説明

(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法

【課題】気相部でのグリシドール同士の重合を抑制し、かつ反応時間を短縮した分子量分布の狭い(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】アルコール類(但し、グリシドール及びグリセリンを除く)とグリシドールを反応させる(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法であって、不活性ガスで系内圧力を0.1〜25MPa(ゲージ圧)に調整した後、反応温度を150〜270℃で、かつ系内圧力を当該範囲に維持して反応させる、(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(ポリ)グリセリルエーテルは、非イオン界面活性剤として優れた性能を有しており、乳化、可溶化、分散、洗浄、起泡、消泡、浸透、抗菌等の目的で、食品、化粧品、香粧品、農薬、医薬品等の分野で利用される。
(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法としては、例えば、特許文献1には、中性条件下でアルコール類にグリシドールを反応させることで、分子量分布の狭い(ポリ)グリセリルエーテルを製造する方法が開示されている。
また、アルコール類にアルカリを作用させた後、グリシドールを滴下して反応させる方法が知られているが、アルコール類の転化率が低く、未反応のアルコール類を除去するための精製負荷が高いという問題点があった。この問題点を解決する手段として、特許文献2には、La系触媒等の均一系触媒を用いて、アルコール類にグリシドールを反応させることで、ポリグリセリルエーテル誘導体を製造する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、メタロセン型錯体とルイス酸の存在下、常圧又は加圧下で、アルコール類にエポキシドを開環せしめて付加、重合させて、エポキシド誘導体を製造する方法が開示されている。この方法において、エポキシドとして高沸点のグリシドール等を用いる場合は、蒸気圧の関係で少しずつ逸散し圧力が下がることに備え、必要に応じて加圧することが望ましいと記載されている。
しかしながら、特許文献1〜3の方法では、気相部における重合による副生成物の抑制が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−269730号公報
【特許文献2】国際公開2007/066723号パンフレット
【特許文献3】特開2005−139415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、製造効率の観点から、反応時間の短縮が求められるが、反応時間短縮のために、反応温度を高温にすると、気相部においてグリシドール同士の重合によるポリグリセリンが副生成物として、反応系内に多量に生成してしまう。このポリグリセリンは、高温条件では、樹脂状になり、反応系に付着することから、(ポリ)グリセリルエーテルの収率を低下させるだけでなく、製造設備の洗浄工程が必要となり、工業上好ましくない。
本発明は、気相部でのグリシドール同士の重合を抑制し、かつ反応時間を短縮した分子量分布の狭い(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、反応系を不活性ガスで加圧し、気相中のグリシドール濃度を所定範囲内に調整することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、アルコール類(但し、グリシドール及びグリセリンを除く)とグリシドールを反応させる(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法であって、不活性ガスで系内圧力を0.1〜25MPa(ゲージ圧)に調整した後、反応温度を150〜270℃で、かつ系内圧力を当該範囲に維持して反応させる、(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、高温条件下においても、グリシドール同士の重合を抑制し、短時間で分子量分布の狭い(ポリ)グリセリルエーテルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法は、アルコール類(但し、グリシドール及びグリセリンを除く)とグリシドールを反応させる(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法であって、不活性ガスで系内圧力を0.1〜25MPa(ゲージ圧)に調整した後、反応温度を150〜270℃で、かつ系内圧力を当該範囲に維持して反応させることを特徴とする。
ここで、(ポリ)グリセリルエーテルとは、グリセロール残基を1又は2以上有するグリセリルエーテルを意味する。また、グリセロール残基とは、−CH2−CH(OH)−CH2O−で表される基及び/又は−CH2−CH(CH2OH)−O−で表される基をいう。
【0009】
(アルコール類)
本発明で用いるアルコール類は、グリシドール及びグリセリン以外のアルコール類であり、反応性の観点から、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
1−(OA1n−(OA2m−OH (1)
(式中、R1は炭素数1〜36の炭化水素基を示し、A1は炭素数2〜4の直鎖状又は分岐のアルカンジイル基を示し、A2は水酸基を有する炭素数2〜4の直鎖又は分岐のアルカンジイル基を示し、n、mは、それぞれOA1基、OA2基の質量平均重合度を示し、nは0〜20、mは0〜2の数である。)
1は、炭素数1〜36の飽和又は不飽和の直鎖状、分岐又は環状の炭化水素基である。前記の炭化水素基としては、得られる(ポリ)グリセリルエーテルの物性の観点から、(i)炭素数4〜24、好ましくは炭素数8〜18の直鎖状、分岐又は環状のアルキル基、(ii)炭素数2〜36、好ましくは炭素数4〜24、より好ましくは8〜18の直鎖状、分岐又は環状のアルケニル基、(iii)置換基が置換してもよい炭素数6〜24の芳香族基等が好ましい。
【0010】
1であるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種イコシル基、各種テトラコシル基、各種トリアコンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。なお、「各種」とは、直鎖、分岐鎖、環状のいずれをも含むことを示す。分岐鎖の場合、分岐の数、分岐の位置は特に限定されない。
1であるアルケニル基の具体例としては、プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、イソブテニル基、各種ヘキセニル基、各種オクテニル基、各種デセニル基、各種ドデセニル基、オレイル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基等が挙げられる。
1である芳香族基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0011】
一般式(1)において、A1は、炭素数2〜4の直鎖状又は分岐のアルカンジイル基であり、その具体例としては、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基、ブタン−1,3−ジイル基等が挙げられる。
2は、水酸基を有する炭素数2〜4の直鎖又は分岐のアルカンジイル基であり、その具体例としては、ヒドロキシプロパン−1,2−ジイル基、ヒドロキシブタン−1,3−ジイル基等が挙げられる。
n、mは、それぞれオキシアルカンジイル基であるOA1基、OA2基の質量平均重合度を示し、得られる(ポリ)グリセリルエーテルの物性の観点から、nは0〜20、好ましくは0〜8、より好ましくは0であり、mは0〜2、好ましくは0である。OA1基、OA2基が複数ある場合、複数のOA1基、OA2基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0012】
一般式(1)で表されるアルコール類の具体例としては、次の(i)〜(iv)のアルコール類等が挙げられる。
(i)メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等の脂肪族アルコール。
(ii)フェノール、メトキシフェノール、ナフトール等の芳香族アルコール。
(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノドデシルエーテル、エチレングリコールモノステアリルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノオクチルエーテル、プロピレングリコールモノドデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノミリスチルエーテル、ポリエチレングリコールモノパルミチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノドデシルエーテル等のモノ又はポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテル。
(iv)エチルグリセリルエーテル、ヘキシルグリセリルエーテル、2−エチルヘキシルグリセリルエーテル、オクチルグリセリルエーテル、デシルグリセリルエーテル、ラウリルグリセリルエーテル、ステアリルグリセリルエーテル、イソステアリルグリセリルエーテル、ジグリセリンモノドデシルエーテル等のモノ又はジグリセリルエーテルやエチレングリコールモノドデシルモノグリセリルエーテル。
【0013】
上記の具体例の中では、得られる(ポリ)グリセリルエーテルの利用可能性の観点から、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール等の炭素数8〜18の脂肪族アルコール、2−エチルヘキシルグリセリルエーテル、オクチルグリセリルエーテル、デシルグリセリルエーテル、ラウリルグリセリルエーテル、ミリスチルグリセリルエーテル、パルミチルグリセリルエーテル、ステアリルグリセリルエーテル、イソステアリルグリセリルエーテル等のモノグリセリルエーテルが好ましく、炭素数10〜16の脂肪族アルコールがより好ましく、ラウリルアルコールが特に好ましい。
アルコール類は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
(反応条件)
本発明において、アルコール類(但し、グリシドール及びグリセリンを除く)とグリシドールの反応は、先ず、不活性ガスで系内を0.1〜25MPa(ゲージ圧)まで加圧してから昇温を行う。
反応系内のゲージ圧は、(ポリ)グリセリルエーテルの収率向上の観点から、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは0.3〜0.9MPaの範囲である。ゲージ圧が0.1Mpa以上とすることによって、気相部でのグリシドール同士の重合を抑制し、副生成物であるポリグリセリンの生成を抑制することができる。一方、25Mpa以下とすることにより、十分な耐圧性能を有する設備と気密性保持等への設備投資額やランニングコストを軽減することができる。
この加圧による収率向上の効果は、ポリグリセリンの生成が増大する高温側で特に顕著である。そのため、反応系を不活性ガスで加圧することで、高温でも気相部でのポリグリセリンの生成を抑制した反応が可能となり、無触媒で反応を行う場合や低活性の触媒を用いた場合においても反応時間の短縮を図ることができる。ここで、気相部でのポリグリセリンの生成とは、主反応である液相部分とは異なる反応装置の壁面等で気体のグリシドールが重合反応し、壁面に付着物としてポリグリセリンと推定できる水不溶物を生成することをいう。
系内の加圧は、系内に窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスを充填することにより行うことができる。使用するガスとしては入手の容易さの観点から窒素ガスが好ましい。
【0015】
本発明においては、副生物の生成を抑制し、(ポリ)グリセリルエーテルの選択性を向上させる観点から、反応系を不活性ガスで加圧し、気相中のグリシドール濃度が70体積%以下の条件下反応させる。気相中のグリシドール濃度を70体積%以下で反応することにより、グリシドール同士の重合を十分に抑制することができ、気相部で副生物のポリグリセリンの生成を抑制することができるため好ましい。ここで、気相中のグリシドール濃度とは、気相中の不活性ガス量に対する気相中グリシドール量であり下記の式で算出できる。
気相中のグリシドール濃度(体積%)=〔気相中のグリシドール量/(気相中の不活性ガス量+気相中のグリシドール量)〕×100
また、気相中の窒素及びグリシドール濃度は、仕込み量及び経時の反応率を用いて公知の気液平衡推算式、例えばUNIFAC等を用いて求めることができる
上記の観点から、気相中のグリシドール濃度を低減することで、グリシドール同士の重合を抑制し効率的に(ポリ)グリセリルエーテルの合成を行うことができる。気相中のグリシドール濃度は70体積%以下が好ましいが、より好ましくは50体積%以下、更に好ましくは30体積%以下である。
【0016】
反応中又は反応後における気相部の体積は、気相部でのグリシドール同士の重合を十分に抑制する観点から、その反応器に対して好ましくは50体積%以下、より好ましくは30体積%以下、更に好ましくは1〜30体積%である。
グリシドール分圧は0.48Mpa(ゲージ圧)以下の条件下で反応させることが好ましい。反応系のグリシドール分圧が0.48MPa−Gを超えると、気相部でのグリシドール同士の重合を十分に抑制できず、副生物のポリグリセリンが多量に生成するため好ましくない。反応系のグリシドール分圧は、好ましくは0.36MPa−G以下であり、より好ましくは0.25MPa−G以下である。
【0017】
(触媒)
本発明の方法においては、無触媒でアルコール類とグリシドールを反応させることもできる。しかし、反応性を向上させるために触媒を使用することもできる。
触媒は、特に限定されないが、アルミノシリケート及び/又は金属塩が好ましい。
アルミノシリケートとしては、水素イオンの一部又は全部が、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる一種以上の陽イオンでイオン交換されているアルミノシリケートが好ましい。これらの陽イオンでイオン交換されているアルミノシリケートは、ポリグリセリンの生成を抑える効果を有する。
アルミノシリケートの陽イオンであるアンモニウムイオンは、アンモニウム、1級アンモニウム、2級アンモニウム、3級アンモニウム、4級アンモニウム、ピリジニウムを包含するが、入手又は調製の容易さの観点から、アンモニウム、ピリジニウムが好ましい。
アルカリ金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のイオンが挙げられるが、入手又は調製の容易さの観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンが好ましい。
また、アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のイオンが挙げられるが、入手又は調製の容易さの観点から、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンが好ましい。
上記のアルミノシリケートの陽イオンとしては、グリシドールの反応選択性の観点から、ピリジニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンがより好ましく、ピリジニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びセシウムイオンが更に好ましい。
【0018】
アルミノシリケート上の水素イオンは、アルミノシリケート中の部分的に負に帯電したアルミニウム原子(Al)と静電的に結合しており、アンモニウムイオン又は金属イオンによりイオン交換されたアルミノシリケート上の水素イオンの程度は、それぞれ高周波誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−AES)分析より得られる窒素又は金属原子とアルミニウム原子のモル比(窒素/Al又は金属原子/Al)として評価することができる。
よって本願のアルミノシリケートの陽イオンによるイオン交換の程度は、上記の2つのモル比の和(今後、陽イオン/Al比ともいう。陽イオン/Al=窒素/Al+金属元素/Alである)として評価することができる。
本発明におけるアルミノシリケートは、ポリグリセリンの生成抑制の観点から、その(陽イオン/Al)モル比は、好ましくは0.10〜10、より好ましくは0.15〜5、更に好ましくは0.25〜3である。
【0019】
アルミノシリケートとしては、結晶性のものが好ましく用いられるが、本発明においては非晶性のものも使用可能である。本発明においては、ポリグリセリンの生成を抑制し、アルコール類の転化率を向上させる観点から、ゼオライトが好ましく用いられる。ゼオライトとしては、Y型、ベータ型、モルデナイト型、ZSM−5等いずれも使用可能であるが、中でもY型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライトが好ましい。
アルミノシリケートを構成するアルミニウム原子と珪素原子(Si)のモル比(Al/Si)は、ポリグリセリンの生成を抑制し、アルコール類の転化率を向上させる観点から、好ましくは0.0001〜0.5、より好ましくは0.0005〜0.1、更に好ましくは0.001〜0.01である。
アルミノシリケートの形状は特に限定されず、粉末や、それらを成形したペレット状のもの等を用いることができる。粉末の場合、アルコール類とグリシドールの反応性の観点、及び反応後の分離の観点から、粒子径(メジアン径)は、好ましくは0.1μm〜1mm、より好ましくは0.5〜100μm、更に好ましくは1〜50μmである。
【0020】
本発明で用いるアルミノシリケートは、プロトン酸型のアルミノシリケートのプロトンの一部又は全部を、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる一種以上の陽イオンでイオン交換して得られる構造を有している。具体的な操作としては、プロトン酸型のアルミノシリケートをアミン化合物で中和したり、硝酸塩等を用いてイオン交換する方法で、本発明で用いるアルミノシリケートを得ることができる。
アルミノシリケートは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の製造方法におけるアルミノシリケートの使用量は、生産性の向上や、副生成物を抑制し、アルコール類の転化率を向上させる観点から、アルコール類に対して、好ましくは0.01〜200質量%、より好ましくは0.1〜100質量%、更に好ましくは1〜50質量%である。
【0021】
また、触媒としての金属塩としては、希土類元素の単純金属塩が好ましい。ここで、単純金属塩とは複塩や錯塩を除く一次化合物の金属塩をいう。
希土類元素の単純金属塩としては、通常、無機酸塩及び/又は有機酸塩が用いられる。高選択的付加反応の実現及びアルコール類の転化率向上の観点から、無機酸塩としては過塩素酸塩が好ましく、有機酸塩としてはスルホン酸塩が好ましい。
この単純金属塩を構成する希土類元素としては、スカンジウム、イットリウムや、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等のランタノイドが好ましく、スカンジウム、ランタン、サマリウム、ユウロピウム、エルビウム、ルテチウム、イッテルビウムがより好ましく、スカンジウム、ランタン、サマリウム、イッテルビウムが更に好ましく、ランタン及び/又はサマリウムが特に好ましい。
金属塩は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
希土類元素の単純金属塩の量は、反応速度及び経済性のバランス等の面から、アルコール類に対して、好ましくは0.001〜0.2モル倍、より好ましくは0.002〜0.1モル倍、特に好ましくは0.005〜0.05モル倍である。
【0022】
また、アルコール類に塩基性物質を添加してアルコキシドとした後、グリシドールを加えて反応させることも可能である。使用する塩基性物質は、触媒性能が高くかつアルコール類をアルコキシドとした後、塩基性物質の残分が除去しやすい塩基性化合物が好ましい。好ましい塩基性物質としては、水やアルコールのようなプロトン性溶媒のプロトンの一部をアルカリ金属又はアルカリ土類金属カチオンで置換した塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ブトキシナトリウム等);飽和炭化水素の一部をアルカリ金属又はアルカリ土類金属カチオンで置換した塩基性化合物(例えば、ブチルリチウム、メチルリチウム、エチルリチウム等);塩基性金属(例えば、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウム等)等が挙げられる。塩基性物質の中でも、リチウム、ナトリウム、カリウム、及びこれらを含む塩基性化合物がより好ましい。
塩基性物質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明で用いられる塩基性物質の量は、生産性の向上や、塩基性物質の残分の除去作業の観点から、アルコール類に対して、好ましくは100〜0.01モル%、より好ましくは50〜0.01モル%、更に好ましくは20〜0.01モル%である。
【0023】
((ポリ)グリセリルエーテルの製造)
本発明においては、アルコール類と下記式(2)で表されるグリシドールを反応させるが、アルコール類として、前記一般式(1)で表される化合物を用いると、次のとおり、下記一般式(3)で表される(ポリ)グリセリルエーテルを得ることができる。
【0024】
【化1】

【0025】
式(3)において、R1、A1、A2、n及びmは前記と同じであり、(C362pは、本反応のグリシドールの付加反応により生成したポリグリセリン部位を示し、pはポリグリセリン部位におけるグリセロール残基の質量平均重合度を示す。また、R1、A1、A2、n及びmの好適範囲は前記と同じであり、生産性や得られるポリグリセリルエーテルの利用性の観点から、mとpの和は好ましくは0.5〜20、より好ましくは1〜12、更に好ましくは1〜8である。
ここで、ポリグリセリン部位の具体的構造としては、下記式から選ばれる1種以上の構造が挙げられる。
【0026】
【化2】

(式中、q、r、s、tは1以上の整数を示し、(C362)は前記(C362pに記載された(C362)と同じ意味を示す。)
【0027】
この反応においては、一般式(1)で表されるアルコール類と式(2)で表されるグリシドールの使用割合は、得られる一般式(3)の(ポリ)グリセリルエーテルにおける所望の質量平均重合度mの値によって適宣選定される。生産性や得られる(ポリ)グリセリルエーテルの利用性の観点から、式(2)で表されるグリシドールは、一般式(1)で表されるアルコール類1モルに対して、好ましくは0.5〜30モル、より好ましくは1〜20モル、更に好ましくは1〜12モルの割合で用いられる。
【0028】
アルコール類とグリシドールの反応は発熱反応であるので、本発明においては、アルコール類を撹拌しながら、グリシドールを連続的に滴下するか、又は分割添加して徐々に反応させることが好ましい。
グリシドールを連続的に滴下する場合は、その滴下速度は、アルコールの仕込み量に対して、好ましくは1質量%/分以下、より好ましくは0.7質量%/分以下、更に好ましくは0.4質量%/分以下である。
グリシドールを分割添加する場合は、添加予定量をほぼ均等に分割して、好ましくは2分割以上、より好ましくは3分割以上、更に好ましくは4分割以上して、ほぼ等間隔で添加し、全体を通しての添加速度を前記のとおりとするのが望ましい。分割回数はグリシドールの全添加量等により異なるが、工業的観点から2〜5分割程度が好ましい。
【0029】
分割添加又は滴下での反応時間は、グリシドールの全添加量により異なるが、工業的観点から、好ましくは0.5〜50時間、より好ましくは1〜15時間、更に好ましくは1〜10時間である。また、グリシドールの添加完了後、反応系内の状態を維持して0.1〜20時間熟成することもできる。またグリシドールの滴下と熟成を繰り返し行ってもよい。
反応温度は、使用するアルコール類の種類等により適宜選択することができる。具体的な反応温度は、反応時間、反応効率、収率、製品の品質等の観点から、150〜270℃であり、好ましくは160〜250℃、より好ましくは180〜230℃である。
【0030】
なお、反応は無溶媒下で行う方が工業的利便性に優れるが、アルコールの組成やグリシドールの添加量により、反応系が高粘度ないし不均一となる場合は、適当な溶媒を適当量用いて反応させることも可能である。
用いることのできる溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等の両極性溶媒;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソオクタン、水添トリイソブチレン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、等の炭化水素系溶媒;オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシリコーン系溶媒等が挙げられる。
溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、溶媒は脱水、脱気して用いるのが好ましい。
【0031】
本発明方法で得られる(ポリ)グリセリルエーテルは、非イオン界面活性剤として有用であり、その用途、使用形態は特に限定されない。例えば、化合物単独、水溶液、水分散液、又は他の油相を含む乳化液、含水ゲル、アルコール溶液又は分散液、油性ゲル、ワックス等の固形状物質との混合又は浸潤・浸透等の状態又は形状であってもよい。
【実施例】
【0032】
以下のイオン交換アルミノシリケートの調製例において、陽イオン/Alモル比、及びAl/Siモル比は、ICP−AES分析による元素の定量分析から算出し、平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定を行い、体積基準のメジアン径を算出した。
また、実施例及び比較例において、反応後のラウリルアルコールの転化率、生成した(ポリ)グリセリルエーテルについては、ガスクロマトグラフィーにて分析し、反応混合液中に含まれる、ポリグリセリンについては、液体クロマトグラフィーにて分析した。分析装置及び分析条件を下記に示す。
【0033】
<ICP−AES分析>
装置:パーキンエルマー社製、Optima 5300DV
<アルミノシリケートの平均粒径の測定>
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置:株式会社堀場製作所製、LA−920
分散媒体:水 前処理:1分間の超音波処理
測定温度:25℃ 計算に用いた屈折率:1.2
【0034】
<ガスクロマトグラフィー分析>
装置:HEWLETT PACKARD HP6850 Series
カラム:J&W社製、B−1HT(内径0.25mm、長さ15m、膜厚0.1μm)
キャリアガス:He,1.0mL/min
注入:300℃,スプリット比1/50 検出:FID方式,300℃
カラム温度条件:40℃ 2分保持→10℃/分昇温→350℃ 2分保持
【0035】
<液体クロマトグラフィー分析>
装置:株式会社日立製作所製、LaChrom
カラム:東ソー株式会社製、Amide−80(カタログNo.13071)
カラムサイズ:4.6mm(ID)×25.0cm(L)
溶離液:アセトニトリル/水=1:1 流量1.0Lml/min
検出:RI(屈折率) カラム温度:40℃
【0036】
調製例1(Na−Y型ゼオライト400の調製)
1000mlの4つ口ナスフラスコにゼオライト(東ソー社製、HSZ−390HUA、Al/Siモル比:0.0027)52.5g、イオン交換水500ml、硝酸ナトリウム50.1gを加え、ゼオライト分散スラリーを調製した。これを100℃のオイルバスで加熱しながら、24時間攪拌した。静置後、デカンテーションにより上澄み液を取り出し、新たな硝酸ナトリウム水溶液(硝酸ナトリウム50.27g、イオン交換水400ml)を加えて100℃のオイルバスで加熱しながら、24時間攪拌した。この操作をもう一度行い、処理終了後、ろ過によりゼオライトを分離した。分離したゼオライトをイオン交換水1500mlで洗い、180℃、40.0Paで10時間乾燥した。ICP−AES分析の結果、得られたゼオライトの重量組成はSi:46%、Al:0.11%、ナトリウム(Na):0.03%であった。Al/Siモル比は0.0025、陽イオン/Alモル比は0.32である。平均粒径(メジアン径)は6.5μmであった。
【0037】
実施例1
500mlオートクレーブにラウリルアルコール150.0g(0.80mol)、触媒として調製例1で得られたNa−Y型ゼオライト400を7.51g(5質量%/ラウリルアルコール)、グリシドール29.84g(0.40mol:0.5当量/ラウリルアルコール)を加え、槽内を窒素で0.3MPa(ゲージ圧)(昇温後0.6MPa(ゲージ圧)まで上昇)まで加圧し、攪拌しながら230℃まで昇温した(25℃から昇温を開始し、昇温速度は6.8℃/min)。230℃到達時点を0時間とし4時間反応させ、反応生成物187.18gを得た。濾過によって触媒を除去し、得られた生成物をガスクロマトグラフィーによって分析し、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテルの存在を確認した(グリシドール転化率99%以上)。結果を表1に示す。
【0038】
比較例1
100ml四つ口ナスフラスコにラウリルアルコール40.03g(0.21mol)、触媒として調製例1で得られたNa−Y型ゼオライト400を2.01g(5質量%/ラウリルアルコール)を加え、窒素置換後、攪拌しながら230℃まで昇温した(25℃から昇温を開始し、昇温速度は6.8℃/min)。次に、その温度を保持しながらグリシドール7.60g(0.10mol:0.5当量/ラウリルアルコール)を3時間で滴下し、そのまま4時間攪拌を続けた。滴下後約2時間経過したあたりで、槽内、液面より上部に、樹脂状の付着物が見られるようになり、滴下が進むにつれ、付着物が徐々に増加した。終了後、槽内、液面より上部に樹脂状の付着物が多量に生成されていた。得られた反応生成物49.31gを濾過によって触媒と付着物を除去し、得られた生成物をガスクロマトグラフィー分析し、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテルの存在を確認した(グリシドール転化率99%以上)。結果を表1に示す。
【0039】
実施例2
実施例1と同様にして、230℃まで昇温した(25℃から昇温を開始し、昇温速度は6.8℃/min)。230℃到達時点を0時間とし4時間反応させた。その後、2回目のグリシドール29.76g(0.40mol:0.5当量/ラウリルアルコール)を加え、4時間反応させ、反応生成物217.09gを得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィー分析し、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテルの存在を確認した(グリシドール転化率99%以上)。結果を表1に示す。
【0040】
比較例2
比較例1と同様にして、230℃まで昇温し(25℃から昇温を開始し、昇温速度は6.8℃/min)、反応させたところ、比較例1と同様に、滴下後約2時間経過したあたりで、槽内、液面より上部に、樹脂状の付着物が見られるようになり、滴下が進むにつれ、徐々に付着物が増加した。その後、グリシドール7.78g(0.10mol:0.5当量/ラウリルアルコール)を3時間で滴下し、そのまま4時間攪拌を続けた。終了後、槽内、液面より上部に樹脂状の付着物が多量に生成されていた。得られた反応生成物54.49gを濾過によって触媒と付着物を除去し、ガスクロマトグラフィー分析し、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテルの存在を確認した(グリシドール転化率99%以上)。結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
実施例1と同様にして、230℃まで昇温した(25℃から昇温を開始し、昇温速度は6.8℃/min)。230℃到達時点を0時間とし4時間反応させた。その後、2回目のグリシドール29.76g(0.4mol:0.5当量/ラウリルアルコール)を加え、4時間反応させた。その後、3回目のグリシドール29.81g(0.4mol:0.5当量/ラウリルアルコール)を加え、4時間反応させ、反応生成物246.9gを得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィー分析し、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテルの存在を確認した(グリシドール転化率99%以上)。結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
実施例1において、グリシドールの添加量を89.54g(1.21mol:1.5当量/ラウリルアルコール)としたこと以外は、実施例1と同様にして、230℃まで昇温した(25℃から昇温を開始し、昇温速度は6.8℃/min)。230℃到達時点を0時間とし4時間反応させ、反応生成物215.77gを得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィー分析し、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテルの存在を確認した(グリシドール転化率99%以上)。結果を表1に示す。
【0043】
実施例5
実施例1において、グリシドールの添加量を89.60g(1.21mol:1.5当量/ラウリルアルコール)としたこと以外は、実施例1と同様にして、250℃まで昇温した(25℃から昇温を開始し、昇温速度は7.5℃/min)。250℃到達時点を0時間とし3時間反応させ、反応生成物232.23gを得た。得られた生成物をガスクロマトグラフィー分析し、ラウリル(ポリ)グリセリルエーテルの存在を確認した(グリシドール転化率99%以上)。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
なお、表1中の「気相中グリシドール濃度(体積%)」は次式から算出した。
気相中グリシドール濃度(体積%)=〔気相中のグリシドール量/(気相中の不活性ガス量+気相中のグリシドール量)〕×100
上記式中、気相中の不活性ガス量、及び気相中のグリシドール量は、各々の仕込み量を用いて、既知の気液平衡計算により求めた。
また、表1中の「気相中付着物」は、主反応である液相部分とは異なる反応装置の壁面等で気相のグリシドールが重合反応し壁面に付着したものであり、水に不溶であることから、高重合のポリグリセリンと推測される。
表1から、実施例では、比較例に比べ(ポリ)グリセリルエーテルの収率、及びラウリルアルコールの転化率が向上し、気相部でのポリグリセリンと推定される付着物の生成が抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の(ポリ)グリセリルエーテル製造方法によれば、気相部でのグリシドール同士の重合が抑制され、高収率で(ポリ)グリセリルエーテルを得ることができる。また、得られた(ポリ)グリセリルエーテルは、非イオン界面活性剤として有用であり、例えば、乳化、可溶化、分散、洗浄、起泡、消泡、浸透、抗菌等の目的で、食品、化粧品、香粧品、農薬、医薬品等の工業用途において、広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール類(但し、グリシドール及びグリセリンを除く)とグリシドールを反応させる(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法であって、不活性ガスで系内圧力を0.1〜25MPa(ゲージ圧)に調整した後、反応温度を150〜270℃で、かつ系内圧力を当該範囲に維持して反応させる、(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法。
【請求項2】
気相中のグリシドール濃度を70体積%以下にして反応を行う、請求項1に記載の(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法。
【請求項3】
アルコール類(但し、グリシドール及びグリセリンを除く)に対して、反応当量以下のグリシドールを反応させた後、更にグリシドールを添加して反応を行う、請求項1又は2に記載の(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法。
【請求項4】
アルミノシリケートの存在下で反応させる、請求項1〜3のいずれかに記載の(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法。
【請求項5】
アルミノシリケートが、水素イオンの一部又は全部が、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選ばれる一種以上の陽イオンでイオン交換されているアルミノシリケートである、請求項4に記載の(ポリ)グリセリルエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2011−153112(P2011−153112A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17194(P2010−17194)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】