説明

魚卵含有加工食品

【課題】魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有する魚卵含有加工食品およびこれを用いた食品を提供することを課題とする。
【解決手段】
魚卵と、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物とを含有する魚卵含有加工食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有する魚卵含有加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タラコ等の魚卵を風味付けに用いたパスタソース、マヨネーズ、卵焼き等の加工食品が知られている。これらの加工食品は、食品工業的に製造される場合、保存性を高めるため、加熱殺菌等の処理が施されることが多い。しかしながら、魚卵は加熱殺菌処理等が施されると、魚卵特有の粒々とした好ましい食感が損なわれ易いという問題があった。
【0003】
また、別の問題として、タラコ等の魚卵は、天然資源であり供給が不安定であるため、安定した価格で、安定した量の確保が難しいということがあった。そのため、魚卵の含有量が少ない場合であっても、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有する加工食品を提供することが望まれている。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば特開2004−357653(特許文献1)には、タラコの粒々感や果肉粒のようなザラザラとした食感を付与する食感改良剤として、こんにゃく粉、糖類および澱粉を含み0.5〜2mmの細粒状に調整した乾燥こんにゃく加工品を含有する食感改良剤が提案されている。しかしながら、上記技術によっては、ザラザラとした食感は得られるものの、魚卵特有の粒々とした好ましい食感は得られなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−357653公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有する魚卵含有加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、この課題を達成するため、鋭意研究を行った結果、魚卵に加えて、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物を含有させるならば、意外にも魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有する魚卵含有加工食品が得られることを見出し、遂に、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち本発明は、(1)魚卵と、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物とを含有する魚卵含有加工食品、(2)加工卵粉砕物の大きさが0.01mm〜1mmである(1)記載の魚卵含有加工食品、(3)加工卵粉砕物の含有量が、魚卵1質量部に対して0.01〜40質量部である(1)または(2)記載の魚卵含有加工食品、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の魚卵含有加工食品は、加熱殺菌等の処理が施された場合であっても、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有するものである。また、タラコ等の魚卵は、天然資源であり供給が不安定であるため、安定した価格で、安定した量の確保が難しいということがあるが、本発明の魚卵含有加工食品は、魚卵の含有量が少ない場合であっても、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有するものである。したがって、本発明によれば、このような魚卵含有加工食品の需要拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明の魚卵含有加工食品は、魚卵を含有する加工食品であって、より具体的には、例えば、ソース、パスタソース、カルパッチョソース等のソース類、クリームスープ、トマトスープ等のスープ類、タマゴサラダ、スクランブルエッグ、オムレツ等のタマゴ加工食品、マヨネーズ、タルタルソース等の水中油型乳化食品、ソーセージ等の蓄肉加工食品、蒲鉾、ちくわ等の水産加工食品、おにぎりやお寿司の具等が挙げられる。
【0012】
本発明に用いる魚卵としては、タラ、マダラ、スケトウダラ、ニシン、飛魚、シシャモ等の腹子をバラしてあるもので、タラコ、明太子、トビッコ、数の子等として用いられているものである。用いる魚卵としては、生状のものでも乾燥物でも構わないが、風味の面より生魚卵を用いるのがよい。また、塩蔵や冷凍品も用いることができる。魚卵をバラ卵として用いるのは、魚卵特有のツブツブ感を呈するためで、魚卵を擂り潰さない程度にバラして用いるとよい。魚卵の種類にもよるが、スケトウダラやシシャモの腹子の場合、1mm目程度の網で濾してきょう雑物を取り除いて用いるとよい。
【0013】
本発明の魚卵含有加工食品は、上述した魚卵に加えて、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物を含有することを特徴とし、これにより、本発明の魚卵含有加工食品は、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有するものとなる。
【0014】
本発明において前記加熱凝固卵とは、鶏卵、鶉卵、家鴨卵等の鳥類の卵を加熱凝固したものである。加熱凝固卵を製する方法としては、殻付生卵をスチーム加熱や湯煎加熱により、80〜100℃で10〜30分間加熱して殻剥きする、いわゆる茹で卵を製する方法が挙げられる。また別の方法としては、殻を取り除いた液全卵、液卵黄、液卵白あるいはこれらの混合物からなる卵液をパウチやケーシング等に充填して、湯煎加熱やスチーム加熱等により80〜100℃で10〜60分間加熱する等して加熱凝固する方法等が挙げられる。本発明においては、これらの加熱凝固卵の中でも茹で卵を用いると、後述する凍結処理および粉砕処理により魚卵特有の粒々とした食感がより得られ易いので好ましい。
【0015】
また、本発明において凍結処理とは、加熱凝固卵を凍結状態とする処理であれば特に制限は無い。具体的には、例えば、加熱凝固卵を冷凍庫に凍結状態となるまで保管したり、急速凍結機を用いて凍結状態とする方法等が挙げられる。後述する粉砕処理を施す必要はあるが、加熱凝固卵に凍結処理を施すことにより、加熱凝固卵の食感を改質して、魚卵特有の粒々とした好ましい食感とすることができる。
【0016】
本発明において、このように凍結処理を施すことにより、加熱凝固卵の食感が改質されるのは、加熱凝固卵は、凍結状態となることで、凍結変性を起こすためである。凍結変性は、加熱凝固卵内部に氷結晶ができ、解凍したときにその氷結晶が溶けて離水し、結果として解凍後の加熱凝固卵が海綿状になる現象である。加熱凝固卵の凍結変性は、加熱凝固卵が凍結するまでの時間、あるいは、凍結後の保管期間の長さに影響を受ける。凍結するまでの時間が長い緩慢凍結であるほど、また、凍結後の保管時間が長いほど、凍結変性の程度が強くなる。したがって、本発明においては、適度に凍結変性を起こして魚卵特有の粒々とした好ましい食感が得られる程度に加熱凝固卵に凍結処理を施せばよいが、凍結するまでの時間が長かったり、凍結後の保管期間が長いと製造コストの増大につながることから、具体的には、例えば、加熱凝固卵をそのまま冷凍庫に保管して凍結処理を施す場合には、−30〜−5℃の冷凍庫に、1時間〜1週間程度保管すればよく、また、急速凍結機により凍結処理を施す場合には、−60〜−30℃程度の雰囲気温度で凍結処理後、−30〜−5℃の冷凍庫に1〜30日間保管すればよい。なお、凍結後の保管期間は長くてもよく、例えば凍結状態で2年間程度保管してもよいことはいうまでもない。
【0017】
本発明において粉砕処理とは、加熱凝固卵を粉砕する処理であれば特に制限はない。このような粉砕処理は、具体的には、例えば、コミトロール、サイレントカッター、フードカッター、マスコロイダー、チョッパー、パルパーフィニッシャー、ミキサー等の粉砕機等を用いて行うことができる。上述した凍結処理を施す必要はあるが、加熱凝固卵に粉砕処理を施すことにより、加熱凝固卵の食感を魚卵特有の粒々とした好ましい食感とすることができる。粉砕物の大きさは、魚卵特有の粒々とした好ましい食感が得られ易い点から、常法により粉砕処理条件を調整して1mm以下とすることが好ましい。また、小さすぎても魚卵特有の粒々とした好ましい食感が得られ難いため、粉砕物の大きさは、0.01mm以上とすることが好ましい。
【0018】
本発明においては、上述したように加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物を用いるが、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施す順序や回数は特に限定されない。具体的には、例えば、加熱凝固卵に凍結処理を施した後に粉砕処理を施してもよいし、また、加熱凝固卵に粉砕処理を施した後に凍結処理を施してもよい。更には、加熱凝固卵に順次、粉砕処理、凍結処理および粉砕処理を施してもよい。このように、加熱凝固卵に粉砕処理、凍結処理および粉砕処理を順次施す方法は、魚卵特有の粒々とした食感に大変良く似た食感が得られ特に好ましい。
【0019】
また、本発明の魚卵含有加工食品に用いる魚卵と前記加工卵粉砕物の含有比率としては、適度な魚卵の風味と、魚卵特有の粒々とした好ましい食感とが得られ易いことから、生換算した魚卵1質量部に対して加工卵粉砕物が好ましくは0.01〜40質量部、より好ましくは0.1〜35質量部である。
【0020】
さらに、本発明の魚卵含有加工食品中の魚卵の含有量としては、風味や魚卵特有の食感を付与する程度に任意の含有量とすればよいが、目安としては生換算で製品に対して1%〜60%程度、コスト面を抑制する場合には1〜30%程度に含有量を抑えるとよい。また、本発明の魚卵含有加工食品における加工卵粉砕物の含有量としては、魚卵含有加工食品の種類等にもよるが、多すぎても卵の風味が強くなる傾向があり、また、少なすぎると魚卵特有の粒々とした好ましい食感が得られ難くなるので、好ましくは1〜40%、より好ましくは5〜35%であるとよい。
【0021】
本発明の魚卵含有加工食品には、上述した魚卵と、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物の他、任意の成分として、本発明の効果を損なわない範囲でショ糖、食塩等の各種調味料、澱粉、増粘多糖類、油脂、蛋白質等の他、野菜、蓄肉、魚介類等を含有させることができる。
【0022】
本発明の魚卵含有加工食品は、上述した魚卵と、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物とを含有させる他は、魚卵含有加工食品の一般的な製造方法に準じて製造させることができる。具体的には、まず、上述した魚卵と、加工卵粉砕物、その他必要に応じ、調味料、その他野菜等を用意する。次に、これらの原料を攪拌機付二重釜に投入し、攪拌混合する。攪拌混合は、魚卵の食感を保持するために、魚卵と加工卵粉砕物が潰されないように攪拌条件を調節しながら、行うとよい。また、この際、必要に応じて65〜100℃程度に加熱すると、後述する加熱殺菌処理を兼ねられる上に、魚卵の風味が増加し、更に、魚卵特有の粒々とした好ましい食感が得られ易く好ましい。
【0023】
得られた本発明の魚卵含有加工食品は、容器詰めし、チルド、常温、あるいは冷凍品として流通させる製品とすることができる。ここで、本発明の魚卵含有加工食品は、加熱殺菌処理が施された場合であっても、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有するものであることから、本発明は、加熱殺菌処理が施された魚卵含有加工食品においてより好適に実施できる。前記加熱殺菌処理としては、魚卵含有加工食品を製造する際の加熱処理や、魚卵含有加工食品を製造後、容器詰めする前に行う加熱殺菌処理、更には、容器詰め後に行う加熱殺菌処理等が挙げられる。加熱殺菌温度としては、殺菌効果が得られる温度であれば、特に制限はないが、品温が好ましくは65℃以上に達温する温度とすればよい。なお、前記加熱殺菌処理は、100℃を超える温度に加熱する加圧加熱殺菌処理であってもよい。このような場合、レトルトパウチ等の容器に充填密封し、レトルト釜で100℃を超える温度に加圧加熱殺菌すればよい。あるいは、容器に充填する前に100℃を超える温度に加圧加熱殺菌した後、これを無菌的に容器に充填密封してもよい。さらに、前記加熱殺菌処理は、より魚卵特有の粒々とした好ましい食感を得るためには、より好ましくは、品温が70〜90℃に達温するように加熱殺菌するとよい。
【0024】
前記本発明の魚卵含有加工食品に用いる容器としては、食品用に用いられ細菌等の侵入を防ぎ、密封できるものであれば、特に制限はない。材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の単層材料、より好ましくは、酸素透過性の低いエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、塩化ビニリデン(PVDC)、アルミニウム、その他のガスバリア材料とポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)とからなる多層材料等をあげることができる。また、容器形状としては、パウチ等の袋状容器の他、一端に蓋付きの口部を有するチューブや小袋等とすることもできる。口部の形状や大きさについても、魚卵含有加工食品を、押し出すことができる限り特に制限はなく、例えば、丸型、矩形、星型等とすることができる。
【0025】
以上のようにして得られた本発明の魚卵含有加工食品は、加熱殺菌等の処理が施された場合であっても、魚卵特有の粒々とした好ましい食感を有するものである。また、タラコ等の魚卵は、天然資源であり供給が不安定であるため、安定した価格で、安定した量の確保が難しいということがあるが、本発明の魚卵含有加工食品は、このような魚卵の含有量を少ない場合であっても、魚卵特有の粒々とした好ましい食感が有するものである。
【0026】
以下、本発明の魚卵含有加工食品について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
MSサイズの鶏卵を用意し、95℃で15分間スチーム加熱して凝固した後、4℃に冷却して殻を剥いて茹で卵を得た。得られた茹で卵をポリエチレン製の袋に充填密封し、−20℃の冷凍庫に1週間保管して凍結処理を行った。続いて、凍結処理した茹で卵を解凍後、フードカッターで粉砕処理を行い、凍結処理および粉砕処理が施された加工卵粉砕物を得た。得られた加工卵粉砕物は大きさが0.05〜1mmであった。
【0028】
次に、得られた加工卵粉砕物25g、業務用として市販されている冷凍ばらこを解凍したもの10gおよびマヨネーズ(キユーピー(株)製、マヨネーズ205)65gを攪拌混合した後、ナイロンとポリエチレンの積層フィルムからなるパウチに充填密封した。続いて、これを75℃のボイル槽に浸漬して25分間加熱し、品温が75℃に達温するように加熱殺菌を行った後、冷却して、本発明の魚卵含有加工食品であるタラコマヨネーズを得た。なお、加工卵粉砕物の含有量は、魚卵1質量部に対して2.5質量部であった。また、魚卵および加工卵粉砕物の含有量は、製品に対してそれぞれ10%および25%であった。
【0029】
[実施例2]
まず、実施例1と同様にして、茹で卵を得た。次に、この茹で卵を粉砕機(アーシェル(株)製、コミトロール、212ブレード)により粉砕処理を施した後、ポリエチレン製のパウチに充填密封し、−20℃の冷凍庫に1週間保管して凍結処理を行った。続いて、凍結処理した茹で卵を解凍後、フードカッターで粉砕処理を行い、凍結処理および粉砕処理が施された加工卵粉砕物を得た。得られた加工卵粉砕物は大きさが0.01〜0.9mmであった。
【0030】
次に、得られた加工卵粉砕物を用いた他は、実施例1と同様の方法にて、本発明の魚卵含有加工食品であるタラコマヨネーズを得た。なお、加工卵粉砕物の含有量は、魚卵1質量部に対して2.5質量部であった。また、魚卵および加工卵粉砕物の含有量は、製品に対してそれぞれ10%および25%であった。
【0031】
[比較例1]
まず、実施例1と同様にして、茹で卵を得た。次に、得られた茹で卵にフードカッターで粉砕処理を行い、粉砕処理が施された加工卵粉砕物を得た。得られた加工卵粉砕物は大きさが0.1〜1mmであった。続いて、実施例1において、加工卵粉砕物としてこの粉砕処理のみが施された加工卵粉砕物を用いた他は、実施例1と同様にして、比較品1を得た。
【0032】
[試験例1]
実施例1および2、並びに比較例1で得られた魚卵含有加工食品をそれぞれ4℃で2日間保管した後、試食試験を行った。なお、試食試験は、下記対照品を製し、これと比較することにより行った。結果を表1に示す。
【0033】
<対照品>
実施例1において、加工卵粉砕物を配合せず、その減少分は、マヨネーズの配合量を増やして補正した他は、実施例1と同様にして、対照品を得た。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より、凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物を用いた実施例1および実施例2の魚卵含有加工食品は、対照品よりも魚卵特有の粒々とした食感で、全体として魚卵の具材感が感じられ、好ましい魚卵含有加工食品であることが理解できる。さらに、加熱凝固卵に順次、粉砕処理、凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物を用いた実施例2は、実施例1よりも魚卵によく似た食感であり、大変好ましいことが理解できる。これに対して、凍結処理を施していない加工卵粉砕物を用いた比較品1は、粒々とした食感が感じられず、対照品とも異なる食感であることが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚卵と、加熱凝固卵に凍結処理および粉砕処理を施した加工卵粉砕物とを含有することを特徴とする魚卵含有加工食品。
【請求項2】
加工卵粉砕物の大きさが0.01mm〜1mmである請求項1記載の魚卵含有加工食品。
【請求項3】
加工卵粉砕物の含有量が、魚卵1質量部に対して0.01〜40質量部である請求項1または2記載の魚卵含有加工食品。

【公開番号】特開2008−131915(P2008−131915A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321733(P2006−321733)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】