説明

(R)−トフィソパムを単離する方法

本発明は、(R)−トフィソパムを、高い鏡像異性体純度で、そして高い全体的収率で、トフィソパム鏡像異性体の混合物から、非シミュレート移動層クロマトグラフィー法によって分離するための方法に向けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラル分離用媒質を用いるトフィソパム鏡像異性体の混合物のクロマトグラフィーによる分離による(R)−トフィソパムの調製規模の単離に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トフィソパムの物理的特性/化学
トフィソパム(示した原子の番号付けを有する構造を下記に示す)は、強力なCNS調節活性を示す。トフィソパムは、1−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンである。
【化1】

【0003】
トフィソパムは、(R)−及び(S)−鏡像異性体のラセミ混合物として存在する。これは、ベンゾジアゼピン環の5位の不斉炭素(*により示される)のためである。不斉炭素は、4つの異なる結合原子団を有する炭素原子である。
【0004】
トフィソパムの分子構造及びコンホメーション特性は、NMR、CD及びX線結晶構造解析により決定された。Visy等、Chirality 1:271-275 (1989)(その全開示を、参考として本明細書中に援用する)を参照されたい。(R)−及び(S)−鏡像異性体として存在することに加えて、トフィソパムの各鏡像異性体は、2つの安定なコンホメーションで存在し、それは、一般に下記するようなベンゾジアゼピン環によるものと想定されうる。
【化2】

【0005】
旋光度の符号は、ジアゼピン環の一の配座異性体から他の配座異性体への転換によって逆転する。主たる配座異性体の(R)−(+)と(S)−(−)は、5−エチル基を、擬似赤道方向に有するが、少数配座異性体の(R)−(−)と(S)−(+)では、5−エチル基は、擬似軸方向に位置されている。従って、ラセミトフィソパムは、4種類の分子種として、即ち、それぞれ2つのコンホメーションで存在する2つの鏡像異性体として存在する。結晶形態では、トフィソパムは、主たるコンホメーションとしてのみ存在し、右旋性トフィソパムは、(R)絶対配置である。Toth等、J. Heterocyclic Chem., 20: 709-713 (1983);Bioorganic Heterocycles, Van der Plas, H.C., Otvos, L, Simongi, M.編、Budapest Amsterdam:Akademia; Kiado-Elsevier, 229:233 (1984)参照(すべての開示を、参考として、本明細書中に援用する)。
【0006】
トフィソパムの(R)−及び(S)−鏡像異性体は、異なる生物学的活性プロフィルを有することが示されている。特に、実質的にトフィソパムの(S)−鏡像異性体を含まないトフィソパムの(R)−鏡像異性体の利用は、不安の治療において有用であることが示されていて、逆効果を減じており、従って、ラセミトフィソパムの投与と比較して改良された治療インデックスを生じている。米国特許第6,080,736号参照(その全開示を、参考として、本明細書中に援用する)。
【0007】
トフィソパム − ラセミ化合物の合成法
ラセミトフィソパムは、3,4,3’,4’−テトラメトキシ−6−(α−アセト−プロピル)ベンゾフェノンをヒドラジン水化物と反応させて、対応するヒドラゾン、3,4,3’,4’−テトラメトキシ−6−(1−エチル−2−ヒドラゾノ−プロピル)ベンゾフェノンを形成することにより生成される。このヒドラゾンを、次いで、メタノール(MeOH)及びガス状塩化水素の存在下で環化させて、ラセミトフィソパムを生成する。米国特許第3,736,315号及び第6,080,736号を参照されたい(その全開示を参考として本明細書中に援用する)。このラセミトフィソパムの合成経路は、下記の通りである:
【化3】

【0008】
上記の反応から生じる生成物中の主な不純物は、出発物質の3,4,3’,4’−テトラメトキシ−6−(α−アセト−プロピル)ベンゾフェノン及びヒドラゾン中間体である。
【0009】
マクロサイクリック糖ペプチドを固定相として用い、10% MeOH(t−ブチルメチルエーテル中)を移動相として用いるChirobiotic V(商標)カラム(ASTEAC, ニュージャージー、Whippany在)でのキラルクロマトグラフィーによるトフィソパムの分離は、米国特許第6,080,736号中に開示されている。この方法において、(R)−(+)鏡像異性体は、カラムから溶出される最初の化合物であった。(R)−(−)−トフィソパム、(S)−(−/+)トフィソパム、及び残りの(R)−(+)−トフィソパムが一緒に溶出して、後続の画分に集められた。Fitos等(J. Chromatogr., 709 265 (1995))は、ラセミトフィソパムを、キラルα1−酸性糖タンパク質をCHIRAL-AGP(商標)カラム(ChromTech, 英国、Cheshire)上の固定相として利用し、10%ACN(pH7.0のリン酸緩衝液中)を移動相として利用するキラルクロマトグラフィーにより分離するための他の方法を開示している。Zsila等は、鏡像異性体を溶出させるのに40分よりも長くかかる方法において、Chiralcel(商標) OJ(商標)(Daicel)を固定相として利用し、n−へキサン、2−プロパノール及びMeOH(72:1.5:3)を移動相として利用する他のトフィソパムの分離を開示している。Fitos等及びZsila等の方法は、ナノグラム量のトフィソパムをカラムに加える試料を分析するための分析的方法である。これらの方法は、製造目的などの多量のトフィソパムの分離には適していない。
【0010】
開示された方法の何れも、薬物配合物の製造に適した化学的及び鏡像異性体純度の多量の(R)−トフィソパムの製造に最適化されていない。必要なものは、トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まない(R)−トフィソパムの分離のための産業上利用可能な手順であり、それは、下記の通りである:
(a)高い化学的純度を与え;
(b)高い鏡像異性体的純度を与え;
(c)高い(R)−トフィソパムの収率を与え;そして
(d)上記の特徴を、経済的に実行可能な工程にて与える。
【0011】
発明の概要
トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まない(R)−トフィソパムを、トフィソパム鏡像異性体の混合物から分離するための方法であって、トフィソパム鏡像異性体の混合物の供給原料溶液を、キラル分離用媒質を含む非シミュレート(non-simulated)移動層システムに導入すること及び、該キラル分離用媒質からの溶離液中の(R)−トフィソパムを分離することを含む当該方法を提供する。
【0012】
この発明の一具体例において、この方法は、次の工程を含む:
a)トフィソパム鏡像異性体の混合物の供給原料溶液を形成し;
b)前記のラセミトフィソパムの供給原料溶液を、実質的に一定温度に維持された非シミュレート移動層システムに導入し、該システムは、複数のクロマトグラフィーカラムを含み、各カラムは吸着剤を含み、該カラムはシリーズで及びループ状に配置され、該ループは、供給原料の入口点、抽残液出口点、溶媒入口点、及び抽出物出口点を含み、このループの入口点と出口点の間の部分は、クロマトグラフィー域を規定し;
c)溶媒を、前記のシステムに、前記の溶媒入口点から導入し;
d)該入口点及び出口点の位置を変え(該入口点の変化は、該出口点の変化と実質的に異なる時点で起きる);
e)(R)−(−)−トフィソパム、(S)−(+)−トフィソパム、及び(S)−(−)−トフィソパムを、該ループから、該抽残液引き出し点で取り出し;そして
f)(R)−トフィソパムを、該抽出物出口点から集める。
【0013】
一具体例において、吸着剤は、少なくとも一種の糖誘導体よりなるキラル固定相を含む。
【0014】
他の具体例において、吸着剤は、セルローストリス4−メチルベンゾエート;セルローストリシンナメート;アミローストリス[(S)−α−メチルベンジルカルバメート];アミローストリス−(3,5−ジメチルフェニル)カルバメート;及び式Iのアミロース誘導体よりなる群から選択するキラル固定相を含む:
【化4】

[式中、各R1は、下記式IIの基である:
【化5】

(式中、R2及びR3は、独立に、塩素及び−CH3よりなる群から選択され;nは約2〜250の、好ましくは約10〜150の;一層好ましくは約10〜100の整数であり;該アミロース誘導体は、多孔性無機支持体又は多孔性有機支持体上に被覆され又はそれらに共有結合される)]。
【0015】
一具体例において、この吸着剤は、アミローストリス−(3,5−ジメチルフェニル)カルバメートのキラル固定相を含む。
【0016】
好適具体例において、この吸着剤は、下記式Iaのアミロース誘導体を含む:
【化6】

(式中、nは、約10〜100の整数である)。
【0017】
本発明の一具体例において、この溶媒は、C1〜C10アルカン、C1〜C6アルコール、C1〜C6アルコールの酢酸エステル、C1〜C6アルコールのプロピオン酸エステル、C1〜C10ケトン、C1〜C10エーテル、ハロゲン化C1〜C10炭化水素、トリフルオロ酢酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル及びこれらの組合せよりなる群から選択される。
【0018】
好適具体例において、この溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、アセトン、ブタノン、イソプロピルメチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、トリフルオロ酢酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル及びこれらの組合せよりなる群から選択される。一層好適な具体例において、この溶媒は、アセトニトリルとメタノールの混合物である。最も好適な具体例において、この溶媒は、アセトニトリルである。
【0019】
本発明の他の具体例において、この溶媒は、アセトニトリル、メタノール及びこれらの混合物よりなる群から選択され、キラル固定相は、セルローストリス4−メチルベンゾエート;セルローストリシンナメート;アミローストリス[(S)−α−メチルベンジルカルバメート];アミローストリス(3,5−ジメチルフェニル)カルバメート;及び上記の式Iのアミロース誘導体よりなる群から選択される。
【0020】
一具体例において、この溶媒は、アセトニトリルであり、キラル固定相は、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニル)カルバメートである。
【0021】
好適具体例において、この溶媒は、アセトニトリルであり、キラル固定相は、上記の式Iaのアミロース誘導体である。
【0022】
本発明のある具体例において、実質的に一定の温度は、約0〜60℃、一層好ましくは約25〜45℃であり、最も好ましくは約40℃である。
【0023】
幾つかの具体例において、分離すべきトフィソパム鏡像異性体の混合物は、ラセミ混合物であってよい。他の具体例において、トフィソパム鏡像異性体の混合物は、ラセミ混合物以外のものであってよい。
【0024】
幾つかの具体例において、この溶媒系は、クロマトグラフィー分離中、定組成である。他の具体例においては、この溶媒系は、第一の溶媒組成から第二の組成への勾配を含むことができる。
【0025】
この発明の幾つかの具体例において、キラル分離用媒質は、クロマトグラフィーカラムに含まれる。
【0026】
この発明の幾つかの具体例において、キラル分離用媒質は、複数のクロマトグラフィーカラムに含まれる。
【0027】
別の例において、トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まないトフィソパムの(R)−鏡像異性体は、少なくとも約65重量%の、好ましくは少なくとも約70重量%の、一層好ましくは少なくとも約75重量%の、尚一層好ましくは少なくとも約85重量%の収率で分離される。
【0028】
別の例において、トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まないトフィソパムの(R)−鏡像異性体は、98%鏡像異性体過剰より高い胸像異性体純度で分離される。
【0029】
式I又は式Iaのアミロース誘導体を支持するための適当な有機支持体には、例えば、ポリスチレン、ポリアクリルアミド及びポリアクリレートが含まれる。式Iのアミロース誘導体を支持するための適当な多孔性無機支持体には、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン及びシリケートが含まれる。式I又は式Iaのアミロース誘導体は、この支持体上に被覆され又はそれに共有結合されうる。この式I又は式Iaのアミロース誘導体を支持するための支持体は、約10〜100ミクロンの、好ましくは約10〜50ミクロンの、一層好ましくは約10〜30ミクロンの、最も好ましくは約20ミクロンの粒度を有する。
【0030】
この発明の他の具体例において、トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まないトフィソパムの(R)−鏡像異性体を与え、その(R)−鏡像異性体は、95%より高い鏡像異性体過剰を有する。
【0031】
この発明の他の具体例において、トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まないトフィソパムの(R)−鏡像異性体を与え、その(R)−鏡像異性体は、98%より高い鏡像異性体過剰を有する。
【0032】
この発明の他の具体例において、トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まないトフィソパムの(R)−鏡像異性体を与え、その(R)−鏡像異性体は、99%より高い鏡像異性体過剰を有する。
【0033】
他の具体例において、この発明は、高い鏡像異性体純度及び高い全体的収率を有するトフィソパムの(R)−鏡像異性体の分離のための改良された方法を提供する。
【0034】
本発明は、トフィソパム鏡像異性体の溶液を形成して、それらのトフィソパムの鏡像異性体を非シミュレート移動層クロマトグラフィーにより分離することによって、(R)−トフィソパムを得るための方法を提供する。トフィソパム鏡像異性体の溶液は、ループにて結合された少なくとも2つのカラムを通され、これらのカラムは、固体のキラル固定相を含んでいる。
【0035】
図面の簡単な説明
図1は、トフィソパムの鏡像異性体の溶出順序を例示している、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び100%ACNを含む溶媒系を利用するラセミトフィソパムの再構成されたクロマトグラフィー分離のダイヤグラムを示している。
図2は、過剰注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び100%ACNを含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離を示している。
図3は、希釈注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び85%ACN/15%MeOH(V/V)を含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離のダイヤグラムを示している。
図4は、過剰注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び85%ACN/15%MeOH(V/V)を含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離のダイヤグラムを示している。
図5は、過剰注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び81%ACN/19%MeOH(V/V)を含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離のダイヤグラムを示している。
【0036】
発明の詳細な説明
キラル分離用媒質の選択は、トフィソパムの分離における使用のために実験的に評価された。殆どの実験的分離は、キラル分離用媒質はトフィソパム鏡像異性体の満足すべき分離を提供できないか又はトフィソパム鏡像異性体を分離するのに最適化する際に長い滞留時間を示すので、不満足なものであるということが見出された。
【0037】
トフィソパムの(R)−鏡像異性体についての滞留時間は、トフィソパム鏡像異性体の分離において重要な因子である。これは、何故溶液中の(R)−鏡像異性体が(R)−(+)及び(R)−(−)配座異性体の間で平衡を示すかの理由である。溶液中の(R)−トフィソパムの平衡組成は、約85%の(R)−(+)配座異性体と約15%の(R)−(−)配座異性体である。この平衡は、クロマトグラフィー分離中、持続する。トフィソパム鏡像異性体及び配座異性体は、この混合物から、分離用媒質にて分離されるので、それらは、溶媒系の流れによって移動する「バンド」と呼ばれる精製された単一の異性体の領域を形成する。主たる(R)−鏡像異性体の配座異性体である(R)−(+)は、この分離用媒質によって最も保持され、(R)−(−)配座異性体は、最も少ししか保持されない。この分離中、主たる(R)−(+)配座異性体は、少数の(R)−(−)配座異性体に対する有限の比で平衡化する。これは、バンドを広げる結果となり、クロマトグラフィー分離により分離される(R)−トフィソパムの収率を有意に下げる結果となる。従って、(R)−トフィソパムの分離を一層短い間隔で達成する分離条件は、時間の関数としての(R)−トフィソパムの配座異性体の平衡化が最小化され、主たる配座異性体の(R)−トフィソパムの収率が増大するので、有利である。
【0038】
本発明は、トフィソパム鏡像異性体の混合物のクロマトグラフィー分離により、実質的に(S)−鏡像異性体のトフィソパムを含まない(R)−トフィソパムを単離するためのキラルクロマトグラフィー法を提供する。本発明の方法は、分析的応用のための小規模の試料に適用可能であり、且つ多量の(R)−トフィソパムの調製において特に有用である。この方法は、迅速であり、高収率であり、且つ高い化学的純度及び鏡像異性体純度の(R)−トフィソパムを提供する。この方法は、トフィソパム鏡像異性体のラセミ混合物及びラセミ混合物以外のトフィソパム混合物例えば部分的に分離されたトフィソパムを分離するために利用することができる。この方法に供給されるトフィソパムは、(R)−及び(S)−鏡像異性体及びそれぞれの配座異性体以外の更なる不純物を含んでいてよい。かかる更なる不純物には、例えば、トフィソパム合成における合成中間体が含まれうる。
【0039】
表現「分離用媒質」は、分離すべき成分の混合物が、クロマトグラフィー分離中に、該媒質において差別的に吸着される物質を意味する。この物質は、クロマトグラフィー分離をクロマトグラフィーカラム中で行なう場合には、しばしば、「固定相」と呼ばれる。
【0040】
表現「キラル分離用媒質」は、分離用媒質が、光学活性な化合物の2つの鏡像異性体と異なって相互作用するようにキラル官能基を含むことを意味する。
【0041】
表現「溶媒系」は、成分の混合物が異なって吸着されている分離用媒質から分離すべき成分の混合物を溶出させる溶媒又は溶媒の混合物を意味する。「慣用のカラムクロマトグラフィー」では、この物質は、「移動相」と呼ばれる。
【0042】
用語「吸着する」及び「吸着」は、分離用媒質と、その分離用媒質上のクロマトグラフィーによって分離すべき混合物の成分との間の相互作用をいう。
【0043】
用語「定組成」は、溶媒系の組成が、クロマトグラフィー操作中一定であることを意味する。
【0044】
用語「勾配」は、クロマトグラフィー分離におけるパラメーターとして用いる場合には、溶媒系の組成が、クロマトグラフィー操作中の少なくとも一の時間間隔にわたって変化することを意味する。この勾配は、直線的であってもよいし、段階的であってもよい。
【0045】
表現「吸着定数」及び記号K(数式中では上部に横棒を付して表す)は、クロマトグラフィー分離において、化合物が分離用媒質によって保持される程度を記述するものである。希釈単一成分系における化合物“a”についての吸着定数は、移動相(溶媒系)中の[a]の濃度Ca(g/l)の、固定相(分離用媒質)中の[a]の濃度Ca(数式中では上部に横棒を付して表す)(g/l)に対する比に等しい。多成分系の場合には、種々の成分が、分離用媒質上の限られた数の吸着部位について互いに競争する。従って、所定の種[a]の濃度は、その移動相濃度のみならず、系内の他のすべての成分の移動相濃度にも依存する。
【0046】
低濃度の2つの成分(A及びB)の混合物について、滞留時間tR(A)及びtR(B)は、下記式により、吸着定数と関係つけられる:
【数1】

[式中、用語εEは、「外部多孔度」であり、これは、VML/VCOLとして規定され、ここに、VMLは、移動中の(停滞してない)移動相の体積であり、VCOLは、クロマトグラフィーカラムの体積であり;そして
用語t0は、下記の表現:
【数2】

(式中、Qは、移動相の流量である)
により規定される「ゼロ滞留時間」である]。従って、1mL/分の流量で運転され、外部多孔度0.4を有する250mm×4.6mmのクロマトグラフィーカラムについては、計算されたゼロ滞留時間は:
【数3】

【0047】
用語、分離用媒質における2つの成分間の「選択性」は、2つの成分がクロマトグラフィー分離において分離される程度の尺度である。選択性は、“α”として表され、2つの成分それぞれの滞留因子の比として定義される:
【数4】

【0048】
表現「光学活性」は、物質が偏光面を回転させる特性をいう。光学活性である化合物は、その鏡像と重ね合わせられない。物がその鏡像と重ね合わせられない特性は、キラリティーと呼ばれる。
【0049】
分子の「キラリティー」特性は、分子をその鏡像に対して重ね合わせられなくする任意の構造的特長から生じうる。キラリティーを生じる最も一般的な構造的特徴は、不斉炭素原子即ち当該炭素原子に結合する4つの同等でない原子団を有する炭素原子である。
【0050】
用語「鏡像異性体」は、光学活性である純粋化合物の2つの重ね合わせられない異性体の各々を指す。単一の鏡像異性体は、不斉炭素に結合した4つの原子団をランク付ける一組の優先順位規則であるCahn-Ingold-Prelog系によって指定される。March, Advanced Organic Chemistry, 第4版、(1992)、p.109を参照されたい。一度、4つの原子団の優先順位ランキングが決定されたならば、その分子を、最も低ランキングの原子団が観察者から遠い位置に来るように方向付ける。そして、他の原子団の降順のランク順位が時計回りであれば、その分子は、(R)と示され、反時計回りであれば、(S)と示される。以下の例において、Cahn-Ingold-Prelogのランキング順序は、A>B>C>Dである。最低のランキングの原子Dは、観察者から遠方に方向付けられている。
【化7】

【0051】
用語「ラセミ化合物」又は語句「ラセミ混合物」は、2つの鏡像異性体の50−50混合物をいい、この混合物は、偏光面を回転させない。
【0052】
表現「鏡像異性体過剰」は、一般にパーセンテージで記されているが、非ラセミ混合物即ち分離された又は部分的に分離された鏡像異性体の鏡像異性体純度の程度を表現するための手段である。鏡像異性体過剰パーセント(%e.e.)は、下記のとおり定義される:
【数5】

【0053】
表現「実質的にトフィソパムの(S)−鏡像異性体を含まない(R)−トフィソパム」は、少なくとも約80%e.e.(R)−鏡像異性体のトフィソパムを含む組成物を意味する。好ましくは、かかる組成物は、少なくとも90%e.e.の(R)−鏡像異性体のトフィソパムを含む。一層好ましくは、かかる組成物は、少なくとも約95%e.e.の(R)−鏡像異性体のトフィソパムを含む。最も好ましくは、かかる組成物は、98%e.e.を超える(R)−鏡像異性体のトフィソパムを含む。
【0054】
用語「リンカー」は、キラル分離用媒質の記述に用いる場合には、キラル官能基をシリカなどの担体に結合する繋ぎとして機能する官能基をいう。
【0055】
この明細書及び添付の請求の範囲で用いる場合、単数形態は、文脈上明らかに異なる場合を除いて、複数を包含する。
【0056】
キラル分離用媒質
この発明の方法は、多孔質無機担体又は多孔質有機担体上に被覆し又は共有結合させた少なくとも一種の糖誘導体により誘導体化したキラル固定相を含むキラル分離用媒質を利用する。好適具体例において、この糖誘導体は、誘導体化された、アミロース、セルロース、キトサン、キシラン、カードラン、デキストラン、及びイヌラン多糖類よりなる群から選択する多糖類であり、一層好ましくは、アミロース及びセルロース多糖類である。好適具体例において、この糖誘導体は、多糖類のエステル又はカルバメートである。一層好適な具体例において、このキラル固定相は、多孔質無機担体又は多孔質有機担体上に被覆され又は共有結合された式Iのアミロース誘導体である。
【0057】
キラル固定相の非制限的例には、セルロースフェニルカルバメート誘導体例えばセルローストリス(3,5−ジメチルフェニル)カルバメート(Daicel Chemical Industries, Ltd.から「Chiralcel OD」として入手可能);セルローストリベンゾエート誘導体例えばセルロース4−メチルベンゾエート(Daicel Chemical Industries, Ltd.から「Chiralcel OJ」として入手可能);セルローストリシンナメート(Daicel Chemical Industries, Ltd.から「Chiralcel OK」として入手可能);アミロースフェニル及びベンジルカルバメート誘導体例えばアミローストリス[(S)−α−メチルベンジルカルバメート](Daicel Chemical Industries, Ltd.から「Chiralpak AS」として入手可能)、アミローストリス−(3,5−ジメチルフェニル)カルバメート(Daicel Chemical Industries, Ltd.から「Chiralpak AD」として又は「Chiralpak IA」入手可能)、アミロース3,4−置換フェニルカルバメート、アミロース4−置換フェニル−カルバメート;及びアミローストリシンナメートが含まれる。
【0058】
アミロース誘導体を含むキラル分離用媒質は、米国特許第5,202,433号に開示されており、その全開示を参考として本明細書中に援用する。式Iのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質の幾つかの例は、Chankvetadze等、J. Chromatography A, 694 (1995), p.101-109に開示されており、その全開示を参考として本明細書中に援用する。
【0059】
式Iのアミロースのフェニルカルバメート誘導体の合成は、アミロースを、酸スカベンジャー例えばピリジンの存在下でアミロースの有利の水酸基と完全に反応するのに必要とされる化学量論的量より多い実質的に過剰な量のフェニルイソシアネートと反応させることにより行うことができる。Chankvetadze等、同書、p.102頁参照。この誘導体化アミロースは、当分野で公知の方法によって、多孔性の有機又は無機の支持体上に被覆させることができる。Okamoto等、J. Chromatography, 363 (1986), p.106参照(その全開示を参考として本明細書中に援用する)。誘導体化した多糖類は、Okamoto等(US5,679,572) (その全開示を参考として本明細書中に援用する)に記載されたように担体に結合させることができる。
【0060】
この多孔質支持体上に被覆され又は結合されたアミロース誘導体は、当分野で公知のドライパッキング又はスラリーパッキング法を利用してクロマトグラフィーカラムに詰めることができる。一具体例において、この多糖類誘導体は、シリカゲル、ジルコニウム、アルミナ、セラミックス及び他のシリカ(好ましくは、シリカゲル)上に被覆され又は結合される。このパッキング材料の平均粒径は、1〜300μm、好ましくは、2〜100μm、一層好ましくは、5〜75μmであり、最も好ましくは、10〜30μmである。他の直径も可能である。このパッキング材料の平均粒径は、連続的クロマトグラフィー工程における圧力低下及びパッキング材料の効率を調節するように選択することができる。
【0061】
このキラル分離用媒質は、クロマトグラフィーカラムに詰めることができ、溶媒系をそのカラムを通過させることができる。
【0062】
本発明は、非シミュレート移動層クロマトグラフィー法(例えば、「VariCol(商標)法」)を利用して、(R)−(+)−トフィソパムをトフィソパム鏡像異性体の混合物から分離する。この方法は、ループにて接続された固体固定相を詰めた複数の固定層カラムを利用する。このループ内で、複数の入口点及び出口点がこれらのカラム間に位置される。このトフィソパム鏡像異性体の混合物は、このループに、供給入口点から導入され、同時に、溶媒(移動相)が溶媒入口点からこのループに導入される。同時溶出される(S)−トフィソパム及び(R)−(−)−トフィソパムを含む溶液は、このループから抽残液出口点から取り出され、(R)−(+)−トフィソパムは、このループから抽出物出口点から取り出される。
【0063】
これらのループ内の入口点及び出口点の位置は、実質的に一定時間間隔で変えられるが、入口点の位置の変化は、出口点の位置の変化と異なる時点で起きる。このループへのトフィソパム鏡像異性体の混合物の溶液の導入のための供給入口点の位置の変化において、トフィソパム鏡像異性体の混合物の溶液の元の入口点での導入は停止され、トフィソパム鏡像異性体の混合物の溶液の導入は、ループ内の次の供給入口点で開始される。この溶媒入口点の位置は、ループ内の元の溶媒入口点での溶媒の導入を停止して次の溶媒入口点で溶媒を導入することにより変化される。抽残液出口点の位置は、ループ内の抽残液の元の抽残液出口点での取り出しを停止して、次の抽残液出口点で抽残液を取り出すことにより変化される。抽出物出口点の位置は、元の抽出物出口点での溶液の取り出しを停止して、溶液を次の抽出物出口点で取り出すことによって変化される。液体の流れを、ループ内の一点から他の点へ指示する方法は、当業者には周知である。例えば、バルブシステムを利用して、流れをループ内の元の点から新たな点に変えることができる。入口点及び出口点の位置を変えることは、ループ内に異なるトフィソパム異性体の分布を含む域を造り出す。域の長さは、経時的に一定ではなく、域当たりのカラム数は、一期間中一定でない。これらのカラムの構成並びに入口点及び出口点の位置によって、複数の域を確立することができる。
【0064】
下記は、トフィソパム鏡像異性体の分離のための4域システムの代表的な構成である。
第1域(溶媒入口点と抽出物出口点との間に位置している)は、本質的に、(R)−(+)−トフィソパムを含み;
第2域(抽出物出口点と供給入口点との間に位置している)は、トフィソパムの4つの異性体混合物を、(R)−(+)−トフィソパムを豊富に含み;
第3域(供給入口点と抽残液出口点との間に位置している)は、4つのトフィソパムの異性体の混合物を、(R)−(−)−トフィソパム、(S)−(+)−トフィソパム、及び(S)−(−)−トフィソパムを豊富に含み;そして
第4域(抽残液収集点と溶出液の注入点との間に位置している)は、本質的に、(R)−(−)−トフィソパム、(S)−(+)−トフィソパム、及び(S)−(−)−トフィソパムを含む。
【0065】
かかる方法で使用するための非シミュレート移動層分離工程及び装置は、一層完全に、米国特許第6,136,198号、6,375,839号;第6,413,419号;及び6,712,973号に記載されており、その全開示を、参考として本明細書中に援用する。
【0066】
溶媒系
分離用媒質が、多孔性の無機担体又は多孔性の有機担体上に被覆され又は共有結合された糖誘導体、又は式Iのアミロース誘導体である場合には、溶媒系は、好ましくは、ACNとアルキルアルコールの混合物を含む。このアルキルアルコールは、好ましくは、(C1〜C4)アルコールである。このアルコールは、最も好ましくは、MeOHである。この溶媒系は、好ましくは、約5%(V/V)〜約40%(V/V)のMeOHをACN中に含み、一層好ましくは、約10%(V/V)〜約35%(V/V)のMeOHをACN中に含み、尚一層好ましくは、約15%(V/V)〜約25%(V/V)のMeOHをACN中に含み、最も好ましくは、約19%(V/V)のMeOHをACN中に含む。或は、この溶媒系は、ACN単独である。
【0067】
アルキルアルコールのACN溶媒系への添加は、トフィソパムの分離に有意の効果を有することが認められる。トフィソパムの4つすべての異性体は、分離される。しかしながら、トフィソパムの鏡像異性体及びそれらの配座異性体間の選択性が改善されても、トフィソパムの溶解度は、溶媒系の一層高濃度のアルキルアルコールのために低下する。それ故、溶媒系内のアルキルアルコールの濃度は、好ましくは、約40体積%以下とする。
【0068】
(R)−(+)−トフィソパムを単離する場合には、アセトニトリルの溶媒系を利用して、(R)−(+)−トフィソパムが溶出される前に、(R)−(−)−トフィソパム、(S)−(+)−トフィソパム、及び(S)−(−)−トフィソパムを同時溶出する。用いたカラム及び条件によって、他の溶媒又は溶媒混合物も、同様の結果を生成しうる。
【0069】
溶解度の研究は、ラセミトフィソパムの、ACN中の19%(V/V)MeOHの混合物中における溶解度が、約135.5g/Lであることを決定した。従って、溶媒系がACN中の約19%(V/V)MeOHを含むこの発明の一具体例において、トフィソパムの供給の濃度は、135.5g/L未満の濃度に限られる。好ましくは、この発明の実施におけるトフィソパムの鏡像異性体の混合物の供給の濃度は、約45〜120g/Lであり、最も好ましくは約100g/Lである。
【0070】
この発明の実施において用いられる溶媒系は、クロマトグラフィー分離中定組成であってもよいし、又は一回以上の間隔での一の溶媒組成から他の溶媒組成への勾配を含んでもよい。好ましくは、溶媒系は、定組成である。
【0071】
調製規模での分離
本発明の単離法は、特に、トフィソパムの鏡像異性体混合物の調製規模の分離に適している。この発明の方法は、オーバーローディング条件下で(即ち、分離用媒質の上流部分におけるすべての吸着部位と相互作用するのに十分高いトフィソパムの量)のトフィソパムの分離に有用であり、並びに、希釈溶液(即ち、非オーバーローディング条件)の分離、例えばトフィソパムの分析規模の分離に用いることもできる。
【0072】
クロマトグラフィー分離を行う温度は、便利に、分離用媒質を制御された温度環境に維持すること及び/又は分離用媒質中を流れる溶媒系についての制御された温度を維持することにより制御することができる。クロマトグラフィー分離に好適な温度範囲は、約0〜60℃であり、好ましくは約25〜45℃であり、最も好ましくは約40℃である。
【0073】
この溶媒系の溶媒組成、分離媒質中を流れる流量、及び分離用媒質の量は、この発明の方法の実施におけるトフィソパムの鏡像異性体の混合物の分離に必要な時間に寄与する因子である。好ましくは、このクロマトグラフィー分離は、約15〜25分で、一層好ましくは約18〜22分で完結される。
【0074】
実施例7〜10に記載したような非シミュレート移動層工程において、所定数のカラムについて構成の数に制限はない。クロマトグラフィー分離中にカラムの部分により表される所定域の平均の長さの多様性の潜在能力は、一層少ないカラムの使用、固相の量の低減、溶媒量の低減、並びに純度及び収率の増加による増大した効率へと導きうる。
【0075】
この発明の一の非シミュレート移動層クロマトグラフィー法により、VariCol(商標)法が、(R)−トフィソパムを分離するために利用される(例えば、5〜6カラム、4可変域VariCol(商標)システム)。これらの域は、運転中、長さにおいて変化し、所定の運転サイクルにおいて固定長よりも平均を有する。他の具体例においては、3カラム−4可変域のVariCol(商標)システムを利用する。かかるシステムは、SMBプロセスにおける真の移動層システムのシミュレートに少なくとも4域を有する4つのカラムが必要なので、SMB工程において利用することはできない。このSMB工程については、分離に必要とされるカラムの最少数がシステムの域の数と等しく、VariCol(商標)システムにおいてはカラム数は、域の数より少なくてよい。
【0076】
この発明の実施を、以下の非制限的実施例により説明する。実施例7〜10は、トフィソパムの(R)−鏡像異性体の、非シミュレート移動層工程(VariCol(商標)法)を利用する分離のための代表的パラメーターを示している。他のカラム構成をここに記載のキラル分離に利用することもできる(少なくとも、3カラム使用)。
【実施例】
【0077】
実施例1: ラセミトフィソパムの希釈溶液を利用する種々のキラル固定相の比較:
ラセミトフィソパムの希釈溶液におけるクロマトグラフィー分離を、表1に列記したキラル分離用媒質を利用して行った。これらの分離用媒質のすべては、4.6mm(i.d.)×250mmのクロマトグラフィー用カラムに詰めた。
【0078】
【表1−1】

【0079】
【表1−2】

【0080】
【表1−3】

【0081】
下記の表2には、試験した各キラル分離用媒質に用いたキラル分離用媒質、溶媒系、温度及び流量を列記してある。溶媒系は、E.M. Scienceから得たHPLC等級の溶媒を用いて調製した。
【0082】
この表は又、各クロマトグラフィー分離において分離されたすべての成分についての滞留因子をもまとめてある。
【0083】
【表2−1】

【0084】
【表2−2】

【0085】
試験したキラル分離用媒質の内で、2つの材料は、ラセミトフィソパムを4つの別々のピークに分離した。これらの材料は:
(S,S)−β−GEM {シリカにアルケン(C13)エステル結合により共有結合された(2S)−2−{(1S)[(3,5−ジニトロフェニル)カルボニルアミノ]フェニルメチル}−3,3−ジメチルブタノエートを含む市販されている材料};及び
式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質:
【化8】

をシリカゲル上に被覆したものであった。
【0086】
分離は、Chiralpak(商標)、AD、Chiralcel(商標)、OD、(R,R)Whelk−O(商標)、及びShiseido RU−1についても観察された。Chiralpak(商標)、AD及びChiralcel(商標)、ODは、乏しい分離(RS<0.5)を示した。分離用媒質(R,R)Whelk−O(商標)、及びShiseido RU−1は、高い滞留定数を与え、これは、長い滞留時間を生じ、それ故、実質的に多量の溶媒系を必要とした。
【0087】
実施例2:トフィソパム鏡像異性体の、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質における溶出順序の測定。
式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質を詰めた4.6mm(i.d.)×250mmのクロマトグラフィーカラムを、22℃で、流量1.0mL/分での100%ACNの条件下で安定化させた。ラセミトフィソパム(0.1mg)を、このカラムに注入して、溶出液の画分を、注入後1.5〜6.0分の間、0.5分毎に集めた。これらの画分を、トフィソパムの4つの異性体の各々の量について分析した。このデータを、図1にプロットしたが、これは、100%ACNにおける分離のピークプロフィルを示すように構成されたものである。
【0088】
トフィソパム異性体は、次の順序で溶出された:(R)−(−);(S)−(−)/(S)−(+);及び(R)−(+)。このクロマトグラフィー法における配座異性体の相互変換のために、(R)−(−)及び(R)−(+)配座異性体の両方の存在が、(S)−鏡像異性体の溶出中認められる。
【0089】
実施例3:ラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質への過剰注入は、100%ACNで溶出した。
式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質を詰めた4.6mm(i.d.)×250mmのクロマトグラフィー用カラムを、100%ACN(25℃で1.0mL/分の流量)の条件下で安定化させた。ラセミトフィソパム(濃度33g/L、300μL)をこのカラムに注入した。図2は、その結果の分離を示している(345nmでのUV検出)。分離された(R)−トフィソパムの収率は、約60重量%であった。この分離において分離された(R)−トフィソパムの測定された鏡像異性体過剰(e.e.)は、不純物としての(S)−(+)鏡像異性体の存在のために、95%e.e.未満であった。
【0090】
実施例4:溶媒系の改変:ACN/MeOH混合物を用いて溶出した式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質におけるトフィソパムの分離:
ラセミトフィソパムの希釈溶液のクロマトグラフィー分離を、4.6mm(i.d.)×250mmクロマトグラフィー用カラムに詰めた式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質を用いて行った。この溶媒系を、100%ACNで溶出するトフィソパムの分離をACN/MeOH混合物での分離と比較するために改変した(MeOHは、約5〜40%の濃度範囲で存在する)。
【0091】
式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質を詰めた4.6mm(i.d.)×250mmのクロマトグラフィーカラムを、85/15(V/V)ACN/MeOH(25℃で、1.6mL/分の流量)の条件下で安定化させた。ラセミトフィソパムの希釈注入物を注入した。図3は、その結果の分離を示している。
【0092】
更なるACN/MeOH溶媒組成物及びその結果の分離データを下記の表3に列記した。
【表3】

【0093】
トフィソパムの鏡像異性体とそれらの配座異性体の間の選択性は、MeOHの溶媒系への添加により増大した。
【0094】
実施例5:85/15ACN/MeOH(V/V)により溶出されるラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質への過剰注入。
式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質を詰めた4.6mm(i.d.)×250mmのクロマトグラフィーカラムを、85/15(V/V)ACN/MeOH(25℃で、1.0mL/分の流量)の条件下で安定化させた。ラセミトフィソパム(9.9mg)を注入した。図4は、その結果の分離を示している(345nmでのUV検出)。垂直の点線は、(R)−(+)−トフィソパムの収集を開始した切点(11.6分)を示している。このオーバーロード実験から得られた画分の分析は、83重量%より大きい収率、及び(R)−鏡像異性体についての98%を超える鏡像異性体過剰を示した。
【0095】
実施例6:ラセミトフィソパムの、81/19ACN/MeOH(V/V)により溶出される式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質への過剰注入。
式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質を詰めた4.6mm(i.d.)×250mmのクロマトグラフィー用カラムを、81/19(V/V)ACN/MeOH(25℃で1.17mL/分の流量)の条件下で安定させた。ラセミトフィソパム(104g/Lの濃度の500μL)を注入した。図5は、その結果の分離を示している(355nmでのUV検出)。垂直の点線は、(R)−(+)−トフィソパムの収集を開始した切点(8.0分)を示している。このオーバーロード実験から得られた画分の分析は、約73重量%の収率と(R)−鏡像異性体についての98%を超える鏡像異性体過剰を示した。
【0096】
この溶媒系における一層高濃度のMeOHは、増大された選択性を生成することが観察された。しかしながら、ラセミトフィソパムの溶解度が、一層高濃度のMeOHにより低下した。
【0097】
実施例7〜10.トフィソパム鏡像異性体の混合物からの(R)−トフィソパムの、非シミュレート移動層法(VariCol(商標)法)における分離。
式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質を詰めた5つの2.5cm(i.d.)×10.6cmのクロマトグラフィー用カラムを、一つのループに連結した。多数の入口及び出口がこれらのカラムの間のループに位置した。このシステムをACNを通過させることにより安定化させた後に、ACN中のトフィソパム鏡像異性体の溶液(濃度48〜50g/L)を連続的にこのシステムに注入した。
【0098】
この分離を、下記の表4に列記した温度、供給濃度及び流量を利用して行なった。
【表4】

【0099】
表4の条件は、表5に示したカラム構成を生じた。
【表5】

【0100】
実施例7〜10の精製による収率及び生成物純度を、表6に示した。そのデータを評価すると、最大収率は、少数の(R)−(−)−異性体が(S)−異性体と共に溶出するので、約80%しか得られないということが理解されよう。
【0101】
【表6】

【0102】
実施例7は、トフィソパム鏡像異性体の混合物から約93%の純度で、36%の収率(最大理論収率の50%未満)で(R)−トフィソパムを得ることができるということを示している。実施例7で用いたものと異なるカラム構成による実施例8(35℃)によれば、高純度(99.3%)の(R)−トフィソパムが、収率約72重量%で得られた(最大理論収率の約90%)。実施例8の37℃の温度で、高純度(99.3%)の(R)−トフィソパムが約75重量%の収率で得られた(最大理論収率の約94%)。最後に、実施例10は、一層高純度(99.5%)の(R)−トフィソパムを40℃で約78重量%の収率で得ることができることを示している(最大理論収率の約98%)。
【0103】
本発明の好適な具体例を示し記載してきたが、当業者は、この発明の範囲から逸脱せずに様々な変化又は改変をすることができるということを理解するであろう。
【0104】
すべての引用文献を参考として、本明細書中に援用する。本発明は、その本質的特性の精神から離れることなく他の特定の形態で具体化することができ、それ故、この発明の範囲の指示としては、前述の明細書よりは添付の請求の範囲を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】トフィソパムの鏡像異性体の溶出順序を例示している図である。
【図2】過剰注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び100%ACNを含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離を示している図である。
【図3】希釈注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び85%ACN/15%MeOH(V/V)を含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離のダイヤグラムを示している図である。
【図4】過剰注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び85%ACN/15%MeOH(V/V)を含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離のダイヤグラムを示している図である。
【図5】過剰注入したラセミトフィソパムの、式Iaのアミロース誘導体を含むキラル分離用媒質及び81%ACN/19%MeOH(V/V)を含む溶媒系を利用するクロマトグラフィー分離のダイヤグラムを示している図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トフィソパムの(S)−鏡像異性体を実質的に含まない(R)−トフィソパムを分離する方法であって、下記を含む当該方法:
トフィソパム鏡像異性体の混合物の供給原料溶液を、キラル分離用媒質を含む非シミュレート移動層システムに導入し;そして
(R)−トフィソパムを、該キラル分離用媒質から溶離液にて分離する。
【請求項2】
下記の工程を含む、請求項1に記載の方法:
a)トフィソパム鏡像異性体の混合物の供給原料溶液を形成し;
b)前記のラセミトフィソパムの供給原料溶液を、実質的に一定の温度に維持された非シミュレート移動層システムに導入し、該システムは、複数のクロマトグラフィーカラムを含み、各カラムはキラル固定相を含む吸着剤を含み、該カラムはシリーズで及びループ状に配置され、該ループは、供給原料の入口点、抽残液出口点、溶媒入口点、及び抽出物出口点を含み、このループの入口点と出口点の間の部分は、クロマトグラフィー域を規定し;
c)溶媒を、前記のシステムに、前記の溶媒入口点から導入し;
d)該入口点及び出口点の位置を変え(該入口点の変化は、該出口点の変化と実質的に異なる時点で起きる);
e)(R)−(−)−トフィソパム、(S)−(+)−トフィソパム、及び(S)−(−)−トフィソパムを、該ループから、該抽残液引き出し点で取り出し;そして
f)(R)−トフィソパムを、該抽出物出口点から集める。
【請求項3】
前記の吸着剤が、少なくとも一種の糖誘導体よりなるキラル固定相を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
吸着剤が、セルローストリス4−メチルベンゾエート;セルローストリシンナメート;アミローストリス[(S)−α−メチルベンジルカルバメート];アミローストリス−(3,5−ジメチルフェニル)カルバメート;及び式Iのアミロース誘導体よりなる群から選択するキラル固定相を含む、請求項2に記載の方法:
【化1】

[式中、各R1は、下記式IIの基である:
【化2】

(式中、R2及びR3は、独立に、塩素及び−CH3よりなる群から選択され;そして
nは10〜100の整数であり;
該アミロース誘導体は、多孔性無機支持体又は多孔性有機支持体上に被覆される)]。
【請求項5】
前記の吸着剤が、下記式Iaのアミロース誘導体を含むキラル固定相を含む、請求項4に記載の方法:
【化3】

(式中、nは、10〜100の整数である)。
【請求項6】
前記の吸着剤が、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニル)カルバメートのキラル固定相を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記の溶媒を、C1〜C10アルカン、C1〜C6アルコール、C1〜C6アルコールの酢酸エステル、C1〜C6アルコールのプロピオン酸エステル、C1〜C10ケトン、C1〜C10エーテル、ハロゲン化C1〜C10炭化水素、トリフルオロ酢酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル及びこれらの組合せよりなる群から選択する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記の溶媒を、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、アセトン、ブタノン、イソプロピルメチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、トリフルオロ酢酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル及びこれらの組合せよりなる群から選択から選択する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
溶媒が、アセトニトリルとメタノールの混合物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶媒が、アセトニトリルである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
溶媒を、アセトニトリル、メタノール及びこれらの混合物よりなる群から選択し、キラル固定相を含む吸着剤を、セルローストリス4−メチルベンゾエート;セルローストリシンナメート;アミローストリス[(S)−α−メチルベンジルカルバメート];及び式Iのアミロース誘導体よりなる群から選択する、請求項2に記載の方法:
【化4】

[式中、各R1は、下記式IIの基である:
【化5】

(式中、R2及びR3は、独立に、塩素及び−CH3よりなる群から選択され;そして
nは10〜100の整数であり;
該アミロース誘導体は、多孔性無機支持体又は多孔性有機支持体上に被覆される)]。
【請求項12】
溶媒が、アセトニトリルであり、キラル固定相を含む吸着剤が、下記式Iaのアミロース誘導体である、請求項11に記載の方法:
【化6】

(nは10〜100の整数である)。
【請求項13】
溶媒が、アセトニトリルであり、キラル固定相を含む吸着剤が、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニル)カルバメートである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
トフィソパムの(R)−鏡像異性体が、少なくとも95%鏡像異性体過剰で回収される、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
トフィソパムの(R)−鏡像異性体が、少なくとも98%鏡像異性体過剰で回収される、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
トフィソパムの(R)−鏡像異性体が、少なくとも99%鏡像異性体過剰で回収される、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記の実質的に一定の温度が、0〜60℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記の実質的に一定の温度が、25〜45℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記の実質的に一定の温度が、40℃である、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−519938(P2009−519938A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545795(P2008−545795)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/047656
【国際公開番号】WO2007/078808
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(507065740)ヴェラ アクイジション コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】