説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】 (メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコールとをエステル交換反応させて目的の(メタ)アクリル酸エステルを製造する際にその反応液から再利用可能な活性触媒を効率的に回収し次回に用いる触媒の少なくとも一部として再利用する製法を提供する。
【解決手段】本発明は、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステルを含む反応液を加熱し、この化合物を蒸留する蒸留工程、蒸留工程から得られた、チタン化合物を含む触媒含有液と、チタン化合物を抽出する有機溶剤とを接触させてチタン化合物を有機溶剤相に分離させる抽出分離工程、及び、有機溶剤相からチタン化合物を回収する回収工程を備え、回収工程により得られたチタン化合物を、エステル交換反応用触媒の一部として再利用する(メタ)アクリル酸エステルの製法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換反応を利用した(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関し、更に詳しくは、エステル交換反応用触媒を経済的且つ工業的に回収して、再利用する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。
【背景技術】
【0002】
原料として(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルキルアルコールをチタン化合物触媒の存在下、エステル交換させることにより、目的の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを得る方法が知られている。
当該方法においては、副生物や重合物の生成を防止して目的物の生産性を上げるために、特許文献1においては、チタン化合物触媒であるテトラアルキルアルコキシチタンのアルキル基と原料のアルコールのアルキル基を同じにしたり、特許文献2においては、チタン化合物触媒を原料のアルキルアルコールと同じアルコールに溶解させたり、特許文献3においては、エステル交換時にN−オキシル化合物を併用したりする方法が検討されている。
【0003】
また、アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル(以下、「DA」という。また、ジメチルアミノエチルアクリレートということもある)の製造方法としては、触媒であるテトラアルキルアルコキシチタンの存在下、反応原料であるアクリル酸アルキルエステル(アルキルアクリレートということもある)及びジメチルアミノエチルアルコールをエステル交換させる方法が一般的に用いられる。この製造方法において使用された触媒の一部には、失活成分、即ち、エステル交換反応に再利用不可能な成分を含んでいる。エステル交換反応の後、反応液から、目的生成物であるDAや、未反応の反応原料を蒸留することにより、これらの成分は、缶出物として回収される。この繰り返し回収を続けると失活成分が反応系内に蓄積し、収率が低下する等、生産性の低下を招くことから、缶出物は、通常、一定回収率になったところで廃棄されている。
【0004】
上記缶出物から活性な触媒を回収利用する方法として、特許文献4には、反応液から未反応の原料(メタ)アクリル酸アルキルエステル、原料アルコール及び目的(メタ)アクリル酸エステルを蒸留して回収した後の触媒を含む残渣液を、再生用アルコールと接触させ、アルコール交換反応によりアルコキシチタン化合物を再生回収し、これをエステル交換反応触媒の少なくとも一部として再使用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−66555号公報
【特許文献2】特開2009−274986号公報
【特許文献3】特開平11−222462号公報
【特許文献4】特開2003−261504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された方法によると、価格の高いチタン化合物触媒を回収せずに廃棄されるため、製品が高コストになる。特許文献2に開示された方法では、チタン化合物触媒の失活時間は延びるが、やはりチタン化合物触媒は反応終了後廃棄される。特許文献3では特殊な重合防止剤の混入による製品の重合性が問題になり、またチタン化合物触媒の回収には言及されていない。特許文献4には触媒成分の回収が記載されているが、特許文献4に開示された方法によると、触媒成分の回収方法が、ろ過、遠心分離機等の固液分離手段によるものであるため、回収されるテトラアルコキシチタンが30℃以下でアルコール液中で固体析出する場合に限定される。テトラアルコキシチタンは、チタン原子に配位するアルコキシル基の違いにより、複数知られているが、その多くは、室温で液体である。特許文献4においては、再生用アルコールとしてメタノールを使用していることから、室温で固体であるテトラメチルチタネートとして固体析出させ、回収している。また、再生したテトラアルコキシチタンを固体回収する方法であるため、室温で固体として存在するテトラアルコキシチタンであっても、回収液に溶解するテトラアルコキシチタンは固体析出しないため、固液分離により回収できない。
本発明の目的は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコールとをエステル交換反応させて目的の(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、その反応液から、再利用可能な活性触媒を効率的に回収し、エステル交換反応用触媒の少なくとも一部として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び上記アルコールの反応に再利用する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示される。
1.チタン化合物触媒の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコールとを反応させて、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、
(a)上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び上記アルコールを含む反応液を加熱し、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステル及びアルコールを蒸留する蒸留工程
と、
(b)上記蒸留工程から得られた、チタン化合物触媒を含む触媒含有液と、該チタン化合物触媒を抽出可能な有機溶剤とを接触させて、該チタン化合物触媒を有機溶剤相に抽出する抽出分離工程と、
(c)上記有機溶剤相からチタン化合物触媒を回収する回収工程と、
を備え、
上記回収工程により得られたチタン化合物触媒を、エステル交換反応用触媒の少なくとも一部として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び上記アルコールの反応に再利用することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
2.上記有機溶剤が直鎖状の無極性溶剤である上記1に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
3.上記直鎖状の無極性溶剤が脂肪族炭化水素である上記1又は2に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
4.上記無極性溶剤がn−ヘキサンである上記3に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
5.上記チタン化合物触媒が、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタン及びテトラ(ジメチルアミノエチルオキシ)チタンから選ばれた少なくとも1種である上記1乃至4のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
6.上記アルコールがジアルキルアミノアルキルアルコール、アルコキシアルカノール、シクロアルカノール又はアルキルシクロアルカノールのから選択されたものである請求項1乃至5のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
7.上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルがアクリル酸イソブチルであり、上記アルコールが、ジメチルアミノエチルアルコール、2−メトキシエタノール又はシクロヘキシルアルコールから選択されたものである請求項6に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコールとをエステル交換反応させて目的の(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、その反応液から再利用可能な活性触媒を効率的に回収し、エステル交換反応用触媒の少なくとも一部として、反応に再利用することから、新規に使用する触媒の使用量の低減が可能である。
上記触媒含有液が、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル、上記アルコール、上記エステル交換された(メタ)アクリル酸エステル、及び、副生アルコールを含み、これらの合計量が、上記触媒含有液100質量部に対して好ましくは90質量部以下、上記エステル交換された(メタ)アクリル酸エステルがDAの場合には、より好ましくは40質量部以下である場合に、抽出分離工程を、より円滑に進めることができる。
上記有機溶剤が直鎖状の無極性溶剤である場合には、抽出分離工程を、より円滑に進めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、チタン化合物触媒の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコールとをエステル交換反応させて目的の(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、その反応液から活性な触媒を回収して、これを再利用する製造方法である。
【0010】
本発明の製造方法におけるエステル交換反応は、下記式(1)で示されるように、チタン化合物触媒の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、「原料化合物(A)」という。)とアルコール(以下、「原料化合物(B)」という。)とを反応させて、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステル(以下、「化合物(C)」という。)とするものである(反応工程)。この反応工程により、化合物(C)とともに、R2−OHで表されるアルコール(以下、「化合物(D)」という。)が生成する。また、反応系のチタン化合物は、一部が失活しているものの、大部分は触媒活性を有している。
【化1】

上記反応式(1)において、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含み且つ炭素原子数3〜8の炭化水素基、又は、芳香環構造を含み且つ炭素原子数6〜8の炭化水素基であり、R3は、炭素原子数1〜20の炭化水素基、水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子に置換されてなる、炭素原子数2〜20のハロゲン化炭化水素基、下記一般式(2)で表される有機基、又は、下記一般式(3)で表される有機基である。
【化2】

(式中、R31は、炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含み且つ炭素原子数3〜18の炭化水素基、又は、芳香環構造を含み且つ炭素原子数6〜8の炭化水素基であり、R32は、炭素原子数2〜8の2価の脂肪族炭化水素基である。)
【化3】

(式中、R34及びR35は、互いに同一又は異なって、炭素原子数1〜8の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含み且つ炭素原子数3〜8の炭化水素基、又は、芳香環構造を含み且つ炭素原子数6〜8の炭化水素基であり、いずれか一方が水素原子であってよく、R36は、炭素原子数2〜4の2価の脂肪族炭化水素基である。)
【0011】
上記原料化合物(A)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸n−ブチル及び(メタ)アクリル酸イソブチルが好ましく、アクリル酸イソブチルが特に好ましい。
【0012】
上記原料化合物(B)としては、アルカノール類、アルコキシアルカノール類、ハロアルカノール類等の脂肪族アルコール;シクロアルカノール類、アルキルシクロアルカノール類、シクロアルキルアルカノール類等の脂環族アルコール;フェニルアルカノール類、アルキルフェニルアルカノール類、フェノキシアルカノール類等の芳香族アルコール;アミノアルカノール類等が挙げられる。これらのうち、アミノアルカノール類が好ましい。
【0013】
上記アルカノール類としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、トリデカノール等が挙げられる。
上記アルコキシアルカノール類としては、メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−プロポキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−tert−ブトキシ−2−プロパノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−ブタノール等が挙げられる。
【0014】
上記脂環族アルコールとしては、シクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、4−tert−ブチルシクロヘキサノール、イソボルネオール、トリシクロデカノール、アダマンチルアルコール等が挙げられる。
上記芳香族アルコールとしては、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、2−メチルベンジルアルコール、3−メチルベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール等が挙げられる。
【0015】
上記アミノアルカノール類は、下記一般式で表される化合物(以下、「化合物(B1)」ともいう。)である。
【化4】

(式中、R34及びR35は、互いに同一又は異なって、炭素原子数1〜8の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含み且つ炭素原子数3〜8の炭化水素基、又は、芳香環構造を含み且つ炭素原子数6〜8の炭化水素基であり、いずれか一方が水素原子であってよく、R36は、炭素原子数2〜4の2価の脂肪族炭化水素基である。)
【0016】
上記化合物(B1)としては、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N−ジメチルアミノプロパノール(3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール)、N,N−ジメチルアミノブタノール(4−ジメチルアミノ−1−ブタノール、2−ジメチルアミノ−イソブチルアルコール等)、N,N−ジメチルアミノペンタノール(5−ジメチルアミノ−1−ペンタノール、4−ジメチルアミノ−2−メチル−1−ブタノール等)、N,N−ジメチルアミノヘキサノール(6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール、5−ジメチルアミノ−3−メチル−1−ペンタノール、4−ジメチルアミノ−2,2−ジメチル−1−ブタノール等)、N,N−ジメチルアミノヘプタノール(7−ジメチルアミノ−1−ヘプタノール、5−ジメチルアミノ−3,3−ジメチル−1−ペンタノール等)、N,N−ジメチルアミノオクタノール(8−ジメチルアミノ−1−オクタノール、6−ジメチルアミノ−2−エチル−1−ヘキサノール等)、N,N−ジメチルアミノドデカノール、N,N−ジエチルアミノエタノール、3−ジエチルアミノ−1−プロパノール、N,N−ジプロピルアミノエタノール(2−ジ−イソプロピルアミノエタノール等)、N,N−ジブチルアミノプロパノール、N,N−ジベンジルアミノエタノール、メチルエチルアミノエタノール、メチルプロピルアミノエタノール、メチルブチルアミノエタノール、メチルヘキシルアミノエタノール、エチルプロピルアミノエタノール、エチルブチルアミノエタノール、エチルペンチルアミノエタノール、エチルオクチルアミノエタノール、プロピルブチルアミノエタノール、ブチルペンチルアミノプロパノール等のジアルキルアルカノールアミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−エチルプロパノールアミン等のモノアルキルアルカノールアミン等が挙げられる。
【0017】
上記原料化合物(A)及び(B)のエステル交換反応は、チタン化合物触媒の存在下で行われる。このチタン化合物触媒としては、従来、公知の触媒を用いることができるが、本発明においては、下記一般式(4)で表される化合物が用いられる。
【化5】

(式中、R5、R6、R7及びR8は、互いに同一又は異なって、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数6〜18のアリール基、炭素原子数1〜18のアルキルカルボニル基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノアルキル基又は炭素原子数1〜18のジアルキルアミノアルキル基である。)
【0018】
本発明において、後述する抽出分離工程における、チタン化合物触媒を含む触媒含有液の抽出と相分離のし易さから、(B)としては、ジアルキルアミノアルキルアルコール、アルコキシアルカノール、シクロアルカノール又はアルキルシクロアルカノールのいずれかが好ましい。
【0019】
上記チタン化合物触媒としては、上記一般式(4)においてR5、R6、R7及びR8がいずれもアルキル基である、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−イソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−イソブトキシチタン、テトラ−n−ヘキシルオキシチタン、テトラ−n−オクチルオキシチタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン等のテトラアルコキシチタン類;上記一般式(4)においてR5、R6、R7及びR8がいずれもジアルキルアミノアルキル基である、テトラ(ジメチルアミノエチルオキシ)チタン等のテトラ(ジアルキルアミノアルコキシ)チタン類等が挙げられる。
これらのうち、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタン及びテトラ(ジメチルアミノエチルオキシ)チタンが好ましい。本発明において、上記一般式(4)におけるR5、R6、R7及びR8が原料化合物(A)におけるR2と同じであることが特に好ましい。
【0020】
エステル交換反応は、通常、原料化合物(A)及び(B)と、チタン化合物触媒とを、反応器に供給し、好ましくは100℃〜130℃の範囲の温度で原料化合物(A)及び(B)を反応させて進められる。
エステル交換反応に用いる反応器内の圧力は、減圧、常圧及び加圧のいずれでもよいが、好ましくは減圧下であり、通常、500〜760Torrである。
【0021】
上記原料化合物(A)及び(B)の配合比(モル比)は、好ましくは0.5:1〜2:1、より好ましくは1:1〜1.6:1、更に好ましくは1:1〜1.5:1である。上記配合比がこの範囲にあると、化合物(C)を効率よく製造することができる。
また、上記原料化合物(B)及び上記チタン化合物触媒の配合比(モル比)は、好ましくは1:0.0001〜1:0.1、より好ましくは1:0.001〜1:0.05である。上記配合比がこの範囲にあると、エステル交換反応を円滑に進めることができる。上記チタン化合物触媒の使用量が少なすぎると、反応速度が遅くなって、反応が長時間化し、生産性が低下する。
【0022】
エステル交換の反応中における熱重合反応を抑制するために、フェノチアジン、tert−ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合抑制剤を反応器に供給してもよい。
この重合抑制剤の使用量は、上記原料化合物(A)及び(B)の合計量に対して、好ましくは0.0001〜5質量%、より好ましくは0.001〜3質量%である。
【0023】
エステル交換反応において、原料化合物(A)が化合物(D)との共沸混合物を形成する場合には、化合物(D)を反応系外に積極的に排出するために、原料化合物(A)を過剰に供給する。また、副生する化合物(D)等を積極的に反応系外に排出する等の目的で、化合物(D)と共沸混合物を形成する有機溶剤を用いることができる。その例としては、n−ヘキサン、n−ペンタン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン等が挙げられる。
尚、原料化合物(A)が、原料化合物(B)に対して過剰に供給された場合、副生する化合物(D)は、反応系に残存する原料化合物(A)との共沸混合物として反応系外に排出し、回収することもできる。
【0024】
チタン化合物触媒のアルコキシ基等(上記一般式(4)におけるOR5、OR6、OR7又はOR8)と、原料化合物(A)及び(B)に含まれる水分等との交換反応により、チタン化合物触媒の一部は、不活性化し、触媒作用を有さないチタン化合物(以下、「不活性チタン化合物」という。)となっている。
本発明者らは、この不活性チタン化合物を同定していないが、例えば、下記に示される化合物等を含んでいると推定している。
【化6】

(式中、R5、R6及びR7は、互いに同一又は異なって、水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数3〜18のアルコキシアルキル基、炭素原子数6〜14のシクロアルキル基、炭素原子数7〜16のアルキルシクロアルキル基、炭素原子数6〜18のアリール基、炭素原子数1〜18のアルキルカルボニル基、炭素原子数1〜18のアルキルアミノアルキル基又は炭素原子数1〜18のジアルキルアミノアルキル基である。)
【0025】
エステル交換反応後、反応液から化合物(C)を分離するために、反応液が加熱される(蒸留工程)。この蒸留工程により、化合物(C)、並びに、未反応の原料化合物(A)及び(B)を主として含む留出物と、反応活性を有するチタン化合物(「活性チタン化合物」という)及び不活性チタン化合物を含む缶出物に分離される。
【0026】
上記蒸留工程により得られた缶出物は、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物を含む組成物であり、この組成物は、通常、粘性を有する。また、上記缶出物は、蒸留工程によって、上記反応液に含まれた揮発性物質が蒸留されて得られた、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物からなる組成物であってよいし、上記反応液に含まれた揮発性物質を少量残存させて得られた、未反応の原料化合物(A)及び(B)並びに化合物(C)及び(D)と、活性チタン化合物と、不活性チタン化合物とからなる組成物であってもよい。
【0027】
上記缶出物において、活性チタン化合物の含有量は、エステル交換反応の反応条件、蒸留工程の蒸留条件等によるが、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物の合計含有量に対して、通常、40〜80質量%である。
また、上記缶出物における全てのチタン化合物の含有量もまた、エステル交換反応の反応条件、蒸留工程の蒸留条件等によるが、酸化物(TiO2)換算で、通常、0.1〜15質量%である。
【0028】
本発明は、上記缶出物に含まれている、活性チタン化合物の再利用のために、更に、抽出分離工程及び回収工程を備えるものである。
【0029】
本発明において、抽出分離工程は、上記蒸留工程から得られた、チタン化合物触媒を含む触媒含有液と、このチタン化合物触媒を抽出可能な有機溶剤(以下、「有機溶剤(S1)」という。)とを接触させて、チタン化合物触媒を有機溶剤相に抽出する工程である。
即ち、触媒含有液及び有機溶剤(S1)の接触により、活性チタン化合物及び有機溶剤(S1)を含む有機溶剤相(以下、「抽出相」ともいう。)と、この有機溶剤に溶解しない物質からなる相(以下、「抽残相」ともいう。)と、に分離させる工程である。
【0030】
上記有機溶剤(S1)は、触媒含有液に含まれた活性チタン化合物を確実に抽出相に存在させることができ、かつ、2相分離により、不溶解物を除去できることから、好ましくは無極性溶剤であり、その作用に優れることから、特に好ましくは直鎖状の無極性溶剤である。この無極性溶剤としては、脂肪族炭化水素等の炭化水素系溶剤が挙げられる。尚、活性チタン化合物を含む触媒含有液と有機溶剤(S1)とを混合した後、2相に分離するのであれば、無極性溶剤を、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
脂肪族炭化水素としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、石油エーテル、石油ベンジン等が挙げられる。
上記有機溶剤(S1)としては、n−ヘキサンが好ましい。これらの溶剤を用いることにより、触媒含有液に含まれた活性チタン化合物を抽出相に、不活性チタン化合物を抽残相に、それぞれ、存在させ、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物を効率よく抽出分離することができる。
【0031】
一方、上記触媒含有液は、上記蒸留工程から得られた缶出物を用いてなるものであり、この缶出物をそのまま用いてよいし、缶出物の組成、粘度等に応じて、活性チタン化合物の抽出効率を向上させるために、他の成分を添加して、触媒含有液の粘度を低下させたものであってもよい。また、この触媒含有液は、上記のように、蒸留工程により得られた缶出物が用いられることから、通常、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物を含む。
【0032】
上記触媒含有液における全てのチタン化合物の含有量は、酸化物(TiO2)換算で、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは2〜5質量%である。チタン化合物の含有量の合計が上記範囲にあると、上記抽出分離工程における2相の効率的分離及びその短時間化を図ることができる。
また、上記触媒含有液の、E型粘度計による粘度(温度25℃)は、好ましくは1〜25,600mPa・s、より好ましくは5〜500mPa・s、更に好ましくは10〜50mPa・sである。粘度が上記範囲にあると、上記抽出分離工程における活性チタン化合物の効率的抽出及びその短時間化を図ることができる。
【0033】
上記蒸留工程により得られた缶出物が、例えば、実質的に、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物からなり、これを触媒含有液として用いる場合、上記触媒含有液における全てのチタン化合物の含有量が、上記含有量の上限値を上回る傾向にあり且つ上記粘度の上限値を上回る傾向にあるため、結果的に、活性チタン化合物の回収率が低下しやすい。
このような場合には、上記缶出物に、例えば、原料化合物(B)及び化合物(C)を含む成分を添加する等により、上記好ましい性状の触媒含有液を調製し、これを用いることができる。
【0034】
また、上記蒸留工程により得られた缶出物が、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物以外に、更に、原料化合物(A)及び(B)並びに化合物(C)及び(D)から選ばれた少なくとも1種を含む場合、この缶出物からなる触媒含有液と、有機溶剤(S1)とを接触させると、2相分離しないことがある。
その原因は、原料化合物(A)及び(B)並びに化合物(C)及び(D)が缶出物に含まれることによって、有機溶剤(S1)に缶出物中の原料化合物(A)及び(B)並びに化合物(C)及び(D)が抽出され、それらが抽残相に含まれる不活性チタン化合物や(A)や(C)の重合物との親和性を上げるため、2相分離しなくなるためである。
そのため、有機溶剤(S1)の使用比率を上げることにより、2相分離は実現できるが、工業的に実施するには、缶出物を用いて得られた触媒含有液に含まれる原料化合物(A)及び(B)並びに化合物(C)及び(D)の合計量は、上記触媒含有液100質量部に対して90質量部以下に抑えることが好ましく、化合物(C)がDAの場合には40質量部以下に抑えることがより好ましい。
【0035】
上記抽出分離工程において、触媒含有液及び有機溶剤(S1)の接触方法は、特に限定されない。一方を他方へ添加してよいし、両者を容器等に同時に投入してもよい。また、バッチ式及び連続式のいずれでもよい。これらの場合、2相の分離をより確実なものとするために、撹拌・混合を十分に行い、その後、静置する。
上記抽出分離工程の具体的な方法としては、スタティックミキサー等のインラインミキサーや撹拌翼を取り付けた撹拌機を用いて、触媒含有液及び有機溶剤(S1)を十分に攪拌・混合させた後、静置分離槽に送液して相分離させる方法等が挙げられる。分離装置としては、撹拌・混合及び抽出分離をより円滑に進めるために、混合槽及び分離槽が一体化された装置を用いることもできる。
また、多孔板式抽出塔や回転円板式抽出塔等の連続式抽出塔を用いることもできる。
【0036】
上記有機溶剤(S1)の使用量は、上記のように、2相分離を実現する範囲で選ぶことができ、上記触媒含有液100質量部に対して、好ましくは100〜2,000質量部、より好ましくは500〜1,000質量部、更に好ましくは600〜700質量部である。上記有機溶剤(S1)の使用量が上記範囲にあると、効率的な抽出分離及びその短時間化を図ることができる。
【0037】
上記抽出分離工程における、触媒含有液及び有機溶剤(S1)の抽出温度は、抽出相の沸点以下で行われる。通常、10℃〜80℃の温度であり、好ましくは沸点より20℃〜60℃低い温度とすることで、効率的な抽出分離ができる。
触媒含有液及び有機溶剤(S1)を接触させ、混合液を静置することにより、2相に分離された場合、有機溶剤(S1)を含む抽出相と不活性チタン化合物を主として含む粘性成分からなる抽残相に分かれる。上記触媒含有液が、原料化合物(A)及び(B)、化合物(C)及び(D)、他の化合物等を含有した場合には、抽出相は、活性チタン化合物、有機溶剤(S1)、原料化合物(A)及び(B)並びに化合物(C)及び(D)を含み、抽残相は、不活性チタン化合物及び有機溶剤(S1)に溶解しない物質である原料化合物(A)及び化合物(C)の重合物を含む。
【0038】
上記抽出分離工程により2相に分離させた後の回収工程は、(i)抽出相をそのまま反応系に回収する工程、(ii)抽出相中に含まれる有機溶剤(S1)の一部あるいは全部を除去回収する工程、であってもよい。
【0039】
上記回収工程において、抽出相を加熱して、有機溶剤(S1)を留去することにより、活性チタン化合物を高濃度とすることができる。この加熱により、有機溶剤(S1)を全量留去させてよいし、一部を残存させてもよい。留去された有機溶剤(S1)は、抽出分離工程において再利用することができる。また、有機溶剤(S1)が化合物(D)と共沸混合物を形成する場合には反応工程において再利用することができる。
【0040】
上記回収工程によれば、活性チタン化合物を、上記触媒含有液における全てのチタン化合物(活性チタン化合物及び不活性チタン化合物)に対して、酸化物(TiO2)換算で、好ましくは25〜100質量%、より好ましくは40〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%という高い割合で回収することができる。
【0041】
本発明は、上記回収工程により得られた上記活性チタン化合物を、エステル交換反応用触媒の一部として再利用し、(メタ)アクリル酸エステルを製造するものである。
(メタ)アクリル酸エステルを製造する際には、回収された活性チタン化合物のみを用いてよいし、回収された活性チタン化合物と、新規のチタン化合物触媒とを併用してもよい。
【0042】
以上の説明から明らかなように、本発明の製造方法は、原料成分を無駄なく反応に有効
活用できるため、高い経済効率を有する連続製造に好適である。
【0043】
本発明において、好ましい態様は、以下に示される。
[1]原料化合物(A)としてアクリル酸イソブチルを、原料化合物(B)としてジメチルアミノエチルアルコール、メトキシエタノール又はシクロヘキサノールのいずれか、を、それぞれ、用いて、ジメチルアミノエチルアクリレートを製造する方法において、有機溶剤(S1)として、n−ヘキサンを用いる方法。
[2]原料化合物(A)としてアクリル酸n−ブチルを、原料化合物(B)としてジメチルアミノエチルアルコール、メトキシエタノール又はシクロヘキサノールのいずれか、を、それぞれ、用いて、ジメチルアミノエチルアクリレートを製造する方法において、有機溶剤(S1)として、n−ヘキサン、n−ペンタン、n−オクタン又はイソオクタンを用いる方法。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
尚、触媒含有液としては、ジメチルアミノエチルアルコール及びアルキルアクリレートを原料、テトラアルコキシチタンを触媒として、公知の方法、例えば、特開平2−229145に記載の方法によりエステル交換反応させた後、缶出液として得られたものを用いることができる。
【0045】
実施例1
攪拌機、温度計、並びに、冷却器及び分留塔を備える精留装置が配設された反応器に、446g(5.0mol)のアクリル酸イソブチルと、961g(7.5mol)のジメチルアミノエチルアルコールと、44.6g(0.13mol)のテトライソブトキシチタン(チタン化合物触媒)とを仕込み、エステル交換反応を7時間行った。
その後、生成したジメチルアミノエチルアクリレート(DA)と、未反応のアクリル酸イソブチル(イソブチルアクリレートということもある)及びジメチルアミノエチルアルコールと、副生したイソブチルアルコールとを含む反応液を加熱することにより、これらの一部を留去させ、表1に示される組成を有する缶出液(以下、「触媒含有液(CC1)」という。)を得た。この触媒含有液(CC1)には、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物が含まれ、チタン含有量は、酸化物(TiO2)換算で3.3質量%であった。
尚、表1におけるジメチルアミノエチルアクリレート(DA)、アクリル酸イソブチル、ジメチルアミノエチルアルコール及びイソブチルアルコールの含有量は、ガスクロマトグラフ分析により求めた。
【表1】

【0046】
その後、触媒含有液(CC1)を94.2g採取し、n−ヘキサン(1気圧における沸点68.7℃)571.1gとともに分液漏斗に投入した。この混合液を、室温(25℃)で1分間振盪し、静置したところ、2相に分離した。そして、n−ヘキサンに溶解した活性チタン化合物を含む上相液653.3gと、不活性チタン化合物を含み、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が2.1質量%であり、E型粘度計による粘度(温度25℃、回転数10rpm)が928mPa・sである下相液7.6gとを回収した。
次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、上相液を、圧力600Torrの条件で、70℃に加熱し、n−ヘキサンを蒸発させて541.3g回収した。残液(以下、「回収触媒含有液(RC1)」という。)112gのGC分析を行ったところ、表2に示す組成を有し、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が2.6質量%であり、E型粘度計による粘度(温度25℃、回転数100rpm)が2.6mPa・sであった。
【表2】

【0047】
表1及び表2に記載された酸化物換算チタン量を用いて、下記式(1)により、活性チタン化合物の回収率93.7%を得た。
【数1】

【0048】
上記で得られた回収触媒含有液(RC1)と、アクリル酸イソブチル、ジメチルアミノメチルアルコール等を用いて、以下の要領でDAを製造した。
ジムロート冷却管を付したガラス製フラスコに、ジメチルアミノエチルアルコール81.1g(0.91mol)、アクリル酸イソブチル117g(0.91mol)、回収触媒含有液(RC1)10.8g(TiO2換算で0.281g)及びフェノチアジン0.41gを投入した。このガラス製フラスコをオイルバス内にセットし、フラスコ内に窒素ガスを吹き込みながら、内温112℃〜116℃で反応させた。1時間おきに反応液のGC分析を行い、DAの生成濃度、副生成したイソブチルアルコールの生成濃度、及び、原料(アクリル酸イソブチル)の消費濃度を求めた(いずれも、単位は質量%である)。その結果を表3に示す。
【表3】

【0049】
表3から、回収触媒含有液(RC1)に含まれるチタン化合物は、十分な触媒活性を有することが分かる。
【0050】
以下、GC分析条件並びに触媒含有液及び回収触媒含有液に含まれる酸化物換算チタン量の算出法を示す。
【0051】
[1]ガスクロマトグラフィー(GC)の測定条件
カラム : 島津ジーエルシー社製「ZB−1」(溶融シリカキャピラリーカ
ラム、膜厚1.0μm、内径0.32mm、長さ60m)
カラム温度 : 60℃→170℃(昇温速度5℃/分),170℃→250℃(
昇温速度20℃/分),250℃で保持
GC注入口温度 : 350℃
検出器 : FID
検出器温度 : 350℃
キャリアガス : 窒素(流速4.3ml/分、スプリット比1/12)
【0052】
[2]酸化物換算チタン量の算出法
(a)磁製坩堝を洗浄し、乾燥した。
(b)電気炉を用い、坩堝を800℃で15分間加熱した。
(c)電気炉から坩堝を取り出し、デシケータ内で放冷した。
(d)坩堝の温度が室温まで低下した後、その質量を0.1mgまで精秤した。
(e)上記操作(b)〜(d)を、恒量(±0.3mg以下)になるまで続けた。
(f)坩堝の質量が恒量となったところで、坩堝に測定試料(触媒含有液又は回収触媒含
有液)1gを採取し、0.1mgまで精秤した。
(g)エタノール2mlを加えて振り混ぜた後、純水1mlを加えて、更に振り混ぜた。
(h)坩堝をホットプレート上に載置して混合液を加熱し、静かに蒸発乾固させた。
(i)乾固後、ヒーター上で加熱し、炭化させた。
(j)更に、電気炉内で、800℃で1時間加熱し、灰化させた。
(k)電気炉から灰化物入り坩堝を取り出し、デシケータ内で放冷した。
(l)坩堝の温度が室温まで低下した後、その質量を0.1mgまで精秤した。
(m)下記式(2)を用いて酸化物換算チタン量を求めた。
【数2】

【0053】
実施例2
n−ヘキサンの使用量を659.4gとした以外は、実施例1と同様にして処理を行った。即ち、分液漏斗に、触媒含有液(CC1)94.2g及びn−ヘキサン659.4gを投入し、2相に分離させた後、上相液739.0g及び下相液10.4gを得た。
その後、ロータリーエバポレーターを用いて、上相液を、圧力600Torrの条件で、70℃に加熱し、n−ヘキサン619.0g、及び、残液(以下、「回収触媒含有液(RC2)」という。)120gを得た。回収触媒含有液(RC2)における酸化物(TiO2)換算のチタン含有量は2.4質量%であった。
上記式(1)を用いて、活性チタン化合物の回収率92.6%を得た。
【0054】
実施例3
缶出液中のDA濃度を低下させ、チタン量(酸化物換算)を3.3%から4.6%へ高めるために、実施例1と同様にしてエステル交換反応を実施した後、反応液の加熱による、生成したジメチルアミノエチルアクリレート(DA)、未反応のアクリル酸イソブチル及びジメチルアミノエチルアルコール、並びに、副生したイソブチルアルコールの留出時間を長くすることによって、これらの留出量を多くし、缶出液を少なくした。その結果、表4に示される組成を有し(GC分析による)、E型粘度計による粘度(温度25℃、回転数100rpm)が45.1mPa・sである缶出液を得た。この缶出液(以下、「触媒含有液(CC3)」という。)には、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物が含まれ、チタン含有量は、酸化物(TiO2)換算で4.6質量%であった。
【表4】

【0055】
その後、触媒含有液(CC3)を37.6g採取し、n−ヘキサン189.0gとともに分液漏斗に投入した。この混合液を、室温で1分間振盪し、静置したところ、2相に分離した。そして、n−ヘキサンに溶解した活性チタン化合物を含む上相液217.0gと、不活性チタン化合物を含み、E型粘度計による粘度(温度25℃、回転数20rpm)が316mPa・sである下相液5.1gとを回収した。
次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、上相液を、圧力600Torrの条件で、70℃に加熱し、n−ヘキサンを蒸発させて177.2g回収した。残液(以下、「回収触媒含有液(RC3)」という。)40.0gのGC分析を行ったところ、表5に示す組成を有し、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が3.8質量%であった。
【表5】

【0056】
表4及び表5に記載された酸化物換算チタン量を用いて、上記式(1)により、活性チタン化合物の回収率87.0%を得た。
【0057】
実施例4
触媒含有液(CC3)及びn−ヘキサンの使用量を、それぞれ、36.8g及び220.5gとした以外は、実施例3と同様にして処理を行った。即ち、分液漏斗に、触媒含有液(CC3)36.8g及びn−ヘキサン220.5gを投入し、2相に分離させた後、上相液247.3g及び下相液5.6gを得た。
その後、ロータリーエバポレーターを用いて、上相液を、圧力600Torrの条件で、70℃に加熱し、n−ヘキサン209.9g、及び、残液(以下、「回収触媒含有液(RC4)」という。)37.4gを得た。回収触媒含有液(RC4)における酸化物(TiO2)換算のチタン含有量は3.7質量%であった。
上記式(1)を用いて、活性チタン化合物の回収率80.9%を得た。
【0058】
実施例5
実施例1と同様にして、エステル交換反応を行った後、得られた反応液を加熱し、表6に示される組成を有し(GC分析による)、E型粘度計による粘度(温度80℃、回転数0.5rpm)が25,600mPa・sである缶出液を得た。この缶出液(以下、「触媒含有液(CC5)」という。)には、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物が含まれ、チタン含有量は、酸化物(TiO2)換算で7.5質量%であった。
【表6】

【0059】
その後、触媒含有液(CC5)を68.0g採取し、n−ヘキサン69.0gとともに分液漏斗に投入した。この混合液を、室温で1分間振盪し、静置したところ、2相に分離した。そして、n−ヘキサンに溶解した活性チタン化合物を含む上相液65.0gと、不活性チタン化合物を含む下相液72.0gとを回収した。
次いで、上相液を加熱することなく、そのまま回収触媒含有液(以下、「回収触媒含有液(RC5)」という。)として用い、GC分析を行ったところ、表7に示す組成を得た。また、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量は3.2質量%であった。
【表7】

【0060】
表6及び表7に記載された酸化物換算チタン量を用いて、上記式(1)により、活性チタン化合物の回収率40.8%を得た。
【0061】
実施例6
上記触媒含有液(CC5)58.5gと、n−ヘキサン53.4gとを、窒素ガス気流下で、ジムロートを付したガラス製フラスコに収容し、温度70℃で2時間攪拌した。その後、室温まで降温し、静置したところ、2相に分離した。そして、n−ヘキサンに溶解した活性チタン化合物を含む上相液48.7gと、不活性チタン化合物を主として含み、E型粘度計による粘度(温度25℃、回転数50rpm)が195mPa・sである下相液63.2gとを回収した。
次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、上相液を、圧力600Torrの条件で、70℃に加熱し、n−ヘキサンを蒸発させて34.1g回収した。残液(以下、「回収触媒含有液(RC6)」という。)14.6gのGC分析を行ったところ、表8に示す組成を有し、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が7.7質量%であった。
【表8】

【0062】
表6及び表8に記載された酸化物換算チタン量を用いて、上記式(1)により、活性チタン化合物の回収率25.6%を得た。
【0063】
実施例7
攪拌機、温度計、並びに、冷却器及び分留塔を備える精留装置が配設された反応器に278.1g(10mol)のアクリル酸イソブチルと、515.4g(6.8mol)の2−メトキシエタノールと14.7g(0.043mol)のテトライソブトキシチタン(チタン化合物触媒)とを仕込み、エステル交換を7時間行った。
その後、生成したアクリル酸2-メトキシエチルと、未反応のアクリル酸イソブチル及び2−メトキシエタノールと、副生したイソブチルアルコールとを含む反応液を加熱することにより、これらの一部を留去させ、表9に示される組成を有する缶出液(以下、「触媒含有液(CC7)」という。)を得た。この触媒含有液(CC7)には、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物が含まれ、チタン含有量は、酸化物(TiO2)換算で2.8質量%であった。
尚、表9におけるアクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸イソブチル、2−メトキシエタノール及びイソブチルアルコールの含有量は、ガスクロマトグラフ分析により求めた。
【表9】

【0064】
その後、触媒含有液(CC7)を91.2g採取し、n−ヘキサン 547.2gとともに分液ロートに投入した。この混合液を、室温(25℃)で1分間振盪し、静置したところ、2相に分離した。そして、n−ヘキサンに溶解した活性チタン化合物を含む上相液626.4gと、不活性チタン化合物を含み、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が1.8質量%である下相液7.3gとを回収した。
次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、上相液を、圧力600Torrの条件で、70℃に加熱し、n−ヘキサンを蒸発させて518.4g回収した。残液(以下、「回収触媒含有液(RC7)」という。)108.0gのGC分析を行ったところ、表10に示す組成を有し、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が2.2質量%であった。
【表10】

【0065】
表9及び表10に記載された酸化物換算のチタン量を用いて、上記式(1)により、活性チタン化合物の回収率93.0%を得た。
【0066】
実施例8
攪拌機、温度計、並びに、冷却器及び分留塔を備える精留装置が配設された反応器に1920.7g(15mol)のアクリル酸イソブチルと、1000.2g(10mol)のシクロへキシルアルコールと12.8g(0.038mol)のテトライソブトキシチタン(チタン化合物触媒)とを仕込み、エステル交換を7時間行った。
その後、生成したアクリル酸シクロへキシルと、未反応のアクリル酸イソブチル及びシクロへキシルアルコールと、副生したイソブチルアルコールとを含む反応液を加熱することにより、これらの一部を留去させ、表11に示される組成を有する缶出液(以下、「触媒含有液(CC8)」という。)を得た。この触媒含有液(CC8)には、活性チタン化合物及び不活性チタン化合物が含まれ、チタン含有量は、酸化物(TiO2)換算で2.1質量%であった。
尚、表11におけるアクリル酸シクロへキシル、アクリル酸イソブチル、シクロへキシルアルコール及びイソブチルアルコールの含有量は、ガスクロマトグラフ分析により求めた。
【表11】

【0067】
その後、触媒含有液(CC8)を93.9g採取し、n−ヘキサン 572.8gとともに分液ロートに投入した。この混合液を、室温(25℃)で1分間振盪し、静置したところ、2相に分離した。そして、n−ヘキサンに溶解した活性チタン化合物を含む上相液656.1gと、不活性チタン化合物を含み、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が0.9質量%である下相液6.6gとを回収した。
次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、上相液を、圧力600Torrの条件で、70℃に加熱し、n−ヘキサンを蒸発させて545.5g回収した。残液(以下、「回収触媒含有液(RC8)」という。)110.6gのGC分析を行ったところ、表10に示す組成を有し、酸化物(TiO2)換算のチタン含有量が1.6質量%であった。
【表12】

【0068】
表11及び表12に記載された酸化物換算のチタン量を用いて、上記式(1)により、活性チタン化合物の回収率89.7%を得た。
【0069】
比較例1
触媒含有液(CC1)及びn−ヘキサンの使用量を、それぞれ、94.1g及び376.4gとした以外は、実施例1と同様にして処理を行った。しかしながら、分液漏斗の振盪を行って、3時間静置したが、2相に分離しなかったため、操作を終了した。
【0070】
比較例2
触媒含有液(CC3)及びn−ヘキサンの使用量を、それぞれ、37.8g及び113.4gとした以外は、実施例3と同様にして処理を行った。しかしながら、分液漏斗の振盪を行って、3時間静置したが、2相に分離しなかったため、操作を終了した。
【0071】
比較例3
n−ヘキサンをトルエンに変更した以外は、実施例1と同様にして処理を行った。しかしながら、分液漏斗の振盪を行って、3時間静置したが、2相に分離しなかったため、操作を終了した。
【0072】
比較例4
n−ヘキサンをシクロへキサンに変更した以外は、実施例1と同様にして処理を行った。しかしながら、分液漏斗の振盪を行って、3時間静置したが、2相に分離しなかったため、操作を終了した。
【0073】
比較例5
n−ヘキサンをトルエンに変更した以外は、実施例7と同様にして処理を行った。しかしながら、分液漏斗の振盪を行って、3時間静置したが、2相に分離しなかったため、操作を終了した。
【0074】
比較例6
n−ヘキサンをトルエンに変更した以外は、実施例8と同様にして処理を行った。しかしながら、分液漏斗の振盪を行って、3時間静置したが、2相に分離しなかったため、操作を終了した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法において、チタン化合物触媒の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコールとを反応させて、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステルを含む反応液に残存している、再利用可能な活性触媒を回収し、次回の製造に利用することで、新規に使用する触媒の配合量を低減することができる。これにより、一旦、配合したチタン化合物触媒が失活させるまで、有効利用できることから、連続製造に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物触媒の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルコールとを反応させて、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び上記アルコールを含む反応液を加熱し、エステル交換された(メタ)アクリル酸エステル及びアルコールを蒸留する蒸留工程と、上記蒸留工程から得られた、チタン化合物触媒を含む触媒含有液と、該チタン化合物触媒を抽出可能な有機溶剤とを接触させて、該チタン化合物触媒を有機溶剤相に抽出する抽出分離工程と、
上記有機溶剤相からチタン化合物触媒を回収する回収工程と、
を備え、
上記回収工程により得られたチタン化合物触媒を、エステル交換反応用触媒の少なくとも一部として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び上記アルコールの反応に再利用することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
上記有機溶剤が直鎖状の無極性溶剤である請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
上記直鎖状の無極性溶剤が脂肪族炭化水素である請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
上記無極性溶剤がn−ヘキサンである請求項3に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
上記チタン化合物触媒が、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタン及びテトラ(ジメチルアミノエチルオキシ)チタンから選ばれた少なくとも1種である請求項1乃至4のいれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項6】
上記アルコールがジアルキルアミノアルキルアルコール、アルコキシアルキルアルコール、シクロアルキルアルコール又はアルキルシクロアルキルアルコールから選択されたものである請求項1乃至5のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項7】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルがアクリル酸イソブチルであり、上記アルコールが、ジメチルアミノエチルアルコール、2−メトキシエタノール又はシクロヘキシルアルコールから選択されたものである請求項6に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。



【公開番号】特開2011−37820(P2011−37820A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279584(P2009−279584)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】