説明

黒色めっき膜の形成方法

【課題】銅または銅合金の被めっき物の表面に黒色めっき膜を均一に形成する。
【解決手段】銅または銅合金の被めっき物を、液温が30℃以下の無電解めっき浴に所定時間浸漬する。この無電解めっき浴は、ニッケル塩、チオ尿素系の化合物、第二スズ化合物、キレート剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅または銅合金に黒色めっき膜を形成させるめっき膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅および銅合金は、その要求性能に応じて表面に種々の処理が施されることが知られており、例えばその表面に黒色被膜が形成されることが知られている。黒色被膜が形成された銅等は、電気、機械等多種多様な分野で使用され、例えば、黒色被膜された銅は光の吸収効率が高いため、太陽エネルギー吸収体に使用される。
【0003】
また、近年、プラズマディスプレイ(PDP)において、発生した電磁波を遮蔽するために、電磁波シールドが用いられることが知られているが、電磁波シールドには、銅メッシュが形成され、その銅メッシュには通常黒色薄膜が被膜されている。
【0004】
従来、銅または銅合金の表面に上記黒色被膜を形成させる方法は、種々知られており、特許文献1に記載されるように低温(例えば20〜50℃)で行う黒色酸化法が知られている。また、特許文献2に記載されるように、無電解めっき法により、金属の表面に黒色被膜が形成されることが知られている。
【0005】
無電解めっき法においては、ニッケル塩、還元剤、キレート剤、光沢剤等を含む無電解めっき浴に、鉄、アルミニウム、銅、プラスチック等が浸漬されて黒色被膜が形成されるが、特許文献2に記載される無電解めっき法においては、その浸漬温度は比較的高温(60〜95℃)である。
【特許文献1】特開平4−136186号公報
【特許文献2】特許第2901523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した太陽エネルギー吸収体に使用される銅は、光の吸収効率をより高めるために、その表面に均一に黒色被膜が形成されることが望ましい。また、電磁波シールドは、充分な電磁波シールド効果を発揮するためには、均一な厚さを有しかつ薄い膜である必要がある。しかし、従来知られている黒色被膜の形成方法によれば、必ずしも銅または銅合金の表面に均一に黒色被膜が形成されるわけではない。
【0007】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、無電解めっき法において、銅または銅合金に好適な黒色被膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、銅または銅合金である被めっき物の表面に、無電解めっき法により黒色めっき膜を形成する方法であって、被めっき物をニッケル塩、チオ尿素系の化合物、第二スズ化合物が含有された無電解めっき浴に所定時間浸漬して、黒色めっき膜を形成し、その浸漬温度を30℃以下とすることを特徴とする。
【0009】
被めっき物は、無電解めっき浴に浸漬される前に、酸性水溶液に所定時間浸漬されることにより表面活性化処理が施されることが好ましく、この場合、酸性水溶液は、塩化第二銅水溶液であることが好ましい。このような構成によれば、黒色めっき膜の厚みをより均一にすることができる。
【発明の効果】
【0010】
無電解めっき法において、銅または銅合金の表面に黒色被膜を均一に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態を詳細に説明する。本実施形態においては、銅または銅合金の被めっき物が所定の条件で無電解めっき浴に浸漬されることにより、被めっき物の表面に黒色めっき膜が形成される。銅または銅合金の被めっき物は、その全体が銅または銅合金によって形成されていても良く、あるいは銅または銅合金が複合材料の一部を形成するものであっても良い。被めっき物における銅または銅合金の形態は、銅板、銅箔、銅メッシュ等、様々なものが可能であって、例えば電磁波シールドのようにPETフィルム上に形成された銅メッシュであっても良い。
【0012】
本実施形態における無電解めっき浴は、水を主成分とし、金属塩としてニッケル塩および第二スズ化合物を、錯化剤(キレート剤)および緩衝剤として例えば有機酸の塩類を、光沢剤、促進剤を兼ねた還元剤としてチオ尿素系の化合物を含む。
【0013】
本実施形態の無電解めっき浴に含有されるニッケル塩は、例えば硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケルなどである。無電解めっき浴には、これらの化合物が1種または2種以上含有されるが、硝酸ニッケル1種のみ含有されることが好ましい。無電解めっき浴全体の重量を基準(100重量%)とすると、無電解めっき浴に含有されるニッケル塩は、1〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは2〜3重量%である。
【0014】
本実施形態の無電解めっき浴に含有される第二スズ化合物(すなわち4価のスズ化合物)は、例えば塩化第二スズ、臭化第二スズ、ヨウ化第二スズ等のハロゲン化スズ(IV)、硫酸第二スズ、硫化第二スズ等であって、これらのうち4価のスズ塩が使用されることが好ましい。無電解めっき浴には、これらの化合物が1種または2種以上含有されるが、塩化第二スズ(SnCl4)1種のみ含有されることが特に好ましい。無電解めっき浴全体の重量を基準(100重量%)とすると、無電解めっき浴に含有される第二スズ化合物は、0.5〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜2重量%である。
【0015】
本実施形態の無電解めっき浴に含有されるキレート剤および緩衝剤は例えば、有機酸の塩類である。ここで使用される有機酸は、酢酸、クエン酸、グルコン酸、またはエチレンエチレンジアミン四酢酸等であって、無電解めっき浴に含有される有機酸の塩類は、上述の有機酸等の塩類であって、例えば酢酸ソーダ、クエン酸ソーダ、グルコン酸ソーダ、エチレンジアミンソーダ等である。無電解めっき浴には、これらの化合物が1種または2種以上含有されるが、グルコン酸ソーダ1種のみ含有されることが好ましい。無電解めっき浴全体の重量を基準(100重量%)とすると、無電解めっき浴に含有される有機酸の塩類は、2〜10重量%であることが好ましく、さらに好ましくは4〜6重量%である。
【0016】
本実施形態の無電解めっき浴に含有されるチオ尿素系の化合物は、例えばチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素等の一般式(1)で示される化合物、または二酸化チオ尿素等である。
【化1】

(ただし、式中R1〜R4は、それぞれHまたは炭素数1〜4のアルキル基のいずれかを示し、R1〜R4は同一であっても良く、異なっていても良い。)
【0017】
無電解めっき浴には、これらの化合物が1種または2種以上含有されるが、チオ尿素1種のみ含有されることが好ましい。無電解めっき浴全体の重量を基準(100重量%)とすると、無電解めっき浴に含有されチオ尿素系の化合物は、5〜15重量%であることが好ましく、さらに好ましくは8〜12重量%である。
【0018】
本実施形態における無電解めっき浴は、さらに安定剤等の添加剤が含有していても良い。なお、無電解めっき浴は、上述したニッケル塩、第二スズ化合物、錯化剤(緩衝剤)、還元剤、および添加剤以外の成分は水である。
【0019】
無電解めっき浴は、酸性であって、無電解めっき浴のpHは1.5以下が好ましく、さらに好ましくはpHは0.5〜1.5である。本実施形態の無電解めっき浴は、無電解めっき浴に含有された第二スズ化合物(例えば塩化第二スズ)が加水分解されることにより酸性となることが好ましい。なお、本明細書においてpHとは、JIS K0102 12.1のガラス電極法にて測定されたpHであって、20.5℃の条件下で測定されたものである。
【0020】
被めっき物が無電解めっき浴に浸漬される間の無電解めっき浴の液温(すなわち浸漬温度)は、30℃以下に設定される。浸漬温度は、被めっき物の種類に応じて調整された方が良く、被めっき物が銅板および銅箔である場合は、17〜23℃に、電磁波シールド用銅メッシュである場合は17〜30℃(特に好ましくは20〜30℃)に調整される。浸漬温度が上記設定温度より高くなると、反応速度が速くなりすぎ、被めっき物の表面と黒色めっき膜が充分に密着されないので、黒色めっき膜が被めっき物から剥離しやすくなる。また、浸漬温度が17℃より低くなると、反応性が悪くなり、被めっき物の表面に黒色めっき膜が形成されにくくなる。
【0021】
本実施形態においては、被めっき物が無電解めっき浴に所定時間浸漬されて、被めっき物の表面に黒色めっき膜が形成される。ここで、浸漬される所定時間(すなわち浸漬時間)は、例えば120秒以上であるが、被めっき物の種類に応じて変更した方が良く、例えば被めっき物が銅板および銅箔の場合は、500秒以上であることが好ましく、さらに好ましくは、500秒〜700秒である。また、電磁波シールド用の銅メッシュである場合、120秒以上であることが好ましく、さらには300秒以下であったほうが良い。浸漬時間が短すぎると、被めっき物に黒色めっき膜が充分に形成されない。一方、浸漬時間が長すぎると、形成される黒色めっき膜の膜厚が厚くなりすぎて、被めっき物と黒色めっき膜の密着性が悪くなるため、黒色めっき膜が被めっき物から剥離しやすくなる。また、被めっき物が電磁波シールド用の銅メッシュの場合、浸漬時間が長いと、膜厚が厚くなりすぎ、電磁波シールドのシールド効果が損なわれる。
【0022】
被めっき物は、上述した浸漬時間、浸漬温度で無電解めっき浴に浸漬され、ニッケル塩のニッケルイオンと第二スズ化合物の第二スズイオンによりニッケルとスズの合金層が黒色めっき膜として形成される。
【0023】
被めっき物は、無電解めっき浴に浸漬される前に、所定の前処理、すなわち脱脂処理、表面活性化処理、洗浄乾燥処理が順に施される。なお、脱脂処理は、被めっき物に油脂等が付着した場合に行なわれ、油脂等が付着していない場合には行なわれなくても良い。脱脂処理は、被めっき物がアセトン等の有機溶剤に所定時間(例えば3分間)浸漬されて行われる。
【0024】
脱脂処理後、被めっき物は、5〜15%塩化第二銅水溶液(銅板および銅箔の場合は10%塩化第二銅水溶液、電磁波シールド用の銅メッシュの場合は7.5%塩化第二銅水溶液が特に好ましい)に浸漬され、表面活性化処理が施される。この場合浸漬時間は、30秒以上が好ましく、さらに好ましくは30〜90秒であって、被めっき物が電磁波シールド用の銅メッシュである場合には30〜60秒が好ましい。被めっき物が浸漬されるときの塩化第二銅水溶液の液温は、好ましくは、18℃以上であり、さらに好ましくは、18〜30℃である。また、被めっき物が電磁波シールド用の銅メッシュである場合には、その液温は18〜20℃が好ましい。なお、5〜15%塩化第二銅とは、塩化第二銅水溶液全体を基準(100重量%)として5〜15重量%の塩化第二銅を含む水溶液をいう(以下同様の定義とする。後述する塩酸についても同様)。
【0025】
表面活性化処理が施された被めっき物は、水道水で充分に水洗され、さらに乾燥された後、上述したように無電解めっき浴に浸漬され、めっき処理が施される。めっき処理後、めっき膜が形成された被めっき物は、さらに所定の後処理が施される。本実施形態の後処理は、被めっき物が水道水で充分に水洗洗浄された後乾燥されることにより行われ、これにより被めっき物に付着した無電解めっき浴が被めっき物から除去される。
【0026】
以上のように、本実施形態では、上述した前処理、めっき処理、および後処理が行われ、黒色めっき膜が表面に形成された被めっき物(銅または銅合金)が得られる。
【0027】
なお、本実施形態においては、被めっき物が塩化第二銅水溶液に浸漬されることにより表面活性化処理が行われるが、被めっき物が浸漬される溶液は酸性水溶液であれば他の溶液でも良く、例えば10〜15%塩酸でも良い。ただし、被めっき物が電磁波シールド用の銅メッシュである場合には、塩化第二銅水溶液を用いることが好ましい。また、表面活性化処理で塩酸を使用する場合でも、その表面活性化処理における浸漬時間は塩化第二銅水溶液を使用する場合と同様である。
【実施例】
【0028】
以下、黒色めっき膜の形成方法について、実施例AないしFを用いてさらに詳細に説明する。
【0029】
実施例Aは、被めっき物として銅板を用いた実施例であり、めっき処理における浸漬温度および浸漬時間のみが変更されて、複数回実施された。銅板は、長さ50mm、幅15mm、厚さ1.5mmであった。実施例Aにおいて銅板は、それぞれ上述した脱脂処理、表面活性化処理、洗浄処理が順に施された後、めっき処理が施され、さらにそのめっき処理された銅板は上述した後処理が施された。
【0030】
ここで、脱脂処理は、被めっき物がアセトンに3分間浸漬されて行われた。表面活性化処理は、被めっき物がそれぞれ、15%塩酸に浸漬されて行われ、その浸漬時間は60秒、浸漬温度は20℃であった。なお、表明活性化処理ではいずれの実施例においても、1リットルの浸漬液(15%塩酸)に被めっき物が浸漬されて行われた。
【0031】
めっき処理において、無電解めっき浴は、無電解めっき浴を100重量%として、硝酸ニッケル3重量%、塩化第二スズ2重量%、チオ尿素10重量%、グルコン酸ソーダ5重量%、水80重量%に調整され、そのpHは1.20であった。
【0032】
図1は、各浸漬温度、および浸漬時間における後処理後の銅の状態の結果を示す。実施例Aは図1に示すように、浸漬温度16、17、18、20、23、25、30℃それぞれと、浸漬時間180、300、500、600、700、1200、1800秒それぞれの組み合わせの条件において、実施された。
【0033】
実施例Bにおいては、被めっき物として銅箔を用いた。銅箔は、長さ50mm、幅50mm、厚さ0.01mmであった。実施例Bにおける被めっき物以外の条件は実施例Aと同一であった。実施例Bも、めっき処理の浸漬温度および浸漬時間を実施例Aと同様に変更されて、実施例Aと同様にそれぞれ実施された。それぞれの浸漬温度、および浸漬時間における後処理後の銅の状態の結果を図2に示す。
【0034】
実施例Cにおいては、被めっき物として、シート状の電磁波シールド用の銅メッシュを用いた。電磁波シールドは、以下のように形成された。すなわち、まず、PETフィルム上に接着剤が塗布され、その接着剤上に銅薄膜が貼り付けられた。貼り付けられた銅薄膜はエッチング処理されて、PETフィルム上に、細線状の銅薄膜によって構成される格子状の銅メッシュが形成された。銅メッシュを構成する細線状の銅薄膜は、それぞれ高さ、および幅が10μm程度であり、この細線状の銅薄膜同士の間隔は、300μm程度であった。また、電磁波シールドは、実施例Cにおいては210mm×290mm(A4サイズ)のシートであった。なお、実施例C及び後述する実施例Fにおいては、銅メッシュにめっき膜が均一に形成された場合、以下に示す電磁波シールド効果の測定も行なった。
【0035】
<電磁波シールド効果の測定法>
電磁波シールド効果の測定は、図3に示す電磁波シールド効果測定装置を用いて、いわゆる電磁波シールド性能評価KEC法(めっき技術マニュアル 日本規格協会著に掲載されているKEC法)により行なわれた。本測定方法においては、黒色めっき膜が形成される前及び形成された後の電磁波シールドを、試料16として、試料16の電磁波シールド効果を測定した。
【0036】
図3に示すように、電磁波シールド効果測定装置10は、金属管11を有し、金属管11の内部には送信アンテナ12及び受信アンテナ13が配置される。このとき、送信アンテナ12及び受信アンテナ13は、10mm離間されている。送信アンテナ12と、受信アンテナ13は、それぞれ、金属管11の外部に設けられた信号発生器14及び強度測定器15に接続される。
【0037】
金属管11の内部において、送信アンテナ12及び受信アンテナ13の間には、試料16が配置され、送信アンテナ12及び受信アンテナ13それぞれが配置される金属管11内部の空間は、互いに試料16によって完全に遮断されている。金属管11内部の温度は、20℃、湿度65%である。
【0038】
測定装置10において、送信アンテナ12から0.1〜1000MHzの周波数の電磁波が発信され、受信アンテナ13で各波長の電界強度Exが測定される。また、擬似ノイズ減として送信アンテナ12及び受信アンテナ13の間に試料16が挿入されない場合の電界強度Eoも併せて測定される。各周波数のSE値(シールド効果)は、以下の式(2)により算出される。
SE=20log10Eo/Ex ・・・・(2)
【0039】
めっき膜が形成される前の電磁波シールドのSE値は、0.3〜1000MHzいずれの周波数においても、40dB以上となった。そして、めっき膜が形成された後の電磁波シールドのSE値が、0.3〜1000MHzいずれの周波数においても、全て40dB以上となったとき、その電磁波シールドは、電磁波シールド効果が維持されていると判定し、後述する図7においては◎とした。一方、めっき膜が形成された後の電磁波シールドのSE値が、0.3〜1000MHzいずれの周波数においても、全てが40dBを下回る値となったとき、その電磁波シールドは、電磁波シールド効果が損なわれたと判定し、図7においては○とした。
【0040】
実施例Cにおいて、被めっき物以外の条件はそれぞれ実施例Aと同一であり、浸漬温度および浸漬時間が実施例Aと同様に変更されて、それぞれ実施された。実施例Cの結果を図4に示す。なお、実施例Cにおいては、浸漬時間180秒、300秒の条件では実施されなかった。
【0041】
実施例D、EおよびFは、それぞれ被めっき物として、銅板、銅箔、電磁波シールド用の銅メッシュを用いた実施例であって、めっき処理における浸漬時間および浸漬温度を実施例Aと同様に変更されて、それぞれ実施された。実施例D、EおよびFは、表面活性化処理以外の条件が、それぞれ実施例A、BおよびCと同一にして行われた。なお、実施例Fにおいては、浸漬時間60、120秒の条件でも実施された一方、浸漬時間700秒以上の条件では実施されなかった。また、浸漬温度50℃の条件でも実施された。
【0042】
実施例A、BおよびCにおいては、表面活性化処理は、塩酸水溶液に浸漬されることにより行われたが、実施例D、EおよびFにおいては、表面活性化処理は、塩化第二銅水溶液に浸漬されることにより行われた。実施例DおよびEにおいては、表面活性化処理は、被めっき物が、10%塩化第二銅水溶液に浸漬されることにより行われ、その浸漬時間は30秒、浸漬温度は20℃であった。一方、実施例Fにおいては7.5%塩化第二銅水溶液に浸漬されることにより行われ、その浸漬時間は30秒、浸漬温度は20℃であった。実施例D〜Fにおける後処理後の銅の状態の結果を図5〜7に示す。
【0043】
なお、図1、2、5、及び6中●、○、△、×はそれぞれ、以下の結果を示す。●は被めっき物にめっき膜が充分に形成されなかったことを示す。すなわち●においては、被めっき物にはめっき膜が不均一に形成され、その表面の色は黒色と銀色が混在していた。○は、めっき物にめっき膜が充分に形成されたことを示す。すなわち○においては、被めっき物にめっき膜が均一に形成され、その表面の色は黒色単色であった。なお、○においては、めっき処理後の後処理における水洗でもめっき膜が剥離されなかった。△は、被めっき物にめっき膜が充分に形成されたが、めっき処理後の洗浄において、めっき膜が若干剥離されたことを示す。すなわち、△においては、被めっき物とめっき膜との密着性が若干不充分であった。また、×は被めっき物にめっき膜が充分に形成されたが、めっき処理後の洗浄において、めっき膜の多くが剥離されたことを示す。すなわち、×においては、被めっき物とめっき膜との密着性が不充分であった。
【0044】
また、図4、7中●、◎、○、×はそれぞれ、以下の結果を示す。●は被めっき物にめっき膜が充分に形成されなかったことを示す。すなわち●においては、被めっき物にはめっき膜が不均一に形成され、その表面の色は黒色と銀色が混在していた。◎○は、いずれもめっき物にめっき膜が充分に形成されたことを示す。そして、◎は前述したように電磁波シールド効果の測定において、めっき膜の形成したことによって、電磁波シールド効果が損なわれなかったことを示す。一方、○は、めっき膜が形成されたことによって、電磁波シールド効果が損なわれたことを示す。なお、◎○においては、めっき処理後の後処理における水洗でもめっき膜が剥離されなかった。また、×は被めっき物にめっき膜が充分に形成されたが、めっき処理後の洗浄において、めっき膜の多くが剥離されたことを示す。すなわち、×においては、銅メッシュとめっき膜との密着性が不充分であった。
【0045】
図4、7に示す●の状態を図8に、図7に示す○及び◎の状態を図9に示す。図8、9は、電磁波シールドを光学顕微鏡で拡大して捉えた写真であって、図8、9中、黒い部分が表面にめっき膜が形成された銅メッシュである。
【0046】
なお、電磁波シールドは、その全体に所定の前処理、めっき処理、および後処理が施され、例えばめっき処理においては、その全体が無電解めっき浴に浸漬されたが、図8、9に示すように黒色めっき膜が形成されたのは、銅メッシュの外部に露出する部分(すなわち、銅メッシュを構成する細線状の銅薄膜の上面および側面)だけであった。
【0047】
図1〜2から理解できるように、被めっき物が銅板、銅箔である場合、液温を23℃以下にしたときにのみ、銅上に黒色めっき膜が均一に、かつ密着性良く形成できることが理解できる。また、浸漬温度17〜23℃の場合においては、短時間(例えば500秒〜700秒)で黒色めっき膜を形成することが可能であった。一方、浸漬温度が16℃以下のときにおいても、黒色めっき膜が比較的均一に形成されることが理解できるが、その形成時間は17〜23℃のときに比べ長いことが理解できる。
【0048】
なお、上記実施例A〜B(被めっき物が銅板、銅箔のとき)において、表面活性化処理の条件を適宜変更して実施すると、表面活性化処理における浸漬温度が18〜30℃であって、浸漬時間が30〜90秒であるときには図1、2と同一の結果が得られた。
【0049】
一方、図4から理解できるように、被めっき物が銅メッシュである場合(実施例C)、全ての条件で銅メッシュ上に黒色膜が不均一に形成された。これは、塩酸の活性化作用は比較的弱いので、被めっき材が電磁波シールドのように複雑な構造である場合、充分に被めっき物が活性化されず、黒色膜が均一に形成されなかったためと推察される。
【0050】
図5〜図7から理解できるように、表面活性化処理において塩化第二銅水溶液を用いると、被めっき物にいずれのものである場合でも、本実施形態では被めっき物上に黒色めっき膜が均一に、かつ密着性良く形成できることが理解できる。
【0051】
特に、被めっき物が電磁波シールドである場合、表面活性化処理に塩酸を用いると、黒色めっき膜は均一に形成できなかったが(図8参照)、塩化第二銅水溶液を用いると、黒色めっき膜は均一に形成できた(図9参照)。これは、塩化第二銅水溶液は、塩酸に比べ活性化作用が強いので、被めっき物が電磁波シールドのように構造が複雑な場合でも、被めっき物を充分に活性化できたためと推察される。
【0052】
また、実施例Fでは、浸漬時間120秒〜300秒のときにおいては、めっき膜形成前と形成後の電磁波シールド効果は変化しなかったが、浸漬時間500〜600秒のときにおいては、めっき膜形成後の電磁波シールド効果はめっき膜形成前に比べて低下した。
【0053】
これは、めっき膜の厚さが大きい場合には、そのめっき膜によって電磁波シールド効果を低減させられ、実施例Fにおいては、浸漬時間が長い(500〜600秒)場合、めっき膜が厚くなりすぎ、電磁波シールド効果が低減したと考えられる。一方、浸漬時間が120秒〜300秒のとき(図7においては◎のとき)においては、相対的に薄いめっき膜が形成されるために、電磁波シールド効果は低減しなかったと考えられる。
【0054】
以上のように、本実施形態においては、銅または銅合金の表面に均一にかつ密着性良く黒色めっき膜を形成させることができる。また、低温で銅または銅合金に黒色めっき膜が形成されるので、高温下において安定性を示さない物質上に形成された被めっき物に対しても、良好に黒色めっき膜を形成させることができる。
【0055】
また、本実施形態において、活性化処理に塩化第二銅水溶液を用いると、被めっき物にめっき膜をさらに均一に形成でき、浸漬時間が短くても、被めっき物をめっき膜で完全に被膜することができる。そして、浸漬時間が短いとめっき膜は薄くできるので、被めっき物が例えば電磁波シールドである場合、その銅メッシュにめっき膜を形成しても電磁波シールドのシールド効果を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例Aにおいて黒色めっき膜を形成するときの条件と、そのときの結果の関係を示すマップ図である。
【図2】実施例Bにおいて黒色めっき膜を形成するときの条件と、そのときの結果の関係を示すマップ図である。
【図3】電磁波シールド効果測定装置の模式的な図である。
【図4】実施例Cにおいて黒色めっき膜を形成するときの条件と、そのときの結果の関係を示すマップ図である。
【図5】実施例Dにおいて黒色めっき膜を形成するときの条件と、そのときの結果の関係を示すマップ図である。
【図6】実施例Eにおいて黒色めっき膜を形成するときの条件と、そのときの結果の関係を示すマップ図である。
【図7】実施例Fにおいて黒色めっき膜を形成するときの条件と、そのときの結果の関係を示すマップ図である。
【図8】黒色めっき膜が銅メッシュ上に不均一に形成されたときの状態を示す写真であって、右下の1目盛りを125μmとする。
【図9】黒色めっき膜が銅メッシュ上に均一に形成されたときの状態を示す写真であって、右下の1目盛りを125μmとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金の被めっき物が、液温が30℃以下であって、ニッケル塩、第二スズ化合物、チオ尿素系の化合物を含有する無電解めっき浴に、所定時間浸漬されることにより、前記被めっき物の表面に黒色めっき膜が形成されることを特徴とするめっき膜の形成方法。
【請求項2】
前記被めっき物は、前記無電解めっき浴に浸漬される前に、酸性水溶液に所定時間浸漬されることにより表面活性化処理が施されることを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項3】
前記酸性水溶液は、塩化第二銅水溶液であることを特徴とする請求項2に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項4】
前記被めっき物は、前記無電解めっき浴に浸漬される前に、アセトンにより脱脂処理が施されることを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項5】
前記所定時間は、300秒以下であることを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項6】
前記液温は、17〜30℃であることを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項7】
前記無電解めっき浴はさらにキレート剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項8】
前記キレート剤は、有機酸の塩類であることを特徴とする請求項7に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項9】
前記無電解めっき浴のpHは1以下であることを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項10】
前記ニッケル塩は、硝酸ニッケルであり、前記チオ尿素系の化合物はチオ尿素であり、さらに前記第二スズ化合物は、塩化第二スズであることを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。
【請求項11】
前記被めっき物が電磁波シールド用の銅メッシュであることを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−146205(P2007−146205A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340074(P2005−340074)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(595098240)株式会社ジャパンテクノメイト (6)
【Fターム(参考)】