説明

(Z)−9−テトラデセン−5−オリド、その製造法およびそれを含有する香料組成物

【解決手段】式(1)


で表される(Z)−9−テトラデセン−5−オリドである。また、5−ヒドロキシ−9Z−テトラデセン酸を脱水、環化させることを特徴とする(Z)−9−テトラデセン−5−オリドの製造法である。また、(Z)−9−テトラデセン−5−オリド(化合物1)を含有する香料組成物である。
【効果】得られた化合物はリーフィーなグリーンとミルキーな甘さを兼ね備えた香りを有し、既存ラクトン類に較べて、フレッシュ感があり、洋梨、青りんごを想起する。また、本化合物をフル−ツ系フレグランス香料組成物に添加することにより、果実感、天然感、フレッシュ感が増すなどの効果が得られる。さらに、食品用香料組成物に添加することにより、底味をつけ、ボリューム感をアップする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(Z)−9−テトラデセン−5−オリド(以下、化合物1ともいう)、その製造法およびその化合物を含有することを特徴とする香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物1は、新規化合物であり、バターの脂肪にその類縁体の存在が推測されると報告されているのみである(非特許文献1)。
この報告によれば、IR(赤外吸収スペクトル)によって二重結合の存在を確認し、オゾノリシスによってその位置を決定している。しかしながら、現代の有機分光分析技術の視点からは、こうしたデータのみでは完全な同定に至っているとは言いがたい。実際に、前記報告には化合物1の類縁体の存在について、兆し・推測(indications)といった表現が用いられている。加えて、化合物1の類縁体の化学合成によるスペクトルデータの比較はなされておらず、またその幾何異性についてもまったく言及されていない。
【非特許文献1】A.S.M. Van Der Zijden et al. Revue Francaise des Corps Gras 13(12), 731−735, (1966)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、バターの香気成分について詳細な分析研究を実施し、各種の機器分析によって得られたデータを精査した。その結果、式1で表される化合物を微量成分として単離し、MS、IR、NMRなどの測定で得られたスペクトルデータを解析することにより構造決定に至った。また、Hならびに13C NMRの解析結果、および化学合成によって得られた(Z)−9−テトラデセン−5−オリドの各種スペクトルデータを比較することにより、バターから単離した化合物1の幾何異性が(Z)−であることを明らかにした。
【0004】
また、化合物1を効率的に合成すべく鋭意検討を重ねた結果、短工程で安価な原料系、かつ高収率であり、工業化にも充分に堪え得る製造法を確立した。
【0005】
一方、近年、消費者のニーズはより天然志向へシフトしており、ナチュラルかつ特徴的な飲食品または香粧品の開発が要求されている。これらの原料素材の一つである香料についても、同様に強いキャラクターを有し、好ましい天然感を演出する香料組成物の開発が懸案となっていた。
【0006】
本発明者らは、天然バターから微量成分として単離、構造決定した化合物1の香気香味特性を鋭意研究し、これを食品用香料組成物またはフレグランス用香料組成物に使用することにより、優れた香料組成物の開発をすることができた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は式(1)
【化1】

で表される(Z)−9−テトラデセン−5−オリドである。
【0008】
また、本発明は5−ヒドロキシ−9Z−テトラデセン酸を脱水、環化させることを特徴とする、(Z)−9−テトラデセン−5−オリドの製造法である。
【0009】
また、本発明は前記の(Z)−9−テトラデセン−5−オリド(化合物1)を含有することを特徴とする香料組成物である。
また、本発明は化合物1を含有することを特徴とするフレグランス用香料組成物である。
また、本発明は化合物1を含有することを特徴とする食品用香料組成物である。
【0010】
本発明化合物1については、例えば下記工程図に示す方法で合成することができる。
【化2】

【0011】
即ち、式2で表される5−ヒドロキシ−9Z−テトラデセン酸(以下、δ−ヒドロキシカルボン酸、または化合物2ともいう)を、脱水により環化させて式1で表される化合物1を得る。
【0012】
式2で表されるδ−ヒドロキシカルボン酸を脱水、環化させる方法としては加熱による方法、酸触媒による方法、脱水剤による方法などがあるが、加熱による方法がもっとも効率がよい。加熱による方法の場合、加熱温度は約30〜200℃が好ましく、その際には共沸によって水を反応系外に排出できる溶媒の使用が好ましい。溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ヘキサンなどの炭化水素類が挙げられる。
【0013】
前記以外の化合物1の製造法としては例えば下記工程図に示す方法で合成することもできる。
【化3】

【0014】
即ち、三重結合を有する9−テトラデシン−5−オリドを触媒、例えばリンドラー触媒などの存在下に水素添加することにより化合物1を得る。
【0015】
化合物2については、従来公知の方法で調製でき、例えば下記工程図に示す方法で合成することが好ましい。
【化4】

【0016】
即ち、式3で表されるカルボン酸ハライド(以下、化合物3ともいう)を、式4で表される有機金属化合物(以下、化合物4ともいう)と反応させることにより式5で表されるδ−ケトエステル(以下、化合物5ともいう)を得る。このもののケト部位を選択的に還元して式6で表されるδ−ヒドロキシエステル(以下、化合物6ともいう)を得る。続いてエステル部位を加水分解した後、酸で中和することにより式2で表されるδ−ヒドロキシカルボン酸(化合物2)を得る。
【0017】
式3で表されるカルボン酸ハライド(化合物3)に関しては、従来公知の方法で調製することができる。例えばグルタル酸モノエステルをチオニルクロライドやオキサリルクロライドなどの塩素化剤と反応させることにより、対応する酸クロライドが得られる。また、式4で表される有機金属化合物に関しても同様に、従来公知の方法で調製することができる。例えば、対応する4−ノニン−1−オールなどのアルキン誘導体を適当な触媒、例えばリンドラー触媒などの存在下で水素添加することにより、(Z)−4−ノネン−1−オールなどの(Z)−アルケン誘導体が得られる。このものをハライドに誘導した後に、対応する有機金属化合物(化合物4)に導くことができる。
【0018】
上記工程図中の式3で表されるカルボン酸ハライド(化合物3)と有機金属化合物(化合物4)との反応において、化合物3については安定性や操作性、および調製の容易さからは酸クロライドがもっとも好ましい。また、エステル残基Rについては、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチルなど、炭素数が1〜10程度のものが挙げられるが、一般的にはイソプロピルやt−ブチルなどの立体的にかさ高いものが好ましい。
【0019】
式4で表される有機金属化合物の形態としては上記工程図にも種々示しているが、操作性や調製の容易さからはグリニヤール試薬(M = MgX)がもっとも好ましい形態として挙げられる。その使用量は式3で表されるカルボン酸ハライド1モルに対し、一般に約0.5〜5モルの範囲を挙げることができるが、より好ましくは約0.7〜3モルの範囲で使用できる。
【0020】
上記工程図に示した添加剤は、反応をケトンの段階で止める目的で広く一般的に用いられるものであり、例えば銅、亜鉛、鉄、セリウム、コバルトなどの金属塩が有効な添加剤となることがよく知られており(非特許文献2、非特許文献3)、本発明においても用いられる。
【0021】
一方、有機金属化合物の溶液を反応系中に滴下する方法を採れば、添加剤を加えなくても比較的良好な選択性および収率が得られる場合も知られている(非特許文献4、非特許文献5)。
【0022】
反応溶媒としては、例えばテトラハイドロフラン(THFともいう)やジエチルエーテルなどのエ−テル類がもっとも好ましいが、反応の目的によっては、例えばトルエンなどの炭化水素類やトリエチルアミンなどのアミン類など、さまざまな溶媒を単独もしくは任意の割合で混合して使用できる。反応温度としては、一般に約−80℃〜20℃の温度範囲内で、反応時間は約1〜15時間の条件が挙げられる。
【0023】
【非特許文献2】E. Berliner Org. React. 5, 229, (1949)
【非特許文献3】C. Cardellicchio et al. Tetrahedron Lett. 28, 2053, (1987)
【非特許文献4】F. Sato et al. Tetrahedron Lett. 20, 4303, (1979)
【非特許文献5】M. K. Eberle et al. Tetrahedron Lett. 21, 4303, (1980)
【0024】
化合物5から化合物6への還元工程で用いる試薬としては、例えばハイドライドを有する還元剤が好ましく、中でもケト部位を選択的に還元できるナトリウムボロハイドライドがもっとも好適な還元剤として挙げられる。還元剤の使用量は式5で表されるδ−ケトエステル1モルに対し、一般に約0.1〜10モルの範囲を挙げることができるが、好ましくは約0.2〜5モルの範囲で使用できる。
反応溶媒としては、例えばメタノールなどのアルコール類が挙げられるが、他にもエ−テル類、炭化水素類などを単独もしくは任意の割合で混合して用いることができる。反応条件としては、一般に約−80℃〜100℃の温度範囲内で、約2〜10時間の条件が挙げられる。
【0025】
化合物6の加水分解に用いるアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウムなどの苛性アルカリ類がもっとも好適な試薬として挙げられるが、それら以外には、例えば炭酸カリウムなどの炭酸金属塩も使用できる。アルカリの使用量は式6で表されるδ−ヒドロキシエステル1モルに対し、一般に約0.8〜10モルの範囲を挙げることができるが、好ましくは約1〜5モルの範囲で使用できる。
反応溶媒としては水、もしくは水に可溶なものが好ましい。例えばメタノールなどのアルコール類が挙げられるが、他にも例えばエ−テル類、アミド類、スルホキシド類などを挙げることができる。これらの溶媒は単独もしくは任意の割合で混合して使用できるが、含水溶媒として用いることが好ましく、溶媒と水の混合比率は特に限定されない。反応条件としては、一般に約0℃〜100℃の温度範囲内で、約1〜10時間の条件が挙げられる。
【0026】
上記工程で得られるδ−ヒドロキシカルボン酸塩を中和する酸としては、例えば塩酸などの鉱酸が経済的に優れているが、他には例えば酢酸などのカルボン酸なども挙げられ、その使用量はδ−ヒドロキシカルボン酸塩1モルに対し、一般に約1〜100モルの範囲を挙げることができるが、好ましくは約1.1〜10モルの範囲で使用できる。
【0027】
各工程における分離・精製法としては、例えば常圧または減圧蒸留、順相または逆相カラムクロマトグラフィ、順相または逆相高速液体クロマトグラフィ(HPLCともいう)、無極性または極性カラムを装着したガスクロマトグラフィ(GCともいう)などが挙げられる。
【0028】
本発明の化合物1はリーフィーなグリーンとミルキーな甘さを兼ね備えた香りで、既存ラクトン類に較べて、フレッシュ感があり、洋梨、青りんごを想起するものである。
化合物1は上記のようにそれ自体で特有の香気、香味を有するものであるが、公知の香料組成物に化合物1を含有させることにより、該香料組成物は化合物1の香気、香味特性を生じながら、該香料組成物自身の香気、香味ときわめて効果的な調和を示し、各香料組成物の香気、香味の改善および増強に優れた効果を示す。例えば、化合物1をフル−ツ系フレグランス用香料組成物に添加することにより、果実感、天然感、フレッシュ感などが増すなどの効果が得られる。また、食品用香料組成物に添加することにより、底味をつけ、ボリューム感をアップする。また、焼菓子用フレーバーに添加すると天然感が増し、底味が良くなると共に、フレーバーをまとめる効果がある。
【0029】
即ち本発明の香料組成物は、化合物1を含有することを特徴とする香料組成物である。その含有量は、一般に香料組成物全重量の約0.00005〜約20重量%、好ましくは約0.0005〜約10重量%の範囲が挙げられるが、これによって限定されるものではなく、対象となる香料組成物の種類によって、その含有量は適宜調整できる。
【0030】
本発明の香料組成物には、フレグランス用香料組成物および食品用香料組成物があり、フレグランス用香料組成物としては、フレグランス製品(香水、オ−ドパルファム、オ−ドトワレ、オ−デコロンなど)、基礎化粧品(クリーム、乳液、化粧水など)、仕上げ化粧品(ファンデ−ション、口紅など)、頭髪化粧品(シャンプ−類、リンス類、染毛剤類、ブリ−チ剤類、ヘアトニック類、整髪料など)、などの各種化粧品用の香料組成物、また石鹸類、ヘアケア商品(シャンプ−類、リンス類、整髪料など)、浴用剤(入浴剤など)、ボディーシャンプ−などの各種トイレタリ−製品用の香料組成物、洗剤(食器洗剤、洗濯洗剤など)、柔軟仕上剤・漂白剤、芳香・消臭剤、香類(線香、ろうそく、練り香など)などの各種家庭用品用の香料組成物、また各種医薬部外品、外用医薬品用の香料組成物などがある。
また、食品用香料組成物としては、各種飲料用(炭酸飲料、果実飲料、茶・コーヒー系飲料、アルコール系飲料、乳飲料、乳酸菌飲料など)、また各種菓子用(冷菓、キャンディ−・デザート、チューインガム、チョコレート、焼き菓子・ベーカリーなど)、また各種酪農・油脂用(ヨーグルト、バター・マーガリン、チーズなど)、また各種調味料用(味噌、醤油など)、また各種調理食品用、また各種冷凍食品用、また各種たばこ用、また歯磨き、洗口剤などの各種口腔製品用、また各種医薬部外品、医薬品用、各種飼料用の香料組成物などがある。
【0031】
本発明の香料組成物は、上記の香粧品類および飲食品類その他の商品類に用いることによって、その特徴的な香気または香気香味特性を商品に賦与し、消費者のニ−ズにあった、かつユニ−クな商品を提供できる。
【0032】
化合物1を用いて香料組成物を調製する場合、他に使用される香料化合物としては、例えばリモネン、カリオフィレン、ピネンなどの各種炭化水素類;アセトアルデヒド、α−シンナミックアルデヒド、シトラ−ルなどの各種アルデヒド類;マルト−ル、ベンジルアセトン、ダマセノンなどの各種ケトン類;ブタノ−ル、ベンジルアルコ−ル、リナロ−ルなどの各種アルコ−ル類;ゲラニル エチル エ−テル、ロ−ズオキサイド、フルフラ−ルなどの各種エ−テル・オキサイド類;エチル アセテ−ト、ベンジル アセテ−ト、リナリル アセテ−トなどの各種エステル類;γ−デカラクトン、クマリン、スクラレオライドなどの各種ラクトン類;インド−ル、2−イソプロピル−4−メチルチアゾ−ル、フェニルアセトニトリルなどの各種ヘテロ化合物類;ジャスミンアブソリュ−ト、シダ−ウッドオイル、オリスコンクリ−トなどの各種天然素材類が挙げられる。使用する溶剤としては、例えばエタノ−ル、ジプロピレングリコ−ル(DPGともいう)、ベンジル ベンゾエ−ト(BBともいう)、水、トリアセチン、トリエチル シトレ−ト(TECともいう)などが挙げられる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に用いる化合物1はリーフィーなグリーンとミルキーな甘さを兼ね備えた香りを有し、既存ラクトン類に較べて、フレッシュ感があり、洋梨、青りんごを想起する。また、本発明の香料組成物は化合物1の香気、香味特性を生じながら、該香料組成物自身の香気、香味ときわめて効果的な調和を示し、各香料組成物の香気、香味の改善および増強に優れた効果を示す。例えば、化合物1をフル−ツ系フレグランス香料組成物に添加することにより、果実感、天然感、フレッシュ感が増すなどの効果が得られる。また、食品用香料組成物に添加することにより、底味をつけ、ボリューム感をアップする。更に、本発明の製造法によって前記のごとく優れた新規化合物1を良好に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これによって限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
参考例1:イソプロピル5−ケト−9Z−テトラデセノエートの合成
アルゴン雰囲気下、モノイソプロピルグルタル酸クロライド(26.5g, 0.13mol)のトルエン(120mL)溶液をドライアイス/メタノール浴で−70℃に冷却し、そこへ予め調製した(Z)−4−ノネニルマグネシウムクロライドの1M THF溶液(120mL, 0.12mol)を−65℃で1時間を要して滴下した。滴下終了後、1時間を要して内温を−20℃に上げながら攪拌を続けて反応を完結させた。反応混合物を氷冷した塩化アンモニウム水溶液に注いで反応を停止し、1度分液処理を行って有機層を採取した後に、ジイソプロピルエ−テル(IPE, 100mL)で1回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で2回洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で乾燥した後、減圧下に溶媒を留去して粗生成物を28.7g得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィ(SCC)で精製し、目的とするδ−ケトエステルを12.2g得た(収率36%)。
【0036】
参考例2:イソプロピル5−ヒドロキシ−9Z−テトラデセノエートの合成
参考例1で得たδ−ケトエステル(12.2g, 0.043mol)のメタノール(40mL)溶液をドライアイス/メタノール浴で−30℃に冷却し、そこへナトリウムボロハイドライド(0.8g, 0.086mol)を少量ずつ加えた。0℃以下で2時間攪拌を続けて反応を完結させた。反応混合物を氷冷した希塩酸(200mL)に注ぎ、IPE (100mL)で2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で乾燥した後、減圧下に溶媒を留去して粗生成物を11.9g得た。
【0037】
参考例3:5−ヒドロキシ−9Z−テトラデセン酸の合成
参考例2で得たδ−ヒドロキシエステル(11.9g)に20%水酸化ナトリウム水溶液(13.0g, 0.065mol)とメタノール(30mL)を加えて室温で1時間攪拌して反応を完結させた。反応混合物に氷水を加えてIPE (100mL)で2回下油抽出を行い、不純物を除去した。得られた水層を塩酸で酸性に調整し、塩化ナトリウムを加えて塩析した後、IPE (100mL)で2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で乾燥した後、減圧下に溶媒を留去して粗生成物を7.2g得た。
【0038】
実施例1:(Z)−9−テトラデセン−5−オリド(1)の合成
参考例3で得たδ−ヒドロキシカルボン酸(7.2g)にトルエン(100mL)を加えて加熱し、30分間リフラックスして反応を完結させた。減圧下に溶媒を留去して粗生成物を7.1g得た。SCCで精製し、GC純度100%の本発明化合物1を5.2g得た(δ−ケトエステルからの収率54%)。
以下にMS、IR、およびH NMRスペクトルデ−タを示す。
【0039】
化合物1のスペクトルデ−タ
EI−MS (m/z, rel. intensity):224 (M, 6), 164 (15), 154 (17), 136 (44), 121 (10), 110 (20), 95 (40), 81 (100), 67 (77), 54 (78), 41 (50)
IR (film, cm−1):3000, 2950, 2850, 1740, 1460, 1380, 1340, 1250, 1180, 1060, 930
H NMR (400MHz, CDCl, δ ppm):0.90 (3H, t, J = 7.2 Hz), 1.26〜2.09 (16H, m), 2.38〜2.62 (2H, m), 4.24〜4.31 (1H, m), 5.29〜5.42 (2H, m)
【0040】
実施例2、比較例1:グリーンアップル調合香料
下記表1の各成分(重量部)を混合し、香料組成物を調製した。
【0041】
[表1]
<実施例2> <比較例1>ガラクソリド50BB 5.0 5.0
ジヒドロジャスモン酸メチル 20.0 20.0
γ―ウンデカラクトン 2.0 2.0
p−tert―ブチル―α―メチルヒドロ
シンナミックアルデヒド 5.0 5.0
α―ヨノン 2.0 2.0
酢酸p−tert―ブチルシクロヘキシル 10.0 10.0
酢酸シトロネリル 2.0 2.0
酢酸ジメチルベンジルカルビニル 6.0 6.0
ヘプタン酸アリル 8.0 8.0
イソシクロシトラール 1.0 1.0
リナロール 15.0 15.0
トリプラール 11.0 11.0
酢酸イソアミル 3.0 3.0
アセト酢酸エチル 2.0 2.0
2−メチル酪酸エチル 2.0 2.0
ダマセノン10%DPG溶液 2.0 2.0
本発明化合物1 4.0 ―
DPG − 4.0
(合 計) 100.0 100.0
上記香料組成物について、よく訓練された専門パネラ−5人で化合物1の添加の有無を比較したところ、全員が実施例2の方がナチュラル感、果実感が付与されていると評価した。
【0042】
実施例3、比較例2:ピーチ調合香料
下記表2の各成分(重量部)を混合し、香料組成物を調製した。
【0043】
[表2] <実施例3> <比較例2>γ―ウンデカラクトン 95.0 95.0
γ―デカラクトン 88.0 88.0
δ―デカラクトン 2.0 2.0
酢酸o−tert−ブチルシクロヘキシル 24.0 24.0
酪酸ジメチルベンジルカルビニル 32.0 32.0
酢酸ベンジル 80.0 80.0
リナロール 140.0 140.0
リモネン 100.0 100.0
γ―ドデカラクトン 48.0 48.0
酪酸イソアミル 80.0 80.0
酪酸エチル 122.0 122.0
イソ酪酸トリシクロデセニル 48.0 48.0
ベンズアルデヒド 16.0 16.0
イソ酪酸エチル 80.0 80.0
2−イソプロピル−4−メチルチアゾール 3.0 3.0
プレゴンチオール10%DPG溶液 2.0 2.0
本発明化合物1 40.0 −
DPG − 40.0
(合 計) 1000.0 1000.0

上記香料組成物について、実施例2と同様に比較したところ、全員が実施例3の方がナチュラル感、フレッシュ感が付与されていると評価した。
【0044】
実施例4、比較例3:焼き菓子用フレーバー
下記表3の各成分(重量部)を混合し、焼き菓子用香料組成物を調製した。
【0045】
[表3] <実施例4> <比較例3>δ―オクタラクトン 1.0 1.0
δ―デカラクトン 6.5 6.5
γ―ドデカラクトン 0.5 0.5
δ―ドデカラクトン 5.5 5.5
δ―テトラデカラクトン 1.5 1.5
酪酸 4.0 4.0
ヘキサン酸 2.0 2.0
オクタン酸 1.0 1.0
デカン酸 2.5 2.5
ジアセチル 5.0 5.0
メチルアミルケトン 1.0 1.0
メチルヘプチルケトン 0.8 0.8
メチルノニルケトン 1.2 1.2
本発明化合物1 0.005 ―
精製植物油 967.5 967.5 (合 計) 1000.0 1000.0
【0046】
次に下記表4の各成分(重量部)からなるクッキー生地を用い、180度の焼成温度で常法により焼き菓子を試作した(比較例の焼き菓子)。また、ショートニングに上記香料組成物を混ぜ込み、同様にして焼き菓子を試作した(本発明の焼き菓子)。尚、香料組成物は焼き菓子に対して0.1重量%付香した。
【0047】
[表4]
クッキー生地
ショートニング 60 g
上白糖 60
全卵 25
牛乳 20
薄力粉 100
(合計) 265 g得られた焼き菓子について、よく訓練された専門パネラ−5人で本発明の香料組成物添加の有無を比較したところ、全員が本発明の焼き菓子の方が底味が良くなると共に自然なバター感やボディー感が増し、ケトンのやや不快なくせを和らげ、天然のバタークッキー様の美味しさがあると評価した。また、3名が本発明の焼き菓子の方が青さを伴ったマイルドなクリーム感を想起させ旨味のある甘さもあると評価した。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

で表される(Z)−9−テトラデセン−5−オリド。
【請求項2】
5−ヒドロキシ−9Z−テトラデセン酸を脱水、環化させることを特徴とする、(Z)−9−テトラデセン−5−オリドの製造法。
【請求項3】
(Z)−9−テトラデセン−5−オリドを含有することを特徴とする香料組成物。





【公開番号】特開2007−91663(P2007−91663A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284920(P2005−284920)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000121512)塩野香料株式会社 (23)
【Fターム(参考)】