説明

鰹を原料とする本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法

【課題】 鰹を原料として、加工期間が短縮された本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法を提供する。
【解決手段】
1.鰹を切り下ろしする工程、
2.切り身下ろしした魚肉片を煮熟する工程、
3.煮熟された魚肉片を冷却する工程、
4.冷却された魚肉片を2回以上焙乾する工程、
5.前記節をフレーク状に分断してフレーク状焙乾物を得る工程、
6.前記5工程で得られたフレーク状焙乾物を更に焙乾する工程、
7.焙乾されたフレーク状の荒節タイプの焙乾物に鰹黴を植菌する工程、
8.植菌されたフレーク状の荒節タイプの焙乾物を培養する工程、
9.前記8工程で得られたフレーク状の焙乾物を日乾又は加熱乾燥する工程、
という各工程を順に施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鰹を原料とする本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鰹原料とする本枯節の鰹節は、従来、図2のブロック図で示されるような製造工程を経て、次のように製造されている。
a.冷凍鰹を解凍した原料鰹又は生鰹を水洗いして頭、腹身(腹部の肉)、内臓、背鰭を除去した後、三枚に下ろし、魚体が大きい場合には、更に背肉(雄節)と腹肉(雌節)と身割りすることによって魚を切り下ろしする。
【0003】
b.このように切り下ろしした水分70%程度の肉片を煮熟用のかご(煮かご)に並べ(かご立て)、煮熟する。この煮熟では一般に水蒸気による間接加熱方式が採用され、目安として85℃程度の温度で煮熟釜に魚肉を投入して、70ないし90分間水蒸気に曝さす。
c.煮熟終了後、煮熟釜から煮かごを取り出して煮熟肉を放冷する。
【0004】
d.場合により、水を入れた容器(通常たらいまたは桶)に水分80%前後の煮熟肉を移し、肉片を片手に持ちながら、水の浮力を利用して肉片が割れないように注意しながら、各肉片から骨の一部や皮を取り去る。
e.骨抜きが済んだ肉片をせいろに並べて、薪が燃やされている窯(手火山)の上に置いて、肉片を1時間位熱気と煙に曝して焙乾し、節全体の水分を除去して(水切り焙乾または一番火)なまり節とした後、少なくとも1回更に焙乾する。この焙乾には、手火山の代わりに、大型燻煙庫である急造庫または燻煙乾燥機が用いられる場合もある。
【0005】
f.場合により、取り残した小骨をなまり節から抜き取る。
g.場合により、煮熟肉と生肉とを擂り潰し、混合し、そして裏漉ししてできた練り肉を骨抜き時に生じた傷や煮熟時に生じた湯流れ部分に擂り込んでなまり節を整形する(修繕)。
h.場合により、修繕を終えた節を再びせいろに並べて焙乾する(二番火)。二番火以降は、1日5〜6時間位焙乾して火から下ろして、夜間に放置(安状)し、三番火、四番火、・・・と焙乾が進んで節が締まって小さくなるにつれて火力を弱くするとともに時間を短縮して、節の水分を徐々に飛ばす。
【0006】
i.二番火以降の操作を10〜20日間位繰り返して、水分約25%の荒節とする。
j.荒節の表面に付着したタール分を落とし、表面を滑らかにして(削り)、裸節とする。
k.裸節を2〜3日間日に当てて乾かした(日乾した)後、この裸節を室温約27℃及び相対湿度85〜88%程度に保たれた黴付け庫に入れて10〜15日間ほど放置して、節の中心部の水分を減少させるとともに、節の中の脂肪を分解させる。
【0007】
l.上記のようにして黴(一番黴)の生じた節を黴付け庫から取り出して1〜2日間日乾した後、表面の黴を刷毛で払い落とす。
m.上記と同様に節を再び黴付け庫に入れて15〜20日間後に取り出し、一番黴の場合と同様に日乾して黴を払い落とす。
n.以上のような黴付け操作を通常4〜5回繰り返して(二番黴、三番黴、・・・)、水分約13〜15%程度の本枯節の鰹節とする。
このような従来方法によれば、本枯節の鰹節を製造するには、半年乃至1年という長い月日が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記のような長い期間をかけずに、短期間で本枯節の鰹節に匹敵するような醗酵調味料の製造方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の状況に鑑みて種々研究を重ねた結果、
上記の黴付け工程の前に、焙乾された節をフレーク状に分断し、ついでこのフレーク状に分断された節に鰹黴を植菌して培養すると、従来の本枯節の鰹節を製造する場合は6ヶ月〜1年を要したのに比べ、20〜30日程度の極めて短い期間で本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料が製造できることを見い出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて発明されたもので、下記の鰹を原料とする本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法である。
[1] 鰹を原料とする本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法であって、
1.鰹を切りおろしする工程、
2.切りおろしした魚肉片を煮熟する工程、
3.煮熟された魚肉片を冷却する工程、
4.冷却された魚肉片を2回以上焙乾する工程、
5.前記の節をフレーク状に分断してフレーク状焙乾物を得る工程、
6.前記第5工程で得られたフレーク状焙乾物を更に焙乾して荒節タイプの焙乾物にする工程、
7.焙乾されたフレーク状の荒節タイプの焙乾物に鰹黴を植菌する工程、及び
8.植菌されたフレーク状の荒節タイプの焙乾物を培養する工程、
9.前記第8工程で得られたフレーク状の焙乾物を日乾又は加熱乾燥する工程、
の各工程を順に施すことを特徴とする、前記方法。
[2] 前記[1]記載の鰹を原料とする本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法において、第7〜9の工程を複数回繰り返して行うことを特徴とする、前記方法。
[3] 前記第4の焙乾工程の前又は後の時点で、骨又は皮又はこの両者の除去の処理を加える、前記[1]又は[2]に記載の前記方法。
[4] 前記第2工程における煮熟が、96〜98℃の温度で60〜120分間行われる、前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の前記方法。
【0011】
[5] 前記第6の焙乾工程において、フレーク状の焙乾物が最終的に20〜35%の水分含有量まで乾燥される、前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の前記方法。
[6] 前記第7の植菌工程で用いられる黴がEurotium repens IFO4885又はEurotium rubrum IFO7712である、[1]〜[5]のいずれかに記載の前記方法。
[7] 前記第8の培養工程の期間が4〜10日である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の前記方法。
【発明の効果】
【0012】
以上述べた説明から明らかなように、本発明によれば、従来の本枯節の鰹節を製造する場合に要する半年乃至1年という長い期間に比べ、20〜30日程度という極めて非常に短縮された期間で、従来の本枯節の鰹節に匹敵する品質を具えた本枯節タイプの醗酵調味料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明によって、鰹を原料とそて本枯節タイプの醗酵調味料を製造する典型的な実施の形態を図1のブロック図に示される工程順に沿って述べる。
生鰹を切りおろしして(工程1)、その切りおろしした魚肉片を煮熟し(工程2)、そしてこの煮熟された魚肉片を冷却する(工程3)までについては、本発明は前述の従来方法の場合と変わりがない。
【0014】
工程3で冷却された魚肉片は2回以上焙乾した節にする(工程4)が、そのうちの各1回の焙乾時間は一般に2〜5時間くらいが適当であり、この工程4における焙乾の回数を本発明で2回以上と規定したのは、(1)鰹の生臭さをなくすため、(2)有害な微生物の繁殖を防ぐため、さらに(3)鰹黴が生えやすい条件をつくるためという理由による。
特に、工程6の焙乾によって、生臭さのなくなった鰹節本来のもつ風味の節が得られる。
【0015】
工程5において節をフレーク状に分断するには適宜な方法が用いられ、例えば、フレーカー、サイレントカッターなどの缶詰中のフレークを作る装置によって節を分断することができる。
このフレークは一般に長さ2〜7.0cm、幅0.5〜5.0cm及び厚さ0.5〜1.0cmあるいは0.2〜0.5cm程度の寸法であるのが好ましい。特に、このような厚み寸法よりも大きなフレークでは黴の生育に不揃いが生じ、全体として同時進行しにくくなり、一方、上記厚み寸法よりも小さなフレークでは水分が飛び易く、鰹黴がうまく生育しにくくなるからである。
【0016】
工程5で得られたフレーク状の焙乾物は、工程6において1回または2回以上焙乾されることによって、フレーク状の荒節状態の焙乾物になる。この場合の各1回の焙乾時間は一般に0.5〜3.0時間くらいが適当であり、その回数は一般に1〜3回くらいが適当である。
【0017】
上記の焙乾としては、従来技術による方法を採用することができ、例えば、せいろに入れた節を手火山の上に置いて節を熱気と煙に例えば1〜2日間曝すことによって遂行され、この焙乾によって、フレーク状焙乾物は一般に最終的には20〜35%の水分含有量まで乾燥される。
【0018】
前記工程7における植菌は、従来技術について述べた前記のような方法で遂行することができ、その黴としては、前述のような従来公知の鰹黴、特に好ましくはEurotium repens又はEurotium rubrum が用いられ、そして前記工程8における培養は一般に4〜10日間行われる。
このような一連の工程によって本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料が、20〜30日のような短期間で製造することができる。
【実施例】
【0019】
実施例を参照して本発明を説明するが、本発明は勿論このような実施例に限定されない。
実施例1
【0020】
原料魚として鰹を用いて、次のようにフレーク状醗酵調味料を製造した。
1.生鰹の切り下ろし
約7.2kgの解凍した鰹を三枚に切り下ろした。
2.煮熟
切り下ろされた魚肉片を煮かごに並べて、水蒸気を用いる間接加熱により魚肉片を煮熟釜で98℃の温度において90分間煮熟した。
【0021】
3.冷却
煮熟終了後、煮熟釜から煮かごを取り出して、魚肉片を気温25℃の雰囲気中に3〜4時間曝して放冷し、肉片に残っていた骨を抜き取った。
4.前段の焙乾
冷却した魚肉片に手火山を用いる2時間の焙乾(一番火)を施してから22時間の中止時間を経た後、4時間にわたる同様な焙乾(二番火)を施した。その後更に3回目の焙乾(三番火)を施した。
【0022】
5.焙乾した節の分断
上記の焙乾によって得られた節を手でほぐし、長さ2〜7cm、幅0.5〜5.0cmおよび厚さ0.2〜0.5cm程度の寸法を有するフレーク状の焙乾物の節を得る。
【0023】
6.後段の焙乾
フレーク状に分断された焙乾物に、上記の4工程の場合と同様な、手火山を用いる1時間の焙乾を3回繰り返すことによって、フレーク状の焙乾物を得た。このレーク状の焙乾物は27%の水分を含んでいた。
【0024】
7.植菌
前記のフレーク状の荒節状態の焙乾物にEurotium repens IFO4885を植菌した。
【0025】
8.黴の培養
植菌されたフレーク状の荒節状態の焙乾物を、30〜40℃で7日間培養した。
9.日乾
前記8工程で得られた鰹黴の繁殖した焙乾物を4時間日乾をして、本枯節タイプの醗酵調味料1200gを製造した。
製造されたこの調味料は、グルタミン酸の含有量が従来の本枯節の鰹節の5〜6倍含有し、また、製造期間は25日間であって、従来の本枯節の鰹節を製造する場合の1/7〜1/13に短縮された。そして、従来の本枯節の鰹節と同様に、優れた調味料として使用することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による本枯節タイプの醗酵調味料の製造方法を工程順に示すブロック図である
【図2】本枯節の鰹節を製造するための従来方法を工程順に示すブロック図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鰹を原料とする本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法であって、
1.鰹を切りおろしする工程、
2.切りおろしした魚肉片を煮熟する工程、
3.煮熟された魚肉片を冷却する工程、
4.冷却された魚肉片を2回以上焙乾する工程、
5.前記の節をフレーク状に分断する工程、
6.前記5で得られたフレーク状焙乾物を更に焙乾して荒節タイプの焙乾物にする工程、
7.焙乾されたフレーク状の荒節タイプの焙乾物に鰹黴を植菌する工程、及び
8.植菌されたフレーク状の荒節タイプの焙乾物を培養する工程、
9.前記の黴付けされたフレーク状の節を日乾又は加熱乾燥する工程、
の各工程を順に施すことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の鰹を原料とする本枯節タイプのフレーク状醗酵調味料の製造方法において、第7〜9の工程を複数回繰り返して行うことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項3】
前記第4の焙乾工程の前又は後の時点で、骨又は皮又はこの両者の除去の処理を加える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程における煮熟が、96〜98℃の温度で60〜120分間行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第6の焙乾工程において、荒節が最終的に20〜35%の水分含有量まで乾燥される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第7の植菌工程で用いられる黴がEurotium repens IFO4885又はEurotium rubrum IFO7712である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記第8の培養工程の期間が4〜10日である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−288325(P2006−288325A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116302(P2005−116302)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(504428636)株式会社RIVERSON (11)
【Fターム(参考)】