説明

黒色石英ガラス膜およびその形成方法

【課題】 黒色石英ガラス膜の容易な形成方法およびそれにより形成される黒色石英ガラス膜を提供する。
【解決手段】
本発明は、基体にプレカーサを塗布する工程と、紫外線を照射する工程と、不活性雰囲気下で焼成する工程により、容易に黒色石英ガラス膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に形成することができる黒色石英ガラス膜の形成方法およびその黒色石英ガラス膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分光光度計用セルの材料、半導体用炉芯管等の高温材や黒色ダミーウエハには黒色石英ガラスが用いられている。シリカを主成分とする黒色ガラスの製造方法は以下のようなものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1によると、石英ガラスの黒色化は、石英ガラス中に着色剤として、遷移金属酸化物を添加することで行われている。また、特許文献2では炭化ケイ素粉末とシリカ粉末を混合して原料粉末とし、それを成型、焼結して黒色石英ガラスを得る方法が提案されている。更に、特許文献3ではオルガノシルセスキオキサン、金属酸化物及び金属アルコキシドからそれらのゲルを熱分解する方法により黒色石英ガラスを得ている。
【0004】
しかし、ここに示した特許文献1から3に記載された黒色ガラスの製造方法では、その製造工程に複数の工程を含み、また長時間有する工程があるため、黒色石英ガラスの形成は容易なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−262535号公報
【特許文献2】特開平5−170477号公報
【特許文献3】特開昭59−97550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、容易に黒色石英ガラス膜を形成する方法およびそれにより形成される黒色石英ガラス膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、黒色石英ガラス膜の形成において、基体にプレカーサを塗布し、波長150〜200nmの紫外線を照射し、不活性雰囲気下で焼成することによって、容易に黒色石英ガラス膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明は、基体にプレカーサを塗布する工程と、プレカーサが塗布された基体に波長150〜200nmの紫外線を照射する工程と、紫外線照射後の基体を不活性雰囲気下で焼成する工程とを含んでなることを特徴とする黒色石英ガラス膜形成方法である。
【0010】
まず、基体にプレカーサを塗布する工程について説明する。
【0011】
本発明で用いる基体としては特に限定はされないが、例えば石英ガラス、ソーダライムガラス、シリコンウエハ、水晶、フッ化アルミニウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ベリリウムなどが挙げられる。
【0012】
また、用いる基体の形状には制限はなく、平板状、ドーム状、リング状、管状などいかなる形状にも対応できる。
【0013】
本発明で用いるプレカーサとしては、炭化水素基とシロキサン結合(Si−O)を有する化合物、シリコンアルコキシド、またはシリコンアルコキシドの加水分解、脱水縮重合体などを用いることができる。なお、前記の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、フェニル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。また、プレカーサ中の炭化水素基の種類は複数であってもよい。
【0014】
このようなプレカーサは波長が150〜200nmの紫外線により、Si−O結合は保持したまま、紫外線のエネルギーよりも小さいエネルギーの結合は切断されるため、石英ガラス膜を形成することができる。
【0015】
プレカーサを塗布する方法は特に限定されないが、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティングなどを用いることができる。
【0016】
基体上に塗布するプレカーサの量としては、膜厚が1μm程度となるように塗布することが好ましい。
【0017】
次に、プレカーサが塗布された基体に波長150〜200nmの紫外線を照射する工程について説明する。
【0018】
紫外線は、紫外線照射後の膜の赤外分光法から測定される炭化水素基に由来する振動のピーク強度が、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の20%以下になるまで照射する。好ましくは、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の15%以下になるまで照射する。
【0019】
炭化水素基としてメチル基を有するプレカーサを用いる場合は、紫外線照射後の膜の赤外分光法から測定される2960cm−1付近に観測されるメチル基の非対称伸縮振動のピーク強度が、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の20%以下になるまで紫外線を照射する。好ましくは、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の15%以下になるまで紫外線を照射する。
【0020】
紫外線照射時の雰囲気は特に限定されないが、酸素濃度が20%以下の雰囲気で行うことが好ましい。
【0021】
また、紫外線照射時の温度や圧力は、室温、大気圧下で行うことができる。
【0022】
次に、紫外線照射後の基体を不活性雰囲気下で焼成する工程について説明する。
【0023】
使用する不活性ガスは特に限定されないが、例えばアルゴン、窒素、ヘリウムなどを用いることができる。
【0024】
また、焼成時の圧力は、大気圧下で行うことができる。
【0025】
また、焼成温度は800℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがさらに好ましい。焼成時間は1時間以上であることが好ましい。
【0026】
なお、石英ガラス膜の黒色化は、プレカーサに含まれる炭化水素基が紫外線を照射することで他の炭素成分に変化し、これを不活性雰囲気下で焼成することでカーボンが析出して起こるものと考えられる。
【0027】
本発明により形成された黒色石英ガラス膜は、波長400nmの透過率が91%以下であることを特徴としており、遮光や遮熱が必要な部分を含む石英ガラス部品の製造に利用することができる。具体的には、酸化拡散処理装置、ランプアニール装置等に用いるチャンバーやベルジャーに使用される石英ガラス部品などが挙げられる。上記のような石英ガラス部品は、石英ガラス基材の全面または一部に黒色石英ガラス膜が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明による黒色石英ガラス膜形成方法を用いることで、容易に黒色石英ガラス膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1における、透過スペクトルを示すスペクトル図である。
【図2】実施例2〜5における、透過スペクトルを示すスペクトル図である。
【図3】実施例5における、ラマンスペクトルを示すスペクトル図である。
【図4】比較例1における、透過スペクトルを示すスペクトル図である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0031】
なお、透過スペクトルは紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、商品名「V―650」)を用いて、測定した。
【0032】
また、メチル基の非対称伸縮振動のピーク強度はフーリエ変換赤外分光光度計((株)島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて、測定した。
【0033】
実施例1
石英ガラス板(20mm×20mm×2mm)を基体とし、下記の要領で塗布工程、紫外線照射工程及び焼成工程を順次行うことにより黒色石英ガラス膜を形成した。
【0034】
まず、上記石英ガラス板にジメチルシリコーンを主成分とするシリコーンオイル(信越化学工業(株)製、商品名「KF96−100cs」)をスピンコータ(ミカサ(株)製、商品名「MS−A100」)により、膜厚が1μm程度になるように塗布した。このサンプルに、45mW/cmのXeエキシマ光(波長172nm)を、大気雰囲気下、大気圧下で、170分間照射した。紫外線照射後の膜のメチル基の非対称伸縮振動のピーク強度は、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の11%であった。この紫外線を照射した基体を、Ar雰囲気下、大気圧下、1000℃で、1時間焼成し、黒色石英ガラス膜を得た。図1に紫外線照射後の膜と黒色石英ガラス膜の透過スペクトルを示す。黒色石英ガラス膜の、波長400nmの透過率は57%であった。
【0035】
実施例2
実施例1と同様の塗布工程と紫外線照射工程をおこなった後、Ar雰囲気下、大気圧下、800℃で、1時間焼成し、黒色石英ガラス膜を得た。図2に黒色石英ガラス膜の透過スペクトルを示す。黒色石英ガラス膜の、波長400nmの透過率は70%であった。
【0036】
実施例3
実施例1と同様の塗布工程をおこなった後、45mW/cmのXeエキシマ光(波長172nm)を、大気雰囲気下、大気圧下で、40分間照射した。紫外線照射後の膜のメチル基の非対称伸縮振動のピーク強度は、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の20%であった。この紫外線を照射した基体を、Ar雰囲気下、大気圧下、1000℃で、1時間焼成し、黒色石英ガラス膜を得た。図2に黒色石英ガラス膜の透過スペクトルを示す。黒色石英ガラス膜の、波長400nmの透過率は90%であった。
【0037】
実施例4
実施例3と同様の塗布工程と紫外線照射工程をおこなった後、Ar雰囲気下、大気圧下、800℃で、1時間焼成し、黒色石英ガラス膜を得た。図2に黒色石英ガラス膜の透過スペクトルを示す。黒色石英ガラス膜の、波長400nmの透過率は91%であった。
【0038】
実施例5
実施例1と同様の塗布工程をおこなった後、45mW/cmのXeエキシマ光(波長172nm)を、窒素雰囲気下、大気圧下で、60分間照射した。紫外線照射後の膜のメチル基の非対称伸縮振動のピーク強度は、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の15%であった。この紫外線を照射した基体を、Ar雰囲気下、大気圧下、1000℃で、1時間焼成し、黒色石英ガラス膜を得た。図2に黒色石英ガラス膜の透過スペクトルを示す。黒色石英ガラス膜の、波長400nmの透過率は37%であった。
【0039】
また、図3にラマン分光装置を用いて測定した黒色石英ガラス膜のラマンスペクトルを示す。このラマンスペクトルから、黒色石英ガラス膜にはカーボンブラックが含まれることが分かる。
【0040】
比較例1
実施例1と同様の塗布工程をおこなった後、45mW/cmのXeエキシマ光(波長172nm)を、大気雰囲気下、大気圧下で、20分間照射した。紫外線照射後の膜のメチル基の非対称伸縮振動のピーク強度は、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の31%であった。この紫外線を照射した基体を、Ar雰囲気下、大気圧下、1000℃で、1時間焼成したが、石英ガラス膜は黒色を呈さなかった。図4に紫外線照射後の膜と焼成した石英ガラス膜の透過スペクトルを示す。石英ガラス膜の、波長400nmの透過率は93%であった。
【0041】
比較例2
実施例1と同様の塗布工程をおこなった後、45mW/cmのXeエキシマ光(波長172nm)を、窒素雰囲気下、大気圧下で、60分間照射した。紫外線照射後の膜のメチル基の非対称伸縮振動のピーク強度は、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の15%であった。この紫外線を照射した基体を、大気雰囲気下、大気圧下、1000℃で、1時間焼成したが、石英ガラス膜は黒色を呈さなかった。また膜には多数の割れが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
黒色石英ガラス膜を容易に形成することができ、半導体製造装置などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 実施例1の紫外線照射後の膜の透過スペクトル
2 実施例1の黒色石英ガラス膜の透過スペクトル
3 実施例2の黒色石英ガラス膜の透過スペクトル
4 実施例3の黒色石英ガラス膜の透過スペクトル
5 実施例4の黒色石英ガラス膜の透過スペクトル
6 実施例5の黒色石英ガラス膜の透過スペクトル
7 カーボンブラックのピーク
8 比較例1の紫外線照射後の膜の透過スペクトル
9 比較例1の焼成した石英ガラス膜の透過スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体にプレカーサを塗布する工程と、プレカーサが塗布された基体に波長150〜200nmの紫外線を照射する工程と、紫外線照射後の基体を不活性雰囲気下で焼成する工程とを含んでなる黒色石英ガラス膜形成方法であって、紫外線照射後の膜の赤外分光法から測定される炭化水素基に由来する振動のピーク強度が、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の20%以下になるまで紫外線を照射することを特徴とする黒色石英ガラス膜形成方法。
【請求項2】
紫外線照射後の膜の赤外分光法から測定される2960cm−1付近に観測されるメチル基の非対称伸縮振動のピーク強度が、プレカーサ塗布後の膜の同振動のピーク強度の20%以下になるまで紫外線を照射することを特徴とする請求項1記載の黒色石英ガラス膜形成方法。
【請求項3】
プレカーサが、炭化水素基とシロキサン結合(Si−O)を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の黒色石英ガラス膜形成方法。
【請求項4】
プレカーサが、メチル基とシロキサン結合(Si−O)を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の黒色石英ガラス膜形成方法。
【請求項5】
プレカーサが、シリコーンオイル、シリコンアルコキシド、またはシリコンアルコキシドの加水分解、脱水縮重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の黒色石英ガラス膜形成方法。
【請求項6】
不活性雰囲気下で焼成する工程において焼成温度が800℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の黒色石英ガラス膜形成方法。
【請求項7】
波長400nmの透過率が91%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の黒色石英ガラス膜形成方法により形成された黒色石英ガラス膜。
【請求項8】
請求項7に記載の黒色石英ガラス膜が表面の一部または全部に形成されていることを特徴とするガラス部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101956(P2012−101956A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249970(P2010−249970)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】