説明

魚肉加工食品の製造方法

【課題】 簡便な処理で、魚肉の生臭みを低減した魚肉加工食品を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 魚肉加工食品に対して、白酒、特に紹興酒の酒粕を蒸留して得た糟焼を添加することにより、魚臭が低減した魚肉加工食品(例えば、魚肉ハム、ナルト、蒲鉾、つみれ、魚肉ソーセージ、竹輪等)を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉の生臭みを低減させた魚肉加工食品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚貝類は、漁獲直後は比較的臭気は少ない。しかし、貯蔵中に微生物作用や自己消化により生体成分が徐々に分解され、低分子の揮発性成分が生成し生臭くなる。特に赤身魚は脂肪含量が高く、しかも高級不飽和脂肪酸が多いため、該脂肪酸の酸化分解による特有の臭いを生じやすい。魚臭成分は化学的性質から便宜的に1)揮発性含窒素化合物、2)揮発性脂肪酸、3)揮発性カルボニル、4)揮発性含硫化合物、5)非カルボニル中性化合物に大別されており、それらの成分が組み合わさった複合的な化合物群を我々は魚臭として敏感に感知している。
【0003】
また、近年の加工食品のバラエティー化の中で、魚臭さ、貝臭さ、磯臭さに代表されるような魚貝類特有の不快臭、いわゆる魚臭は嫌われる傾向にあり、商品開発のために魚臭を抑制する方法もしくは魚臭をマスキングする素材の提案が強く望まれている。
【0004】
魚臭の原因の一つと言われているトリメチルアミンやジメチルアミン等の有機アミンは魚肉採取後、速やかに真空包装、急速凍結を行っても、保存中および料理や加工の際に自然に発生しなかなか抑えることが困難である。このように魚臭は、冷凍技術だけで抑えることはできるものではなく、逆に冷凍することで冷凍特有の臭気、いわゆる冷凍臭がつき、結果として消費者からのクレーム発生要因の一つにもなっている。
【0005】
一般に臭気を低減させる方法として、臭いの成分を脱臭剤の分子空洞内に包み込んでしまう方法、臭い成分を他の物質に変化させる方法、臭い成分の発生源を抑制させてしまう方法、異種の臭いによってマスキングしてしまう方法などが用いられているが、食品については、最後に述べた方法が頻繁に用いられている。
【0006】
魚肉の生臭みを異種の臭いによりマスキングする方法として、生姜、葱、胡椒や香辛料を使用することが昔ながらの知恵として知られている。特許文献としては、有香野菜と緑茶を組み合わせた鰯肉の消臭剤(例えば特許文献1参照)、脂溶性ジンジャーフレーバーによる魚臭のマスキング方法(例えば特許文献2参照)、シャロットおよびオニオンを含水アルコールで抽出したペースト状抽出物による魚臭のマスキング方法(例えば特許文献3参照)等が提案されている。しかしながら、未だ十分なものではなく、魚臭のマスキング効果を有し、かつ、素材の美味しさを引き立てるような方法の開発が望まれている。
【0007】
また、魚肉等の調理の際に、酢、清酒、みりん等を使用することも昔から知られている。しかし、手軽に実施できる方法として汎用性はあるものの、酢、清酒、みりん等の魚臭へのマスキング効果は弱く、効果を高めるために使用量を増やすと逆に味のバランスがくずれるという欠点がある。
【0008】
特許文献としては、例えば、クエン酸やコハク酸含量を増やした料理酒によるトリメチルアミンなどの臭抑制効果(例えば特許文献4参照)、老酒を含む調味液による魚肉のマスキング方法(例えば特許文献5参照)等が記載された例を挙げることができる。しかし、酢、清酒、みりんなどよりはマスキング効果は改善されてはいるが、これらの方法による魚臭のマスキング効果はまだ満足できるものではなかった。このように清酒、ワイン、老酒等の醸造酒を応用したマスキング方法では、魚臭を抑制する香気成分や他成分の含量が少なく満足できる効果を出せるまでには至っていない。
【0009】
【特許文献1】特開平1-312982号公報
【特許文献2】特開平6-189717号公報
【特許文献3】特開2004-357648号公報
【特許文献4】特開2003-310204号公報
【特許文献5】特開2002-125627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、素材の美味しさを残しながら、魚肉の生臭みを低減させた魚肉加工食品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、白酒を魚肉加工食品に添加、使用することで、前記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)魚肉の生臭みを低減した魚肉加工食品の製造方法であって、原料となる魚肉に白酒を添加することを特徴とする魚肉加工食品の製造方法、
(2)白酒が、糟焼である(1)記載の方法、
(3)魚肉加工食品に対して、白酒を0.05〜10.0重量%添加することを特徴とする(1)記載の方法、
(4)魚肉加工食品に対して、白酒を0.1〜5.0重量%添加することを特徴とする(1)記載の方法、を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明における魚肉加工食品とは、魚類だけでなく貝類をも加工した食品をいい、例えば、魚肉ハム、ナルト、蒲鉾、つみれ、魚肉ソーセージ、竹輪等を挙げることができる。魚肉加工食品の原料となり得る魚類、貝類は、特に制限はないが、一般に生臭みの強い赤身魚であるカツオ、イワシ、サバ、サンマ等に対して本発明の方法を好適に適用することができる。また、貝類としてはアサリ、ホタテ、シジミ、ハマグリなどに適用することができる。
【0014】
本発明において用いる白酒(パイチュウ)とは、中国産の蒸留酒の総称である。その例としては、高粱(コウリャン)、米、小麦、豆類などを原料とする一般に無色透明な蒸留酒である、芽台酒(マオタイシュ)、五粮液(ゴリョウエキ)、汾酒(フンシュ)、糟焼(ツァオシャオ)などを挙げることができる。白酒は、蒸留酒であるため、醸造酒よりも魚臭を抑制する香気成分や他成分が多く含まれている。白酒の中で、特に本発明の目的に好適なものとして、紹興酒の酒粕を蒸留して得た糟焼を挙げることができる。
【0015】
これら白酒の使用方法は、魚肉加工時に嗜好や用途に合わせて添加すればよく、限定はないが、魚肉のすり身に適用するときには、魚肉すり身に対して白酒を0.05〜10.0重量%、より好ましくは0.1〜5.0重量%添加し、よく混練すればよい。添加量が0.05重量%未満であると添加した効果、すなわち魚臭の低減効果が低くなり、また10.0重量%を超えると白酒の風味が表に表れてくることがあり、いずれも好ましくはない。
【0016】
また魚肉切り身等の生臭みを低減させるには、白酒を0.2〜10.0重量%含む液に浸漬させることにより目的を達成することができる。また、これら白酒は、単独で使用するだけでなく、塩、醤油、糖、みりん、醗酵液などを適当な割合で含む調味液にして使用することもできる。
【0017】
以上述べたとおり、本発明により、魚肉の生臭みを低減させる効果に優れた魚肉加工食品の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
イトヨリダイの冷凍すり身250gをミキサーで20秒攪拌した後、塩6.5gと氷水33.3gを加え混合してペースト状態のすりみを試作した。そこに、氷水33.3gと各検体(白酒、老酒、清酒、原料アルコール)をそれぞれ同量添加し再混合したあと団子状にしてボイルすることで魚肉団子を試作した。使用した各検体のアルコール濃度(%V/V)は次のとおりである。白酒(50%V/V)、老酒(16%V/V)、清酒(15.5%V/V)、原料アルコール(16%V/V)。対照として水を用いた。各検体を用いた配合を表1に示す。なお、用いた白酒は糟焼である。
【0020】
【表1】

【0021】
上記で試作した魚肉すり身団子の魚臭の官能評価をそれぞれ行った。その官能評価の結果を表2に示す。官能評価の結果は、◎:魚肉の生臭みが全くない、○:魚肉の生臭みがほとんどない、△:魚肉の生臭みがわずかにある、×:魚肉の生臭みが強くある、を意味する。
【0022】
【表2】

【0023】
表2の結果より、白酒(A)の添加で魚肉の生臭みが改善されたことがわかる。老酒(B)においても魚肉の生臭みの低減効果は認められるが白酒と比較すると効果が十分でない。清酒(C)は魚臭低減効果が弱く、原料アルコール(D)は魚肉の生臭みは低減されたが代わってアルコール特有の香りが強くあらわれ、風味のバランスに欠けた。
【0024】
実施例2
市販のイカの塩辛に対し、実施例1の白酒を0.1重量%添加したところ、他の検体(水、老酒、清酒、原料アルコール)を同量添加した場合に比較して原料由来の生臭さが抑えられ、素材の美味しさが引き立つ、美味しいものになった。
【0025】
実施例3
市販のアサリスープに対し、実施例1の白酒を0.1重量%添加したところ、他の検体(水、老酒、清酒、原料アルコール)を同量添加した場合に比較して原料由来の生臭さが抑えられ、素材の美味しさが引き立つ、美味しいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、魚肉の生臭みが改善された魚肉加工食品の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉の生臭みを低減した魚肉加工食品の製造方法であって、原料となる魚肉に白酒を添加することを特徴とする魚肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
白酒が、糟焼である請求項1記載の方法。
【請求項3】
魚肉加工食品に対して、白酒を0.05〜10.0重量%添加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
魚肉加工食品に対して、白酒を0.1〜5.0重量%添加することを特徴とする請求項1記載の方法。