説明

(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の製造方法

【課題】紙薬品、水処理剤、化粧料、衛生材料、家庭用洗浄剤の原料等として好適なモノマーである(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の、緩和な条件で簡便であり、かつ高収率である、工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸無水物とアミノカルボン酸とを、アルカリ存在下、水溶媒中で反応し、式(III)(式中、Rはメチル基または水素原子を表し、Rは炭素原子数が7〜11の脂肪族アルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的長鎖のアルキルカルボン酸が置換されたアクリルアミドの工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、アクリルアミド誘導体ポリマーは、日常生活において、その利便性から、接着剤、各種コーティング剤、製紙用薬剤など、極めて多様な分野において使用されている。中でも、(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸誘導体のポリマーは、医薬品、化粧品などの生理活性物質の開発に利用されつつある。
【0003】
これらアミドカルボン酸の合成方法は以前から知られており、例えば、アミノカルボン酸のカルボン酸を保護して、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)やジエチルホスホロシアニデート(DEPC)などの縮合剤でアミド結合を形成後に、脱保護によって目的物を得る方法が一般的である。
しかしながら、保護基を用いた合成方法では数段階の操作が必要であり、また、各合成反応の過程での生成物のロス等により、収量が減少するなどの欠点がある。
【0004】
そこで、保護基を使用せずに直接(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸を合成する方法が検討され、(メタ)アクリル酸クロライドとアミノアルキルカルボン酸とを反応させる方法が報告されている(例えば、非特許文献1)。
しかしながら(メタ)アクリル酸クロライドを使用した場合、特有の刺激臭があり作業環境を悪化させるばかりでなく、反応時に塩化水素が発生するなどの問題があった。
【非特許文献1】V.P.Shibaev et al. Journal of Polymer Science 1979年 1655頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みなされたもので、穏和な条件下、短時間で直接的に生成物が得られる、(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の工業的に有利な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意研究の結果、(メタ)アクリル酸無水物を用いることにより課題が解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)式(I)(式中、Rはメチル基または水素原子を表す。)で表される(メタ)アクリル酸無水物と、式(II)(式中、Rは炭素原子数が7〜11の脂肪族アルキル基を表す。)で表されるアミノカルボン酸とを反応させることを特徴とする、式(III)(式中、R、Rは前記と同じ。)で表される、(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の製造方法、
(2)反応が、水溶媒中で実施されるものである、上記(1)記載の(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の製造方法、
を提供するものである。
【0007】
【化4】

【0008】
【化5】

【0009】
【化6】

【発明の効果】
【0010】
本発明は、側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の、緩和な条件で簡便であり、かつ高収率である、工業的に有利な製造方法である。
また、廃棄物をほとんど発生しない、リサイクル製造方法としても好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、上記式(I)で表される(メタ)アクリル酸無水物と上記式(II)で表されるアミノカルボン酸とを、アルカリ存在下、反応させるものである。
本発明の出発物質である、アミノカルボン酸の具体例としては、8−アミノカプロン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸が挙げられるが、反応収率等を考慮すると、特に、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸が好ましい。
【0012】
アミノカルボン酸は(メタ)アクリル酸無水物に対して、0.5〜3.0倍モル用いることが必要であるが、1.2〜1.5倍モル用いることが好ましい。アミノカルボン酸が等モル若しくはそれ未満の添加量でも反応は進行するが、アミノカルボン酸が残存し、目的物である(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸との分離に労力を要し好ましくない。
【0013】
使用するアルカリとしては、水溶性の水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩類等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらアルカリの中でも安価で入手容易である水酸化ナトリウムが好ましい。
アルカリの添加量は、(メタ)アクリル酸無水物1モルに対して1モル〜5モルであり、好ましくは2モル〜3モルである。
【0014】
反応は溶媒の存在下実施される。
使用する溶媒としては、特に限定されないが、水あるいは水に溶解する有機溶媒との混合溶媒が好ましく、有機溶媒としては(メタ)アクリル酸無水物と直接反応をしない溶媒、アセトン、THF、アセトニトリル等を例示することができる。
中でも水を溶媒として使用する場合、反応終了後、反応液のpHを調整するだけの操作で目的物だけを結晶として分離することができるので、特に好ましい。目的物の単離・精製が容易なことも本発明の特徴の一つである。
【0015】
反応は、急激な温度上昇等は見られず速やかに進行するが、反応中での重合を防止する為、重合禁止剤を添加することが好ましい。
使用できる重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンメチルエーテル等のハイドロキノン誘導体型、フェノチアジン、4−アミノジフェニルアミン等が挙げられる。
添加量は特に限定されないが、出発物質に対して100ppm〜500ppmであり、これらの重合禁止剤は1種又は2種以上を併用する事も可能である。
【0016】
反応時間は出発物質、反応条件にもよるが、30分〜数時間程度で十分であり、長時間反応させると、(メタ)アクリル酸無水物の二重結合部分へのマイケル付加などによる副生成物が生じてくるため、1時間〜3時間程度が好ましい。
反応温度は、−5℃〜60℃の範囲であり、温度が低い場合、アミノアルキルカルボン酸と溶媒の混和性が悪いため反応率が低くなる。逆に温度が高い場合、(メタ)アクリル酸無水物の加水分解速度が速り好ましくなく、10℃〜30℃程度が好ましい。
【0017】
反応終了後、目的物の単離は、混合溶媒の場合は有機溶媒を減圧下留去した後、水溶媒の場合は反応液に、無機酸を滴下し、pHを2〜5にすることによって、目的物を結晶として析出させることにより、容易に実施される。
【0018】
本発明において、(メタ)アクリル酸無水物の加水分解によって生じた(メタ)アクリル酸は、適当な重合禁止剤存在下、目的物を分離した濾液から減圧蒸留によって容易に(メタ)アクリル酸として回収することができる。そして回収した(メタ)アクリル酸は、公知の方法により無水酢酸と反応させることによって(メタ)アクリル酸無水物に変換できる。また、該反応により無水酢酸から生成する酢酸は、ケテン法などを用いることによって脱水し、無水酢酸に変換することができる。
従って、廃棄物のほとんど発生しない、(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸のリサイクル製造方法としても好適である。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。
実施例1 12−メタクリルアミドドデカン酸の合成
フラスコに水酸化ナトリウム3.25 g(78 mmol)を加えて、水100mlに溶解後、ハイドロキノンメチルエーテル 4mg(3.23×10−5 mol)とアミノドデカン酸5.75g(26mmol)を加えた。室温で、メタクリル酸無水物 6.40 g(38 mmol)を撹拌下滴下し、滴下終了後、引き続き室温で3時間撹拌した。
反応終了後、反応液に濃塩酸4mlを加えてpHを4.5に調整して析出した結晶をろ過した。結晶は水で洗浄後、凍結乾燥を行い、目的物である12−メタクリルアミドドデカン酸6.70g(収率89 %)を得た。
融点 70℃
本化合物は、標品との混融試験、赤外線吸収スペクトル(KBr法)の比較により、その構造を同定した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の、緩和な条件で簡便であり、かつ高収率である、工業的に有利な製造方法であり、紙薬品、水処理剤、化粧料、衛生材料等の原料として、あるいは家庭用洗浄剤の原料等として好適なモノマーを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)(式中、Rはメチル基または水素原子を表す。)で表される(メタ)アクリル酸無水物と、式(II)(式中、Rは炭素原子数が7〜11の脂肪族アルキル基を表す。)で表されるアミノカルボン酸とを反応させることを特徴とする、式(III)(式中、R、Rは前記と同じ。)で表される、(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
反応が、水溶媒中で実施されるものである、請求項1記載の(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−230966(P2007−230966A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57700(P2006−57700)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】