説明

(2R)−2−プロピルオクタン酸を有効成分とする輸液製剤

本発明は、神経変性疾患の治療に有用な(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩に加え、弱酸の金属塩や金属水酸化物によって供給される塩基性金属イオンを、好ましくは、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対して、約1〜約5当量含有し、その他の輸液成分を含んでいてもよい輸液製剤に関する。本発明の輸液製剤は、静脈内投与に適したpHを有し、用時に溶解、希釈等の調製操作を必要としない静脈内持続投与用として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、脳梗塞をはじめとする神経変性疾患の治療剤および/または予防剤として有用な(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有する静脈内持続投与用の輸液製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
一般に脳卒中患者は、脳梗塞や脳出血等の原因により昏倒し、病院に搬入されるケースが多く、このような脳卒中患者は、意識不明のままに治療を受けることを余儀なくされる。従って、これらの疾患の治療のために投与される薬剤は注射剤等の非経口的に投与可能な製剤であることが望ましい。特に、効果の速やかな発現を期待して、静脈内投与用の注射剤であることが望ましい。現に、脳梗塞の治療薬として用いられているラジカット(エダラボン)やt−PAはいずれも静脈内投与用の注射剤である。
しかしながら、バイアルやアンプル、プレフィルドシリンジ等の形態で提供される注射剤は、高濃度の注射液を直接患者の静脈内に注入する場合はともかく、輸液などの媒体に一旦希釈して点滴による持続注入を行う場合には、投与量等に応じて複数本のバイアル等を溶解し、輸液に注入する等の手間を必要とし、その行為は医療従事者にとって非常に煩雑となる。加えて、これらの行為は、投与量を間違え、病状を悪化させる等の医療過誤を招きかねない。従って、点滴で投与する薬剤は、予め輸液中に溶解した状態、すなわち輸液製剤として提供することが望ましい。
一方、脳卒中を含む種々の脳神経疾患の治療または予防薬として有用な(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有する非経口投与のための注射剤としては、例えば、以下の注射剤が報告されている。
脳機能改善剤として有用なペンタン酸誘導体は、注射剤として、少なくとも1種の不活性な水性の希釈剤(注射用蒸留水、生理食塩水等)や不活性な非水性の希釈剤(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)と混合して用いられることが開示されている(例えば、欧州特許第0632008号明細書、欧州特許公開第1174131号明細書参照)。これらの公報にはさらに、該注射剤は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤のような補助剤を含有していてもよいと記載されている。
しかしながら現在まで、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を予め輸液中に溶解した状態で含有する静脈内持続投与用の輸液製剤について、具体的に開示するものは無い。
【発明の開示】
本発明者らは、(2R)−2−プロピルオクタン酸を用いて各種検討を行った結果、該化合物の投与形態としては、ボーラス投与ではなく希釈した状態での投与、すなわち点滴による静脈内持続投与が好ましいことを見出した。
従って本発明の目的は、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有し、かつ静脈内投与に適したpHを有する用時に溶解、希釈等の調製操作を必要としない静脈内持続投与用の輸液製剤およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、脳卒中を含めて種々の脳神経疾患の治療または予防薬として有用な(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩は、単独でも、その各々の溶解度に応じて水性溶媒に溶解可能であり、静脈内持続投与用の輸液製剤として調製することが可能であることを見出した。しかしながら、このような方法で調製した(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有してなる輸液製剤は、pHの僅かな変動、例えば、酸性側へのシフトによって白濁することが判明した。このように、溶液のpHの変化に鋭敏に反応し、白濁等の変化をきたす輸液製剤は、実際に患者に使用するにあたって幾つかの問題点が懸念される。すなわち、実際に医療従事者の手によって、他剤と併用し、または患者の血管内に投与する行為中に白濁することが危惧される。本発明者らは、さらに検討を加えた結果、弱酸の金属塩、例えば、リン酸三ナトリウムや炭酸ナトリウム等を一定量以上添加し、塩基性金属イオンを共存させることで、静脈内投与に適したpHを有し、またpHの変動に耐え得る静脈内持続投与用の輸液製剤として提供可能であることを見出し、この知見に基づいてさらに詳細に研究を行い、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と塩基性金属イオンを含有する輸液製剤、
(2)塩基性金属イオンの供給源として、リン酸の金属塩、炭酸の金属塩、亜硫酸の金属塩、有機スルホン酸の金属塩、およびC2〜6有機カルボン酸の金属塩から選択される少なくとも一種を含有し、さらに金属水酸化物を含有していてもよい前記(1)記載の輸液製剤、
(3)さらに、(1)電解質類、(2)糖類、(3)ビタミン類、および(4)蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上を含有する前記(1)記載の輸液製剤、
(4)(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量の塩基性金属イオンを含有する前記(1)記載の輸液製剤、
(5)塩基性金属イオンの供給源として、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、および亜硫酸水素カリウムから選択される少なくとも一種を含有し、さらに水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含有していてもよい前記(2)記載の輸液製剤、
(6)塩基性金属イオンの供給源として、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含有し、さらにリン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、炭酸水素カリウム、および亜硫酸水素カリウムから選択される少なくとも一種を含有する前記(2)記載の輸液製剤、
(7)pHが約5.0〜約9.0である前記(1)記載の輸液製剤、
(8)1mLあたり約0.1〜約20mgの(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有する前記(1)記載の輸液製剤、
(9)前記(8)記載の輸液製剤を、1単位形態あたり、約50mL、約100mL、約200mL、約250mL、約500mLまたは約1000mL充填してなる輸液用容器、
(10)(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量の塩基性ナトリウムイオンを含有する輸液製剤であって、該塩基性ナトリウムイオンの供給源として、リン酸のナトリウム塩、および炭酸のナトリウム塩から選択される少なくとも一種を含有し、さらに水酸化ナトリウムを含有していてもよく、かつpHが約5.0〜約9.0である前記(1)記載の輸液製剤、
(11)さらに0.9%(w/v)の塩化ナトリウムを含有する前記(10)記載の輸液製剤、
(12)(2R)−2−プロピルオクタン酸の塩がナトリウム塩または塩基性天然アミノ酸塩である前記(1)記載の輸液製剤、
(13)神経変性疾患、神経障害、または神経再生を要する疾患の予防および/または治療剤である前記(1)記載の輸液製剤、
(14)(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と、リン酸の金属塩、炭酸の金属塩、亜硫酸の金属塩、有機スルホン酸の金属塩およびC2〜6有機酸の金属塩から選択される一種または二種以上と、所望によって金属水酸化物を水性溶媒に溶解し、約2.5〜約100mg/mLの(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有する、pHが約8.4〜約9.0の溶液を調製する工程;前記調製溶液の(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩の濃度が約0.1〜約20mg/mLとなるように、(1)電解質類、(2)糖類、(3)ビタミン類、および(4)蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上を含有する溶液で希釈する工程;および前記希釈された溶液を輸液用容器に充填する工程を含むことを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と塩基性金属イオンを含有する輸液製剤の製造方法、
(15)前記(1)記載の輸液製剤の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする神経変性疾患、神経障害、または神経再生を要する疾患の予防および/または治療方法、および
(16)神経変性疾患、神経障害、または神経再生を要する疾患の予防および/または治療剤を製造するための前記(1)記載の輸液製剤の使用等に関する。
本発明に用いる(2R)−2−プロピルオクタン酸は、式(I)

(2R)−2−プロピルオクタン酸の塩としては、薬学的に許容される塩が好ましい。薬学的に許容される塩としては、毒性の無い、水溶性のものが好ましい。(2R)−2−プロピルオクタン酸の適当な塩は、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、塩基性天然アミノ酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)、アンモニウム塩(例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等)等が好ましい。有機塩基との塩としては、例えば、アルキルアミン(例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、複素環式アミン(例えば、ピリジン、ピコリン、ピペリジン等)、アルカノールアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、N−メチル−D−グルカミン等との塩が好ましい。塩基性天然アミノ酸との塩は、天然に存在し、精製することが可能な塩基性アミノ酸との塩であれば特に限定されないが、例えば、アルギニン、リジン、オルニチン、ヒスチジン等との塩が好ましい。これらの塩のうち好ましいのは、例えば、アルカリ金属塩または塩基性天然アミノ酸塩等であり、とりわけナトリウム塩が好ましい。
本発明において、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩は、実質的に純粋で単一な物質であるものに限定されず、医薬品原薬として許容される範囲であれば不純物(例えば、製造工程に由来する副生成物、溶媒、原料等、または分解物等)を含有していてもよい。医薬品原薬として許容される不純物の含有量は、その含有される不純物によって異なるが、例えば、重金属は約20ppm以下、光学異性体であるS体は約1.49質量%以下、残留溶媒である2−プロパノールやヘプタンは合計約5000ppm以下、水分は約0.2質量%以下であることが好ましい。
(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩は、それ自体公知の方法、例えば、欧州特許第0632008号明細書、国際公開第99/58513号パンフレット、国際公開第00/48982号パンフレット、特許第3032447号明細書、特許第3084345号明細書等に記載された方法に従って、またはそれらの方法を適宜組み合わせることにより製造することができる。
本発明の輸液製剤は、血管、好ましくは静脈から持続的に注入するための液剤であれば全て包含する。このような輸液製剤は、例えば、媒体が実質的に水である水性輸液製剤であってもよく、また、高カロリー輸液法や完全静脈栄養法等の静脈栄養法において用いられる脂肪輸液のような水中油型乳濁輸液製剤であってもよい。本発明の輸液製剤として好ましいのは、末梢静脈からの点滴投与が可能な水性輸液製剤である。
本発明の輸液製剤は、有効成分である(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩以外に、塩基性金属イオンを含有することを特徴とする。
本明細書中、塩基性金属イオンとは、水溶液中において金属化合物によって供給される金属イオン、好ましくは、水溶液中において塩基性を示す金属化合物によって供給される金属イオンを意味する。塩基性金属イオンの供給源となる金属化合物は特に限定されないが、例えば、弱酸の金属塩、金属水酸化物等が挙げられる。弱酸の金属塩を構成する弱酸は、有機酸、無機酸を問わず用いることができ、また、多価の酸であってもよい。このような弱酸としては、例えば、リン酸、炭酸、ホウ酸、亜硫酸、有機スルホン酸、C2〜6有機カルボン酸(例えば、1〜3価のC2〜6有機カルボン酸、すなわち、炭素数2〜6の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸またはトリカルボン酸等)、またはその他の有機酸等が挙げられる。
本発明における弱酸の金属塩としては、例えば、これらの弱酸が、一価のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等)と塩を形成したもの等が挙げられる。一価のアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等が好ましく、ナトリウムまたはカリウムがより好ましい。特に好ましいのは、ナトリウムである。本発明における弱酸の金属塩としては、例えば、リン酸の金属塩:好ましくは、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三カリウム等;炭酸の金属塩:好ましくは、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等;ホウ酸の金属塩:好ましくは、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等;亜硫酸の金属塩:好ましくは、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム等;有機スルホン酸の金属塩:好ましくは、カンファースルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸ナトリウム、エタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、2−ヒドロキシエタンスルホン酸ナトリウム、アミノエチルスルホン酸ナトリウム、カンファースルホン酸カリウム、メタンスルホン酸カリウム、エタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、トルエンスルホン酸カリウム、ナフタレンスルホン酸カリウム、2−ヒドロキシエタンスルホン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸カリウム等;C2〜6有機カルボン酸の金属塩:好ましくは、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、アミノ酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、吉草酸カリウム、シュウ酸カリウム、アスコルビン酸カリウム、乳酸カリウム、コハク酸カリウム、クエン酸カリウム、クエン酸二カリウム、リンゴ酸カリウム、酒石酸カリウム、マレイン酸カリウム、フマル酸カリウム、アミノ酢酸カリウム等が挙げられる。また、これら以外にも、例えば、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、アセチルトリプトファンナトリウム、カプリル酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、メタンスルホ安息香酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、グルタミン酸カリウム、アセチルトリプトファンカリウム、カプリル酸カリウム、グルコン酸カリウム、サリチル酸カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸カリウム、チオグリコール酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、デオキシコール酸カリウム、メタンスルホ安息香酸カリウム、安息香酸カリウム、ピロリン酸カリウム等も用いることができる。
本発明における弱酸の金属塩として、好ましくは、例えば、リン酸の金属塩、炭酸の金属塩、亜硫酸の金属塩、有機スルホン酸の金属塩、C2〜6有機カルボン酸の金属塩等であり、より好ましくは、例えば、リン酸の金属塩、炭酸の金属塩、または亜硫酸の金属塩等である。特に、リン酸の金属塩(例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム等)が好ましい。とりわけ、リン酸三ナトリウムまたはリン酸一水素二ナトリウムが好ましい。これらの弱酸の金属塩は、無水物としてだけではなく、水和物等の溶媒和物の形(例えば、リン酸の金属塩、特にリン酸のナトリウム塩であれば、リン酸三ナトリウム・12水和物、リン酸二水素一ナトリウム・2水和物、リン酸一水素二ナトリウム・12水和物等)で本発明の輸液製剤に添加することもできる。これらの弱酸の金属塩は、溶液の状態、または固体の状態で配合される。また、これらの弱酸の金属塩は、所望によって、2以上の成分を組み合わせて用いてもよい。これらの弱酸の金属塩の中でも、好ましいのは、pKaが塩基性にある金属塩である。多価の弱酸の金属塩の場合は、複数のpKaのうち、一以上のpKaが塩基性にある金属塩が好ましい。
本明細書中、金属水酸化物としては、例えば、前記一価のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウム等が挙げられる。これらの中でも、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が好ましく、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより好ましい。特に好ましいのは水酸化ナトリウムである。これらの金属水酸化物は、溶液の状態、または固体の状態で配合される。また、これらの金属水酸化物は、所望によって、2以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
本発明の輸液製剤において、塩基性金属イオンの供給源として添加する弱酸の金属塩は、緩衝剤としても機能する。これらの弱酸の金属塩は輸液中で解離し、また、金属水酸化物や(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と相互作用することによって、pHの変動に耐性がある本発明の輸液製剤を調製することが可能となる。具体的には、例えば、(2R)−2−プロピルオクタン酸とリン酸三ナトリウムを含有する水性輸液製剤の場合、(2R)−2−プロピルオクタン酸は、リン酸三ナトリウムによって供与されるナトリウムイオンによって、(2R)−2−プロピルオクタン酸・ナトリウム塩となる。また、リン酸三ナトリウムは、水溶液中でナトリウムイオンを放出することにより、リン酸一水素二ナトリウムに、さらにはリン酸二水素一ナトリウムになる。これらの物質が水溶液中で共存し、平衡化することによって本発明の輸液製剤は緩衝能を有するに至る。またもう一つの具体的な例としては、例えば、(2R)−2−プロピルオクタン酸とリン酸一水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウムを含有する水性輸液製剤の場合、(2R)−2−プロピルオクタン酸は、水酸化ナトリウムおよび/またはリン酸一水素二ナトリウムによって供与されるナトリウムイオンによって(2R)−2−プロピルオクタン酸・ナトリウム塩となる。水酸化ナトリウムおよび/またはリン酸一水素二ナトリウムは、水溶液中でナトリウムイオンの授受を行うことにより、前記のリン酸三ナトリウムを添加した状態、すなわち、リン酸一水素二ナトリウムとリン酸二水素一ナトリウムが、水溶液中で共存する状態、またはこれに近い状態となって平衡化し、緩衝能を発現するに至る。このように、本発明の輸液製剤においては、弱酸の金属塩は、金属水酸化物や、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と相互作用し、リン酸第一塩−リン酸第二塩系緩衝剤、または炭酸一炭酸水素塩系緩衝剤を添加した場合と同様の効果を発現し、本発明の輸液製剤は緩衝能を有することができる。
本発明の輸液製剤においては、塩基性金属イオンの供給源として、前記金属化合物、すなわち弱酸の金属塩や金属水酸化物が単独で、または組み合わせて用いられるが、少なくとも一種の弱酸の金属塩を用いることが好ましい。少なくとも一種の弱酸の金属塩を用いることにより、本発明の輸液製剤はpHの変動に対する緩衝能を得ることができる。
本発明の輸液製剤における前記金属化合物(弱酸の金属塩、金属水酸化物等)の含有量は特に限定されないが、前記金属化合物によって供給される塩基性金属イオンが(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量、より好ましくは、約1.2〜約3.5当量であることが好ましい。
本発明の輸液製剤は、有効成分である(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と、塩基性金属イオンの供給源である物質以外に、電解質類、糖類、ビタミン類、蛋白アミノ酸類、および脂肪乳剤等から選択される一種または二種以上を含有していてもよい。好ましくは、電解質類、糖類、ビタミン類、および蛋白アミノ酸類等から選択される一種または二種以上である。以下に電解質類として例示する成分には、前記の弱酸の金属塩で例示した成分と同一の成分が含まれるが、電解質類として例示する以下の成分および含有量は、生体の機能や体液の電解質バランスを維持する上で必要とされるものであり、塩基性金属イオンの供給源としての前記の弱酸の金属塩とはその添加の目的が異なる。従って、本発明の輸液製剤には、前記の弱酸の金属塩に加え、これらと同一の成分が、電解質類として、さらに含まれていてもよい。
電解質類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、糖類としては、例えば、グルコース、果糖、ソルビトール、マンニトール、デキストラン等が挙げられる。また、ビタミン類としては、例えば、ビタミンB1、ビタミンC等が挙げられ、蛋白アミノ酸類としては、例えば、必須アミノ酸(例えば、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン等)、非必須アミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン、アミノ酢酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、システイン、プロリン、セリン、チロシン等)等が挙げられる。これらの任意の成分は、単独でまたは組み合わせて任意の濃度で用いられる。
本発明の輸液製剤において、有効成分である(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩以外に含有されていてもよい好ましい物質は、例えば、塩化ナトリウム、グルコース等である。
これらの物質の含有量は、塩化ナトリウムであれば、例えば、生理食塩水と同等、すなわち、0.9%重量/体積パーセント(%(w/v))等が好ましく、また、グルコースであれば、例えば、一般的に使用される輸液用糖液と同等、すなわち、5〜70%(w/v)が好ましく、例えば、5%(w/v)および10%(w/v)等が特に好ましい。
以下に、電解質類、糖類、ビタミン類、蛋白アミノ酸類についてさらに具体的に説明する。
電解質としては、従来より輸液に用いられている各種水溶性塩を用いることができる。例えば、生体の機能や体液の電解質バランスを維持するうえで必要とされる各種無機成分(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン等)の水溶性塩(例えば、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩等)を用いることができる。これらの水溶性塩は水和物等の溶媒和物であってもよい。
前記の無機成分を供給するための水溶性塩としては、例えば、ナトリウム:例えば、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム等;カリウム:例えば、塩化カリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、グリセロリン酸カリウム等;カルシウム:例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム等;マグネシウム:例えば、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム等が挙げられる。また、リンの供給源としては、糖類のリン酸エステルやその塩が用いられる。具体的には、グリセロリン酸、マンニトール−1−リン酸、ソルビトール−1−リン酸、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸、マンノース−6−リン酸等が挙げられる。さらにこれらエステルの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。より具体的には、グリセロリン酸のナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
電解質の含有量は特に限定されないが、本発明の輸液製剤1Lあたり、例えば、ナトリウム:好ましくは、約15〜約154mEq;カリウム:好ましくは、約2〜約35mEq;カルシウム:好ましくは、約2.5〜約4.5mEq;マグネシウム:好ましくは、約2〜約5mEq;リン酸:好ましくは、約3〜約18mEq等が挙げられる。
糖類としては、従来より各種の輸液に使用されているものを特に制限なく用いることができる。例えば、グルコース、フルクトース等の単糖類、マルトース等の二糖類、グリセロール等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール、デキストラン40、デキストラン80等のデキストラン類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。糖類の含有量は特に限定されないが、本発明の輸液製剤1Lあたり、例えば、約50〜約500gが好ましい。
ビタミン類としては、水溶性/脂溶性を問わず各種ビタミンを特に制限することなく用いることができる。例えば、ビタミンA、プロビタミンA、ビタミンD、プロビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6群、パントテン酸、ビオチン、ミオ−イノシトール、コリン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンP、ビタミンU等が挙げられる。
これらのビタミン類を添加するために、各種ビタミンを含有する市販のビタミン製剤を用いてもよい。このような製剤としては、例えば、「マルタミン」(登録商標)(商品名、三共株式会社製)等が挙げられる。ビタミン類の含有量は特に限定されないが、本発明の輸液製剤1Lあたり、例えば、ビタミンA:好ましくは、約2300〜約3300IU;ビタミンD:好ましくは、約100〜約400IU;ビタミンE:好ましくは、約5〜約70mg;ビタミンK:好ましくは、約0.1〜約3mg;ビタミンB1:好ましくは、約1.0〜約50mg;ビタミンB2:好ましくは、約1.0〜約10mg;ビタミンB6群:好ましくは、約1〜約15mg;パントテン酸:好ましくは、約4.5〜約15mg;ビオチン:好ましくは、約20〜約300μg;葉酸:好ましくは、約100〜約1000μg;ビタミンB12:好ましくは、約1〜約5μg;ビタミンC:好ましくは、約25〜約500mg等が挙げられる。本発明の輸液製剤はまた、必要に応じ、ナイアシン、ミオ−イノシトール、コリン、ビタミンP、ビタミンU等を含んでいてもよい。
蛋白アミノ酸類としては、栄養補給やチッ素源の供給を目的として従来のアミノ酸輸液に含まれている各種蛋白アミノ酸類(必須アミノ酸、非必須アミノ酸)であれば、特に制限なく使用することができる。
具体的には、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、グリシン、L−アラニン、L−プロリン、L−アスパラギン酸、L−セリン、L−チロシン、L−グルタミン酸、L−システイン等が挙げられる。
蛋白アミノ酸類は、必ずしも遊離アミノ酸の形態で用いる必要はなく、無機酸塩(L−リジン塩酸塩等)、有機酸塩(L−リジン酢酸塩、L−リジンリンゴ酸塩等)、生体内で加水分解可能なエステル体(L−チロシンメチルエステル、L−メチオニンメチルエステル、L−メチオニンエチルエステル等)、N−置換体(N−アセチル−L−トリプトファン、N−アセチル−L−システイン、N−アセチル−L−プロリン等)等の形態で用いてもよい。
さらに、同種または異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類(L−チロシル−L−チロシン、L−アラニル−L−チロシン、L−アルギニル−L−チロシン、L−チロシル−L−アルギニン等)等の形態で用いてもよい。
これらの蛋白アミノ酸類の配合比率は特に限定されないが、通常、この技術分野で既知の指標(必須アミノ酸必要量に基づくVuj−N処方、FAO処方、FAO/WHO処方または血漿中アミノ酸組成のフィッシャー比による処方)に従って、種々の必須アミノ酸と非必須アミノ酸との比率(いわゆるE/N比)、あるいは全アミノ酸に対する必須アミノ酸の比率(いわゆるE/T比)を種々変化させ配合したもの、あるいは分岐鎖アミノ酸を、必須アミノ酸または非必須アミノ酸に対する比率を考慮しつつ、適宜含有させたもの等が好ましく用いられる。
蛋白アミノ酸類の含有量は、特に限定されないが、本発明の輸液製剤1Lあたり、例えば、L−イソロイシン:好ましくは、約1.8〜約12.5g;L−ロイシン:好ましくは、約2.0〜約12.5g;L−バリン:好ましくは、約1.3〜約9.6g;L−リジン塩酸塩:好ましくは、約2.6〜約22.3g;L−メチオニン:好ましくは、約1.0〜約11.3g;L−フェニルアラニン:好ましくは、約1.8〜約12.8g;L−トレオニン:好ましくは、約1.3〜約6.5g;L−トリプトファン:好ましくは、約0.5〜約7.0g;L−アルギニン塩酸塩:好ましくは、約1.6〜約14.5g;L−ヒスチジン塩酸塩:好ましくは、約1.3〜約8.1g;グリシン:好ましくは、約0.2〜約7.0g;L−アラニン:好ましくは、約1.4〜約8.2g;L−プロリン:好ましくは、約0.9〜約10.6g;L−アスパラギン酸:好ましくは、約0.5〜約6.3g;L−セリン:好ましくは、約0.7〜約5.0g;L−チロシン:好ましくは、約0.05〜約0.6g;L−グルタミン酸:好ましくは、約0.3〜約6.5g;L−システイン:好ましくは、約0.06〜約1.5g等が挙げられる。
本発明の輸液製剤は、さらに電解質類として微量元素を含有していてもよい。本発明において微量元素とは、ヒトに対して輸液療法、特に高カロリー輸液療法を施す際に生じ得る各種欠乏症状を改善する元素をいう。
微量元素としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロム、フッ素等が挙げられる。これらの微量元素は、患者の状態に対応して一種類、または二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
微量元素の含有量は特に限定されないが、本発明の輸液製剤1Lあたり、例えば、鉄:好ましくは、約0.9〜約224μmol、より好ましくは、約9〜約70μmol;銅:好ましくは、約0.9〜約55μmol、より好ましくは、約1〜約10μmol;亜鉛:好ましくは、約3.85〜約210μmol、より好ましくは、約38.5〜約61.5μmol;マンガン:好ましくは、0〜約51μmol、より好ましくは、約1〜約14.5μmol;セレン:好ましくは、約0.025〜約5.0μmol、より好ましくは、約0.25〜約2.5μmol;ヨウ素:好ましくは、0〜約11μmol、より好ましくは、約0.6〜約1.1μmol等が挙げられる。
本発明の輸液製剤は、また必要に応じ、クロム、モリブデン、コバルトおよびフッ素等のその他の元素を含んでいてもよい。これらの微量元素は、これらの元素を含む水溶性化合物を、注射用水や他の水性成分に溶解させることにより本発明の輸液製剤に添加される。
各元素の供給源である水溶性化合物としては、例えば、鉄供給源:硫酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、グルコン酸鉄等;銅供給源:硫酸銅等;亜鉛供給源:硫酸亜鉛、塩化亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛、酢酸亜鉛等;マンガン供給源:硫酸マンガン等が挙げられる。また、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロムおよびフッ素等も、その水溶性化合物を使用することによって本発明の輸液製剤に添加することができる。
また、複数の微量元素が配合された市販の製剤を用いることによっても前記の微量元素を本発明の輸液製剤に添加することができる。市販品の具体例としては、鉄、銅、亜鉛、マンガンおよびヨウ素を含む「ミネラリン注」(登録商標)(商品名、日本製薬株式会社/武田薬品工業株式会社製)および「エレメンミック注」(登録商標)(商品名、味の素ファルマ社製)や、鉄、銅、亜鉛およびヨウ素を含む「パルミリン注」(登録商標)(商品名、日本製薬株式会社/武田薬品工業株式会社製)および「エレメート注」(登録商標)(商品名、味の素ファルマ社製)が挙げられる。
本発明の輸液製剤には、さらに脂肪乳剤を含んでいてもよい。脂肪乳剤としては、油脂を乳化剤を用いて水に分散させて調製された水中油型乳剤を用いることが好ましい。脂肪乳剤の調製は常法により行うことができる。油脂としては、食用油として公知の油脂を特に制限なく用いることができる。
好ましい油脂としては、例えば、植物油(例えば、大豆油、綿実油、サフラワー油、トウモロコシ油、オリーブ油、ヤシ油、シソ油、エゴマ油等)、魚油(例えば、タラ肝油等)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(例えば、パナセート(商品名、日本油脂社製)、ODO(商品名、日清製油社製)等)、および化学合成トリグリセリド類(例えば、2−リノレオイル−1,3−ジオクタノイルグリセロール(8L8)、2−リノレオイル−1,3−ジデカノイルグリセロール(10L10)等の既知組成トリグリセリドや構造脂質等)からなる群より選ばれる一種または二種以上の油脂が挙げられる。
好ましい乳化剤としては、医薬製剤に使用される乳化剤であればいずれの乳化剤も用いることができる。乳化剤としては、例えば、卵黄リン脂質、水素添加卵黄リン脂質、大豆リン脂質、水素添加大豆リン脂質、および非イオン性界面活性剤(例えば、プルロニックF68(旭電化工業社製)、HCO−60(日本ケミカル社製)等)からなる群より選ばれる一種または二種以上の乳化剤が挙げられる。
特に好ましい脂肪乳剤としては、油脂として大豆油、乳化剤として卵黄リン脂質を用いた脂肪乳剤である。脂肪乳剤の含有量は、特に限定されないが、本発明の輸液製剤1Lあたり、例えば、油脂が約10〜約100g、乳化剤が約0.5〜約12gの範囲が好ましい。
本発明の輸液製剤の好適な例として、例えば、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量の塩基性金属イオンを含有してなる輸液製剤であって、該塩基性金属イオンの供給源として、リン酸の金属塩、炭酸の金属塩、および亜硫酸の金属塩から選択される少なくとも一種を含有し、さらに金属水酸化物を含有していてもよい、pHが約3.0〜約10.0の輸液製剤等が例示できる。
ここで、リン酸の金属塩としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、またはこれらの水和物等が好ましく、炭酸の金属塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、またはこれらの水和物等が好ましく、亜硫酸の金属塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、またはこれらの水和物等が好ましい。また、ナトリウムの代わりにカリウムを含むこれらの金属塩も好ましい。
さらに、金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好ましい。前記したように、これらの金属水酸化物は混合して使用してもよい。以下にこれらの好ましい各金属塩の含有量の範囲および金属水酸化物の含有量の範囲を、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩のモル数に対する質量で例示する。ただし、これらは、ナトリウムを含む化合物を用いた場合の例示であり、ナトリウムの代わりにカリウムを含む化合物を用いた場合は、その分子量に応じて適宜変更するものとする。(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1モルに対する、リン酸、炭酸、または亜硫酸のナトリウム塩の含有量、すなわち、1〜5当量に相当するこれらの塩の含有量としては、例えば、(1)約54.7〜約273.2gのリン酸三ナトリウム;(2)約71.0〜約354.9gのリン酸一水素二ナトリウム;(3)約120.0〜約600.0gのリン酸二水素一ナトリウム;(4)約53.0〜約265.0gの炭酸ナトリウム;(5)約84.0〜約420.0gの炭酸水素ナトリウム;(6)約53.0〜約265.0gの亜硫酸ナトリウム;(7)約104.0〜約520.0gの亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。これらの含有量は、全て無溶媒和物(例えば、無水物等)としての質量である。これらの成分を含む任意の溶媒和物(例えば、水和物等)を用いた場合には、その添加した質量から溶媒(例えば、水等)に相当する質量を減じて、無溶媒和物の量として前記に示した範囲内となるものが好ましい。水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを添加する際には、緩衝能が損なわれないように、さらにpHが好ましい範囲から逸脱しないように、弱酸の金属塩の添加量を適宜減じることが好ましい。水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを添加する輸液製剤の好ましい例としては、例えば、(2R)−2−プロピルオクタン酸を含有する輸液製剤の場合、(2R)−2−プロピルオクタン酸約1当量に対し、約1当量に相当する水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムと、約1〜約4当量に相当する弱酸の金属塩、例えば、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、炭酸水素カリウム、亜硫酸水素カリウム等を添加する輸液製剤等が挙げられる。
また、本発明の輸液製剤は、これら弱酸の金属塩の代わりに、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の一定量以上を添加することによっても同様の効果、すなわち、pHの変動に耐性を有する本発明の輸液製剤を調製することが可能である。
本発明の輸液製剤は、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と、塩基性金属イオン(好ましくは、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量の塩基性金属イオン)を含有する輸液製剤であればこれを全て包含する。有効成分としての(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩の含有量は限定されないが、例えば、有効成分としての(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を、(2R)−2−プロピルオクタン酸量として、1mLあたり、約0.01〜約20mg、好ましくは、1mLあたり、約0.1〜約20mg含有する輸液製剤が好適である。
本発明の輸液製剤は、静脈内に投与するための製剤であるので、その浸透圧比およびpHは、生体に対して悪影響を与えない範囲のものが好ましい。このような浸透圧比の範囲としては、例えば、約0.8〜約10、より好ましくは、約0.9〜約6、特に好ましくは、約1〜約2等が挙げられる。また、pHの範囲としては、例えば、約3.0〜約10.0、より好ましくは、約4.0〜約9.0、特に好ましくは、約5.0〜約9.0等が挙げられる。
本発明の輸液製剤は、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を、必要に応じて前記の各成分と共に、水(例えば、注射用水等)に溶解することにより得ることができる。これらの溶解はどのような順序で行ってもよい。また、一般に市販されている輸液(例えば、総合アミノ酸輸液(例えば、アミノレバン(大塚)、アミゼットB(田辺)、アミゼットXB(田辺)、アミパレン(大塚)、ネオアミュー(味の素ファルマ)、プレアミン−P(扶桑)、プロテアミン12X(田辺)、モリプロン−F(味の素ファルマ)等)、高カロリー輸液用糖・電解質・アミノ酸液(例えば、ピーエヌツイン(味の素ファルマ)、ユニカリック(テルモー田辺)等)、電解質輸液(例えば、生理食塩水、乳酸リンゲル液(例えば、ソリタ(清水)、ソルラクト(テルモ)、ハルトマン(小林製薬工業)、ラクテック(大塚)等)、ブドウ糖加乳酸リンゲル液(例えば、ソルラクトD(テルモ)、ハルトマンD(小林製薬工業)、ラクテックD(大塚)等)、ブドウ糖加酢酸リンゲル液(例えば、ヴィーンD(日研)等)、ソルビトール加乳酸リンゲル液(例えば、ソリタS(清水)、ラクテックG(大塚)等)、マルトース加乳酸リンゲル液(例えば、ソルラクトTMR(テルモ)、ポタコールR(大塚)等)、マルトース加アセテート液(例えば、アクチット(日研)等)、EL3号(成人用維持液;味の素ファルマ)、10%EL3号(維持液;味の素ファルマ)、EN補液(1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、4B;大塚)、ソリタT(1号、2号、3号、3号G、4号;清水)、フィジオゾール(大塚)、ソルデム(1、2、3、4、5、6;テルモ)等)、高カロリー輸液用糖・電解質液(例えば、トリパレン(1号、2号;大塚)、ハイカリック(1号、NC−L、2号、NC−N、3号、NC−H;テルモ)、ハイカリックRF(テルモ)等)、高カロリー輸液用糖・電解質・アミノ酸液(例えば、ピーエヌツイン(−1号、−2号、−3号;味の素ファルマ)、ユニカリック(L、N;テルモー田辺)等)等)を水性希釈剤として用い、高濃度の(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を希釈することによっても製造することができる。
本発明の輸液製剤の製造方法としては、pHの調節等の利便性から、高濃度の(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を希釈する方法が好ましい。具体的には、例えば、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量に相当する、前記弱酸の金属塩および所望によって金属水酸化物を、水性溶媒(例えば、水等)に溶解し、(2R)−2−プロピルオクタン酸量として約2.5〜約100mg/mLの(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有するpHが約8.4〜約9.0の溶液を調製し、ついで該溶液を、(2R)−2−プロピルオクタン酸量として約0.01〜約20mg/mL、好ましくは、約0.1〜約20mg/mLとなるように、(1)電解質類、(2)糖類、(3)ビタミン類、および(4)蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上を含有する溶液に希釈し、ついで輸液用容器に充填する方法等が挙げられる。
(1)電解質類、(2)糖類、(3)ビタミン類、および(4)蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上を含有する溶液の具体例としては、前記に列挙した、一般に市販されている輸液等が挙げられる。これら一般に市販されている輸液のうち、本発明の輸液製剤用の水性希釈剤として好ましいのは、例えば、電解質溶液(特に、マグネシウムやカルシウム等の二価金属を含まないものが好ましい。)、糖液等であり、より好ましくは、塩化ナトリウム、グルコース等の溶液である。これらの物質の含有量は、塩化ナトリウムであれば、例えば、生理食塩水と同等、すなわち、0.9%(w/v)等が好ましく、また、グルコースであれば、例えば、一般的に使用される輸液用糖液と同等、すなわち、5〜70%(w/v)が好ましく、例えば、5%(w/v)および10%(w/v)等が特に好ましい。
本発明の輸液製剤は、前記の方法によって調製された輸液用溶液を、輸液用容器に充填することによって製造することができる。輸液用容器への充填量は特に限定されない。例えば、1単位形態、すなわち、バッグ、ボトル等の1容器あたり、約50mL、約100mL、約200mL、約250mL、約500mLまたは約1000mLを充填することが好ましく、1単位形態あたり、約100mL、約250mL、約500mLまたは約1000mLを充填することがより好ましく、1単位形態あたり、約500mLまたは約1000mLを充填することが特に好ましい。輸液用容器への輸液用溶液の充填・密封は、常法に従って行うことができる。例えば、ろ過滅菌、加熱滅菌等の滅菌操作により予め滅菌した輸液用溶液を、別途、電子線滅菌法、紫外線滅菌法、γ線滅菌法、高圧蒸気滅菌法、ガス滅菌法等の滅菌法を用いて滅菌した輸液用容器に、無菌的に充填・密封する方法や、輸液用溶液を輸液用容器に充填・密封し、ついで内容物と共に輸液用容器ごと常法(例えば、高圧蒸気滅菌法、熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法等)に従って滅菌する方法等が用いられる。また、所望によってこれらの容器への充填の前に、防塵フィルター(例えば、0.45μmメチルセルロースメンブレン等)でろ過等の操作を行ってもよい。本発明の輸液製剤の滅菌処理としては高圧蒸気滅菌が好ましい。高圧蒸気滅菌は、例えば、100〜125℃の条件で、5〜30分間行うことが好ましい。
本発明の輸液製剤を充填する輸液用容器は、一般的に使用される輸液用容器であればよい。
具体的には、前記の様に、プラスチック製輸液バッグ、プラスチック製輸液ボトル、またはガラス製輸液ボトル等が用いられる。これらの容器の形状および大きさに特に制限は無い。輸液用容器の容量は、例えば、50mL、100mL、200mL、250mL、500mL、1000mL等が挙げられるが、500mLまたは1000mLが好適である。輸液用容器の材質は、輸液製剤に使用可能なガラス材質、またはプラスチック材質であることが好ましい。
プラスチック材質としては、従来より輸液容器等に使用されている可撓性樹脂が好ましい。より好ましい樹脂としては、ある程度の耐熱性のある軟質合成樹脂(ポリオレフィン類(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレンとポリエチレンまたはポリブテンとの混合物、前記ポリオレフィンの部分架橋物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体等)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、フッ化エチレン−塩化ビニリデン共重合体、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ナイロン、スチレン系エラストマー(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−スチレン共重合体等)等)等が挙げられる。
本発明の輸液製剤の製造工程等において、内容物による発泡が激しく澄明となるのに時間を要する場合には、シリコンコーティングした輸液用容器を使用し、時間の短縮をはかることができる。コーティングに使用されるシリコンとしては、シリコンオイル(例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロゲンポリシロキサン等)、ワニスシリコン(例えば、メチルワニスシリコン、メチルフェニルワニスシリコン等)等が挙げられ、好ましいシリコンの一例としては、KM−740(信越化学工業(株))が挙げられる。
本発明の輸液製剤のうち、特にアルカリ性を示す輸液製剤の場合、ガラス材質の容器に保存することにより不溶性異物が発生することがある。このような輸液製剤を前記のガラス材質の輸液用容器に充填する場合には、これらの容器の内表面をシリコンでコーティングするか、または二酸化ケイ素で処理(例えば、シリコート等)しておくことで不溶性異物の発生を抑えることができ、長期保存下にあっても不溶性異物の生成の問題が無い輸液製剤を提供することが可能である。シリコンのコーティングは、前記のシリコンや、シリコン系コーティング剤(例えば、ジメチルシリコンオイル、メチルフェニルシリコンオイル、メチルハイドロゲンシリコンオイル等)等を用いて、かかる容器の内表面を、被膜の厚さが約100μm以下、好ましくは、約15〜約50μm以下となるように、公知の方法、例えば、加熱蒸着法、プラズマ強化化学蒸着法、プラズマパルス化学蒸着法等によって行われる。二酸化ケイ素での処理は、公知の方法、例えば、シリコート処理、波状プラズマ化学的気相法処理等によって行われる。また、プラスチック製の輸液用容器を用いる場合には不溶性異物の発生の問題はなく、処理を施さずとも、長期保存下にあっても不溶性異物の生成の問題が無い輸液製剤を提供することが可能である。
前記の輸液用容器等に充填されて供される本発明の輸液製剤は、全量またはその一部を、そのまま患者の静脈内に点滴投与することができる。また、必要に応じて、他の薬剤(例えば、抗生物質等)を混合して、または併用して用いることも可能である。
[医薬品への適用]
本発明の輸液製剤は、有効成分として(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有していることから、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト動物、例えば、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等)において、例えば、神経変性疾患等の治療および/または予防に有用である。神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上麻痺、オリーブ橋小脳萎縮症、脳卒中(例えば、脳梗塞、脳出血等)や脳脊髄外傷後の神経機能障害(例えば、脱髄疾患(多発性硬化症等)、脳腫瘍(星状膠細胞腫等)、感染症に伴う脳脊髄疾患(髄膜炎、脳膿瘍、クロッツフェルド−ヤコブ病、エイズ痴呆等))等が挙げられる。また、該輸液製剤は、神経再生促進剤、S100β増加抑制剤、または神経障害改善剤としても有用である。本発明の輸液製剤は、前記の疾患の治療および/または予防等を目的として、静脈内に点滴投与される。
一日の投与量は、症状の程度;投与対象の年齢、性別、体重;投与の時期、間隔;有効成分の種類などによって異なり、特に限定されないが、例えば、脳梗塞をはじめとする神経変性疾患治療剤として静脈内に点滴投与する場合、(2R)−2−プロピルオクタン酸を有効成分とするものでは、1日用量として、患者の体重1kgあたり、約2〜約12mgが好ましい。より好ましい投与量としては、1日用量として、患者の体重1kgあたり、約2mg、約4mg、約6mg、約8mg、約10mg、または約12mg等が挙げられる。特に好ましくは、1日用量として、患者の体重1kgあたり、約4mg、約6mg、約8mg、または約10mgであり、特に、1日用量として、患者の体重1kgあたり、約4mg、または約8mgが好適である。また、(2R)−2−プロピルオクタン酸の塩を有効成分とするものでは、(2R)−2−プロピルオクタン酸の量として前記に示した1日用量が好適である。
本発明の輸液製剤は、他の薬剤、例えば、抗てんかん薬(例えば、フェノバルビタール、メホバルビタール、メタルビタール、プリミドン、フェニトイン、エトトイン、トリメタジオン、エトスクシミド、アセチルフェネトライド、カルバマゼピン、アセタゾラミド、ジアゼパム、バルプロ酸ナトリウム等)、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(例えば、塩酸ドネベジル、TAK−147、リバスチグミン、ガランタミン等)、神経栄養因子(例えば、ABS−205等)、アルドース還元酵素阻害薬、抗血栓薬(例えば、t−PA、ヘパリン、経口抗凝固薬(例えば、ワーファリン等)、合成抗トロンビン薬(例えば、メシル酸ガベキサート、メシル酸ナファモスタット、アルガトロバン等)、抗血小板薬(例えば、アスピリン、ジピリダモール、塩酸チクロピジン、ベラプロストナトリウム、シロスタゾール、オザグレルナトリウム等)、血栓溶解薬(例えば、ウロキナーゼ、チソキナーゼ、アルテプラーゼ等)、ファクターXa阻害薬、ファクターVIIa阻害薬、脳循環代謝改善薬(例えば、イデベノン、ホパンテン酸カルシウム、塩酸アマンタジン、塩酸メクロフェノキサート、メシル酸ジヒドロエルゴトキシン、塩酸ピリチオキシン、γ−アミノ酪酸、塩酸ビフェメラン、マレイン酸リスリド、塩酸インデロキサジン、ニセルゴリン、プロペントフィリン等)、抗酸化薬(例えば、エダラボン等)、グリセリン製剤(例えば、グリセオール等)、βセクレターゼ阻害薬(例えば、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−(N,N−ジメチルアミノ)メチルテトラリン、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−(N,N−ジプロピルアミノ)メチルテトラリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)メチル−6−(4’−メトキシビフェニル−4−イル)メトキシテトラリン、6−(4−ビフェニリル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル]テトラリン、2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]−6−(4’−メチルビフェニル−4−イル)メトキシテトラリン、2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]−6−(4’−メトキシビフェニル−4−イル)メトキシテトラリン、6−(2’,4’−ジメトキシビフェニル−4−イル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、6−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)フェニル]メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、6−(3’,4’−ジメトキシビフェニル−4−イル)メトキシ−2−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]テトラリン、その光学活性体、その塩およびその水和物、OM99−2(WO01/00663)等)、βアミロイド蛋白凝集阻害作用薬(例えば、PTI−00703、ALZHEMED(NC−531)、PPI−368(特表平11−514333)、PPI−558(特表2001−500852)、SKF−74652(Biochem.J.,340(1)巻,283−289,1999年)等)、脳機能賦活薬(例えば、アニラセタム、ニセルゴリン等)、ドーパミン受容体作動薬(例えば、L−ドーパ、ブロモクリプチン、パーゴライド、タリペキソール、プラミペキソール、カベルゴリン、アマンタジン等)、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬(例えば、サフラジン、デプレニル、セルジリン(セレギリン)、レマセミド(remacemide)、リルゾール(riluzole)等)、抗コリン薬(例えば、トリヘキシフェニジル、ビペリデン等)、COMT阻害薬(例えば、エンタカポン等)、筋萎縮性側索硬化症治療薬(例えば、リルゾール等、神経栄養因子等)、スタチン系高脂血症治療薬(例えば、プラバスタチンナトリウム、アトロバスタチン、シンバスタチン、ロスバスタチン等)、フィブラート系高脂血症治療薬(例えば、クロフィブラート等)、アポトーシス阻害薬(例えば、CPI−1189、IDN−6556、CEP−1347等)、神経分化・再生促進薬(例えば、レテプリニム(Leteprinim)、キサリプローデン(Xaliproden;SR−57746−A)、SB−216763等)、非ステロイド性抗炎症薬(例えば、メロキシカム、テノキシカム、インドメタシン、イブプロフェン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、アスピリン、インドメタシン等)、ステロイド薬(例えば、デキサメサゾン、ヘキセストロール、酢酸コルチゾン等)、性ホルモンまたはその誘導体(例えば、プロゲステロン、エストラジオール、安息香酸エストラジオール等)等を併用してもよい。
また、ニコチン受容体調節薬、γセクレターゼ阻害作用薬、βアミロイドワクチン、βアミロイド分解酵素、スクワレン合成酵阻害薬、痴呆の進行に伴う異常行動や徘徊等の治療薬、降圧薬、糖尿病治療薬、抗うつ薬、抗不安薬、疾患修飾性抗リウマチ薬、抗サイトカイン薬(例えば、TNF阻害薬、MAPキナーゼ阻害薬等)、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシウム受容体拮抗薬等を併用してもよい。以上の併用薬剤は例示であって、これらに限定されるものではない。他の薬剤は、任意の2種以上を組み合わせて投与してもよい。また、併用する薬剤には、上記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
[毒性]
(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩の毒性は非常に低いものであり、医薬として使用するために十分安全であると判断できる。例えば、イヌを用いた単回静脈内投与では、(2R)−2−プロピルオクタン酸は100mg/kgで死亡例が見られなかった。
【発明の効果】
本発明によって、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有し、かつ静脈内投与に適したpHを有する、用時に溶解、希釈等の調製操作を必要としない静脈内持続投与用の輸液製剤およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
実施例1−1:
注射用水に、リン酸三ナトリウム・12水和物(7.08kg)、塩化ナトリウム(18kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸(4.0kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表1の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

実施例1−2:
注射用水に、リン酸三ナトリウム・12水和物(14.16kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸(8.0kg)を加え、溶解させた。塩化ナトリウム(18kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表2の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

実施例2−1:
注射用水に、リン酸一水素二ナトリウム・12水和物(6.4kg)、塩化ナトリウム(18kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸(4.0kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表3の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

実施例2−2:
注射用水に、リン酸一水素二ナトリウム・12水和物(12.8kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸(8.0kg)を加え、溶解させた。塩化ナトリウム(18kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表4の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

実施例3−1:
注射用水に、リン酸一水素二ナトリウム・12水和物(12.8kg)、塩化ナトリウム(18kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸・ナトリウム塩(8.944kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表5の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

実施例3−2:
注射用水に、リン酸一水素二ナトリウム・12水和物(6.4kg)、塩化ナトリウム(18kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸・ナトリウム塩(4.472kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表6の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

実施例4−1:
注射用水に、リン酸一水素二ナトリウム・12水和物(6.4kg)、ブドウ糖(100kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸(4.0kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表7の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

実施例4−2:
注射用水に、リン酸一水素二ナトリウム・12水和物(12.8kg)および(2R)−2−プロピルオクタン酸(8.0kg)を加え、溶解させた。ブドウ糖(100kg)を加え、注射用水を用いて2000Lとした。均一な溶液とした後、無菌フィルター(デュラポア製0.22μmメンブレン)でろ過し、得られた液(100mL、250mLおよび500mL)を輸液バッグに充填した。この充填した容器に栓を施し、高圧蒸気滅菌(123℃、15分間)することにより、以下の表8の輸液製剤を製造した。各製剤の溶状は、無色透明であり、pHは5.0〜9.0の値を示した。

【産業上の利用可能性】
本発明は、(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有し、かつ静脈内投与に適したpHを有する、用時に溶解、希釈等の調製操作を必要としない静脈内持続投与用の輸液製剤である。本発明の輸液製剤はpHの変動に耐性があり、他剤と併用したり、患者の血管内に投与したりする際にも白濁する虞がなく、安心して使用することができる優れた輸液製剤であるため、医薬品としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と塩基性金属イオンを含有する輸液製剤。
【請求項2】
塩基性金属イオンの供給源として、リン酸の金属塩、炭酸の金属塩、亜硫酸の金属塩、有機スルホン酸の金属塩、およびC2〜6有機カルボン酸の金属塩から選択される少なくとも一種を含有し、さらに金属水酸化物を含有していてもよい請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項3】
さらに、(1)電解質類、(2)糖類、(3)ビタミン類、および(4)蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上を含有する請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項4】
(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量の塩基性金属イオンを含有する請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項5】
塩基性金属イオンの供給源として、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、および亜硫酸水素カリウムから選択される少なくとも一種を含有し、さらに水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含有していてもよい請求の範囲2記載の輸液製剤。
【請求項6】
塩基性金属イオンの供給源として、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを含有し、さらにリン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、炭酸水素カリウム、および亜硫酸水素カリウムから選択される少なくとも一種を含有する請求の範囲2記載の輸液製剤。
【請求項7】
pHが約5.0〜約9.0である請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項8】
1mLあたり約0.1mg〜約20mgの(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有する請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項9】
請求の範囲8記載の輸液製剤を、1単位形態あたり、約50mL、約100mL、約200mL、約250mL、約500mLまたは約1000mL充填してなる輸液用容器。
【請求項10】
(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩1当量に対し、約1〜約5当量の塩基性ナトリウムイオンを含有する輸液製剤であって、該塩基性ナトリウムイオンの供給源として、リン酸のナトリウム塩、および炭酸のナトリウム塩から選択される少なくとも一種を含有し、さらに水酸化ナトリウムを含有していてもよく、かつpHが約5.0〜約9.0である請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項11】
さらに0.9%(w/v)の塩化ナトリウムを含有する請求の範囲10記載の輸液製剤。
【請求項12】
(2R)−2−プロピルオクタン酸の塩がナトリウム塩または塩基性天然アミノ酸塩である請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項13】
神経変性疾患、神経障害、または神経再生を要する疾患の予防および/または治療剤である請求の範囲1記載の輸液製剤。
【請求項14】
(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と、リン酸の金属塩、炭酸の金属塩、亜硫酸の金属塩、有機スルホン酸の金属塩およびC2〜6有機酸の金属塩から選択される一種または二種以上と、所望によって金属水酸化物を水性溶媒に溶解し、約2.5〜約100mg/mLの(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩を含有する、pHが約8.4〜約9.0の溶液を調製する工程;前記調製溶液の(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩の濃度が約0.1〜約20mg/mLとなるように、(1)電解質類、(2)糖類、(3)ビタミン類、および(4)蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上を含有する溶液で希釈する工程;および前記希釈された溶液を輸液用容器に充填する工程を含むことを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタン酸またはその塩と塩基性金属イオンを含有する輸液製剤の製造方法。
【請求項15】
請求の範囲1記載の輸液製剤の有効量を、哺乳動物に投与することを特徴とする、神経変性疾患、神経障害、または神経再生を要する疾患の予防および/または治療方法。
【請求項16】
神経変性疾患、神経障害、または神経再生を要する疾患の予防および/または治療剤を製造するための請求の範囲1記載の輸液製剤の使用。

【国際公開番号】WO2005/032538
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514508(P2005−514508)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014896
【国際出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】