説明

黒色系インク組成物、インクセット及び画像形成方法

【課題】耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成することができる黒色系インク組成物、及び前記黒色系インク組成物を含むインクセットを提供する。
【解決手段】水溶性樹脂及びカーボンブラックを含有する樹脂被覆カーボンブラックと、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水とを含み、前記カーボンブラックの平均一次粒子径が20nm以上であり、水で5000倍に希釈したときの波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度との吸光度比(波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度)が1.9以下である、黒色系インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色系インク組成物、インクセット及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用インクとして、紫外線硬化型顔料インクが開発されてきた(例えば、特許文献1及び2参照)。紫外線硬化型顔料インクにおいては、基本的に、画像の耐候性向上を目的に着色剤として顔料を用い、画像の定着性向上を目的に重合性化合物及び重合開始剤を含む。紫外線硬化型顔料インクが黒色系の場合、着色剤としては一般にカーボンブラックが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−027211号公報
【特許文献2】特開2005−178331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カーボンブラックは紫外線領域の吸光度が高いため、カーボンブラックを含有する紫外線硬化型顔料インクにおいては、インクに含まれる重合開始剤の分解率が低いことがあり、その結果、インクの硬化感度が悪く、画像の定着性が悪い場合があった。上記課題に関し、特許文献1及び2には、何ら検討がされていない。
また、特許文献1及び2記載の紫外線硬化型顔料インクは、非水系顔料インクである。環境負荷を低減する観点からは、水系顔料インクのほうが望ましい。
【0005】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成することができる黒色系インク組成物、及び前記黒色系インク組成物を含むインクセットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 水溶性樹脂及びカーボンブラックを含有する樹脂被覆カーボンブラックと、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水とを含み、前記カーボンブラックの平均一次粒子径が20nm以上であり、水で5000倍に希釈したときの波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度との吸光度比(波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度)が1.9以下である、黒色系インク組成物。
<2> 前記カーボンブラックの平均一次粒子径が25nm以上であり、前記吸光度比が1.8以下である、<1>に記載の黒色系インク組成物。
<3> 前記樹脂被覆カーボンブラックは、架橋された水溶性樹脂によりカーボンブラックの表面の少なくとも一部が被覆されている、<1>又は<2>に記載の黒色系インク組成物。
<4> 前記水溶性樹脂は、ベンジル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートの少なくとも一方に由来の構成単位と(メタ)アクリル酸に由来の構成単位とを含む、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
<5> 前記樹脂被覆カーボンブラックは、体積平均粒子径が80nm〜200nmである、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
<6> 前記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0007】
【化1】

【0008】
前記一般式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す。
【0009】
<7> アセチレングリコール系界面活性剤をさらに含む、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
<8> <1>〜<7>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物と、前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液と、を含むインクセット。
<9> 前記凝集剤は酸性化合物である、<8>に記載のインクセット。
<10> <8>又は<9>に記載のインクセットを用いると共に、前記インクセットにおける処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、前記インクセットにおける黒色系インク組成物をインクジェット法により記録媒体に付与するインク付与工程と、記録媒体上に付与された前記黒色系インク組成物に活性エネルギー線を照射する硬化工程と、を含む画像形成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成することができる黒色系インク組成物、及び前記黒色系インク組成物を含むインクセットを提供することができる。
また、本発明によれば、前記インクセットを用い、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成することができる画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<黒色系インク組成物>
本発明の黒色系インク組成物(以下、単に「インク組成物」又は「インク」ともいう。)は、水溶性樹脂及びカーボンブラックを含有する樹脂被覆カーボンブラックと、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水とを含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。
本発明の黒色系インク組成物は、前記樹脂被覆カーボンブラックに含まれるカーボンブラックの平均一次粒子径が20nm以上であり、水で5000倍に希釈したときの波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度との吸光度比(波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度)が1.9以下である。
かかる構成の黒色系インク組成物は、活性エネルギー線を照射して硬化させた場合に、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像の形成が可能となる。
本発明の黒色系インク組成物は、インクジェット記録用に好適である。
【0013】
[樹脂被覆カーボンブラック]
本発明の黒色系インク組成物は、水溶性樹脂と、平均一次粒子径20nm以上のカーボンブラックとを含有する樹脂被覆カーボンブラックの少なくとも1種を含む。前記樹脂被覆カーボンブラックは、カーボンブラックの表面の少なくとも一部が水溶性樹脂により被覆されていればよい。
【0014】
(カーボンブラック)
前記樹脂被覆カーボンブラックを構成するカーボンブラック(以下、「カーボンブラック顔料」ともいう。)の基本特性としては、一次粒子径、比表面積、ストラクチャー、表面の化学的特性等が挙げられるが、使用用途により適切な特性のものを選択することが好ましい。
【0015】
前記樹脂被覆カーボンブラックを構成するカーボンブラックは、平均一次粒子径が20nm以上である。
平均一次粒子径が20nm以上のカーボンブラックは、平均一次粒子径が20nm未満のカーボンブラックに比し紫外線領域の吸光度が低く、そのため、活性エネルギー線(特に紫外線)による重合開始剤の分解を妨げにくい。
したがって、本発明の黒色系インク組成物は、インクの硬化感度を向上させるために、付加的な添加剤を用いることや重合開始剤を特定の化合物に限定することを要さずに、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成できる。前記カーボンブラックの平均一次粒子径が20nm未満であると、インク組成物の硬化感度が悪い場合があり、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成できないことがある。
前記カーボンブラックの平均一次粒子径は、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成できる観点から、好ましくは25nm以上である。
【0016】
前記カーボンブラックの平均一次粒子径は、その上限に特に制限はないが、インク中での樹脂被覆カーボンブラックの分散安定性の観点、及び記録媒体上でのインクの成膜性を良好にし耐擦性を良好にする観点から、80nm未満であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、60nm以下が更に好ましい。
前記カーボンブラック顔料の平均一次粒子径は、20nm以上80nm未満であることが好ましく、20nm以上70nm以下であることがより好ましく、20nm以上60nm以下であることが更に好ましく、25nm以上60nm以下であることが特に好ましい。
【0017】
前記カーボンブラックの平均一次粒子径は、日本電子(株)社製の透過型電子顕微鏡TEM2010(加圧電圧200kV)を用いて撮影された画像から、任意に選択した一次粒子1000個の粒子径(円相当径)を測定してその算術平均として算出される。
【0018】
前記カーボンブラックのBET比表面積は、特に制限されないが、150m/g以下が好ましい。前記BET比表面積が150m/g以下であると、画像の耐擦性に優れる。
他方、前記BET比表面積の下限は、印画濃度とインクの保存安定性の観点から、30m/g以上が好ましい。
前記BET比表面積は、上記の観点から、30m/g〜150m/gであることが好ましく、30m/g〜120m/gであることがより好ましい。
尚、カーボンブラックのBET比表面積は、JIS K6217によって測定される。
【0019】
前記カーボンブラックのDBP吸収量は、特に制限されないが、色調と印画濃度の観点から、30ml/100g〜200ml/100gであることが好ましく、30ml/100g〜100ml/100gであることがより好ましい。
尚、カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K6221 A法によって測定される。
【0020】
前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。具体例としては例えば、Conductex SC ultra、Raven 1200、Raven 1170、Raven 1000、Raven 1020、Raven 1080、Raven 1040、Raven 760 ultra、Raven 1060 ultra、Raven M、Raven 820、Raven 1100 ultra、Raven 860 ultra、Raven 540 ultra(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Rega 250R(以上、キャボット社製)、Color Black FW2、Color Black S160、NIPEX 160IQ、NIPEX 60、Printex 60、Printex L、Printex 55、Printex U、Special Black 550、Nipex 150、Printex 150 T、Special Black 4、Printex 40、Printex 45、Printex 3、Printex 30、Printex 300、Printex 200、Printex 140U、Printex 35、Nipex 35、Special Black 350、Special Black 250、Printex25(以上、デグッサ社製)、MA600、#750B、#650B、No.25、No.33、No.40、No.45、No.45L、No.47、No.52、MA7、MA8、MA77、MA11、MA100、MA230、MA220、MA14(以上、三菱化学社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0021】
上記のカーボンブラックは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明のインク組成物における前記カーボンブラックの含有比率は、特に制限されないが、密着性、耐擦性、印画濃度の観点から、0.5〜4質量%であることが好ましく、1.5〜3.5質量%であることがより好ましい。
【0022】
(水溶性樹脂)
前記樹脂被覆カーボンブラックを構成する水溶性樹脂は、平均一次粒子径20nm以上のカーボンブラックを被覆し、水系媒体に安定に分散させる。前記樹脂被覆カーボンブラックは、分散安定性の観点から、架橋された水溶性樹脂によってカーボンブラックの表面の少なくとも一部が被覆されていることが好ましい。
【0023】
前記水溶性樹脂について「水溶性」とは、樹脂が25℃において蒸留水に2質量%以上溶解することを意味するが、5質量%以上溶解することが好ましく、10質量%以上溶解することがより好ましい。また、樹脂が塩生成基を有する場合は、当モルの塩基又は酸によって中和した状態とした場合の溶解度が、上述の範囲となるものが好ましい。
前記水溶性樹脂としては、例えば、親水性高分子化合物が挙げられる。
【0024】
前記水溶性樹脂としては、カーボンブラックを水系媒体中に分散させる水溶性樹脂分散剤を用いることが好ましい。
前記水溶性樹脂としては、ポリビニル類、ポリウレタン類、ポリエステル類等が挙げられるが、中でもポリビニル類が好ましい。
また、前記水溶性樹脂としては、架橋剤により架橋可能な官能基を有する水溶性樹脂が好ましい。該架橋可能な官能基としては、特に限定されず、カルボキシ基またはその塩、イソシアナート基、エポキシ基等が挙げられるが、分散性向上の観点からカルボキシ基またはその塩が好ましく、カルボキシ基が特に好ましい。
【0025】
前記カルボキシ基を有する水溶性樹脂は、共重合成分としてカルボキシ基含有モノマーを用いて得られる共重合体であることが好ましい。
カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチルアクリレート、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、中でも、架橋性および分散安定性の観点から、(メタ)アクリル酸やβ−カルボキシエチルアクリレートが好ましい。尚、(メタ)アクリル酸はアクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
前記共重合成分は疎水性モノマーの少なくとも1種を含むことが好ましい。疎水性モノマーとしては、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートやフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環基を有する(メタ)アクリレート、並びに、スチレン及びその誘導体等を挙げることができる。
共重合体の合成方法は特に限定されないが、ビニルモノマーのランダム重合が分散安定性の点で好ましい。
【0026】
前記水溶性樹脂としては、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート及び芳香環基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一方と、カルボキシ基含有モノマーとを用いて得られる共重合体が好ましい。中でも、前記水溶性樹脂としては、少なくとも、ベンジル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートの少なくとも一方と、(メタ)アクリル酸とを共重合させて得られた共重合体(即ち、ベンジル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートの少なくとも一方に由来の構成単位と(メタ)アクリル酸に由来の構成単位とを少なくとも含む共重合体)であることが特に好ましい。
【0027】
前記水溶性樹脂は、顔料の分散性の観点から、架橋前の酸価が50〜250mgKOH/gであることが好ましく、50〜150mgKOH/gであることがより好ましい。尚、水溶性樹脂の酸価は、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法によって測定される。
また、前記水溶性樹脂の架橋率は、顔料の分散安定性やインクの凝集性の観点から、好ましくは1〜60モル%、より好ましくは5〜50モル%、さらに好ましくは10〜40モル%である。ここで、架橋率(モル%)は、下記の式により求めた値をいう。
架橋率(モル%)=[ポリマー1モルと反応させる架橋剤のモル当量数×100/ポリマー1モルが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数]
ここで、「ポリマー1モルと反応させる架橋剤のモル当量数」とは、ポリマー1モルと反応させる架橋剤のモル数に架橋剤1分子中の反応性基の数を乗じた値である。
【0028】
前記水溶性樹脂は、顔料の分散性の観点から、架橋前の重量平均分子量が3,000〜100,000が好ましく、5,000〜80,000がより好ましく、10,000〜60,000が更に好ましい。
尚、水溶性樹脂の重量平均分子量は、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(いずれも東ソー(株)製の商品名)のカラムを備えたGPC分析装置を用いて、溶媒としてTHFを使用し、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用い換算して表した分子量である。
【0029】
前記樹脂被覆カーボンブラックは、例えば、前記水溶性樹脂を用いてカーボンブラックを分散することにより水溶性樹脂で被覆されたカーボンブラックを作製し、その後、水溶性樹脂で被覆されたカーボンブラックの該水溶性樹脂を、架橋剤により架橋することにより作製することができる。
【0030】
具体的には例えば、
(i)カーボンブラックと、前記水溶性樹脂(分散剤)と、塩基性物質を含む水溶液と、前記水溶性樹脂を溶解または分散可能な有機溶剤とを混合し分散処理する工程(混合・水和工程)と、
(ii)前記有機溶剤の少なくとも一部を除く工程(溶剤除去工程)と、
を含む製造方法により、カーボンブラックの表面の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆カーボンブラックを製造することができる。
好ましくは、上記(i)と(ii)の間に、更に、
(iii)前記分散処理により得られた分散物に架橋剤を加えて加熱し、前記水溶性樹脂を架橋させる工程(架橋工程)と、
(iv)架橋後の分散物を精製して不純物を除去する工程(精製工程)と、
を含む製造方法により、カーボンブラックの表面の少なくとも一部が、架橋された前記水溶性樹脂で被覆された樹脂被覆カーボンブラックを製造することができる。
上記(i)〜(iv)により、カーボンブラックが微細に分散され、保存安定性に優れた顔料分散物を作製することができる。
より具体的には例えば、特開2009−190379号公報に記載の方法によって、カーボンブラック表面の少なくとも一部が水溶性樹脂で被覆された顔料分散物を製造することができる。
【0031】
前記黒色系インク組成物における前記水溶性樹脂とカーボンブラックの質量比〔水溶性樹脂の質量/カーボンブラックの質量〕は、インク安定性の観点等から、0.30〜0.80であることが好ましい。
【0032】
前記水溶性樹脂は、非水溶性樹脂(例えば非水溶性分散剤)と併用してもよい。
前記非水溶性樹脂としては、疎水性構成単位と親水性構成単位とを有する水不溶性樹脂を用いることができる。前記親水性構成単位としては、酸性基を有する構成単位であることが好ましく、カルボキシ基を有する構成単位であることがより好ましい。
非水溶性樹脂としては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
より具体的には例えば、特開2005−41994号公報、特開2006−273891号公報、特開2009−084494号公報、特開2009−191134等に記載の水不溶性樹脂を本発明においても好適に用いることができる。
【0033】
(架橋剤)
前記樹脂被覆カーボンブラックにおいてカーボンブラックを被覆している水溶性樹脂は、架橋剤を用いて架橋させていることが好ましい。
前記架橋剤は、前記水溶性樹脂と反応する部位を2つ以上有している化合物であれば、特に限定されないが、中でもカルボキシ基との反応性に優れている点から、好ましくは2つ以上のエポキシ基を有している化合物(2官能以上のエポキシ化合物)である。
具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられ、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが好ましい。
【0034】
前記架橋剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、Denacol EX−321、EX−821、EX−830、EX−850、EX−851(ナガセケムテックス(株)製)等を用いることができる。
【0035】
前記架橋剤の架橋部位(例えばエポキシ基)と前記水溶性樹脂の被架橋部位(例えばカルボキシ基)のモル比は、架橋反応速度、架橋後の分散液安定性の観点から、1:1〜1:10が好ましく、1:1〜1:5がより好ましく、1:1〜1:1.5が最も好ましい。
【0036】
[重合性化合物]
本発明の黒系インク組成物は、水溶性の重合性化合物の少なくとも1種を含み、活性エネルギー線(例えば、放射線もしくは光、又は電子線など)が照射されることにより重合、硬化する。
水溶性とは、蒸留水に一定濃度以上溶解できることをいう。具体的には25℃の水に対する溶解度が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また水溶性の重合性化合物は、水性のインク組成物中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであることが好ましい。また後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上昇してインク組成物中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。
【0037】
本発明における水溶性の重合性化合物としては、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物及び分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物を少なくとも1種含むことがより好ましい。ここで、(メタ)アクリルエステル構造とは、メタクリルエステル構造及びアクリルエステル構造の少なくとも一方を意味し、(メタ)アクリルアミド構造とは、メタクリルアミド構造及びアクリルアミド構造の少なくとも一方を意味する。
【0038】
(分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物)
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物は、水溶性であって、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物であれば限定されない。
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物は、下記一般式(M−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0039】
【化2】

【0040】
一般式(M−1)中、Qはi価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、iは1以上の整数を表す。
【0041】
一般式(M−1)で表される化合物は、不飽和単量体がエステル結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子、またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数iに制限はないが、2以上であることが好ましく、2以上6以下であることがより好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0042】
また、連結基Qは(メタ)アクリルエステル構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(M−1)で表される化合物が前述の水溶性を満たすことを可能にするような連結基から選択されることが好ましい。具体的には以下の化合物群Xから1以上の水素原子またはヒドロキシ基が除去された残基を挙げることができる。
【0043】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール,2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、または糖類などのポリオール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミン、などのポリアミン類。
【0044】
さらに連結基Qとしては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0045】
連結基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
【0046】
前記分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示すノニオン性化合物を挙げることができるが、本願はこれに限定されない。
【0047】
【化3】

【0048】
また、ノニオン性の重合性化合物としては、ポリオール化合物から誘導される1分子中に2以上のアクリロイル基を有する(メタ)アクリル酸エステルも用いることができる。前記ポリオール化合物としては、例えば、グリコール類の縮合物、オリゴエーテル、オリゴエステル類等や、単糖類、2糖類などの2以上の水酸基を有するポリオール化合物が挙げられる。
【0049】
またトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、トリスヒドロキシアミノエタン等との(メタ)アクリル酸エステル等も好適である。
【0050】
さらに、前記分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する水溶性の重合性化合物(M−1)の具体例としては、例えば以下に示すカチオン性化合物を挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0051】
【化4】

【0052】
前記構造において、Rは、ポリオール化合物の残基を表す。また、Xは、H又はCHを表し、AはCl、HSO又はCHCOOを表す。前記ポリオール化合物としては、例えば、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、脂環型ビスフェノールA及びこれらの縮合物等を挙げることができる。さらに、カチオン基を有する重合性化合物として以下の構造(カチオン性化合物1〜11)も挙げることができる。
【0053】
【化5】

【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
(分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物)
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物は、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物であれば限定されない。
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物は、下記一般式(M−2)で表される化合物であることが好ましい。式(M−2)の構造を有することで、後述する一般式(1)で表される化合物と重合性化合物との相溶性が向上し、硬化感度等を高めることが可能となるため好ましい。
【0058】
【化9】

【0059】
一般式(M−2)中、Qはj価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、jは1以上の整数を表す。
【0060】
一般式(M−2)で表される化合物は不飽和単量体が、アミド結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子、またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数jに制限はないが、2以上であることが好ましく、2以上6以下であることがより好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0061】
また、連結基Qは(メタ)アクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はない。連結基Qの詳細は前記連結基Qと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0062】
前記分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示す水溶性の重合性化合物を挙げることができる。
【0063】
【化10】

【0064】
【化11】

【0065】
【化12】

【0066】
【化13】

【0067】
【化14】

【0068】
【化15】

【0069】
上記重合性化合物以外にも、例えば、下記に代表されるマレイミド構造を有する化合物、スルファミド構造を有する化合物又はN−ビニルアセトアミド構造を有する化合物等も使用することができる。
【0070】
【化16】

【0071】
水溶性の重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
重合性化合物のインク組成物中における含有量としては、インク組成物全質量に対して、3〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。
【0072】
[重合開始剤]
本発明の黒色系インク組成物は、重合開始剤の少なくとも1種を含むが、前記重合開始剤は水溶性の重合開始剤の少なくとも1種であることが好ましい。ここで重合開始剤における水溶性とは、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することを意味する。前記水溶性の重合開始剤は、25℃において蒸留水に1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することがより好ましい。
【0073】
前記水溶性の重合開始剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物や、特開2005―307198号公報に記載の化合物等を挙げることができる。中でも、密着性と耐擦性の観点から、下記一般式(1)で表される水溶性の重合開始剤であることが好ましい。
【0074】
【化17】

【0075】
前記一般式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す。m及びnは、mが0〜3であってnが0又は1であることが好ましく、mが0又は1であってnが0であることがより好ましい。
前記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0076】
【化18】

【0077】
前記一般式(1)で表される化合物は、特開2005−307198号公報等の記載に準じて合成した化合物であっても、市販の化合物であってもよい。前記一般式(1)で表される市販の化合物としては例えば、イルガキュア2959(m=0、n=0)を挙げることができる。
【0078】
本発明のインク組成物における重合開始剤の含有量は、0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜20質量%の範囲であることがより好ましく、1.0〜15質量%の範囲であることがさらに好ましく、1.0〜5.0質量%の範囲であることが最も好ましい。
【0079】
[水]
本発明の黒色系インク組成物は、水を含有する。水の含有量は、特に制限はないが、好ましくは10〜90質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜80質量%である。
【0080】
[水溶性有機溶剤]
本発明の黒色系インク組成物は、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含むことができる。水溶性有機溶剤は、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0081】
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール(多価アルコール類);糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
[界面活性剤]
本発明の黒色系インク組成物は、界面活性剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。
表面張力調整剤として、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等を有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。
本発明においては、インク組成物の打滴干渉抑制の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもアセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0083】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物等を挙げることができ、これから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物の市販品としては例えば、日信化学工業社のオルフィンE1010などのEシリーズを挙げることができる。
【0084】
界面活性剤(表面張力調整剤)を黒色系インク組成物に含有する場合、界面活性剤はインクジェット方式によりインク組成物の吐出を良好に行う観点から、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲の量を含有するのが好ましく、より好ましくは20〜45mN/mであり、更に好ましくは25〜40mN/mである。
界面活性剤の黒色系インク組成物中における界面活性剤の具体的な量としては、前記表面張力となる範囲が好ましいこと以外は特に制限はなく、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.2〜3質量%である。
【0085】
[その他の成分]
前記黒色系インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて更にその他成分として、コロイダルシリカ、樹脂粒子、各種の添加剤を含むことができる。
【0086】
前記黒色系インク組成物は、コロイダルシリカを含有することにより、吐出安定性が向上すると共にインクジェットヘッド部材における撥液性の低下を抑制できる。特にインクジェットヘッド部材の少なくとも一部にシリコンが使用されている場合に、特にその効果が大きい。
コロイダルシリカとしては、例えば、特開2002−206063号公報に記載されている公知のコロイダルシリカを用いることができる。
【0087】
前記樹脂粒子としては、後述の処理液又はこれを乾燥させた記録媒体上の領域と接触した際に凝集または分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。このような樹脂粒子は、水及び有機溶剤の少なくとも1種に分散されているものが好ましい。
樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等あるいはそのラテックスを用いることができる。アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂を好ましい例として挙げることができる。樹脂粒子はラテックスの形態で用いることもできる。
前記樹脂粒子の重量平均分子量は1万〜20万が好ましく、より好ましくは2万〜20万である。
前記樹脂粒子の平均粒径は、1nm〜1μmの範囲が好ましく、1nm〜200nmの範囲がより好ましく、1nm〜100nmの範囲が更に好ましく、1nm〜50nmの範囲が特に好ましい。
前記樹脂粒子のガラス転移温度Tgは30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
【0088】
本発明の効果をより効果的に得る観点からは、インク組成物の全量中における前記樹脂粒子の含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0089】
前記各種の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、又はキレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの添加剤の含有量はその用途に応じて適宜決定すればよいが、例えば、黒色系インク組成物中に各々0.02〜1.00質量%程度とすればよい。
【0090】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0091】
褪色防止剤としては、各種の有機系および金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としては、例えば、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0092】
防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。
【0093】
pH調整剤としては、調合されるインク組成物に悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物など)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0094】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0095】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0096】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0097】
[黒色系インク組成物の物性]
前記黒色系インク組成物は、水で5000倍に希釈して測定される波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度について、両者の吸光度比(波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度)が1.9以下である。前記黒色系インク組成物は、前記吸光度比が1.9以下であることにより、活性エネルギー線(特に紫外線)に対する硬化感度に優れる。
【0098】
カーボンブラックは紫外線領域の吸光度が高いため、従来、黒色顔料としてカーボンブラックを含有する紫外線硬化型インクにおいては、インクに含まれる重合開始剤の分解率が低いことがあり、その結果、インクの硬化感度が悪い場合があった。
これに対し、本発明は、インク組成物を水で5000倍に希釈したときの波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度との吸光度比を1.9以下とすることにより、インクの硬化感度を向上させる。
前記吸光度比が1.9以下であることは、インク組成物の紫外線領域の吸光度が低めで可視光領域の吸光度に近いことを意味する。カーボンブラックを含有するインク組成物の吸光にはカーボンブラックの寄与率が大きいので、前記吸光度比が1.9以下であることは、カーボンブラックによる紫外線領域の吸収が比較的少ないことを意味する。
したがって、本発明においては、インクに含まれる重合開始剤の分解が妨げられにくく、その結果、本発明のインク組成物は、活性エネルギー線(特に紫外線)に対する硬化感度に優れる。
【0099】
前記吸光度比は、活性エネルギー線(特に紫外線)に対する硬化感度の観点から、1.8以下であることがより好ましい。
前記吸光度比の下限は特に制限されないが、インク安定性の観点から、1.3以上が好ましい。
【0100】
前記黒色系インク組成物において、波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度は、該黒色系インク組成物を蒸留水で5000倍に希釈し、紫外可視近赤外分光光度計V−570(日本分光(株)製)により測定される。
【0101】
前記黒色系インク組成物において、水で5000倍に希釈して測定される波長350nmの吸光度の範囲は特に制限されないが、密着性の観点から、0.3〜0.46であることが好ましく、0.35〜0.44であることがより好ましい。他方、水で5000倍に希釈して測定される波長600nmの吸光度の範囲は特に制限されないが、画像濃度の観点から、0.2〜0.3であることが好ましく、0.22〜0.28であることがより好ましい。
【0102】
前記吸光度比は、例えば、前記樹脂被覆カーボンブラックを構成するカーボンブラックの平均一次粒子径によって調整することができる。
一般に、カーボンブラックの平均一次粒子径が大きいほど、波長350nmの吸光度は低くなり、したがって前記吸光度比が小さくなる傾向がある。そのため、平均一次粒子径が大きめのカーボンブラックを使用することにより、前記吸光度の比を1.9以下とすることができる。
本発明においては、前記吸光度比を1.9以下とする観点から、前記樹脂被覆カーボンブラックを構成するカーボンブラックの平均一次粒子径は20nm以上が好ましく、25nm以上がより好ましい。
【0103】
また、前記黒色系インク組成物は、前記吸光度比が1.9以下であることにより、色調に赤みが少なく黒色の色調が良好である。インクの色調の観点からは、前記吸光度比は、1.3〜1.9が好ましく、1.3〜1.8がより好ましい。
【0104】
前記黒色系インク組成物における分散状態での前記樹脂被覆カーボンブラックは、体積平均粒子径が80nm〜200nmであることが好ましく、80nm〜180nmがより好ましく、80nm〜170nmが更に好ましい。前記体積平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好で、またインクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好である。他方、前記体積平均粒子径は、80nm以上であると密着性が良好である。
分散状態での樹脂被覆カーボンブラックの体積平均粒子径は、インク化した状態での体積平均粒子径を示すが、インク化する前段階のいわゆる濃縮インク分散物についても同様である。
尚、前記黒色系インク組成物における分散状態での樹脂被覆カーボンブラックの体積平均粒子径は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により測定する。
【0105】
前記黒色系インク組成物の表面張力(25℃)としては、20〜60mN/mであることが好ましい。より好ましくは、20〜45mN/mであり、更に好ましくは、25〜40mN/mである。
インク組成物の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、25℃の条件下で測定される。
【0106】
前記黒色系インク組成物の25℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
インク組成物の粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、25℃の条件下で測定される。
【0107】
[製造方法]
前記黒色系インク組成物は、定法により製造することができる。例えば、樹脂被覆カーボンブラックと、水溶性重合性化合物の少なくとも1種と、重合開始剤の少なくとも1種と、水と、必要に応じて水溶性有機溶剤および界面活性剤と、を混合することで製造することができる。混合方法は特に制限されず、通常用いられる混合方法を適宜選択して適用できる。
【0108】
<インクセット>
本発明のインクジェット記録用のインクセットは、前記黒色系インク組成物の少なくとも1種と、前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液の少なくとも1種を含んで構成される。
前記黒色系インク組成物に加えて処理液を用い、後述する画像形成方法によって画像を形成することにより、さらに密着性、耐擦性、膜強度に優れた画像を形成することができる。またインクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0109】
[処理液]
処理液は、既述の黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤の少なくとも1種を含み、必要に応じて、さらに他の成分を含んで構成される。
【0110】
前記凝集剤は、記録媒体上においてインク組成物と接触することにより、インク組成物中の成分を凝集(固定化)可能なものであり、例えば、固定化剤として機能する。例えば、処理液を記録媒体(好ましくは、塗工紙)に付与することにより記録媒体上に凝集剤が存在している状態で、インク組成物がさらに着滴して凝集剤と接触することにより、インク組成物中の成分を凝集させて、インク組成物成分を記録媒体上に固定化することができる。
凝集剤としては、酸性化合物、多価金属塩、及びカチオン性ポリマー等を挙げることができる。中でもインク組成物成分の凝集性の観点から、酸性化合物であることが好ましい。凝集剤は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0111】
(酸性化合物)
酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、およびこれらの化合物の誘導体等が好適に挙げられる。
【0112】
これらの中でも、水溶性の高い酸性化合物が好ましい。また、インク組成物成分と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価または3価の酸性化合物が特に好ましい。
酸性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
前記処理液が酸性化合物を含む場合、処理液のpH(25℃)は、0.1〜6.8であることが好ましく、0.5〜6.0であることがより好ましく、0.8〜5.0であることが更に好ましい。
【0114】
前記酸性化合物の含有量は、前記処理液の全質量に対し、40質量%以下であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましく、15〜35質量%であることが更に好ましい。酸性化合物の含有量を40質量%以下とすることでインク組成物中の成分をより効率的に固定化することができる。
【0115】
(多価金属塩)
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
前記多価金属塩は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0116】
前記多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%以上であることが好ましい。多価金属塩の含有量を15質量%以上とすることでより効果的にインク組成物中の成分を固定化することができる。多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15〜35質量%であることが好ましい。
【0117】
(カチオン性ポリマー)
カチオン性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニドから選ばれる少なくとも1種のカチオン性ポリマーである。
カチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記カチオン性ポリマーの中でも、凝集速度の観点で有利な、ポリグアニド(好ましくは、ポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート、ポリモノグアニド、ポリメリックビグアニド)、ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルピリジン)が好ましい。
【0118】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、500〜500,000の範囲が好ましく、700〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは1,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、500以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0119】
前記処理液はカチオン性ポリマーを含むが、処理液のpH(25℃)は、1.0〜10.0であることが好ましく、2.0〜9.0であることがより好ましく、3.0〜7.0であることがさらに好ましい。
【0120】
カチオン性ポリマーの含有量は、前記処理液の全質量に対して、1〜35質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましい。
【0121】
処理液は前記凝集剤に加えて、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性有機溶剤の詳細は、インク組成物におけるそれと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0122】
処理液は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の成分として他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0123】
<画像形成方法>
前記インクセットを用いる画像形成方法としては、例えば、前記インクセットにおける処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、前記インクセットにおける黒色系インク組成物をインクジェット法により記録媒体に付与するインク付与工程と、記録媒体上に付与された前記黒色系インク組成物に活性エネルギー線を照射する硬化工程と、を含み必要に応じてその他の工程を含む画像形成方法を挙げることができる。
【0124】
処理液に含まれる凝集剤によってインク組成物の成分を凝集状態にし、これに活性エネルギー線を照射して重合性化合物を重合、硬化させることで、記録媒体への密着性、耐擦過性により優れた画像を形成することができる。また硬化して得られる画像は膜強度がより向上する。
【0125】
[処理液付与工程]
処理液付与工程は、インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて画像化する。この場合、インク組成物中の樹脂粒子や顔料などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液における各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
【0126】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行うことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行うことができる。インクジェット法の詳細については、後述の通りである。
【0127】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後に、インク付与工程を設ける態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インク組成物をインクジェット法で付与(吐出)する前に、予めインク組成物中の顔料を凝集可能な処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を吐出して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0128】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m以上となる付与量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0129】
前記画像形成方法においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0130】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行うことができる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0131】
[インク付与工程]
インク付与工程は、既述の本発明の黒色系インク組成物を、インクジェット法により記録媒体に付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の画像を形成できる。
【0132】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0133】
インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0134】
インクジェット法としては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行うシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行うことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明のインクジェット記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行わないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0135】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、0.5〜6pl(ピコリットル)が好ましく、1〜5plがより好ましく、更に好ましくは2〜4plである。
【0136】
[加熱乾燥工程]
前記画像形成方法は、前記インク吐出工程の後、インク組成物の付与により形成されたインク画像を加熱して、インク組成物中の溶媒の少なくとも一部を除去する加熱乾燥工程を有することが好ましい。加熱乾燥処理を施すことにより、後の硬化工程によって密着性と耐擦性により優れた画像を形成することができる。
【0137】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。
【0138】
[硬化工程]
前記画像形成方法においては、記録媒体上に付与されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する硬化工程を設ける。ここで使用される活性エネルギー線は、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光、赤外光などが挙げられる。
活性エネルギー線を照射する硬化工程は、インク組成物の付与により形成されたインク画像に、例えば、紫外線照射ランプから紫外線を照射する工程である。これにより、画像中のモノマー成分(水溶性の重合性化合物)を確実に重合硬化させることができる。このとき、紫外線照射ランプを記録媒体の記録面に対向配置し、記録面の全体を照射すれば、画像全体の硬化を行うことができる。なお、活性エネルギー線を照射する光源は、紫外線照射ランプに限らず、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
活性エネルギー線を照射する硬化工程は、インク付与工程および処理液付与工程の後であれば、前記加熱乾燥工程の前後のいずれに設置されていてもよく、加熱乾燥工程の前後両方に設置してもよい。
【0139】
活性エネルギー線の照射条件としては、重合性化合物が重合硬化可能であれば特に制限されない。例えば活性エネルギー線の波長としては、例えば、200〜600nmであることが好ましく、300〜450nmであることがより好ましく、350〜420nmであることがさらに好ましい。
活性エネルギー線の出力としては、5000mJ/cm以下であることが好ましく、10〜4000mJ/cmであることがより好ましく、20〜3000mJ/cmであることがさらに好ましい。
【0140】
(記録媒体)
前記画像形成方法は、記録媒体上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクセットを用いた画像形成方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0141】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製「しらおい」、及び日本製紙(株)製「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製「OKコートL」及び日本製紙(株)製「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0142】
上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05〜0.5でmL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1〜0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2〜0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0143】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましい。より具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【実施例】
【0144】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0145】
<水溶性樹脂分散剤P−1の合成>
メタクリル酸(172部)、メタクリル酸ベンジル(828部)、及びイソプロパノール(375部)を混合し、モノマー供給組成物を調製した。
2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(22.05部)、及びイソプロパノール(187.5部)を混合し、開始剤供給組成物を調製した。
イソプロパノール(187.5部)を窒素雰囲気下、80℃に加温した中に、上記モノマー供給組成物及び上記開始剤供給組成物の混合物を、2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に4時間、80℃に保った後に、25℃まで冷却した。冷却後、溶媒を減圧除去することにより、水溶性樹脂分散剤P−1(水溶性樹脂)を得た。
当該水溶性樹脂は、GPCにより求めた重量平均分子量が約50000であり、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により求めた酸価が112mgKOH/gであった。
【0146】
<カーボンブラック分散物K1の調製>
上記で得た水溶性樹脂分散剤P−1(150部)を、水酸化カリウム水溶液を用いて、水溶性樹脂分散剤中のメタクリル酸量の0.8当量を中和し、さらに蒸留水を加え、水溶性樹脂分散剤の濃度が25質量%となるようにして、水溶性樹脂分散剤水溶液を調製した。
この水溶性樹脂分散剤水溶液(97.2部)と、カーボンブラック顔料 MA7、(三菱化学(株)製、平均一次粒子径24nm、BET比表面積115m/g)(48.6部)と、水(78.2部)と、ジプロピレングリコール(100部)とを混合し、0.1mmφジルコニアビーズを用いてビーズミルにより所望の体積平均粒子径を得るまで分散し、顔料濃度15質量%の樹脂被覆カーボンブラックの分散物N1(未架橋分散物)を得た。
【0147】
上記分散物N1(150部)にイオン交換水100g、Denacol EX−321(ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量140)1.1部を添加し、60℃にて6時間半反応後25℃に冷却し、カーボンブラックを被覆している樹脂を架橋させた。得られた架橋分散物を、限外ろ過フィルター(分画分子量5万、Q0500076Eウルトラフィルター、ADVANTEC(株)製)を用いて精製した後、顔料濃度15質量%に調製して、樹脂被覆カーボンブラックの分散物(架橋分散物)であるカーボンブラック分散物K1を得た。
このとき、水溶性樹脂分散剤100部に対する架橋剤の使用量は9.78部であった。
架橋率は下記のようにして算出した。
水溶性樹脂分散剤11.25部に対して、架橋剤としての前記Denacol EX−321を1.1部反応させるので、水溶性樹脂分散剤1モルと反応させる架橋剤のモル当量数は、(1.1/140)/(11.25/水溶性樹脂分散剤の重量平均分子量(50000))=34.9となる。
Denacol EX−321はカルボキシ基と反応するため、水溶性樹脂分散剤1モル中に架橋剤と反応できる反応性基のモル数は、水溶性樹脂分散剤1モルが有するメタクリル酸(分子量86)の合計モル数である。
50000×0.172/86=100モル
したがって、架橋率(モル%)=34.9×100/100=34.9モル%となる。
【0148】
<カーボンブラック分散物K2の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料をMA100(三菱化学(株)製、平均一次粒子径24nm、BET比表面積110m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K2を得た。
【0149】
<カーボンブラック分散物K3の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料をPrintex 200(エボニック デグサ(株)社製、平均一次粒子径56nm、BET比表面積45m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K3を得た。
【0150】
<カーボンブラック分散物K4の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料をPrintex 300(エボニック デグサ(株)社製、平均一次粒子径27nm、BET比表面積80m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K4を得た。
【0151】
<カーボンブラック分散物K5の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料を#10(三菱化学(株)製、平均一次粒子径75nm、BET比表面積30m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K5を得た。
【0152】
<カーボンブラック分散物K6の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料をColor Black S170(エボニック デグサ(株)社製、平均一次粒子径17nm、BET比表面積200m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K6を得た。
【0153】
<カーボンブラック分散物K7の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料を#2300(三菱化学(株)製、平均一次粒子径15nm、BET比表面積320m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K7を得た。
【0154】
<カーボンブラック分散物K8の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料をMCF88(三菱化学(株)製、平均一次粒子径18nm、BET比表面積180m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K8を得た。
【0155】
<カーボンブラック分散物K9の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料をSpecial Black 550(エボニック デグサ(株)社製、平均一次粒子径25nm、BET比表面積100m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K9を得た。
【0156】
<カーボンブラック分散物K10の調製>
カーボンブラック分散物K1の調製において、使用するカーボンブラック顔料を#45L(三菱化学(株)製、平均一次粒子径24nm、BET比表面積125m/g)に変えた以外は同様にしてカーボンブラック分散物K10を得た。
【0157】
<重合性化合物2の合成>
攪拌機を備えた1Lの三口フラスコに4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン40.0g(182mmol)、炭酸水素ナトリウム37.8g(450mmol)、水100g、テトラヒドロフラン300gを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド35.2g(389mmol)を20分かけて滴下した。滴下後、室温で5時間攪拌した後、得られた反応混合物から減圧下でテトラヒドロフランを留去した。次に水層を酢酸エチル200mlで4回抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、減圧下溶媒留去することにより目的の重合性化合物2の固体を35.0g(107mmol、収率59%)得た。
【0158】
【化19】

【0159】
<処理液1の作製>
下記組成にて各材料を混合して、処理液1を作製した。
処理液1の粘度、表面張力、及びpH(25±1℃)は、粘度2.5mPa・s、表面張力40mN/m、pH1.0であった。表面張力は協和界面科学(株)製、全自動表面張力計CBVP−Zを用いて測定し、粘度はブルックフィールドエンジニアリング社製、DV−III Ultra CPを用いて測定し、pHは東亜ディーケーケー(株)製、PHメーターHM−30Rを用いて測定した。
「処理液1の組成」
・マロン酸(和光純薬工業(株)製) …25.0%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬工業(株)製) …20.0%
・エマルゲンP109(花王(株)製、ノニオン性界面活性剤) … 1.0%
・イオン交換水 …合計で100%になる残量
【0160】
≪実施例1≫
<黒色系インク組成物K1の調製>
下記組成にて各材料を混合し、ガラスフィルター(GS−25、ADVANTEC社製)でろ過した後、PVDF膜フィルター(ミリポア社製、孔径5μm)でろ過し、黒色系インク組成物K1を得た。
「黒色系インク組成物K1の組成」
・カーボンブラック分散物K1 …20部
・重合性化合物2 …19部
・イルガキュア2959(BASFジャパン(株)製、光重合開始剤) … 3部
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤) … 1部
・イオン交換水 …合計で100部になる残量
【0161】
上記で得た黒色系インク組成物K1を蒸留水で5000倍に希釈し、紫外可視近赤外分光光度計V−570(日本分光(株)製)により、波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度を測定し、両者の比(波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度)を求めた。評価結果を表1に示す。
【0162】
上記で得た黒色系インク組成物K1について、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒子径を測定したところ、113nmであった。
【0163】
<画像形成および評価>
インクジェットヘッドを用意し、これに繋がる貯留タンクに上記で得た黒色系インク組成物K1を詰め替えた。記録媒体として三菱製紙(株)製「特菱アート紙」(坪量104.7g/m)をA5サイズにカットし、500mm/秒で所定の直線方向に移動可能なステージ上に固定し、ステージ温度を30℃に保持した。これに上記で得た処理液1をバーコーターで約1.2μmの厚みとなるように塗布し、塗布直後に50℃で2秒間乾燥させた。
その後、インクジェットヘッドを、前記ステージの移動方向(副走査方向)と直交する方向に対して、ノズルが並ぶラインヘッドの方向(主走査方向)が75.7度傾斜するように固定配置し、記録媒体を副走査方向に定速移動させながらインク液滴量2.8pL、吐出周波数25.5kHz、解像度1200dpi×1200dpiの吐出条件にてライン方式で、記録媒体の全面にインクを吐出してベタ画像とした。
画像を記録した後、インク着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで加熱しながら、送風器により120℃、5m/secの温風を記録面に15秒間あてて乾燥させた。
画像乾燥後、UV光(アイグラフィックス(株)製メタルハライドランプ、最大照射波長365nm)を積算照射量0.8J/cmになるように照射して画像を硬化して印画サンプルを得た。
【0164】
(密着性評価)
上記で得た印画サンプルを25℃、50%RHの環境下に15分放置した。放置後の印画サンプルのベタ画像表面に、長さ3cmのセロハンテープ(LP−12、ニチバン株式会社製)を貼り、5秒後にセロハンテープを剥離させた。その後、サンプルと剥離させたセロハンテープを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を表1に示す。
【0165】
〜評価基準〜
A:テープへの色の付着がなく、サンプルのベタ画像の劣化も認められなかった。
B:テープには2個以下で点状に色が付着したが、サンプルのベタ画像の劣化は認められなかった。
C:テープには3個以上の箇所で色が付着し、サンプルのベタ画像の劣化がわずかに認められた。
D:テープの一部に線状に色が付着し、サンプルのベタ画像の脱落が認められた。
E:テープの半分以上の面積に色が付着し、サンプルのベタ画像が脱落した。
※D及びEは実用上問題となるレベルである。
【0166】
(耐擦性評価)
上記で得た印画サンプルを25℃、50%RHの環境下に15分放置した。放置後のサンプルのベタ画像表面上に、画像形成していないOKトップコート+(以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦った。その後、未使用サンプルとベタ画像を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を表1に示す。
【0167】
〜評価基準〜
A:未使用サンプルへの色の付着がなく、擦られたベタ画像の劣化も認められなかった。
B:未使用サンプルには色が付着したが、擦られたベタ画像の劣化は認められなかった。
C:未使用サンプルには色が付着し、擦られたベタ画像の一部が劣化した。
D:未使用サンプルには色が付着し、擦られたベタ画像面積の半分以上が劣化した。
※Dは実用上問題となるレベルである。
【0168】
≪実施例2〜5≫
実施例1において、カーボンブラック分散物K1の代わりにカーボンブラック分散物K2〜K5をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして黒色系インク組成物K2〜K5をそれぞれ調製し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0169】
≪比較例1〜5≫
実施例1において、カーボンブラック分散物K1の代わりにカーボンブラック分散物K6〜K10をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして黒色系インク組成物K6〜K10をそれぞれ調製し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0170】
【表1】

【0171】
表1から、本発明の黒色系インク組成物を用いて画像形成することにより、密着性と耐擦性に優れた画像を形成可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂及びカーボンブラックを含有する樹脂被覆カーボンブラックと、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水とを含み、
前記カーボンブラックの平均一次粒子径が20nm以上であり、
水で5000倍に希釈したときの波長350nmの吸光度と波長600nmの吸光度との吸光度比(波長350nmの吸光度/波長600nmの吸光度)が1.9以下である、黒色系インク組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックの平均一次粒子径が25nm以上であり、前記吸光度比が1.8以下である、請求項1に記載の黒色系インク組成物。
【請求項3】
前記樹脂被覆カーボンブラックは、架橋された水溶性樹脂によりカーボンブラックの表面の少なくとも一部が被覆されている、請求項1又は請求項2に記載の黒色系インク組成物。
【請求項4】
前記水溶性樹脂は、ベンジル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートの少なくとも一方に由来の構成単位と(メタ)アクリル酸に由来の構成単位とを含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項5】
前記樹脂被覆カーボンブラックは、体積平均粒子径が80nm〜200nmである、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項6】
前記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【化1】


(一般式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す。)
【請求項7】
アセチレングリコール系界面活性剤をさらに含む、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物と、
前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液と、
を含むインクセット。
【請求項9】
前記凝集剤は酸性化合物である、請求項8に記載のインクセット。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載のインクセットを用いると共に、
前記インクセットにおける処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、
前記インクセットにおける黒色系インク組成物をインクジェット法により記録媒体に付与するインク付与工程と、
記録媒体上に付与された前記黒色系インク組成物に活性エネルギー線を照射する硬化工程と、を含む画像形成方法。

【公開番号】特開2012−207117(P2012−207117A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73459(P2011−73459)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】