説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】アルコール中に存在する過酸化物を効率よく分解して安定に(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】エステル化反応前にあらかじめ塩基性物質によりアルコールの処理を行なう工程、処理を行ったアルコールと(メタ)アクリル酸とを触媒存在下に脱水反応させる工程を有する、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステルは、熱、光、過酸化物等によって重合しやすい性質を持っているため、それらの特徴を生かした幅広い用途で使用されている。このような用途としてはたとえば、電子材料分野ではドライフィルムレジストを始め、ディスプレイや光ディスク用の接着剤、電子材料用プラスチックハードコート剤などが挙げられ、塗料建材分野としては電子線硬化塗料、紫外線硬化印刷用の塗料、インク、また表面剤、成形材料成分、さらにはコンクリート混和剤の成分などが挙げられる
しかし、これらに用いられる(メタ)アクリル酸エステル及びその原料となるアルコールは、それぞれの化学構造によって自動酸化を受けやすい化合物があり、自動酸化により過酸化物が生成してしまうと、着色しやすく、さらに悪化するとポリマ化が起こる。このことから、(メタ)アクリル酸エステルの着色防止及び重合防止の方法に関して古くからさまざまな提案がなされている。
【0003】
たとえば(メタ)アクリル酸エステルの経時安定化させることを目的とした(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩を添加する方法(特許文献1)、脂肪酸エステルを活性炭や活性白土等で処理して過酸化物を除去する方法(特許文献2)、吸着剤を用いる方法としてハイドロサルタイト類を添加して着色の少ない(メタ)アクリル酸エステルを得る方法(特許文献3)、塩基性塩を添加して濃縮することによる色相改善方法(特許文献4、特許文献5)などが開示されている。
【0004】
しかし、上記の技術は全て反応終了後に行う操作であり、例えば経時安定性が悪いアルコールで過酸化物量が増加してしまった原料アルコールに対する処理の前例はない。
【特許文献1】特開平9−67307号公報
【特許文献2】特開平7−188692号公報
【特許文献3】特開平11−80082号公報
【特許文献4】特開平11−263779号公報
【特許文献5】特開2004−51546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルコール中に存在する過酸化物を効率よく分解して安定に(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エステル化反応前に原料であるアルコールを塩基性物質で処理することによって、アルコール中に存在する過酸化物量を減少させ安定に(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法に関する。
【0007】
本発明は、以下に関する。
【0008】
1.エステル化反応前にあらかじめ塩基性物質によりアルコールの処理を行なう工程、処理を行ったアルコールと(メタ)アクリル酸とを触媒存在下に脱水反応させる工程を有する、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【0009】
2.エステル化反応前にあらかじめ塩基性物質によりアルコールの処理を行なう工程、処理を行ったアルコールと(メタ)アクリル酸エステルとを触媒存在下にエステル交換反応させる工程を有する、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【0010】
3.塩基性物質によりアルコールの処理を行った後、塩基性物質を除去することなく反応させ、反応終了後に溶媒を留去した後に不溶分をろ別する工程を有する、項1又は2記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【0011】
4.塩基性物質が固体である項1〜3いずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【0012】
5.塩基性物質がハイドロタルサイトである項1〜4いずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、過酸化物量が増加したアルコールであっても、反応前に塩基性物質で処理することによって、アルコール中に存在する過酸化物量を減少させ、安定に(メタ)アクリル酸エステルを製造することができ、かつ着色が少ない(メタ)アクリル酸エステルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の塩基性物質で処理したアルコールを用いて(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明では、過酸化物含有量の多いアルコールの過酸化物を効率よく除去することが可能である。過酸化物除去に用いられる塩基性物質としては例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属塩、さらには酸化マグネシウム、シリカマグネシア、塩基性イオン交換樹脂、ハイドロタルサイト類などが挙げられる。このうち、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等は潮解性があるため水溶液として用い、処理後に水層を除くことが好ましいが、この方法では塩基性廃水が発生してしまうため生産性が良くない。したがって、好ましくは水酸化リチウム、炭酸リチウムなどの固体塩基であり、より好ましくはハイドロタルサイト類である。ハイドロタルサイト類は、アルコールを処理し、ろ過した後のアルコール成分中に固体塩基成分であるマグネシウムやアルミニウム成分が残存しないという利点を有する。
【0016】
これらの塩基性物質の使用量としては、固形分換算で原料アルコールに対して0.01重量%から10重量%の範囲内が好ましく、より好ましくは0.05重量%から5重量%である。使用量が0.01重量%未満であった場合は過酸化物量を減少させるためにかなりの時間を要する。また、塩基性物質量が多ければ単位時間における過酸化物の減少割合も多くなるが、使用量が10重量%を超えた場合は、増量添加の効果が薄れると共に、生産性が悪化する傾向にある。塩基性物質による処理方法は、アルコールに直接塩基性物質を添加して攪拌しても良いし、アルコールの粘度が高い場合は反応で使用する溶剤等でアルコールを希釈したものに塩基性物質を添加し攪拌しても良い。また、処理温度は常温(25℃)でも良いが、好ましくは30℃以上80℃以下に加熱して攪拌しておく。80℃を超えて処理する場合は過酸化物の生成が同時に起こってしまい、当該処理法の意味をなさない。
【0017】
塩基性物質による処理時間は過酸化物量が低減されるまで行えばよいが、好ましくは10分以上5時間以下である。10分未満の場合は過酸化物量の低減が十分でない場合があり、また5時間を超えても過酸化物量低減に対する効果は見られない。塩基性物質による処理後はそれをろ過して除去しても良いし、またろ過せずそのまま反応触媒を添加し反応を進行させることもできる。ただし水酸化リチウム等の水酸化物は系内に過剰に存在すると、条件によっては触媒活性を失わせる可能性や、副反応が進行する可能性もある。このことを考慮して、塩基性物質を除去せずに反応を行う場合の塩基性物質使用量は、特に好ましくは0.05重量%から3重量%である。
【0018】
本発明の原料として使用することができるアルコールは脂肪族鎖状化合物、脂肪族環状化合物、芳香族化合物等特に制限はない。本発明を有効に利用することができるのは、原料アルコールの過酸化物量が多い場合である。一般的に過酸化物量が増加しやすい傾向にあるものとしては例えば、アルキレングリコール導入化合物が挙げられる。これは分子内にエチレングリコール鎖、プロピレングリコール鎖、テトラメチレングリコール鎖を有する化合物であり空気中の酸素による自動酸化を受けやすい。このような化合物として具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレン化ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレン化ポリテトラメチレングリコール、メトキシポリオキシエチレングリコール、メトキシポリオキシプロピレングリコール、メトキシポリオキシエチレン化ポリプロピレングリコール、メトキシポリオキシプロピレン化ポリエチレングリコール、エトキシポリオキシエチレングリコール、エトキシポリプロピレングリコール、エトキシポリオキシエチレン化ポリプロピレングリコール、エトキシポリプロピレン化ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化ビスフェノールA、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化ノニルフェノール、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化クミルフェノール、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化トリシクロ[5.2.1.02,6]デカノール、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノール、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化トリメチロールプロパン、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化ペンタエリスリトール、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化ジペンタエリスリトール、ポリオキシエチレン及び/又はポリプロピレン化イソシアヌル酸等が挙げられる。このほかにも、例えば1−ブタノール、2−ブタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ペンタエリスリトール等の脂肪族炭化水素アルコールも比較的過酸化物量が増加しやすい。
【0019】
本発明におけるエステル化の反応方法としては、原料アルコールと(メタ)アクリル酸とを酸性触媒存在下に反応させる脱水エステル化法、原料アルコールと低級(メタ)アクリル酸エステルとを触媒存在下に反応させるエステル交換法が挙げられる。
【0020】
脱水エステル化反応の場合は、まず原料アルコールと(メタ)アクリル酸を反応溶媒中、酸触媒の存在下にエステル化反応させる。反応に際しては短時間反応、高転換率、反応後の後処理の観点から(メタ)アクリル酸をアルコールに対して小過剰に使用することが好ましい。具体的には通常アルコールが含有する水酸基1モルに対して(メタ)アクリル酸を1〜3モルの範囲で使用することが好ましい。(メタ)アクリル酸の使用量がアルコールの水酸基1モルに対して1モル未満であると反応が十分に進行せず、また3モルを超えると反応後の中和洗浄時に過剰のアルカリが必要となり生産性が悪化する。
【0021】
脱水エステル化反応に使用される酸触媒は、一般的なエステル化反応における触媒を使用することができる。例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸や、ゼオライト、アンバーライト、アンバーリスト、ナフィオン等固体酸が挙げられる。
【0022】
酸触媒の使用量としては、アルコールと(メタ)アクリル酸の合計量に対して0.01〜10重量%の範囲であることが好ましい、0.01重量%未満であると反応の進行が遅くなる傾向があり、また10重量%を超えると、副反応が進行する可能性がある。
【0023】
脱水エステル化反応で使用する溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン等を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、取り扱いの点からトルエンを単独に用いることが好ましい。
【0024】
一方、エステル交換反応の場合は、原料アルコールと(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の低級(メタ)アクリル酸エステルを触媒存在下にエステル化反応させる。反応に際しては短時間反応、高転換率、反応後の後処理の観点から低級(メタ)アクリル酸エステルをアルコールに対して過剰に使用することが好ましい。具体的には通常アルコールが含有する水酸基1モルに対して低級(メタ)アクリル酸エステルを2.0モル〜20モルの範囲で使用することが好ましい。低級(メタ)アクリル酸エステルの使用量がアルコールの水酸基1モルに対して2モル未満であると反応が十分に進行せず、また20モルを超えると反応後の濃縮工程に長時間を要し生産性が悪化する。
【0025】
エステル交換反応に使用される触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸化物、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、リチウムアミド、ナトリウムアミド、カリウムアミド等のアルカリ金属アミド、オルトチタン酸テトラメチル、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラプロピル、オルトチタン酸テトライソプロピル、オルトチタン酸テトラブチル等のチタンアルコキシド、その他アルミニウムアルコキシドやスズアルコキシド等が挙げられる。このうち副反応が極力抑えられ、反応終了後に水を添加することで容易に触媒除去ができることから、チタンアルコキシドがより好ましい。
【0026】
エステル交換反応での触媒の使用量は、低級(メタ)アクリル酸エステルと原料アルコールの合計量に対して0.01〜5重量%の範囲が好ましい。触媒量が5重量%より多くとも特に利点はなく、不経済になるのみである。
【0027】
エステル交換反応に際しては、反応に関与しないものであれば適宜溶媒を使用することもできる。使用できる溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン等の炭化水素類、ジオキサン等のエーテル類などを挙げることができる。なお、これらのいわゆる有機溶媒を用いることなく、これらの代わりに低級(メタ)アクリル酸エステル自体を、溶媒として反応することもできる。
【0028】
本発明中のエステル化反応においては、公知の重合禁止剤を添加・併用することが好ましい。重合禁止剤としては例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等のフェノール類、フェノチアジン、エチレンチオ尿素等の硫黄化合物、ジブチルジチオカルバミン酸銅等の銅塩、酢酸マンガン等のマンガン塩、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル等のN−オキシル化合物が挙げられる。添加量は生成エステルに対して0.1重量%以下が好ましい。0.1重量%を超えると重合禁止剤に起因する着色を生じる場合がある。
【0029】
エステル化反応の際には反応中の反応液の重合を防止するために少量の分子状酸素を吹き込みことが好ましい。分子状酸素としては、希釈された状態で使用することが好ましく、空気を用いることが好適である。また、分子状酸素の吹き込みは、蒸発して蒸気として存在したり、上部の釜壁面等に凝縮した(メタ)アクリル酸エステル類の重合を防止するためにも好ましい。分子状酸素の導入量としては、反応機の形状や攪拌動力によっても影響を受けるが、原料アルコール1モルに対して5〜500ml/min.(空気として25〜2500ml/min.)の速度で吹き込めば良い。分子状酸素導入量が5ml/min.未満の場合は重合禁止の効果が十分でなく、500ml/min.を超えると低級(メタ)アクリル酸エステルを系外に押し出してしまう効果が強くなり、低級(メタ)アクリル酸エステルのロスを招く。
【0030】
本発明中のエステル化反応は、常圧又は減圧下、60℃〜130℃で行うことが好ましい。温度が60℃未満であると反応速度が極端に反応が遅くなり、また130℃を超えると(メタ)アクリル酸エステルの重合と着色を引き起こしやすい。
【0031】
エステル化反応の形態としては、(メタ)アクリル酸エステルを製造する当業者間で一般的に知られた方法で行うことができる。脱水エステル化反応の場合は反応時に副生する水を効率的に反応系外へ除去し、またエステル交換反応の場合は、反応時に副生する低級アルコールを低級(メタ)アクリル酸エステル及び/又は溶媒で共沸留去することが必要である。このため、反応装置としては例えば、脱水エステル化反応の場合は油水分離槽、エステル交換反応の場合は精留塔付属回分式反応槽が使用される。
【0032】
反応終了後は過剰の低沸成分を濃縮装置で除去する。このとき、触媒を含む酸成分が反応溶液に残存していると反応容器や生成物を汚染する場合がある。特に脱水エステル化反応においては反応後に過剰の(メタ)アクリル酸が残存するために反応液を中和洗浄することが好ましい。中和方法は公知のものを採用することができるが、中和時のエステル分解(ケン化)を防ぐために、中和前に、例えば水または食塩、硫酸ナトリウム等の中性塩水溶液で洗浄することが好ましい。このうち、より好ましくは食塩水である。中和前洗浄水溶液の量は反応終了液に対して2〜30重量%で行うことが好ましく、5〜15重量%がより好ましい。さらに、この洗浄用水溶液の濃度は0〜30重量%で行うことが好ましく、15〜20重量%がより好ましい。洗浄水の量が2重量%未満であると、十分に洗浄の効果が果たせず、また30重量%を超えると必要以上に洗浄水を用いていることとなり無駄な廃水が生じる等生産性が悪くなる。また同様の理由で洗浄用水溶液の濃度が30重量%を超えると生産性が悪くなる。
【0033】
脱水エステル化反応後の中和には例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質の水溶液が用いられる。中和に用いられるアルカリ性物質は、反応終了液の中和当量の1.01〜1.5倍として中和を行うことが好ましい。アルカリ性物質が1.01倍未満であると中和が不十分である可能性があり、1.5倍を超えると廃水が増え、エステル分解(ケン化)も起こる可能性がある。中和に用いるアルカリ水溶液の濃度は1重量%以上30重量%未満で行うことが好ましく、5〜15重量%がより好ましい。アルカリ水溶液の濃度が1重量%未満であると、中和のために大量のアルカリ水溶液が必要となり結果として大量の廃水が発生し、30重量%を超えるとエステル分解が起こる可能性がある。
【0034】
上記中和後、さらに水または中性塩の水溶液により洗浄する。洗浄に用いる水または中性塩の水溶液はpH8以下であれば良く、特に食塩水が好ましい。洗浄の完了はpHで管理し、洗浄後の洗液がpH8以下であることが好ましい。pH管理を怠ると(メタ)アクリル酸や触媒、不純物等の除去が完全に行えていない場合がある。
【0035】
濃縮による低沸成分の留去は、常圧または減圧下、液温を90℃以下に保持しながら行うことが好ましく、より好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは50〜70℃の範囲内である。液温が90℃を超えると(メタ)アクリル酸エステルの着色や重合を引き起こす可能性が高くなる。
【0036】
上記の通り、特に濃縮時においては、加熱により(メタ)アクリル酸エステルの着色や重合が問題であったが、本発明においてはアルコールの処理に用いた塩基性物質を濃縮時までに残存させることができ、これによって(メタ)アクリル酸エステルの着色及び重合の可能性をさらに低減できる。低沸成分の留去が完了した(メタ)アクリル酸エステルはろ過することによって残存する塩基性物質や中和塩等の不溶分を取り除くことができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。
【0038】
<実施例1>
攪拌機、温度計を取り付けた1Lフラスコに、過酸化物量が10.8ppmであるエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノールを300g(1.54モル)、トルエンを270g、協和化学工業(株)社製キョーワード500SH(ハイドロタルサイト)を1.5g入れ、60℃に加温した。そのまま攪拌を2時間続けた後、吸引ろ過により不溶分を除去した。得られたろ液を攪拌機、温度計、空気導入管、Dean−Starkトラップ及び冷却管を取り付けた1Lフラスコに入れ、さらにメタクリル酸を226g(3.2モル)、パラトルエンスルホン酸を30g、ハイドロキノンモノメチルエーテルを0.22g仕込んだ。系内は53kPaとし、乾燥空気で100ml/min.の導入量で吹き込みながら昇温した。反応と共に生成する水を除去しながら反応温度が90℃になるよう圧力を調節しながら反応を行った。3時間後、理論量の水が留出したため、ガスクロマトグラフィ分析を行ったところ、反応生成物であるトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンオキシエチルメタクリレートの面積%が97%であったので反応を終了とした。反応液を冷却し、40℃以下になったところで17重量%食塩水を100g仕込み300rpmで攪拌した。有機層を分液ロートに移し、10%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して過剰なメタクリル酸を除去した。水層抜出後、有機層をさらに17重量%食塩水300gで洗浄して水層のpHを8とした。有機層を1Lナス型フラスコにとり、ロータリーエバポレータを用いてトルエンを減圧下留去してから、吸引ろ過によりナスフラスコ内液をろ過して目的とするトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンオキシエチルメタクリレートを351g(収率87%)得た。
【0039】
<実施例2>
過酸化物量が10.8ppmであるエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノールをキョーワード500SHで処理した後、吸引ろ過で不溶分を除去せずそのまま反応したこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。得られたトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンオキシエチルメタクリレートは358g(収率89%)であった。
【0040】
<実施例3>
攪拌機、温度計を取り付けた1Lフラスコに、過酸化物量が10.8ppmであるエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノールを300g(1.54モル)、メタクリル酸メチルを386g(3.85モル)、キョーワード500SHを1.5g入れ、60℃に加温した。そのまま攪拌を2時間続けた後、吸引ろ過により不溶分を除去した。得られたろ液を攪拌機、温度計、空気導入管及び精留塔(15段)を取り付けた1Lフラスコに入れ、さらにハイドロキノンモノメチルエーテルを0.22g添加して圧力を40kPaに調節し、乾燥空気を100ml/min.の速度で吹き込みながら過熱還流し、系内の水分を除去した。次いでオルトチタン酸イソプロピルを3.0g加えて反応を開始させた。反応時は系内圧力を69kPaに調節した。反応液を加熱還流し、精留塔上部の温度(塔頂温度)を監視していると、生成するメタノールとメタクリル酸メチルの共沸点に近づいたので、塔頂温度が60℃になるように還流比を調節してメタノールをメタクリル酸メチルの共沸物として留去しながら反応を行った。触媒を加えて2時間ほど経過したころから塔頂温度が上昇し始め、最終的には80℃まで上昇したので、還流比を徐々に大きくして反応を続けた。反応3時間目の反応液をガスクロマトグラフィ分析したところ、反応性生物であるトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンオキシエチルメタクリレートの面積%が97%以上になっていたので反応終了とした。反応液を冷却し、反応液の温度が75℃となったところで、17重量%食塩水100gを加えて触媒を加水分解した。30分静置した後、デカンテーションにより有機層を1Lナス型フラスコにとり、ロータリーエバポレータを用いて過剰なメタクリル酸メチルを減圧下留去してから、吸引ろ過によりナスフラスコ内液をろ過して目的とするトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンオキシエチルメタクリレートを387g(収率96%)得た。
【0041】
<実施例4>
過酸化物量が10.8ppmであるエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノールをキョーワード500SHで処理した後、吸引ろ過で不溶分を除去せずそのまま反応したこと以外は実施例3と同様にして反応を行った。得られたトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンオキシエチルメタクリレートは383g(収率95%)であった。
【0042】
<実施例5>
アルコールとしてエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノールの代わりに過酸化物量が8.9ppmである10モルエトキシ化ビスフェノールAを300g(0.45モル)、メタクリル酸メチルを113g(1.13モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテルを0.11g用いたこと以外は実施例4と同様に行った。このとき得られた10モルエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートは332g(収率92%)であった。
【0043】
<実施例6>
キョーワード500SHの代わりに炭酸リチウムを用いたこと以外は実施例4と同様に行った。このとき得られたトリシクロ[5.2.1.02,6]デセンオキシエチルメタクリレートは375g(収率93%)であった。
【0044】
<実施例7>
キョーワード500SHの代わりに炭酸リチウムを用いたこと以外は実施例5と同様に行った。このとき得られた10モルエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートは342g(収率95%)であった。
【0045】
<比較例1>
キョーワード500SHによる処理を行わず、攪拌機、温度計、空気導入管、Dean−Starkトラップ及び冷却管を取り付けた1Lフラスコに過酸化物量が10.8ppmであるエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノールを300g(1.54モル)、メタクリル酸を226g(3.2モル)、トルエンを270g、パラトルエンスルホン酸を30g、ヒドロキノンモノメチルエーテルを0.22g仕込んだこと以外は実施例1と同様に行った。このとき得られたエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセンメタクリレートは354g(収率88%)であった。
【0046】
<比較例2>
キョーワードSHによる処理を行わず、攪拌機、温度計、空気導入管及び精留塔(15段)を取り付けた1Lフラスコに、過酸化物量が10.8ppmであるエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセノールを300g(1.54モル)、メタクリル酸メチルを386g(3.85モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテルを0.22g入れたこと以外は実施例3と同様にして反応を行った。このとき得られたジエトキシ化トリシクロ[5.2.1.02,6]デセンメタクリレートは395g(収率98%)であった。
【0047】
<比較例3>
キョーワードSHによる処理を行わず、拌機、温度計、空気導入管及び精留塔(15段)を取り付けた1Lフラスコに、過酸化物量が8.9ppmである10モルエトキシ化ビスフェノールAを300g(0.45モル)、メタクリル酸メチルを113g(1.13モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテルを0.11g入れたこと以外は実施例5と同様にして反応を行った。このとき得られた10モルエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートは339g(収率94%)であった。
【0048】
上記において、原料アルコール中の処理前後の過酸化物の量は次のようにして測定した。すなわち、過酸化物の測定方法は、まず原料アルコール10gを精秤し、100mlエルレンマイヤーフラスコに入れた後、酢酸0.8ml、イソプロパノール16mlを入れ加熱還流させた。還流が始まったらすぐに飽和NaI/イソプロパノール溶液を4ml入れさらに還流させた後に冷却した。得られた淡黄色液体に0.01Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で黄色味が消えるまで滴定した。また同様の作業において原料アルコールを入れずに酢酸、イソプロパノール、飽和NaI/イソプロパノール溶液だけを用いて滴定を行ったものをブランクとして、以下の計算により過酸化物量を算出した。
【0049】
(数1)
((試料滴定量)−(ブランク滴定量))×170/アルコール重量
さらに、実施例および比較例により得られたメタクリル酸エステルについて、色相、ポリマ分、金属含有量について測定し、評価した。測定方法は次のとおりである。
【0050】
(1)色相
色相の測定はハーゼン色数法(JIS K 6901)により行った。
【0051】
(2)ポリマー分
ポリマ分はメタノール溶解性を目視により確認した。すなわち,(メタ)アクリル酸エステル5gをメタノール15gで溶解し、濁りの有無を確認した。濁りのないものを「未検出」、濁りのあるものを「検出」として、表中に記載した。
【0052】
(3)金属分析
金属分析はそれぞれ次の方法により行った。
【0053】
Mg:フレーム原子吸光法
Al:フレーム原子吸光法
Li:灰化後酸分解後、原子吸光法
Ti:酸分解及びアルカリ溶解後、原子吸光法
なお、各金属量の測定において,検出限界(1ppm)以下であったものを「未検出」として、表中に記載した。
【0054】
上記実施例及び比較例の結果をまとめて表1に示す。なお、比較例1〜3では、原料の前処理を行っていないため、「前処理後過酸化物量」の表記は、原料アルコールの過酸化物量の値を示している。
【表1】

【0055】
これらの結果より、過酸化物が多く含まれるアルコールを塩基処理することによって、確実に過酸化物量が減少し、また過酸化物量を減少させたアルコールを用いて合成を行うとポリマ分を生成することなく安定に(メタ)アクリル酸エステルが得られることがわかる。さらに、実施例2および実施例4〜7で示されるとおり、塩基処理を行った後にそのまま合成、濃縮を行い、最後に塩基性成分をろ過により除去する製造方法では、脱水エステル化法およびエステル交換法のいずれにおいても製品中の色相が改善されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル化反応前にあらかじめ塩基性物質によりアルコールの処理を行なう工程、処理を行ったアルコールと(メタ)アクリル酸とを触媒存在下に脱水反応させる工程を有する、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
エステル化反応前にあらかじめ塩基性物質によりアルコールの処理を行なう工程、処理を行ったアルコールと(メタ)アクリル酸エステルとを触媒存在下にエステル交換反応させる工程を有する、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
塩基性物質によりアルコールの処理を行った後、塩基性物質を除去することなく反応させ、反応終了後に溶媒を留去した後に不溶分をろ別する工程を有する、請求項1又は2記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
塩基性物質が固体である請求項1〜3いずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
塩基性物質がハイドロタルサイトである請求項1〜4いずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2007−314502(P2007−314502A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201104(P2006−201104)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】