説明

鼓型堰付き浸漬ノズルを用いる中高炭素鋼の連続鋳造方法

【課題】凝固遅れが進行し易い中高炭素鋼を高い生産性で連続鋳造できる連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】内側底面から所定距離上方へ離れた位置において該浸漬ノズルの周壁に一対の対向する溶鋼吐出孔3が穿孔されると共に、内側底面に突部4が延設される、浸漬ノズルを用いる。突部4の高さ[mm]をhとし、突部4の延在方向端部における幅[mm]をaとし、突部4の延在方向中央における幅[mm]をbとし、前記浸漬ノズルの内径[mm]をDsnとしたとき、下記式(1)及び(2)を満足するものとする。鋳造速度Vc[m/min]を1.4〜2.2とする。溶鋼過熱度ΔT[℃]を20〜45とする。 h/H=0.5〜2.0 (1) (a−b)/Dsn=0.15〜0.45 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有量C[wt%]を0.07〜0.51とする中高炭素鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素含有量C[wt%]を0.07〜0.51とする中高炭素鋼は凝固時に包晶反応に起因する変形を生じるため鋳造時に鋳型壁と凝固殻の間にエアギャップを生じ易く、鋳型壁と凝固殻の間にエアギャップが生じると凝固殻から鋳型への抜熱が阻害されるため凝固遅れが進行し易い。また、浸漬ノズルの吐出孔を通じて鋳型内に注入された速い溶鋼流が凝固殻に衝突すると、溶鋼から凝固殻への入熱が増加し、凝固遅れが進行し易い。特に鋳型コーナー部においては、エアギャップに起因する抜熱不足と浸漬ノズルから吐出された速い溶鋼流が凝固殻に衝突することによる入熱増大が重なって著しい凝固遅れが生じ易く、鋳型直下で凝固殻が破断して内部の溶鋼が流出するブレークアウトが発生し易くなる。
【0003】
鋳型内に注入された溶鋼流の凝固殻への衝突速度を抑制する最も簡単な方法は鋳造速度を低くする事であるが、鋳造速度を低くすると生産性が低下する問題がある。これに対し、生産性を確保しつつ上記の衝突速度を低減する方法としては、浸漬ノズルの内径を太くしたり、電磁ブレーキを使用する方法がある。しかし、これらの方法では鋳型内全体の平均流速が低化して、凝固界面における洗浄効果が低下し、気泡に起因する製品欠陥が増大する問題がある。そこで、鋳型内全体の平均流速を低速化させる事無く、コーナー部への衝突速度を抑制する手段として、特許文献1は、所定の浸漬ノズルを使用して鋳型厚み方向の偏流を抑制する方法を開示する。
【0004】
また、特許文献2は、鋼の連続鋳造において鋳型内溶鋼を攪拌して、気泡捕捉や介在物による表面疵を防止する溶鋼の攪拌方法を開示する。この特許文献2には、鋳型と浸漬ノズルを用いて行われる一般的な連続鋳造方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3は、鋳型厚み方向の偏流を抑制するために、ノズル内底部に吐出方向に平行な一本の尾根状突起物を設置した浸漬ノズルを開示する。
【0006】
【特許文献1】特開2005-125389号公報
【特許文献2】特開平07-164119号公報
【特許文献3】国際公開2005/070589号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、特許文献3に開示される浸漬ノズルでは、突起物の幅が一定であり、実際のところ、鋳型幅方向の偏流が顕著に現れ、この鋳型幅方向の偏流により、鋳型コーナー部の凝固遅れは十分には抑制されない。上記特許文献1〜3には、鋳型幅方向の偏流については一切、言及がない。
【0008】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、凝固遅れが進行し易い中高炭素鋼を、ブレークアウトを発生させることなく高い生産性で連続鋳造できる、連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第一の観点によれば、炭素含有量C[wt%]を0.07〜0.51とする中高炭素鋼を、鋳型幅W[mm]を800〜2100とし鋳型厚みD[mm]を200〜320とする鋳型と、タンディッシュ内に保持される溶鋼を前記鋳型に注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルであって、該浸漬ノズルの内側底面から所定距離上方へ離れた位置において該浸漬ノズルの周壁に一対の対向する溶鋼吐出孔が穿孔されると共に、前記内側底面には該浸漬ノズルの底面視において前記溶鋼吐出孔の穿孔方向と平行に延在する突部が設けられ、前記溶鋼吐出孔の流路断面積A[mm2]を直径[mm]を70〜120とする円の面積[mm2]とし、前記溶鋼吐出孔の下向き吐出角θ1[deg.]を15〜55とし、前記溶鋼吐出孔の内周側開口縁の下端と前記内側底面との距離H[mm]を10〜50とするものと、を用いて連続鋳造する連続鋳造は、以下のような方法で行われる。即ち、前記突部の延在方向に対する垂直断面における該突部の上面の高さ[mm]をhとし、前記浸漬ノズルの底面視における前記突部の上面の幅であって、該突部の延在方向端部における幅[mm]をaとし、前記浸漬ノズルの底面視における前記突部の上面の幅であって、該突部の延在方向中央における幅[mm]をbとし、前記浸漬ノズルの内径[mm]をDsnとしたとき、下記式(1)及び(2)を満足するものとする。鋳造速度Vc[m/min]を1.4〜2.2とする。溶鋼過熱度ΔT[℃]を20〜45とする。
【0011】
【数1】

【0012】
【数2】

【0013】
以上の方法によれば、凝固遅れが進行し易い中高炭素鋼を、ブレークアウトを発生させることなく高い生産性で連造鋳造できる。
【0014】
上記の中高炭素鋼の連続鋳造は、以下のように行われることが好ましい。即ち、前記浸漬ノズルは、前記浸漬ノズルの底面視における前記突部の上面の総投影面積[mm2]をsとし、前記浸漬ノズルの底面視において観念し得る該浸漬ノズルの流路断面積[mm2]をSとしたとき、下記式(3)を満足するものとする。鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を500〜1000とする。
【0015】
【数3】

【0016】
以上の方法によれば、優れた品質の中高炭素鋼を連続鋳造できる。更に、鋳造スタート時におけるスプラッシュ抑制効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。図1は、連続鋳造機の概略図である。先ず、本図に基づいて、本実施形態に係る中高炭素鋼の連続鋳造に供される連続鋳造機100の構成と作動を一例として簡単に説明する。
【0018】
連続鋳造機100は、注湯される溶鋼を冷却して所定形状の凝固シェルを形成するための鋳型10と、図略のタンディッシュに保持される溶鋼を鋳型10へ所定流量で滑らかに注湯するための浸漬ノズル1と、鋳型10の直下から鋳造経路Qに沿って複数で並設されるロール対11・11・・・と、を備える。本実施形態において前記の鋳造経路Qは、その上流側から順に、略鉛直方向に延びる垂直経路部と、この垂直経路部に接続され、円弧状に延びる円弧経路部と、更にその下流側に設けられ、水平方向に延びる水平経路部と、前記の円弧経路部及び水平経路部とを滑らかに接続するための矯正経路部と、から成る。
【0019】
また、前記のロール対11・11・・・の夫々は、鋳造対象としての鋳片を、両広面でもって挟持する一対のロール11a・11aから構成される。この一対のロール11a・11aのロール面間の最短距離としてのロールギャップ[mm]は適宜の手段により調節可能に構成される。
【0020】
また、前記の鋳造経路Qの上流には、鋳型10内で形成され、該鋳型10から引き抜かれる凝固シェルに対して所定の流量で冷却水を噴霧する冷却スプレー12・12・・・が適宜に設けられる。一般に、前記の鋳型10が1次冷却帯と称されるのに対して、この意味で、冷却スプレー12・12・・・が配される経路部は2次冷却帯と称される。
【0021】
鋳型10から引き抜かれ、鋳造経路Qに沿って搬送される凝固シェルは、自然放熱や、上記冷却スプレー12・12・・・などにより更に冷却されて収縮する。従って、上記のロール対11・11・・・のロールギャップ[mm]は、一般に、鋳造経路Qの下流側へ進むに連れて緩やかに狭くなるように設定される。
【0022】
以上の構成で、中高炭素鋼の連続鋳造を開始するときは、鋳型10へ溶鋼を注湯する前に予め図略のダミーバーを前記の鋳造経路Q内に挿入しておき、浸漬ノズル1を介して鋳型10へ溶鋼を所定流量で注湯し始めると共に上記ダミーバーを下流側へ所定速度で引き抜く。そして、このダミーバーは、所定のメニスカス距離に到達したときに、適宜の手段により回収する。これで、中高炭素鋼が連続的に鋳造されるようになる。
【0023】
次に、上記の連続鋳造機100の一般的な操業条件を簡単に紹介する。
・鋳型幅W[mm]は、800〜2100とする。
・鋳型厚みD[mm]は、200〜320とする。
・鋳型高さH[mm]は、800〜1000とする。
・鋳造速度Vc[m/min]は、1.0〜2.5とする。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、10〜45とする。
・比水量Wt[L/kgSteel]は、1〜3とする。
・鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]は、0〜1000とする。
・溶鋼成分は、当事者間の協定に基づく。代表的な成分は、CやSi、Mnである。これに、CrやTi、Ni、Al、Cuなどが適宜に添加される。通常P及びSは極力少なくなるように調整される。被削性その他の要求からあえて150ppm程度のSを添加する場合もある。その他の不可避の不純物を含む。
【0024】
ここで、各用語を簡単に説明する。
・鋳型幅W[mm]及び鋳型厚みD[mm]は、鋳型10の上端で観念される。
・鋳造速度Vc[m/min]は、鋳片の引抜速度であって、前記複数のロール対11・11・・・のうち最上流に配されるロール対3の周速度で観念される。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、鋳型10内へ注湯される溶鋼の温度の指標である。詳細は、本明細書の末尾に記載する。
・メニスカス距離M[m]は、鋳型10内の溶鋼の湯面(メニスカス)を起点とし、鋳造経路Qに沿って観念する距離[m]を意味する。
・比水量Wt[L/kgSteel]は、鋼1kgに対して用いられる冷却水の容積を意味する。この冷却水は、0.8〜37のメニスカス距離[m]で観念される上記の2次冷却帯で鋳片に対して噴射/噴霧される。
・鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]は、鋳型10内の溶鋼を攪拌するために作用される磁場の強度の指標である。詳細は、本明細書の末尾に記載する。
【0025】
次に、本実施形態に係る連続鋳造機100の具体的な操業条件を説明する。本実施形態に係る連続鋳造では、以下のような条件で操業する。
【0026】
・対象鋼種:炭素含有量C[wt%]を0.07〜0.51とする中高炭素鋼
・鋳型幅W[mm]:800〜2100
・鋳型厚みD[mm]:200〜320
・鋳造速度Vc[m/min]:1.4〜2.2
・溶鋼過熱度ΔT[℃]:20〜45
・鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]:望ましくは、500〜1000
・浸漬ノズル:以下の形状等の浸漬ノズルを採用することとする。なお、この以下に示される浸漬ノズル1は、以前に本願出願人が出願したものである。この浸漬ノズル1は、特願2006-355978号明細書に示されるように、鋳型厚み方向の偏流のみならず鋳型幅方向の偏流をも抑制できる有意な効果を奏するものである。
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態において採用される浸漬ノズル1の形状等を詳細に説明する。図2は、本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの縦断面図である。図3は、図2の3-3線矢視断面図である。図4は、図2の4-4線矢視断面図である。図2に示される浸漬ノズル1は、鋼の連続鋳造において、タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型10内へ滑らかに注湯するのに供される有底円筒状のものであって、その使用状態においては垂直とされる。
【0028】
図2に示す如く浸漬ノズル1は、中空円筒状の耐火物により構成され、その下端は閉塞される。この浸漬ノズル1の内側底面2から所定距離上方へ離れた位置において該浸漬ノズル1の周壁に一対の対向する溶鋼吐出孔3・3が穿孔される(図3も併せて参照)。更に、前記内側底面2には浸漬ノズル1の底面視(図4参照)において前記溶鋼吐出孔3・3の穿孔方向3A・3Aと平行に延在する突部4が設けられる。具体的には下記の通りである。
【0029】
前記の浸漬ノズル1の周壁の耐火物厚み(図4において符号gで示す。)と、同じく底壁の耐火物厚みは略同一とされる。前記の溶鋼吐出孔3・3は、タンディッシュから浸漬ノズル1へ流入する溶鋼を鋳型10内へ適宜に吐出するための孔であって、一端は該浸漬ノズル1の内周面に接続され、他端は該浸漬ノズル1の外周面に接続され、更に、図3に示す垂直断面視において溶鋼吐出孔3・3はその穿孔方向が若干斜め下向きとなるように形成される。詳しくは、図3に示す垂直断面視において、この溶鋼吐出孔3・3の内底面3g・3gと水平との為す角度θ1[deg.](下向き吐出角θ1[deg.])は15〜55に設定される。溶鋼吐出孔3・3の内周側開口縁3a・3aは、図2に示す垂直断面視において角部に若干の丸みを帯びた矩形とされ、溶鋼吐出孔3・3の外周側開口縁3b・3bも同様である。なお、この溶鋼吐出孔3・3の外周側開口縁3b・3bは内周側開口縁3a・3aよりも幅広に形成され、もって、図4に示す底面視において溶鋼吐出孔3・3は、内周側開口縁3a・3aから外周側開口縁3b・3bへ向かうにつれて徐々に拡大するように形成される。内周側開口縁3a・3aの幅(底面視における幅)は本図において符号fで示され、外周側開口縁3b・3bの幅(底面視における幅)は同じく符号eで示す。
【0030】
前記の突部4は、図4に示す底面視において延在方向中央が狭窄された所謂鼓型とされる。この突部4の形状を以下に詳細に説明する。即ち、突部4は、前述したように本図に示す底面視において、前記溶鋼吐出孔3・3の穿孔方向3A・3Aと平行に延在し、その端部は図3にも示すように浸漬ノズル1の内周面に至る。この突部4の延在方向に対する垂直断面(図2に示す垂直断面視)における該突部4の上面の高さ(内側底面2からの高さ)を符号hで観念し、前記溶鋼吐出孔3・3の内周側開口縁3a・3aの下端と前記内側底面2との間の距離を符号Hで観念すると、下記式(1)が満足される。この距離H[mm]は、10〜50とする。なお、前記突部4の上面は必ずしも平坦である必要はなく、角部に若干の丸みを形成するなどの設計変更は許容される。更に、図4に示される浸漬ノズル1の底面視における前記突部4の上面の幅であって、該突部4の延在方向端部における幅[mm]をaとし、浸漬ノズル1の底面視における前記突部4の上面の幅であって、該突部4の延在方向中央における幅[mm]をbとすると、下記式(2)が満足される。なお、下記式(2)において変数Dsnは浸漬ノズル1の内径[mm]を意味する。更に、図2において平面的に現れる内周側開口縁3a・3aによって観念される、溶鋼吐出孔3・3の流路断面積A[mm2]を直径[mm]を70〜120とする円の面積[mm2]とする。
【0031】
【数1】

【0032】
【数2】

【0033】
上記突部4の更に望ましい形状を以下に説明する。即ち、浸漬ノズル1の底面視(図4)における突部4の上面の総投影面積s[mm2](本図において二点鎖線で略示する。)と、浸漬ノズル1の底面視において観念し得る該浸漬ノズル1の流路断面積S[mm2](符号Sは図示していない。)と、は下記式(3)を満足する。なお、この流路断面積S[mm2]は、浸漬ノズル1の内径Dsnに基づいて一義的に求まる。
【0034】
【数3】

【0035】
上記の浸漬ノズル1の上端は、この浸漬ノズル1から鋳型内へ吐出される溶鋼の吐出流量を調節するための溶鋼流量調節ユニットを介してタンディッシュの底部に接続される。この溶鋼流量調節ユニットに関して以下に概説する。図5を参照されたい。図5は、浸漬ノズルが連結された溶鋼流量調節ユニットの縦断面図である。本図に示す如く溶鋼流量調節ユニット20は、略円筒状に形成され、その延在方向中央には紙面と垂直方向へ開閉可能なスライドプレート21を備え、その延在方向上部にはポーラス状のリング15が設けられる。このリング15は、浸漬ノズル1や溶鋼流量調節ユニット20の内部に形成される流路内を流動する溶鋼に対してArガスに代表される不活性ガスを吹き込むためのガス噴出孔としての役割を担うものであって、適宜の吹込みノズル16を備える。以上の構成で、図略のArガス供給装置を吹込みノズル16に接続すると、Arガスが、浸漬ノズル1内を流動する溶鋼に適宜に供給されることとなる。
【0036】
以上のように構成される浸漬ノズル1は、その周壁に穿孔される溶鋼吐出孔3・3の穿孔方向3A・3A(図4参照)が鋳型10の幅方向と一致するようにタンディッシュ(実質的には溶鋼流量調節ユニット20)に着設される。また、メニスカスは、浸漬ノズル1の溶鋼吐出孔3・3の外周側開口縁3b・3bの下端がメニスカスから概ね200〜300[mm]下方に位置するように設定される。
【0037】
[試験1]
以下、本実施形態に係る中高炭素鋼の連続鋳造方法の技術的効果を確認するための試験に関して説明する。上述した各数値範囲などは、下記の確認試験により合理的に裏付けられている。
【0038】
[試験1.1]指標
先ず、各確認試験の評価に供される指標に関して説明する。
【0039】
[試験1.1.1]凝固遅れ度Cg[%]
凝固遅れ度Cg[%]は、凝固遅れの程度の指標である。詳細は、本明細書の末尾に記載する。
【0040】
[試験1.1.2]スラブ品質
スラブ品質は、主として、スラブ鋳片の表面に発生し得る気泡性又はパウダー性、割れ性の表面疵に着目するものである。その評価基準は、以下の通りとする。即ち、先ず、図1に示される連続鋳造機100の水平経路部において概ね5〜12.5[m]ごとに切断されて得られる所謂1次切断スラブの反基準面(反基準面とは、該水平経路部において上側の面を意味する。)を検査用に深さ1mm程度スカーフした後、目視で観察し、気泡性又はパウダー性、割れ性の表面疵の有無を確認する。ここで、「気泡性の表面疵」とは「鋳型内に吹き込んだArガス気泡等の痕跡として直径1mm以上の球形状の凹みが認められる疵」を意味し、「パウダー性の表面疵」とは「鋳片と鋳型の間の潤滑性確保の目的で鋳型内溶鋼湯面上に散布している鋳型パウダーが鋳片に噛み込まれた形となっている外接円直径1mm以上の大きさの疵」を意味し、「割れ性の表面疵」とは「反基準面において、鋳造方向に沿って5[mm]以上延在する割れ」を意味する。上記観察において如何なる表面疵も視認されなかった場合は、何ら手入れをすることなくそのまま圧延しても差し支えないので、この場合の確認試験はスラブ品質に関して「○(良好)」と評価することとする。一方、上記観察において表面疵が視認されたが、上記反基準面をホットスカーフ又はグラインダーによって厚み約1.5[mm]を研削し再度、上記観察を為したところ、該観察において如何なる表面疵も視認されなかった場合は、鋳片表面を手入れすることにより製品採取できるという意味で、この場合の確認試験はスラブ品質に関して「△(概ね良好)」と評価することとする。しかし、上記研削の後の観察においても表面疵が視認された場合は、製品を採取できず、従って、この場合の確認試験はスラブ品質に関して「×(不良)」と評価することとする。
【0041】
[試験1.1.3]スプラッシュ抑制効果
スプラッシュ抑制効果については、本明細書の末尾に記載する。
【0042】
[試験1.2]共通試験方法
次に、各確認試験に共通する試験方法について説明する。後記する表1〜3を併せて参照されたい。以下、表1〜3中、試験No.1で示される確認試験の試験方法について説明する(特記ない限り、上述した連続鋳造の操業に倣う。)。試験No.1で示される確認試験は、あるチャージ分(1チャージ250[ton])の連造鋳造に1対1の関係で対応する。
【0043】
先ず、試験No.1に対応する取鍋に収容されている溶鋼の成分を、タンディッシュへ注湯する前にサンプリングして確認し、その溶鋼の成分を表1に記載する。次に、試験No.1のチャージを鋳造するときに用いられる鋳型10と浸漬ノズル1に関する内容を表1〜2に記載すると共に、この浸漬ノズル1のスプラッシュ抑制効果の有無について別途の水モデル実験で確認し表3に記載する。そして、鋳造速度Vc[m/min]と鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]の設定値を表2に記載すると共に、鋳造中、溶鋼過熱度ΔT[℃]を測定して表2に記載する。更に、鋳造された1次切断スラブにおいて凝固遅れ度Cg[%]やスラブ品質を調査し、その結果を表2〜3に記載する。凝固遅れ度Cg[%]やスラブ品質についての調査の対象は、溶鋼過熱度ΔT[℃]の測定のときに鋳型10内に存在していた凝固シェルに対応するスラブ鋳片とする。
【0044】
[試験1.3]共通試験条件
次に、各確認試験に共通する試験条件について説明する。鋳型高さH[mm]は900とし、比水量Wt[L/kgSteel]は、鋳造速度Vc[m/min]が1.4のとき1.4、鋳造速度Vc[m/min]が2.0のとき1.8とする。その他の鋳造速度Vc[m/min]においては、前記2条件を直線補間して得られる比水量すなわちWt=0.67×Vc+0.46とする。
【0045】
[試験1.4]個別試験条件及びその試験結果
次に、各確認試験の個別の試験条件とその試験結果を下記表1〜3に示す。下記表1において、列タイトル「(A) mm」は「溶鋼吐出孔の流路断面積A[mm2]を円の面積[mm2]に換算したときのその円の直径[mm]」を意味する。列タイトル「評価(1)」は凝固遅れ度Cg[%]にのみ着目したものである。列タイトル「スラブ品質」には、前述したスラブ品質についての評価に付記するかたちで、具体的な表面欠陥の別を記載した。列タイトル「スプラッシュ」は「スプラッシュ抑制効果についての評価」を意味する。列タイトル「評価(2)」は、凝固遅れ度Cg[%]に関する評価と、スラブ品質に関する評価と、スプラッシュ抑制効果についての評価と、の何れもが「○(良好)」であった場合を「○(良好)」とする態様の評価を意味する。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
[試験1.5]考察
[試験1.5.1]炭素含有量C[wt%]
炭素含有量C[wt%]を0.07未満とすると、δ相のみで凝固完了することとなるから、包晶反応は生じず、鋳型内において前述したエアギャップを生成するような凝固シェルの変形が発生し難く、そもそも凝固遅れは発生し難いことが理解されよう。同様に、炭素含有量C[wt%]を0.51を越えるものとすると、初めからγ凝固することとなるから、包晶反応はなく鋳型内において前述したエアギャップを生成するような凝固シェルの変形が発生し難く、そもそも凝固遅れは発生し難いことが理解されよう。このようなことから、上記実施形態において炭素含有量C[wt%]は0.07〜0.51とすることを前提としている。
【0050】
[試験1.5.2]鋳造速度Vc[m/min]
表1〜3によれば、鋳造速度Vc[m/min]を1.4未満とすると、気泡性の表面疵が発生したことが判る。これは、鋳造速度Vc[m/min]が低いため、鋳型内に注入される溶鋼の運動エネルギーが小さくなり、その結果、凝固シェルの内面における気泡洗浄効果が低下して、圧延後の製品においては通称スリバー欠陥と呼ばれる気泡性の表面疵が発生したものと考えられる。一方、鋳造速度Vc[m/min]を2.2を越えるものとすると、凝固遅れ度Cg[%]が著しいものとなったことが判る。これは、浸漬ノズル1から吐出される溶鋼の流速が高かったために、凝固シェルに対する熱の供給が過剰となったからだと考えられる。
【0051】
[試験1.5.3]鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]
表1〜3によれば、鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を500未満とすると、気泡性の表面疵が発生したことが判る。これは、鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]が低いため、凝固シェルの内面における気泡洗浄効果が低下して、圧延後の製品においては通称スリバー欠陥と呼ばれる気泡性の表面疵が発生したからだと考えられる。一方、鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を1000を越えるものとすると、パウダー性の表面疵が発生したことが判る。これは、メニスカス近傍における溶鋼の流速が増大してメニスカスが波立ち、この結果、所謂パウダー巻き込みが発生したからだと考えられる。
【0052】
[試験1.5.4]溶鋼過熱度ΔT[℃]
表1〜3によれば、溶鋼過熱度ΔT[℃]が20未満であると、浸漬ノズルが詰まってしまい、鋳造を中止せざるを得なかったことが判る。これは、浸漬ノズルを通過する溶鋼の温度が、当該溶鋼の液相線温度に近かったからに他ならない。また、表1〜3には記載はないが、鋳型内溶鋼への熱の供給も十分ではなくなるから、メニスカスには所謂ディッケルが発生してしまったことを付言する。一方、溶鋼過熱度ΔT[℃]が45を越えるものとすると、凝固遅れ度Cg[%]が著しいものとなったことが判る。これは、鋳型内溶鋼への熱の供給が過剰であったからである。
【0053】
[試験1.5.5]h/H
表1〜3によれば、h/Hを0.5未満とすると、凝固遅れ度Cg[%]が著しいものとなったことが判る。表には、h/Hを0とする例が記載されている。換言すれば、浸漬ノズルの内側底面に突部を設けなかった例であって、従前の浸漬ノズルを意味する。この例と比較するかたちで、突部を浸漬ノズルの内側底面に設けた意義が理解されよう。即ち、凝固遅れ度Cg[%]が著しいものとなったのは、鋳型厚み方向と鋳型幅方向において溶鋼吐出流の偏流が発生したからだと考えられる。一方、h/Hを2を越えるものとすると、もはや、浸漬ノズルの製造自体が困難であるし、できたとしても、突部の上端は欠損し易いものとなるだろう。表中「堰上端部の密度が低く使用不能」とあるのは、浸漬ノズルの製造上の事情から、前記の突部の上端部の耐火物の密度を十分には確保できないことを意味する。
【0054】
[試験1.5.6](a-b)/Dsn
表1〜3によれば、(a-b)/Dsnを0.15未満とすると、凝固遅れ度Cg[%]が著しいものとなったことが判る。表には、(a-b)/Dsnを0とする例が記載されている。換言すれば、浸漬ノズルの内側底面に設けた突部が延在方向全体に亘って同一の幅である例であって、従前の浸漬ノズルを意味する。この例と比較するかたちで、突部の延在方向中央を狭窄する形状とした意義が理解されよう。即ち、凝固遅れ度Cg[%]が著しいものとなったのは、鋳型幅方向において溶鋼吐出流の偏流が発生したからだと考えられる。一方、(a-b)/Dsnを0.45を越えるものとすると、凝固遅れ度Cg[%]が著しいものとなったことが判る。これは、溶鋼吐出孔内における溶鋼吐出流の流れのムラを解消するために底部に形成される窪みに溶鋼が収容される前の段階で該溶鋼を溶鋼吐出孔に導いてしまう程に前記突部の両端の幅が広いからだと考えられる。なお、ここでいう「流れのムラ」とは、厚み方向や幅方向の偏流を含み、更に他の局所的な流れの強弱を含む上位の概念である。
【0055】
付言するならば、鋳型幅W[mm]を800〜2100とし、鋳型厚みD[mm]を200〜320とし、下向き吐出角θ1[deg.]を15〜55とし、溶鋼吐出孔3・3の流路断面積A[mm2]を直径[mm]を70〜120とする円の面積[mm2]とする、これらの操業条件については一般的に採用されるものである。
【0056】
以上説明したように上記実施形態において、炭素含有量C[wt%]を0.07〜0.51とする中高炭素鋼を、鋳型幅W[mm]を800〜2100とし鋳型厚みD[mm]を200〜320とする鋳型10と、タンディッシュ内に保持される溶鋼を前記鋳型10に注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズル1であって、該浸漬ノズル1の内側底面2から所定距離上方へ離れた位置において該浸漬ノズル1の周壁に一対の対向する溶鋼吐出孔3・3が穿孔されると共に、前記内側底面2には該浸漬ノズル1の底面視において前記溶鋼吐出孔3・3の穿孔方向3A・3Aと平行に延在する突部4が設けられ、前記溶鋼吐出孔3・3の流路断面積A[mm2]を直径[mm]を70〜120とする円の面積[mm2]とし、前記溶鋼吐出孔3・3の下向き吐出角θ1[deg.]を15〜55とし、前記溶鋼吐出孔3・3の内周側開口縁3a・3aの下端と前記内側底面2との距離H[mm]を10〜50とするものと、を用いて連続鋳造する連続鋳造は、以下のような方法で行われる。即ち、前記突部4の延在方向に対する垂直断面における該突部4の上面の高さ[mm]をhとし、前記浸漬ノズル1の底面視における前記突部4の上面の幅であって、該突部4の延在方向端部における幅[mm]をaとし、前記浸漬ノズル1の底面視における前記突部4の上面の幅であって、該突部4の延在方向中央における幅[mm]をbとし、前記浸漬ノズル1の内径[mm]をDsnとしたとき、下記式(1)及び(2)を満足するものとする。鋳造速度Vc[m/min]を1.4〜2.2とする。溶鋼過熱度ΔT[℃]を20〜45とする。
【0057】
【数1】

【0058】
【数2】

【0059】
以上の方法によれば、凝固遅れが進行し易い中高炭素鋼を、ブレークアウトを発生させることなく高い生産性で連造鋳造できる(表2中、評価(1)参照のこと。)。
【0060】
なお、上記の方法は、図1に示される所謂垂直逐次曲げ型の連鋳機にのみ適用されるものではなく、例えば、垂直型連鋳機(すべての鋳造経路が重力の方向に沿って形成されるもの)や湾曲型連鋳機(垂直逐次曲げ型連鋳機から垂直経路部を除いたもの)などに対しても問題なく適用可能である。
【0061】
上記の中高炭素鋼の連続鋳造は、更に、以下のように行われる。即ち、前記浸漬ノズルは、前記浸漬ノズルの底面視における前記突部の上面の総投影面積[mm2]をsとし、前記浸漬ノズルの底面視において観念し得る該浸漬ノズルの流路断面積[mm2]をSとしたとき、下記式(3)を満足するものとする。鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を500〜1000とする。
【0062】
【数3】

【0063】
以上の方法によれば、優れた品質の中高炭素鋼を連続鋳造できる。更に、スプラッシュ抑制効果が奏される(表3中、評価(2)参照のこと。)。
【0064】
上記のスプラッシュ抑制効果については、上記の表1〜3によって既に合理的に裏付けられているが、念のため更に詳細に調査した結果があるから、参考に紹介する。図6を参照されたい。本図には、上記表1〜3の試験No.43において用いられた浸漬ノズルを基準としs/Sのみを変化させて、スプラッシュ抑制効果を検証したものである。本図によれば、上記式(3)の技術的な意義が一層明瞭に理解できる。
【0065】
付言するならば、浸漬ノズルの内側底面の突部の製造上の観点から、当該突部の延在方向中央における幅bは10[mm]以上必要とされる。例えば浸漬ノズルの内径Dsnを120[mm]とし、(a-b)/Dsnを0.15とし、bを10[mm]とすると、s/Sは0.15となる。この意味でも、s/Sは0.15以上必要であると言える。また、s/Sが0.15〜0.50であり(a-b)/Dsnが0.15〜0.45であることを同時に満たすb/Dは、浸漬ノズルの内径Dsnを60〜120[mm]と仮定とすると、概ね、0.08〜0.33の範囲内となる。
【0066】
以下、参考資料である。
【0067】
<凝固遅れ度Cg[%]>
定義:凝固遅れの程度の指標である。
(1)図7を参照されたい。図7は、凝固遅れ度Cg[%]の説明図である。この凝固遅れ度Cg[%]は鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断して得られる切断面に視認し得る負偏析線に基づき鋳片のコーナー部夫々において観念でき、その何れの凝固遅れ度Cg[%]は下記式(4)に基づいて求められる。下記式(4)中、A[mm]は狭面から5[cm]離れた地点における負偏析線と広面との間の距離であり、B[mm]は負偏析線が広面に最も接近する地点における負偏析線と広面との間の距離である。本明細書中において「凝固遅れ度Cg[%]」とは、原則、一の切断面から観念できる4つの凝固遅れ度Cg[%]のうち最大のものを意味するものとする。
【0068】
【数4】

【0069】
次に、図8を参照されたい。図8は、凝固遅れ度Cg[%]とブレークアウトとの関係についての実績に基づくグラフである。即ち、上記表1〜3に記載の試験No.6の浸漬ノズルを用いて計100チャージ分、連続鋳造(種々の鋳造条件は完全には統一していない。)を実施し、各チャージごとに、(1)任意に選択した一の1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡があった場合は、当該痕跡を含むように鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定し、(2)この1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡がなかった場合は、任意に選択した箇所で鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定した。そして、(1)の凝固遅れ度Cg[%]の分布を本図において実線で示し、(2)の凝固遅れ度Cg[%]の分布を本図において破線で示す。本図によれば、凝固遅れ度Cg[%]が40未満となるように操業すれば、鋳型直下B.O.の発生を防止できることが判る。従って、凝固遅れ度Cg[%]が40未満である確認試験は凝固遅れ度Cg[%]に関して「○(良好)」と評価し、凝固遅れ度Cg[%]が40以上である確認試験は凝固遅れ度Cg[%]に関して「×(不良)」と評価することとする。
【0070】
<溶鋼過熱度ΔT[℃]>
定義:鋳型内へ注湯される溶鋼の温度の指標である。
(1)『測定時刻』は、「事前に充分に加熱されたタンディッシュを用いて鋳造を開始して、同一鋳型幅で鋳造速度が一定になり、かつ、タンディッシュ内溶鋼の体積が一定になる、即ち、取鍋からタンディッシュへの注湯量速度(ton/min.)とタンディッシュから鋳型への注湯量速度(ton/min.)が略一致し、定常状態に至った時刻」とする。
(2)『測定地点』は、以下の通りとする。即ち、「水平位置」はタンディッシュの底面に備え付けられる浸漬ノズルの軸心とし、「鉛直位置」はタンディッシュ内に保持されている溶鋼の湯面を基準として深さ100mmとする。
(3)『測定器具』は、消耗型熱電対を用いる構成とする。上記の通り、深さ100mmの地点に消耗型熱電対を浸漬させることから、適宜に用意した棒の先端に消耗型熱電対を取着した構成が適する。
(4)上記の『測定時刻』及び『測定地点』、『測定器具』に準じて測定した溶鋼の温度から、溶鋼の溶鋼成分により唯一に求められる液相線温度と、を比較する。そして上述した溶鋼過熱度ΔT[℃]は、前者から後者を引いた残りとして求めることとする。
【0071】
<スプラッシュ抑制効果>
定義:浸漬ノズルに注湯された溶鋼がその内側底面に勢いよく当たることで跳ね上がるように吐出される鋳造開始時の現象と、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔から下方へ向かって溶鋼が勢いよく吐出されて鋳型内に予め挿入されているダミーバの上端面と鋳型の狭面とを介して跳ね上がる現象と、の双方の現象を抑制する効果を意味する。これらの現象は、安全性の観点から好ましくないとされる。この効果は、水モデル実験において浸漬ノズル内の水の流量を800[L/min]と設定して検証され、下記の水滴飛散実験と気泡潜り実験により評価する。なお、「800[L/min]」は、実機における鋳造開始時の溶鋼流量相当を意味する。
(水滴飛散実験)
図9はスプラッシュ抑制効果の試験の説明図である。即ち、本図に示す如く浸漬ノズルの溶鋼吐出孔から上方に向かって吐出されて飛散する水滴を観察し、すべての水滴の到達高さの最大値を当該溶鋼吐出孔の外周側開口縁の上辺を基準として目視により測定し、記録する。なお、この観察は、少なくとも30[sec]以上実施することとする。
(気泡潜り実験)
本図に示す如く浸漬ノズルの下方に、当該浸漬ノズルの下端に対する鉛直方向距離が5[cm]となるように水面高さが調整された水槽を設置し、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔から下方へ向かって勢いよく吐出された水吐出流が巻き込む気泡を観察し、これらの気泡のうち径が5[mm]以上のものの到達深さの最大値を当該水面を基準として目視により測定し、記録する。なお、この観察は、少なくとも30[sec]以上実施することとする。
(効果の有無)
そして、上記水滴の最大到達高さが15[cm]未満であり、かつ、上記気泡の最大到達深さが35[cm]未満である確認試験を「○(浸漬ノズルにスプラッシュ抑制効果がある)」と評価し、上記水滴の最大到達高さは15[cm]未満であるが、上記気泡の最大到達深さが35[cm]以上であるものを「△(浸漬ノズルにスプラッシュ抑制効果が若干ある)」と評価し、それ以外のすべての確認試験を「×(浸漬ノズルにスプラッシュ抑制効果がない)」と評価することとする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】連続鋳造機の概略図
【図2】本発明の実施形態に係る浸漬ノズルの縦断面図
【図3】図2の3-3線矢視断面図
【図4】図2の4-4線矢視断面図
【図5】浸漬ノズルが連結された溶鋼流量調節ユニットの縦断面図
【図6】スプラッシュ抑制効果に関する他の試験結果を示す図
【図7】凝固遅れ度Cg[%]の説明図
【図8】凝固遅れ度Cg[%]とブレークアウトとの関係についての実績に基づくグラフ
【図9】スプラッシュ抑制効果の試験の説明図
【符号の説明】
【0073】
1 浸漬ノズル
2 内側底面
3 溶鋼吐出孔
4 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有量C[wt%]を0.07〜0.51とする中高炭素鋼を、鋳型幅W[mm]を800〜2100とし鋳型厚みD[mm]を200〜320とする鋳型と、タンディッシュ内に保持される溶鋼を前記鋳型に注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルであって、該浸漬ノズルの内側底面から所定距離上方へ離れた位置において該浸漬ノズルの周壁に一対の対向する溶鋼吐出孔が穿孔されると共に、前記内側底面には該浸漬ノズルの底面視において前記溶鋼吐出孔の穿孔方向と平行に延在する突部が設けられ、前記溶鋼吐出孔の流路断面積A[mm2]を直径[mm]を70〜120とする円の面積[mm2]とし、前記溶鋼吐出孔の下向き吐出角θ1[deg.]を15〜55とし、前記溶鋼吐出孔の内周側開口縁の下端と前記内側底面との距離H[mm]を10〜50とするものと、を用いて連続鋳造する連続鋳造方法において、
前記突部の延在方向に対する垂直断面における該突部の上面の高さ[mm]をhとし、前記浸漬ノズルの底面視における前記突部の上面の幅であって、該突部の延在方向端部における幅[mm]をaとし、前記浸漬ノズルの底面視における前記突部の上面の幅であって、該突部の延在方向中央における幅[mm]をbとし、前記浸漬ノズルの内径[mm]をDsnとしたとき、下記式(1)及び(2)を満足するものとし、
鋳造速度Vc[m/min]を1.4〜2.2とし、
溶鋼過熱度ΔT[℃]を20〜45とする、
ことを特徴とする中高炭素鋼の連続鋳造方法
【数1】

【数2】

【請求項2】
前記浸漬ノズルは、前記浸漬ノズルの底面視における前記突部の上面の総投影面積[mm2]をsとし、前記浸漬ノズルの底面視において観念し得る該浸漬ノズルの流路断面積[mm2]をSとしたとき、下記式(3)を満足するものとし、
鋳型内電磁攪拌強度M-EMS[gauss]を500〜1000とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の中高炭素鋼の連続鋳造方法
【数3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−106968(P2009−106968A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281405(P2007−281405)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】