説明

1次元金属ナノ構造を製作する方法

【目的】より簡単な方式で高い結晶度を備えた1次元金属ナノ構造を形成するために、1次元金属ナノ構造を製作する方法を提供する。
【解決手段】1次元金属ナノ構造を製作する方法が提供される。先ず、第1酸化物および第2酸化物を含む混合層が提供される。第1酸化物が金属酸化物であり、かつ第1酸化物および第2酸化物が混和できないものである。次に、還元ガスが導入されるとともに、混合層に対する熱処理が行われ、第1酸化物の金属を還元されて、1次元金属ナノ構造を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナノ構造を製作する方法に関し、特に、1次元金属ナノ構造を製作する方法(METHOD OF FABRICATING ONE-DIMENSIONAL METALLIC NANOSTRUCTURE)に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な製品に対する小型化要求にともなって、科学および技術は、既にミクロン時代から、いわゆるナノ時代へと発展している。ナノ材料には、様々なタイプがあり、金属ナノ材料、半導体ナノ材料、ナノ構造化セラミックス、ナノポリマー材料を含むとともに、0次元構造、1次元構造、2次元構造または他の構造を有している。1次元金属ナノ構造の処理方法および研究が最も挑戦的なものであり、また最も潜在力のあるものの1つである。
【0003】
サイズがナノスケールへ縮小する時、バルク(bulk)材料と比較して、材料の物理的、機械的、化学的特性が大きく変化する。従って、異なる材料の求められる特性を獲得するために材料の組合せを変化させるだけでなく、同一材料の融点、色彩、光学的、電気的および電磁的特性のような基本的特徴もまた当該材料のサイズならびに形状を制御することにより更にコントロールすることができる。この特質に基づき、過去には達成することのできなかった高性能な製品または技術がナノ科学技術の分野において実現される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、1次元金属ナノ構造を製作する方法は、ナノテンプレート(nano-template)法、ステップ堆積(step deposition)法、液相核形成(liquid phase nucleation)法などを含んでいる。天然または人工のナノ多孔性材料(nano-porous materials)が、このナノ構造を形成するために、多様な金属堆積技術との連結に採用されている。しかし、マルチステージ成長(multi-stage growth)が、1次元金属ナノ構造を製作するために、上記方法中で採用されなければならないとともに、製作された材料の結晶度(crystallinity)が満足できるものではない。従って、1次元金属ナノ構造を調製する時、現在のプロセスにつき如何にしてサイズ均一性および結晶度をコントロールするかが1つの重要な挑戦である。
【0005】
また、金属ナノ構造ならびにその製作方法は、既に米国特許番US 6,858,318; US 2007/0089564A1および日本特許番号JP2004223693A2に開示されている。上記文献は、全て参考としている。
【0006】
[発明の目的]
そこで、この発明の目的は、より簡単な方式で高い結晶度を備えた1次元金属ナノ構造を形成するために、1次元金属ナノ構造を製作する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、1次元金属ナノ構造を製作する方法を提供する。先ず、第1酸化物および第2酸化物を含む混合層が形成される。第1酸化物が金属酸化物であり、第1酸化物および第2酸化物が混和できない(immiscible)ものである。還元ガスが導入され、かつ熱処理が混合層に行われて、第1酸化物の金属が還元されるとともに、混合層の表面に1次元金属ナノ構造を形成する。
【0008】
この発明の実施形態にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法において、還元ガスが、例えば、水素(H)または他の適切な還元ガスである。
【0009】
この発明の実施形態にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法において、熱処理の処理温度が600℃および950℃の間である。
【0010】
この発明の実施形態にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法において、熱処理が、例えば、アニールプロセス(annealing process)または他の適切な熱処理である。
【0011】
この発明の実施形態にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法において、第1酸化物が、例えば、ニッケル酸化物(NiO)または銅酸化物(CuO)である。
【0012】
この発明の実施形態にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法において、第2酸化物が、例えば、金属酸化物またはセラミック酸化物である。金属酸化物が、例えば、ジルコニウム酸化物(ZrO)またはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)あるいはセリウム酸化物ドープドイットリア安定化ジルコニア(CeOドープドYSZ)または他の適切な金属酸化物であるとともに、セラミック酸化物が、例えば、シリカまたは他の適切なセラミック酸化物である。
【0013】
この発明の実施形態にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法において、混合層が、例えば、スパッタリングプロセスまたは堆積プロセスあるいは他の適切な方法により形成される。
【0014】
この発明の実施形態にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法において、1次元金属ナノ構造が、例えば、1次元ナノワイヤーまたは1次元ナノロッドあるいは1次元ナノコーンを含む。
【0015】
この発明の方法中、還元ガスが使用され、かつ熱処理が酸化物混合層の酸化物中の金属を還元することを実施して、1次元金属ナノ構造を形成する。従って、この発明の方法は、従来技術と比較して、容易で簡単であり、高い結晶度を備えた1次元金属ナノ構造を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
つまり、この発明の方法は、簡単な直接成長方式を採用して1次元金属ナノ構造を形成し、かつ形成された1次元金属ナノ構造が高い結晶度をそなえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
この発明は、新規で容易な直接成長法を提供し、従来の方法により製作された1次元金属ナノ構造のそれよりも更に良い結晶度を備えた1次元金属ナノ構造を製作する。
【0018】
この発明の1次元金属ナノ構造を製作する方法は、以下のステップを含む。図1において、先ず、2つの混和できない(immiscible)酸化物を含む混合層が形成される(ステップ110)。詳細は、ステップ110中、酸化物混合層が、例えば、スパッタリングプロセスまたは堆積プロセスにより形成される。混合層が第1酸化物(通式Mx1y1を備える)と第2酸化物(通式M’x2y2を備える)とを含む。Mx1y1が金属酸化物であり、例えば、ニッケル酸化物(NiO)または銅酸化物(CuO)あるいは他の適切な金属酸化物である。M’x2y2が金属酸化物またはセラミック酸化物である。金属酸化物が、例えば、ジリコニウム酸化物(ZrO)、イットリア安定化ジルコニア(yttria-stabilized zirconia = YSZ)、セリウム酸化物ドープド・イットリア安定化ジルコニア(cerium oxide doped yttria-stabilized zirconia = CeO-doped YSZ)または他の適切な金属酸化物であり、かつセラミック酸化物が、例えば、シリカ(silica 二酸化珪素)または他の適切なセラミック酸化物である。
【0019】
図1において、次に、熱処理(thermal process)が還元ガス雰囲気で混合層に対して行われる(ステップ120)。詳細は、ステップ120中、熱処理が、例えば、還元ガスとしてHまたは他の適切なガスを導入することにより行われる。熱処理が、例えば、アニールプロセスまたは他の適切な熱処理であるとともに、処理温度が600℃および950℃の間であり、かつ、望ましくは800℃および950℃の間である。また、還元ガスを導入する時、窒素(N)またはヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)のような不活性ガスを付加することもできる。
【0020】
ステップ120を実施する時、熱処理が混合層中の酸化物(Mx1y1,M’x2y2)を分離する傾向へ導く。その一方で、還元ガスがMx1y1中の金属(M)の還元を促進し、金属(M)を析出させ、混合層の表面に1次元金属ナノ構造を形成する。形成される1次元金属ナノ構造は、ナノワイヤー(nanowires)またはナノロッド(nanorods)あるいはナノコーン(nanocones)である。
【0021】
以下、幾つかの実例がこの発明を説明するために記載されるが、この発明を限定するためのものではない。
【実験例】
【0022】
<酸化物混合層の製作>
先ず、シリコン基板が提供される。そして、ArおよびOガスが導入され、プラズマ衝撃スパッターターゲット(plasma bombard sputter target)材料(NiおよびZr-Y-Ce)を発生して、NiOおよびCeO-doped YSZを形成するとともに、シリコン基板上に酸化物混合層(NiO-doped YSZ)を形成する。ここで、Arガスの流量は、例えば、10sccmであり、Oガスの流量は、例えば、10sccmである。
【0023】
<1次元Niナノロッドを形成する>
形成された酸化物混合層が炉装置(furnace device)に入れられるとともに、HおよびArガス(H:Ar=20vol%:80vol%)が導入される。800℃で、アニールプロセスが酸化物混合層に対して約60分間実施される。酸化物混合層中のNi金属がHにより還元されて、混合層の表面に析出されることで、1次元Niナノロッドを形成する。
【0024】
その後、材料特徴分析がこの発明の方法によって形成された1次元金属ナノ構造に対して行われる。以下の分析は、上記実験例中で形成された1次元Niナノロッドに対して実施される。
【0025】
<走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope = SEM)分析>
図2は、酸化物混合層(NiO-doped YSZ)のSEM写真である。図3は、Hを伴うアニールプロセス後のSEM写真である。
【0026】
図2からNiO-doped YSZのSEM写真が混合層のフラットな表面を示していることが分かる。図3のSEM写真は、表面のナノ構造が1次元ナノロッド形態を出現させていることを明確に示し、かつ形成された1次元Niナノロッドが約45-140nmの幅および約230-1400nmの長さを有している。SEMの表面形態に対する分析から、この発明の方法が容易かつ簡単であるとともに、疑う余地もなく1次元金属ナノ構造を形成できることが分かる。
【0027】
また、X線回析および透過電子顕微鏡により、上記した1次元金属ナノ構造の結晶構造または原子配向に対して更なる研究(調査)ならびに分析が行われる。
【0028】
<X線回析(X-ray diffraction = XRD)分析>
図4において、酸化物混合層(NiO-doped YSZ)およびアニールプロセス後の混合層のXRDスペクトラム(spectrum「スペクトル」とも言う)を示す。酸化物混合層(NiO-doped YSZ)のXRDスペクトラムは、符号402で示したスペクトラムであり、形成された1次元金属ナノ構造の混合層のXRDスペクトラムは、符号404で示したスペクトラムである。図4から、Ni回析ピークがスペクトラム404中に出現すること、即ち、1次元金属ナノ構造がこの発明により形成されたことを明確に見て取れる。更に、Ni回析ピークの図形(graphic)が比較的シャープで狭く、結晶度が極めて高いことを表示している。
【0029】
<透過電子顕微鏡(Transmission electron microscope = TEM)分析>
図5Aは、Hを伴うアニールプロセスを実施することにより得られた1次元金属ナノ構造のTEM写真である。図5Bは、挿入された電子回析スペクトラムを伴う図5Aの拡大されたTEM写真である。
【0030】
同様に、図5Aおよび図5B中のTEM分析から、1次元Niナノロッドがこの発明の方法により形成でき、かつ形成された1次元Niナノロッドが高い結晶度を有することを知ることができる。
【0031】
以上のごとく、この発明を最良の実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明にかかる1次元金属ナノ構造を製作する方法を示すフローチャートである。
【図2】酸化物混合層(NiO-doped YSZ)のSEM写真である。
【図3】Hを伴うアニールプロセスを通した後の混合層のSEM写真である。
【図4】酸化物混合層(NiO-doped YSZ)およびHを伴うアニールプロセスを通した後の混合層のXRDスペクトラムである。
【図5A】Hを伴うアニールプロセス後の1次元金属ナノ構造のTEM写真である。
【図5B】挿入された電子回析スペクトラムを伴う図5Aの拡大されたTEM写真である。
【符号の説明】
【0033】
110,120 ステップ
402,404 XRDスペクトラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次元金属ナノ構造を製作する方法であって:
第1酸化物および第2酸化物からなる混合層を形成し、そのうち、前記第1酸化物が金属酸化物であり、かつ前記第1酸化物ならびに前記第2酸化物が混和できない(immiscible)ものであるとことと;
還元ガスを導入するとともに、前記混合層に熱処理を行って、前記第1酸化物の金属を還元することにより、前記混合層の表面に前記1次元金属ナノ構造を形成することと
を含む1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項2】
前記還元ガスが水素(H)を含む請求項1記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項3】
前記熱処理の処理温度が600℃および950℃の間である請求項1記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項4】
前記熱処理がアニールプロセス(annealing process)を含む請求項1記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項5】
前記第1酸化物がニッケル酸化物(NiO)または銅酸化物(CuO)を含む請求項1記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項6】
前記第2酸化物が金属酸化物またはセラミック酸化物を含む請求項1記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項7】
前記金属酸化物がジルコニウム酸化物(ZrO)またはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)あるいはセリウム酸化物ドープド・イットリア安定化ジルコニア(CeOドープドYSZ)を含む請求項6記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項8】
前記セラミック酸化物がシリカを含む請求項6記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項9】
前記混合層がスパッタリングプロセスまたは堆積プロセスによって形成される請求項1記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。
【請求項10】
前記1次元金属ナノ構造が1次元ナノワイヤーまたは1次元ナノロッドあるいは1次元ナノコーンを含む請求項1記載の1次元金属ナノ構造を製作する方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2009−84682(P2009−84682A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−153919(P2008−153919)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(503416331)國立臺灣科技大學 (12)
【Fターム(参考)】