、鬱病および気分変調の幾つかの症状が説明される。抗鬱薬、特にセロトニン経路に作用するものによる自殺行動に対する影響は、セロトニン摂取の阻害によりセロトニンを増加し、その結果自殺念慮表現に関連した衝動を増加して行動上の脱抑制を誘発するその能力に起因すると考えられる。
【0012】
セロトニン5−HT系は、自殺の発現における重要な要素(Mann JJ, Arango V, Marzuk PM, Theccanat S, Reis DJ, 1989. 「自殺の5−HT仮説の証拠:剖検概説(Evidence for the 5-HT hypothesis of suicide: A review of post-mortem studies)」Br J Psychiatry 155: 7-14)および多くの抗鬱薬が慰藉を与える手段として広く研究されてきている。
【0013】
抗鬱薬、特に選択的セロトニン再摂取阻害薬(SSRI)の使用と自殺念慮および行動との関係は、食品医薬品局(FDA)の2004年報告が自殺行動は抗鬱薬治療が開始された後に現れることがあるという警告によって評価されているように、近年かなり注目されてきている(米国食品医薬品局公衆衛生報告:抗鬱薬を投与した患者における鬱病の悪化と自殺念慮,2004年3月22日)(http://www.fda.gov/cder/drug/antidepressants/AntidepressantsPHA.htm)。
【0014】
また、最近の臨床データにより、成人の鬱病個体群では、治療の最初の1月中におけるSSRIによる自殺の危険は他の抗鬱薬によるものの約5倍であるが、継続治療では危険性に差は見られないことが確認された(「選択的セロトニン再取込阻害薬による自殺の危険性(The Risk of Suicide With Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)」. David N. Juurlink, M. D., Ph.D., Muhammad M. Mamdani, Pharm.D., M.A., M. P. H., Alexander Kopp, B.A., and Donald A. Redelmeier, M. D., M.Sc. Am J Psychiatry 163:813-821, May 2006)。
【発明の概要】
【0015】
精神医学的障害、特に鬱病の治療においてSSRIの他に加えまたはの代わりに用いて自殺念慮の危険性を制限しまたは改善することができる薬剤を見出すことに関して、本発明者らは、ミルナシプラン塩酸塩の(1S,2R)鏡像異性体(F2695)が鬱病の治療に関連した自殺の危険性の増加を防止するだけでなく減少させることもできることを見出した。F2695はセロトニンおよびノルアドレナリン摂取の阻害薬であるので、この所見は驚くべきものでありかつ予想外のものである。
【発明の具体的説明】
【0016】
F2695はミルナシプラン塩酸塩の(1S,2R)鏡像異性体であり、ミルナシプラン塩酸塩の右旋性鏡像異性体に相当する。
【0017】
F2695は、ラット視床下部のホモジェネートで示されるように(米国特許第7,005,452号公報)それぞれノルエピネフリンおよびセロトニン摂取におけるラセミ体より2および3倍有効であるので、ミルナシプラン塩酸塩の薬理活性鏡像異性体である。従って、F2695は、セロトニン(5−HT)およびノルエピネフリン(NE)再摂取の活性な二重阻害薬であると考えられる。
【0018】
化学的にZ−(1S,2R)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド塩酸塩と命名されているF2695は、下記の構造を有する。
【化1】

【0019】
この鏡像異性体は、文献記載の手続きを用いてラセミ体から分離して、単離することができる(Bonnaud et al, Journal of chromatography, vol 318: 398-403)。
【0020】
F2695の製造方法は、Shuto et al, Tetrahedron letters, 1996 Vol. 37: 641-644およびDoyle et Hu, 2001, Advanced Synthesis and Catalysis, Vol.343: 299-302に記載されている。
【0021】
F2695の治療効果に関する研究は、循環器障害および/または臓器および/または組織毒性を回避しながらの精神医学的障害、特に鬱病の治療におけるその使用に集中してきた。F2695は、苦痛、薬物嗜癖および尿失禁のような他の疾患の治療に有効であることもある。F2695は、クロミプラミンおよびミルナシプランのような他の向精神薬より優れた毒ゲノムプロフィール(toxico-genomic profile)およびかなり良好な安全率を有することも示されている(米国特許第7,005,452号公報)。
【0022】
本発明の目的は、精神医学的障害の患者における自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させながら上記患者を治療する薬剤として使用するためのミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695である。
【0023】
本発明のもう一つの目的は、精神医学的障害の患者における自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させながら上記患者の治療を目的とする薬剤を調製するためのミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体の使用である。
【0024】
本発明の文脈では、「ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体」は、(1S,2R)鏡像異性体を98重量%以上、好ましくは(1S,2R)鏡像異性体を99重量%以上、更に好ましくは(1S,2R)鏡像異性体を100重量%含むミルナシプラン塩酸塩の(1S,2R)および(1R,2S)鏡像異性体の混合物を意味するものと解釈される。
【0025】
本発明の目的では、「F2695」はミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体に相当する。
【0026】
本発明の目的では、「自殺行動および自殺念慮の危険性を減少させ」または「自殺念慮の危険性を減少させ」という表現は、薬剤の投与後、特に治療の最初の3ヶ月間に、好ましくは最初の6週間に患者におけるこれらの危険性を有意に減少させる事実を意味するものと理解される。
【0027】
本明細書で用いられる「自殺行動および自殺念慮」とは、小児科での自殺データの分類、すなわち既成自殺、自殺未遂、今にも起ころうとしている自殺行動の準備行為、および自殺自殺念慮についてコロンビア大学研究グループによって確認されているように、起こり得る自殺関連の有害事象を表す。自殺行動は、彼/彼女を死の危険に追いやる行動を取ることを含んでなる。自殺行動は、致命的(自殺)または非致命的(自殺未遂)結果を伴う自傷行為を含むことがある。
【0028】
また、大鬱病性障害は自殺念慮の重大な危険と関連しており、この危険は鬱病エピソードの重篤度とも関係していることが知られているので、本発明者ら/臨床医は、その結果として、自殺の危険性を臨床観察、22点より高いHAM−D 17得点に結びつけている。
【0029】
本発明の一つの具体的態様は、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695を自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させる目的で用いること、すなわちF2695を含んでなる医薬組成物を精神医学的障害に罹っておりかつ自殺行動または自殺念慮を有するヒト患者に投与し、その結果、上記自殺行動を減少させることによって自殺未遂の頻度を減らしまたはヒト患者が自殺しまたはを企てるのを完全に予防することである。
【0030】
本発明のもう一つの態様は、精神医学的障害、好ましくは鬱病の患者にこの医薬組成物を投与することである。この場合には、本発明によるミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695を治療および/または予防目的に関わらず、上記治療を必要とする総てのタイプの患者に投与する。治療目的には、この目的は、治療を行う疾患(本明細書では、精神医学的障害)および1以上の関連症状(本明細書では、自殺行動または自殺念慮)を根絶しまたは改善することである。予防目的には、この目的は、治療を行う疾患(本明細書では、精神医学的障害)および1以上の関連症状(本明細書では、自殺行動または自殺念慮)の出現を防止することである。
【0031】
それにも関わらず、本発明によるミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695は、危険に曝されている患者、特に精神医学的障害に罹っている若年患者(年齢0−24歳)または自殺行動または自殺念慮を有する患者の個体群に特に適している。
【0032】
若年患者は、小児、青年および十代の若者(年齢18−24歳)であって、いずれも精神医学的障害に罹っている者から好都合に選択される。
【0033】
その薬理特性、特にセロトニン(5−HT)およびノルエピネフリン(NE)再摂取の二重阻害薬としての薬理特性により、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695は、自殺行動および自殺念慮の危険性を減少させながら多くの精神医学的障害の治療を目的とする薬剤の調製に特に有用である。
【0034】
これらの精神医学的障害の中では、「精神障害の診断および統計マニュアルIV(DSM-IV)、1995米国精神医学会(The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-IV (DSM-IV), 1995 American Psychiatric Association)」に定義されている中枢神経系の疾患が挙げられる。例として、下記の精神医学的障害および疾患が挙げられるが、これらに限定されない:鬱病、躁鬱病、統合失調症、全般性不安、陰鬱および消耗状態、ストレス関連疾患、パニック発作、恐怖症、強迫性障害、行動障害、免疫系の鬱病、疲労および関連苦痛症候群、慢性疲労症候群、繊維筋痛症、および他の機能障害、自閉症、全般的健康状態による注意欠陥を特徴とする障害、多動による注意欠陥障害、摂食障害、神経性大食症、神経性食欲不振、肥満、精神病性障害、感情鈍麻、偏頭痛、苦痛、過敏性腸症候群、循環器疾患、神経変性疾患および関連不安抑鬱症候群(アルツハイマー病、ハンティングトン舞踏病、パーキンソン病)尿失禁および薬物嗜癖。
【0035】
本発明に関して、「鬱病」という用語は、一方では、厭世を伴う気分障害、精神的苦痛、死または自殺の思考、精神的抑制からなる心理学的側面と、他方では、運動活性の減速、特に食欲障害、便秘、睡眠障害および体重調節障害からなる運動不足の物理的側面を有する症状の布置を表すと理解される。従って、鬱病は、痛みを伴う気分変調と精神的または運動活動の減少が組み合った病理学的心理学的状態に相当する。「鬱状態」という用語は、倦怠、疲労性向、落胆、および不安を伴うことがある悲観性向として現れる神経心理学的緊張の減退を特徴とする精神状態を表すものと理解される。
【0036】
従って、本発明の目的は、更に具体的には、自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させながら、精神医学的障害、好ましくは深部鬱病、難治性鬱病、精神病性鬱病、インターフェロンによる治療によって誘発される鬱病、鬱状態、躁鬱症候群、季節性鬱状態、全般的健康状態に関連した鬱エピソード、気分変更物質に関連した鬱病のような鬱病の治療を目的とする薬剤を調製するための、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695の使用に関する。
【0037】
あるいは、本発明は、精神医学的障害を煩っている患者における自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させる方法であって、上記患者にミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695の有効量を投与することを含んでなる上記方法を開示する。
【0038】
この方法は、上記したような若年の精神医学的障害の患者に優先的に使用される。
【0039】
本明細書で用いられるミルナシプランの実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695の「有効量」は、1回以上の摂取における1日当たり0.01mg〜10mg/kg体重の用量、好ましくは1回以上の摂取における1日当たり0.05mg〜5mg/kg体重の用量、更に好ましくは1回以上の摂取における1日当たり0.1mg〜1mg/kg体重の用量に相当する。特に好ましい方法では、ミルナシプランの実質的に純粋な右旋性鏡像異性体F2695の有効量は、治療の開始時には25mg/日であり、徐々に増加して4〜5日後にF2695 75mg/日に達する。
【0040】
経口投与に関しては、本発明による医薬組成物は単位用量または複数回用量で好都合に投与される。これらの投与形態は、当業者に知られている適当な医薬媒体を含む。
【0041】
本明細書で用いられる「単位用量」という用語は、カプセル、錠剤、ロゼンジ、丸薬、ゲルカプセル、顆粒剤、傾向懸濁液または溶液、または散剤のようなF2695の固形の医薬投与形態を含んでなる。適当な多数回用量での投与形態としては、特に飲用滴剤、エマルションおよびシロップが挙げられる。
【0042】
単位用量は、好ましくはF2695を25mgまたはF2695を50mgそれぞれ含む経口投与可能なカプセルである。
【0043】
ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695の放出は、あらゆる種類の制御放出生薬形態を用いることによって遅延および/または制御することができる。
【0044】
従って、本発明は、精神医学的障害、好ましくは鬱病の患者における自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させながら上記患者を治療するための薬剤として使用するための、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695を含んでなる医薬組成物にも関する。
【0045】
本明細書で用いられる「医薬組成物」という用語は、F2695と、場合によっては薬学上許容可能な賦形剤、添加剤、アジュバント、キャリヤーおよび/または希釈剤、例えば水、単糖類、二糖類、グリコール、油分またはそれらの混合物であって、場合によっては着色料、芳香剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤が活性成分F2695と適合性であるという条件で添加されるものとの固形混合物を含んでなる。
【0046】
本発明の医薬組成物を調製するため、適当量のF2695を、薬学上許容可能なキャリヤーであって、経口、鼻内、直腸、経皮または非経口注射による投与、好ましくは経口投与に望ましい製剤の形態によって多種多様な形態を取ることができるキャリヤーと緊密な混合物において組み合わせる。
【0047】
ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695は、上記障害の治療における少なくとも1種類の他の活性化合物、特に向精神薬を投与されている患者に同時に、別個にまたは時間をずらして投与してこのような薬剤によって誘発される自殺の危険性を制限するための薬剤として使用するのが好都合である。
【0048】
本発明の目的では、「自殺行動の危険性および自殺念慮を制限するしながら」または「自殺念慮の危険性を制限しながら」という表現は、ある薬剤、本明細書では向精神薬を投与した後に患者においてこれらの危険性が有意に増加するのを防止することを意味すると理解される。
【0049】
「向精神薬」という用語は、精神的活動を緩和することができかつその作用が中枢神経系および心理学的状態で本質的に発揮される天然または人工起源の物質を表すものと理解される。優先的には、上記向精神薬は抗鬱薬である。好ましくは、上記抗鬱薬は、選択的セロトニン再摂取阻害薬(SSRI)および他の現在用いられている抗鬱薬から選択される。
【0050】
好ましくは、SSRIおよび他の現在用いられている抗鬱薬は、ブポプリオン、シタロプラム、デュロテキシン、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルオボキサミン、ミルタザピン、ネファザドン、パロキセチン、セルトラリン、およびベンラファキシン、またはそれらの組合せから選択される。
【0051】
優先的には、本発明の目的は、自殺行動または自殺念慮の危険性を制限しながら精神医学的障害、特に鬱病の患者の治療を目的とする薬剤におけるミルナシプランの実質的に純粋な(1S,2R)右旋性鏡像異性体の使用であって、この薬剤が向精神薬、特に抗鬱薬、特にSSRIまたは同時に、別個にまたは時間をずらして使用される関連生成物としての他の現在用いられている抗鬱薬から選択される少なくとも1種類の化合物をも含むことを特徴とする使用も包含する。
【0052】
あるいは、本発明は、a)上記のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)右旋性鏡像異性体F2695と、b)SSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬から選択される少なくとも1種類の他の活性化合物とを含む生成物であって、自殺行動または自殺念慮の危険性を制限しながら精神医学的障害の治療用の薬剤として同時に、別個にまたは時間をずらして使用される組合せ化合物としての生成物を開示する。
【0053】
上記生成物は、医薬組成物であって、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695と精神医学的障害、特に鬱病の患者における自殺行動または自殺念慮の危険性を制限しながら、上記患者の治療に用いるための1または数種類のSSRIまたは関連抗鬱薬を含んでなる組成物に包含されることができる。好ましくは、 SSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬は、ブポプリオン、シタロプラム、デュロテキシン、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルオボキサミン、ミルタザピン、ネファザドン、パロキセチン、セルトラリン、およびベンラファキシン、またはそれらの組合せから選択された。患者は、好ましくは小児、青年、十代の若者(年齢18−24歳)または自殺行動または自殺念慮を有する患者から選択される。好ましくは、この組成物は、自殺行動または自殺念慮の危険性を減少させながら鬱病、特に深部鬱病、難治性鬱病、精神病性鬱病、インターフェロンによる治療によって誘発される鬱病、鬱状態、躁鬱病性症候群、季節性鬱状態、全般的健康状態に関連した鬱エピソード、気分変更物質に関連した鬱病の患者の治療に有用である。
【0054】
本発明の他の態様は、特に抗鬱薬治療の第一期においてSSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬による治療によって誘発される自殺の危険性を制限するための薬剤として用いられるミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体F2695である。
【0055】
本発明は、1または数種類のSSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬を投与された患者における自殺行動または自殺念慮の危険性を制限する方法であって、上記患者にミルナシプランの実質的に純粋な(1S,2R)右旋性鏡像異性体の有効量を含んでなる組成物を投与してなる上記方法でもある。
【0056】
上記のSSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬は、ブポプリオン、シタロプラム、デュロテキシン、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルオボキサミン、ミルタザピン、ネファザドン、パロキセチン、セルトラリンおよびベンラファキシン、またはそれらの組合せから選択される。
【0057】
最後に、本発明は、精神医学的障害の患者における自殺行動の危険性を制限する方法であって、a)上記のミルナシプランの実質的に純粋な右旋性鏡像異性体F2695とb)SSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬から選択される少なくとも1種類の他の活性化合物を投与することを含んでなり、上記生成物a)およびb)を同時に、別個にまたは時間をずらして投与することを特徴とする、方法を開示する。
【0058】
この方法は、抗鬱薬、例えばSSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬による治療中または後の自殺行動または自殺念慮を発現すると思われる患者、特に小児、青年または十代の若者(年齢18−24歳)または自殺行動または自殺念慮を既に有する患者に用いようとするものである。この方法は、上記のような精神医学的障害の患者に優先的に用いられる。
【実施例】
【0059】
実験手順
方法
これは、大鬱病性障害(MDD)の患者の治療におけるF2695の弾力的安全性適合用量(flexible safety adapted dose)の効力および安全性を評価する多中心の無作為化した二重盲験によるプラシーボをコントロールとする10週間の検討であった。
【0060】
この検討では、HAM−D 17得点>22によって評価したインクルージョン時間(inclusion time)における鬱病重篤度を有する大鬱病のDSM−IV基準を満たす563名の患者を登録した。
【0061】
患者を無作為化して、活性薬剤25または50mgを含む徐放性カプセルを用いて投与量を漸進的に増加させることによってプラシーボまたは弾力的安全性適合用量(flexible safety adapted dose)を投与した(プラシーボについては281名の患者およびF2695については282名の患者)。
【0062】
プラシーボ並びにF2695を、徐放性カプセルとして1日1回投与した。
【0063】
徐放性カプセルは、複数の小顆粒からなっており、それぞれはF2695を含むスクロースコア並びに結合剤としてのPVPを含んでなる活性小球を含み、それぞれの小顆粒は欧州特許第939 626号公報に記載のエチルセルロースのフィルムでコーティングされていた。プラシーボは、スクロースコアのみからなる小球を含む小顆粒の同じ徐放性カプセルからなっていた。
【0064】
用量は、初期投与(initial titration)についての10日間は用量拡大法で投与した。
【0065】
総ての患者に全部で10週間F2695またはプラシーボを投与した後、10日間の追跡期間中7日間の漸減投与(down titration)を行うように計画した。
【0066】
評価
F2695の安全性は、
・ICHガイドラインに分類されている有害事象の頻度および強度(患者のベースライン条件からの任意の望ましくない変化、すなわち任意の自覚的徴候および症状、または治療と考えられるまたは関係のないセレクション・ビジト(selection visit)に存在する随伴疾患の変化)
・MINI 0.5(改良型簡易国際精神疾患面接法)によって評価した自殺の危険性
によって評価した。
【0067】
F2695の効力は、
・MADRS総得点:ベースラインMMRM分析からの変化(全分析データセット)
・MADRS総得点:ベースラインMMRM分析からの変化(プロトコルデータセット当たり)
・70日目(治療期間の終了時)のプラシーボ群と比較した感応および緩解患者
によって評価した。
【0068】
安全性からの結果
下表1に、この研究の安全性の結果をまとめている。
【0069】
【表1】

【0070】
データの分析
上記結果は、検討条件下における抗鬱薬の効果およびF2695の自殺危険性に対する好都合な効果を強調している。
【0071】
6週間の治療および追跡調査中に、6名の患者(2.1%)はプラシーボ投与時に重大な自殺の危険性を示しているのに対して、F2695投与群では1名の患者(0.4%)である(表2)。
【0072】
【表2】


【0073】
この場合には、信頼区間[0.0196;1.3686]でオッズ比(OR)0.1637を計算することができた(ロジット法)。患者の大半について、自殺行動の出現は、治療によって出現する自殺行動の最大の危険性に相当する治療の最初の6週間以内に出現した。(「抗鬱薬および自殺行動の危険性」Hershel Jick, MD; James A. Kaye, MD. DrPH; Susan S. Jick. DSc JAMA. 2004;292:338-343)(PW=中止患者)。
【0074】
このオッズ比の弱点は小母集団で得られたことであるが、自殺危険性は鬱病の患者ではF2695投与によって著しく低下することを示している。
【0075】
自殺行為または自殺念慮の発生率は他の精神医学的障害と比較して大鬱病性障害(MDD)の徴候(indication)で最高であることが知られているので、この結果は、他の抗鬱薬(ブプロピオン、シタロプラム、エスシタロプラムおよびフルボキサミンなど)がその対プラシーボオッズ比は1を上回るので、自殺行動および自殺念慮を増加させる可能性があるという結果に繋がる報告書「抗鬱薬と自殺思考および行動に関する医薬品安全性監視作業グループ、2008年1月」www.hma.eu/uploads/media/PAR_suicidal_thoughts_in_antidepressants.pdfにまとめられているように、精神医学的障害(とりわけMDD)の患者による数回の試験で得られた結果と比較することができる。
【0076】
例えば、OR (ブプロピオン/プラシーボ)=1.41、OR(シタロプラム)=2.21、OR(エスシタロプラム)=1.57、OR(フルボキサミン)=1.37である。
【0077】
従って、他の抗鬱薬を鬱病患者に投与するときには自殺の危険性が増加する傾向があるが、F2695はこの危険性を制限しかつ低下させることさえある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神医学的障害の患者を治療し、治療の最初の3ヶ月間に患者の自殺行動の危険性を減少させることを目的とする薬剤として使用するための、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項2】
治療期間が治療の最初の6週間である、請求項1に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項3】
患者が小児、青年および18〜24歳の若年成人から選択される、請求項1または2に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項4】
患者が自殺行動を示す、請求項1〜3のいずれか一項に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項5】
精神医学的障害が、鬱病、双極性疾患、統合失調症、全般性不安、陰鬱および消耗状態、ストレス関連疾患、パニック発作、恐怖症、強迫性障害、行動障害、免疫系の低下、疲労および関連苦痛症候群、慢性疲労症候群、繊維筋痛症、および他の機能障害、自閉症、全般的健康状態による注意欠陥を特徴とする障害、多動による注意欠陥障害、摂食障害、神経性大食症、神経性食欲不振、肥満、精神病性障害、感情鈍麻、偏頭痛、苦痛、過敏性腸症候群、循環器疾患、神経変性疾患および関連不安抑鬱症候群(アルツハイマー病、ハンティングトン舞踏病、パーキンソン病)、尿失禁および薬物嗜癖から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項6】
患者が鬱病に罹っている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項7】
鬱病が、深部鬱病、難治性鬱病、精神病性鬱病、インターフェロンによる治療によって誘発される鬱病、鬱状態、躁鬱症候群、季節性鬱状態、全般的健康状態に関連した鬱エピソード、気分変更物質に関連した鬱病である、請求項6に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項8】
患者が1または数種類の選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)または他の現在用いられている抗鬱薬を投与される、請求項1〜7のいずれか一項に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項9】
SSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬が、ブポプリオン、シタロプラム、デュロテキシン、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルオボキサミン、ミルタザピン、ネファザドン、パロキセチン、セルトラリンおよびベンラファキシン、またはそれらの組合せから選択される、請求項9に記載のミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項10】
a)上記ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体と、b)SSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬から選択される少なくとも1種類の他の活性物質とを含む、精神医学的障害の治療に同時、単独または交互交替使用の目的で組み合わせた化合物としての生成物であって、
自殺行動の危険性を制限する、生成物。
【請求項11】
1または数種類のSSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬による治療によって誘発される自殺行動の危険性を制限するための薬剤として使用する、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体。
【請求項12】
精神医学的障害の患者を治療し上記患者の自殺行動の危険性を制限するための薬剤として使用するための、ミルナシプラン塩酸塩の実質的に純粋な(1S,2R)鏡像異性体と1または数種類のSSRIまたは他の現在用いられている抗鬱薬を含んでなる、医薬組成物。

【公表番号】特表2011−516604(P2011−516604A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504483(P2011−504483)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054673
【国際公開番号】WO2009/127737
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】