説明

鶏肉練製品及びその製造方法

【課題】すり身揚げやかまぼこに代表される魚肉を原料とする練製品は昨今の原油の高騰や漁獲量の減少、漁業後継者不足等により安定供給が困難となりつつある。そこで魚肉練製品の代替製品として特有の弾力のある食感を有する鶏肉練り製品を実現する。
【解決手段】鶏肉を原料に使用して魚肉練製品特有の弾力をもたせるには低温、短時間で擂潰工程を終える必要がある。そのため、ミートチョッパーでひき肉にした鶏肉と副原料をあらかじめ混合し、完全凍結させた後半解凍したものを擂潰することで上記問題を解決する。その後は常法に従い加熱によるたんぱく質の凝固を行い粘稠なすり身から弾性に富んだゲルに変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏肉を主原料とした練製品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来鶏肉を使用した練製品には鶏独特の風味を損なわないさつま揚げ風鶏擂り身揚物や肉類特有の咀嚼感をもたせた練製品がある。
【特許文献1】特開2000−312569号公報
【特許文献2】特開平10−248530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
擂潰を必要とする練製品は擂潰時間を長くすると擂潰機との摩擦熱により品温が上昇し製品のゲル強度が低下する。その結果練製品として充分な粘弾性、すなわちアシが得られず商品価値を低下させることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明ではひき肉にした原料肉を擂潰前に副原材料と混合、凍結、半解凍の工程を経る事で上記の課題を解決する。このようにすれば、擂潰前に副原料と混合するので擂潰中に副原料を加える場合と比べて均一なすり身が短時間で得られる。さらに半解凍状態で擂潰するので未凍結状態のものと比べて低温で仕上げることが容易となる。しかし、凍結状態のままでは擂潰機に負荷がかかりすぎ正常に作動せず、特殊な機械が必要となる。
【発明の効果】
【0005】
あらかじめひき肉にした原料肉と副原材料を混合することで擂潰時間は短縮される。又、擂潰前にいったん凍結する事で擂潰時の品温の上昇を抑える事ができる。この工程を経ることで粘弾性に富む鶏肉練製品の製造が可能となる。さらに近年魚肉練製品の原料事情も考え合わせると将来魚肉練製品の代替商材としての利用が可能である。
【実施例】
【0006】
本発明の実施例を図面1のフローチャートに基づいて説明する。
主原料に鶏肉の皮付きムネ肉を用いた。
「原料準備」:皮付きムネ肉を使用
「選別・異物除去」:異物、夾雑物、うっ血部分を除去する。
「ミンチカット」:ミートチョッパーでひき肉にする。プレート穴径は1.5m/m程度
「主・副原料混合」:ひき肉と調味液を攪拌機で均一になるまで混合する。
「凍結」:前工程で得られた混合肉を袋に入れ、厚さ5〜7cmに薄く延ばしたものを冷凍板に並べ−25℃以下の冷凍庫中で保存する。
「半解凍」:凍結した混合肉を0℃の冷蔵庫に移す。
「擂潰」:高速カッターを使用し半解凍した混合肉を1500rpm5分擂潰処理することで肉のり状のすり身を得る。
「成型」:前工程で得られたすり身を成型機にて成型する。
「加熱調理」:調理例として揚げ・蒸す・焼く・ゆでる
「放冷」:加熱調理後は荒熱をとる。
「袋詰め」:真空包装装置により脱気・熱シールをする。
「保存、出荷」:冷蔵又は冷凍保存し必要に応じて出荷する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明法について、図1のフローチャートの各工程に従って説明する。先ず原料準備、選別・異物除去工程を行う。本工程においては解体時付着した骨片や、皮表面の羽毛等の夾雑物、異物を除去し0℃の冷蔵庫中に保存しておく。肉温度は食品衛生上5℃〜7℃のチルド帯にあることが望ましい。皮付き胸肉の他にササミを使用しても良い。ササミを使用する時は、表面の薄皮や筋を取る必要はない。
【0008】
次にミンチカット工程を行う。本工程においてはミートチョッパーを使用すると均一な粒子の挽肉が短時間で得られる。その際、使用するプレートの穴径は1.5m/mが望ましい。プレート穴径が1.5m/mより大きいと図1のフローチャートに示す擂潰工程での擂潰時間が長くなり商品の品質を下げることとなる。ちなみにプレート穴径が1.8m/mになると肉粒子は50%大きくなる。その結果、擂潰時間は2分余計に要することとなり品温は7℃上昇する。またプレート穴径が1.0m/mになると作業効率は40%低下する。
【0009】
次に主・副原料混合工程として、上述で得られた挽肉と水に溶解した調味料及び副原料は混合攪拌を行い挽肉混合物を得る。基本調味料として塩・さとう・醤油・みりん等を使用するが加熱調理後、この製品特有の弾性を得るため塩は必ず添加する。その他香料を加えても良い。例えばホタテ香料を添加すればホタテ風味練り製品、カニ香料を添加すればカニ風味練り製品が得られる。このように調味料の配合割合と香料の組み合わせ及びその商品形態により様々なバリエーションが得られる。攪拌は短時間で均一に混合できる攪拌機を使用する。
【0010】
次の凍結工程は擂潰に先立って挽肉混合物の凍結を行う。適当な袋に厚さが5cm程度になるように薄くのばし入れた後、−30℃の冷凍庫で12時間以上保管しておくと完全凍結する。完全凍結とは挽肉混合物の中心温度が−20℃以下の状態をいう。
【0011】
次に半解凍工程を行う。いったん完全凍結させた挽肉混合物そのままでは擂潰処理ができない。そこで完全凍結後は冷凍庫から0℃の冷蔵庫へ移し、12時間程度保管しておくと手で曲げ折れる程度、もしくは包丁で切断できる程に解凍できる。この状態にすることを、本発明の半解凍という。この時点での中心温度は−5℃〜−15℃にある。中心温度が−5℃以上では擂潰時摩擦熱等により挽肉混合物の温度が著しく上昇し製品の粘弾性を低下させる重大な原因となる。逆に中心温度が−15℃以下の状態にあるときは擂潰作業が困難となる。
【0012】
次に擂潰工程を行う。食塩を添加した肉を擂り潰すと塩溶性たんぱく質を溶出させて、高粘度の肉のりが得られる。俗に言うすりみである。このすりみにする作業を擂潰という。鶏肉は魚肉に比べ肉繊維が硬く弾力があるので魚肉練製品の製造に使用されてきたウス型の擂潰機は適さない。魚肉練製品業界でも品温上昇を抑え短時間で仕上げるためウス型擂潰機からステンレス製高速カッターやサイレントカッターの使用に移行しつつある。本発明でも擂潰工程は高速カッターを使用することとする。具体的には氷を付与せずに二枚の回転刃で1500rpm5分磨砕する。擂潰工程時の品温上昇は製品のゲル化を著しく低下させるので仕上がり温度は15℃以下で仕上げることが望ましい。仕上がり温度が25℃以上になると製品のゲル強度は如実に低下する。品温上昇の主な要因として擂潰が進み高粘度のすり身に変化していくと肉と回転刃との間に摩擦熱が発生することによる。よって冷却装置付擂潰機を使用すれば最良の製品ができる。
【0013】
次に成型工程を行う。成型はドラム式成型機を使用し任意の形に成型する。
【0014】
次に加熱調理加熱調理は油調、蒸気加熱、焼く、ゆでる等がある。例えば油調の場合では大豆油又はなたね油で第1浴120℃〜150℃、第2浴160℃〜200℃の2浴方式で成型品の型崩れを防ぐと同時に、適当な着色が第2浴でできるように揚げると良い。
【0015】
最後に放冷・袋詰めの工程として油切りを兼ねて適当な温度に下がるまで放冷し、袋詰めした後商品とする。
【0016】
比較試験として本発明法で製造した商品のゲル強度試験結果を実施例として表1に示す。また、本発明法を採用せずに製造した商品、すなわち図1のフローチャートに示す主副原料混合・凍結・半解凍の工程を採用せずに製造した商品のゲル強度試験結果を比較例として表2に示す。
ゲル強度とは破断強度×破断のび×2で求められる物性値で一般に魚肉練製品業界で使用されている。測定機器はsun scientific社製RHEO METER CR−300を使用した。
本発明法で製造した商品のゲル強度
【表1】

本発明法を採用せず製造した商品のゲル強度
【表2】

(考察)上記試験結果からわかるように擂潰終了時の温度が上昇するとゲル強度は低下する傾向にある。これは擂潰時の温度上昇が破断強度を低下させることによる。さらに、擂潰終了時温度は擂潰時間に大きく影響をうける。これは擂潰がすすむにつれ粘弾性が増し摩擦熱が発生するためである。上記試験結果表1の実施例1,2,3より擂潰開始時温度が低温であっても擂潰時間が長くなると擂潰終了時温度は高くなるので5分以内で擂潰工程を終えるとよいが、擂潰時間が5分以下だと擂潰が不十分となるので本法での最適擂潰時間は5分である。上記試験結果表2の比較例1,2より擂潰開始温度が本法より高いうえ最低擂潰時間が7分と長いため擂潰終了時温度の上昇が著しい。本法と比べてその差は歴然としている。
以上から本発明法のように、あらかじめ挽肉にした鶏肉と副原料とを混合し、いったん完全凍結し、その後半解凍したものを擂潰処理すれば擂潰時間の短縮と低温ですり身に仕上げることが可能となる。その結果、優良な商品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明方法のフローチャートを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひき肉にした若鶏ムネ肉と副原材料を混合し、いったん完全凍結したのちに半解凍し、擂潰することを特徴とする鶏肉練製品。
【請求項2】
挽肉混合物を−25℃以下の冷凍庫で完全凍結した後に0℃の冷蔵庫で恒温保管して中心温度が−5℃〜−15℃の状態にあることを半解凍とする請求項1記載の鶏肉練製品。
【請求項3】
擂潰は氷を付与せずに高速カッターで1500rpm5分磨砕して行い、15℃以下の状態で終了することを特徴とする請求項1記載の鶏肉練製品。
【請求項4】
ひき肉にした若鶏皮付きムネ肉と副原材料を混合し、いったん完全凍結したのちに半解凍し、擂潰することを特徴とする鶏肉練製品の製造方法。
【請求項5】
挽肉混合物を−25℃以下の冷凍庫で完全凍結した後に0℃の冷蔵庫で恒温保管して中心温度が−5℃〜−15℃の状態にあることを半解凍とする請求項2記載の鶏肉練製品の製造方法。
【請求項6】
擂潰は氷を付与せずに高速カッターで1500rpm5分磨砕して行い、15℃以下の状態で終了することを特徴とする請求項3記載の鶏肉練製品の製造方法。

【図1】
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