説明

(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの新規な塩形態

(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンのリン酸塩、エジシル酸(1,2−エタンジスルホン酸)塩、クエン酸塩、オロチン酸(ウラシル−6−カルボン酸)塩、R−マンデル酸塩、硫酸塩、1,5−ナフタレンジスルホン酸塩、D−アスパラギン酸塩およびリシン一塩酸塩、それらの製造法、前記塩を含有する医薬組成物、並びに使用が開示されている。これらの塩を中枢神経系疾患のような疾患および障害にかかりやすい、またはかかっている患者に投与してこのような疾患を治療および/または予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの新規な塩形態、および前記塩形態を含有する医薬組成物に関する。本発明はまた、この新規な塩形態を使用して多種多様の症状および疾患、特に中枢神経系および自律神経系の機能不全と関係がある症状および疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンは中枢神経系疾患の治療および/または予防分野において有益であることが知られている。本化合物、その合成および薬物療法での使用は例えばCaldwellらのPCT WO 99/65876およびUS特許出願11/270,018に記載されており、その内容は全体として参照により本明細書に加入される。
【0003】
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンのような薬剤候補の商業的開発は化学合成および精製の拡大、最適な塩形態の発見などを含む多くの工程を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医薬組成物の製剤化において、薬用物質は都合よく取り扱いおよび処理ができる形態であることが重要である。このことは商業的に実現可能な製造プロセスを確立するという観点からだけでなく、その後に続く活性化合物からなる医薬製剤を製造するという観点からもまた重要である。
【0005】
さらに、医薬組成物の製造において、患者に投与した後に信頼性かつ再現性のある一定な血漿濃度の薬物プロファイルが得られることが重要である。
活性成分の化学安定性、固体安定性および「保存寿命」もまた、非常に重要な要因である。薬用物質およびそれを含有する組成物は好ましくは活性成分の物理化学的特性(例えばその化学組成、密度、吸湿性および溶解度)に有意な変化を示すことなく適当な期間にわたって有効に保存可能でなければならない。その上、できるだけ化学的に純粋な形態の薬剤を提供できることもまた重要である。
当業者は典型的に薬剤が安定な形態、例えば安定な結晶性形態で容易に得られる場合、取り扱いの容易さ、適当な医薬組成物の製造の容易さ、さらにより信頼できる溶解度プロファイルに関して有益であることを理解できよう。
【0006】
本発明は(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンのリン酸塩、エジシル酸(1,2−エタンジスルホン酸)塩、クエン酸塩、オロチン酸(ウラシル−6−カルボン酸)塩、R−マンデル酸塩、硫酸塩、1,5−ナフタレンジスルホン酸塩、D−アスパラギン酸塩またはリシン一塩酸塩に関する。これらのリン酸塩およびエジシル酸塩は非晶質または結晶性の形態で得られる。本発明はまた、これらの塩の製造に関する。一態様において、酸とアミンの化学量論比は1:1または1:2である。
【0007】
本発明はまた、多種多様の症状または疾患、特に神経伝達物質放出、例えばドーパミン放出の神経調節と関係がある疾患を含むニコチン様コリン作動性神経伝達の機能不全を特徴とする疾患を治療および/または予防するための方法に関する。本発明はまた、正常な
神経伝達物質放出の変化を特徴とする中枢神経系(CNS)疾患のような疾患を治療および/または予防するための方法、さらに特定の症状を治療する(例えば疼痛を緩和する)ための方法に関する。本法は有効量の新規な塩形態、またはそのような塩形態を含有する医薬組成物を患者に投与することを包含する。
【0008】
塩形態は有効量の本明細書で開示される塩形態を含有する医薬組成物の形態で提供することができる。医薬組成物は(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの塩形態を含有し、それは有効量で使用されると患者の関連するニコチン性受容体部位と相互作用し、したがって多種多様の症状および疾患、特に正常な神経伝達物質放出の変化を特徴とする疾患を治療および予防するための治療剤として作用する。
【0009】
医薬組成物はそのような疾患にかかっており、そのような疾患の臨床症状を呈する患者に対して当該組成物中の化合物が有効量で使用されると(i)ニコチン性薬理作用を示し、関連するニコチン性受容体部位に作用する(例えばニコチン性受容体を活性化するアゴニストとして作用する)、および/または(ii)神経伝達物質の分泌を誘発し、したがって当該疾患と関係がある症状を予防および抑制するという治療効果をもたらす。
【0010】
さらに、本化合物は(i)患者の脳のニコチン様コリン作動性受容体の数を増加させ、(ii)神経保護作用を示し、そして/または(iii)有効量で使用された時に明らかな副作用(例えば血圧や心拍数の有意な増加、胃腸管への有意な悪影響、および骨格筋に対する有意な作用)を引き起こさない可能性を有する。
【0011】
医薬組成物は多種多様の症状および疾患の予防および治療に関して安全で有効であると考えられている。本発明の前記および他の態様は下記の詳細な説明および実施例で詳しく説明される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの塩形態、これらの塩形態を含有する医薬組成物、前記塩形態の製造法、並びに前記塩形態を使用して治療および/または予防する方法は下記で詳しく説明される。
【0013】
特定の文脈下で本化合物がその遊離塩基であることが明らかでないかぎり、本明細書で使用される「塩形態」および「化合物」なる用語はそれぞれ(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの塩形態を意味する。
【0014】
I. (2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミン
本明細書で開示される化合物は式
【化1】

を有する(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンのリン酸塩、エジシル酸(1,2−エタンジスルホン酸)塩、クエン酸塩、オロチン酸(ウラシル−6−カルボン酸)塩、R−マンデル酸塩、硫酸塩、1,5−ナフタレンジスルホン酸塩、D−アスパラギン酸塩およびリシン一塩酸塩である。
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2
−アミンおよびその塩を製造する方法はいろいろある。(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンを製造する方法は例えばCaldwellらのPCT WO 99/65876およびUS特許出願11/270,018に記載されており、その関連する部分を下記に要約する。
【0015】
一つの合成法は収束的な合成であり、側鎖の(2S)−N−メチル−N−(t−ブトキシカルボニル)−4−ペンテン−2−アミンをHeck反応条件下で3−置換5−ハロ置換ピリジンの5−ブロモ−3−イソプロポキシピリジンと反応させ、その後t−ブトキシカルボニル保護基を除去する。典型的には、オレフィンおよび芳香族ハロゲン化物のパラジウムが触媒するカップリングを包含するW. C. FrankらのJ. Org. Chem. 43, 2947(1978年)およびN. J. MalekらのJ. Org. Chem. 47, 5395(1982年)に記載のような方法が使用される。(2S)−N−メチル−N−(t−ブトキシカルボニル)−4−ペンテン−2−アミンは次のようにして合成することができる:(i) (2R)−4−ペンテン−2−オールは(R)−(+)−プロピレンオキシドからA. Kalivretenos、J. K. StilleおよびL. S. HegedusのJ. Org. Chem. 56, 2883(1991年)に記載の方法に従って製造することができ、ピリジン中、塩化p−トルエンスルホニルで処理して(2R)−4−ペンテン−2−オールp−トルエンスルホネートを生成する。(ii) 得られるトシレートをジメチルホルムアミド中で20モル当量のメチルアミン(40%水溶液として)と共に加熱して(2S)−N−メチル−4− ペンテン−2−アミンを生成する。(iii) 得られるアミンをエーテル中でジ−t−ブチルジカーボネートと反応させて側鎖の(2S)−N−メチル−N−(t−ブトキシカルボニル)−4−ペンテン−2−アミンを生成する。
【0016】
ハロ置換ピリジン(例えば5−ブロモ−3−イソプロポキシピリジン)は2つの異なる経路により合成することができる。第1の製造法では、3,5−ジブロモピリジンを密閉したガラス管において乾燥イソプロパノール中、銅粉末(3,5−ジブロモピリジンの5w/w%)の存在下で2モル当量のカリウムイソプロポキシド共に140℃で14時間加熱して5−ブロモ−3−イソプロポキシピリジンを生成する。第2の方法では、5−ブロモニコチン酸から5−ブロモ−3−イソプロポキシピリジンの製造は次のようにして行なうことができる:(i) 5−ブロモニコチン酸を塩化チオニルで処理し、次に中間体の酸塩化物を水性アンモニアと反応させることにより5−ブロモニコチンアミドに変換し、(ii) 得られる5−ブロモニコチンアミド(以前にC. V. GrecoらのJ. Heteocyclic Chem., 7(4), 761(1970年)に記載されている)を水酸化ナトリウムおよび70%次亜塩素酸カルシウム溶液で処理することによりHofmann分解に付し、(iii) 得られる3−アミノ−5−ブロモピリジン(以前にC. V. GrecoらのJ. Heteocyclic Chem., 7(4), 761(1970年)に記載されている)を酸性条件下、亜硝酸イソアミルでジアゾ化することにより5−ブロモ−3−イソプロポキシピリジンに変換し、次に中間体のジアゾニウム塩をイソプロパノールで処理して5−ブロモ−3−イソプロポキシピリジンを生成することができる。5−ブロモ−3−イソプロポキシピリジンおよび(2S)−N−メチル−N−(t−ブトキシカルボニル)−4−ペンテン−2−アミンのパラジウムが触媒するカップリングはアセトニトリル−トリエチルアミン(2:1, v/v)中で1モル%の酢酸パラジウム(II)および4モル%のトリ−o−トリルホスフィンからなる触媒を使用して行なわれる。反応は各成分を80℃で20時間加熱することにより行なうことができ、(2S)−(4E)−N−メチル−N−(t−ブトキシカルボニル)−5−(5−イソプロポキシ−3−ピリジル)−4−ペンテン−2−アミンを生成する。t−ブトキシカルボニル保護基の除去は0℃でアニソール中、30モル当量のトリフルオロ酢酸により処理して行なうことができ、(2S)−(4E)−N−メチル−5−(5−イソプロポキシ−3−ピリジル)−4−ペンテン−2−アミンを得る。
【0017】
II. (2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの塩形態
本明細書で開示される化合物(新規な塩形態)はリン酸、エジシル酸(1,2−エタンジスルホン酸)、クエン酸、オロチン酸(ウラシル−6−カルボン酸)、R−マンデル酸、硫酸、1,5
−ナフタレンジスルホン酸、D−アスパラギン酸およびリシン一塩酸塩から誘導されるアニオンと(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンから誘導されるカチオンを有する塩組成である。本発明の塩の化学量論比は下記のよう変動する。
クエン酸(2−ヒドロキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸)は様々な酸強度のカルボン酸基を3個有し、それは(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンに存在するアミン基の一方または両方と反応することができる。したがって、酸−塩基反応は例えば1個のクエン酸分子と1、2または3個の(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミン分子の比、2個のクエン酸分子と1、3または5個の(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミン分子の比、4個のクエン酸分子と3個の(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミン分子の比などで起こる。
【0018】
リン酸(H3PO4)はまた、様々な酸強度の酸性プロトンを3個有する。リン酸塩はクエン酸塩と同じ化学量論比で存在することができる。1,2−エタンジスルホン酸は2個のカルボン酸基を有する。1,2−エタンジスルホン酸および(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの比率はまた、酸/塩基の化学量論比が1:1、1:2および2:1となるように1個の酸分子が2個の塩基分子と反応できる範囲、2個の酸分子が1個の塩基分子と反応できる範囲、または1個の酸分子が1個の塩基分子と反応できる範囲で変動することができる。
【0019】
硫酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、D−アスパラギン酸およびリシン塩酸塩はそれぞれ様々な酸強度の酸性プロトンを2個有する。これらの酸の塩は1,2−エタンジスルホン酸塩と同じ化学量論比で存在することができる。
【0020】
オロチン酸(ウラシル−6−カルボン酸)およびR−マンデル酸はそれぞれ1個の酸性プロトンを有し、(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンと例えば2:1または1:1(酸対塩基)の比率で化合させることができる。
【0021】
現在開示されている塩において、酸と塩基((2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミン)のモル比は典型的に1:2または1:1であるが、他の比率(例えば3:2および2:1)もまた可能である。
【0022】
本明細書で開示される塩が生成する方法に応じて、塩は塩生成中に存在する溶媒を閉じ込めた結晶構造を有する。したがって、塩は様々な化学量論比の溶媒および(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンからなる水和物および他の溶媒和物として存在することができる。
【0023】
塩形態を製造する方法はいろいろある。(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル)]−4−ペンテン−2−アミンの塩形態の製造は:
(i) 適当に純粋な(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの遊離塩基または適当な溶媒中における遊離塩基の溶液を純粋な形態の何れかの酸または適当な溶媒中における何れかの酸の溶液(典型的には0.5〜1当量の酸)と混合し、
(iia) 得られる塩溶液を必要に応じて冷却して塩を析出させ、または
(iib) 適当な貧溶媒を加えて塩を析出させ、または
(iic) 最初の溶媒を蒸発させ、新しい溶媒を加えて工程(iia)または工程(iib)を繰り返し、そして
(iii) 塩をろ過し、集める工程を包含する。
【0024】
化学量論比、溶媒混合物、溶質濃度および温度は変動する。塩形態を製造および/または再結晶するのに使用することができる典型的な溶媒にはエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸エチルおよびアセトニトリルがあるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の他の態様によれば、本発明のリン酸塩およびエジシル酸塩は実質的に結晶性の形態で提供される。
【0026】
本発明者らは本発明のリン酸塩およびエジシル酸塩を80%以上の結晶性形態で製造できることを見い出したが、「実質的に結晶性」とは20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上(例えば50、60、70、80または90%以上)の結晶性を意味する。
【0027】
本発明の他の態様によれば、本発明のリン酸塩およびエジシル酸塩は部分的に結晶性の形態でもまた提供される。「部分的に結晶性」とは5%、または5%から20%まで、すなわち5%〜20%の結晶性を意味する。
【0028】
結晶化度(%)はX−線粉末回折(XRPD)を使用して当業者により測定することができる。固体NMR、FT−IR、ラマン分光法、示差走査熱量測定法(DSC)および微小熱量測定法のような他の方法もまた使用することができる。
【0029】
結晶性の(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミン塩は下記のようにX−線粉末回折(XRPD)を使用して分析した:
Bragg式から計算したd−値および相対強度で同定されたピークを結晶性塩の回折図形から抽出した。最も特徴的で有意な区別できる、そして/または再現性のある主要なピークだけを集めたが、慣用の方法を使用して他のピークを回折図形から抽出することができる。再現性があり、誤差範囲内のこれらの主要なピークの存在は殆んどの状況において前記結晶性塩の存在を確定するのに十分である。
【0030】
X−線回折分析はPANalytical X'Pert Pro MPD回折計において場合により内部標準基準を使用して96分間、1〜60°2θで行なった。角度2θを標準値に関して補正し、その後d−値(距離値)に計算した。d−値は所与の最終小数位において±2の範囲内で変動する。試料の作成は標準法に従って、例えばGiacovazzo, C.らのFundamentals of Crystallography, Oxford University Press(1995年);Jenkins, R.およびSnyder, R. L.のIntroduction to X-Ray Powder Diffractometry, John Wiley & Sons, New York(1996年);Bunn, C.
W.のChemical Crystallography, Clarendon Press, London(1948年);またはKlug, H. P.およびAlexander, L. E.のX-ray Diffraction Procedures, John Wiley and Sons, New York(1974年)に記載のようにして行なった。
【0031】
本明細書で使用される「安定性」なる用語は化学安定性および固体安定性を包含する。
「化学安定性」とは本発明の塩を通常の保存条件下で化学的な劣化または分解が殆んどなく単離した形態、あるいは薬学的に許容しうる担体、希釈剤または補助剤と混合して提供される製剤の形態(例えば錠剤、カプセル剤などのような経口投与形態)で保存することができることを意味する。
【0032】
「固体安定性」とは本発明の塩を通常の保存条件下で固体状態の変換(例えば結晶化、再結晶、固体の相転移、水和、脱水、溶媒和または脱溶媒和)が殆んどなく単離した形態、あるいは薬学的に許容しうる担体、希釈剤または補助剤と混合して提供される固体製剤の形態(例えば錠剤、カプセル剤などのような経口投与形態)で保存することができること
を意味する。
【0033】
「通常の保存条件」の例は−80℃から+50℃まで、すなわち80〜+50℃の温度(好まし
くは0℃から40℃まで、すなわち0〜40℃、より好ましくは室温、例えば15℃から30℃まで、すなわち15〜30℃)、0.1バールから2バールまで、すなわち0.1〜2バールの圧力(好ましくは大気圧)、5%から95%まで、すなわち5〜95%の相対湿度(好ましくは10〜60%)、および/または長期間(すなわち6ヶ月以上)にわたる460ルクスのUV/可視光への暴露である。このような条件下で本発明の塩は化学的な劣化/分解、あるいは固体状態の変換が15%未満、より好ましくは10%未満、特に5%未満である。当業者は温度、圧力および相対湿度に関して上記の上限および下限が通常の保存条件の極限を示し、これらの極限の特定の組合せ(例えば50℃の温度および0.1バールの圧力)が通常の保存中に起こらないことは理解できよう。
【0034】
本発明の他の態様は塩の製造法である。塩が生成する明確な条件は実験的に決めることができる。塩は制御された条件下で結晶化させることにより得られる。
【0035】
本発明の一態様は特定ピークが18.6、9.3、4.25、3.99および3.11Åのd−値に存在し、そして/または本質的に表1で定義されたようなX−線粉末回折パターンを有する(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンのリン酸塩に関する。
【0036】
本発明の他の態様は特定ピークが5.6、4.33、4.19および3.76Åのd−値に存在し、そして/または本質的に表2で定義されたようなX−線粉末回折パターンを有する(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンのエジシル酸塩に関する。
【0037】
III. 治療法
本明細書で開示される塩形態はある症状また疾患にかかりやすい患者の前記症状また疾患を予防および/または治療する方法で使用することができる。例えば、CNS疾患の進行をある程度予防する(すなわち保護作用をもたらす)のに、CNS疾患の症状を改善するのに、またCNS疾患の再発を軽減するのに効果的な化合物を必要な患者に有効量投与することができる。
【0038】
本化合物は他のタイプのニコチン性化合物が治療剤として提唱されている症状および疾患を治療および/または予防するのに使用することができる。例えば、WilliamsらのDN&P
7(4), 205〜227(1994年);ArnericらのCNS Drug Rev. 1(1), 1〜26(1995年);ArnericらのExp. Opin. Invest. Drugs 5(1), 79-100(1996年);BencherifらのJPET 279, 1413(1996年);LippielloらのJPET 279, 1422(1996年);DamajらのNeuroscience(1997年);HolladayらのJ. Med. Chem 40(28), 4169-4194(1997年);BannonらのScience 279, 77-80(1998年);PCT WO 94/08992;PCT WO 96/31475;Bencherifらの米国特許第5,583,140号;Dullらの米国特許第5,597,919号;およびSmithらの米国特許第5,604,231号を参照。それらの開示は全体として参照により本明細書に加入される。
【0039】
本化合物は患者の脳のニコチン性受容体を調節する。そのため、このような化合物はニコチン性薬理作用を発現し、特にニコチン性部分アゴニストとして作用することができる。
【0040】
受容体結合定数は化合物が特定の患者の脳細胞の関連受容体部位の半分と結合する能力の尺度となる。ChengらのBiochem. Pharmacol. 22, 3099(1973年)を参照。塩を製造するために使用される(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−
4−ペンテン−2−アミン化合物は関連受容体との結合親和性に関して低いnM濃度で極めて高い親和性を示す。
【0041】
本化合物は神経細胞からの神経伝達物質分泌を効果的に調節することによりニコチン性機能を示すことができる。そのため、このような化合物は神経細胞による関連するアセチルコリン、ドーパミンおよび他の神経伝達物質の放出に影響を与える能力を有する。
【0042】
本化合物は本明細書で開示される方法に従って有効量で使用されると、少なくともCNS神経細胞活性の調節に必要な濃度より高い濃度で特定の関連するニコチン性受容体に対して選択的であるが、望ましくない副作用と関係がある受容体の有意な活性化を引き起こさない。心血管系副作用に関与する神経節型の受容体に対する本化合物の選択性は本化合物がCNS神経細胞活性の調節に必要な濃度より高い濃度で副腎クロム親和性組織のニコチン性機能を活性化することができないということにより証明される。したがって、本化合物の投与は特定のCNS疾患の治療がもたらされ、特定の副作用が回避される治療濃度域を与える。すなわち、本化合物の有効投与量はCNS疾患に対して所望の効果をもたらすのに十分であるが、望ましくない副作用をもたらすのには不十分である(すなわち十分高い濃度ではない)。
【0043】
医薬組成物は神経変性疾患、精神神経疾患、神経疾患および依存症を含むがこれらに限定されない様々なCNS疾患の治療において有用である。医薬組成物は認知障害(加齢によるものなど)、注意障害および認知症(病原菌または代謝障害によるものを含むがこれらに限定されない)を治療するために;神経保護効果をもたらすために;痙攣および多発性脳梗塞を治療するために;気分障害、衝動強迫および常習行為を治療するために;鎮痛効果をもたらすために;そして(例えばサイトカインおよび核因子κBが関与する)炎症を抑え、炎症性疾患を治療するために使用することができる。本発明の医薬組成物を使用して治療することができる障害、疾患および症状は:加齢による記憶障害、軽度の認識機能障害、初老期認知症(早期アルツハイマー病)、 老年性認知症(アルツハイマー型認知症)、レビー小体型認知症、血管性認知症、アルツハイマー病、卒中、エイズによる認知症、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、統合失調症、 統合失調症様障害、統合失調性感情障害、パーキンソン病を含むパーキンソン症候群、ピック病、ハンチントン舞踏病、遅発性ジスキネジー、運動過剰症、進行性核上麻痺、クロイツフェルド・ヤコブ病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、癲癇、鬱病、パニック障害、双極性障害、全般性不安障害、強迫神経症、激しい怒りの爆発、トゥレット症候群、自閉症、薬物およびアルコール依存、タバコ中毒、肥満症、急性疼痛、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、悪液質、変形性関節炎、乾癬、関節リウマチ、内毒素血症、敗血症、喘息、アテローム性動脈硬化症および特発性肺線維症である。
【0044】
したがって、本発明は治療における上記塩の使用に関する。本発明はさらに中枢神経系疾患を治療するための薬剤の製造における前記塩の使用に関する。治療的に有効な量の本発明の塩を治療の必要な哺乳動物に投与することからなる中枢神経系疾患の治療法もまた提供される。さらに、加齢による記憶障害、軽度の認識機能障害、初老期認知症(早期アルツハイマー病)、老年性認知症(アルツハイマー型認知症)、レビー小体型認知症、血管性認知症、アルツハイマー病、卒中、エイズによる認知症、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、統合失調症、統合失調症様障害および統合失調性感情障害からなる群より選択される疾患の治療法が提供される。さらにまた、アルツハイマー病に関連する認知症、注意欠陥障害、軽度の認識機能障害および加齢による記憶障害からなる群より選択される疾患の治療法が提供される。
【0045】
IV. 医薬組成物
本発明の一態様によれば、活性成分として治療的に有効な量の(2S)−(4E)−N−メチル
−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの塩形態を1種またはそれ以上の薬学的に許容しうる希釈剤、賦形剤および/または不活性担体と一緒に含有する医薬組成物が提供される。
【0046】
組成物が投与される方法はいろいろある。本化合物は吸入により(例えば鼻内的にエアロゾル剤の形態で、またはBrooksらの米国特許第4,922,901号(その開示は全体として参照により本明細書に加入される)に記載のようなデリバリー製剤を使用して);局所的に(例えばローション剤として);経口的に(例えば水性または非水性液体のような溶媒中の液剤として;静脈内的に(例えばデキストロースまたは食塩水溶液として);注入剤または注射剤として(例えば薬学的に許容しうる液体または液体の混合物中における懸濁剤または乳剤として);髄腔内的に;脳室内的に;あるいは経皮的に(例えば経皮パッチを使用して、または粉末注射剤により)投与することができる。本組成物をバルク活性物質の形態で投与することができるが、効率的で効果的な投与のためには各化合物を医薬組成物の形態で提供することが好ましい。このような化合物を投与するための典型的な方法は当業者によく知られている。例えば、本組成物は錠剤、硬質ゼラチンカプセル剤の形態で、または持続放出型カプセル剤として投与することができる。本明細書で開示される医薬組成物の投与は温血動物(例えばマウス、ラット、ネコ、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシまたはサルのような哺乳動物)に対して断続的に、あるいは漸増的に、連続的に、一定の、または制御された速度で行なうことができるが;有利にはヒトに好ましく投与される。さらに、医薬組成物が投与される時刻および1日の投与回数は変動する。投与は好ましくは医薬組成物の活性成分が患者の体内で受容体部位と相互作用してCNSの機能に効果をもたらすように行なわれる。さらに詳しくは、CNS疾患の治療において、投与は好ましくは筋肉型の受容体サブタイプに対する効果を最小限にしながら、CNSの機能に対する効果を有する関連の受容体サブタイプに対する効果を最適にするように行なわれる。
本化合物の適当な投与量は疾患の症状の発現を予防する、または患者がかかっている疾患のある症状を治療するのに効果的な量である。「有効量」、「治療量」または「有効な投与量」とは所望の薬理的または治療的効果を引き出し、それにより疾患の効果的な予防または治療をもたらすのに十分な量を意味する。したがって、CNS疾患を治療する場合、化合物の有効量は患者の血液脳関門を通過するのに、患者の脳内の関連受容体部位と結合するのに、または関連するニコチン性受容体サブタイプの活性を調節する(例えば神経伝達物質の分泌を調節し、それにより疾患の効果的な予防または治療をもたらす)のに十分な量である。疾患の予防効果は疾患の症状の発現を遅らせることにより現れる。疾患の治療効果は疾患と関係がある症状の緩和または疾患の症状の再発の軽減により現れる。
【0047】
有効な投与量は患者の状態、疾患の症状の重症度、および医薬組成物が投与される方法のような要因に応じて変動する。ヒト患者の場合、典型的な化合物の有効な投与は一般に化合物を神経伝達物質(例えばドーパミン)の放出に影響を与える関連受容体を調節するのに十分な量で投与することを必要とするが、その量は骨格筋および神経節に対する効果を有意な程度まで引き起こすには不十分でなければならない。もちろん、化合物の有効な投与量は患者によって異なり、一般にはCNS作用または他の望ましい治療効果をもたらすが筋肉および神経節に対する効果が観察される量よりも低い量を包含する。
【0048】
典型的には、化合物の有効な投与は化合物を患者の体重に基づいて5mg/kg未満の量で投与することを必要とする。大抵は、化合物は患者の体重に基づいて約1mg/kg未満〜約100μg/kg未満、時には約10μg/kg〜100μg/kg未満の量で投与することができる。前記有効投与量は典型的に単回投与として投与される量、あるいは24時間に1回またはそれ以上の投与として投与される量を意味する。
【0049】
ヒト患者の場合、化合物の有効な投与は化合物を少なくとも約1、多くて約1000、大抵は多くて約500mg/24時間/患者の量で投与することを必要とする。
【0050】
本化合物はまた、他の成分、例えば診断組成物を製剤化するのに有用な成分を含有する製剤組成物として投与することができる。診断剤として有用な組成物はElmalchらの米国
特許第5,853,696号およびLondonらの同第5,969,144号に記載のようにして使用することができ、それらの内容は参照により本明細書に加入される。
【0051】
本化合物はまた、CNS疾患の治療および/または予防において使用されるような他の治療化合物と組合せて製剤化および/または投与することができる。
米国仮出願番号No.60/746,808は全体として参照により本明細書に加入される。
【実施例】
【0052】
V.実施例
次の実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はそれらに制限されない。これらの実施例において、特に断りがなければ、すべての部および百分率は質量に基づいている。
[実施例1]
関連受容体部位との結合の測定
化合物と関連受容体部位との結合をMazurovらの米国特許No.6,953,855に記載の方法に従って測定した。nM単位で示される阻害定数(Ki値)はChengらのBiochem, Pharmacol. 22,
3099(1973年)に記載の方法を使用してIC50値から計算した。低い結合定数は本発明の化合物が特定のCNSニコチン性受容体との結合に対して良好な高い親和性を有することを示している。
【0053】
[実施例2]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの合成
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンをCaldwellらのPCT WO 99/65876および米国特許出願11/270,018に記載の手順に従って製造した。
【0054】
[実施例3]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンリン酸塩の結晶化
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(452mg)をアセトン(3.0mL)に溶解し、リン酸水溶液(130μL、>85%)を加えた。得られた粘着性の沈殿物を一晩放置した。次に、アセトンを蒸発させ、少量のn−ヘプタンを加えた。溶媒を再び蒸発させた。固体を真空下で乾燥してすべての溶媒残留物を除去した。次に、2−プロパノール(2mL)を加えた。数分後、針状結晶が生成した。スラリーを撹拌しながら一晩放置した後、結晶をろ過し、乾燥した。結晶性物質を後の実施例で種結晶として使用した。
融点を示差走査熱量測定法(DSC)により10K/分の速度で測定した。リン酸塩の融点は107.3℃(開始時)であり、ピーク値は108℃である。
【0055】
[実施例4]
リン酸塩の製造(溶媒として2−プロパノール)
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(829mg)を20℃で2−プロパノール(4mL)に溶解した。透明な溶液にリン酸水溶液(0.24mL、>85%)を加え、実施例3からの種結晶を加えた。結晶化は起こらなかった。1時間後、溶媒を蒸発させた。第2部分の2−プロパノール(4mL)を加え、固体を数分間でスラリー化し、再び溶媒を完全に蒸発させた。この蒸発操作を乾燥した試料が得
られるまで最初は2−プロパノール(3mL)、次はイソ−オクタン(4mL)で2回繰り返した。得られた固体を一晩撹拌しながら2−プロパノール(3mL)中でスラリー化した。次に、生成物をろ過し、40℃で真空乾燥して約0.85gの結晶性塩を得た。次のNMRデータを得た:
NMR:1H (500MHz, DMSO-d6):8.17(1H,d), 8.09 (1H,d), 7.46 (1H,t), 6.46 (2H,m), 4.75 (1H, 七重項), 3.04 (1H,m), 2.63(1H,m), 2.47(3H,s), 2.38(1H,m), 1.27(6H,d), 1.18 (3H,d)。
【0056】
塩の酸と塩基の比率は1:1である。
NMRの略語:
s 一重項
d 二重項
t 三重項
m 多重項
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0057】
結晶をXRPDにより分析した。その結果を下表に記載する(表1)。
【表1】

【表2】

【0058】
使用される定義:
相対強度(%) 定義
80〜100 vs (非常に強い)
30〜80 s (強い)
4〜30 m (中程度)
2〜4 w (弱い)
<2 vw (非常に弱い)
相対強度は可変スリットで測定された回折図形から得られる。
【0059】
[実施例5]
リン酸塩の製造(アセトンを溶媒として使用し、その後蒸発により除去する)
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(941mg)を室温でアセトン(5mL)に溶解し、リン酸(270μl、>85%)を加えた。得られた粘着性の沈殿物を蒸発により完全に乾燥した。次に、アセトン(5mL)を加えた。固体物質は結晶化し始め、1時間でスラリー化し、さらにアセトンを加えた(10mL)。得られたスラリーを撹拌しながら一晩放置した後、それをろ過し、アセトン(2×2mL)で洗浄した。生成物を40℃で真空乾燥して1.12gの結晶性(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンリン酸塩を約84%の収率で得た。
【0060】
[実施例6]
リン酸塩の製造(アセトンを溶媒として使用し、蒸発操作はない)
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(1.14g)を室温でアセトン(10mL)に溶解し、リン酸(200μl、>85%)を加えた。実施例3からの種結晶を加えた。次に、第2部分のリン酸(127μl)を加えた。数分後に結晶化が開始した。追加のアセトン(5mL)を加えてスラリーを希釈した。
得られた粘着性のスラリーを撹拌しながら一晩放置した後、それをろ過し、アセトン(全部で10mL)で3回洗浄した。生成物を40℃で真空乾燥して1.17gの結晶性(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンリン酸塩を約73%の収率で得た。
【0061】
[実施例7]
リン酸塩の製造(酢酸エチルを溶媒として使用し、蒸発操作はない)
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(910mg)を室温で酢酸エチル(12mL)に溶解し、リン酸(260μL、>85%)を加えた。最初に粘着性の塊が生成した。実施例5からの種結晶を加えると、徐々にスラリーが生成した。スラリーを一晩放置した後、それをろ過し、酢酸エチル(4×2mL)で4回洗浄した。生成物を40℃で真空乾燥して1.09gの結晶性(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−
(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンリン酸塩を約85%の収率で得た。
【0062】
[実施例8]
リン酸塩の製造(アセトニトリルを溶媒として使用し、蒸発操作はない)
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(1.06g)を室温でアセトニトリル(13mL)に溶解し、リン酸(305μL、>85%)を加えた。最初に幾らか粘着性の沈殿が生成した。次に、実施例7からの種結晶を加えた。数分後に結晶化が開始し、その試料を撹拌しながら一晩放置した。次に、アセトニトリル(3mL)を加えた後、それをろ過し、アセトニトリル(2×3mL)で2回洗浄した。生成物を40℃で真空乾燥して1.47gの結晶性(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンリン酸塩を約98%の収率で得た。
【0063】
[実施例9]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンエジシル酸塩の結晶化
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(403mg)を室温で2−プロパノール(4mL)に溶解し、1,2−エタンジスルホン酸(331mg、95%)を加えた。最初に、透明な溶液を得たが、数分後に結晶化が自然に開始した。得られたスラリーを撹拌しながら一晩放置した。結晶をろ過し、2−プロパノール(2×1mL)で洗浄し、50℃で真空乾燥して520mgの結晶性(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンエジシル酸塩を約74%の収率で得た。
融点は示差走査熱量測定法(DSC)により10K/分の速度で測定した。エジシル酸塩は融点が183.2℃(開始時)であり、ピーク値は184℃である。
塩の酸と塩基の比率は1:1である。
NMR:1H (500MHz, DMSO−d6):8.57 (1H,d), 8.50 (1H,d), 8.5 (2H,m), 8.16 (IH, br t), 6.69 (2H, br t), 4.93 (IH, 七重項), 3.32 (1H,m), 2.73 (4H,s), 2.7 (1H,m), 2.60 (3H, br t), 2.5 (1H,m), 1.34(6H,d), 1.25 (3H,d)。
【0064】
NMRの略語:
br 幅広い
s 一重項
d 二重項
t 三重項
m 多重項
【0065】
【表3】

【0066】
使用される定義:
相対強度(%) 定義
− vs (非常に強い)
60〜100 s (強い)
20〜60 m (中程度)
8〜20 w (弱い)
<8 vw (非常に弱い)
相対強度は可変スリットで測定された回折図形から得られる。
【0067】
[実施例10]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンエジシル酸塩の結晶化(アセトンからの結晶化)
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(786mg)を室温でアセトン(10mL)に溶解し、1,2−エタンジスルホン酸(672mg、95%)を加えた。最初に、粘着性の沈殿が生成した。種結晶を加えると、物質は結晶化し始めた。3時間後、さらにアセトン(3mL)を加えた。次に、得られたスラリーを撹拌しながら一晩放置した。結晶をろ過し、アセトン(5mL)で洗浄し、50℃で真空乾燥して1.05gの結晶性(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン−エジシル酸塩を約76%の収率で得た。
【0068】
[実施例11]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンエジシル酸塩の結晶化(アセトニトリルからの結晶化)
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン(932mg)を室温でアセトニトリル(15mL)に溶解し、1,2−エタンジスルホン酸(797mg、95%)を加えた。実施例10からの物質を種結晶として加えると、それは結晶化し始めた。次に、得られたスラリーを撹拌しながら一晩放置した。結晶をろ過し、酢酸エチル(2×2mL)で洗浄し、40℃で真空乾燥して1.23gの結晶性(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンエジシル酸塩を約75%の収率で得た。
【0069】
[実施例12]
非晶質の(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンのクエン酸塩の製造
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミン遊離塩基(403mg)を2−プロパノール(4mL)に溶解し、クエン酸一水和物(363mg)を加えた。粘着性の沈殿が生成し、それを蒸発により乾燥した。得られた物質をエタノール(4mL)に完全に溶解し、再び蒸発乾固した。非晶質固体の物質が生成した。その物質を2−プロパノール(2mL)中でスラリー化し、蒸発乾固した。次に、その物質をメチルイソブチルケトン(MiBK、3mL) 中でスラリー化した。溶媒を完全に蒸発させ、その物質をアセトン(8mL)中でスラリー化した。最後に、アセトンを蒸発させ、室温で真空乾燥した後に非晶質の物質を得た。
【0070】
[実施例13]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンのオロチン酸(ウラシル−6−カルボン酸)塩の製造
オロチン酸(0.663g、4.25ミリモル)を無水エタノール(6mL)中における(2S)−(4E)−N−メチル−5−(3−(5−イソプロポキシピリジン)イル)−4−ペンテン−2−アミン(1.00g、4.27ミリモル)の溶液に加えた。混合物を撹拌し、加熱還流して殆んどすべての固体を溶解した。溶液を回転蒸発により濃縮してオフホワイト色の泡状物を得た。残留物を加熱しながら酢酸エチル(7.8mL)および無水エタノール(1.8mL)に溶解した。得られた溶液を5℃まで冷却し、さらに酢酸エチル(6.8mL)およびエタノール(0.8mL)を加えた。混合物を加熱し、溶液を周囲温度まで冷却した。微細な白色の固体を含有する得られた混合物を5℃
まで48時間冷却した。固体をろ過し、冷酢酸エチル(3×3mL)で洗浄し、真空下、40℃で22時間乾燥し、さらに50℃で3時間乾燥して1.523g(91.4%)の白色の粉末を得た。融点128.5〜132℃(Fisher−Johns高熱期)。元素分析およびNMRは共に1:1の化学量論比と一致した。
理論値(C14H22N2O・C5H4N2O4として):C, 58.45%;H, 6.71%;N, 14.35%。実測値:C, 58.63%;H, 6.67%;N, 14.42%。次のNMRデータを得た:NMR:1H (300MHz, D2O):8.16 (1H,d), 8.10 (1H,d), 7.45 (1H,t), 6.62 (1H,d), 6.35 (1H,m), 6.15 (1H,s), 4.76 (1H, 七重項), 3.46 (1H,m), 2.73 (3H,s), 2.64 (2H,m), 1.38 (3H,d), 1.36 (6H,d)。
【0071】
[実施例14]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5− イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンのR−マンデル酸塩の製造
R−マンデル酸(0.207g、1.35ミリモル)をイソプロパノール(2mL)中における(2S)−(4E)−N−メチル−5−(3−(5−イソプロポキシピリジン)イル)−4−ペンテン−2−アミン(0.319g、1.35ミリモル)の溶液に加えた。混合物をかき混ぜてマンデル酸を溶解し、イソプロパノールを回転蒸発により除去した。油性残留物はアセトンおよびヘキサンの様々な混合物から結晶化しなかったので、これらの溶媒を回転蒸発により除去した。残留物は酢酸エチルおよびジエチルエーテルの混合物混合物から結晶化しなかったので、混合物を再び回転蒸発により濃縮した。この残留物を冷蔵庫(〜5℃)に72時間入れた。得られた固体塊を粉砕して窒素気流下で乾燥した。これをヘキサン/アセトンから再結晶して487mg(93%)の針状結晶(融点87〜89℃;Fisher−Johns高熱期)を得た。1H NMRは1:1の化学量論比を示した。
次のNMRデータを得た:
NMR:1H (300MHz, D2O):8.17 (1H,d), 8.09 (1H,d), 7.45 (1H,t), 7.43 (5H,m), 6.62 (1H,d), 6.35 (1H,m), 5.00 (1H,s), 4.76 (IH, 七重項), 3.43 (1H,m), 2.73 (3H,s), 2.64 (2H,m), 1.38 (3H,d), 1.36 (6H,d)。
【0072】
[実施例15]
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル−4−ペンテン−2−アミンの硫酸塩、1,5−ナフタレンジスルホン酸塩(1:1および2:1)、D−アスパラギン酸塩(1:2)およびリシン一塩酸塩(1:1および1:2)の製造
これらの塩はすべて同様にして製造することができる:
(i) 遊離塩基または適当な溶媒中における遊離塩基の溶液を純粋な形態の何れかの酸または適当な溶媒中における何れかの酸の溶液(典型的には0.5〜1当量の酸)と混合し、
(iia) 得られる塩溶液を必要に応じて冷却して塩を析出させ、または
(iib) 適当な貧溶媒を加えて塩を析出させ、または
(iic) 最初の溶媒を蒸発させ、新しい溶媒を加えて工程(iia)または工程(iib)を繰り返し、そして
(iii) 塩をろ過し、集める。
前記態様は本発明の単なる例示であり、本発明を制限するものではない。本発明は特許請求の範囲で定義されており、その等価物は本発明の範囲内に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンの、リン酸塩、エジシル酸(1,2−エタンジスルホン酸)塩、クエン酸塩、オロチン酸(ウラシル−6−カルボン酸)塩、R−マンデル酸塩、硫酸塩、1,5−ナフタレンジスルホン酸塩、D−アスパラギン酸塩またはリシン一塩酸塩。
【請求項2】
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンと酸の化学量論比(モル比)は1:2〜2:1である、請求項1記載の塩。
【請求項3】
(2S)−(4E)−N−メチル−5−[3−(5−イソプロポキシピリジン)イル]−4−ペンテン−2−アミンと酸の化学量論比(モル比)は1:1である、請求項1記載の塩。
【請求項4】
実質的に結晶性の形態である、請求項1記載のリン酸塩または1,2−エタンジスルホン酸塩。
【請求項5】
特定ピークが18.6、9.3、4.25、3.99および3.11Åのd−値に存在し、そして/または本質的に表1で定義されたようなX−線粉末回折パターンを有する、請求項1記載のリン酸塩。
【請求項6】
特定ピークが5.6、4.33、4.19および3.76Åのd−値に存在し、そして/または本質的に表2で定義されたようなX−線粉末回折パターンを有する、請求項1記載のエジシル酸塩。
【請求項7】
治療に使用される、請求項1〜6の何れかの項記載の塩。
【請求項8】
中枢神経系疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜6の何れかの項記載の塩の使用。
【請求項9】
中枢神経系疾患の治療の必要な哺乳動物に治療的に有効な量の請求項1〜6の何れかの項記載の塩を投与することからなる、該疾患の治療法。
【請求項10】
疾患は、加齢による記憶障害、軽度の認識機能障害、初老期認知症(早期アルツハイマー病)、老年性認知症(アルツハイマー型認知症)、レビー小体型認知症、血管性認知症、アルツハイマー病、卒中、エイズによる認知症、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、統合失調症、統合失調症様障害および統合失調性感情障害からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
疾患は、アルツハイマー病に関連する認知症、注意欠陥障害、軽度の認識機能障害および加齢による記憶障害からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
活性成分として治療的に有効な量の請求項1〜6の何れかの項記載の塩を、1種またはそれ以上の薬学的に許容しうる希釈剤、賦形剤および/または不活性担体と一緒に含有する、医薬組成物。
【請求項13】
中枢神経系疾患を治療するための、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
活性成分として請求項1〜6の何れかの項記載の塩を含有する、中枢神経系疾患を治療
するための薬剤。

【公表番号】特表2009−536665(P2009−536665A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510143(P2009−510143)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/068452
【国際公開番号】WO2007/134038
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【出願人】(508241196)ターガセプト・インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】