説明

魚皮の前処理方法

【課題】 魚皮より色、臭いの気にならないコラーゲン原料を得る方法を提供する。
【構成】 魚皮より色、臭いの気にならないコラーゲン原料を得るための方法であって、魚皮を水と混合した有機溶媒あるいは塩溶液のいずれか、あるいは組み合わせによってコラーゲン組織の膨潤を抑え、更にアルカリ性の条件下酸化剤を作用させる工程を含むことを特徴とする魚皮の前処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚皮よりコラーゲンを利用する際の魚皮の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
狂牛病(BSEとも記載する場合もある)の発生あるいは宗教上の理由から、化粧品分野、医療分野等の製品の原料として用いられるコラーゲンについて、哺乳類以外を由来とする、具体的には魚類を由来とするコラーゲンが好まれる場合がある。
従来の哺乳動物の場合にはコラーゲン抽出の原料として真皮層、アキレス腱等が用いられ、一方魚類の場合には魚皮が原料として用いられる。哺乳動物では真皮層、アキレス腱等がある程度の厚み、容積を持つために他の組織の混入を予防することが容易で原料組織を純粋に採取する事が出来るのに対し、魚類の場合には通常魚肉を採取した後の魚皮が原料として用いられる。魚皮にはコラーゲンを多量に含む真皮の他に、表皮、鱗等の組織・器官が含まれるために魚皮より真皮のみを分ける作業が必要となるが、原料とする真皮が薄く取り難い上に、表皮は着色していることが多く、この着色部が混入することによって、最終物であるコラーゲンに着色した異物が混入する及び臭いが残るという問題が生じるため、原料組織の単離に問題があった。
そのために先行文献にも見られるように、魚皮よりコラーゲンを取るためには、脱臭、脱色を目的に前処理を行い出来る限り表皮等の他の組織を除き、真皮のみとする前処理が不可欠な工程であった。
特許文献1には生魚の皮から高品質のゼラチンゲルを得るために、水による皮の洗浄、酸による処理、酸性pHにおける熱抽出を含む工程が開示されている。
特許文献2には原料である魚皮をエタノールにより繰り返し洗浄することにより抽出されるコラーゲンの色と臭いを除去する工程が開示されている。
しかしこれらの方法はコラーゲンではなくゼラチンの製造に関する内容、あるいはコラーゲン製造であっても十分な効果が得られない、有機溶媒の使用による危険性等の課題が残っていた。
【特許文献1】特願平11-367525号公報
【特許文献2】特願平11−62211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明では、魚皮より出来る限り単純で危険のない方法によって臭い、色の無いコラーゲン原料を得るという課題を解決するための前処理方法の開発を目標とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、前処理として水と混合した有機溶媒あるいは塩溶液のいずれか、あるいは組み合わせによってコラーゲン組織の膨潤を抑え、更にアルカリ性の条件下酸化剤を作用させることで魚皮より色、臭いを取ることができ、魚皮に含まれるコラーゲンを容易に利用できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は、魚皮より色、臭いの気にならないコラーゲン原料を得るための方法であって、魚皮を水と混合した有機溶媒あるいは塩溶液もしくはこれらを組み合わせた溶液によってコラーゲン組織の膨潤を抑え、更にアルカリ性の条件下酸化剤を作用させる工程を含むことを特徴とする魚皮の前処理方法であり、その際、酸化剤としてH2O2あるいはオゾンを用いることが好ましく、また、有機溶媒としてメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール、アセトンから選ばれることが好ましく、更に、ホウ素化水素ナトリウム、リチウムアルミニウムハイドライドから選ばれる還元剤による処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明は単に、魚皮を水と混合した有機溶媒あるいは塩溶液もしくはこれらを組み合わせた溶液に浸漬してコラーゲン組織の膨潤を抑え、アルカリ性の条件下酸化剤を作用させるという簡単な工程によって着色もしくは魚臭の少ない、コラーゲン原料の魚皮を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で用いることが出来る魚種には特に制限はなく、淡水魚、海水魚のいずれにも使用が可能である。また寒流系、暖流系のいずれの魚種であっても本発明が適応される。また養殖等によって大量に得られる魚種が望ましく、具体的にはマグロ、イズミダイ(ティラピア)、コイ、ナイルパーチ、サケ、シタビラメ、タイ、サバ、チャネル・ナマズ等を挙げることができる。
使用する魚皮としては魚肉を剥離した後の皮が使用され、新鮮であっても凍結品あるいは塩付け、石灰付け等の処理が施されていても、コラーゲンの構造が保持されている真皮を有していれば使用することが出来る。また魚皮は剥いだままであっても小片に切った後でも用いることができる。
【0007】
本発明の処理の前に魚皮を水、あるいは0.5%程度の重曹水よる洗浄を行う。水洗の終わった魚皮を水に入れた後に、水と混合する有機溶媒あるいは水に溶解する無機塩を加える。これらを水に加えることによって、魚皮の膨潤を抑えることができる。具体的な有機溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール等を挙げることができる。また無機塩としては塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等を挙げることができる。なお塩溶液を使用する場合に、同時に界面活性剤を併用し効果を高めることも可能である。
加える有機溶媒の量は水との混合後、全量に対して10〜80重量%加えることができ、更には30〜60重量%が望ましい。また加える無機塩の量としては、出来る限り飽和以上の塩を含む溶液が望ましい。
混合あるいは溶解した有機溶媒混合水溶液あるいは塩水溶液に原料となる魚皮を加える。溶液は全量の魚皮が十分に浸る量で有れば問題はない。この溶液に魚皮を入れる。
【0008】
次にこの溶液をアルカリ性にする。アルカリ性にするためにはアルカリ性の無機塩を加えることにより行われる。加える塩としては通常使用されるアルカリ性溶液を調製する際に使用される塩を用いることができ、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。加える量としては溶液のpHが10〜14の間であれば良い。
【0009】
次に酸化剤を加え酸化処理を行う。使用する酸化剤としては過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等を挙げることができる。これらの内、特に過酸化水素、オゾンは反応の後に酸化剤からの副産物が残ることが無く望ましい。加える酸化剤の量としては使用する酸化剤の種類によって変わるが、例えば過酸化水素であれば0.1%〜1%(g/L)が望ましい。
【0010】
このアルカリ性条件下での酸化剤処理によって魚皮の脱色、脱臭を行うことができる。この前処理は酸化剤によって魚皮の内、特に真皮内のコラーゲン分子に分子間架橋が導入され、架橋の導入されない着色成分、臭い成分を容易に除くことができると考えられる。本発明によって脱色、脱臭された魚皮を得ることができるために、この魚皮をそのまま加工することによって、各種コラーゲン製品を製造することが可能となり、従来のように魚皮より真皮のみを剥離し利用する必要が無くなった。
酸化剤による処理はコラーゲンが変性することが無い温度で行うことができるが、処理時間を短縮するためにはできるだけ高い温度による処理が望ましく、具体的にはその魚種のコラーゲンの変性温度より5〜10℃程度低い温度で行うことが望ましい。また処理時間は処理温度、酸化剤の種類、酸化剤の濃度等に依存する。例えば過酸化水素を0.5%g/Lを50%イソプロパノール溶液中で処理した場合、20℃以下で1〜3日間行うことが望ましい。なお処理中は魚皮をゆっくり攪拌する事が望ましい。
【0011】
処理が終了し色、臭いが除かれた魚皮を酸性の水溶液に入れ、機械的に粉砕することでコラーゲンの分散液を得ることができる。この際、pHはできる限り真皮の膨潤を抑えるpHであることが望ましく、pH5〜pH7の酸性が適当である。これは先の酸化剤処理の際にアルカリ性条件によって、コラーゲンの構成アミノ酸より脱アミンが起こるためにコラーゲンの等電点が下がることによるためで、天然型のコラーゲンの等電点がpH9付近から下がるために、酸性条件で魚皮の膨潤を抑えることができる。ここで用いられるpHは最も膨潤が起こらないpHに設定される。
このpHで例えばNaHSO3等を加えることによって、先の酸化剤処理から残留している酸化剤を分解することができる。なお残留については、例えば過酸化水素検出試薬等によって確認することも可能である。
【0012】
酸化剤による処理の前後のいずれか、あるいは前後ともにアルカリ蛋白質分解酵素処理あるいはホウ素化水素ナトリウム、リチウムアルミニウムハイドライド等還元剤による処理を行うことで、より着色、臭いの少ない魚皮を得ることが可能となる。例えば酸化剤処理の前にアルカリ蛋白質分解酵素処理を行うと、水洗でかなりの着色を取り除けるため酸化剤処理の時間を短縮ができる。また酸化処理の前後どちらでアルカリ蛋白質分解酵素処理を行うことで魚皮を構成する線維を軟らかくすることが可能となる。この蛋白質分解酵素処理工程はpH9〜11のアルカリ条件下、アルカリ蛋白分解酵素(例えばナガセケムテック(株)社製ビオブラーゼ等)により行うことで、線維の分散に優れより本発明の効果を明確にすることができる。また還元剤による処理によりコラーゲンに存在する可逆的な分子間架橋を化学的に還元し、この結合を不可逆的な結合とすることができ、魚皮の機械的な強度を高めることができる。その結果例えば本発明の前処理終了後に機械的粉砕を加えコラーゲン分散液を調製する場合、長い線維のコラーゲン分散液を得ることができる。
【0013】
前処理された魚皮は着色、臭いを持つこともなく、魚皮より表皮、真皮を分離する作業も不要となり容易に魚類由来のコラーゲンを利用することができる。
本発明によって得られた魚皮は乾燥後、あるいはそのままで目的の用途、形状に成形、調製される。例えばこの魚皮を機械的に粉砕しコラーゲン分散液を調製できる。これを用いてコーティング液、凍結乾燥の原液等の用途を挙げることができる。更に具体的には化粧品原料、化粧用スポンジ、生化学実験用材料、医療用途のスポンジ等の用途に用いることが可能である。
【実施例】
【0014】
以下に実施例により本発明を詳細に説明する。
実施例1
食用に魚肉を取り除かれた生皮(魚皮)1kg(イズミダイ)に対し、水1.1kgとイソプロパノール1.5kgを加え、魚皮に良く浸透させる。次に30w/v%NaOH溶液を185mlと30%H2O2を150ml加え25℃で1〜3日振盪する。
この処理により色が抜けていることを確認後、クエン酸と塩酸を併用してpHを5.0に調製する。ここにNaHSO3を適当量加えて残存しているH2O2を分解する。なお過酸化水素検出試薬にて、H2O2の残留を確認することが可能である。処理の終わった生皮をpH5.0の塩酸水もしくはクエン酸/クエン酸Na希釈液で洗浄し魚皮の前処理を終了する。得られた魚皮は色、臭いが無いコラーゲン材料であって、本魚皮を機械的に粉砕することでコラーゲン分散液を調製することが可能となる。
【0015】
実施例2
食用に魚肉を取り除かれた生皮(魚皮)1kg(イズミダイ)に0.5%重曹水3Lを加え、ビオブラーゼSP−15FG(アルカリプロテアーゼ、ナガセケムテックス)を1.5g加え、よく揉み込んでから25℃で2〜3時間振盪する。次にホウ素化水素ナトリウムを0.9g加える25℃で30分以上振盪する。処理終了後、魚皮をよく水洗する。この魚皮に水1.1kgとイソプロパノール1.5kgを加え、よく浸透させる。次に30w/v%NaOHを185mlと30%H2O2を12.7ml加え25℃で2〜4日振盪する。これ以降は実施例1と同様に処理し色、臭いが無い魚皮を得ることができる。
得られたコラーゲン分散液を凍結乾燥することによってコラーゲンスポンジを得ることができる。
またこのスポンジをプレスする事でコラーゲンシートを得る。
分散液をトレーに薄く広げそのまま風乾する事で、コラーゲンフィルムを得ることができる。また同様の方法によって容器内面にコラーゲンコートを行うことができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚皮より色、臭いの気にならないコラーゲン原料を得るための方法であって、魚皮を水と混合した有機溶媒あるいは塩溶液もしくはこれらを組み合わせた溶液によってコラーゲン組織の膨潤を抑え、更にアルカリ性の条件下酸化剤を作用させる工程を含むことを特徴とする魚皮の前処理方法。
【請求項2】
酸化剤としてH2O2あるいはオゾンを用いることを特徴とする請求項1項記載の魚皮の前処理方法。
【請求項3】
有機溶媒としてメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール、アセトンから選ばれることを特徴とする請求項1項記載の魚皮の前処理方法。
【請求項4】
ホウ素化水素ナトリウム、リチウムアルミニウムハイドライドから選ばれる還元剤による処理を行うことを特徴とする請求項4項記載の魚皮の前処理方法。


【公開番号】特開2006−213624(P2006−213624A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26842(P2005−26842)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)
【Fターム(参考)】