説明

黄色ブドウ球菌に由来する菌血症関連抗原

黄色ブドウ球菌のBAA抗原を、他の地方流行性の株および関連する株と比較してフィブロネクチンおよび他の細胞外基質タンパク質へのin vitro結合が増強された高度に菌血症性のMRSA株で同定した。BAAは、in vitroでフィブロネクチンに結合する、ファージにコードされた表面発現アドヘシンである。BAAはMRSA株のカテーテル関連菌血症の表現型の増強を引き起こし得るので、MRSA菌血症の予防のためのワクチン標的として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2009年11月10日に出願された英国特許出願第0919690.8号(この完全な内容は、全ての目的のために参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、黄色ブドウ球菌に対する免疫化のための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
黄色ブドウ球菌は、グラム陽性の球状細菌である。米国における年間死亡率はいかなる他の感染症(HIV/AIDSが含まれる)の死亡率も凌ぎ、黄色ブドウ球菌は、血流、下気道、皮膚、および軟組織の感染の主因である。特に懸念される原因は、ほとんどの抗生物質に耐性を示すMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)である。
【0004】
現在、認可された黄色ブドウ球菌ワクチンは存在しない。参考文献1(非特許文献1)は、Merck and Intercellの「V710」ワクチンが心臓胸部手術を受けた患者における第2/3相試験を経ていることを報告している。V710ワクチンは、単一の抗原IsdB[2(非特許文献2)](鉄捕捉細胞表面タンパク質)に基づく。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sheridan、Nature Biotechnology(2009)27:499〜501
【非特許文献2】Kuklinら、Infect Immun.(2006)74(4):2215〜23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
黄色ブドウ球菌ワクチン、特にMRSA株に対して有用なワクチンで用いるさらに改良された抗原を同定する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の開示
MRSAの「TW」株はST−239に属し、ヒトにおいて血管カテーテルに接着して菌血症を引き起こす能力が増強されている[3]。他の地方流行性の株および関連する株と比較して一連の細胞外基質タンパク質(フィブロネクチンが含まれる)へのin vitro結合も増強されている。この株はまた、地方流行性の株または関連する株よりも多くの内皮細胞に侵入する。本発明者らは、TW中の菌血症関連抗原「BAA」を同定した。BAAは、in vitroでのフィブロネクチンへの結合を実証し、そしてMRSA株のカテーテル関連菌血症表現型の増強の原因であり得る、ファージにコードされた表面発現アドヘシンである。したがって、BAAは、例えば、MRSAによって引き起こされる菌血症(ST239株型が含まれる)を予防するためのワクチン標的として有用であり得る。
【0008】
本発明は、黄色ブドウ球菌疾患(S.aureus disease)および/または黄色ブドウ球菌感染に対する免疫化で用いるBAA抗原を提供する。
【0009】
本発明はまた、BAA抗原ポリペプチド配列および少なくとも1つのさらなる黄色ブドウ球菌抗原ポリペプチド配列を含む融合タンパク質を提供する。この融合タンパク質は、黄色ブドウ球菌疾患に対する免疫化のための免疫原性組成物中の有効成分として有用である。
【0010】
本発明はまた、BAA抗原および少なくとも1つのさらなる黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物を提供する。この組成物は、黄色ブドウ球菌疾患に対する免疫化に有用である。
【0011】
本発明はまた、BAA抗原および少なくとも1つの非黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物を提供する。この組成物は、一定範囲の疾患に対する免疫化に有用である。
【0012】
本発明はまた、(1)BAA抗原と(2)アジュバントとの組み合わせを含む免疫原性組成物を提供する。
【0013】
本発明はまた、抗BAA抗体を提供する。この抗体は、例えば、単独または別の治療(抗生物質など)と組み合わせて黄色ブドウ球菌疾患の処置および/または予防に有用である。
【0014】
本発明は、サンプル中のBAA抗原またはBAA抗原をコードする核酸を検出する工程を含む、サンプル中の黄色ブドウ球菌細菌の存在または不在を検出するための方法を提供する。
【0015】
BAA抗原
BAA抗原は表皮ブドウ球菌で以前に認められており、SesI[4、5]、SE1654[6]またはSesD[7]と呼ばれている。しかし、黄色ブドウ球菌株では、BAA抗原は、以前には存在しないと報告されていた[6]。表皮ブドウ球菌抗原に関する研究により、この抗原が浸潤能のマーカー(およびおそらくビルレンス因子)であり、免疫原性であり、そして細菌に対してオプソニン食作用活性(opsonophagocytic activity)を誘発することができることが確認されている。同一の性質を、黄色ブドウ球菌中の同一の抗原に期待することができる。さらに、黄色ブドウ球菌中のBAA抗原は、フィブロネクチン結合活性を有することが確認されており、その表面露出および機能的発現が確認されるので、黄色ブドウ球菌タンパク質が表皮ブドウ球菌タンパク質について既に認められている性質を共有するという見解がさらに支持される。
【0016】
本発明のBAA抗原は、(a)配列番号1に対して50%以上の同一性(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、またはそれを超える)を有し、そして/または(b)配列番号1の少なくとも「n」個の連続するアミノ酸のフラグメントを含むアミノ酸配列を含むことができ、「n」は7以上(例えば、8、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、またはそれを超える)である。これらのBAA配列には、配列番号1の改変体が含まれる。好ましい(b)のフラグメントは、配列番号1由来のエピトープを含む。他の好ましいフラグメントは、少なくとも1つの配列番号1のエピトープを保持しながら配列番号1のC末端由来の1つ以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、またはそれを超える)および/またはN末端由来の1つ以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、またはそれを超える)を欠く。
【0017】
したがって、例えば、本発明と共に用いるポリペプチドは、配列番号1と比較して、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9など)のアミノ酸置換(保存的置換(すなわち、あるアミノ酸の、関連する側鎖を有する別のアミノ酸との置換)など)を含むことができる。遺伝的にコードされたアミノ酸は、一般に、以下の4つのファミリーに分類される:(1)酸性(すなわち、アスパラギン酸、グルタミン酸)、(2)塩基性(すなわち、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、(3)非極性(すなわち、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および(4)無荷電極性(すなわち、グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、時折、共に芳香族アミノ酸として分類される。一般に、これらのファミリー内の単一のアミノ酸の置換は、生物学的活性に大きな影響を及ぼさない。ポリペプチドはまた、配列番号1と比較して1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9など)の単一アミノ酸欠失を含むことができる。ポリペプチドはまた、配列番号1と比較して1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9など)の挿入(例えば、それぞれ1、2、3、4、または5アミノ酸)を含むことができる。
【0018】
同様に、BAA抗原は、以下:
(a)配列番号1と同一(すなわち、100%同一)であり、
(b)配列番号1と配列同一性(例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、またはそれを超える)を共有し、
(c)配列番号1と比較して、別個の位置であり得るかまたは連続し得る1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10(またはそれを超える)の単一アミノ酸変化(欠失、挿入、置換)を有し、そして/あるいは
(d)ペアワイズアラインメントアルゴリズムを使用して配列番号1とアラインメントした場合、(p個のアミノ酸におよぶアラインメントについて、p>xの場合、p−x+1個のかかるウィンドウが存在するように)N末端からC末端までのx個のアミノ酸の各ムービングウィンドウは、少なくともx・y個の同一のアラインメントしたアミノ酸(xが20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200から選択される場合、yは0.50、0.60、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99から選択され、x・yが整数でない場合、最も近い整数に切り上げる)を有する、
アミノ酸配列を含むことができる。好ましいペアワイズアラインメントアルゴリズムは、デフォルトパラメータ(例えば、EBLOSUM62スコアリング行列を使用したギャップオープンペナルティ=10.0およびギャップ伸長ペナルティ=0.5を使用)を使用したNeedleman−Wunschグローバルアラインメントアルゴリズム[8]である。このアルゴリズムを、EMBOSSパッケージ中のneedleツール中で都合よく実行する[9]。
【0019】
群(c)内で、欠失または置換は、N末端および/またはC末端に存在し得るか、2つの末端の間に存在し得る。したがって、短縮は、欠失の一例である。短縮は、N末端および/またはC末端での40個まで(またはそれを超える)アミノ酸の欠失を含むことができる。N末端短縮は、例えば、異種宿主中での組換え発現を促進するためにリーダーペプチドを除去することができる。C末端短縮は、例えば、異種宿主中での組換え発現を促進するためにアンカー配列を除去することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、本発明は、BAA抗原ポリペプチド配列および少なくとも1つのさらなる抗原(好ましくは、黄色ブドウ球菌抗原)のポリペプチド配列を含む融合タンパク質を提供する。したがって、単一ポリペプチド鎖は、2つの異なる抗原性機能を提供することができる。BAAおよび2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のさらなる抗原由来のアミノ酸配列からなる融合タンパク質が有用である。
【0021】
融合タンパク質を、下記のように結合体または非黄色ブドウ球菌抗原と組み合わせることができる。
【0022】
融合タンパク質を、式NH−A−{−X−L−}−B−COOH(式中、Xは上記の抗原のアミノ酸配列であり、Lは任意選択的なリンカーアミノ酸配列であり、Aは選択的なN末端アミノ酸配列であり、Bは任意選択的なC末端アミノ酸配列であり、nは2以上の整数(例えば、2、3、4、5、6など)である)によって示すことができる。少なくとも1つの−X−部分はBAA抗原である。通常、nは2または3である。nが2である場合、BAA配列はXまたはX(すなわち、N末端またはC末端抗原)であり得る。
【0023】
−X−部分がその野生型形態でリーダーペプチド配列を有する場合、これを融合タンパク質中に含めるか除去することができる。いくつかの実施形態では、リーダーペプチドは、融合タンパク質のN末端に存在する−X−部分のリーダーペプチド以外が欠失されるであろう(すなわち、Xのリーダーペプチドが保持されるであろうが、X...Xのリーダーペプチドが除去されるであろう)。これは、全てのリーダーペプチドが欠失し、−A−部分としてXのリーダーペプチドを使用することに等しい。
【0024】
{−X−L−}の各nの場合について、リンカーアミノ酸配列−L−は存在しても存在しなくても良い。例えば、n=2の場合、融合タンパク質はNH−X−L−X−L−COOH、NH−X−X−COOH、NH−X−L−X−COOH、NH−X−X−L−COOHなどであり得る。リンカーアミノ酸配列−L−は、典型的には短いであろう(例えば、20個以下のアミノ酸(すなわち、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1個))。例は、クローニングを容易にする短いペプチド配列、ポリグリシンリンカー(すなわち、Gly(式中、n=2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれを超える)を含む)およびヒスチジンタグ(すなわち、His(式中、n=3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれを超える))を含む。他の適切なリンカーアミノ酸配列は、当業者に明らかであろう。有用なリンカーは、GSGGGG(配列番号2)またはGSGSGGGG(配列番号3)であり、これらは、Gly−SerジペプチドがBamHI制限部位から形成されているのでクローニングおよび操作を補助し、(Gly)テトラペプチドが典型的なポリグリシンリンカーである。特に最終的なLとして使用するための他の適切なリンカーは、ASGGGS(配列番号4)またはLeu−Gluジペプチドである。
【0025】
−A−は任意選択的なN末端アミノ酸配列である。これは、典型的には、短いであろう(例えば、40個以下のアミノ酸(すなわち、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1個))。例には、タンパク質輸送を指示するためのリーダー配列またはクローニングもしくは精製を容易にする短いペプチド配列(例えば、ヒスチジンタグ(すなわち、His(式中、n=3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれを超える)))が含まれる。他の適切なN末端アミノ酸配列は、当業者に明らかであろう。Xがそれ自体のN末端メチオニンを欠く場合、−A−は、好ましくは、N末端メチオニン(例えば、Met−Ala−Ser)または単一のMet残基を提供するオリゴペプチド(例えば、1、2、3、4、5、6、7、または8アミノ酸を有する)である。
【0026】
−B−は任意選択的なC末端アミノ酸配列である。これは、典型的には、短いであろう(例えば、40個以下のアミノ酸(すなわち、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1個))。例には、タンパク質輸送を指示するための配列、クローニングもしくは精製を容易にする短いペプチド配列(例えば、ヒスチジンタグ(すなわち、His(式中、n=3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれを超える)を含む)(配列番号5など))、またはタンパク質安定性を増強する配列が含まれる。他の適切なC末端アミノ酸配列は、当業者に明らかであろう。
【0027】
一般に、ポリペプチドが配列番号1と同一でない配列を含む場合(例えば、配列同一性が100%未満の配列を含む場合またはそのフラグメントを含む場合)または、ポリペプチドがBAA配列に加えて抗原を含む場合、ポリペプチドが配列番号1のアミノ酸配列を有する黄色ブドウ球菌タンパク質を認識する抗体を誘発することができることが好ましい。したがって、本発明のBAA抗原または融合タンパク質は(例えば、ヒトに投与される場合)、配列番号1として黄色ブドウ球菌ゲノム中でコードされる野生型タンパク質を認識する抗体を誘発することができる。
【0028】
さらなる黄色ブドウ球菌抗原
いくつかの実施形態では、免疫原性組成物は、少なくとも1つのさらなる黄色ブドウ球菌抗原と組み合わせたBAA抗原を含む。さらなる抗原は、ポリペプチドおよび/またはサッカリド抗原であり得る。
【0029】
適切なポリペプチド抗原を、以下から選択することができる(参考文献10〜17に開示および定義):免疫優性ABC輸送体、ラミニン受容体、SsaA、SitC(MntCとしても公知)、IsaA(PisAまたはIssAとしても公知)、EbhA、EbhB、Aap、RAP(RNA III活性化タンパク質)、FIG、EbpS、EFB、アルファ毒素(溶血素)、SBI、IsdA、IsdB、SdrC、ClfA、FnbA、ClfB、コアグラーゼ、FnbB、MAP、HarA、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Ebh、自己溶菌酵素Ant、MRPII、SdrG、SdrE、SdrD、SasF、AhpC、AhpF、コラーゲン結合タンパク質CAN、GehDリパーゼ、ヘパリン結合タンパク質HBP(17kDa)、Npase、ORF0594、ORF0657n、ORF0826、PBP4、Sai−1、SasK、SBI、SdrH、SSP−1、SSP−2、ビトロネクチン結合タンパク質。
【0030】
適切なサッカリド抗原には、黄色ブドウ球菌莢膜サッカリドおよび/または黄色ブドウ球菌エキソポリサッカリドが含まれる。サッカリド抗原を、キャリアタンパク質に結合体化することができる。
【0031】
黄色ブドウ球菌のエキソポリサッカリドは、ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)である。このサッカリドは、細菌からのエキソポリサッカリドの精製中に生じるサイズを有するポリサッカリドであり得るか、または、このサッカリドは、かかるポリサッカリドの断片化によって得られるオリゴサッカリド(例えば、サイズは、400kDa超から75kDaと400kDaとの間または10kDaと75kDaとの間まで、または30反復単位まで変化し得る)であり得る。サッカリド部分は種々の程度のN−アセチル化を有することができ、参考文献18に記載のように、PNAGは、40%未満N−アセチル化され得る(例えば、35、30、20、15、10、または5%未満のN−アセチル化、脱アセチル化PNAGはdPNAGとしても公知である)。PNAGの脱アセチル化エピトープは、オプソニン性の殺傷(opsonic killing)を媒介することができる抗体を誘発することができる。PNAGは、例えば、25、20、15、10、5、2、1、または0.1%未満の残基についてO−スクシニル化(O−succinylated)されていてもいなくてもよい。
【0032】
黄色ブドウ球菌の莢膜サッカリドは、細菌からの莢膜サッカリドの精製中に生じるサイズを有するポリサッカリドであり得るか、または、このサッカリドは、かかるポリサッカリドの断片化によって得られるオリゴサッカリドであり得る。莢膜サッカリドを、任意の適切な黄色ブドウ球菌株(または類似するか同一のサッカリドを有する任意の細菌)から(5型および/または8型黄色ブドウ球菌株および/または336型黄色ブドウ球菌株などから)得ることができる。ほとんどの感染性黄色ブドウ球菌株は、5型または8型莢膜サッカリドのいずれかを含む。共にその反復単位中にFucNAcpおよび連結のためのスルフヒドリル基を導入するために使用することができるManNAcAを有する。5型サッカリドの反復単位は→4)−β−D−Man NAcA−(1→4)−α−L−FucNAc(3OAc)−(1→3)−β−D−FucNAc−(1→であるのに対して、8型サッカリドの反復単位は→3)−β−D−ManNAcA(4OAc)−(1→3)−α−L−FucNAc(1→3)−α−D−FucNAc(1→である。336型サッカリドは、O−アセチル化を持たないβ連結ヘキソサミンであり[19、20]、336株(ATCC55804)に対して惹起された抗体と交差反応性を示す。5型と8型サッカリドとの組み合わせが典型的であり、336型サッカリドをこの対合物に付加することができる[21]。
【0033】
したがって、例えば、組成物は、BAA抗原ならびに(a)5型莢膜サッカリドの結合体および/または(b)8型莢膜サッカリドの結合体を含むことができる。
【0034】
結合体中のキャリア部分は、通常、タンパク質であろう。典型的なキャリアタンパク質は、細菌毒素(ジフテリア毒素または破傷風毒素、またはそのトキソイド、変異体、もしくはフラグメントなど)である。CRM197ジフテリア毒素変異体[22]が有用である。他の適切なキャリアタンパク質には、髄膜炎菌外膜タンパク質複合体[23])、合成ペプチド[24、25]、熱ショックタンパク質[26、27]、百日咳タンパク質[28、29]、サイトカイン[30]、リンホカイン[30]、ホルモン[30]、成長因子[30]、種々の病原体由来抗原由来の複数のヒトCD4T細胞エピトープを含む人工タンパク質[31](N19[32]など)、インフルエンザ菌由来のタンパク質D[33〜35]、ニューモリシン[36]またはその非毒性誘導体[37]、肺炎球菌表面タンパク質PspA[38]、鉄取り込みタンパク質[39]、C.difficile由来の毒素AまたはB[40]、組換え緑膿菌エキソプロテインA(rEPA)[41]などが含まれる。いくつかの実施形態では、キャリアタンパク質は黄色ブドウ球菌タンパク質(BAAなど)である。
【0035】
組成物が1つを超える結合体を含む場合、各結合体は同一のキャリアタンパク質または異なるキャリアタンパク質を使用することができる。
【0036】
結合体は、過剰なキャリア(w/w)または過剰なサッカリド(w/w)を有することができる。いくつかの実施形態では、結合体は、それぞれ実質的に同じ重量で含むことができる。
【0037】
キャリア分子を、キャリアに共有結合的に直接またはリンカーを介して結合体化することができる。タンパク質への直接結合を、例えば、参考文献42および43に記載のように、例えば、サッカリドとキャリアとの間の還元的アミノ化によって行うことができる。サッカリドは、最初に、例えば酸化によって活性化される必要があり得る。リンカー基を介した結合を、任意の公知の手順(例えば、参考文献44および45に記載の手順)を使用して行うことができる。好ましい結合型はアジピン酸リンカーであり、これを、遊離−NH基(例えば、アミノ化によってグルカンに導入した)のアジピン酸とのカップリング(例えば、ジイミド活性化を使用)およびその後の得られたサッカリド−アジピン酸中間体へのタンパク質のカップリングによって形成することができる[46、47]。別の好ましい結合型はカルボニルリンカーであり、これを、サッカリドCDI[48、49]の遊離ヒドロキシル基の反応およびその後のカルバメート結合を形成するためのタンパク質との反応によって形成することができる。他のリンカーには、β−プロピオンアミド[50]、ニトロフェニル−エチルアミン[51]、ハロアシルハライド[52]、グリコシド結合[53]、6−アミノカプロン酸[54]、ADH[55]、C〜C12部分[56]などが含まれる。カルボジイミド縮合も使用することができる[57]。
【0038】
PNAG結合体を、種々の方法(例えば、a)マレイミド基を含むリンカーの付加によってPNAGを活性化させて活性化されたPNAGを形成すること、b)スルフィドリル基を含むリンカーの付加によってキャリアタンパク質を活性化して活性化されたキャリアタンパク質を形成すること、およびc)活性化されたPNAGおよび活性化されたキャリアタンパク質を反応させてPNAG−キャリアタンパク質結合体を形成することを含む過程、またはa)スルフィドリル基を含むリンカーの付加によってPNAGを活性化して活性化されたPNAGを形成すること、b)マレイミド基を含むリンカーの付加によってキャリアタンパク質を活性化して活性化されたキャリアタンパク質を形成すること、およびc)活性化されたPNAGおよび活性化されたキャリアタンパク質を反応させてPNAG−キャリアタンパク質結合体を形成することを含む過程、またはa)スルフィドリル基を含むリンカーの付加によってPNAGを活性化させて活性化されたPNAGを形成すること、b)スルフィドリル基を含むリンカーの付加によってキャリアタンパク質を活性化させて活性化されたキャリアタンパク質を形成すること、およびc)活性化されたPNAGおよび活性化されたキャリアタンパク質を反応させてPNAG−キャリアタンパク質結合体を形成することを含む過程による)で調製することができる。
【0039】
非黄色ブドウ球菌抗原
いくつかの実施形態では、免疫原性組成物は、少なくとも1つの非黄色ブドウ球菌抗原と組み合わせたBAA抗原を含む。適切な非ブドウ球菌抗原には、院内感染に関連する細菌由来の抗原が含まれるが、これに限定されない。例えば、抗原は、以下の病原体の1つに由来し得る:表皮ブドウ球菌、Clostridium difficile、緑膿菌、Candida albicans、および/または腸外病原性大腸菌。BAA抗原と組み合わせて用いるさらに適切な抗原は、参考文献58の33〜46頁に列挙されている。
【0040】
本発明で使用されるポリペプチド
本発明で使用されるポリペプチドは、種々の形態(例えば、天然の(native)形態、融合形態、グリコシル化形態、非グリコシル化形態、脂質付加形態、非脂質付加形態、リン酸化形態、非リン酸化形態、ミリストイル化形態、非ミリストイル化形態、単量体形態、多量体形態、粒子形態、変性形態など)を取ることができる。
【0041】
本発明で使用されるポリペプチドを、種々の手段(例えば、組換え発現、細胞培養物からの精製、化学合成など)によって調製することができる。特に融合タンパク質のための組換え発現タンパク質が好ましい。
【0042】
好ましくは、本発明で使用されるポリペプチドは、精製形態または実質的に精製された形態(すなわち、他のポリペプチド(特に、他のブドウ球菌または宿主細胞のポリペプチド)を実質的に含まない(例えば、天然に存在するポリペプチドを含まない))で提供され、一般に、少なくとも約50%(重量)純粋、通常は少なくとも約90%純粋である(すなわち、組成物の約50%未満、より好ましくは約10%未満(例えば、5%))が他の発現されたポリペプチドで構成されている)。したがって、組成物中の抗原を、この分子が発現される生物全体から分離する。
【0043】
用語「ポリペプチド」は、任意の長さのアミノ酸ポリマーをいう。ポリマーは直鎖または分岐であってよく、修飾アミノ酸を含むことができ、非アミノ酸によって中断されていてよい。この用語はまた、天然で修飾されたか、または介入(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化)または任意の他の操作もしくは修飾(標識化成分との結合体化など)によって修飾されたアミノ酸ポリマーを含む。例えば、アミノ酸の1つ以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸などが含まれる)を含むポリペプチドおよび当該分野で公知の他の修飾物も含まれる。ポリペプチドは、単一の鎖または会合した鎖として存在することができる。
【0044】
本発明は、配列−P−Q−または−Q−P−(式中、−P−は上記定義のアミノ酸配列であり、−Q−は上記定義の配列ではない)を含むポリペプチドを提供する(すなわち、本発明は、融合タンパク質を提供する)。−P−のN末端コドンがATGでないが、このコドンがポリペプチドのN末端に存在しない場合、Metとしてではなくこのコドンの標準的アミノ酸として翻訳されるであろう。しかし、このコドンがポリペプチドのN末端にある場合、Metとして翻訳されるであろう。−Q−部分の例には、ヒスチジンタグ(すなわち、His(式中、n=3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれを超える))、マルトース結合タンパク質、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)が含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明はまた、ポリペプチド発現を誘導する条件下にて本発明の核酸で形質転換した宿主細胞を培養する工程を含む、本発明のポリペプチドを生産するためのプロセスを提供する。
【0046】
本発明のポリペプチドの発現がブドウ球菌で起こり得るが、本発明は、通常、発現(組換え発現)のために異種宿主を使用するであろう。異種宿主は、原核生物(例えば、細菌)または真核生物であり得る。異種宿主は大腸菌であり得るが、他の適切な宿主には、枯草菌、コレラ菌、チフス菌、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、Neisseria lactamica、Neisseria cinerea、マイコバクテリア(例えば、結核菌)、酵母などが含まれる。本発明のポリペプチドをコードする野生型黄色ブドウ球菌遺伝子と比較して、コードされたアミノ酸に影響を及ぼすことなくかかる宿主における発現効率を最適にするためにコドンを変化させるのに役立つ。
【0047】
本発明は、化学的手段によってポリペプチドの少なくとも一部を合成する工程を含む、本発明のポリペプチドを生成するためのプロセスを提供する。
【0048】
抗体
抗BAA抗体を、受動免疫化または免疫療法のために使用することができる。したがって、本発明は、治療で用いる抗BAA抗体を提供する。本発明はまた、医薬製造におけるかかる抗体の使用を提供する。本発明はまた、有効量の本発明の抗BAA抗体を投与する工程を含む、哺乳動物を処置するための方法を提供する。免疫原性組成物について上記のように、これらの方法および使用により、黄色ブドウ球菌感染および/または疾患から哺乳動物を防御することが可能である。
【0049】
用語「抗体」には、インタクトな免疫グロブリン分子および抗原に結合することができるそのフラグメントが含まれる。これらには、ハイブリッド(キメラ)抗体分子[59、60]、F(ab’)フラグメントおよびF(ab)フラグメントならびにFv分子、非共有結合性ヘテロ二量体[61、62]、単鎖Fv分子(sFv)[63]、二量体および三量体の抗体フラグメント構築物、ミニボディ[64、65]、ヒト化抗体分子[66〜68]、およびかかる分子から得られる任意の機能的フラグメントならびに非従来的プロセス(ファージディスプレイなど)によって得られる抗体が含まれる。好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体を得る方法は当該分野で周知である。ヒト化抗体または完全なヒト抗体が好ましい。
【0050】
モノクローナル抗体は、指向される個別のポリペプチドの同定および精製で特に有用である。本発明のモノクローナル抗体を、免疫アッセイ、放射免疫アッセイ(RIA)、または酵素免疫測定法(ELISA)などにおける試薬として使用することもできる。これらの適用では、抗体を、分析的に検出可能な試薬(放射性同位体、蛍光分子、または酵素など)で標識することができる。上記方法によって産生されたモノクローナル抗体を、本発明のポリペプチドの分子同定および特徴付け(エピトープマッピング)のために使用することもできる。
【0051】
本発明の抗体を、好ましくは、精製形態または実質的に精製された形態で提供する。典型的には、抗体は、他のポリペプチドが実質的に存在しない(例えば、組成物の90%未満(重量)、通常は60%未満、より通常には50%未満が他のポリペプチドから構成される場合)組成物中に存在するであろう。
【0052】
本発明の抗体は任意のアイソタイプ(例えば、IgA、IgG、IgM(すなわち、α、γ、またはμ重鎖))の抗体であり得るが、一般に、IgGであろう。IgGアイソタイプ内で、抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブクラスであり得る。本発明の抗体は、κまたはλ軽鎖を有し得る。
【0053】
抗BAA抗体を、抗生物質と併せて患者に投与することができる。抗生物質を、抗体と混合して投与することができるか(したがって、本発明の組成物はブドウ球菌に対して活性な抗生物質を含むことができる)、別個に投与することができる。
【0054】
抗BAA抗体は、例えば、緊急時の予想外または予測不可能な入院(大流行中の集中治療室またはかかる株が地方流行性であることが公知である場合など)のためのこれまたは潜在的に構造的に関連するアドヘシンを保有する黄色ブドウ球菌(または表皮ブドウ球菌)の株に起因する短期間の菌血症リスクのある成人および新生児への注入に特に適切である。抗体を、異物または深在性の感染に関与する黄色ブドウ球菌の菌血症の処置のための補助療法として抗生物質と共に使用することもできる。
【0055】
核酸
本発明はまた、本発明のポリペプチドおよび融合ポリペプチドをコードする核酸を提供する。本発明はまた、1つ以上の本発明のポリペプチドまたは融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(例えば、配列番号8)を含む核酸を提供する。
【0056】
本発明はまた、かかるヌクレオチド配列と配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。配列間の同一性を、好ましくは、上記のSmith−Watermanホモロジー検索アルゴリズムによって決定する。かかる核酸は、同一のアミノ酸をコードするための代替コドンを使用する核酸が含まれる。
【0057】
本発明はまた、これらの核酸とハイブリダイズすることができる核酸を提供する。ハイブリダイゼーション反応を、異なる「ストリンジェンシー」の条件下で行うことができる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増大させる条件は、当該分野で広く知られており、公開されている(例えば、参考文献255の7.52頁)。関連条件の例には、以下が含まれる(記載順にストリンジェンシーが増大する):インキュベーション温度25℃、37℃、50℃、55℃、および68℃、緩衝液濃度10×SSC、6×SSC、1×SSC、0.1×SSC(ここで、SSCは、0.15M NaClおよび15mMクエン酸緩衝液である)および他の緩衝系を使用したその等価物、ホルムアミド濃度0%、25%、50%、および75%、インキュベーション時間5分間〜24時間、1回、2回、またはそれを超える洗浄工程、洗浄インキュベーション時間1、2、または15分間、ならびに洗浄溶液6×SSC、1×SSC、0.1×SSC、または脱イオン水。ハイブリダイゼーション技術およびその至適化は当該分野で周知である(例えば、参考文献69、255、257などを参照のこと)。
【0058】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸は、低ストリンジェンシー条件下で標的とハイブリダイズし、他の実施形態では、中ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズし、好ましい実施形態では、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする。低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件の例示的な設定は、50℃および10×SSCである。中ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの例示的な設定は、55℃および1×SSCである。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの例示的な設定は、68℃および0.1×SSCである。
【0059】
本発明は、これらの配列と相補的な配列を含む核酸を含む(例えば、アンチセンスまたは探索用、またはプライマー用)。
【0060】
本発明の核酸を、ハイブリダイゼーション反応(例えば、ノーザンブロットもしくはサザンブロットまたは核酸マイクロアレイ、または「遺伝子チップ」)、増幅反応(例えば、PCR、SDA、SSSR、LCR、TMA、NASBAなど)、および他の核酸技術で使用することができる。
【0061】
本発明の核酸は、種々の形態(例えば、一本鎖、二本鎖、ベクター、プライマー、プローブ、標識形態など)を取ることができる。本発明の核酸は環状または分岐であり得るが、一般に、線状であろう。他で特定または要求しない限り、核酸を使用する本発明の任意の実施形態は、二本鎖形態および二本鎖形態を作製する2つの相補的な一本鎖形態の各々の両方を使用することができる。プライマーおよびプローブは、一般に一本鎖であり、アンチセンス核酸もまた同様に一本鎖である。
【0062】
本発明の核酸を、好ましくは、精製形態または実質的に精製された形態(すなわち、他の核酸を実質的に含まない(例えば、天然に存在する核酸を含まない、特に他のブドウ球菌または宿主細胞の核酸を含まない))で提供し、一般に、少なくとも約50%(重量)純粋、通常は少なくとも約90%純粋である。本発明の核酸は、好ましくは、ブドウ球菌核酸である。
【0063】
本発明の核酸を、多数の方法で(例えば、全体または一部の化学合成(例えば、DNAのホスホルアミダイト合成)、ヌクレアーゼ(例えば、制限酵素)を使用したより長い核酸の消化、より短い核酸またはヌクレオチドの連結(例えば、リガーゼまたはポリメラーゼを使用)による)ゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーなどから調製することができる。
【0064】
本発明の核酸を、固体支持体(例えば、ビーズ、プレート、フィルター、フィルム、スライド、マイクロアレイ支持体、樹脂など)に付着させることができる。本発明の核酸を、例えば、放射性標識もしくは蛍光標識またはビオチン標識で標識することができる。これは、核酸を検出技術で使用する場合(例えば、核酸がプライマーまたはプローブである場合)に特に有用である。
【0065】
用語「核酸」には、一般的意味において、任意の長さのヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/またはそのアナログを含む)の重合形態が含まれる。核酸には、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドが含まれる。核酸には、DNAまたはRNAのアナログ(修飾された骨格(例えば、ペプチド核酸(PNA)またはホスホロチオアート)または修飾された塩基を含むものなど)も含まれる。したがって、本発明は、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、DNA、cDNA、組換え核酸、分岐核酸、プラスミド、ベクター、プローブ、プライマーなどを含む。本発明の核酸がRNA形態をとる場合、核酸は5’キャップを持っても持たなくても良い。
【0066】
本発明の核酸は、ベクターの一部(すなわち、1つ以上の細胞型の形質導入/トランスフェクションのためにデザインされた核酸構築物の一部)であり得る。ベクターは、例えば、挿入されたヌクレオチドの単離、増殖(propagation)、および複製のためにデザインされた「クローニングベクター」、宿主細胞中でのヌクレオチド配列の発現のためにデザインされた「発現ベクター」、組換えウイルス粒子または組換えウイルス様粒子が産生されるようにデザインされた「ウイルスベクター」、または1つを超えるベクター型の特性を含む「シャトルベクター」であり得る。好ましいベクターはプラスミドである。「宿主細胞」には、外因性核酸のレシピエントであり得るか、外因性核酸のレシピエントであった個々の細胞または細胞培養物が含まれる。宿主細胞には単一宿主細胞の子孫が含まれ、子孫は、天然、偶発的な、または意図的な変異および/または変化によって(形態または全DNA量において)元の親細胞と必ずしも完全に同一でなくてもよい。宿主細胞には、in vivoまたはin vitroにて本発明の核酸でトランスフェクトされたか感染された細胞が含まれる。
【0067】
核酸がDNAである場合、RNA配列中の「U」はDNA中で「T」に置き換えられると認識されるであろう。同様に核酸がRNAである場合、DNA配列中の「T」はRNA中の「U」に置き換えられると認識されるであろう。
【0068】
用語「相補物」または「相補性」は、核酸に関して使用する場合、ワトソン−クリック塩基対合をいう。したがって、Cの相補物はGであり、Gの相補物はCであり、Aの相補物はT(またはU)であり、T(またはU)の相補物はAである。例えば、ピリミジン(CまたはT)を相補するために、I(プリンであるイノシン)などの塩基を使用することも可能である。
【0069】
本発明の核酸を、例えば、ポリペプチドを産生するためか、生物学的なサンプル中の核酸の検出のためのハイブリダイゼーションプローブとしてか、核酸のさらなるコピーを生成するためか、リボザイムまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを生成するためか、一本鎖DNAプライマーまたはプローブとしてか、三本鎖形成オリゴヌクレオチドとして使用することができる。
【0070】
本発明は、核酸の一部または全部を化学的手段を使用して合成する、本発明の核酸の産生プロセスを提供する。
【0071】
本発明は、本発明のヌクレオチド配列を含むベクター(例えば、クローニングベクターまたは発現ベクター)およびかかるベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0072】
本発明の核酸増幅は、定量的および/またはリアルタイムであり得る。
【0073】
本発明の一定の実施形態のために、核酸は、好ましくは、少なくとも7ヌクレオチド長(例えば、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、225、250、275、300ヌクレオチドまたはそれより長い)である。
【0074】
本発明の一定の実施形態のために、核酸は、好ましくは、多くても500ヌクレオチド長(例えば、450、400、350、300、250、200、150、140、130、120、110、100、90、80、75、70、65、60、55、50、45、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15ヌクレオチドまたはそれより短い)である。
【0075】
本発明のプライマーおよびプローブならびにハイブリダイゼーションのために使用される他の核酸は、好ましくは、10と30との間のヌクレオチド長(例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30ヌクレオチド)である。
【0076】
変異体細菌
本発明はまた、BAA抗原がノックアウトされている黄色ブドウ球菌細菌を提供する。ノックアウト細菌の産生技術は周知であり、ノックアウト黄色ブドウ球菌株が報告されている。ノックアウト変異は、遺伝子のコード領域に存在し得るか、その転写調節領域内(例えば、そのプロモーター内)に存在し得る。ノックアウト変異は、抗原をコードするmRNAレベルを、野生型細菌によって産生されるレベルの1%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0%に減少させるであろう。
【0077】
本発明はまた、BAA抗原がその活性を阻害する変異を有する黄色ブドウ球菌を提供する。抗原をコードする遺伝子は、コードされたアミノ酸配列を変化させる変異を有するであろう。変異は、1つ以上のアミノ酸が関与し得る欠失、置換、および/または挿入を含み得る。
【0078】
本発明はまた、BAA抗原を高発現する細菌(黄色ブドウ球菌細菌など)を提供する。
【0079】
本発明はまた、BAA抗原を構成的に発現する細菌(黄色ブドウ球菌細菌など)を提供する。本発明はまた、BAA抗原をコードする遺伝子を含み、この遺伝子が誘導性プロモーターの調節下にある、ブドウ球菌を提供する。
【0080】
免疫原性組成物および医薬
本発明の免疫原性組成物は、ワクチンとして有用であり得る。本発明のワクチンは、予防用(すなわち、感染を予防する)または治療用(すなわち、感染を処置する)のいずれかであり得るが、典型的には予防用であろう。
【0081】
したがって、組成物は薬学的に許容可能であり得る。組成物は、通常、抗原に加えて成分を含むであろう(例えば、成分は、典型的には、1つ以上の薬学的キャリアおよび/または賦形剤を含む)。かかる成分の徹底的な考察は、参考文献252にある。
【0082】
組成物を、一般に、水性形態で哺乳動物に投与するであろう。しかし、投与前に、組成物は非水性形態であり得る。例えば、いくつかのワクチンは水性形態で製造され、その後同様に水性形態で充填、分配、そして投与されるが、他のワクチンは、製造時に凍結乾燥され、使用時に水性形態に再構成される。したがって、本発明の組成物を乾燥させることができる(凍結乾燥処方物など)。
【0083】
組成物は、防腐剤(チオメルサールまたは2−フェノキシエタノールなど)を含むことができる。しかし、ワクチンは、好ましくは、水銀材料を実質的に含まないことが好ましい(すなわち、5μg/ml未満)(例えば、チオメルサールを含まない)。水銀を含まないワクチンがより好ましい。防腐剤を含まないワクチンが特に好ましい。
【0084】
熱安定性を改善するために、組成物は温度保護剤(temperature protective agent)を含むことができる。かかる薬剤のさらなる詳細を以下に示す。
【0085】
張度を調節するために、生理学的塩(ナトリウム塩など)を含めることが好ましい。塩化ナトリウム(NaCl)が好ましく、これは、1mg/mlと20mg/mlとの間(例えば、約10±2mg/ml NaCl)で存在し得る。存在し得る他の塩には、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、無水リン酸二ナトリウム(disodium phosphate dehydrate)、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが含まれる。
【0086】
組成物の重量オスモル濃度は、一般に、200mOsm/kgと400mOsm/kgとの間、好ましくは240〜360mOsm/kgであり、より好ましくは、290〜310mOsm/kgの範囲内であろう。
【0087】
組成物は、1つまたは複数の緩衝液を含むことができる。典型的な緩衝液には、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、ホウ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液(特に、水酸化アルミニウムアジュバントを含む)、またはクエン酸緩衝液が含まれる。緩衝液を、典型的には、5〜20mMの範囲で含めるであろう。
【0088】
組成物のpHは、一般に、pH5.0とpH8.1との間、より典型的にはpH6.0とpH8.0との間(例えば、pH6.5と7.5との間またはpH7.0とpH7.8との間)であろう。
【0089】
組成物は、好ましくは無菌である。組成物は、好ましくは、発熱性ではない(例えば、用量あたりEU1未満(内毒素単位、一般的尺度)、好ましくは用量あたりEU0.1未満を含む)。組成物は、好ましくはグルテンを含まない。
【0090】
組成物は、単回免疫化のための材料を含むことができるか、複数回免疫化のための材料を含むことができる(すなわち、「複数回用量」キット)。複数回用量の構成(arrangement)に防腐剤を含めることが好ましい。複数回用量組成物中に防腐剤を含めることの代替として(またはそれに加えて)、材料を取り出すための無菌アダプターを有する容器中に組成物を含めることができる。
【0091】
ヒトワクチンを、典型的には、約0.5mlの投薬体積で投与するが、半分の用量(すなわち、約0.25ml)を小児に投与することができる。
【0092】
本発明の免疫原性組成物はまた、1つ以上の免疫調節剤(immunoregulatory agent)を含むことができる。好ましくは、免疫調節剤のうちの1つ以上は、1つまたは複数のアジュバントを含む。アジュバントには、TH1アジュバントおよび/またはTH2アジュバントが含まれ得、以下でさらに考察されている。
【0093】
したがって、本発明は、(1)BAA抗原と(2)アジュバント(水酸化アルミニウムアジュバント(例えば、1つ以上の抗原を水酸化アルミニウムに吸着することができる)など)との組み合わせを含む免疫原性組成物を提供する。
【0094】
本発明の組成物中で使用することができるアジュバントには、以下が含まれるが、これらに限定されない。
【0095】
A.ミネラル含有組成物
本発明でアジュバントとしての使用に適切なミネラル含有組成物には、無機塩(アルミニウム塩およびカルシウム塩(またはその混合物)など)が含まれる。カルシウム塩には、リン酸カルシウム(例えば、参考文献70に開示の「CAP」粒子)が含まれる。アルミニウム塩には、水酸化物、リン酸塩、硫酸塩などが含まれ、この塩は、任意の適切な形態(例えば、ゲル、結晶、無定形など)を取る。これらの塩に吸着することが好ましい(例えば、全ての抗原を吸着させることができる)。ミネラル含有組成物を、金属塩粒子として処方することもできる[71]。
【0096】
水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムとして公知のアジュバントを使用することができる。これらの名称は従来の名称であるが、存在する実際の化合物を正確に説明していないので、便宜のためだけに使用する(例えば、参考文献76の第9章を参照のこと)。本発明は、アジュバントとして一般的に使用される任意の「水酸化物」または「リン酸塩」のアジュバントを使用することができる。「水酸化アルミニウム」として公知のアジュバントは、典型的にはオキシ水酸化アルミニウム塩であり、通常、少なくとも部分的に結晶である。「リン酸アルミニウム」として公知のアジュバントは、典型的には、ヒドロキシリン酸アルミニウム(aluminium hydroxyphosphate)であり、しばしば少量の硫酸塩を含む(すなわち、ヒドロキシリン酸硫酸アルミニウム(aluminium hydroxyphosphate sulfate))。これらを沈殿によって得ることができ、沈殿の間の反応条件と濃度が、塩の中のホスフェートでのヒドロキシルの置換の程度に影響を及ぼす。
【0097】
繊維状の形態(例えば、透過電子顕微鏡写真で認められる)は、水酸化アルミニウムアジュバントの典型である。水酸化アルミニウムアジュバントのpIは、典型的には約11である(すなわち、アジュバント自体は、生理学的pHで正の表面電荷を有する)。水酸化アルミニウムアジュバントについてpH7.4で1.8〜2.6mgタンパク質/mg Al+++の吸着能が報告されている。
【0098】
リン酸アルミニウムアジュバントのPO/Alモル比は、一般に、0.3と1.2との間、好ましくは0.8と1.2との間、より好ましくは0.95±0.1である。特にヒドロキシリン酸塩について、リン酸アルミニウムは一般に無定形であろう。典型的なアジュバントは、PO/Alモル比が0.84と0.92との間であり、0.6mg Al3+/mlを含む無定形ヒドロキシリン酸アルミニウムである。リン酸アルミニウムは、一般に、粒子状(例えば、透過電子顕微鏡写真で認められる平板様の形態)であろう。任意の抗原吸着後の粒子の典型的な直径は、0.5〜20μmの範囲(例えば、約5〜10μm)である。リン酸アルミニウムアジュバントについてpH7.4で0.7〜1.5mgタンパク質/mg Al+++の吸着能が報告されている。
【0099】
リン酸アルミニウムの電荷ゼロ点(PZC)は、ホスフェートでのヒドロキシルの置換の程度と逆の関係にあり、この置換の程度は、沈殿による塩の調製に使用される反応条件と反応物の濃度に応じて変わり得る。PZCはまた、溶液中の遊離のホスフェートイオンの濃度を変えることによって(より多くのホスフェート=より酸性のPZC)、または緩衝液(例えば、ヒスチジン緩衝液)を加えることによって(PZCをより塩基性にする)も変化させられる。本発明にしたがって使用されるリン酸アルミニウムは、一般的には、4.0〜7.0の間、より好ましくは、5.0〜6.5の間、例えば、約5.7のPZCを有するであろう。
【0100】
以下に示すように、黄色ブドウ球菌タンパク質抗原(IsdA、Sta019、およびSta073を除外する)の水酸化アルミニウムアジュバントへの吸着は、特に複数のタンパク質の組み合わせで有利である(全ての抗原を吸着することができる)。ヒスチジン緩衝液を、通常、かかるアジュバント添加組成物(adjuvanted composition)中に含めることができる。
【0101】
本発明の組成物を調製するために使用されるアルミニウム塩の懸濁液は、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液、またはTris緩衝液)を含むことができるが、これは常に必要というわけではない。懸濁液は、好ましくは、無菌でありかつ発熱物質を含まない。懸濁液は、例えば、1.0mMと20mMとの間、好ましくは5mMと15mMとの間、より好ましくは約10mMの濃度で存在する遊離水性ホスフェートイオンを含むことができる。懸濁液はまた、塩化ナトリウムを含むことができる。
【0102】
本発明は、水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムとの混合物を使用することができる。この場合、リン酸アルミニウムが水酸化アルミニウムよりも大量に存在し得る(例えば、少なくとも2:1の重量比(例えば、5:1以上、6:1以上、7:1以上、8:1以上、9:1以上など)。
【0103】
患者への投与のための組成物中のAl+++濃度は、好ましくは10mg/ml未満(例えば、5mg/ml以下、4mg/ml以下、3mg/ml以下、2mg/ml以下、1mg/ml以下など)である。好ましい範囲は、0.3mg/mlと1mg/mlとの間である。最大で0.85mg/用量が好ましい。
【0104】
B.油エマルジョン(oil emulsion)
本発明におけるアジュバントとしての使用に適切な油エマルジョン組成物には、スクアレン−水エマルジョン(MF59[参考文献76の第10章を参照のこと;参考文献72も参照のこと](5%スクアレン、0.5%Tween80、および0.5%Span85(マイクロフルイダイザーを使用してサブミクロン粒子に処方))など)が含まれる。フロイント完全アジュバント(CFA)およびフロイント不完全アジュバント(IFA)も使用することができる。
【0105】
種々の水中油型エマルジョンアジュバントが公知であり、これらは、典型的には、少なくとも1つの油および少なくとも1つの界面活性剤を含み、油および界面活性剤は生分解性(代謝性)でありかつ生体適合性である。エマルジョン中の油滴は、一般に直径5μm未満であり、理想的にはサブミクロンの直径を有し、マイクロフルイダイザーを使用してこれらの小さなサイズを達成して、安定なエマルジョンを得る。濾過滅菌に供することができるので、220nm未満のサイズの液滴が好ましい。
【0106】
エマルジョンは、動物供給源(魚類など)または植物供給源由来の油などの油を含むことができる。植物油の供給源には、堅果、種子、および穀粒が含まれる。ピーナッツ油、ダイズ油、ヤシ油、およびオリーブ油が、最も一般的に入手可能な堅果油の例である。例えば、ホホバ豆から得たホホバ油を使用することができる。種子油には、ベニバナ油、綿実油、ヒマワリ種子油、およびゴマ種子油などが含まれる。穀粒の群では、コーン油が最も容易に入手可能であるが、小麦、オート麦、ライ麦、米、テフ、ライ小麦などのようなその他の穀類の穀粒の油も用いてよい。グリセロールおよび1,2−プロパンジオールの6〜10炭素の脂肪酸エステル(種子油中に天然に存在しない)を、堅果油および種子油から出発する適切な材料の加水分解、分離、およびエステル化によって調製することができる。哺乳動物の乳汁由来の脂肪および油は代謝性であるので、本発明の実施に際して使用することができる。動物供給源から純粋な油を得るために必要な分離、精製、鹸化、および他の手段のための手順は、当該分野で周知である。ほとんどの魚は、容易に回収することができる代謝性油を含む。例えば、タラ肝油、サメ肝油、および鯨ろうなどの鯨油は、本明細書中で使用することができる魚油のうちのいくつかの例である。多数の分岐鎖油は5炭素イソプレン単位において生化学的合成され、これを一般にテルペノイドという。サメ肝油は、スクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)として公知である分岐不飽和テルペノイドを含み、これは本明細書中で特に好ましい。スクアラン(スクアレンの飽和アナログ)も好ましい油である。魚油(スクアレンおよびスクアランが含まれる)は商業的供給源から容易に利用可能であるか、当該分野で公知の方法によって得ることができる。他の好ましい油はトコフェロールである(以下を参照のこと)。油の混合物を使用することができる。
【0107】
界面活性剤をその「HLB」(親水性/親油性バランス)によって分類することができる。本発明の好ましい界面活性剤のHLBは少なくとも10、好ましくは少なくとも15、より好ましくは少なくとも16である。本発明を、界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(一般にTweenと呼ばれる)(特に、ポリソルベート20およびポリソルベート80);エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、および/またはブチレンオキシド(BO)のコポリマー(DOWFAX(商標)(直鎖EO/POブロックコポリマーなど)で販売);オクトキシノール(エトキシ(オキシ−1,2−エタンジイル)基の反復数で変化し得る)(オクトキシノール−9(Triton X−100(すなわち、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール))が特に興味深い);(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA−630/NP−40);リン脂質(ホスファチジルコリン(レシチン)など);ノニルフェノールエトキシラート(Tergitol(商標)NPシリーズなど);ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、およびオレイルアルコール由来のポリオキシエチレン脂肪エーテル(Brij界面活性剤として公知)(トリエチレングリコールモノラウリルエーテル(Brij 30)など);およびソルビタンエステル(一般にSpanとして公知)(ソルビタントリオレアート(Span85)およびソルビタンモノラウラートなど)が含まれるが、これらに限定されない)と共に使用することができる。非イオン性界面活性剤が好ましい。エマルジョン中に含めるのに好ましい界面活性剤は、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)、Span85(ソルビタントリオレアート)、レシチン、およびTriton X−100である。
【0108】
界面活性剤の混合物を使用することができる(例えば、Tween80/Span85混合物)。ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween80)など)とオクトキシノール(t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(TritonX−100)など)との組み合わせも適切である。別の有用な組み合わせは、ラウレス9+ポリオキシエチレンソルビタンエステルおよび/またはオクトキシノールを含む。
【0109】
界面活性剤の好ましい量(重量%)は以下である:ポリオキシエチレンソルビタンエステル(Tween80など)0.01〜1%(特に約0.1%);オクチルフェノキシポリオキシエタノールまたはノニルフェノキシポリオキシエタノール(TritonX−100など)またはTritonシリーズの他の洗剤)0.001〜0.1%(特に、0.005〜0.02%);ポリオキシエチレンエーテル(ラウレス9など)0.1〜20%(好ましくは0.1〜10%、特に0.1〜1%または約0.5%)。
【0110】
好ましいエマルジョンアジュバントの平均液滴サイズは、1μm未満(例えば、750nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、250nm以下、220nm以下、200nmまたはそれ未満である。これらの液滴サイズを、微小流動化(microfluidisation)などの技術によって都合よく達成することができる。
【0111】
本発明で有用な特定の水中油型エマルジョンアジュバントには、以下が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
・スクアレン、Tween80、およびSpan85のサブミクロンエマルジョン。体積によるエマルジョンの組成は、約5%スクアレン、約0.5%ポリソルベート80、および約0.5%Span85であり得る。重量に関して、これらの比は、4.3%スクアレン、0.5%ポリソルベート80、および0.48%Span85となる。このアジュバントは「MF59」[73〜75]として公知であり、参考文献76の第10章および参考文献77の第12章により詳細に記載されている。MF59エマルジョンは、クエン酸イオンを含むことが有利である(例えば、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液)。
【0113】
・スクアレン、トコフェロール、およびポリソルベート80(Tween80)のエマルジョン。エマルジョンは、リン酸緩衝化生理食塩水を含むことができる。エマルジョンは、Span85(例えば、1%)および/またはレシチンも含むことができる。これらのエマルジョンは、2〜10%スクアレン、2〜10%トコフェロール、および0.3〜3%Tween80を有することができ、スクアレン:トコフェロールの重量比は、好ましくは1以下である。なぜなら、これにより、より安定なエマルジョンが得られるからである。スクアレンおよびTween80は、約5:2の体積比または約11:5の重量比で存在し得る。1つのかかるエマルジョンを、PBS中にTween80を溶解して2%溶液を得、次いで、90mlのこの溶液を(5gのDL−α−トコフェロールおよび5mlスクアレン)の混合物と混合し、次いで、混合物を微小流動化することによって作製することができる。得られたエマルジョンは、サブミクロン油滴(例えば、100nmと250nmとの間、好ましくは約180nmの直径を有する)を有することができる。エマルジョンはまた、3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質A(3d−MPL)を含むことができる。この型の別の有用なエマルジョンは、ヒト用量あたり、0.5〜10mgスクアレン、0.5〜11mgトコフェロール、および0.1〜4mgポリソルベート80を含むことができる[78]。
【0114】
・スクアレン、トコフェロール、およびTriton洗剤(例えば、TritonX−100)のエマルジョン。エマルジョンはまた、3d−MPLを含むことができる(以下を参照のこと)。エマルジョンは、リン酸緩衝液を含むことができる。
【0115】
・ポリソルベート(例えば、ポリソルベート80)、Triton洗剤(例えば、TritonX−100)、およびトコフェロール(例えば、α−トコフェロールスクシネート)を含むエマルジョン。エマルジョンは、これら3つの成分を約75:11:10の(例えば、750μg/ml ポリソルベート80、110μg/ml Triton X−100、および100μg/ml α−トコフェロールスクシネート)の質量比で含むことができ、これらの濃度は、抗原由来のこれらの成分のあらゆる寄与を含むべきである。エマルジョンはまた、スクアレンを含むことができる。エマルジョンはまた、3d−MPLを含むことができる(以下を参照のこと)。水相は、リン酸緩衝液を含むことができる。
【0116】
・スクアラン、ポリソルベート80、およびポロキサマー(poloxamer)401のエマルジョン(「プルロニック(商標)L121」)。エマルジョンを、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)中に処方することができる。このエマルジョンはムラミルジペプチドの有用な送達ビヒクルであり、「SAF−1」アジュバント[79](0.05〜1% Thr−MDP、5%スクアラン、2.5%プルロニックL121、および0.2%ポリソルベート80)中でトレオニル−MDPと共に使用されている。これを、「AF」アジュバント[80](5%スクアラン、1.25%プルロニックL121、および0.2%ポリソルベート80)のようにThr−MDPを使用せずに使用することもできる。微小流動化が好ましい。
【0117】
・スクアレン、水性溶媒、ポリオキシエチレンアルキルエーテル親水性非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(12)セトステアリルエーテル)、および疎水性非イオン性界面活性剤(例えば、ソルビタンエステルまたはマンニドエステル(ソルビタンモノオレアートまたは「Span80」など))を含むエマルジョン。エマルジョンは、好ましくは熱可逆性であり、そして/またはサイズが200nm未満の油滴を少なくとも90%(体積)有する[81]。エマルジョンはまた、1つ以上の以下のものを含むことができる:アルジトール、凍結保護剤(cryoprotective agent)(例えば、糖(ドデシルマルトシドおよび/またはスクロースなど))、および/またはアルキルポリグリコシド。エマルジョンは、TLR4アゴニストを含むことができる[82]。かかるエマルジョンを凍結乾燥することができる。
・スクアレン、ポロキサマー105、およびAbil−Careのエマルジョン[83]。アジュバント添加ワクチン中のこれらの成分の最終濃度(重量)は、5%スクアレン、4%ポロキサマー105(プルロニックポリオール)、および2%Abil−Care85(Bis−PEG/PPG−16/16 PEG/PPG−16/16ジメチコン、カプリル酸トリグリセリド/カプリン酸トリグリセリド)である。
【0118】
・0.5〜50%の油、0.1〜10%のリン脂質、および0.05〜5%の非イオン性界面活性剤を有するエマルジョン。参考文献84に記載のように、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、およびカルジオリピンである。サブミクロン液滴サイズが有利である。
【0119】
・非代謝性油(軽鉱油(light mineral oil))および少なくとも1つの界面活性剤(レシチン、Tween80、またはSpan80など)のサブミクロン水中油型エマルジョン。添加物を含むことができる(QuilAサポニン、コレステロール、サポニン−親油性結合体(グルクロン酸のカルボキシル基を介したデスアシルサポニンへの脂肪族アミンの付加によって生成された参考文献85に記載のGPI−0100など)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、および/またはN,N−ジオクタデシル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロパンジアミンなど)。
【0120】
・らせん状ミセルとしてサポニン(例えば、QuilAまたはQS21)およびステロール(例えば、コレステロール)を会合させたエマルジョン[86]。
【0121】
・鉱油、非イオン性親油性エトキシ化脂肪アルコール、および非イオン性親水性界面活性剤(例えば、エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン[87]。
【0122】
・鉱油、非イオン性親水性エトキシ化脂肪アルコール、および非イオン性親油性界面活性剤(例えば、エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン[87]。
【0123】
いくつかの実施形態では、エマルジョンを、送達時に抗原と即座に混合することができ、したがって、使用時に最終処方物にできる状態でアジュバントおよび抗原をパッケージングされたワクチンまたは分配されたワクチン中で別個に保持することができる。他の実施形態では、エマルジョンを製造中に抗原と混合する。したがって、組成物を液体のアジュバント添加形態でパッケージングする。2つの液体の混合によってワクチンが最終的に調製されるように、抗原は一般に水性形態であろう。混合のための2液体の体積比は変化し得るが(例えば、5:1と1:5との間)、一般に1:1である。上記の特定のエマルジョンの説明で成分の濃度を示す場合、これらの濃度は典型的には非希釈組成物についてである。したがって、抗原溶液との混合後の濃度は減少するであろう。
【0124】
組成物がトコフェロールを含む場合、αトコフェロール、βトコフェロール、γトコフェロール、δトコフェロール、εトコフェロール、またはζトコフェロールのいずれかを使用することができるが、α−トコフェロールが好ましい。トコフェロールは、いくつかの形態を取ることができる(例えば、異なる塩および/または異性体)。塩には、有機塩(コハク酸塩、酢酸塩、ニコチン酸塩など)が含まれる。D−α−トコフェロールおよびDL−α−トコフェロールの両方を使用することができる。高齢患者(例えば、60歳以上)用のワクチン中にトコフェロールを含めることが有利である。何故なら、ビタミンEはこの患者群における免疫応答に正の効果を有すると報告されているからである[88]。トコフェロールは抗酸化特性も有し、これは、エマルジョンの安定化に役立ち得る[89]。好ましいα−トコフェロールはDL−α−トコフェロールであり、このトコフェロールの好ましい塩はコハク酸塩である。コハク酸塩は、in vivoでTNF関連リガンドと連携することが見出されている。
【0125】
C.サポニン処方物[参考文献76の第22章]
サポニン処方物を本発明におけるアジュバントとして使用することもできる。サポニンは、ステロールグリコシドおよびトリテルペノイドグリコシドの不均質な群であり、広範な植物種の樹皮、葉、幹、根で見出され、花にさえも見出される。Quillaia saponaria Molina treeの樹皮由来のサポニンは、アジュバントとして広く研究されている。Smilax ornata(sarsaprilla)、Gypsophilla paniculata(brides veil)、およびSaponaria officianalis(soap root)由来のサポニンを購入することもできる。サポニンアジュバント処方物には、精製処方物(QS21など)および脂質処方物(ISCOMなど)が含まれる。QS21は、Stimulon(商標)として市販されている。
【0126】
サポニン組成物は、HPLCおよびRP−HPLCを使用して精製されている。これらの技術を使用した特定の精製画分が同定されている(QS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−B、およびQH−Cが含まれる)。好ましくは、サポニンはQS21である。QS21の産生方法は、参考文献90に開示されている。サポニン処方物はまた、ステロール(コレステロールなど)を含むことができる[91]。
【0127】
サポニンとコレステロールとの組み合わせを使用して、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれる固有の粒子を形成することができる[参考文献76の第23章]。ISCOMは、典型的には、リン脂質(ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンなど)も含む。任意の公知のサポニンをISCOMで使用することができる。好ましくは、ISCOMは、QuilA、QHA、およびQHCのうちの1つ以上を含む。ISCOMは、参考文献91〜93にさらに記載されている。任意選択的に、ISCOMSは、追加の洗剤を欠き得る[94]。
【0128】
サポニンベースアジュバント開発の概説を、参考文献95および96で見出すことができる。
【0129】
D.ビロソームおよびウイルス様粒子
ビロソームおよびウイルス様粒子(VLP)を、本発明でアジュバントとして使用することもできる。これらの構造は、一般に、任意選択的にリン脂質と組み合わせたか処方したウイルス由来の1つ以上のタンパク質を含む。これらは一般に非病原性であり、増幅せず、かつ一般にいかなる天然のウイルスゲノムも含まない。ウイルスタンパク質を組換え的に産生するか、全ウイルスから単離することができる。ビロソームまたはVLPでの使用に適切なこれらのウイルスタンパク質には、インフルエンザウイルス由来のタンパク質(HAまたはNAなど)、B型肝炎ウイルス由来のタンパク質(コアタンパク質またはキャプシドタンパク質など)、E型肝炎ウイルス由来のタンパク質、麻疹ウイルス由来のタンパク質、シンドビス・ウイルス由来のタンパク質、ロタウイルス由来のタンパク質、口蹄疫ウイルス由来のタンパク質、レトロウイルス由来のタンパク質、ノーウォークウイルス由来のタンパク質、ヒト乳頭腫ウイルス由来のタンパク質、HIV由来のタンパク質、RNA−ファージ由来のタンパク質、Qβ−ファージ由来のタンパク質(外被タンパク質など)、GA−ファージ由来のタンパク質、fr−ファージ由来のタンパク質、AP205ファージ由来のタンパク質、およびTy由来のタンパク質(レトロトランスポゾンTyタンパク質p1など)が含まれる。VLPは、参考文献97〜102でさらに考察されている。ビロソームは、例えば、参考文献103でさらに考察されている。
【0130】
E.細菌または微生物の誘導体
本発明での使用に適切なアジュバントには、腸内細菌リポ多糖(LPS)の非毒性誘導体、脂質A誘導体、免疫刺激オリゴヌクレオチド、およびADP−リボシル化毒素、およびその解毒誘導体などの細菌または微生物の誘導体が含まれる。
【0131】
LPSの非毒性誘導体には、モノホスホリル脂質A(MPL)および3−O−脱アシル化MPL(3dMPL)が含まれる。3dMPLは、3脱−O−アシル化モノホスホリルリピドA(3 de−O−acylated monophosphoryl lipid A)の、4、5、または6のアシル化された鎖を有するものの混合物である。3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質Aの好ましい「小粒子」形態は、参考文献104に開示されている。かかる3dMPLの「小粒子」は、0.22μm膜を通して濾過滅菌するのに十分に小さい[104]。他の非毒性LPS誘導体としては、モノホスホリルリピドA模倣物、例えば、アミノアルキルグルコサミニドホスフェート誘導体(例えば、RC−529)が挙げられる[105、106]。
【0132】
脂質A誘導体には、大腸菌由来の脂質Aの誘導体(OM−174など)が含まれる。OM−174は、例えば、参考文献107および108に記載されている。
【0133】
本発明でのアジュバントとしての使用に適切な免疫刺激オリゴヌクレオチドには、CpGモチーフを含むヌクレオチド配列(グアノシンへのリン酸結合(phosphate bond)によって連結された非メチル化シトシンを含むジヌクレオチド配列)が含まれる。回文配列またはポリ(dG)配列を含む二本鎖RNAおよびオリゴヌクレオチドは、免疫刺激性であることも示されている。
【0134】
CpGはヌクレオチド修飾/アナログ(ホスホロチオエート修飾など)を含むことができ、二本鎖または一本鎖であり得る。参考文献109、110、および111は、可能なアナログ置換を開示している(例えば、グアノシンの2’−デオキシ−7−デアザグアノシンとの置換)。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント効果は、参考文献112〜117でさらに考察されている。
【0135】
CpG配列をTLR9に指向することができる(モチーフGTCGTTまたはTTCGTTなど)[118]。CpG配列はTh1免疫応答の誘導に特異的であり得るか(CpG−A ODNなど)、B細胞応答の誘導により特異的であり得る(CpG−B ODNなど)。CpG−A ODNおよびCpG−B ODNは、参考文献119〜121で考察されている。好ましくは、CpGはCpG−A ODNである。
【0136】
好ましくは、受容体認識のために5’末端に接近可能であるようにCpG オリゴヌクレオチドを構築する。任意選択的に、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列を3’末端で結合させて、「イムノマー(immunomer)」を形成することができる。例えば、参考文献118および122〜124を参照のこと。
【0137】
有用なCpGアジュバントはCpG7909(ProMune(商標)(Coley Pharmaceutical Group,Inc.)としても公知)である。別のものはCpG1826である。CpG配列を使用することの代わりとしてまたはそれに加えて、TpG配列を使用することができ[125]、これらのオリゴヌクレオチドは非メチル化CpGモチーフを含まなくてよい。免疫刺激オリゴヌクレオチドはピリミジンリッチであり得る。例えば、免疫刺激オリゴヌクレオチドは、1つを超える連続するチミジンヌクレオチド(例えば、参考文献125に開示のTTTT)を含むことができ、そして/または25%超のチミジン(例えば、35%超、40%超、50%超、60%超、80%超など)を有するヌクレオチド組成を有することができる。例えば、免疫刺激オリゴヌクレオチドは、1つを超える連続するシトシンヌクレオチド(例えば、参考文献125に開示のCCCC)を含むことができ、そして/または25%超のシトシン(例えば、35%超、40%超、50%超、60%超、80%超など)を有するヌクレオチド組成を有することができる。これらのオリゴヌクレオチドは、非メチル化CpGモチーフを含まなくて良い。免疫刺激オリゴヌクレオチドは、典型的には、少なくとも20個のヌクレオチドを含むであろう。免疫刺激オリゴヌクレオチドは、100個未満のヌクレオチドを含むことができる。
【0138】
免疫刺激オリゴヌクレオチドに基づいた特に有用なアジュバントは、IC−31(商標)として公知である[126]。したがって、本発明で使用されるアジュバントは、(i)少なくとも1つの(好ましくは複数の)CpIモチーフ(すなわち、ジヌクレオチドを形成するためにイノシンに連結したシトシン)を含むオリゴヌクレオチド(例えば、15〜40ヌクレオチド)と、(ii)ポリカチオン性ポリマー(少なくとも1つの(好ましくは複数の)Lys−Arg−Lysトリペプチド配列を含むオリゴペプチド(例えば、5〜20アミノ酸)など)との混合物を含むことができる。オリゴヌクレオチドは、26merの配列5’−(IC)13−3’(配列番号6)を含むデオキシヌクレオチドであり得る。ポリカチオン性ポリマーは、11merのアミノ酸配列KLKLLLLLKLK(配列番号7)を含むペプチドであり得る。オリゴヌクレオチドおよびポリマーは、例えば、参考文献127および128に開示の複合体を形成することができる。
【0139】
細菌ADP−リボシル化毒素およびその解毒誘導体を、本発明でアジュバントとして使用することができる。好ましくは、タンパク質は、大腸菌(大腸菌熱不安定性エンテロトキシン「LT」)、コレラ(「CT」)、または百日咳(「PT」)に由来する。粘膜アジュバントとしての解毒ADP−リボシル化毒素の使用は、参考文献129に記載されており、非経口アジュバントとしての使用は参考文献130に記載されている。毒素またはトキソイドは、好ましくは、AサブユニットおよびBサブユニットの両方を含むホロ毒素の形態である。好ましくは、Aサブユニットは解毒変異を含み、好ましくは、Bサブユニットは変異していない。好ましくは、アジュバントは解毒LT変異体(LT−K63、LT−R72、およびLT−G192など)である。ADP−リボシル化毒素およびその解毒誘導体(特に、LT−K63およびLT−R72)のアジュバントとしての使用を、参考文献131〜138に見出すことができる。有用なCT変異体はCT−E29Hである[139]。アミノ酸置換についての数値での参照は、好ましくは、参考文献140(特にその全体が本明細書中で参照として援用される)に記載のADP−リボシル化毒素のAサブユニットおよびBサブユニットのアラインメントに基づく。
【0140】
F.ヒト免疫調節因子
本発明でのアジュバントとしての使用に適切なヒト免疫調節因子には、サイトカイン(インターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−12[141]など)[142]、インターフェロン(例えば、インターフェロン−γ)、マクロファージコロニー刺激因子、および腫瘍壊死因子など)が含まれる。好ましい免疫調節因子はIL−12である。
【0141】
G.生体接着剤および粘膜接着剤
生体接着剤および粘膜接着剤を、本発明におけるアジュバントとして使用することもできる。適切な生体接着剤には、エステル化ヒアルロン酸ミクロスフィア[143]または粘膜接着剤(ポリ(アクリル酸)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリサッカリド、およびカルボキシメチルセルロースの架橋誘導体など)が含まれる。キトサンおよびその誘導体を、本発明中でアジュバントとして使用することもできる[144]。
【0142】
H.微粒子
微粒子を、本発明におけるアジュバントとして使用することもできる。ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)を使用して生分解性且つ非毒性の材料(例えば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトンなど)から形成した微粒子(すなわち、直径約100nm〜約150μm、より好ましくは直径約200nm〜約30μm、最も好ましくは直径約500nm〜約10μmの粒子)が好ましく、任意選択的に、負に荷電した表面(例えば、SDSを使用)または正に荷電した表面(例えば、CTABなどのカチオン性洗剤を使用)を有するように処理する。
【0143】
I.リポソーム(参考文献76の第13章および第14章)
アジュバントとしての使用に適切なリポソーム処方物の例は、参考文献145〜147に記載されている。
【0144】
J.ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル処方物
本発明での使用に適切なアジュバントには、ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステルが含まれる[148]。かかる処方物には、さらに、オクトキシノールと組み合わせたポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤[149]および少なくとも1つのさらなる非イオン性界面活性剤(オクトキシノールなど)と組み合わせたポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤[150]が含まれる。好ましいポリオキシエチレンエーテルは、以下の群から選択される:ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン−9−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−8−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテル。
【0145】
K.ホスファゼン
ホスファゼン(例えば、参考文献151および152に記載のポリ[ジ(カルボキシラトフェノキシ)ホスファゼン](「PCPP」)など)を使用することができる。
【0146】
L.ムラミルペプチド
本発明でのアジュバントとしての使用に適切なムラミルペプチドの例には、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、およびN−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミンMTP−PE)が含まれる。
【0147】
M.イミダゾキノロン化合物。
【0148】
本発明でのアジュバントとしての使用に適切なイミダゾキノロン化合物の例には、イミキモド(Imiquimod)(「R−837」)[153、154]、レシキモド(Resiquimod)(「R−848」)[155]、そのアナログ、およびその塩(例えば、塩酸塩)が含まれる。免疫刺激性イミダゾキノリンについてのさらなる詳細を、参考文献156〜160で見出すことができる。
【0149】
N.置換尿素
アジュバントとして有用な置換尿素には、参考文献161に定義の以下の式I、II、もしくはIII:
【0150】
【化1】

の化合物またはその塩(「ER803058」、「ER803732」、「ER804053」、「ER804058」、「ER804059」、「ER804442」、「ER804680」、「ER804764」、ER803022、または「ER804057」など)(例えば、
【0151】
【化2】

)が含まれる。
【0152】
O.さらなるアジュバント
本発明で使用することができるさらなるアジュバントには以下が含まれる。
【0153】
・黄色ブドウ球菌ワクチンのための有用なアジュバントとして報告されている環状ジグアニレート(「c−di−GMP」)[162]。
【0154】
・チオセミカルバゾン化合物(参考文献163に開示のものなど)。活性化合物を処方、製造、およびスクリーニングする方法も参考文献163に記載されている。チオセミカルバゾンは、TNF−αなどのサイトカインの産生のためのヒト末梢血単核細胞の刺激で特に有効である。
【0155】
・トリプタントリン(tryptanthrin)化合物(参考文献164に開示のものなど)。活性化合物を処方、製造、およびスクリーニングする方法も参考文献164に記載されている。チオセミカルバゾンは、TNF−αなどのサイトカインの産生のためのヒト末梢血単核細胞の刺激で特に有効である。
【0156】
・ヌクレオシドアナログ((a)イサトラビン(Isatorabine)(ANA−245;7−チア−8−オキソグアノシン):
【0157】
【化3】

およびそのプロドラッグ;(b)ANA975;(c)ANA−025−1;(d)ANA380;(e)参考文献165〜167に開示の化合物ロキソリビン(7−アリル−8−オキソグアノシン)など)[168]。
【0158】
・参考文献169に開示の化合物(アシルピペラジン化合物、インドールジオン化合物、テトラヒドライソキノリン(THIQ)化合物、ベンゾシクロジオン化合物、アミノアザビニル化合物、アミノベンズイミダゾールキノリノン(ABIQ)化合物[170、171]、ヒドラフタルアミド化合物、ベンゾフェノン化合物、イソキサゾール化合物、ステロール化合物、キナジリノン化合物、ピロール化合物[172]、アントラキノン化合物、キノキサリン化合物、トリアジン化合物、ピラゾロピリミジン(pyrazalopyrimidine)化合物、およびベンザゾール化合物[173]が含まれる)。
【0159】
・ホスフェート含有非環式骨格に連結された脂質を含む化合物(TLR4アンタゴニストE5564など[174、175])。
【0160】
・ポリオキシドニウムポリマー[176、177]または他のN酸化ポリエチレン−ピペラジン誘導体。
【0161】
・メチルイノシン5’−モノホスフェート(「MIMP」)[178]。
【0162】
・ポリヒドロキシル化ピロリジジン化合物[179]あるいはその薬学的に許容される塩または誘導体、例えば、以下の式を持つもの:
【0163】
【化4】

ここで、Rは、水素、直鎖または分岐鎖である非置換または置換された飽和または不飽和のアシル基、アルキル基(例えば、シクロアルキル基)、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基を含む群から選択される。例には、カスアリン、カスアリン−6−α−D−グルコピラノース、3−エピ−カスアリン、7−エピ−カスアリン、3,7−ジエピ−カスアリンなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0164】
・CD1dリガンド(α−グリコシルセラミド[180〜187](例えば、α−ガラクトシルセラミド)、フィトスフィンゴシン含有α−グリコシルセラミド、OCH、KRN7000((2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタデカントリオール)、CRONY−101、3”−O−スルホ−ガラクトシルセラミドなど)。
【0165】
・γイヌリン[188]またはその誘導体(アルガムリン(algammulin)など)。
【0166】
【化5】

アジュバントの組み合わせ
本発明はまた、上記で同定されたアジュバントの1つ以上の組み合わせを含むことができる。例えば、以下のアジュバント組成物を本発明で使用することができる:(1)サポニンおよび水中油型エマルジョン[189];(2)サポニン(例えば、QS21)+非毒性LPS誘導体(例えば、3dMPL)[190];(3)サポニン(例えば、QS21)+非毒性LPS誘導体(例えば、3dMPL)+コレステロール;(4)サポニン(例えば、QS21)+3dMPL+IL−12(任意選択的に、+ステロール)[191];(5)3dMPLと、例えば、QS21および/または水中油型エマルジョンとの組み合わせ[192];(6)10%スクアラン、0.4%Tween80(商標)、5%プルロニック−ブロックポリマーL121、およびthr−MDPを含み、サブミクロンエマルジョンに微小流動化されたかまたはボルテックスされてより大きな粒子サイズのエマルジョンにしたSAF、(7)2%スクアレン、0.2%Tween80、およびモノホスホリル脂質A(MPL)、トレハロースジミコラート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)(好ましくは、MPL+CWS(Detox(商標))からなる群由来の1つ以上の細菌細胞壁成分を含むRibi(商標)アジュバント系(RAS)(Ribi Immunochem);および(8)1つ以上の無機塩(アルミニウム塩など)+LPSの非毒性誘導体(3dMPLなど)。
【0167】
免疫刺激剤として作用する他の物質は、参考文献76の第7章に開示されている。
【0168】
水酸化アルミニウムおよび/またはリン酸アルミニウムアジュバントの使用が特に好ましく、抗原を一般にこれらの塩に吸着させる。リン酸カルシウムは別の好ましいアジュバントである。他の好ましいアジュバントの組み合わせには、Th1アジュバントとTh2アジュバントとの組み合わせ(CpGおよびミョウバンまたはレシキモドおよびミョウバンなど)が含まれる。リン酸アルミニウムと3dMPLとの組み合わせを使用することができる。
【0169】
本発明の組成物は、細胞媒介免疫応答および体液性免疫応答の両方を誘発することができる。この免疫応答は、好ましくは、肺炎球菌への曝露の際に迅速に応答することができる持続性(例えば、中和)抗体および細胞媒介免疫を誘導するであろう。
【0170】
2つのT細胞型(CD4細胞およびCD8細胞)は、一般に、細胞媒介免疫および体液性免疫を開始および/または増強する必要があると考えられる。CD8T細胞はCD8共受容体を発現することができ、これを一般に細胞傷害性Tリンパ球(CTL)という。CD8T細胞は、MHCクラスI分子上に提示された抗原を認識するかこれと相互作用することができる。
【0171】
CD4T細胞はCD4共受容体を発現することができ、一般にTヘルパー細胞という。CD4T細胞は、MHCクラスII分子に結合した抗原性ペプチドを認識することができる。MHCクラスII分子との相互作用の際、CD4細胞は、サイトカインなどの因子を分泌することができる。これらの分泌されたサイトカインは、B細胞、細胞傷害性T細胞、マクロファージ、および免疫応答に関与する他の細胞を活性化することができる。ヘルパーT細胞またはCD4+細胞を、以下の2つの機能的に異なるサブセットにさらに分類することができる:そのサイトカインおよびエフェクターの機能が異なるTH1表現型およびTH2表現型。
【0172】
活性化されたTH1細胞は、細胞性免疫(抗原特異的CTL産生の増加が含まれる)を増強し、したがって、細胞内感染に対する応答で特に有益である。活性化されたTH1細胞は、IL−2、IFN−γ、およびTNF−βのうちの1つ以上を分泌することができる。TH1免疫応答により、マクロファージ、NK(ナチュラルキラー)細胞、およびCD8細胞傷害性T細胞(CTL)の活性化による局所炎症反応が起こり得る。TH1免疫応答はまた、IL−12でのB細胞およびT細胞の成長を刺激することによって免疫応答を拡大するように作用することができる。TH1刺激されたB細胞はIgG2aを分泌することができる。
【0173】
活性化されたTH2細胞は抗体産生を増強し、したがって、細胞外感染に対する応答で有益である。活性化されたTH2細胞は、IL−4、IL−5、IL−6、およびIL−10のうちの1つ以上を分泌することができる。TH2免疫応答により、将来の防御のためのIgG1、IgE、IgA、および記憶B細胞の産生をもたらすことができる。
【0174】
増強された免疫応答には、増強されたTH1免疫応答およびTH2免疫応答のうちの1つ以上が含まれ得る。
【0175】
TH1免疫応答には、CTLの増加、1つ以上のTH1免疫応答に関連するサイトカイン(IL−2、IFN−γ、およびTNF−βなど)の増加、活性化されたマクロファージの増加、NK活性の増加、またはIgG2a産生の増加のうちの1つ以上が含まれ得る。好ましくは、増強されたTH1免疫応答には、IgG2a産生の増加が含まれるであろう。
【0176】
TH1免疫応答を、TH1アジュバントを使用して誘発することができる。TH1アジュバントは、一般に、アジュバントを使用しない抗原の免疫化と比較して、IgG2a産生レベルの増加を誘発するであろう。本発明での使用に適切なTH1アジュバントには、例えば、サポニン処方物、ビロソームおよびウイルス様粒子、腸内細菌リポ多糖(LPS)の非毒性誘導体、免疫刺激オリゴヌクレオチドが含まれ得る。免疫刺激オリゴヌクレオチド(CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドなど)は、本発明での使用に好ましいTH1アジュバントである。
【0177】
TH2免疫応答には、1つ以上のTH2免疫応答に関連するサイトカイン(IL−4、IL−5、IL−6、およびIL−10など)の増加またはIgG1、IgE、IgA、および記憶B細胞の産生の増加の1つ以上が含まれ得る。好ましくは、増強されたTH2免疫応答(resonse)には、IgG1産生の増加が含まれるであろう。
【0178】
TH2免疫応答を、TH2アジュバントを使用して誘発することができる。TH2アジュバントは、一般に、アジュバントを使用しない抗原の免疫化と比較して、IgG1産生レベルの増加を誘発するであろう。本発明での使用に適切なTH2アジュバントには、例えば、ミネラル含有組成物、油エマルジョン、およびADP−リボシル化毒素およびその解毒誘導体が含まれる。ミネラル含有組成物(アルミニウム塩など)は、本発明での使用に好ましいTH2アジュバントである。
【0179】
好ましくは、本発明は、TH1アジュバントとTH2アジュバントとの組み合わせを含む組成物を含む。好ましくは、かかる組成物は、増強されたTH1応答および増強されたTH2応答(すなわち、アジュバントを使用しない免疫化と比較して、IgG1およびIgG2aの両方の産生の増加)を誘発する。さらにより好ましくは、TH1アジュバントとTH2アジュバントとの組み合わせを含む組成物は、単一アジュバントを使用した免疫化と比較して(すなわち、TH1アジュバントのみを使用した免疫化またはTH2アジュバントのみを使用した免疫化と比較して)、増加したTH1免疫応答および/または増加したTH2免疫応答を誘発する。
【0180】
免疫応答は、TH1免疫応答およびTH2応答の一方または両方であり得る。好ましくは、免疫応答により、増強されたTH1応答および増強されたTH2応答の一方または両方が得られる。
【0181】
増強された免疫応答は、全身免疫応答および粘膜免疫応答の一方または両方であり得る。好ましくは、免疫応答により、増強された全身免疫応答および増強された粘膜免疫応答の一方または両方が得られる。好ましくは、粘膜免疫応答はTH2免疫応答である。好ましくは、粘膜免疫応答には、IgA産生の増加が含まれる。
【0182】
黄色ブドウ球菌感染は身体の種々の領域に影響を及ぼし得るので、本発明の組成物を、種々の形態で調製することができる。例えば、組成物を、溶液または懸濁液のいずれかとしての注射液として調製することができる。注射前の液体ビヒクル中の溶液または懸濁液に適切な固体形態も調製することができる(例えば、凍結乾燥組成物または噴霧−凍結乾燥組成物)。例えば、軟膏、クリーム、または粉末として局所投与用の組成物を調製することができる。経口投与用の組成物を、例えば、錠剤もしくはカプセル、スプレー、またはシロップ(任意選択的に、風味づけする)として調製することができる。肺投与用の組成物を、例えば、微細な粉末またはスプレーを使用した吸入器として調製することができる。組成物を、坐剤またはペッサリーとして調製することができる。鼻、耳、または眼への投与のための組成物を、例えば、点滴剤として調製することができる。組成物は、合わせた組成物が患者への投与直前に再構成されるようにデザインされたキット形態であり得る。かかるキットは、液体形態の1つ以上の抗原および1つ以上の凍結乾燥抗原を含むことができる。
【0183】
組成物が使用前に即席で調製され(例えば、成分が凍結乾燥形態で存在する場合)、且つキットとして提示される場合、キットは2つのバイアルを含むことができるか、1つの予め充填されたシリンジおよび1つのバイアルを含むことができ、シリンジの内容物を使用して、注射前にバイアルの内容物を再活性化する。
【0184】
ワクチンとして使用される免疫原性組成物は、免疫学的に有効な量の抗原および必要に応じた任意の他の成分を含む。「免疫学的に有効な量」によって、単回用量または一連の用量の一部のいずれかでの個体への投与量が処置または予防に有効であることを意味する。この量は、処置される個体の健康状態および身体の状態、年齢、処置される個体の分類群(例えば、非ヒト霊長類、霊長類など)、個体の免疫系の抗体合成能力、所望される防御の程度、ワクチンの処方、処置を行う医師の医学的状況の評価、および他の関連する要因に応じて変化する。この量は、比較的広い範囲に含まれ、これを慣用的な試験によって決定することができると予想される。1つを超える抗原が組成物中に含まれる場合、2つの抗原は相互に同一の用量または異なる用量で存在することができる。
【0185】
上記のように、組成物は温度保護剤を含むことができ、この成分は特にアジュバント添加組成物(特に、アルミニウム塩などの無機アジュバントを含むもの)で有用であり得る。参考文献193に記載のように、その凝固点を低下させるために(例えば、凝固点を0℃未満に低下させるために)、液体温度保護剤を水性ワクチン組成物に添加することができる。したがって、組成物を0℃未満であるがその凝固点より高い温度で保存して、熱による分解を阻止することができる。温度保護剤はまた、無機塩アジュバントを凍結融解後の凝集または沈殿から保護しながら組成物を凍結させ、高温(例えば、40℃超)でもこの組成物を保護することもできる。液体温度保護剤が最終混合物の体積で1%〜80%を形成するように、出発水性ワクチンおよび液体温度保護剤を混合することができる。適切な温度保護剤は、ヒト投与に安全であり、水において容易に混和性/可溶性であるべきであり、かつ組成物中の他の成分(例えば、抗原およびアジュバント)に損傷を与えるべきではない。例には、グリセリン、プロピレングリコール、および/またはポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。適切なPEGの平均分子量は、200Da〜20,000Daの範囲であり得る。好ましい実施形態では、ポリエチレングリコールの平均分子量は、約300Da(「PEG−300」)であり得る。
【0186】
本発明は、(i)第1の抗原群、第2の抗原群、第3の抗原群、または第4の抗原群から選択される1つ以上の抗原および(ii)温度保護剤を含む免疫原性組成物を提供する。この組成物を(i)、第1の抗原群、第2の抗原群、第3の抗原群、または第4の抗原群から選択される1つ以上の抗原を含む水性組成物と、(ii)温度保護剤とを混合することによって形成することができる。次いで、混合物を、例えば、0℃未満、0℃〜20℃、20℃〜35℃、35℃〜55℃、またはそれを超える温度で保存することができる。これを、液体形態または凍結形態で保存することができる。混合物を凍結乾燥することができる。あるいは、組成物を、(i)第1の抗原群、第2の抗原群、第3の抗原群、または第4の抗原群から選択される1つ以上の抗原を含む乾燥組成物と、(ii)温度保護剤を含む液体組成物とを混合することによって形成することができる。したがって、成分(ii)を使用して、成分(i)を再構成することができる。
【0187】
処置方法およびワクチンの投与
本発明はまた、有効量の本発明の抗原、タンパク質、または免疫原性組成物を投与する工程を含む、哺乳動物における免疫応答を惹起するための方法を提供する。免疫応答は、防御性のものが好ましく、抗体媒介免疫および/または細胞媒介免疫を含むことが好ましい。本方法は、追加免疫応答(booster response)を惹起することができる。
【0188】
本発明はまた、有効量の本発明の抗原、タンパク質、または免疫原性組成物を投与する工程を含む、黄色ブドウ球菌に対して哺乳動物を免疫化するための方法を提供する。
【0189】
本発明はまた、黄色ブドウ球菌疾患および/または黄色ブドウ球菌感染に対する免疫化のための医薬の製造におけるBAA抗原の使用を提供する。
【0190】
本発明はまた、治療で用いるための本発明の融合タンパク質または免疫原性組成物を提供する。
【0191】
本発明はまた、黄色ブドウ球菌疾患および/または黄色ブドウ球菌感染に対する免疫化のための医薬の製造における本発明の融合タンパク質の使用を提供する。
【0192】
本発明は、治療で用いるための本発明の抗BAA抗体を提供する。本発明はまた、黄色ブドウ球菌疾患および/または黄色ブドウ球菌感染の防御および/または処置のための医薬の製造における抗BAA抗体の使用を提供する。
【0193】
これらの使用および方法による哺乳動物における免疫応答の惹起により、哺乳動物を黄色ブドウ球菌感染(院内感染が含まれる)から防御することができる。より詳細には、哺乳動物を、カテーテル関連血流感染(catheter related blood stream infection)、皮膚感染、肺炎、髄膜炎、骨髄炎、心内膜炎、トキシックショック症候群、および/または敗血症から防御することができる。
【0194】
本発明はまた、本発明の免疫原性組成物を予め充填した送達デバイスを提供する。
【0195】
哺乳動物は、好ましくは、ヒトである。ワクチンが予防用である場合、ヒトは、好ましくは、小児(例えば、よちよち歩きの小児(toddler)または乳児)またはティーンエージャーであり、ワクチンが治療用である場合、ヒトは、好ましくは、ティーンエージャーまたは成人である。例えば、安全性、投薬量、免疫原性などを評価するために、小児用ワクチンを成人に投与することもできる。本発明にしたがって有用に免疫化することができる他の哺乳動物は、ウシ、イヌ、ウマ、およびブタである。
【0196】
治療上の処置の有効性をチェックするための1つの方法は、本発明の組成物の投与後の黄色ブドウ球菌感染のモニタリングを含む。予防上の処置の有効性をチェックするための1つの方法は、本発明の組成物の投与後の本発明の組成物中の抗原に対する全身(IgG1およびIgG2aの産生レベルのモニタリングなど)および/または粘膜(IgA産生レベルのモニタリングなど)の免疫応答のモニタリングを含む。典型的には、抗原特異的血清抗体応答を免疫化後の他に攻撃誘発前に決定するのに対して、抗原特異的粘膜抗体応答は、免疫化後および攻撃誘発後に決定する。
【0197】
本発明の組成物の免疫原性を評価する別の方法は、免疫ブロットおよび/またはマイクロアレイによる患者の血清または粘膜の分泌物をスクリーニングするためにタンパク質を組換え的に発現することである。タンパク質と患者サンプルとの間の陽性反応は、患者が、問題のタンパク質に対する免疫応答を確立した(mount)ことを示す。この方法を使用して、抗原内の免疫優性の抗原および/またはエピトープを同定することもできる。
【0198】
ワクチン組成物の有効性を、ワクチン組成物での黄色ブドウ球菌感染の動物モデル(例えば、モルモットまたはマウス)の攻撃誘発(challenge)によってin vivoで決定することもできる。特に、黄色ブドウ球菌感染症研究のための有用な動物モデルは3つ(すなわち、(i)マウス膿瘍モデル[194]、(ii)マウス致死的感染モデル[194]、および(iii)マウス肺炎モデル[195])存在する。膿瘍モデルは、静脈内攻撃誘発後のマウス腎臓中の膿瘍を検査する。致死的感染モデルは、静脈内経路または腹腔内経路による通常の致死量の黄色ブドウ球菌による感染後に生存するマウスの数を検査する。肺炎モデルも生存率を検査するが、鼻腔内感染を使用する。有用なワクチンは、これらのモデルのうちの1つ以上で有効であり得る。例えば、いくつかの臨床的状況について、血液への拡散の防止やオプソニン作用の促進を必要とすることなく肺炎から防御することが望ましいかもしれない。他の状況では、血液への拡散を防止することが最も望ましいかもしれない。異なる抗原および異なる抗原の組み合わせは、有効なワクチンの異なる態様に寄与し得る。
【0199】
本発明の組成物を、一般に、患者に直接投与するであろう。非経口注射(例えば、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、または組織の間質腔内)によるか、粘膜(直腸、経口(例えば、錠剤、スプレー)、膣、局所、経皮(transdermal)または経皮(transcutaneous)、鼻腔内、眼、耳、肺、または他の粘膜投与など)によって直接送達させることができる。
【0200】
本発明を使用して、全身免疫および/または粘膜免疫を誘発し、好ましくは、増強された全身免疫および/または粘膜免疫を誘発することができる。
【0201】
好ましくは、全身免疫および/または粘膜免疫の増強は、TH1および/またはTH2免疫応答の増強を反映する。好ましくは、免疫応答の増強には、IgG1および/またはIgG2aおよび/またはIgAの産生の増加が含まれる。
【0202】
単回用量スケジュールまたは複数用量スケジュールによって投薬することができる。複数用量を、一次免疫化スケジュールおよび/または追加免疫化スケジュールで使用することができる。複数用量スケジュールでは、同一または異なる経路(例えば、非経口での初回刺激(prime)および粘膜の追加刺激(boost)、粘膜の初回刺激および非経口の追加刺激など)によって種々の用量を投与することができる。複数用量を、典型的には、少なくとも1週間間隔(例えば、約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間、約12週間、約16週間など)で投与するであろう。
【0203】
本発明にしたがって調製したワクチンを使用して、小児および成人の両方を処置することができる。したがって、ヒト患者は、1歳未満、1〜5歳、5〜15歳、15〜55歳、または少なくとも55歳であり得る。ワクチンを受容するのに好ましい患者は、高齢者(例えば、50歳以上、60歳以上、好ましくは65歳以上)、若年者(例えば、5歳以下)、入院患者、医療従事者、軍務従事者および軍関係者、妊婦、慢性疾患患者、または免疫不全患者である。しかし、ワクチンはこれらの群のみに適切なのではなく、集団でより一般的に使用することができる。
【0204】
本発明によって産生されたワクチンを、他のワクチンと実質的に同時に(例えば、インフルエンザワクチン、麻疹ワクチン、ムンプスワクチン、風疹ワクチン、MMRワクチン、水痘ワクチン、MMRVワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、DTPワクチン、結合体化インフルエンザ菌b型ワクチン、不活化ポリオウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、髄膜炎菌結合体ワクチン(4価A−C−W135−Yワクチンなど)、呼吸器合胞体ウイルスワクチンなどと実質的に同時)(例えば、医療専門家またはワクチン接種センターに対する同時期の医学的相談または訪問中に)患者に投与することができる。同時投与に適切なさらなる非黄色ブドウ球菌ワクチンには、参考文献58の33〜46頁に列挙した1つ以上の抗原が含まれ得る。
【0205】
核酸免疫化
上記の免疫原性組成物には、黄色ブドウ球菌由来のポリペプチド抗原が含まれる。しかし、全ての場合、ポリペプチド抗原を、このポリペプチドをコードする核酸(典型的にはDNA)と置換して、核酸免疫化に基づいた組成物、方法、および使用を得ることができる。核酸免疫化は、現在、発展した分野である(例えば、参考文献196〜203などを参照のこと)。
【0206】
免疫原をコードする核酸は、患者への送達後にin vivoで発現し、次いで、発現した免疫原は、免疫系を刺激する。有効成分は、典型的には、(i)プロモーター;(ii)プロモーターに作動可能に連結された免疫原をコードする配列;および、任意選択的に、(iii)選択マーカーを含む核酸ベクターの形態を取るであろう。好ましいベクターは、(iv)複製起点および(v)(ii)の下流に存在し、且つ(ii)に作動可能に連結された転写ターミネーターをさらに含むことができる。一般に、(i)および(v)は真核生物のものであり、(iii)および(iv)は原核生物のものであろう。
【0207】
好ましいプロモーターは、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)由来のウイルスプロモーターである。ベクターは、プロモーターに加えて、プロモーターと機能的に相互作用する転写調節配列(例えば、エンハンサー)も含むことができる。好ましいベクターは最初期CMVエンハンサー/プロモーターを含み、より好ましいベクターはCMVイントロンAも含む。免疫原をコードする配列の発現がプロモーターの調節下にあるように、免疫原をコードする下流配列にプロモーターを作動可能に連結する。
【0208】
マーカーを使用する場合、マーカーは、好ましくは、微生物宿主(例えば、原核生物、細菌、酵母)中で機能する。マーカーは、好ましくは、原核生物選択マーカー(例えば、原核生物プロモーターの調節下で転写される)である。便宜上、典型的なマーカーは抗生物質耐性遺伝子である。
【0209】
本発明のベクターは、好ましくは、自己複製性のエピソームまたは染色体外ベクター(プラスミドなど)である。
【0210】
本発明のベクターは、好ましくは、複製起点を含む。複製起点は原核生物で活性であるが、真核生物では活性ではないことが好ましい。
【0211】
したがって、好ましいベクターは、ベクター選択のための原核生物マーカー、原核生物の複製起点を含むが、免疫原をコードする配列の転写を駆動するための真核生物プロモーターを含む。したがって、ベクターは、(a)ポリペプチド発現せずに原核生物宿主中で増幅および選択されるが、(b)増幅されることなく真核生物宿主中で発現される。この構成(arrangement)は、核酸免疫化ベクターに理想的である。
【0212】
本発明のベクターは、コード配列の下流に真核生物転写終結配列を含むことができる。これにより、転写レベルを増強することができる。コード配列がそれ自体の転写終結配列を持たない場合、本発明のベクターは、好ましくは、ポリアデニル化配列を含む。好ましいポリアデニル化配列は、ウシ成長ホルモンに由来する。
【0213】
本発明のベクターは複数のクローニング部位を含むことができる。
【0214】
免疫原をコードする配列およびマーカーに加えて、ベクターは第2の真核生物コード配列を含むことができる。ベクターは、第2の配列の上流に、免疫原と同一の転写物から第2の真核生物ポリペプチドを翻訳することを可能にするためのIRESを含むこともできる。あるいは、免疫原をコードする配列は、IRESの下流に存在することができる。
【0215】
本発明のベクターは、非メチル化CpGモチーフ(例えば、一般にグアノシンの前にシトシンを有し、2つの5’プリンおよび2つの3’ピリミジンに隣接した非メチル化DNA配列)を含むことができる。その非メチル化形態では、これらのDNAモチーフは、いくつかの免疫細胞型の強力な刺激因子であることが証明されている。
【0216】
ベクターを、標的化された方法で送達することができる。受容体媒介DNA送達技術は、例えば、参考文献204〜209に記載されている。遺伝子療法プロトコールにおける局所投与のために、核酸を含む治療用組成物を約100ng〜約200mgのDNA範囲で投与する。約500ng〜約50mg、約1μg〜約2mg、約5μg〜約500μg、および約20μg〜約100μgのDNAの濃度範囲を、遺伝子療法プロトコール中で使用することもできる。作用方法(例えば、コードされた遺伝子産物レベルの増強または抑制のため)ならびに形質転換および発現の有効性などの要因は、最終的な有効性に必要な投薬量に影響を及ぼす検討材料である。組織のより広い領域にわたりより高い発現を所望する場合、より大量のベクター、または連続した投与プロトコールにおける同量の再投与、または異なる隣接したもしくは接近した組織部分への数回の投与が、陽性の治療結果を得るのに必要であり得る。全ての場合、臨床試験における慣用的な実験により、最適な治療結果を得るための具体的な範囲が決定されるであろう。
【0217】
遺伝子送達ビヒクルを使用してベクターを送達させることができる。遺伝子送達ビヒクルは、ウイルス起源または非ウイルス起源であり得る(一般に、参考文献210〜213を参照のこと)。
【0218】
所望の核酸の送達および所望の細胞中での発現のためのウイルスベースのベクターは、当該分野で周知である。例示的なウイルスベースのビヒクルには、組換えレトロウイルス(例えば、参考文献214〜224)、アルファウイルスベースのベクター(例えば、シンドビス・ウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(ATCC VR−67;ATCC VR−1247)、ロスリバーウイルス(ATCC VR−373;ATCC VR−1246)、およびベネズエラウマ脳炎ウイルス(ATCC VR−923;ATCC VR−1250;ATCC VR 1249;ATCC VR−532)(これらのウイルスのハイブリッドまたはキメラも使用することができる)、ポックスウイルスベクター(例えば、ワクシニア、鶏痘、カナリアポックス、修飾ワクシニアAnkaraなど)、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、参考文献225〜230を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。死滅アデノウイルスに連結されたDNA[231]の投与も使用することができる。
【0219】
非ウイルス送達ビヒクルおよび方法も使用することができ、これらには、以下が含まれるが、これらに限定されない:死滅したアデノウイルスのみに連結されたか連結されていないポリカチオン性縮合DNA[例えば、231]、リガンド連結DNA[232]、真核細胞送達ビヒクル細胞[例えば、参考文献233〜237]、および核電荷中和(nucleic charge neutralization)または細胞膜との融合。裸のDNAを使用することもできる。例示的な裸のDNAの導入方法は、参考文献238および239に記載されている。遺伝子送達ビヒクルとして作用することができるリポソーム(例えば、免疫リポソーム(immunoliposome))は、参考文献240〜244に記載されている。さらなるアプローチは、参考文献245および246に記載されている。
【0220】
使用に適切なさらなる非ウイルス送達には、機械的送達系(参考文献246に記載のアプローチなど)が含まれる。さらに、コード配列またはその発現産物を、光重合したヒドロゲル材料の沈着または電離放射線の使用によって送達させることができる[例えば、参考文献247および248]。コード配列の送達のために使用することができる他の従来の遺伝子送達方法には、例えば、手持ち式の遺伝子銃(hand−held gene transfer particle gun)の使用[249]または導入された遺伝子の活性化のための電離放射線の使用[247および248]が含まれる。
【0221】
PLG(ポリ(ラクチド−コ−グリコリド))微粒子を使用したDNAの送達は、例えば、負に荷電した表面(例えば、SDSで処理)または正に荷電した表面(例えば、CTABなどのカチオン性洗剤で処理)を有するように任意選択的に処理された微粒子への吸着による特に好ましい方法である。
【0222】
検出方法および診断方法
本発明は、サンプル中の黄色ブドウ球菌細菌を検出するための方法を提供する。本方法は、BAA抗原またはBAA抗原をコードする核酸の存在または不在を検出する工程を含むことができる。本方法を、微生物学的試験、臨床的診断または非臨床的診断などのために使用することができる。抗原の検出は、例えば、サンプルと、抗BAA抗体(標識した抗BAA抗体など)とを接触させる工程を含むことができる。核酸抗原の検出は、例えば、核酸ハイブリダイゼーション(ノーザンブロットまたはサザンブロット、核酸マイクロアレイ、または「遺伝子チップ」の使用などによる)、増幅反応(例えば、PCR、SDA、SSSR、LCR、TMA、NASBAなど)に基づいた任意の都合のよい方法を含むことができる。
【0223】
本発明はまた、患者から採取したサンプル中の抗BAA抗体の存在または不在を検出する工程を含む、患者が黄色ブドウ球菌に感染しているか否かを検出するための方法を提供する。抗原の検出は、例えば、サンプルとBAA抗原(例えば、固定化BAA抗原)とを接触させる工程を含むことができる。
【0224】
BAA抗原、BAA抗原をコードする核酸、または抗BAA抗原の存在は、サンプル中の黄色ブドウ球菌の存在を示し、特に、「TW」MRSA株および/またはST−239型MRSA株の存在を示す。したがって、臨床的診断設定では、方法の結果を使用して、患者のための治療ストラテジー(例えば、抗生物質の選択など)を教示または指示することができる。
【0225】
本発明はまた、(a)抗体−抗原複合体の形成に適切な条件下で抗BAA抗体を生物学的なサンプルと接触させる工程、および(b)複合体を検出する工程を含む、BAA抗原を検出するためのプロセスを提供する。
【0226】
本発明はまた、(a)抗体−抗原複合体の形成に適切な条件下でBAA抗原を生物学的なサンプル(例えば、血液または血清サンプル)と接触させる工程、および(b)複合体を検出する工程を含む、抗BAA抗体を検出するためのプロセスを提供する。
【0227】
本発明は、(a)二重鎖を形成するためのハイブリダイゼーション条件下で本発明の核酸プローブを生物学的なサンプルと接触させる工程、および(b)二重鎖を検出する工程を含む、BAAをコードする核酸を検出するためのプロセスを提供する。
【0228】
本発明はまた、黄色ブドウ球菌細菌のBAA核酸配列内に含まれるテンプレート配列を増幅するためのプライマー(例えば、PCRプライマー)を含むキットを提供し、このキットは第1のプライマーおよび第2のプライマーを含み、第1のプライマーがテンプレート配列に実質的に相補的であり、第2のプライマーがテンプレート配列の相補物に実質的に相補的であり、実質的な相補性を有するプライマーの部分が、増幅すべきテンプレート配列の末端を規定する。第1のプライマーおよび/または第2のプライマーは、検出可能な標識(例えば、蛍光標識)を含むことができる。
【0229】
本発明はまた、一本鎖または二本鎖の核酸(またはその混合物)中に含まれる黄色ブドウ球菌のBAAテンプレート核酸配列を増幅可能な第1の一本鎖オリゴヌクレオチドおよび第2の一本鎖オリゴヌクレオチドを含むキットを提供し、ここで、(a)第1のオリゴヌクレオチドがテンプレート核酸配列に実質的に相補的なプライマー配列を含み、(b)第2のオリゴヌクレオチドがテンプレート核酸配列の相補物に実質的に相補的なプライマー配列を含み、(c)第1のオリゴヌクレオチドおよび/または第2のオリゴヌクレオチドがテンプレート核酸に相補的でない配列を含み、(d)プライマー配列が増幅すべきテンプレート配列の末端を規定する。特徴(c)の非相補配列は、好ましくは、プライマー配列の上流(すなわち、5’側)に存在する。これらの(c)配列の一方または両方は、制限部位[例えば、参考文献250]またはプロモーター配列[例えば、参考文献251]を含むことができる。第1のオリゴヌクレオチドおよび/または第2のオリゴヌクレオチドは、検出可能な標識(例えば、蛍光標識)を含むことができる。
【0230】
概要
本発明の実施において、他で示さない限り、当業者の技術の範囲内である化学、生化学、分子生物学、免疫学、および薬学の従来の方法を使用するであろう。かかる技術は、文献中に十分に説明されている。例えば、参考文献252〜259などを参照のこと。
【0231】
本発明が「エピトープ」を考慮する場合、このエピトープは、B細胞エピトープおよび/またはT細胞エピトープであり得る。かかるエピトープを、(例えば、PEPSCAN[260、261]または類似の方法を使用して)経験的に同定することができるか、(例えば、Jameson−Wolf抗原性指数(antigenic index)[262]、行列ベースのアプローチ[263]、MAPITOPE[264]、TEPITOPE[265、266]、ニューラルネットワーク(neural network)[267]、OptiMer&EpiMer[268、269]、ADEPT[270]、Tsites[271]、親水性[272]、抗原性指数[273]、または参考文献274〜278に開示の方法などを使用して)予想することができる。エピトープは、抗体またはT細胞受容体の抗原結合部位によって認識されて結合する抗原の一部であり、「抗原決定基」ということもできる。
【0232】
抗原「ドメイン」が省略される場合、これは、シグナルペプチド、細胞質ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞外ドメインなどの省略を含み得る。
【0233】
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」および「からなる(consisting)」を含む。例えば、Xを「含む」組成物は、排他的にXからなることができるか、いくらかの付加物を含むことができる(例えば、X+Y)。
【0234】
数値xに関する用語「約」は、任意選択的であり、例えば、x±10%を意味する。
【0235】
2つのアミノ酸配列間のパーセンテージ配列同一性の言及は、アラインメントした場合に2配列を比較して同一であるアミノ酸のパーセンテージを意味する。このアラインメントおよびパーセント相同性またはパーセント配列同一性を、当該分野で公知のソフトウェアプログラム(例えば、参考文献279の7.7.18節に記載のプログラム)を使用して決定することができる。好ましいアラインメントを、ギャップ開始ペナルティ12およびギャップ伸長ペナルティ2、BLOSUM行列62を使用したアフィンギャップ検索を使用したSmith−Waterman相同性検索アルゴリズムによって決定する。Smith−Waterman相同性検索アルゴリズムは、参考文献280に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】図1は、OD570nmとして測定した4つのL.lactis細菌の37℃でのフィブロネクチンへの接着の比較を示す。バーは、左から右に、ポジティブコントロール細菌、BAAを発現するTOPO株、BAAを発現する注入株、および空のベクターで形質転換したコントロール株を示す。
【発明を実施するための形態】
【0237】
2007年に、ロンドンの集中治療室(ICU)で血管アクセスデバイス(VAD)関連菌血症の原因としてMRSAの通常でない株が報告された[3]。マイクロアレイを使用した株の遺伝子解析により、この「TW」株が以前にUKで報告されたST239伝染性クローンの1バージョンを示すという証拠が得られた。この株は、他の伝染性ST239クローンによって可変的に発現されるビルレンスに関連する検出可能な可動遺伝子エレメントを全て獲得していた。MRSAを獲得したICUの全患者のコホート分析は、TW MRSAを獲得した患者における菌血症の調整ハザード比が非TW MRSA株を獲得した患者の4.5倍であることを示した。TW MRSAはまた、非TW MRSA株よりも血管カテーテルから単離される可能性が有意に高かった。
【0238】
臨床的な観察により、TWが菌血症を引き起こす能力が、血管カテーテルの表面上にin vivoで吸着される細胞外基質タンパク質への接着能力の増強に起因することが示唆された。
【0239】
フィブリノゲン、フィブロネクチン、エラスチン、およびラミニンへのMRSA株の接着を、96ウェルプレート中で評価した。プレートを、10μg/mlタンパク質溶液にて4℃で一晩コーティングした。ウェルをPBSでリンスし、次いで、100μlの2%BSA中にて37℃で1時間インキュベートして非特異的結合をブロックした。一晩の細菌細胞懸濁液をRPMI−1640培地で0.1のOD600nmに調整し、マイクロタイタープレート中に接種し、37℃で2時間インキュベートした。ウェルをPBSで3回洗浄して非接着性細菌を除去した。接着性細菌を、100μlの25%ホルムアルデヒド中で固定し、次いで、100μlの0.1%クリスタルバイオレットで15分間染色し、流水下でリンスした。染色した接着性の細菌膜の風乾後、マイクロプレートリーダーを使用して吸光度を測定した。全アッセイプレートは、適切なポジティブコントロールを含み、細菌を欠く、可能性があり且つ無菌のTSBをネガティブコントロールとして含んでいた。分離菌のOD570nmは、バックグラウンド(同一プレートのネガティブコントロールOD570nm)を差し引いた後の読み取り値であった。各アッセイを、30回行った。
【0240】
TW MRSAは、関連するST−239株(EMRSA−1)、ST−22、およびST−36よりも多くフィブロネクチン、フィブリノゲン、およびエラスチンに接着することが証明された。これは、これらの細胞外基質タンパク質のうちの1つ以上への接着がおそらくカテーテルへの接着機構であることを示す。
【0241】
TW MRSAのゲノム配列決定により、表皮ブドウ球菌(RP62a)中で以前に同定されたファージに対して相同性を有する大型のファージが同定された[6]。TWファージは、以下のアミノ酸配列(配列番号1)を有する推定21kDの表面発現LPxTGアドヘシン「BAA」をコードする配列番号8のヌクレオチド配列を含む。
【0242】
【化6】

BAAは、いかなる黄色ブドウ球菌株においても以前に報告されておらず、菌血症を引き起こす能力にも関連していなかった。BAAは、試験した全てのTW MRSA株(全部で80)中に、他のST−239株のうち27%に、他の菌血症散在性ゲンタマイシン耐性MRSA株およびMSSA株のうち10%に、ならびに菌血症ゲンタマイシン耐性表皮ブドウ球菌株のうち41%に存在する(PCRによる検出)。表皮ブドウ球菌中のその存在は、BAAがコアグラーゼ陰性ブドウ球菌株に起因する菌血症にも関与し得ることを示唆している。
【0243】
Lactococcus lactis subsp.cremorisを、BAAをコードするpkS80でトランスフェクションした。陽性形質転換株を、タッチPCR(touch PCR)によってスクリーニングした。クローン化構築物の存在を、陽性形質転換株のプラスミド調製物の配列決定によって確認した。pkS80/BAAおよび空のベクターコントロールの両方の安定な形質転換株を、上記のようにフィブロネクチンへの結合について評価した。TOPOおよび注入方法の両方を使用して構築したベクターを使用して、フィブロネクチンへの特異的結合が認められた(図1)。
【0244】
表皮ブドウ球菌由来のBAAを、参考文献7中のSesDとして開示する。SesDは発現してヒト免疫系に曝され、ヒト血清は、SesDに対して高力価を示した。参考文献7中のSesD配列は、本明細書中の配列番号1と95%同一であるので、SesDを使用して認められた免疫学的結果は、本発明のBAA抗原に関しても期待することができる。
【0245】
したがって、TW MRSAは、ファージにコードされた予想される新規の表面発現アドヘシン(BAA)を保有し、in vitroで、他の地方流行性の株および関連する株と比較してフィブリノゲン、フィブロネクチン、およびエラスチンの両方への結合の増強を示す。予備試験は、Lactococcus株へのBAAのトランスフェクションによりフィブロネクチン結合表現型が付与されることを示す。BAAが、臨床背景で観察されたTW MRSAの増強されたカテーテル関連菌血症表現型の原因であり、したがって、ST−239株の世界的な広域分布を考慮すると、BAAは菌血症予防のためのもっともらしいワクチン標的であることを提案する。
【0246】
本発明をほんの一例として記載し、本発明の範囲内および精神内としながら修正形態を得ることができると理解されるであろう。
【0247】
【化7】

【0248】
【化8】

【0249】
【化9】

【0250】
【化10】

【0251】
【化11】

【0252】
【化12】

【0253】
【化13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色ブドウ球菌疾患および/または黄色ブドウ球菌感染に対する免疫化で用いるためのBAA抗原。
【請求項2】
BAA抗原ポリペプチド配列および少なくとも1つのさらなる黄色ブドウ球菌抗原ポリペプチド配列を含む融合タンパク質。
【請求項3】
BAA抗原および少なくとも1つのさらなる黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物。
【請求項4】
BAA抗原および少なくとも1つの非黄色ブドウ球菌抗原を含む免疫原性組成物。
【請求項5】
(1)BAA抗原と(2)アジュバントとの組み合わせを含む免疫原性組成物。
【請求項6】
サンプル中のBAA抗原またはBAA抗原をコードする核酸を検出する工程を含む、該サンプル中の黄色ブドウ球菌細菌の存在または不在を検出するための方法。
【請求項7】
前記BAA抗原が、配列番号1のアミノ酸配列を有する黄色ブドウ球菌タンパク質を認識する抗体を誘発することができる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗原、融合タンパク質、組成物、または方法。
【請求項8】
前記BAA抗原が、(a)配列番号1に対して80%以上の同一性を有し、かつ/または(b)配列番号1のエピトープを含むアミノ酸配列を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗原、融合タンパク質、組成物、または方法。
【請求項9】
前記BAA抗原が、(a)配列番号1に対して50%以上の同一性を有し、かつ/または(b)配列番号1の少なくとも7つの連続するアミノ酸のフラグメントを含むアミノ酸配列を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗原、融合タンパク質、組成物、または方法。
【請求項10】
抗BAA抗体。
【請求項11】
配列番号1のアミノ酸配列を有する黄色ブドウ球菌タンパク質を認識するモノクローナル抗体である、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌疾患の防御または処置で用いるための、請求項10または請求項11に記載の抗体。

【図1】
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【公表番号】特表2013−510188(P2013−510188A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538393(P2012−538393)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/GB2010/002056
【国際公開番号】WO2011/058302
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512122159)ガイズ アンド セント トーマスズ エヌエイチエス ファウンデーション トラスト (1)
【Fターム(参考)】