説明

(R)−3−ビニルピロリジン−1−カルボン酸tert−ブチルおよびそのための中間体の製造方法

本発明は、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸、(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル、および(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルの1種以上を経由する(R)-3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体に結合して、その活性をモジュレートする化合物、新規なその塩、前記化合物の製造方法、前記化合物を含む医薬組成物、ならびに、中枢神経系(CNS)の機能障害に関連する疾患を含む、さまざまな疾患および障害を治療するための前記化合物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロンニコチン性受容体(NNR)はニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)としても知られているが、この受容体を標的とする化合物の治療可能性はいくつかのレビューの対象となってきた。例えば、Breining et al., Ann. Rep. Med. Chem. 40: 3 (2005); Hogg and Bertrand, Curr. Drug Targets: CNS Neurol. Disord. 3: 123 (2004)を参照されたい。NNRリガンドが治療薬として提案されている適応症の種類には、以下で挙げるCNS障害がある。中枢神経系と末梢神経系の両方にnAChRサブタイプの不均一な分布が存在する。例えば、脊椎動物の脳に主として存在するnAChRサブタイプはα4β2、α7およびα3β2であるが、自律神経節で優位を占めるのはα3β4であり、神経筋接合部のそれはα1β1γδおよびα1β1γεである。
【0003】
いくつかのニコチン性化合物の限界は、多数のnAChRサブタイプへの非特異的結合のために、それらの化合物が望ましくないさまざまな副作用を伴うことである。例えば、筋型および神経節型nAChRサブタイプへの結合とその刺激は、特定のニコチン性結合化合物の治療薬としての有用性を制限しうる副作用を招くことがある。
【0004】
候補薬物の商業的開発には、大規模製造プロセスに適応する費用効率の高い合成法の開発を含めて、多くの段階が含まれる。商業的開発にはさらに、適切な純度、化学的安定性、薬学的性質、簡単な操作や処理を容易にする特性を示す、薬物の塩形態に関する研究も含まれる。その上、薬物を含有する組成物は適度な貯蔵寿命をもつ必要がある。すなわち、かなりの期間にわたって貯蔵したとき、それらは化学的組成、含水量、密度、吸湿性、安定性、可溶性など(しかし、これらに限定されない)の物理化学的特性の著しい変化を示すべきでない。さらに、患者に投与したときの、再現性のある一定した薬物の血漿濃度プロファイルもまた重要な要因となる。
【0005】
固体の塩形態は、それらが優先的にこうした性質を示す傾向があるため、一般的に経口製剤にとって好ましいものである。塩基性薬物の場合には、たいてい酸付加塩が好ましい塩である。しかし、さまざまな塩形態はこうした性質を付与する能力の点で大きく相違しており、そのような性質を合理的な正確さで予測することはできない。例えば、周囲温度で固体の塩もあれば、周囲温度で液体、粘性オイルまたはガムである塩もある。さらに、苛酷な条件下で熱や光に安定している塩形態もあれば、それよりずっと穏やかな条件下で容易に分解する塩形態もある。塩はまた、その吸湿性の点でも大きく異なり、吸湿性が小さいほど有利である。したがって、医薬組成物中で用いるための塩基性薬物の適切な酸付加塩形態の開発は非常に予測不可能なプロセスである。
【0006】
ラセミ体5-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン、その合成、およびそのヘミ-ガラクタル酸塩形態は、参照によって本明細書に組み込まれるWO 04/078752およびその対応刊行物に開示される。そのラセミ体と比較して、単一のエナンチオマーの有利な薬理学的性質のため、立体特異的合成(好ましくは、大規模製造に適する方法)の必要性が存在する。さらに、例えば純度、安定性、可溶性、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)などの改善された性質を示す塩形態の必要性も存在する。こうした新規な塩形態の優先される特性には、活性成分やその医薬組成物の市販薬への製造を容易にするまたは効率化する特性、ならびに長期間にわたる薬物の改善された安定性が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 04/078752
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Breining et al., Ann. Rep. Med. Chem. 40: 3 (2005)
【非特許文献2】Hogg and Bertrand, Curr. Drug Targets: CNS Neurol. Disord. 3: 123 (2004)
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン モノ-L-リンゴ酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物である。別の態様は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ヘミ-ガラクタル酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物である。別の態様は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン シュウ酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物である。別の態様は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物である。
【0010】
本発明の一態様は、(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンを実質的に含まない(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩である。ある実施形態では、(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンが25重量%より少ない量で存在する。ある実施形態では、(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンが15重量%より少ない量で存在する。ある実施形態では、(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンが5重量%より少ない量で存在する。ある実施形態では、(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンが2重量%より少ない量で存在する。ある実施形態では、(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンが1重量%より少ない量で存在する。ある実施形態では、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンが有意量の(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンを含まない。
【0011】
本発明の一態様は、本明細書に開示される化合物および1種以上の製薬上許容される助剤、担体または賦形剤を含有する医薬組成物である。ある実施形態では、前記医薬組成物が1種以上の別の治療薬をさらに含有する。
【0012】
本発明の一態様は、NNR介在疾患の治療において医薬として用いるための、化合物(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩またはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩を包含する。
【0013】
別の態様は、NNR介在疾患の治療または予防方法を包含し、前記方法は、そのような治療を必要とする哺乳動物に、治療に有効な量の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩を投与することを含む。
【0014】
別の態様は、NNR介在疾患の治療用の医薬の製造における化合物(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩の使用を包含する。
【0015】
上記の化合物、方法または使用の一実施形態では、前記疾患がCNS障害、炎症、細菌および/またはウイルス感染に関連する炎症反応、疼痛、メタボリック症候群、自己免疫疾患からなる群より選択される。ある実施形態では、CNS障害が統合失調症の認知機能障害(CDS)、アルツハイマー病(AD)、注意欠陥障害(ADD)、初老期認知症(早期発症のアルツハイマー病)、アルツハイマー型認知症、軽度認知機能障害、加齢による記憶障害、および注意欠陥多動性障害(ADHD)から選択される。
【0016】
本発明の別の態様は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩を7〜2200μg/kgの量で投与することを含む、医薬組成物の投与計画を包含する。
【0017】
上記の態様および実施形態において、別の実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンがそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩、またはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩として提供される場合を含む。
【0018】
別の態様は、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル; (R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸; (R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル; および(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルを含む、新規な中間体を包含する。
【0019】
別の態様は、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸、(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル、および(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルの1種以上を経由する(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの製造方法を包含する。
【0020】
別の態様は、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸、(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル、および(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルの1種以上を経由する(R)-3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルの製造方法を包含する。
【0021】
別の態様は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンを、異性体(R)-3-((Z)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンおよび(R)-3-(1-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンに対して精製する方法であって、シュウ酸塩に変換し、遊離塩基を再生させることによる上記方法を包含する。
【0022】
これらの態様および実施形態の組み合わせは本発明のさらなる実施形態を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩(以後、化合物Aという)についての投与量に対する新規物体認識(novel object recognition: NOR)を示した図である。0.004μM/kgという低用量で統計的に有意な効果が観察された。
【図2】0.004μM/kgの投与量の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩(化合物A)についての時間に対する新規物体認識(NOR)を示した図である。統計的に有意な効果が投与後8時間まで観察された。
【図3】(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩(化合物A)が放射状アーム迷路(Radial Arm Maze: RAM)においてスコポラミン誘発性障害を克服する、放射状アーム迷路試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
以下の定義は、定義される用語を明確にするためのものであって、限定するものではない。本明細書中で用いる特定の用語が具体的に定義されないとしても、そのような用語を不明確と見なすべきでない。それどころか、用語は一般に認められたそれらの意味の範囲内で用いられるものとする。
【0025】
本明細書中で用いる「化合物」とは、文脈次第ですぐに明らかになる、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(式I)の遊離塩基形態か、あるいは塩形態を意味する。当業者であれば、その差異を区別することができる。
【0026】
本明細書中で用いる「製薬上許容される」とは、組成物の他の成分と適合性であって、しかも医薬組成物のレシピエントに有害でない担体、希釈剤、賦形剤または式Iの化合物の塩形態をさす。
【0027】
本明細書中で用いる「医薬品級」とは、医薬品としての使用に適する標準の化合物または組成物をさす。本明細書での説明に関連して、本発明の医薬品級化合物(特に、その塩形態)は、医薬品として使用するのに適切な、純度、安定性、可溶性、バイオアベイラビリティなどの性質を示すものである。優先される特性には、活性成分やその組成物の市販薬への製造を容易にするまたは効率化する特性が含まれる。さらに、本発明の医薬品級化合物は、大規模製造にスケールアップすることができる(すなわち、十分な純度と収量を示す)立体特異的合成を用いて合成可能なものである。
【0028】
本明細書中で用いる「医薬組成物」とは、任意に1種以上の製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤と混合された本発明の化合物をさす。医薬組成物は、製造および商品化の目的にかなうように、環境条件に対してある程度の安定性を示すことが好ましい。
【0029】
本明細書中で用いる「有効量」、「治療量」または「有効用量」とは、希望する薬理効果または治療効果を引き出すのに十分な、それゆえ障害の効果的な予防または治療をもたらすのに十分な、本発明の化合物の量をさす。障害の予防は、その障害に関連する症状の発生だけでなく、その障害の進行を遅らせるかまたは防止することによっても明らかになる。障害の治療は、症状の軽減または消失、障害の進行の抑制または好転、ならびに患者の幸福につながる他の貢献によって明らかになる。
【0030】
以下で図1および2に関連して詳細に述べるように、投与後8時間まで観察される効果を含めて、統計的に有意な効果が、式Iの化合物またはその製薬上許容される塩の0.004μM/kgという低用量で観察される。有効用量は、患者の状態、障害の症状の重症度、医薬組成物の投与方法などの諸要因に応じて、さまざまに変化しうる。したがって、本明細書中で用いる有効用量は100mg未満、別の実施形態では50mg未満、別の実施形態では10mg未満、あるいは別の実施形態では1mg未満であってよい。これらの有効用量は一般的に、1回量としての投与量、または24時間にわたって投与される1回または複数回量としての投与量を表す。
【0031】
本明細書中で用いる「実質的に」または「十分に」純粋とは、20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上(例えば、50、60、70、80または90%以上)の品質または純度を含む。
【0032】
本明細書中で定義する「安定性」とは、化学的安定性と固体状態の安定性を含み、ここで「化学的安定性」とは、単離された形または医薬組成物(製薬上許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤と混合された状態で、例えば錠剤、カプセル剤などの経口剤形で提供される)の形の本発明の塩を、通常の貯蔵条件下で、有意な化学的分解を起こすことなく、貯蔵できることを含む。また、「固体状態の安定性」とは、単離された固体の形または固体の医薬組成物(製薬上許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤と混合された状態で、例えば錠剤、カプセル剤などの経口剤形で提供される)の形の本発明の塩を、通常の貯蔵条件下で、有意な固体変態(結晶化、再結晶化、固体状態の相転移、水和、脱水、溶媒和、脱溶媒和など)を起こすことなく、貯蔵できることを含む。
【0033】
「通常の貯蔵条件」の例は、6ヶ月以上のような長期間にわたる、温度−80℃〜50℃、好ましくは0℃〜40℃、さらに好ましくは15℃〜30℃のような周囲温度、圧力0.1〜2バール、好ましくは大気圧、相対湿度5〜95%、好ましくは10〜60%、および460ルックス以下の紫外線/可視光線への暴露の1つ以上を含む。そのような条件下で、本発明の塩は、化学的劣化もしくは分解、または固体変態が、それぞれに応じて、5%未満、さらに好ましくは2%未満、特に1%未満であることが認められる。当業者には理解されるように、上記の温度、圧力および相対湿度の上限と下限は通常の貯蔵条件の両極端を表しており、こうした両極端の特定の組み合わせ(例えば、50℃の温度と0.1バールの圧力)を通常の貯蔵中に経験することはないだろう。
【0034】
本明細書中で用いる「障害」または「疾患」とは、特に明記しない限り、NNR受容体活性と関連するあらゆる症状、機能不全または疾病を意味する。
【0035】
化合物
本発明の一実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(式I)またはその製薬上許容される塩に関する。
【化1】

【0036】
当業者には理解されるように、さまざまな命名規則によって、ある化合物が異なって命名されることがある。こうして、化合物Aは(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン、または(R)-3-(2-ピロリジン-3-イル)-ビニル)-5-((テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)オキシ)ピリジンと命名することができる。こうした種々の命名規則を用いて本明細書に曖昧さを導入すべきでない。
【0037】
ある実施形態では、式Iの化合物またはその製薬上許容される塩は実質的に純粋である。ある実施形態では、式Iの化合物またはその製薬上許容される塩が(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンを実質的に含まない。ある実施形態では、式Iの化合物またはその製薬上許容される塩が、(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンに対比して、約75重量%の量で存在し、好ましくは85%重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上、最も好ましくは99重量%以上の量で存在する。ある実施形態は100%純粋な(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(式I)に関する。
【0038】
方法
本発明の一実施形態は、重量基準で(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンを実質的に含まない、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩の製造方法に関する。本発明の別の実施形態は、キラルクロマトグラフィー分離工程を使用することなく、重量基準で(S)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンを25%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満しか含まない、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩の製造方法に関する。本発明の一実施形態では、クロマトグラフィー分離に依存しない、実質的に純粋な(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの製造方法が提供される。
【0039】
一般的合成方法
ラセミ体3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンは、PCT WO2004/078752(参照によって本明細書に組み込まれる)に報告されるように、3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルと3-ブロモ-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジンとのパラジウム触媒を用いたカップリングと、その後のtert-ブトキシカルボニル保護基の除去によって合成することができる。このラセミ体合成では、必要な3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルが3-ホルミルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルをメチレントリフェニルホスホラン(Wittig試薬)で処理することによって製造された。3-ホルミルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルはいくつかの方法で製造可能であるが、それはWittig反応中にラセミ化を受けやすいという点で、単一エナンチオマー合成にとって理想的な中間体ではなかった。こうして、立体化学忠実度によって特徴付けられる新しい合成ルートが開発された。
【0040】
本化合物は、市販されている出発物質と試薬類を用いて、以下の方法に従って製造することができる。
【0041】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンは、スキーム3に示されるように、(R)-3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物9)と3-ブロモ-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)-ピリジン(化合物12)とのパラジウム触媒を用いたカップリングにより製造することができる。
【0042】
化合物9の製造はスキーム1に示される。市販の(R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物1)を塩化メタンスルホニルで処理すると、(R)-3-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物2)が得られ、次にこれをマロン酸ジエチルと適当な塩基(例:カリウムtert-ブトキシドまたはナトリウムエトキシド)と反応させると、キラル炭素のまわりの立体化学が逆転した(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル(化合物3)が得られる。これらの反応に適する溶媒は、トルエン、キシレン類、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エタノール、tert-ブタノール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、およびこれらの混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、メタンスルホン酸エステル生成用の溶媒がトルエンであり、マロン酸エステル置換用の溶媒が1-メチル-2-ピロリジノンである。別の実施形態では、マロン酸エステル置換用の溶媒がエタノールである。これらの反応に適する塩基は、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウム金属、水素化ナトリウム、ナトリウムエトキシド、水素化カリウムおよび水素化リチウムからなる群より選択される。ある実施形態では、メタンスルホン酸エステル生成用の塩基がトリエチルアミンであり、マロン酸エステル置換用の塩基がカリウムtert-ブトキシドである。別の実施形態では、マロン酸エステル置換用の塩基がナトリウムエトキシドである。
【0043】
ジエステル3を水酸化カリウム水溶液で加水分解すると、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸(化合物4)が得られ、これを脱カルボキシル化すると(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)酢酸(化合物5)が得られる。これらの反応に適する溶媒は、水、エタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、1-メチル-2-ピロリジノン、トルエン、ジメチルスルホキシド、およびこれらの混合物からなる群より選択される。ある実施形態では、エステル加水分解用の溶媒が水性テトラヒドロフランであり、脱カルボキシル化用の溶媒が1-メチル-2-ピロリジノンである。別の実施形態では、エステル加水分解用の溶媒がエタノールで、脱カルボキシル化用の溶媒がジメチルスルホキシドとトルエンの混合溶媒である。加水分解反応に適する塩基は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化バリウムおよび炭酸セシウムからなる群より選択される。一実施形態では、塩基が水酸化カリウムである。
【0044】
化合物5を還元すると、(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物6)が得られ、これを塩化メタンスルホニルと反応させ、次にヨウ化ナトリウムと反応させると、それぞれ、(R)-3-(2-(メチルスルホニルオキシ)エチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物7)および(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物8)が得られる。還元反応に適する溶媒は、テトラヒドロフラン、エーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、およびこれらの混合物からなる群より選択される。一実施形態では、溶媒がテトラヒドロフランである。適当な還元剤はボラン、ジボラン、ボラン-テトラヒドロフラン複合体、ボラン-ジメチルエーテル複合体、およびボラン-ジメチルスルホキシド複合体からなる群より選択される。メタンスルホン酸エステル生成に適する溶媒は、トルエン、キシレン類、エーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、およびこれらの混合物からなる群より選択される。一実施形態では、メタンスルホン酸エステル生成用の溶媒がトルエンである。メタンスルホン酸エステル生成に適する塩基は、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミンおよびジイソプロピルエチルアミンからなる群より選択される。一実施形態では、メタンスルホン酸エステル生成用の塩基がトリエチルアミンである。ヨウ化物置換に適する溶媒は、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エタノール、tert-ブタノール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、およびこれらの混合物からなる群より選択される。一実施形態では、ヨウ化物置換用の溶媒が1,2-ジメトキシエタンである。
【0045】
最後に、化合物8をカリウムtert-ブトキシドで処理すると化合物9が得られる。この反応に適する溶媒は、1,2-ジメトキシエタン、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、およびこれらの混合物からなる群より選択される。一実施形態では、溶媒が1,2-ジメトキシエタンである。この反応に適する塩基は、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムエトキシド、およびジアザビシクロウンデカンからなる群より選択される。別の実施形態では、塩基がカリウムtert-ブトキシドである。
【0046】
本発明の一実施形態は、上で説明した、スキーム1に示す反応工程を用いる化合物9の製造方法に関する。
【化2】

【0047】
3-ブロモ-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)-ピリジン(化合物12)の製造はスキーム2に示される。3-ブロモ-5-ヒドロキシピリジン(化合物10)を4-ヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン(化合物11)とカップリングさせると、化合物12が得られる。このカップリング反応に適する条件は、ホスフィン(例:トリフェニルホスフィン)とアゾ化合物(例:アゾジカルボン酸ジエチル、DEADとしても知られる)を不活性溶媒(例:トルエン)中で用いてカップリングを行うものである。あるいはまた、他の条件(3-ブロモ-5-ヒドロキシピリジンのオキソアニオンがテトラヒドロピランの4位からの脱離基に置き換わる)を用いてもよい。
【0048】
本発明の一実施形態は、上で説明した、スキーム2に示す反応工程を用いる化合物12の製造方法に関する。
【化3】

【0049】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(遊離塩基形態)の製造の最終工程はスキーム3に示される。化合物9と化合物12を酢酸パラジウム介在カップリング反応によってカップリングさせると、(R)-(E)-3-(2-(5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン-3-イル)ビニル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル((R)-5-(1-(tert-ブトキシカルボニル)-(E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンとしても知られる、化合物13)が得られ、これを脱保護すると、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(化合物14)が得られる。パラジウム触媒カップリング反応に適する溶媒は、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびアセトニトリルからなる群より選択される。一実施形態では、溶媒が1-メチル-2-ピロリジノンである。パラジウム触媒カップリング反応に適する塩基は、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミンからなる群より選択される。一実施形態では、塩基がジイソプロピルエチルアミンである。パラジウム触媒カップリング反応に適するホスフィン配位子は、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィンおよびトリ-o-トリルホスフィンからなる群より選択される。一実施形態では、ホスフィン配位子がトリシクロヘキシルホスフィンである。パラジウム触媒カップリング反応に適するパラジウム触媒は、酢酸パラジウム、塩化パラジウムおよびトリス(ジベンジルアセトン)ジパラジウムからなる群より選択される。一実施形態では、パラジウム触媒が酢酸パラジウムである。脱保護反応に適する溶媒は、水、ジクロロメタン、クロロホルムおよびジクロロエタンからなる群より選択される。一実施形態では、溶媒がジクロロメタンである。別の実施形態では、脱保護反応用の溶媒が水である。脱保護反応に適する酸は、トリフルオロ酢酸、塩酸および硫酸からなる群より選択される。一実施形態では、酸がトリフルオロ酢酸であ
る。
【化4】

【0050】
本発明の一実施形態は、スキーム1、2および3において上で説明した反応工程を用いる化合物14の製造方法に関する。本発明はさらに、以下で記載するような2-プロパノールと酢酸イソプロピルまたは他の適当な溶媒との混合溶媒中で遊離塩基をL-リンゴ酸と反応させる追加の工程を含む、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン リンゴ酸塩の塩形態の製造方法に関する。
【0051】
本発明の別の実施形態は、化合物14のシュウ酸塩の生成、ならびに化合物14の製造における精製用中間体としてのシュウ酸塩の使用に関する。化合物9と化合物12のパラジウム触媒カップリングは化合物13が多く存在する(一般的には、カップリング生成物の75〜80%を占める)混合物をもたらす。残りのカップリング生成物には、対応するZ異性体の(R)-(Z)-3-(2-(5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン-3-イル)ビニル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルと、いわゆる「エキソ」異性体の(R)-3-(1-(5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン-3-イル)ビニル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルが含まれ、それぞれ、カップリング生成物の約5%および最大で20%を占める。これらのマイナー異性体の目的のメジャー異性体からの分離は、予期せざることに、そして好都合なことに、異性体の混合物の脱保護と、これに続く遊離塩基のシュウ酸塩への変換によって達成された。例えば、水/2-プロパノール混合溶媒中でのシュウ酸塩の初期沈殿は、異性体不純物がそれぞれ1%未満またはそれ以上に減っている化合物14をもたらす。さらなる精製は再結晶によって行うことができる。
【0052】
さまざまな診断用途に適するラジオアイソトープで標識された本発明の化合物の例は、例えば、化合物14の11C-または18F-標識類似体であり、これらはポジトロン断層撮影法で使用するのに適している。
【0053】
特に明記しない限り、本明細書中に示した構造は、1個以上のアイソトープ濃縮された原子の存在だけで異なる化合物をも含めるものとする。例えば、水素原子の重水素もしくは三重水素による置換、または炭素原子の13Cもしくは14Cによる置換、または窒素原子の15Nによる置換、または酸素原子の17Oもしくは18Oによる置換を除いて、本構造を有する化合物は本発明の範囲内である。そのようなアイソトープ標識化合物は研究ツールまたは診断ツールとして有用である。
【0054】
以下に記載する全ての実施例において、感受性基または反応性基の保護基は、合成化学の一般原則に従って必要に応じ使用される。保護基は標準的な有機合成法に従って操作される(T. W. Green and P. G. M. Wuts, Protecting Groups in Organic Synthesis, 第3版, John Wiley & Sons, New York (1999))。これらの基は、当業者にはすぐに分かる方法を用いて、化合物合成の都合のよい段階で除去される。方法の選択と同様に、それらの実施の反応条件および順序も本発明の化合物の製造に合致しなければならない。
【0055】
本発明はまた、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル(化合物3)、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸(化合物4)、(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物6)、および(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(化合物8)のような、中間体として有用な新規化合物の合成方法を提供する。
【0056】
塩形態
本発明の一態様は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの新規な塩形態に関する。遊離塩基形態の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンは粘性のオイルで、水への溶解度が限られる。ところが、この遊離塩基は無機酸と有機酸のいずれとも反応して酸付加塩を形成することができ、その酸付加塩は、結晶性、水溶性、化学的分解に対する安定性といった、医薬組成物の製造にとって有利な物理的性質を備えている。
【0057】
本発明は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの製薬上許容される塩に関する。適当な製薬上許容される塩の例としては、以下の塩が挙げられる:無機酸付加塩、例えば塩化物、臭化物、硫酸塩、リン酸塩、および硝酸塩; 有機酸付加塩、例えば酢酸塩、ガラクタル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、グリコール酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、およびアスコルビン酸塩; 酸性アミノ酸との塩、例えばアスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩; アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩およびカリウム塩; アルカリ土類金属塩、例えばマグネシウム塩およびカルシウム塩; アンモニウム塩; 有機塩基塩、例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、およびN,N'-ジベンジルエチレンジアミン塩; ならびに塩基性アミノ酸との塩、例えばリシン塩およびアルギニン塩。塩は場合によっては水和物または溶媒和物(例えば、エタノール溶媒和物)であってもよい。
【0058】
本発明の一実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの酸付加塩に関し、その場合の酸は以下から選択される:塩酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、リン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、マロン酸、L-酒石酸、フマル酸、クエン酸、L-リンゴ酸、R-マンデル酸、S-マンデル酸、コハク酸、4-アセトアミド安息香酸、アジピン酸、ガラクタル酸、ジ-p-トルオイル-D-酒石酸、シュウ酸、D-グルクロン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、4-メトキシ安息香酸、(1S)-(+)-10-カンファースルホン酸、(1R,3S)-(+)-ショウノウ酸、およびp-トルエンスルホン酸。本発明はこれらの塩形態の水和物および溶媒和物をも包含する。
【0059】
本発明に含まれる塩の化学量論は変化し得る。例えば、酸と(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンのモル比は1:2または1:1であるのが一般的であるが、3:1、1:3、2:3、3:2、2:1などの他のモル比も可能であり、同様に本発明の範囲に含まれる。
【0060】
本明細書に記載の塩を形成する方法によっては、その塩は塩形成中に存在する溶媒を閉じ込めた結晶構造をとることがある。したがって、塩は(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンに対してさまざまな化学量論の溶媒を含む水和物や他の溶媒和物として存在しうる。
【0061】
本発明の一実施形態において、塩は酸と(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの化学量論が1:2である。別の実施形態において、塩は酸と(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの化学量論が1:1である。
【0062】
本発明の別の実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン モノ-L-リンゴ酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物に関する。
【0063】
本発明の別の実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ヘミ-ガラクタル酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物に関する。
【0064】
本発明の別の実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン シュウ酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物に関する。
【0065】
本発明の別の実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩またはその水和物もしくは溶媒和物に関する。
【0066】
本発明のある実施形態は、以下の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの塩またはその水和物もしくは溶媒和物に関する。
【表1】

【0067】
本発明のさらなる態様は塩の製造方法に関する。塩は制御された条件下で結晶化することにより得られる。
【0068】
本発明はまた、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの塩形態の製造方法に関し、前記方法は以下の工程を含む:
(i) 遊離塩基、または適当な溶媒中の実質的に純粋な(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの遊離塩基の溶液を、純粋な形態の上記酸のいずれか、または適当な溶媒中の酸の溶液(一般的には、0.5〜1当量の酸)としての上記酸のいずれかと混合する工程;
(ii)(a) 得られた塩溶液を必要ならば冷却して沈殿を生じさせる工程、または
(ii)(b) 適当な抗溶媒(anti-solvent)を加えて沈殿を生じさせる工程、または
(ii)(c) 溶媒を蒸発させ、新しい溶媒を加えて工程(ii)(a)または工程(ii)(b)のいずれかを繰り返す工程;および
(iii) 塩を濾過して回収する工程。
【0069】
用いる化学量論、混合溶媒、溶質濃度および温度は変化し得る。
【0070】
塩形態の調製または再結晶に用いられる代表的な溶媒として、限定するものではないが、以下の溶媒が挙げられる:エタノール、メタノール、プロパノール、2-プロパノール、酢酸イソプロピル、アセトン、酢酸エチル、トルエン、水、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、n-ヘプタン、およびアセトニトリル。
【0071】
ある実施形態では、溶媒がエタノール、プロパノール、酢酸イソプロピル、水、ヘキサン、またはこれらの混合物から選択され、沈殿に用いる温度が16℃〜25℃である。
【0072】
ある実施形態では、酸がL-リンゴ酸であり、用いる溶媒が2-プロパノールのみ、または酢酸イソプロピルと組み合わせた2-プロパノールである。別の実施形態では、酸がシュウ酸であり、用いる溶媒が水性2-プロパノールである。
【0073】
さらなる実施形態において、塩は(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩、またはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩である。
【0074】
得られた塩の安定性はさまざまな方法で検証することができる。大気中の水分を吸着および放出する傾向は動的水蒸気収着(dynamic vapor sorption: DVS)により評価される。
【0075】
治療方法
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンもしくはその製薬上許容される塩、または前記化合物を含む医薬組成物は、他のタイプのニコチン性化合物が治療薬として提案されているかまたは有用であることが示されているさまざまな症状または障害(例えば、CNS障害、炎症、細菌および/またはウイルス感染に関連する炎症反応、疼痛、メタボリック症候群、自己免疫疾患または本明細書中でさらに詳しく説明する他の障害)の予防または治療に用いることができる。本化合物はまた、受容体結合試験(in vitroおよびin vivo)において診断薬としても使用される。そのような治療や他の教示は、例えば、以下の文献を含めて、本明細書中で先に挙げた文献に記載されている:Williams et al., Drug News Perspec. 7(4): 205 (1994); Arneric et al., CNS Drug Rev. 1(1): 1-26 (1995); Arneric et al., Exp. Opin. Invest. Drugs 5(1): 79-100 (1996); Bencherif et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 279: 1413 (1996); Lippiello et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 279: 1422 (1996); Damaj et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 291: 390 (1999); Chiari et al., Anesthesiology 91: 1447 (1999); Lavand'homme and Eisenbach, Anesthesiology 91: 1455 (1999); Holladay et al., J. Med. Chem. 40(28): 4169-94 (1997); Bannon et al., Science 279: 77 (1998); PCT WO 94/08992, PCT WO 96/31475, PCT WO 96/40682; ならびにBencherifらの米国特許第5,583,140号、Dullらの同第5,597,919号、Smithらの同第5,604,231号およびCosfordらの同第5,852,041号。
【0076】
本発明の一実施形態は、医薬の製造における(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩の使用に関する。
【0077】
本発明の別の実施形態は、医薬として用いるための(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩またはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩の使用に関する。
【0078】
本発明のある実施形態は、中枢神経系(CNS)障害の治療または予防方法に関し、前記方法は、そのような治療を必要とする哺乳動物に、治療に有効な量の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩を投与することを含む。さらに具体的には、前記障害はCNS障害、炎症、細菌および/またはウイルス感染に関連する炎症反応、疼痛、メタボリック症候群、自己免疫疾患または本明細書中でさらに詳しく説明する他の障害からなる群より選択される。
【0079】
本発明の一実施形態は、治療に有効な量の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩、および1種以上の製薬上許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤を含有する医薬組成物に関する。
【0080】
本発明の一実施形態は、CNS障害の治療用医薬の製造における本発明の医薬組成物の使用に関する。
【0081】
本発明の別の実施形態は、NNR介在疾患の治療または予防用の医薬の製造における(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩の使用に関する。
【0082】
本発明の別の実施形態は、NNRをモジュレートする方法に関し、前記方法は、それを必要とする被験者に、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩を投与することを含む。
【0083】
CNS障害
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン、またはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩、または前記化合物を含む医薬組成物は、神経変性疾患、精神神経疾患、神経障害および依存症を含む、さまざまなCNS障害の治療または予防に有用である。前記化合物とその医薬組成物は、加齢やその他に関連する認知障害および認知機能障害; 注意障害および認知症(感染性病原体または代謝障害によるものを含む)を治療または予防するために; 神経防護作用を与えるために; 痙攣および多発性脳梗塞を治療するために; 気分障害、衝動強迫および嗜癖行動を治療するために; 鎮痛をもたらすために; サイトカインおよび核因子κBが介在するような炎症を抑えるために; 炎症性疾患を治療するために; 疼痛緩和を与えるために; ならびに細菌、真菌およびウイルス感染治療用の抗感染症薬として、感染症を治療するために、使用することができる。これらの障害または疾患のうち、本発明の化合物および医薬組成物を用いて治療または予防できる疾病および症状は以下のとおりである:加齢に伴う記憶障害(AAMI)、軽度認知障害(MCI)、年齢に関連する認知低下(ARCD)、初老期認知症、早期発症型アルツハイマー病、老人性認知症、アルツハイマー型認知症、アルツハイマー病、認知症でない認知障害(cognitive impairment no dementia: CIND)、レビー小体型認知症、HIV認知症、エイズ認知症症候群、脳血管性認知症、ダウン症候群、頭部外傷、外傷性脳損傷(TBI)、ボクサー認知症(dementia pugilistica)、クロイツフェルト・ヤコブ病およびプリオン病、脳卒中、虚血、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、統合失調症、統合失調症様障害、統合失調症性感情障害、統合失調症の認知機能障害、統合失調症の認知障害、パーキンソン病を含むパーキンソン症候群(Parkinsonism)、脳炎後パーキンソン症候群、グアム島パーキンソン認知症、前頭側頭認知症パーキンソン型(FTDP)、ピック病、ニーマン・ピック病、ハンチントン病、ハンチントン舞踏病、遅発性ジスキネジー、運動過剰症、進行性核上性麻痺、進行性核上性不全麻痺、むずむず脚症候群、クロイツフェルト・ヤコブ病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動ニューロン疾患(MND)、多系統萎縮症(MSA)、大脳皮質基底核変性症、ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、てんかん、常染色体優性夜間前頭葉てんかん、躁病、不安神経症、うつ病、月経前不快気分障害、パニック障害、過食症、拒食症、ナルコレプシー(発作性睡眠)、日中の過剰な眠気、双極性障害、全般性不安障害、強迫神経症、激怒爆発、反抗性行為障害、トゥレット症候群、自閉症、薬物およびアルコール依存症、タバコ中毒、ならびに摂食障害。
【0084】
認知障害または認知機能障害は、以下のような精神障害または症状と関連していることがある:統合失調症や他の精神病性障害、例えば、精神異常、統合失調症様障害、統合失調症性感情障害、妄想性障害、短期精神病性障害、共有精神病性障害、および一般的な病状による精神病性障害を含むがこれらに限らない;認知症や他の認知障害、例えば、軽度認知障害、初老期認知症、アルツハイマー病、老人性認知症、アルツハイマー型認知症、加齢に伴う記憶障害、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、エイズ認知症症候群、失読症、パーキンソン病を含むパーキンソン症候群、パーキンソン病の認知障害および認知症、多発性硬化症の認知障害、外傷性脳損傷により引き起こされる認知障害、他の一般的な病状による認知症を含むがこれらに限らない;不安障害、例えば、広場恐怖症を伴わないパニック障害、広場恐怖症を伴うパニック障害、パニック障害歴のない広場恐怖症、特定恐怖症、社会恐怖症、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、全般性不安障害および一般的な病状による全般性不安障害を含むがこれらに限らない;気分障害、例えば、大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性うつ病、双極性躁病、双極性I型障害、躁症状、うつ症状または混合症状の出現を伴ううつ病、双極性II型障害、気分循環性障害、および一般的な病状による気分障害を含むがこれらに限らない;睡眠障害、例えば、睡眠変調性障害、原発性不眠症、原発性過眠症、ナルコレプシー(発作性睡眠)、睡眠時異常行動障害、悪夢障害、夜驚症および睡眠時遊行症(夢遊病)を含むがこれらに限らない;精神遅滞、学習障害、運動能力障害、コミュニケーション障害、広汎性発達障害、注意欠陥および破壊的行動障害、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、乳幼児、子供および成人の摂食障害、チック障害、排泄障害;物質関連障害、例えば、物質依存、物質乱用、薬物中毒、薬物離脱(禁断症状)、アルコール関連障害、アンフェタミンまたはアンフェタミン様関連障害、カフェイン関連障害、大麻関連障害、コカイン関連障害、幻覚剤関連障害、吸入剤関連障害、ニコチン関連障害、アヘン類関連障害、フェンシクリジンまたはフェンシクリジン様関連障害、および鎮静剤-、睡眠薬-または抗不安薬-関連障害を含むがこれらに限らない;人格障害、例えば、強迫性人格障害および衝動制御障害を含むがこれらに限らない。
【0085】
上記の症状および障害は、例えば、American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders [アメリカ精神医学会:精神障害の診断と統計マニュアル], 第4版, 改訂, Washington, DC, American Psychiatric Association, 2000中に詳細に記載されている。このマニュアルはまた、物質の使用、乱用および依存に関連する症状および診断上の特徴についてより詳しく述べている。
【0086】
一実施形態はCNS障害の治療または予防方法に関し、この方法は、それを必要とする被験者に、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン、またはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩、または前記化合物を含有する医薬組成物を投与することを含む。
【0087】
別の実施形態において、前記CNS障害は、統合失調症の認知機能障害(CDS)、アルツハイマー病(AD)、注意欠陥障害(ADD)、初老期認知症(早期発症型アルツハイマー病)、アルツハイマー病型認知症、軽度認知障害、加齢に伴う記憶障害、および注意欠陥多動性障害(ADHD)から選択される。ある実施形態では、CNS障害が記憶障害および学習障害から選択される。
【0088】
炎症
神経系は、主に迷走神経を介して、マクロファージ腫瘍壊死因子(TNF)の放出を抑制することによって先天性免疫反応の大きさを調節していることが分かっている。この生理学的機序は「コリン作動性抗炎症経路」として知られる(例えば、Tracey, The inflammatory reflex [炎症性反射], Nature 420: 853-9 (2002)を参照されたい)。過度の炎症と腫瘍壊死因子合成は各種疾患の病的状態の原因となり、死を引き起こすことさえある。こうした疾患には、限定するものではないが、内毒素血症、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬、喘息、アテローム性動脈硬化、特発性肺線維症、および炎症性腸疾患が含まれる。
【0089】
本明細書に記載の化合物を投与することによって治療または予防しうる炎症性疾患としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:慢性および急性炎症、乾癬、内毒素血症、痛風、急性偽痛風、急性痛風関節炎、関節炎、関節リウマチ、変形性関節症、同種移植拒絶反応、慢性移植拒絶反応、喘息、アテローム性動脈硬化、単核食細胞依存性肺損傷、特発性肺線維症、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患、成人型呼吸窮迫症候群、鎌状赤血球病における急性胸部症候群、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性胆管炎、アフタ性口内炎、回腸嚢炎、糸球体腎炎、ループス腎炎、血栓症および移植片対宿主反応。
【0090】
細菌および/またはウイルス感染に関連する炎症反応
多くの細菌および/またはウイルスによる感染症は、毒素の形成に起因する副作用を伴い、また、細菌やウイルスおよび/またはその毒素に対する自然の生体反応を伴う。上で述べたように、感染に対する生体反応は、かなりの量のTNFおよび/または他のサイトカイン類の生成を伴うことが多い。こうしたサイトカインの過剰発現は、結果として、敗血症性ショック(細菌が敗血症の原因である場合)、内毒素性ショック、尿性敗血症、ウイルス性肺炎、および毒素性ショック症候群などの重大な障害をもたらすことがある。
【0091】
サイトカインの発現にはNNRが介在しており、これらの受容体のアゴニストまたはパーシャルアゴニスト(部分作動薬)を投与することによってサイトカイン発現を抑制することができる。したがって、これらの受容体のアゴニストまたはパーシャルアゴニストである本明細書に記載の化合物は、細菌感染だけでなくウイルスや真菌感染にも関連する炎症反応を最小限に抑えるために使用することができる。こうした細菌感染症の例としては、炭疽病、ボツリヌス中毒症および敗血症が挙げられる。これらの化合物の中には、抗菌性を有するものもある。
【0092】
本発明の化合物はさらに、細菌、ウイルスおよび真菌感染症に対処するために、抗生物質、抗ウイルス薬および抗真菌薬などの既存の治療薬と組み合わせて、補助療法として使用することもできる。また、病原体により産生された毒素と結合させるために抗毒素を用いてもよく、その抗毒素が、炎症反応を起こすことなく、結合した毒素の体内通過を可能にする。抗毒素の例は、例えば、Bundleらの米国特許第6,310,043号に開示されている。細菌の毒素や他の毒素に対して効果のある他の薬剤も使用することができ、それらの治療効果は本明細書に記載の化合物と共投与することによって補完される。
【0093】
疼痛
本化合物は、疼痛、例えば急性疼痛、神経痛、炎症性疼痛、神経因性疼痛および慢性疼痛を治療および/または予防するために投与することができる。本明細書に記載の化合物の鎮痛作用は、公開された米国特許出願第20010056084 A1 (Allgeierら)に記載のとおりに実施される、持続性炎症性疼痛モデルおよび神経因性疼痛モデル(例えば、炎症性疼痛の完全フロインドアジュバントラットモデルにおける機械的痛覚過敏、および神経因性疼痛のマウス坐骨神経部分損傷モデルにおける機械的痛覚過敏)で実証することができる。
【0094】
その鎮痛効果は、さまざまな起源や原因の疼痛の治療に適しており、特に、炎症性疼痛とその関連する痛覚過敏、神経因性疼痛とその関連する痛覚過敏、慢性疼痛(例えば、重症の慢性疼痛、術後疼痛、および癌、狭心症、腎仙痛または胆石仙痛、月経痛、偏頭痛、痛風を含む各種疾患と関連する疼痛)の治療に適する。炎症性疼痛は、関節炎およびリウマチ様疾患、腱鞘炎、血管炎を含む、多様な起源のものでありうる。神経因性疼痛としては、三叉神経痛またはヘルペス神経痛、ニューロパシー(神経障害)、糖尿病性神経障害疼痛、灼熱痛、腰痛および求心路遮断性疼痛症候群(例えば、腕神経叢引き抜き)が挙げられる。
【0095】
一実施形態は疼痛の治療方法に関し、この方法は、それを必要とする被験者に、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン、またはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩、または前記化合物を含有する医薬組成物を投与することを含む。
【0096】
その他の障害
CNS障害、炎症および疼痛の治療に加えて、本発明の化合物は、NNRが何らかの役割を果たしている特定の他の症状、疾患および障害の予防または治療にも使用することができる。それらの例を挙げると、自己免疫疾患(紅斑性狼瘡など)、サイトカイン放出関連障害、感染のために二次的に生じる(例えば、AIDS、AIDS関連症候群および腫瘍で生じるような)悪液質、肥満症、天疱瘡、尿失禁、網膜疾患、感染症、筋無力症、イートン・ランバート症候群、ジストニア(筋失調症)、高血圧症、骨粗鬆症、血管収縮、血管拡張、不整脈、I型糖尿病、II型糖尿病、潰瘍、過食症、拒食症、便秘、および下痢、ならびに公開されたPCT出願WO 98/25619に記載される適応症などがある。本発明の化合物はまた、てんかんの症状のような痙攣を治療するために、また、梅毒やクロイツフェルト・ヤコブ病のような疾患を治療するために、投与することもできる。
【0097】
診断用途
本発明の別の実施形態は、診断薬としての有用性がありかつ本明細書に記載する受容体結合試験において有用である化合物に関する。
【0098】
本化合物は、特に適切な標識を含むように修飾されている場合に、プローブなどの診断組成物中で用いることができる。プローブは、例えば、特異的受容体(特にα4β2受容体サブタイプ)の相対数および/または機能を調べるために用いられる。そのために、本発明の化合物を11C、18F、76Br、123Iまたは125Iなどの放射性アイソトープで標識することが最も好ましい。
【0099】
本発明の一実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン、またはその製薬上許容される塩、またはそのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩であって、その原子のうちの1〜3個が3H、19Fおよび13Cから選択される検出可能なアイソトープを表すか、またはその原子のうちの1個が18F、11Cおよび14Cから選択される検出可能なアイソトープである、前記化合物に関する。
【0100】
投与された化合物は、用いた標識に適する公知の検出方法を使って検出することができる。検出方法の例としては、シンチレーション計測、ポジトロン断層撮影(PET)、単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)、γ線イメージング、磁気共鳴イメージング(MRI)、または磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)がある。上記の放射性標識は、PET(例えば、11C、18Fまたは76Br)およびSPECT(例えば、123I)イメージングにおいて有用であり、半減期は11Cが約20.4分、18Fが約109分、123Iが約13時間、そして76Brが約16時間である。所定の受容体サブタイプを非飽和濃度で可視化するには、高い比放射能が望まれる。投与される用量は一般に低く、かつ高コントラスト画像をもたらす量である。投与量の決定は、放射性標識イメージングの分野の当業者に公知の方法で行う。本化合物は他の成分(例えば、診断組成物を処方するうえで有用な種類の成分)を加えた組成物として投与することができる。最も好ましくは、本発明を実施するうえで有用な化合物が高純度の形態で用いられる。本化合物を被験者(例えば、ヒト被験者)に投与した後、所定のNNRサブタイプの存在、数量および機能性を示すために、被験者の体内の当該化合物の存在を適切な技法で画像化し定量化することができる。ヒトのほかに、マウス、ラット、ウマ、イヌ、サルといった動物に本化合物を投与してもよい。SPECTおよびPETイメージングは適切な技術および装置を用いて実施することができる。放射性標識化合物は選択的NNRサブタイプ(例えば、α4β2)と高い親和性で結合し、他のニコチン性コリン作動性受容体サブタイプ(例えば、筋肉と神経節に関連する受容体サブタイプ)とは無視できる程度の非特異的結合を示すことが好ましい。こうして、本化合物は被験者の体内の、特にさまざまなCNS疾患および障害と関連する診断のために脳内の、ニコチン性コリン作動性受容体サブタイプの非侵襲的イメージング剤として用いることができる。
【0101】
一態様において、その診断組成物はヒト患者などの被験者の疾病を診断する方法で用いられる。この方法は、本明細書に記載するような、検出可能に標識した化合物を患者に投与し、所定のNNRサブタイプ(例えば、α4β2受容体サブタイプ)への前記化合物の結合を検出することを含む。PETやSPECTなどの診断ツールを用いる分野の当業者であれば、中枢神経系と自律神経系の機能障害に関連する疾患および障害を含む、さまざまな疾患および障害を診断するために、本明細書に記載の放射性標識化合物を用いることができる。そのような障害には、アルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症、または本明細書で挙げた障害などの、さまざまなCNS疾患および障害が含まれる。
【0102】
受容体結合
本発明の化合物は、NNRサブタイプ(特に、α4β2受容体サブタイプ)と結合する化合物の結合アッセイにおいて基準リガンドとして使用することができる。そのために、本発明の化合物は好ましくは3Hまたは14Cなどの放射性アイソトープで標識される。そうした結合アッセイの例については以下で詳しく説明する。
【0103】
医薬組成物
一態様において、本発明は、本発明の化合物と1種以上の製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含有する医薬組成物に関する。本発明の別の態様は、本発明の化合物を1種以上の製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤と混合することを含む、医薬組成物の調製方法を提供する。
【0104】
本発明の化合物の投与方法はさまざまでありうる。好ましくは、本発明の化合物は経口投与される。経口投与用の好ましい医薬組成物には、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、シロップ剤、溶液剤および懸濁液剤が含まれる。本発明の医薬組成物を、徐放性の錠剤やカプセル剤といった、放出制御剤形で提供することも可能である。
【0105】
医薬組成物はまた、注射により、すなわち、静脈内、筋内、皮下、腹腔内、動脈内、髄腔内、および脳室内に投与することもできる。注射用の担体としては、5%ブドウ糖液、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水が挙げられる。
【0106】
本組成物は他の手段を用いて、例えば直腸投与によって、投与することもできる。本化合物は、吸入により、例えばエアゾールの形で;局所的に、例えばローションの剤形で;経皮的に、例えば経皮パッチ(例えば、Novartis社とAlza Corporation社から商業的に入手できる技術を使用)を用いて;粉末注入により;または口腔、舌下もしくは鼻腔内吸収により、投与することもできる。
【0107】
医薬組成物は単位用量の剤形で、または複数回用量もしくはサブユニット用量の剤形で製剤化することができる。
【0108】
本明細書に記載する医薬組成物の投与は、断続的であってもよいし、または段階的、連続的、恒常的、もしくは制御された速度で行ってもよい。本医薬組成物は、温血動物、例えばマウス、ラット、ネコ、モルモット、ウサギ、ウマ、イヌ、ブタ、ウシまたはサルなどの哺乳動物に投与することができるが、有利にはヒトに投与される。
【0109】
併用投与
本発明の化合物は、さまざまな障害および疾患の治療に用いることができ、そのため、そのような障害の治療または予防に有用な他の各種治療薬と併用することができる。したがって、本発明の一実施形態は、本発明の化合物と他の治療薬との併用投与に関する。例えば、本発明の化合物は以下の物質と併用可能である:他のNNRリガンド(例:バレニクリン(varenicline))、抗酸化物質(例:フリーラジカル消去剤)、抗菌剤(例:ペニシリン系抗生物質)、抗ウイルス剤(例:ヌクレオシド類似物質、ジドブジン(zidovudine)、アシクロビル(acyclovir)など)、抗凝血剤(例:ワーファリン(warfarin))、抗炎症剤(例:NSAIDs)、解熱剤、鎮痛剤、麻酔剤(例:手術で用いるもの)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例:ドネペジル(donepezil)、ガランタミン(galantamine))、抗精神病薬(例:ハロペリドール(haloperidol)、クロザピン(clozapine)、オランザピン(olanzapine)、クエチアピン(quetiapine))、免疫抑制剤(例:シクロスポリン(cyclosporin)、メトトレキセート(methotrexate))、神経保護剤、ステロイド(例:ステロイドホルモン)、コルチコステロイド(例:デキサメタゾン(dexamethasone)、プレドニゾン(prednisone)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone))、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品、抗うつ剤(例:イミプラミン(imipramine)、フルオキセチン(fluoxetine)、パロキセチン(paroxetine)、エスシタロプラム(escitalopram)、セルトラリン(sertraline)、ベンラファキシン(venlafaxine)、デュロキセチン(duloxetine))、抗不安薬(例:アルプラゾラム(alprazolam)、ブスピロン(buspirone))、抗痙攣薬(例:フェニトイン(phenytoin)、ガバペンチン(gabapentin))、血管拡張剤(例:プラゾシン(prazosin)、シルデナフィル(sildenafil))、気分安定剤(例:バルプロ酸塩、アリピラゾール(aripiprazole))、抗癌剤(例:抗増殖剤)、抗高血圧剤(例:アテノロール(atenolol)、クロニジン(clonidine)、アムロピジン(amlopidine)、ベラパミル(verapamil)、オルメサルタン(olmesartan))、緩下剤、便軟化剤、利尿剤(例:フロセミド(furosemide))、鎮痙薬(例:ジサイクロミン(dicyclomine))、抗ジスキネジア薬、および抗潰瘍薬(例:エソメプラゾール(esomeprazole))。こうした治療薬の併用投与は一緒に行っても、別々に行ってもよく、別々に投与する場合は、投与を同時に行っても、いずれかの順序で逐次行ってもよい。化合物または薬剤の量および相対的な投与タイミングは、希望する治療効果が得られるように選択される。本発明の化合物と他の治療薬との併用投与は、(1)両方の化合物を含む単一の医薬組成物、または(2)それぞれ一方の化合物を含む別個の医薬組成物、を同時に投与することによる併用でありうる。あるいはまた、一方の治療薬を最初に投与して、他方の治療薬をその次に投与する逐次的方法で、併用される薬剤を別々に投与することもできる。こうした逐次投与は時間的に接近していても、離れていてもよい。
【0110】
本発明の別の態様は、被験者に、治療または予防に有効な量の本発明の化合物と、1種以上の他の治療薬(化学療法剤、放射線療法剤、遺伝子治療剤、または免疫療法で用いる薬剤を含む)を投与することを含む併用療法に関する。
【0111】
低用量
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、血液脳関門にあるPgp脳ポンプの基質である。Pgpポンプは脳からの物質の排出に関与している。このポンプのため、治療に有効な量の薬物を脳内に引き入れることがしばしば困難である。多くの場合、これは結果的に高用量の薬物を投与することとなり、そうした高レベルでは人体の他の部分に副作用が生じる可能性がある。(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンは、Pgpポンプの基質であるにもかかわらず、低用量で投与できると同時に、比較的長期にわたって効果を及ぼす。例えば、天然のNNRアゴニストであるアセチルコリンと比較して、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの応答は、α4β2でのin vitroアッセイにおいて2倍も高くなる。
【0112】
本発明の一実施形態は、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩(特定の実施形態では、そのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩)を含む医薬組成物を1〜2200μg/日の量で投与することに関する。別の実施形態では、その量が50〜1500μg/日である。さらなる実施形態では、その量が50〜1000μg/日である。一実施形態では、その量が50〜500μg/日である。別の実施形態では、その量が75〜300μg/日である。さらに他の実施形態では、その量が75〜200μg/日である。さらに他の実施形態では、その量が75〜150μg/日である。
【0113】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩(特定の実施形態では、そのモノ-L-リンゴ酸塩、ヘミ-ガラクタル酸塩、シュウ酸塩もしくはジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩)の用量は1日に1回、2回または3回投与される。ある実施形態は1日1回の投与に関する。別の実施形態は1日2回の投与に関する。
【0114】
本発明の別の実施形態は、5〜8時間の半減期(t1/2)を有するNNRアゴニストに関する。ある実施形態では、その半減期が6〜7時間である。別の実施形態では、その半減期が6.8時間である。
【0115】
本発明の別の実施形態は、5〜10時間の作用持続時間を有するNNRアゴニストに関する。ある実施形態では、その持続時間が6〜9時間である。他の実施形態では、その持続時間が8時間である。
【0116】
さらなる実施形態において、前記アゴニストはα4β2アゴニストである。
【0117】
さらに別の実施形態において、前記アゴニストは(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンである。
【実施例】
【0118】
以下の実施例は本発明を説明するために提供されるものであり、本発明を限定するものと解されるべきでない。これらの実施例において、全ての部およびパーセントは、特に断りのない限り、重量基準である。
【0119】
実施例1:(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンおよびその塩形態の特性解析のための機器類ならびに実験プロトコル
核磁気共鳴(NMR)分光法
NMRスペクトルは、オートサンプラーを装備し、DRX400コンソールにより制御される、Varian Unity 300 MHz装置またはBruker 400MHz装置で収集した。自動化実験では、標準Brukerロード実験を用いて、Topspin v 1.3 (パッチレベル8)で実行するICONNMR v4.0.4 (ビルド1)を用いて取得した。非ルーチン分光法では、Topspinのみを用いてデータを取得した。
【0120】
融点
Fisher-Johnsホットステージ融点測定装置を約5℃/分の昇温速度に対応する設定で用いた。
【0121】
示差走査熱量測定(DSC)
DSCデータは、50ポジションオートサンプラーを装備したTA Instruments Q1000またはMettler DSC 823eで収集した。この装置は、認定インジウムを用いて、エネルギーおよび温度較正のための較正を行った。ピンホールのあるアルミニウムパンに入れた一般には0.5〜1.5mgの各サンプルを10℃/分で25℃から175〜200℃まで加熱した。サンプル上で30mL/分の窒素パージを維持した。
【0122】
動的水蒸気収着(DVS)
収着等温線は、SMS Analysisスイートソフトウェアにより制御されるSMS DVS固有水分収着アナライザを用いて測定した。サンプルの温度を測定器コントロールにより25℃に維持した。乾燥窒素と湿潤窒素の流れ(合計流量200mL/分)を混合することによって湿度を調整した。相対湿度(RH)はサンプル近辺に配置した較正Rotronicプローブ(RH1.0〜100%の動的範囲)により測定した。RH%の関数としてのサンプルの重量変化(質量緩和:mass relaxation)を微量てんびん(精度±0.005mg)により絶えずモニタリングした。
【0123】
一般に5〜20mgのサンプルを周囲条件下でステンレス製メッシュバスケット(容器の重さを量った)に入れた。サンプルの投入および取り出しはRH40%、25℃(典型的な周囲条件)で行った。水分収着等温線は下記のとおりに測定した(2回のスキャンが1回の全サイクルを与える)。標準等温線は25℃で10%RH間隔にて0〜90%のRH範囲にわたって測定した。
【表2】

【0124】
HPLCによる化学的純度
純度分析は、ダイオードアレイ検出器を備えたAgilent HP1100シリーズHPLCシステムで、ChemStationソフトウェアvB.02.01-SR1を用いて行った。
【表3】

【0125】
イオンクロマトグラフィー
データは、Metrohm 761 Advanced Compact IC(陽イオンの測定)およびMetrohm 861 Advanced Compact IC(陰イオンの測定)でIC Netソフトウェアv2.3を用いて収集した。サンプルをDMSO中の1000ppm原液として調製した。試験前にDMSOを用いて100ppmにサンプルを希釈した。定量は、分析対象イオンの既知濃度の標準溶液と比較して行った。
【表4】

【0126】
実施例2:(R)-3-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(2)の合成
手順A: −20〜−30℃でトルエン(700mL)に溶解した(R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(200g, 1.07mol)とトリエチルアミン(167g, 1.63mol)の溶液に、塩化メタンスルホニル(156g, 1.36mol)を−10〜−20℃の温度に維持しながら滴下した。この溶液を周囲温度まで温めて、撹拌した。反応溶液を1時間ごとにサンプリングしてHPLCで分析し、反応の完了を確かめた。反応完了時に、懸濁液を濾過してトリエチルアミン塩酸塩を除去した。濾液を約600mLの希炭酸水素ナトリウム水溶液で洗った。有機層を乾燥させ、減圧下で濃縮すると、化合物2が粘性オイル(260g, 92%)として得られ、これをそれ以上精製することなく使用した。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 5.27 (m, 1H), 3.44 - 3.76 (m, 4H), 3.05 (s, 3H), 2.26 (m, 1H), 2.15 (m, 1H), 1.47 (s, 9H)。
【0127】
手順B: 反応容器に(R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(2.00kg, 10.7mol)、トルエン(8.70kg)およびトリエチルアミン(1.75kg, 17.3mol)を投入した。その反応容器に窒素を15分間フラッシュした。混合物を撹拌し、3℃に冷却した。氷浴で絶えず冷やしながら(発熱反応)、塩化メタンスルホニル(1.72kg, mol)を徐々に加えた(添加終了後の温度は14℃であった)。その混合物(析出したトリエチルアミン塩酸塩のため粘性)を20℃まで温めて、12時間撹拌した。GCおよびTLC分析(ニンヒドリン染色)はどちらも出発物質が残存しないことを示した。その混合物を濾過してトリエチルアミン塩酸塩を除き、濾液を反応容器に戻した。その後、濾液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(2×3kg)で洗浄したが、各洗浄につき15分の撹拌と15分の沈降時間を採用した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させて、濾過した。揮発性物質を真空下に、最初は50℃で4時間、その後は周囲温度で10時間、濾液から取り除いた。残留物は3.00kg(収率106%)あり、クロマトグラフィーおよびNMR解析により、それがトルエンを含んでいたことを除けば、以前に調製したサンプルと同一であった。
【0128】
実施例3:(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル(3)の合成
調製A: 1-メチル-2-ピロリジノン(1.19L)中のカリウムtert-ブトキシド(187g, 1.62mol)の溶液に、温度を35℃以下に保ちながら、マロン酸ジエチル(268g, 1.67mol)を加えた。この溶液を40℃に加熱して20〜30分撹拌した。(R)-3-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(112g, 420mmol)を加え、この溶液を65℃に加熱して6時間撹拌した。その反応溶液を2時間ごとにサンプリングしてHPLCで分析し、反応の完了を確かめた。反応の完了後(10〜12時間)、混合物を約25℃に冷却した。この溶液に脱イオン水(250mL)を加え、2N塩酸(650mL)の添加によりpHを3〜4に調整した。生じた懸濁液を濾過し、水(1.2L)とクロロホルム(1.4L)を加えた。この溶液を十分に混合し、クロロホルム層を回収し、減圧下で蒸発させて黄色のオイルを得た。このオイルをヘキサン(2.00L)に溶解し、脱イオン水(2×1.00L)で洗った。有機層を減圧下に50〜55℃で濃縮すると、薄黄色のオイル(252g)が得られた。1H NMR解析から、このオイルは49.1%の化合物3 (123.8g)と共に、48.5%のマロン酸ジエチル(122g)と2%の1-メチル-2-ピロリジノン(5g)を含むことが示された。この物質をそれ以上精製することなく次の工程に進めた。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 4.20 (q, 4H), 3.63 (m, 1H), 3.48 (m, 1H), 3.30 (m, 1H), 3.27 (d, J = 10 Hz, 1H), 3.03 (m, 1H), 2.80 (m, 1H), 2.08 (m, 1H), 1.61 (m, 1H), 1.45 (s, 9H), 1.27 (t, 6H)。
【0129】
調製B: 窒素雰囲気下に維持した反応容器に、200度のエタノール(5.50kg)およびエタノール中の21%(重量基準)ナトリウムエトキシド(7.00kg, 21.6mol)を投入した。この混合物を撹拌して30℃に温めた。マロン酸ジエチル(3.50kg, 21.9mol)を20分間にわたり添加した。その後反応混合物を40℃で1.5時間加温した。200度のエタノール(5.50kg)に溶解した(R)-3-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(実施例2、手順Bからの生成物3.00kg, 10.7mol)の溶液を加え、生じた混合物を還流(78℃)下で2時間加熱した。GCおよびTLC分析(ニンヒドリン染色)はどちらも出発物質が残存しないことを示した。次に、撹拌した混合物を25℃に冷却し、水(2.25kg)で希釈して、水(5.44kg)中の濃塩酸(1.27kg, 12.9mol)の溶液で徐々に処理した。この混合物をメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)(14.1kgおよび11.4kg)で2回洗浄したが、各洗浄につき15分の撹拌と15分の沈降時間を採用した。MTBE洗浄液を一緒にして無水硫酸ナトリウム(1kg)で乾燥させ、濾過し、真空下に50℃で6時間濃縮した。残留物(赤色オイル)は4.45kgあり、GC解析により、49%の目的生成物((R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルからの全収率62%)であった。
【0130】
実施例4:(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸(4)の合成
手順A: 123.8g (380mmol)の化合物3と121.8g (760mmol)のマロン酸ジエチルを含む実施例3、手順Aの生成物(232g)をテトラヒドロフラン(1.2L)に溶解した溶液に、25℃以下の温度に保ちながら、21%水酸化カリウム溶液(脱イオン水0.50L中の450g)を加えた。この反応混合物を45℃に加熱して1時間撹拌した。反応溶液を1時間ごとにサンプリングしてHPLCにより分析し、反応の完了を確かめた。反応完了後(2〜3時間)、その混合物を約25℃に冷却した。水層を回収して5℃に冷却した。4N塩酸(750mL)の添加によりpHを2に調整し、得られた懸濁液を5〜10℃で30分保持した。その混合物を濾過し、濾過ケークをヘキサン(1L)で洗った。水性濾液をクロロホルム(1L)で抽出し、クロロホルム層を取っておいた。濾過工程で回収した固形物を、40℃に加熱することによってクロロホルム(1L)中に再溶解させた。その溶液を濾過して、未溶解の無機固形物を除去した。クロロホルム層を一緒にし、減圧下50〜55℃で濃縮して灰白色の固形物(15g)を得た。固形物を一緒にし、酢酸エチル(350mL)に溶解して懸濁液とし、これを55〜60℃で2時間加温した。その懸濁液を温かいうちに濾過し、得られたケークを酢酸エチル(2×150mL)とヘキサン(2×250mL)で洗浄すると、83.0g (80.1%)の化合物4が白色固体として得られ、これをそれ以上精製することなく次の工程で使用した。1H NMR (d4-CH3OH, 400 MHz) δ 3.60 (m, 1H), 3.46 (m, 1H), 3.29-3.32 (m, 2H), 2.72 (m, 1H), 2.09 (m, 1H), 1.70 (m, 1H), 1.45 (s, 9H)。
【0131】
手順B: 2.13kg (6.47mol)の化合物3を含む実施例3、手順Bの生成物(4.35kg)をテトラヒドロフラン(13.9kg)に溶解した溶液を、35℃以下の温度に保ちながら、窒素雰囲気下に脱イオン水(2.00kg)中の水酸化カリウム(1.60kg, 40.0mol)の撹拌冷却溶液に添加した。その反応混合物を加熱し、40〜45℃で24時間維持したが、この時までにGCおよびTLC分析は反応が完了したことを示した。その混合物を25℃に冷却し、15分の撹拌と15分の沈降時間を用いて、MTBE (34kg)で洗浄した。水層を回収して1℃に冷却した。その後、脱イオン水(2.18kg)中の濃塩酸(2.61kg, 26.5mol)の混合液を徐々に加えた。添加中と添加後15分間は、混合液の温度を<15℃に保った。その溶液のpHを塩酸のさらなる添加により3.7に調整した。白色固体を濾過により回収し、水(16kg)で洗浄し、周囲温度で6日間真空乾燥させた。乾燥固体は1.04kgあった。濾液を<10℃に冷却し、さらなる塩酸の添加によりpHを下げながら(1.6Lの6Nを用いた; 9.6mol; 最終pH=2)その温度に維持した。白色固体を濾過により回収し、水(8L)で洗浄し、40℃で3日間真空乾燥させた。乾燥固体は0.25kgあった。一緒に合わせた固体(1.29kg, 収率73%)は、以前に調製したサンプルとクロマトグラフィーが同一であった。
【0132】
実施例5:(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)酢酸(5)の合成
手順A: 1-メチル-2-ピロリジノン(0.42L)に溶解した(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸(83g)の溶液を窒素下に110〜112℃で2時間撹拌した。反応溶液を1時間ごとにサンプリングしてHPLCにより分析し、反応の完了を確かめた。反応完了後、反応溶液を20〜25℃に冷却した。その溶液を脱イオン水(1.00L)と混合し、MTBE (1.00L)を添加した。相を分離させ、有機層を回収した。水相はMTBE (1.00L)、次にクロロホルム(1.00L)で抽出した。有機層を一緒にし、減圧下50〜55℃で濃縮してオイルを得た。このオイルをMTBE (2.00L)に溶解し、0.6N塩酸(2×1.00L)で2回洗浄した。有機層を回収し、減圧下50〜55℃で濃縮して半固体を得た。この半固体を酢酸エチル/ヘキサン1:4混合溶媒(100mL)に懸濁させ、50℃に加熱して30分間保持し、−10℃に冷却してから濾過した。濾液を減圧下で濃縮してオイルを得、これをMTBE (250mL)に溶解し、0.6N塩酸(2×100mL)で2回洗浄した。有機層を減圧下50〜55℃で濃縮して半固体を得、これを酢酸エチル/ヘキサン1:4混合溶媒(50mL)に懸濁させ、50℃に加熱して30分間保持し、−10℃に冷却してから濾過した。固形物を回収し、ヘキサン(200mL)に懸濁させ、濾過により回収して54.0g (77.6%)の化合物5を得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 11.00 (br s, 1H), 3.63 (m, 1H), 3.45 (M, 1H), 3.30 (M, 1H), 2.97 (m, 1H), 2.58 (m, 1H), 2.44 (m, 2H), 2.09 (m, 1H), 1.59 (M, 1H), 1.46 (s, 9H)。
【0133】
手順B: 1-メチル-2-ピロリジノン(6.49kg)に溶解した(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸(1.04kg, 3.81mol)の溶液を窒素下に110℃で5時間撹拌した。その時までにTLCおよびHPLC分析は反応が完了したことを示した。この反応混合物を25℃(4時間)に冷却し、水(12.8kg)およびMTBE (9.44kg)と混合した。その混合物を20分激しく撹拌してから、相を分離させた(10時間)。有機相を回収し、水相をMTBE (9.44kg)と混合し、15分撹拌して沈降させた(45分)。3つの有機相を一緒に合わせ、1N塩酸(各回8.44kg)で3回、水(6.39kg)で1回洗浄したが、その際、各洗浄につき15分の撹拌と15分の沈降時間を採用した。得られた溶液を無水硫酸ナトリウム(2.0kg)で乾燥させて濾過した。濾液を減圧下31℃で2時間濃縮して固体を得た。この固体を真空下39℃で4時間、25℃で16時間加熱すると、704g (81%)の化合物5 (GCによる純度99.7%)が残った。
【0134】
手順C (出発物質として化合物2を用いる、化合物5の合理化合成): エタノール中のナトリウムエトキシド(21重量%, 343g, 1.05mol)、エタノール(無水、300mL)およびマロン酸ジエチル(168g, 1.05mol)の撹拌混合物を40℃で1.5時間加熱した。この混合物に、エタノール(100mL)に溶解した(R)-3-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(138g, 0.592mol)の溶液を加え、この反応混合物を78℃で8時間加熱した。冷却した反応混合物を水(2.0L)で希釈し、6M HCl(100mL)を用いてpH=3に酸性化した。この水性エタノール混合物をトルエン(1.0L)で抽出し、有機相を真空下で濃縮して230gの赤色オイルを得た。この赤色オイルを85℃で22.5重量%の水酸化カリウム水溶液(748g, 3.01mol)に加えた。添加が完了した後、反応温度を徐々に102℃まで上昇させたが、その間エタノールの蒸留が続いた。反応温度が102℃に達した後、蒸留がおさまり、加熱をさらに90分間続けた。その反応混合物を周囲温度に冷却し、トルエン(2×400mL)で洗浄した。水層に600mLの6M塩酸を、内部温度を20℃以下に保ちながら加えた。その結果、約4〜5のpHで開始して、沈殿物の形成が生じた。その懸濁液を濾過し、濾過ケークを300mLの水で洗った。その固体を真空下で乾燥させると、77gの(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸が灰白色の固体((R)-3-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルに対して収率54%)として得られた。1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz): δ3.47 (m, 1H); 3.32 (m, 1H); 3.24 (m, 1H); 3.16 (m, 1H); 3.92 (m, 1H); 2.86 (m, 1H); 1.95 (m, 1H); 1.59 (m, 1H); 1.39 (s, 9H)。
トルエン(150mL)およびジメチルスルホキシド(2mL)中の(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸(15g, 55mmol)の懸濁液を2時間にわたり加熱還流した。この混合物を周囲温度まで低下させて、MTBE (150mL)で希釈した。有機溶液を10%クエン酸水溶液(2×200mL)で洗い、溶媒を真空下で除去すると、11.6gの(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)-ピロリジン-3-イル)酢酸が灰白色の固体(収率92%)として得られた。1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz): δ 12.1 (s, 1H); 3.36-3.48 (m, 1H); 3.20-3.34 (m, 1H); 3.05-3.19 (m, 1H; 2.72-2.84 (m, 1H); 2.30-2.42 (m, 1H), 2.22-2.30 (m, 2H); 1.85-2.00 (m, 1H); 1.38-1.54 (m, , 1H), 1.35 (2, 9H)。
【0135】
実施例6:(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(6)の合成
手順A: テトラヒドロフラン(THF) (200mL)に溶解した(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)酢酸(49.0g, 214mmol)の溶液を−10℃に冷却した。そのフラスコに250mL (250mmol)の1MボランTHF溶液を徐々に加え、その間の温度を0℃より低く維持した。この溶液を周囲温度まで温めて1時間撹拌した。反応溶液を1時間ごとにサンプリングしてHPLCにより分析し、反応の完了を確かめた。反応完了後、反応溶液を0℃に冷却し、10%水酸化ナトリウム溶液(80mL)を30分かけて滴下してガスの発生を制御した。その溶液を500mLのヘキサン/酢酸エチル1:1溶液で抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム溶液で洗い、10gのシリカゲルで乾燥させた。シリカゲルを濾過により除去し、100mLのヘキサン/酢酸エチル1:1溶液で洗った。有機層を一緒にして真空下で濃縮すると、化合物6 (42g, 91.3%)が明るいオレンジ色のオイルとして得られ、これを静置すると固化した。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 3.67 (m, 2H), 3.38-3.62 (m, 2H), 3.25 (m, 1H), 2.90 (m, 1H), 2.25 (m, 1H), 1.98-2.05 (m, 1H), 1.61-1.69 (m, 2H), 1.48-1.59 (m, 2H), 1.46 (s, 9H)。
【0136】
手順B: ボラン-THF複合体(3.90kgまたはLの1M THF溶液, mol)を、窒素ガス下に保持したTHF (2.5kg)中の(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)酢酸(683g, 3.03mol)の撹拌溶液に、水浴を用いて23〜28℃の温度に維持しながら、徐々に加えた。その添加に1.75時間かかった。25℃で撹拌を1時間続け、それ以後GC分析は反応の完了を示した。その反応混合物を<10℃に冷却し、25℃以下に維持しながら10%水酸化ナトリウム水溶液(1.22kg)を徐々に加えた。その添加に40分かかった。その混合物を25℃で1時間撹拌し、その後ヘプタン/酢酸エチル1:1(v/v)溶液(7L)と混合した。その混合物を15分撹拌してから相を分離させた(1時間)。有機相を回収し、水相を2回目の7Lのヘプタン/酢酸エチル1:1溶液と混合した。これを15分撹拌し、相を分離させた(20分)。有機相を再度回収し、一緒に合わせた有機相を飽和塩化ナトリウム水溶液(4.16kg)で洗浄したが、その際15分の混合と1時間の沈降時間を用いた。有機相をシリカゲル(140g)と混合して1時間撹拌した。無水硫酸ナトリウム(700g)を添加し、混合物を1.5時間撹拌した。その混合物を濾過し、濾過ケークをヘプタン/酢酸エチル1:1溶液(2L)で洗浄した。濾液を真空下<40℃で6時間濃縮した。得られたオイルは670g(収率103%)であり、痕跡量のヘプタンを含んでいたが、その他の点では、NMR解析により、化合物6の以前に調製したサンプルと同一である。
【0137】
実施例7:(R)-3-(2-(メチルスルホニルオキシ)エチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(7)の合成
手順A: (R)-3-(2-ヒドロキシメチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(41.0g, 190mmol)の溶液にトルエン(380mL)中のトリエチルアミン(40mL)を加えて、−10℃に冷却した。温度を−5〜0℃に維持するように塩化メタンスルホニル(20.0mL, 256mmol)を徐々に加えた。その溶液を周囲温度まで温めて1時間撹拌した。反応溶液を1時間ごとにサンプリングしてHPLCにより分析し、反応の完了を確かめた。反応完了後、その溶液を濾過し、濾液を5%炭酸水素ナトリウム溶液(250mL)で洗浄した。有機層を回収して飽和塩化ナトリウム水溶液(250mL)で洗浄した。有機層を回収し、シリカゲル(10g)で乾燥させて真空下で濃縮すると、化合物7 (53.0g, 92.8%)が薄黄色の粘性オイルとして得られた。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 4.26 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 3.41-3.63 (m, 2H), 3.27 (m, 1H), 3.02 (s, 3H), 2.92 (m, 1H), 2.28 (m, 1H), 2.05 (m, 1H), 1.83 (m, 2H), 1.50-1.63 (m, 1H), 1.46 (s, 9H)。
【0138】
手順B: 窒素雰囲気下、トルエン(5.20kg)に溶解したトリエチルアミン(460g, 4.55mol)と(R)-3-(2-ヒドロキシメチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(実施例7、手順Bからの全サンプル、3.03mol)の溶液を撹拌し、5℃に冷却した。氷浴で冷やして温度を15℃以下に保ちながら、塩化メタンスルホニル(470g, 4.10mol)を徐々に加えた。その混合物を35℃まで徐々に(1.5時間かけて)温め、この温度を1.25時間維持した。その時点で、GC分析は反応が完了したことを示した。反応混合物を25℃に冷却し、固形物を濾過し、濾過ケークをトルエン(1.28kg)で洗った。濾液を10%炭酸水素ナトリウム水溶液(4.0kg)と共に15分撹拌し、相を30分間分離させた。その後、有機相を飽和塩化ナトリウム水溶液(3.9kg)と共に30分撹拌し、相を20分間分離させた。有機相をシリカゲル(160g)と混合して1時間撹拌した。無水硫酸ナトリウム(540g)を加え、その混合物をさらに40分撹拌した。次いで、その混合物を濾過し、濾過ケークをトルエン(460g)で洗った。濾液を真空下50℃で5時間濃縮し、得られたオイルを真空下23℃でさらに8時間保持した。それにより798gの化合物7が得られ、GC分析により93%の純度であった。
【0139】
実施例8:(R)-3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(9)の合成
手順A: (R)-3-((メチルスルホニルオキシ)エチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(49.0g, 167mmol)、ヨウ化ナトリウム(30.0g, 200mmol)および1,2-ジメトキシエタン(450mL)の溶液を50〜60℃で4時間撹拌した。この溶液を1時間ごとにサンプリングしてHPLCにより分析し、反応の完了を確かめた。反応完了後、その溶液を−10℃に冷却し、温度を0℃以下に保ちながら固体のカリウムtert-ブトキシド(32.0g, 288mmol)を加えた。その反応混合物を周囲温度まで温めて1時間撹拌した。混合物を1時間ごとにサンプリングしてHPLCにより分析し、反応の完了を確かめた。反応完了後、その混合物を珪藻土(25g乾燥ベース)パッドに通して濾過した。ケークを1,2-ジメトキシエタン(100mL)で洗った。一緒にした濾液を真空濃縮して、固形物が浮遊しているオレンジ色のオイルを得た。そのオイルをヘキサン(400mL)に溶解し、30分撹拌し、濾過して固形物を除いた。有機層をシリカゲル(10g)で乾燥させて真空濃縮すると、化合物9 (26.4g, 82.9%)が無色のオイルとして得られた。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 5.77 (m, 1H), 5.10 (dd, J = 1.2 Hz, J = 16 Hz, 1H), 5.03 (dd, J = 1.2 Hz, J = 8.8 Hz, 1H), 3.41-3.59 (m, 2H), 3.29 (m, 1H), 3.05 (m, 1H), 2.78 (m, 1H), 2.01 (m, 1H), 1.62-1.73 (m, 1H), 1.46 (m, 9H)。
【0140】
手順B: (R)-3-(2-(メチルスルホニルオキシ)エチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(792gの実施例7、手順Bの生成物、約2.5mol)、ヨウ化ナトリウム(484g, 3.27mol)および1,2-ジメトキシエタン(7.2L)の溶液を窒素下に55℃で4.5時間撹拌した。この時点でGC分析は反応が完了したことを示した。その溶液を<10℃に冷却し、15℃以下の温度を維持しながら固体のカリウムtert-ブトキシド(484g, 4.32mol)を少しずつ加えた(1.25時間の添加時間)。その反応混合物を5℃で1時間撹拌し、20℃まで徐々に(6時間かけて)温め、20℃で1時間撹拌した。その溶液を珪藻土(400g乾燥ベース)パッドに通して濾過した。濾過ケークを1,2-ジメトキシエタン(1.6kg)で洗った。一緒にした濾液を真空濃縮し、半固体の残留物をヘプタン(6.0L)と共に2時間撹拌した。固形物を濾過により除き(濾過ケークを440mLのヘプタンで洗った)、濾液を20℃で真空濃縮して455gの化合物9(純度90.7%)を得た。この物質のサンプル(350g)を20〜23トルで分別蒸留すると、296gの精製された化合物9 (bp 130〜133℃)(GC分析による純度>99%)が得られた。
【0141】
実施例9:3-ブロモ-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン(12)の合成
トルエン(2.0L)中の5-ブロモピリジン-3-オール(146g, 834mmol)、テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール(128g, 1250mmol)、およびトリフェニルホスフィン(329g, 1250mmol)の溶液を加熱還流し、Dean-Starkトラップから750mLの蒸留物を除去した。その反応混合物を60℃に冷却し、547g (1.25mol)の40%(w/w)DEADトルエン溶液を1時間かけて滴下した。この添加は発熱的であり、添加終了時の反応器温度は95℃に近かった。その反応混合物を115℃で18時間撹拌し、反応溶液の一部をサンプリングしてHPLCにより分析し、反応が完了したことを確かめた。反応完了後、500mLの溶媒を蒸留により除去し、ポット残留物を周囲温度に冷却した。この有機層を10%水酸化ナトリウム水溶液(2×0.50L)で洗い、真空濃縮して粘性オイルを得、これを2N塩酸(1.0L)に溶解した。撹拌しながら珪藻土(100g)を加え、生じた懸濁液を濾過した。パッドを2N塩酸(1.0L)で洗い、濾液を一緒にしてジイソプロピルエーテル(500mL)で抽出した。ジイソプロピルエーテル層を捨て、水層をカーボンブラック(10g)で処理し、45〜50℃で1時間撹拌した。その懸濁液を珪藻土(25g)パッドに通して濾過した。濾液を回収し、5℃に冷却し、50%水酸化ナトリウム水溶液(250mL)を用いてpH=13に調整した。その溶液をクロロホルム(1.0L, 600mL)で2回抽出し、クロロホルム抽出物を一緒に合わせて真空濃縮すると、化合物12が暗赤色の粘性オイル/低融点固体(187g, 87%)として得られ、これをそれ以上精製することなく使用した。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 8.29 (s, 1H), 8.24 (s, 1H), 7.38 (s, 1H), 4.52 (m, 1H), 3.98 (m, 2H), 3.60 (m, 2H), 2.05 (m, 2H), 1.81 (m, 2H)。
【0142】
実施例10:(R)-(E)-3-(2-(5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン-3-イル)ビニル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(13)の合成
1-メチル-2-ピロリジノン(130mL)中の(R)-3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル9 (7.00g, 35.5mmol)、3-ブロモ-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン12 (10.0g, 38.8mmol)、酢酸パラジウム(0.40g, 1.8mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(1.0g, 3.57mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(15mL)の混合物を130℃で17時間撹拌した。この反応を周囲温度まで冷却し、水(800mL)で希釈し、酢酸エチル(2×200mL)で抽出した。有機抽出物を一緒に合わせて硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでヘキサン中の60-100%酢酸エチルを用いて精製した。この生成物を逆相HPLCでアセトニトリル中の0.05%トリフルオロ酢酸と水中の0.05%トリフルオロ酢酸を用いてさらに精製すると、(R)-(E)-3-(2-(5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン-3-イル)ビニル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(11.0g)がガムとして得られた。1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 8.41 (s, 1 H), 8.37 (d, J = 2.3 Hz, 1 H), 7.68 (s, 1 H), 6.48 (d, J = 16.1 Hz, 1 H), 6.43 (dd, J = 16.0, 6.4 Hz, 1 H), 4.71-4.66 (m, 1 H), 4.02-3.96 (m, 2 H), 3.68-3.52 (m, 4 H), 3.44-3.34 (m, 1 H), 3.28-3.15 (m, 1 H), 3.09-2.98 (m, 1 H), 2.18-2.04 (m, 3 H), 1.90-1.78 (m, 3 H), 1.48 (s, 9 H)。
【0143】
実施例11:(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(14)ヘミガラクタル酸塩の合成
ジクロロメタン(40mL)とトリフルオロ酢酸(40mL)に溶解した(R)-(E)-3-(2-(5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン-3-イル)ビニル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(18g, 48.13mmol)の溶液を周囲温度で2時間撹拌した。この反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮し、残留物を飽和塩化ナトリウム(50mL)とクロロホルム(100mL)とに分配した。その混合物を10%水酸化ナトリウム水溶液でpH9に塩基性化した。有機層を分離し、水層をクロロホルム(2×100mL)で抽出した。有機層を一緒に合わせて硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮して(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン(8.0g)をガムとして得た。これをメタノール(100mL)に溶解し、ガラクタル酸(3.0g, 14.6mmol)を加えて、この混合物を加熱還流した。この高温溶液を濾過し、濾液を周囲温度まで冷却させた。結晶化生成物を濾過し、固体を10%水-エタノール(180mL)に懸濁させた。その懸濁液を加熱還流して、高温溶液を濾過した。濾液を周囲温度まで冷却させた。結晶化生成物を濾過し、高真空ポンプで乾燥させると、(R)-3-((E)-2-ピロリジン-3-イルビニル)-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン ヘミガラクタル酸塩(4.5g)が得られた。MP: 179℃;1H-NMR (CD3OD, 300 MHz): δ 8.04 (s, 1 H), 8.01 (d, J = 2.2 Hz, 1 H), 7.36 (s, 1 H), 6.46 (d, J = 16.0 Hz, 1 H), 6.21 (dd, J = 16.0, 7.5 Hz, 1 H), 4.65-4.4.54 (m, 1 H), 4.12 (s, 1 H), 3.89-3.83 (m, 2 H), 4.80 (s, 1 H), 3.56-3.33 (m, 4 H), 3.27-3.18 (m, 1 H), 3.12-2.96 (m, 2 H), 2.23-2.14 (m, 1 H), 1.98-1.91 (m, 2 H), 1.88-1.78 (m, 1 H), 1.68-1.58 (m, 2 H); MS (m/z): 275 (M+1)。
【0144】
実施例12:(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(14)モノ-L-リンゴ酸塩の大規模合成
窒素雰囲気下、3-ブロモ-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン(純度85%のものを125g, 410mmol)、(R)-3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(67.4g, 340mmol)、酢酸パラジウム(II)(8.1g, 36mmol)、トリ-n-ブチルホスフィン(15g, 74mmol)、炭酸カリウム(74.0g, 530mmol)、およびDMAC (0.85L)の混合物を撹拌し、LCMSで反応の完了をモニタリングしながら130℃で加熱した。反応完了後、反応混合物を周囲温度まで冷却し、珪藻土(50g乾燥ベース)のパッドを通して濾過し、パッドをジイソプロピルエーテル(0.60L)で洗った。濾液をジイソプロピルエーテル(0.60L)および脱イオン水(0.50L)と一緒にして15分混合した。相を分離させ(15分)、有機相を回収した。15分の混合と15分の沈降時間を用いて、水相を2回目のジイソプロピルエーテル(0.60L)で抽出した。ジイソプロピルエーテル層を一緒にして脱イオン水(2×0.50L)で洗い、減圧下で濃縮して暗赤色の粘性オイル(136g)を得た。このオイルをジイソプロピルエーテル(1.40L)に溶解し、氷浴で約10℃に冷却した後、温度を20℃以下に保ちながら6N塩酸(0.40L)を滴下ロートから15分かけて添加した。その2相混合物を周囲温度まで温め(温めたときガス放出が起こった)、LCMSが反応の完了を示すまで撹拌した。反応完了後、相を分離させ、有機層を捨てた。水層のpHを10%水酸化ナトリウム水溶液(0.485L)でpH5〜6に調整し、クロロホルム(0.25L)で抽出した。クロロホルム層を捨てた。次に水層を10%水酸化ナトリウム水溶液(0.075L)でpH>13に調整し、再度クロロホルム(0.50L)で抽出した。クロロホルム抽出物を減圧下で濃縮して赤色の粘性オイル(55.0g)を得た。この物質はNMR解析により目的の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン(約75%)と対応するZ異性体(約5%)および「エキソ」異性体(約20%)の混合物であった。この結果は複数の実験で再現された。
【0145】
Zおよび「エキソ」不純物は、シュウ酸塩への変換によって目的の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジンから分離された。2-プロパノール(0.20L)と脱イオン水(0.09L)の混合溶媒中に溶解したシュウ酸(53.2g. 591mmol)の溶液を、撹拌して50〜55℃で加熱する(15分)ことによって調製した。この溶液を、70〜75℃に保持した2-プロパノール(1.0L)中の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン(HPLCで純度76%のものを82.0g, 299mmol)の撹拌溶液に、5分かけて添加した。シュウ酸の添加によって発熱(4〜5℃)が生じたが、添加速度を調整することによって発熱を制御した。加熱源を取り除き、溶液を45分かけて45〜50℃まで徐々に冷却した。沈殿物が急速に形成され、約65〜70℃で開始して、生じた懸濁液が冷えるにつれて多くなっていった。固形物を45〜50℃で濾過して回収し、2-プロパノール(2×0.25L)とヘキサン(2×0.20L)で順次洗浄した。黄褐色の固形物を2時間自然乾燥させた後、重さを量った(95g)。NMR解析は、Zおよび「エキソ」不純物の含有量がそれぞれ<1%に低下していたことを示した。この結果は複数の実験で再現された。さらに高い純度の物質はエタノール/水からの再結晶により得られた。この塩の化学量論は酸/塩基2.3:1であった(実施例15参照)。
【0146】
脱イオン水(2.6L)に溶解した(R)-3-((E)-2-(ピロリジニウム-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジニウムシュウ酸塩(380g)の溶液を撹拌し、氷浴で約10℃に冷却した。水酸化ナトリウム水溶液(25%, 0.40L)を、30℃以下の温度に保ちながら、15分かけて添加した。次にクロロホルム(1.6L)を加え、この混合物を20分間激しく撹拌し、濾過により不溶性のシュウ酸ナトリウムを除いた。相を分離させ、クロロホルム層をSilicycle Si-Thiol(登録商標)(21.6g)と混合した。この混合物を撹拌して50〜55℃で3〜4時間加熱し、周囲温度に冷却して濾過した。濾液を減圧下で濃縮して明るい赤色の粘性オイル(221g)を得た。この遊離塩基の一部(216g)を2-プロパノール(1.2L)に溶解し、70〜75℃に加熱して固体のL-リンゴ酸(106g)で処理したが、L-リンゴ酸の移動を助けるため2-プロパノール(100mL)によるすすぎを用いた。この固体の溶解は3〜5分にわたって5〜7℃の発熱をもたらした。その混合物を75〜78℃で10分保持して固体を完全に溶解させ、その後周囲温度まで徐々に(90分かけて)冷却した。温度が65℃に近づいたとき、その溶液に(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジン モノ-L-リンゴ酸塩の種結晶を数個入れた。周囲温度で1時間撹拌した後、その懸濁液を濾過した。回収した固形物を2-プロパノール(2×0.80L)で洗い、30分間自然乾燥させ、78℃で8時間真空乾燥させた。得られた灰白色の物質は重さが297gあり、HPLCによる純度が>99%であった。
【0147】
実施例13:(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンの塩形態の選別手順
磁気撹拌子を備えた試験管(4mL)に等ミリモル量の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン塩基と対象の酸(無溶媒)を入れ、500μLの2-プロパノールまたはアセトニトリルのいずれかに加熱しながら溶解した。冷却しても沈殿が起こらなかった場合は、酢酸イソプロピル(100μL)を抗溶媒として添加した。
【0148】
沈殿がまったく生じなかった場合には、適度に加熱しながら窒素流下で溶媒を蒸発させ、代わりの溶媒を試してみた。代わりの溶媒としては、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、無水エタノール、アセトニトリル、ヘキサン、tert-ブタノール、酢酸tert-ブチル、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0149】
スルホン酸の場合にはアルコール類の使用を避けた。酢酸イソプロピルは慎重に用いられたが、アセトンと酢酸エチルの使用は、(R)-3-((E)-2-ピロリジン-3-イルビニル)-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジンの第2アミン官能基とこれらの溶媒との反応性が実証されため、中止された。
【0150】
これらの実験の結果を表1にまとめた。
【表5】

【0151】
表1に示したように、(R)-3-((E)-2-ピロリジン-3-イルビニル)-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジンの固体の塩形態を見つけ出すことは大変なことだった。固体の塩とそれらの合成の例を以下に記載する。
【0152】
実施例14:(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン モノ-L-リンゴ酸塩の調製
沸点近くに加熱した2-プロパノール(5mL)中の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(900mg; 3.28mmol)の撹拌溶液にL-リンゴ酸(439.8mg; 3.28mmol, 無溶媒)を3回に分けて加えた。この溶液を沸点近くで10分撹拌した。酢酸イソプロピル(1mL)を添加して加熱を中止し、まだ熱いうちに溶液に種結晶を入れた。その溶液を撹拌しながら周囲温度(22℃)まで冷却させたところ、この時点で塩が白色の粒状固体として沈殿した。その塩を加熱によって再溶解し、熱いうちに再度種結晶を入れ、冷却し、撹拌せずに周囲温度で24時間放置した。生じた板状結晶を吸引濾過により回収し、酢酸イソプロピル(5mL)で洗浄して、窒素下に10分乾燥させた。70℃の真空オーブン内で1.5時間さらに乾燥させると、1.267g (94.6%)の薄黄色の結晶(融点=118〜119℃)が得られた。1H-NMR (D2Oまたはd6-DMSO)は1:1の酸:塩基化学量論と一致する。DSCは119.62℃に単一の吸熱ピークを示す。DVSは相対湿度80%まで最小の水分取込みを示す。1H-NMR (D2O, 400 MHz): δ 8.15 (s, 1 H), 8.10 (s, 1 H), 7.58 (s, 1 H), 6.52 (d, 1 H), 6.28 (dd, 1 H), 4.63 (m, 1 H, 残留H2O共鳴により一部マスクされた), 4.22 (dd, 1 H), 3.88 (m, 2 H), 3.55 (m, 2 H), 3.46 (dd, 1 H), 3.38 (m, 1 H), 3.25 (m, 1 H), 3.11 (m, 1 H), 3.02 (m, 1 H), 2.65 (dd, 1 H), 2.42 (dd, 1 H), 2.20 (m, 1 H), 1.96 (m, 2 H), 1.85 (m, 1 H), 1.68 (m, 2 H)。1H-NMR (d6-DMSO, 400 MHz): δ 8.20 (s, 1 H), 8.18 (s, 1 H), 7.52 (s, 1 H), 6.55 (d, 1 H), 6.46 (dd, 1 H), 4.68 (m, 1 H), 3.87 (m, 3 H), 3.49 (m, 2 H), 3.40 (dd, 1 H), 3.32 (m, 1 H), 3.18 (m, 1 H), 3.05 (m, 1 H), 2.93 (m, 1 H), 2.51 (dd, 1 H, 残留DMSOにより一部マスクされた), 2.31 (dd, 1 H), 2.14 (m, 1 H), 1.98 (m, 2 H), 1.80 (m, 1 H), 1.58 (m, 2 H)。
【0153】
実施例15:(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンシュウ酸塩の調製
2-プロパノール(8.5mL)と水(0.4mL)中に溶解したもの(純度85%のもの1.137g, 純度について補正して3.52mmol)の加温溶液を固体のシュウ酸(0.373g, 4.14mmol)で1度に処理した。得られた混合物を撹拌し、還流付近まで加熱した。その高温溶液から数個の固形物が沈殿し始めた。その混合物を周囲温度まで冷却させた。灰白色の固形物を濾過し(ブフナー漏斗)、2-プロパノール(10mL, 8mL)で洗浄し、真空(エアブリードを備える)下50℃で3時間乾燥させて0.861g(2.3のシュウ酸化学量論に基づいて収率50.8%、出発物質の純度について補正した)の灰白色粉末を得た。この物質の0.765gサンプルを、加熱還流した2-プロパノール(8mL)と水(1.3mL)の混合溶媒から再結晶した。周囲温度まで冷却した後、生じた固形物を濾過し(ブフナー漏斗)、2-プロパノール(10mL)で洗浄し、真空(エアブリードを備える)下50℃で4時間乾燥させ、次に真空(エアブリードを備える)下70℃で24時間さらに乾燥させると、0.441g (回収率57.6%)の灰白色ないし白色の固体(融点180〜181℃)が得られた。
計算値(C16H22N2O2・2.3 C2H2O4): C, 51.39; H, 5.57; N, 5.82;実測値: C, 51.09, 51.24; H, 5.67, 5.66; N, 5.84, 5.92。
1H-NMR (D2O, 400 MHz) δ 8.23 (s, 1 H), 8.20 (s, 1 H), 7.96 (s ,1 H), 6.54 (d, 1 H), 6.40 (dd, 1 H), 4.73 (m, 1 H), 3.84 (m, 2 H), 3.54 (m, 2 H), 3.45 (dd, 1 H), 3.35 (m, 1 H), 3.23 (m, 1 H), 3.12 (m, 1 H), 3.02 (m, 1 H), 2.16 (m, 1 H), 1.96 (m, 2 H), 1.83 (m, 1 H), 1.68 (m, 2 H)。
【0154】
実施例16:(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩の調製
60℃に加熱したエタノール(12.5mL)溶液中の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン(4.0g, 15mmol)の撹拌溶液に固体のジ-p-トルオイル-D-酒石酸(5.3g, 14mmol)を加えた。この溶液を60℃で2〜3分間保持して固体を確実に溶解させた。次に熱源を取り除き、溶液を60分かけて25〜30℃に冷却した。生じた懸濁液を25〜30℃で30分間保持し、その後濾過して固形物を回収した。その固形物をエタノール(2×20mL)で洗い、30分自然乾燥させてから、減圧下50℃の真空オーブン内で一定の重量が得られるまで乾燥させると、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ジ-p-トルオイル-D-酒石酸塩が灰白色の固体(6.7g, 72%)として得られた。NMR解析は1:1の塩化学量論を示した。1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 8.18 (s, 1 H), 8.15 (s, 1H), 7.86 (d, 4 H), 7.47 (s, 1 H), 7.32 (d, 4 H), 6.43 (d, 1 H), 6.36 (m, 1 H), 5.67 (s, 2 H), 4.69 (m, 1 H), 3.85 (m, 2 H), 3.49 (m, 2 H), 3.25 (m, 2 H), 3.10 (m, 1 H), 2.88 (m, 2 H), 2.39 (s, 6 H), 1.98 (m, 3 H), 1.60 (m, 3 H)。
【0155】
生物学的検定法
実施例17:CNS nAChRでの放射性リガンド結合:α4β2 NNRサブタイプ
ラット大脳皮質からの膜の調製
体重150〜250gのラット(雌性、Sprague-Dawley)を12時間の明暗サイクルで維持し、水とPMI Nutrition International社から供給される餌に自由に接近させた。動物を70%CO2で麻酔してから首を切断した。脳を摘出して、氷冷した台の上に置いた。大脳皮質を取り出し、20容(重量:体積)の氷冷調製用バッファー(137mM NaCl, 10.7mM KCl, 5.8mM KH2PO4, 8mM Na2HPO4, 20mM HEPES (遊離酸), 5mM ヨードアセトアミド, 1.6mM EDTA, pH7.4)中に入れた。メタノール中に最終濃度100μMへと溶解したPMSFを加え、この懸濁液をポリトロン(Polytron)でホモジナイズした。そのホモジネートを18,000g、4℃で20分遠心し、得られたペレットを20容の氷冷水に再懸濁させた。氷上で60分インキュベーションした後、18,000g、4℃で20分遠心して新ペレットを回収した。この最終ペレットを10容のバッファーに再懸濁させて−20℃で保存した。
【0156】
SH-EP1/ヒトα4β2クローン細胞からの膜の調製
40枚の150mm培養皿からの細胞ペレットをプールし、20mLの氷冷調製用バッファー中でポリトロン(Kinematica GmbH, スイス)によりホモジナイズした。そのホモジネートを48,000g、4℃で20分遠心した。得られたペレットを20mLの氷冷調製用バッファーに再懸濁させて−20℃で保存した。
【0157】
検定法
検定当日に、凍結されていた膜を解凍し、48,000gで20分遠心した。上清をデカントして捨てた。ペレットをダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS, Life Technologies社)pH7.4に再懸濁させ、ポリトロンを用いて6秒間ホモジナイズした。タンパク質濃度は、標品としてウシ血清アルブミン(Pierce Chemical社, Rockford, IL)を用いて、Pierce BCAタンパク質検定キットで測定した。
【0158】
膜調製物(ヒトα4β2では約50μg、ラットα4β2では200〜300μgのタンパク質)をPBS (それぞれ50μLおよび100μL)中で競合化合物(0.01nM〜100μM)と5nM [3H]ニコチンの存在下に氷上で2〜3時間インキュベーションした。インキュベーションはマルチマニフォールド組織ハーベスター(Brandel社, Gaithersburg, MD)での急速濾過により終了させたが、その際、非特異的結合を減らすために0.33%ポリエチレンイミン(w/v)に予め浸したGF/Bフィルターを用いた。組織をPBS(pH7.4)で3回すすいだ。洗浄した組織を含むフィルターにシンチレーション液を加えて平衡化させた。その後、フィルターを液体シンチレーションカウンター(2200CA Tri-Carb LSC, Packard Instruments社, 50%効率、またはWallac Trilux 1450 MicroBeta, 40%効率, Perkin Elmer社)で計測して膜に結合した放射能を測定した。
【0159】
データは壊変毎分(disintegration per minute: DPM)として表した。各検定では、各ポイントで2〜3回反復して測定した。各ポイントでの反復測定値を平均化し、薬物濃度の対数(log)に対してプロットした。IC50は結合の50%阻害をもたらす化合物の濃度であるが、そのIC50を最小二乗非線形回帰により求めた。Ki値は次のCheng-Prussoff式(1973年)を用いて算出した:
Ki=IC50 / (1 + N/Kd)
ここで、Nは[3H]ニコチンの濃度であり、Kdはニコチンの親和性(3nM、別の実験で測定)である。
【0160】
実施例18:CNS nAChRでの放射性リガンド結合:α7 NNRサブタイプ
体重150〜250gのラット(雌性、Sprague-Dawley)を12時間の明暗サイクルで維持し、水とPMI Nutrition International社から供給される餌に自由に接近させた。動物を70%CO2で麻酔してから首を切断した。脳を摘出して、氷冷した台の上に置いた。海馬を取り出し、10容(重量:体積)の氷冷調製用バッファー(137mM NaCl, 10.7mM KCl, 5.8mM KH2PO4, 8mM Na2HPO4, 20mM HEPES (遊離酸), 5mM ヨードアセトアミド, 1.6mM EDTA, pH7.4)中に入れた。メタノール中に最終濃度100μMへと溶解したPMSFを加え、この組織懸濁液をポリトロン(Polytron)でホモジナイズした。そのホモジネートを18,000g、4℃で20分遠心し、得られたペレットを10容の氷冷水に再懸濁させた。氷上で60分インキュベーションした後、18,000g、4℃で20分遠心して新ペレットを回収した。この最終ペレットを10容のバッファーに再懸濁させて−20℃で保存した。検定当日に、組織を解凍し、18,000gで20分遠心し、その後氷冷PBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、138mM NaCl, 2.67mM KCl, 1.47mM KH2PO4, 8.1mM Na2HPO4, 0.9mM CaCl2, 0.5mM MgCl2, Invitrogen/Gibco社, pH7.4)に再懸濁させて約2mgタンパク質/mLの最終濃度とした。タンパク質は、標品としてウシ血清アルブミンを用いて、Lowryらの方法(J. Biol. Chem. 193: 265 (1951))により測定した。
【0161】
[3H]MLAの結合はDaviesらの方法(Neuropharmacol. 38: 679 (1999);この方法に関して参照することにより本明細書中に組み込まれる)の改良法を用いて測定した。[3H]MLA (比活性=25〜35 Ci/mmol)はTocris社から入手した。[3H]MLAの結合を、21℃で2時間インキュベーションすることにより測定した。インキュベーションは48ウェルのマイクロタイタープレートで行い、最終インキュベーション容量300μL中に約200μg/ウェルのタンパク質を含んでいた。インキュベーションバッファーはPBSであり、[3H]MLAの最終濃度は5nMであった。結合反応は、周囲温度でBrandel社製の組織ハーベスターを用いてガラス繊維フィルター(GF/B, Brandel社)上で結合リガンドを含むタンパク質を濾過することにより終了させた。非特異的結合を減らすために、0.33%のポリエチレンイミンを含む脱イオン水にフィルターを浸した。各フィルターを周囲温度でPBS (3×1mL)により洗浄した。非特異的結合は所定のウェルに50μMの非放射性MLAを加えることによって測定した。
【0162】
試験化合物による[3H]MLA結合の阻害は、所定のウェルに7つの異なる濃度の試験化合物を加えることによって測定した。各濃度を3回繰り返した。IC50値は、特異的[3H]MLA結合を50%阻害する化合物の濃度として概算された。nMで表される阻害定数(Ki値)はChengらの方法(Biochem. Pharmacol. 22: 3099-3108 (1973))を用いてIC50値から求めた。
【0163】
末梢nAChRi対する選択性
実施例19:ヒト筋型nAChRサブタイプでの相互作用
筋型nAChRの活性化は、胎児性横紋筋肉腫に由来するヒトクローン細胞株TE671/RDで行った(Stratton et al., Carcinogen 10: 899 (1989))。これらの細胞は、筋型nAChRに類似した薬理学的(Lukas, J. Pharmacol. Exp. Ther. 251: 175 (1989))、電気生理学的(Oswald et al., Neurosci. Lett. 96: 207 (1989))および分子生物学的プロファイル(Luther et al., J. Neurosci. 9: 1082 (1989))を有する受容体を発現する。
【0164】
TE671/RD細胞をルーチンのプロトコルに従って増殖成長期に維持した(Bencherif et al., Mol. Cell. Neurosci. 2: 52 (1991)およびBencherif et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 257: 946 (1991))。細胞を、10%ウマ血清(Gibco/BRL社)、5%ウシ胎仔血清(HyClone社, Logan UT)、1mM ピルビン酸ナトリウム、4mM L-グルタミン、および50,000単位のペニシリン-ストレプトマイシン(Irvine Scientific社)を含むダルベッコ変法イーグル培地(Gibco/BRL社)で培養した。細胞が80%コンフルエンシーになったとき、それらを12ウェルのポリスチレンプレート(Costar社)にまいた。細胞が100%コンフルエンシーに達したとき実験に着手した。
【0165】
ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の機能は、Lukas et al., Anal. Biochem. 175: 212 (1988)に記載の方法に従って86Rb+流出を用いて評価した。実験当日に、増殖培地をウェルから静かに取り出し、塩化ルビジウム(86Rb) (106μCi/mL)を含む増殖培地を各ウェルに添加した。細胞を37℃で最低3時間インキュベートした。ローディング期間後、過剰の86Rb+を除き、細胞を破砕しないように注意を払いながら、標識フリーのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(138mM NaCl、2.67mM KCl、1.47mM KH2PO4、8.1mM Na2HPO4、0.9mM CaCl2、0.5mM MgCl2、Invitrogen/Gibco社、pH7.4)で細胞を2回洗浄した。次に、細胞を100μMの試験化合物、100μMのL-ニコチン(Acros Organics社)、または緩衝液のみのいずれかに4分暴露した。暴露期間後、放出された86Rb+を含む上清を分離してシンチレーションバイアルに移した。シンチレーション液を加え、放出された放射能を液体シンチレーションカウンターで測定した。
【0166】
各検定では、各ポイントで2回反復して、平均をとった。86Rb+放出量を陽性対照(100μM L-ニコチン)と陰性対照(緩衝液のみ)の双方と比較して、放出パーセントをL-ニコチンのそれに対して求めた。
【0167】
適切な場合には、試験化合物の用量反応曲線を作成した。個々の化合物の最大活性化(Emax)をL-ニコチンにより誘導された最大活性化に対するパーセントとして求めた。特定のイオン流出の半値活性化(half maximal activation)(EC50)をもたらす化合物濃度も規定した。
【0168】
実施例20:ヒト神経節型nAChRサブタイプでの相互作用
細胞株SH-SY5Yは、親細胞株SK-N-SH(もとはヒト末梢神経芽腫から得られたもの)の連続サブクローニングにより誘導された連続細胞株である。SH-SY5Y細胞は神経節様nAChRを発現する(Lukas et al., Mol. Cell. Neurosci. 4: 1 (1993))。
【0169】
ヒトSH-SY5Y細胞をルーチンのプロトコルに従って増殖成長期に維持した(Bencherif et al., Mol. Cell. Neurosci. 2: 52 (1991)およびBencherif et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 257: 946 (1991))。細胞を、10%ウマ血清(Gibco/BRL社)、5%ウシ胎仔血清(HyClone社, Logan UT)、1mM ピルビン酸ナトリウム、4mM L-グルタミン、および50,000単位のペニシリン-ストレプトマイシン(Irvine Scientific社)を含むダルベッコ変法イーグル培地(Gibco/BRL社)で培養した。細胞が80%コンフルエンシーになったとき、それらを12ウェルのポリスチレンプレート(Costar社)にまいた。細胞が100%コンフルエンシーに達したとき実験に着手した。
【0170】
ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の機能は、Lukas et al., Anal. Biochem. 175: 212 (1988)に記載の方法に従って86Rb+流出を用いて評価した。実験当日に、増殖培地をウェルから静かに取り出し、塩化ルビジウム(86Rb) (106μCi/mL)を含む増殖培地を各ウェルに添加した。細胞を37℃で最低3時間インキュベートした。ローディング期間後、過剰の86Rb+を除き、細胞を破砕しないように注意を払いながら、標識フリーのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(138mM NaCl、2.67mM KCl、1.47mM KH2PO4、8.1mM Na2HPO4、0.9mM CaCl2、0.5mM MgCl2、Invitrogen/Gibco社、pH7.4)で細胞を2回洗浄した。次に、細胞を100μMの試験化合物、100μMのニコチン、または緩衝液のみのいずれかに4分暴露した。暴露期間後、放出された86Rb+を含む上清を分離してシンチレーションバイアルに移した。シンチレーション液を加え、放出された放射能を液体シンチレーションカウンターで測定した。
【0171】
各検定では、各ポイントで2回反復して、平均をとった。86Rb+放出量を陽性対照(100μM ニコチン)と陰性対照(緩衝液のみ)の双方と比較して、放出パーセントをL-ニコチンのそれに対して求めた。
【0172】
適切な場合には、試験化合物の用量反応曲線を作成した。個々の化合物の最大活性化(Emax)はL-ニコチンにより誘導された最大活性化に対するパーセントとして求めた。特定のイオン流出の半値活性化(EC50)をもたらす化合物濃度も規定した。
【0173】
実施例21:新規物体認識
3試行からなる新規物体認識(novel object recognition: NOR)試験を用いて記憶を評価した(Luine et al., Pharm. Biochem. Behav. 74, 213-220 (2002))。初日(探索試行)、ラットは開放観察箱(44.5×44.5×30.5cm)を6分間探索することを許された。2日目(獲得試行)、ラットは2つの同一物体(両方とも物体A)が存在する同じ観察箱を3分間探索することを許された。3日目(記憶または回想試行)、同じ動物は2つの異なる物体(すなわち、見慣れた物体Aと新規物体B)が存在する同じ観察箱を3分間再探索することを許され、それによってラットの行動を評価した。3回のNOR試行間に24時間の試行間隔を入れた。認識記憶は、回想試行時に新規物体(物体B)を探索するのに費やした時間を見慣れた物体(物体A)に対して比較することにより評価した。認識指数(recognition index)を各動物について評価し、比率((時間B/時間A+時間B)×100)として表した。
【0174】
実施例22:放射状アーム迷路
作業記憶を放射状アーム迷路(radial arm maze: RAM)課題で評価した。RAM課題は自動化された8アーム迷路(Med Associates, Inc.)を用いて実施した。迷路は、専用の試験環境で頭上に照明があり、壁面に大きな高コントラスト幾何学的形状がある、床上約88cmの円形テーブルの上に配置した。さらに、追加の視覚的手がかりを、各フードホッパーの上の各アームへのハブ入口と、天井に配置した。中央プラットフォームは直径が30.5cmであり、そこから8本のアーム(幅9cm×長さ45.7cm×高さ16.8cm)が放射状に延びている。自動ギロチンドアを各通路への進入口に配置し、各アームの先端には餌ペレットの置き場がある。全ての訓練・試験手順の間、ホワイトノイズを聞き取れる。迷路での行動は、コンピュータインターフェースおよびモニター画面で定量的活動(赤外線ビームの破壊により検知)を追跡することによってモニタリングした。
【0175】
ベースライン評価に続いて、再達成試験セッション基準の後に、ムスカリンアンタゴニストのスコポラミン(0.2〜0.4mg/kg; 皮下)を用いて化学的に誘発される認知機能障害に対する動物の感受性を評価した。スコポラミンの用量は、各動物について、重大かつ確実な認知機能障害をもたらす最小用量に基づいて決定した。スコポラミンは獲得期試行の0.5時間前に投与し、一方(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ヘミガラクタル酸塩(0.03mg/kg; 経口)は回想(またはテスト)期試行の開始の0.5時間前に投与した。獲得試行では、ランダムに選択した1本のアームを、アームのすぐ内側で、ハブドアの後ろに配置したPlexiglasの障壁で遮断した。ドアを下ろした迷路の中央ハブに動物を置いた。約10秒後、7本の利用可能なアームのドアを上げた。各開放アームへの最初の進入をショ糖の餌ペレットで強化した。このセッションは、7本すべての利用可能なアームを訪れた後に、または5分が経過した後に終了させた。訪れたアームの順序、受け取った強化用の餌、エラー(再進入)、課題を完了するまでの時間、進入回数、および7本の利用可能なアームに進入して強化用餌を消費するのに要した時間を記録した。回想試行では、8本全部のアームが利用可能であるが、以前に遮断されたアーム(すなわち、獲得試行の間は遮断されていたアーム)への最初の訪問のみが餌強化された。このセッションは、以前に遮断されたアームを訪れて強化用餌を食べた時点で、または5分が経過した時点で終了させた。回想試行では、再進入エラー、獲得試行で遮断されていたアームを選択する前に進入した(誤った)アームの数、およびこの試行を完了するのに要した時間を記録した。獲得期およびテスト期の試行間の遅延は24時間とした。
【0176】
実施例23:CYP阻害試験
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩によるCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6およびCYP3A4触媒活性の阻害は蛍光CYPアッセイを用いて評価した。CYP触媒酸化のときに蛍光を発するプローブ基質を用いて、試験基質の阻害度を評価した。各プローブ基質の単一濃度(だいたい見かけのKm値)および(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ヘミガラクタル酸塩の2つの異なる濃度(2および20μM)を2回繰り返して試験した。所定の波長の蛍光強度を酵素活性の指標として用いた。(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩の存在下での蛍光の減少は阻害を示していた。方法の制御およびCYP活性を証明するために陽性対照(既知の阻害剤)を同時に実施した。2通りのサンプルを陽性および陰性対照と平行して実施した。試験サンプルのインキュベーションは37℃で行った。実験パラメーターを表2にまとめてある。
【表6】

【0177】
生物学的データの概要
in vitro薬理試験
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩のin vitro一次薬理試験の概要を表3に示し、以下で詳細に説明する。
【0178】
一次薬理試験および選択性
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩がα4β2受容体と結合する能力は、SH-EP1細胞膜に発現されるヒト組換えα4β2受容体およびラット大脳皮質膜に発現されるラット天然α4β2受容体を用いて、受容体結合阻害アッセイにより判定した。
【0179】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、ヒト組換えα4β2ニコチン性受容体への[3H]-ニコチンの結合を2nMのKi値で阻害し、また、ラット天然α4β2受容体への[3H]エピバチジンの結合を4nMのKi値で阻害した。
【0180】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、ラット海馬膜のラット天然α7受容体への[3H]メチルリカコニチン(MLA)の結合を>10000nMのKi値で阻害した。さらに、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、ヒト天然神経節型ニコチン性受容体(おそらくα3β4)に対して低下した親和性を示して、SH-SY5Y膜の受容体への[3H]エピバチジンの結合を3400nMのKi値で阻害し、また、ヒト天然筋型ニコチン性受容体(おそらくα1β1γδ)に対しても低下した親和性を示して、TE-671膜の受容体への[3H]エピバチジンの結合を25000nMのKi値で阻害した。
【表7】

【0181】
細胞効果
これらの試験の目的は、ヒト組換えα4β2受容体での(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩の機能活性を調べることであった。(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は前記受容体を活性化するα4β2ニコチン性アゴニストであり、SH-EP1/ヒトα4β2細胞を用いるカルシウム流出アッセイにおいて、29℃で24時間のインキュベーション後に10μMのニコチンに対して0.1μMのEC50と76%のEmaxを示した。
【0182】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、機能選択性を調べるため、神経節型および筋型ニコチン性受容体イオン流出アッセイで試験した。Ca++流出アッセイでは、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、SH-SY5Y細胞のヒト天然神経節型受容体では11μMのEC50および13%のEmaxを示し、また、TE-671細胞のヒト天然筋型受容体では13μMのEC50および37%のEmaxを示した。
【0183】
in vitro二次薬理試験: 多重受容体スクリーニングアッセイ
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩を65種類の受容体パネルに対する選択性について試験した。10μMの単一濃度で、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、ニューロンニコチン性受容体(α-BnTx不感受性)のみへの標識リガンドの結合を99%の阻害率で阻害した。
【0184】
hERGの阻害
(R)-3-((E)-2-ピロリジン-3-イルビニル)-5-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩によるhERG (ヒトHEK-239細胞)阻害のIC50は84μMであることが確認された。
【0185】
in vivo薬理試験
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、正常ラットへの経口投与後に新規物体認識(NOR)課題で評価したとき、長期の視覚的エピソード/宣言的記憶を改善した。これらの試験の結果を図1に示す。獲得試行の24時間後のビヒクル処理群の認識指数は50±0.5%であり、このことはこの処理群が24時間の遅延後に見慣れた物体を認識できないことを実証する(左のパネル)。これとは対照的に、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩で処理した動物は、0.04μmol/kgの投与量レベルで71±2%、1.1μmol/kgの投与量レベルで61±3%の認識指数を示した(左のパネル)。追跡NOR試験(最初のNOR試験で用いたものと実験手順は同じであった)では、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩の最小有効量(MED)レベルが0.004μmol/kgであると決定され(右のパネル)、このことはラットが試験したすべての投与量レベルで見慣れた物体を認識できることを示唆する。2つの「回想のみ」のセッションでは、一部の動物に1日目(すなわち、探索セッション)と2日目(すなわち、獲得セッション)に水を経口投与し、その後3日目(すなわち、回想セッション)に1.1μmol/kg(左のパネル)または0.04μmol/kg(右のパネル)の(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩を経口投与した。1回の経口投与後でさえ、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩はこれら2つの投与量レベルで認識促進作用(pro-cognitive effect)を示した。双方の投与量レベルで、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は対照を大幅に上回る認識指数を示し、このことは急性投与後での見慣れた物体の認識を示唆する。図1において、65%の破線は生物学的認識促進活性の主観的基準を示す。*P<0.05。
【0186】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、NOR課題におけるその効果の持続時間について正常ラットで評価された。これらの試験の結果を図2に示す。回想試行において投与後0.5時間でビヒクル処理群の認識指数は52±0.8%であり、このことはこの処理群がこの遅延後に見慣れた物体を認識できないことを実証する。これとは対照的に、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩(0.004μmol/kg: 経口)で処理した動物は、0.5時間で72±2%、6時間で70±3%、そして8時間で70±4%の認識指数を示し、このことはラットが投与後8時間後まで見慣れた物体を認識できることを示唆する。図2において、65%の破線は生物学的認識促進活性の主観的基準を示す(*P<0.05)。
【0187】
これらの試験に基づくと、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩を広範囲(比較的低い投与量レベルを含む)にわたって投与するとき、期待できる薬理効果が見込まれる。本発明の一実施形態は、0.004μmol/kgほどの低い経口用量で(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその製薬上許容される塩を投与することに関する。本発明の一実施形態は、100mg未満、好ましくは50mg未満、さらに好ましくは10mg未満、最も好ましくは1mg未満の経口用量に関する。これらの有効用量は一般的に、1回量としての投与量、または24時間にわたって投与される1回もしくは複数回量としての投与量を表す。
【0188】
放射状アーム迷路(RAM)試験
2番目の認識検定法において、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、作業記憶の動物モデルにおいて、スコポラミンにより引き起こされた認知障害を軽減した。これらの実験の結果を図3に示す。獲得試行の間、ラットは8本のうち7本のアームへの接近を許された一方で、テスト試行では8本全部のアームが利用可能であったが、以前に遮断されたアーム(すなわち、獲得試行の間は遮断されていたアーム)への最初の訪問のみが餌で強化された。スコポラミン(0.3±0.1mg/kg; 皮下)を獲得試行の0.5時間前に投与し、そして(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩(0.03mg/kgまたは0.1μmol/kg; 経口)をテスト試行の0.5時間前に投与した。(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩はスコポラミン誘発認知障害を好転させることができた(*P<0.05)。
【0189】
ヒトシトクロムP450 (CYP)の阻害、誘導、輸送および薬物-薬物相互作用の可能性
蛍光基質と組換え酵素を用いたCYP450阻害アッセイは、(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩による5種類の主要なCYP類の阻害の証拠を一切示さなかった(IC50>20μM、表4)。さらに、CYP3A4、CYP2D6、CYP2B6、CYP2C9またはCYP1A2の時間依存的阻害の証拠もまったく観察されなかった。(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンによるPXR (プレグナンX受容体)活性化は10μMまで観察されず、したがって、P450の誘導に関連したリスクは無視できると考えられる。
【表8】

【0190】
(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩は、ヒト肝ミクロソームまたは肝細胞において低い肝代謝回転速度を示す。予備的なフェノタイピングデータは、CYP2D6とFMO3の双方が(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩の代謝に寄与することを示唆した。その上、腎クリアランスは、ヒトにおける総クリアランスの50%以上に寄与して、主要な排泄経路であると期待された。したがって、CYP多型が原因となる(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジンまたはその塩の代謝のヒトでの変化は、顕著な腎クリアランスと低い肝クリアランスのため2倍未満であると予想される。
【0191】
本明細書に記載した実験のための試験化合物は遊離または塩の形態で用いられ、特に明記しない限り、試験化合物は(R)-3-((E)-2-(ピロリジン-3-イル)ビニル)-5-(テトラヒドロピラン-4-イルオキシ)ピリジン ヘミガラクタル酸塩である。
【0192】
観察された具体的な薬理学的応答は、選択された特定の活性化合物に応じて、または製薬上の担体が存在するかに従って、あるいは医薬組成物の種類および使用する投与方法に応じて変化することがあり、そのような予想される結果のばらつきまたは差異は本発明の実施に従って予想される。
【0193】
本発明の具体的な実施形態が本明細書中で詳しく説明されているが、本発明はこれらに限定されない。上記の詳細な説明は本発明を代表するものとして提供され、なんらかの限定を構成するものと解釈されるべきでない。当業者には変更(改良)が自明であり、本発明の精神から逸脱しないあらゆる変更(改良)が添付の特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル。
【請求項2】
化合物(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸。
【請求項3】
化合物(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル。
【請求項4】
化合物(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル。
【請求項5】
(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸ジエチル、(R)-2-(1-(tert-ブトキシカルボニル)ピロリジン-3-イル)マロン酸、(R)-3-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチル、および(R)-3-(2-ヨードエチル)ピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルの1種以上を経由する(R)-3-ビニルピロリジン-1-カルボン酸tert-ブチルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−510472(P2012−510472A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538712(P2011−538712)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/066083
【国際公開番号】WO2010/065447
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(501054735)ターガセプト,インコーポレイテッド (37)
【Fターム(参考)】