説明

1環芳香族炭化水素の製造方法

【課題】多環芳香族炭化水素含有油から付加価値の高い1環芳香族炭化水素を選択的に、効率良く、かつ長期に渡って安定的に製造する方法を提供する。
【解決手段】(i)芳香環構成炭素比率が40mol%以上である原料炭化水素油を、水素の存在下、水素化精製触媒と接触して窒素分を8.0重量ppm以下に低減すると同時に、多環芳香族炭化水素を1.5環及び1環芳香族炭化水素に変換する第1工程、及び(ii)得られた第1工程生成油を、水素の存在下、水素化分解触媒と接触して多環及び1.5環芳香族炭化水素を1環芳香族炭化水素に変換する第2工程を含む、1環芳香族炭化水素の含有量が25容量%以上である水素化分解生成油を得、かつ、原料炭化水素油の通油量が触媒量に対して120倍相当経過時と12倍相当経過時における、ヘビーナフサ収率の比が0.90以上(容量%比)であることを特徴とする選択的1環芳香族炭化水素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環芳香族炭化水素を含む原料炭化水素油から、核水添・開環・脱アルキルによって、付加価値の高いアルキルベンゼン類、とりわけベンゼン・トルエン・キシレン(いわゆるBTX)を効率的に製造する選択的1環芳香族炭化水素の製造方法に関し、特に、水素化分解触媒の被毒物質を特定量以下に低減することにより触媒の劣化を抑制して、長期に渡り安定的に、効率良く1環芳香族炭化水素を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)に代表されるアルキルベンゼン類は、従来、石油精製においては接触改質法により製造されてきた。接触改質反応は、基本的に炭素数が変化しない反応であるが、これに対して炭素数が多い、すなわち重質油からガソリン留分などの軽質油へ変換しようとする検討は、古くから試みられている。しかし、これまではガソリン留分として取り出す工夫がもっぱらなされてきた。すなわち、石油化学原料として付加価値が高いBTXやそれらに容易に変換できる1環芳香族炭化水素を選択的に得る方法は、ほとんど報告されていない。
【0003】
多環芳香族炭化水素から1環芳香族炭化水素を選択的に製造する方法としては、各種ゼオライトを含む水素化分解触媒を用いる方法がある(特許文献1)が、ゼオライト触媒に対する具体的な被毒物質の影響や限界量に関する情報は何ら開示されていなかった。
【0004】
また、多環芳香族炭化水素を原料として水素化分解し、ガソリンに変換する方法(特許文献2、3)も知られているが、目的製品はガソリンであり、BTXなどのアルキルベンゼン類を選択的に製造する方法ではなく、製品としてアルキルベンゼン類を単離することを考えた場合、まだ充分なレベルではなかった。加えて、反応初期の性能結果しかなく、水素化分解特有の触媒被毒や活性劣化に関する知見は全く開示されていない。
【0005】
同様に重質炭化水素留分から1環芳香族炭化水素へ水素化分解する方法も知られている(特許文献4)。しかしここでも分解率やBTX選択性などについて反応初期の性能結果しかなく、水素化分解特有の触媒被毒や活性劣化に関する知見は開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/135769号
【特許文献2】特開2008−127541号
【特許文献3】特開2008−127542号
【特許文献4】特表2009−508881号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように多環芳香族炭化水素から1環芳香族炭化水素へ変換する際、目的とするBTX類をはじめとする1環芳香族炭化水素を選択的に、かつ長期に渡って安定的に得る方法は確立されていなかった。本発明は、かかる状況下、過分解や過剰な核水添を抑制し、多環芳香族炭化水素から付加価値の高い1環芳香族炭化水素、とりわけBTXを選択的に、効率良く製造する方法を提供することを課題とする。加えて、水素化分解反応特有の触媒活性低下を抑制し長期に渡って安定的に前記1環芳香族炭化水素を効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、水素化分解反応に先立ち、前処理工程で適切に被毒物質を低減させることによって、1環芳香族炭化水素の選択的、効率的な製造を維持しながら、水素化分解触媒の活性低下を抑制することができ、温和な条件でかつ活性低下を起こすことなく、長期に渡って安定的に1環芳香族炭化水素を得ることが可能になることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち本発明は次の通りのものである。
【0010】
(1)(i)芳香環構成炭素比率が40mol%以上である原料炭化水素油を、水素の存在下、水素化精製触媒と接触して窒素分を8.0重量ppm以下に低減すると同時に、多環芳香族炭化水素の一部又は全部を1.5環及び1環芳香族炭化水素に変換する第1工程、及び
(ii)第1工程で得られた第1工程生成油を、水素の存在下、水素化分解触媒と接触して多環及び1.5環芳香族炭化水素の一部又は全部を1環芳香族炭化水素に変換する第2工程
を含む、1環芳香族炭化水素の含有量が25容量%以上である水素化分解生成油を得、かつ、触媒量に対する、原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時と12倍相当経過時における、ヘビーナフサ収率の比(YHN(120)/YHN(12))が0.90以上(容量比)であることを特徴とする選択的1環芳香族炭化水素の製造方法(ただし、YHN(120)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時のヘビーナフサ収率を、YHN(12)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が12倍相当経過時のヘビーナフサ収率を指し、またヘビーナフサとは沸点85〜190℃留分を指す)。
(2)原料炭化水素油は沸点215℃以上の留分を30容量%以上含有し、水素化分解生成油収率(反応液収率)70容量%以上である上記(1)に記載の選択的1環芳香族炭化水素の製造方法。
(3)原料炭化水素油は沸点30〜190℃留分の炭化水素を60容量%以上含有する上記(1)又は(2)に記載の選択的1環芳香族炭化水素の製造方法。
(4)触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時と12倍相当経過時における、沸点215℃以上の留分の転化率の比(Conv.(120)/Conv.(12))が、0.92以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の選択的1環芳香族炭化水素の製造方法(ただし、Conv.(120)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時の沸点215℃以上留分の転化率を、Conv.(12)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が12倍相当経過時の沸点215℃以上留分の転化率を指す)。
【発明の効果】
【0011】
水素化分解触媒を用いて多環芳香族炭化水素から1環芳香族炭化水素を製造する際、原料炭化水素油に含まれる窒素化合物を予め特定量以下に低減し、水素化分解触媒の被毒物質である硫黄化合物、窒素化合物、3環以上の芳香族炭化水素などを予め低減することにより、最も重要な水素化分解工程の触媒を温和な条件で使用することができ、付加価値の高い1環芳香族炭化水素を高濃度で製造することができる。その結果、触媒上に堆積するカーボンの生成を抑制して、触媒活性を長期に渡って維持することができるといった格別な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、1環芳香族炭化水素とはベンゼンの水素を0〜6個の飽和炭化水素基で置換したものを意味し、無置換以外のものはアルキルベンゼンである。したがって、1環芳香族炭化水素は、ベンゼンとアルキルベンゼンを包含し、これらをベンゼン類ということもある。また、前記飽和炭化水素基は、炭素数1〜4の低級アルキル基であることが好ましい。また、1.5環芳香族炭化水素とは、テトラリン(1,2,3,4‐テトラヒドロナフタレン)、インダン(2,3‐ジヒドロインデン)、シクロヘキシルベンゼンのように1個の芳香環と飽和された1個のナフテン環を1分子内に有する化合物であり、その芳香環及びナフテン環の水素を鎖状炭化水素基で置換したものを含み、テトラリン及びアルキルテトラリン(総称してテトラリン類ということもある)、インダン及びアルキルインダン(総称してインダン類ということもある)、さらにシクロヘキシルベンゼン及びアルキルシクロヘキシルベンゼン(総称してシクロヘキシルベンゼン類ということもある)などが挙げられる。なお、多環芳香族炭化水素とは2以上の芳香環(縮合環及び単環が複数結合したもの)を有する炭化水素であり、2個の芳香環を有する炭化水素を2環芳香族炭化水素という。
【0013】
以下、本発明の1環芳香族炭化水素の製造方法の詳細について、原料炭化水素油、前処理方法、水素化分解反応、水素化分解触媒、水素化分解触媒の製造方法、水素化分解生成油の分離方法、及び製品炭化水素に分けて順次説明する。
【0014】
[原料炭化水素油]
本発明では、多環芳香族炭化水素を1環芳香族炭化水素、とりわけBTXへ変換することを目的にしている。このため、使用する原料炭化水素油は、多環芳香族炭化水素を40容量%以上、好ましくは50容量%以上、より好ましくは60容量%以上含有する。1環芳香族炭化水素は、原料中に含まれると分解反応や水素化反応により1環芳香族炭化水素以外の化合物へ変換されてしまうこともあるため、例えば30容量%未満と少ない方が好ましく、20容量%未満がより好ましく、15容量%未満が特に好ましい。さらに、目的生成物であるBTXの合計量や炭素数9の芳香族炭化水素の量も少ない方が好ましいため、BTXの合計量としては5容量%未満、より好ましくは3容量%未満、さらに好ましくは2容量%未満であり、また炭素数9の芳香族炭化水素は20容量%未満が好ましく、より好ましくは10容量%未満、特に好ましくは5容量%未満である。
ここで、原料炭化水素油中に含まれる量として、多環芳香族炭化水素が40容量%未満、1環芳香族炭化水素の割合が30容量%以上、2環芳香族炭化水素が30容量%以上、BTXが5容量%以上、炭素数9の芳香族炭化水素が20容量%以上の場合、目的とする1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)を高収率で得ることができないので、好ましくない。
【0015】
さらに、本発明では、多環芳香族炭化水素を1環芳香族炭化水素、とりわけBTXへ変換することを目的にしているため、使用する原料炭化水素油は、芳香環を構成する炭素の比率が高いほど好ましい。この芳香環構成炭素比率は、核磁気共鳴法により測定することができ、Fa値とも呼ばれるが、好ましくは40mol%以上、より好ましくは45mol%以上、特に好ましくは50mol%以上である。この芳香環構成炭素比率が40mol%未満である場合、水素化分解反応において、目的の1環芳香族炭化水素を得ることができず、またガス分の生成量が増加してしまい、好ましくない。
【0016】
前記芳香族組成に基づき、好ましい蒸留性状を設定することができる。すなわち、2環芳香族炭化水素のナフタレンの沸点が218℃であることから、215℃以上の留分として30容量%以上、より好ましくは40容量%以上、特に好ましくは50容量%以上とする。従って、好ましい原料炭化水素油の蒸留性状としては、10%留出温度が140℃以上260℃未満、より好ましくは150℃以上250℃未満、さらには160℃以上240℃未満、特には170℃以上235℃未満であり、90%留出温度が250℃以上500℃未満、より好ましくは250℃以上400℃未満、さらには255℃以上390℃未満、特には260℃以上380℃未満である。
【0017】
原料炭化水素油中の反応阻害物質として、通常、窒素分が0.01重量%以上0.3重量%未満、硫黄分が0.1重量%以上5重量%未満、3環以上の芳香族炭化水素が多くて10容量%程度含まれる。
本発明の原料炭化水素油の沸点範囲に存在する主な硫黄化合物としては、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類、スルフィド類であるが、本発明に用いる原料炭化水素油の沸点範囲では、ベンゾチオフェン類とジベンゾチオフェン類が多い。ジベンゾチオフェンは電子的に非局在化しているため安定であり、反応しにくいことが知られていることから、本発明に使用する原料炭化水素油中にはあまり多く含まれない方が好ましい。
【0018】
原料炭化水素油として、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる留出分、常圧残渣を減圧蒸留して得られる減圧軽油、各種の重質油の軽質化プロセス(接触分解装置、熱分解装置等)から得られる留出物、例えば接触分解装置から得られる接触分解油(特に、LCO)、熱分解装置(コーカーやビスブレーキング等)から得られる熱分解油、エチレンクラッカーから得られるエチレンクラッカー重質残渣、接触改質装置から得られる接触改質油、さらに接触改質油を抽出、蒸留、あるいは膜分離して得られる芳香族リッチな接触改質油、潤滑油ベースオイルを製造する芳香族抽出装置から得られる留分、溶媒脱ろう装置から得られる芳香族リッチな留分などが挙げられる。ここで、芳香族リッチとは、接触改質装置から得られる炭素数10以上でかつ芳香族化合物の含有量が50容量%を超えるものを指す。その他、常圧蒸留残渣、減圧蒸留残渣、脱ろうオイル、オイルサンド、オイルシェール、石炭、バイオマス等などを精製する脱硫法又は水素化転化法(例えば、H−Oilプロセス、OCRプロセス等の重油分解プロセスや重油の超臨界流体による分解プロセス)から生ずる留出物等も好ましく用いることができる。
【0019】
また、複数の上記精製装置で適宜の順序で処理して得られた中間製品や副製品などの留出物も原料炭化水素油として用いることもできる。さらに、これら炭化水素油は、単独で用いても2種以上の混合物を使用してもよく、水素化分解の原料炭化水素油として上記の沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率に調整されたものであれば使用できる。したがって、上記の沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率を外れる炭化水素油であっても、沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率を上記の範囲に調整して用いることもできる。上記の炭化水素油のなかでも、接触分解油、熱分解油、減圧軽油、エチレンクラッカー重質残渣、接触改質油、超臨界流体分解油を好ましく用いることができ、特には接触分解軽油(LCO)が好ましい。
【0020】
[水素化処理工程(第1工程)]
本発明は、初めに、原料炭化水素油を水素の存在下に水素化精製触媒と接触させ、脱硫脱窒素処理を行うことにより、窒素分を8.0重量ppm以下に低減させるとともに、核水添やマイルドな分解により多環芳香族炭化水素の一部又は全部を、より少ない芳香環の炭化水素に、見掛け上は1.5環ないし1環芳香族炭化水素に変換する第1工程を行う。
原料炭化水素油中に存在する主な窒素化合物であるインドール類、キノリン類、カルバゾール類を除去し、第1工程後の第1工程生成油の窒素分が8重量ppm以下、好ましくは7重量ppm以下、より好ましくは5重量ppm以下に低減する。第1工程生成油の窒素分が8重量ppm以下でないと、後続の水素化分解工程(第2工程)において急激な活性劣化を引き起こすため好ましくない。
反応条件としては、温度150〜400℃が好ましく、より好ましくは200〜380℃、さらに好ましくは250℃〜360℃で、圧力は1.0〜10MPaが好ましく、より好ましくは2〜8MPa、液空間速度(LHSV)は0.1〜10.0h-1が好ましく、より好ましくは0.1〜8.0h-1、さらに好ましくは0.2〜5.0h-1未、水素/炭化水素比は100〜5000NL/Lが好ましく、より好ましくは150〜3000NL/Lで接触させることが好ましい。
【0021】
上記反応条件は、それぞれが互いに関係しているため一概に設定することは難しいが、一般的には、反応温度が高すぎる場合は、硫黄分や窒素分の低減には有効だが、多環芳香族炭化水素の低減には、熱的な縮合反応が起こり、逆に望ましくないこともある。また、反応圧力を高くすること、及びLHSVを下げることも硫黄分、窒素分、多環芳香族炭化水素の低減には有効であるが、目的とする1環芳香族炭化水素を得るために必要な1環芳香環部分さえも核水添する完全核水添に至る可能性があるため必ずしも好ましくなく、芳香環1環を残すような適切な反応条件範囲の設定が重要である。
【0022】
以上の処理により、第1工程生成油の硫黄分は好ましくは500重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは50重量ppm以下となる。この水素化精製処理による脱硫、脱窒素反応に伴い、芳香環の水素化も一部進行してしまう。本発明において、多環芳香族炭化水素の量を減少させることは重要なことであるが、1環芳香族炭化水素の量も減少させることは望ましくない。従って、多環芳香族分を1環あるいは1.5環芳香族炭化水素へ水素化するところまでで留めることができるような反応条件で処理することが好ましく、原料油中に含まれる硫黄分、窒素分に応じて、各種反応条件(第1工程触媒量、反応圧力、LHSV、反応温度、水素/炭化水素比)を適切に設定することで調節することができる。第1工程での、反応後の全芳香族炭化水素量/反応前の全芳香族炭化水素量(容量比)は高いほど好ましいが、具体的には0.85以上に制御することが好ましく、より好ましい残存割合は0.88以上であり、さらに好ましくは0.90以上である。
【0023】
本発明において、第1工程生成油における1.5環の残存量としては、原料炭化水素油中2環以上の多環芳香族炭化水素が全量変換した量に相当することが望ましい。すなわち、原料炭化水素油中に含まれる全芳香族炭化水素量に対して、第1工程生成油中の1環芳香族炭化水素と1.5環芳香族炭化水素の和が極力多いほど好ましい。具体的には、第1工程生成油の1.5環芳香族炭化水素量として、35容量%以上が好ましく、40容量%以上がより好ましく、41容量%以上が特に好ましい。また、第1工程生成油の1環芳香族炭化水素量として、10容量%以上が好ましく、11容量%以上がより好ましく、12容量%以上が特に好ましい。
【0024】
さらに本発明において、3環以上の芳香族炭化水素の存在も、水素化分解触媒の被毒物質となり得るため好ましくない。そのため、第1工程生成油の3環以上の芳香族炭化水素の含有量は、好ましくは5容量%未満、さらに好ましくは3容量%未満、特には1容量%未満であることが好ましい。
【0025】
水素化精製に用いる水素化精製触媒としては特に限定されるものではないが、耐火性酸化物担体に周期律表の第6族及び第8族から選ばれる少なくとも1種の金属を担持した触媒を好適に用いることができる。このような触媒として、具体的には、アルミナ、シリカ、ボリア、ゼオライトから選ばれる少なくとも1種が含まれる担体に、周期律表の第6族及び第8族の金属としてモリブデン、タングステン、ニッケル、コバルト、白金、パラジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒が挙げられる。例えば、第6族金属としてモリブデンを用いる場合、その含有量は水素化精製触媒中1重量%以上20重量%未満、特には5重量%以上15重量%とすることが好ましい。第8族金属としてコバルト又はニッケルの合計含有量は、水素化精製触媒中0.5重量%以上10重量%未満、特には1重量%以上7重量%未満とすることが好ましい。さらに、リンやホウ素などを添加しても良い。水素化精製触媒は、必要に応じて水素化反応前に乾燥、還元、硫化等の処理をしてから使用する。また、水素化処理工程に用いる触媒の量は、後述する水素化分解触媒に対して10容量%以上200容量%未満の範囲で使用することが好ましい。ここで、10容量%未満の場合、硫黄分の除去が不十分であり、一方200容量%超える場合、装置が大規模なものになってしまい非効率である。なお、水素化処理工程と後述する水素化分解工程は、一つの反応塔に充填したそれぞれのための触媒層として構成されても良く、あるいは別々の反応塔から構成されても良い。この際、両触媒層の間に水素供給ラインさらにその上流に反応生成ガス抜出ラインを設置して反応生成ガスを抜き出し、フレッシュな水素ガスを供給して反応を促進させることもできる。また、水素化処理工程と水素化分解工程は、それぞれ別々の装置であっても良いことは断るまでもない。
【0026】
[水素化分解反応(第2工程)]
本発明における水素化分解工程(第2工程)は、水素の存在下で、後で詳しく説明するように、第1工程生成油と水素化分解触媒とを接触させ、1環芳香族炭化水素を生成する工程である。すなわち、第1工程生成油の2環芳香族の分解や、1.5環芳香族炭化水素のナフテン環のみを開環して、1環芳香族炭化水素へ変換し、それと併せて各種の軽質な炭化水素留分を含む水素化分解生成油を生成するものである。
【0027】
本発明における水素化分解の反応形態は、特に限定されるものではなく、従来から広く使用されている反応形態、すなわち、固定床、沸騰床、流動床、移動床等が適用できる。この中で、固定床式が好ましく、装置構成が複雑でなく操作も容易である。
【0028】
水素化分解に使用する水素化分解触媒は、反応器に充填した後、乾燥、還元、硫化などの前処理をして用いられる。これらの処理は当業者に一般的であり、周知の方法によって反応塔内又は反応塔外で実施できる。触媒の硫化による活性化は、一般的には水素化分解触媒を水素/硫化水素混合物気流下150〜800℃、好ましくは200〜500℃の温度で処理することによって行われる。
【0029】
水素化分解において、例えば、反応温度、反応圧力、水素流量、液空間速度などの操作条件は、原料の性状、生成油の品質、生産量や精製設備・後処理能設備の能力に応じて適宜調整すればよい。
第1工程で得られた第1工程生成油と後述する水素化分解触媒を、水素の存在下で反応温度200〜450℃、より好ましくは250〜430℃、さらに好ましくは280〜400℃で、反応圧力2〜10MPa、より好ましくは2〜8MPaで、液空間速度(LHSV)0.1〜10.0h-1、より好ましくは0.1〜8.0h-1、さらに好ましくは0.2〜5.0h-1で、水素/炭化水素比は100〜5000NL/L、好ましくは150〜3000NL/Lで接触させる。以上の操作により、水素化分解反応用の原料炭化水素油中の多環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の一部又は全部は分解され、所望の1環芳香族炭化水素に転化する。上記の操作条件の範囲外では、分解活性が不足したり触媒の急激な劣化を引き起こしたりするなどの理由から好ましくない。
【0030】
[水素化分解触媒]
本発明の水素化分解触媒は、特定のゼオライトとそれを結合するバインダーとから構成される担体をペレット状(円柱状、異形柱状)、顆粒状、球状等に成形したものを使用できる。また、その物性として、比表面積が100m2/g以上800m2/g未満、中央細孔直径が3nm以上15nm未満、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積が0.1mL/g以上1.0mL/g未満であることが好ましい。
比表面積はASTM規格D3663−78に基づき窒素吸着によって求めたBET比表面積の値であり、より好ましくは150m2/g以上700m2/g未満、さらに好ましくは200m2/g以上600m2/g未満である。BET比表面積が上記範囲よりも小さい場合は活性金属の分散が不十分になり活性が向上せず、逆に大きすぎる場合は十分な細孔容積を保持できないため反応生成物の拡散が不十分になり、反応の進行が急激に阻害されるので好ましくない。
【0031】
水素化分解触媒の中央細孔直径は、より好ましくは3.5nm以上12nm未満、特に好ましくは4.0nm以上10nm未満である。また、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積は、より好ましくは0.15mL/g以上0.8mL/g未満、特に好ましくは0.2mL/g以上0.7mL/g未満である。中央細孔直径及び細孔容積は、反応に関与する分子の大きさと拡散との関係から適正範囲が存在するため、大きすぎても小さすぎても好ましくない。
【0032】
いわゆるメソポアの細孔特性、すなわち上記細孔直径、細孔容積は窒素ガス吸着法によって測定し、BJH法などによって細孔容積と細孔直径の関係を算出することができる。また、中央細孔直径は、窒素ガス吸着法において相対圧0.9667の条件で得られる細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積の累積をVとするとき、各細孔直径の容積量を累積させた累積細孔容積曲線において、累積細孔容積がV/2となる細孔直径をいう。
【0033】
[ゼオライト]
本発明でいうゼオライトとしては、特定の酸強度を有する必要があり、過分解や過剰な核水添を抑制するためには、β型のゼオライトを好適に用いることができる。β型ゼオライトにはNa型、H型、NH4型が広く入手可能であり、合成によっても通常Na型が得られ、その後イオン交換により、H型やNH4型へ容易に変換できる。具体的には、特にブレンステッド酸の強度が重要であり、特定の酸強度のブレンステッド酸が必要である。
【0034】
ブレンステッド酸の酸強度とはアンモニアの吸着熱を指し、110kJ/Mol以上150kJ/Mol未満、より好ましくは115kJ/Mol以上140kJ/Mol未満、特に好ましくは120kJ/Mol以上135kJ/Mol未満である。具体的な測定方法としては、N.Katada,T.Tsubaki,M.Niwa,Appl.Cat.A:Gen.,340巻,(2008)76頁あるいは片田直伸, 丹羽幹, ゼオライト,21巻,(2004)45頁に記載の方法により、アンモニア吸着−昇温脱離法(NH3−TPD法)とフーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)により求めることができる。すなわち、ブレンステッド酸の変角振動(1430cm-1)に起因する吸収量の各温度の差分から酸量を求める。アンモニアの吸着熱が一定であるとみなし、温度依存性から酸強度分布を求める。得られた分布のうちブレンステッド酸の強酸側ピークを読み取り、それを最高酸強度と定義した。
【0035】
ゼオライトとしての前記β型ゼオライトに、鉄、コバルト、ニッケル、モリブテン、タングステン、銅、亜鉛、クロム、チタン、バナジウム、ジルコニア、カドミウム、スズ、鉛等の遷移金属や、ランタン、セリウム、イッテルビウム、ユウロピウム、ジスプロシウム等の希土類から選ばれる1種以上の金属を担持した触媒が好適に使用できる。担持の方法は通常の方法で行うことができ、担体を前記金属の塩を含有する溶液に浸漬することにより、これらの金属イオンを導入し、遷移金属含有結晶性アルミノシリケートや希土類含有結晶性アルミノシリケートとしてもよい。後述する水素化分解反応に供する際には、前記遷移金属含有結晶性アルミノシリケート、あるいは希土類含有結晶性アルミノシリケートを単独で用いても、これらの2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
[バインダー]
バインダーとしては、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア−アルミナ、ジルコニア−アルミナ、ボリア−アルミナなど、多孔質でかつ非晶質のものを好適に用いることができる。なかでも、ゼオライトを結合する力が強く、また比表面積が高いことから、アルミナ、シリカ−アルミナ及びボリア−アルミナが好ましい。これらの無機酸化物は活性金属を担持する物質として働くと共に、上記ゼオライトを結合するバインダーとして働き、触媒の強度を向上させる役割がある。このバインダーの比表面積は30m2/g以上であることが望ましい。
【0037】
バインダーの配合割合は、触媒を構成するゼオライトとバインダーの合計重量に対して5重量%以上70重量%未満、特には10重量%以上60重量%未満とすることが好ましい。5重量%未満では触媒の機械的強度が低下しやすく、70重量%を超えると相対的に水素化分解活性や選択性が低下する。ゼオライト部分及びバインダー部分の合計重量に対するゼオライトの重量は1重量%以上80重量%未満、特には10重量%以上70重量%未満とすることが好ましい。1重量%未満では、ゼオライトを用いたことによる分解活性向上効果が発現しにくく、80重量%を超えると相対的に中間留分選択性が低下する。
【0038】
[金属成分]
本発明の水素化分解触媒は、周期律表の第6族及び第8族から選ばれる金属を活性成分として含有することが好ましい。第6族及び第8族の金属のなかでも、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金が特に好適に用いられる。これらの金属は1種のみで用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これら金属の添加量は、水素化分解触媒中に占める第6族と第8族の金属元素の合計量が0.05重量%以上35重量%未満、特には0.1重量%以上30重量%未満となるように含有することが好ましい。金属としてモリブデンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5重量%以上20重量%未満、特には7重量%以上15重量%とすることが好ましい。金属としてタングステンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5重量%以上30重量%未満、特には7重量%以上25重量%未満とすることが好ましい。モリブデンやタングステンの添加量は、上記の範囲より少ないと、水素化分解反応に必要な活性金属の水素化機能が不足し好ましくない。逆に、上記の範囲より多いと、添加した活性金属成分の凝集が起こりやすく好ましくない。
【0039】
金属としてモリブデン又はタングステンを用いる場合には、さらに、コバルト又はニッケルを添加すると、活性金属の水素化機能が向上し一層好ましい。その場合のコバルト又はニッケルの合計含有量は、水素化分解触媒中0.5重量%以上10重量%未満、特には1重量%以上7重量%未満とすることが好ましい。金属としてロジウム、イリジウム、白金、パラジウムのうちの1種又は2種以上を用いる場合、その含有量は0.1重量%以上5重量%未満、特には0.2重量%以上3重量%未満とすることが好ましい。0.1重量%未満では、十分な水素化機能が得られず、5重量%を超えると添加効率が悪く経済的でないため好ましくない。
【0040】
[水素化分解触媒の製造方法]
本発明の水素化分解触媒は、ゼオライトとバインダーを混練して成形した後、乾燥、焼成して担体を作成し、さらに金属成分を含浸担持した後、乾燥、焼成することによって調製することができる。
【0041】
担体に金属成分を担持する方法に特に制限はない。担持したい金属の酸化物やその塩、例えば硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物などの水溶液を用意して、スプレー法、浸漬などによる含浸法や、イオン交換法等により担持する。担持処理と乾燥処理を繰り返すことにより、より多くの金属成分を担持することができる。
【0042】
例えば、担体に第6族の金属成分を含有した水溶液を含浸させた後、常温〜150℃、好ましくは100〜130℃で0.5時間以上乾燥させるか、或いは乾燥させることなくそのまま第8族の金属成分を含有した水溶液を含浸させ、常温〜150℃、好ましくは100〜130℃で0.5時間以上乾燥させた後、350〜800℃、好ましくは450〜600℃で0.5時間以上焼成することにより触媒を調製することができる。
【0043】
本発明の触媒に担持された第6族及び第8族の金属は、金属、酸化物、硫化物などの何れの形態であってもよい。
【0044】
[水素化分解生成油の性状]
水素化分解工程において、生成した水素化分解生成油は、原料炭化水素油と比較して1環芳香族炭化水素の割合が増加したものほど好ましい。具体的には原料炭化水素油に対する増加分として、1環芳香族炭化水素としては13容量%以上が好ましく、より好ましくは14容量%以上、特に好ましくは15重量%であり、BTX収率としては8容量%以上が好ましく、より好ましくは9容量%以上、特に好ましくは10容量%以上である。同様に、炭素数が9である芳香族炭化水素の増加分が4容量%以上、好ましくは5容量%以上、特に好ましくは6容量%以上であり、水素化分解生成油に残存する2環以上の多環芳香族炭化水素の合計量が7.0容量%以下、好ましくは6.0容量%以下、特に好ましくは5.5容量%以下であり、3環以上の多環芳香族炭化水素の合計量が2.0容量%以下、好ましくは1.5容量%以下、特に好ましくは1.0容量%以下である。
【0045】
また、沸点215℃以上留分の転化率として50容量%以上、より好ましくは60容量%以上、特には70容量%以上が好ましく、水素化分解生成油の収率(反応液収率)については、70容量%以上が好ましく、より好ましくは75容量%以上、特に好ましくは80容量%以上である。転化率が低い場合、目的の1環芳香族炭化水素が得られにくいため、好ましくない。反応液収率が70容量%未満の場合、すなわち分解反応が起こりすぎると、経済的に好ましくないばかりか、分解反応によって生じる触媒上の炭素析出に伴う活性劣化の問題が引き起こされることから好ましくない。なお、反応液収率は、原料炭化水素油を100とした場合の容量%で表し、分解反応では大量のガスを副生するため100容量%より小さくなることが多いが、ガス生成が抑えられ核水添やガス生成を伴わない選択的な分解が優先的に起こる場合は、100容量%を超えることもある。
【0046】
本発明において、多環芳香族炭化水素から1環芳香族炭化水素であるナフサ留分へ、より多く変換することが重要である。本発明においては、ナフサ留分を沸点30℃以上190℃未満の留分であるとするが、得られる収率としては60容量%以上が好ましく、より好ましくは67容量%以上、特に好ましくは70容量%以上である。特に、沸点85〜190℃留分はヘビーナフサ留分と呼ぶことができるが、BTXそのものも含み、かつ接触改質反応の原料炭化水素油として使用できることから特に有用である。そのためヘビーナフサとしては40容量%以上が好ましく、より好ましくは43容量%以上、特に好ましくは45容量%以上である。
【0047】
さらに、本発明においては、事前に適切な水素化処理を行うことによって主反応である水素化分解触媒を保護し、水素化分解触媒の活性低下を抑制することができる。一般的に水素化分解装置では、ボトム分解率一定運転あるいは中間留分収率一定運転を行っている。したがって、本発明において、ボトム分解率に相当する沸点215℃以上留分の転化率や、中間留分収率に相当するヘビーナフサ収率が、長期に渡って安定的に維持され低下しないことは、実操業上、極めて重要である。すなわち、触媒量に対する原料通油量が120倍の経過時の沸点215℃以上留分の転化率(Conv.(120))と、原料通油量が12倍経過時の沸点215℃以上留分の転化率(Conv.(12))の比率(Conv.(120)/Conv.(12))を、215℃以上留分の転化率の残存度とすると、それが0.92以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.93以上、特に好ましくは0.95以上である。
【0048】
同様に、触媒量に対する原料通油量が120倍の経過時のヘビーナフサ収率(YHN(120))と、12倍相当経過時のヘビーナフサ収率(YHN(12))の比率(YHN(120)/YHN(12))を、ヘビーナフサ収率の残存度とすると、それが0.90以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.93以上、特に好ましくは0.95以上である。
上記215℃以上留分の転化率の残存度が0.92未満、及びヘビーナフサ収率の残存度が0.90未満である場合、触媒の活性低下が激しく、長期に渡って安定的に操業することは不可能となってしまい、好ましくない。
【0049】
[後処理工程]
本発明において、前処理工程と同様、必要に応じて得られた水素化分解生成油を精製する後処理工程を設置することも可能である。後処理工程は特に限定されるものではないが、前処理工程と同様の触媒種、触媒量及び操作条件を設定することができる。後処理工程は、水素化分解工程直後に設置して水素化分解生成油を処理しても良いし、そのあとの分離工程の後に設置して分離された各炭化水素留分を個々に処理しても良い。この後処理工程の設置により製品中の不純物を大幅に低減することができ、例えば硫黄分や窒素分を0.1重量ppm以下にすることも可能である。
【0050】
[水素化分解生成油の分離方法]
得られた水素化分解生成油は、適宜の分離工程を経て、LPG留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分、非芳香族ナフサ留分及び1環芳香族炭化水素などの製品に分離することができる。これらの製品は、石油製品等の規格を満足すれば、そのままLPG、ガソリン、灯油、軽油や石油化学原料として用いることもできるが、通常は、主にそれらを調合、精製して製造するための基材として用いる。分離プロセスは特に限定するものではなく、精密蒸留、吸着分離、収着分離、抽出分離、膜分離等など公知の任意の方法を製品性状に応じて採用できる。また、それらの運転条件も適宜設定すればよい。
【0051】
蒸留方法は沸点の差を利用して、例えばLPG留分、ガソリン留分、灯油留分、及び軽油留分に分離するものである。具体的には、沸点0〜30℃付近より軽質な部分をLPG留分、それより沸点が高く150〜215℃付近までの部分をガソリン留分、さらに沸点が高く215〜260℃付近までの部分を灯油留分、そしてそれより高沸点で260〜370℃付近までの部分を軽油留分とすることができ、それより重質な留分は未反応物として灯軽油留分と合わせて、再度水素化分解反応工程で処理しても良いし、A重油などの基材に使用しても良い。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の炭化水素留分の製造方法を、実施例及び比較例を用いて詳細且つ具体的に説明する。
【0053】
[水素化分解触媒の調製]
SiO2/Al23比が39.6、比表面積が746m2/gであるH−β型ゼオライト(東ソー製HSZ−940HOA)1,400gをアルミナ粉末(UOP社製アルミナVersal 250)834gと混合し、4.0重量%の希硝酸溶液500mL、イオン交換水100gを添加して混練し、円柱状(ペレット)に押し出し成形し、130℃で6時間乾燥した後、600℃で2時間焼成して担体とした。ここでは、担体中に含まれるゼオライト及びアルミナの乾燥重量(130℃乾燥時)が、それぞれ70重量%、30重量%になるように設定した。
なお、当ゼオライトをアンモニアTPDで測定したところ、アンモニア吸着熱として、最高酸強度は125kJ/molであった。
【0054】
この担体に、モリブデン酸アンモニウム水溶液をスプレー含浸して130℃で6時間乾燥した後、硝酸ニッケル水溶液をスプレー含浸して130℃で6時間乾燥した。次いで、空気の気流下で、500℃で30分間焼成して触媒Aを得た。触媒Aの金属組成は、Moが7.8重量%、Niが3.0重量%、Siが26.6重量%、Alが13.4重量%であった。
この触媒Aの細孔特性を窒素ガス吸着法で測定したところ、比表面積が359m2/g、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積が0.312mL/g、中央細孔直径は4.1nmであった。
【0055】
上記触媒物性測定において使用した測定装置及び方法を以下に示す。
【0056】
[細孔特性の測定方法]
窒素ガス吸着法による細孔特性(比表面積、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積、中央細孔直径)の測定にはMicromeritics社製ASAP2400型測定器を用いた。
【0057】
(実施例1)
原料炭化水素油として原料油Aを用い、反応塔A塔に市販のNiMo/アルミナ系脱硫触媒を、反応塔B塔に上記触媒Aを、触媒容量として1:2となるように配置し、表2に示す通り反応圧力=7.0MPa、LHSV=0.5h-1、水素/原料炭化水素油比=1,400NL/L、A塔反応温度=320℃、B塔反応温度=355℃の条件で、水素化分解反応を行った。反応に使用した原料油Aの性状を表1に、得られた生成油の性状を表2a及び表2bに示す。なお、反応塔A塔に使用した市販のNiMo/アルミナ系脱硫触媒の金属組成は、Moが12.3重量%、Niが3.5重量%、Pが2.0重量%、Alが38.2重量%であった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2a】

【0060】
【表2b】

【0061】
ここで、ガス収率とは常圧室温における気化成分を、ライトナフサ収率とは常圧〜85℃の沸点範囲の成分を、ヘビーナフサ収率とは85〜190℃の沸点範囲の成分を、灯軽油収率とは190℃以上の沸点範囲の成分をいう。
【0062】
反応液収率は、原料炭化水素油に対する反応後における炭素数5以上の留分の残存率(容量%)であり、沸点215℃以上留分の転化率は、次式で得られた値である。
沸点215℃以上留分の転化率(%)=100−(生成油中の沸点215℃以上留分(容量%)/原料炭化水素油中の沸点215℃以上留分(容量%))×100
【0063】
215℃以上留分の転化率の残存度は、触媒量に対する原料通油量12倍相当経過時の沸点215℃以上留分の転化率(Conv.(12))に対する、触媒量に対する原料通油量120倍相当経過時の沸点215℃以上留分の転化率(Conv.(120))の比率を指しており、Conv.(120)/Conv.(12)で表される。
また、ヘビーナフサ収率の残存度原料通油12倍相当時のヘビーナフサ収率(YHN(12))に対する原料通油時120倍相当時のヘビーナフサ収率(YHN(120))の比率を指しており、YHN(120)/YHN(12)で表される。
【0064】
(比較例1)
原料炭化水素油として原料油Bを用い、表3に示す通りA塔反応温度=320℃、B塔反応温度=370〜375℃、LHSV=0.644h-1として、ヘビーナフサ収率が実施例1と同等レベルになるように条件を設定した以外は、実施例1と同じ条件で水素化分解反応を行った。反応に使用した原料油Bの性状を表1に、得られた生成油の性状を表3a及び表3bに示す。
【0065】
【表3a】

【0066】
【表3b】

【0067】
(実施例2)
原料炭化水素油として原料油Cを用い、表2に示す通りA塔反応温度=350℃、B塔反応温度=365℃とした以外は、実施例1と同じ条件で水素化分解反応を行った。反応に使用した原料油Cの性状を表1に、得られた生成油の性状を表2a及び表2bに示す。
【0068】
(比較例2)
表3に示す通りA塔反応温度=340℃とした以外は、実施例2と同じ条件で水素化分解反応を行った。得られた生成油の性状を表3a及び表3bに示す。
【0069】
表2a及びb、並びに表3a及びbから明らかなように、実施例1、2においては、水素化分解反応に先立ち所定の前処理をすることにより、1.5環芳香族炭化水素から所望の1環芳香族炭化水素への変換が効率的に進行し、かつ、触媒に対する原料通油量が12倍相当経過時と比較して、原料通油量がこの10倍に相当する原料通油量120倍相当経過時においてもほとんど活性低下が見られていないことが分かる。一方、適切な前処理を行っていない場合(比較例1〜2)では、被毒物質が水素化分解工程に大量に持ち込まれて触媒活性の低下を招く。この状況下で1環芳香族炭化水素の収率を高めようとすると反応温度を高くする必要が生じる。その結果、高温反応に伴う触媒のコーク劣化がさらに進み、触媒寿命の低下や投入エネルギーの増大による経済性悪化の面からも好ましくない。
一般的に水素化分解装置では、ボトム分解率一定運転あるいは中間留分収率一定運転を行っている。したがって、ボトム分解率に相当する沸点215℃以上留分の転化率や、中間留分収率に相当するヘビーナフサ収率が、実施例1、2のように、長期に渡って安定的に維持され低下しないことは、実操業上、極めて有益である。
【0070】
上記の実施例及び比較例において使用した原料炭化水素油及び生成油性状の分析方法は次の通りである。
1環芳香族炭化水素の組成(ベンゼン、トルエン、キシレン類)及び1.5環芳香族炭化水素(テトラリン類など)の組成は、島津製作所製の炭化水素全成分分析装置を用いて測定し、JIS K2536に準じて測定した。
【0071】
芳香族環構成炭素比率は、溶媒に重クロロホルム、内部標準にテトラメチルシラン(0ppm)を用い、日本電子製GSX270型核磁気共鳴装置を用いて測定した。
炭素種分類ごとの芳香族環構成炭素と脂肪族構成炭素の定量は、SGNNEモードで、データポイント32768点、観測周波数領域幅27027Hz、パルス幅2μs、パルス待ち時間30S、積算回数2,000回で測定し、フーリエ変換したスペクトルのシグナルの積分比から算出した。得られたスペクトルのシフト値において、120〜150ppmの領域のものを芳香族炭素に帰属するものとし、全炭素に対するモル%として表した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、多環芳香族炭化水素を原料炭化水素油として、被毒物質を適切な所定量以下に低減させて水素化分解触媒の被毒を抑制し、過剰に水素化核水添をすることなく適切な水素化分解反応を行わせることにより、付加価値の高い1環芳香族炭化水素、特にBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)を効率的に製造する方法が提供される。本発明により得られた水素化分解生成油からは、適宜の分離工程を経て、LPG留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分、非芳香族ナフサ留分及び1環芳香族炭化水素(BTXを含む)などの製品を得ることができる。したがって、本発明は、石油精製や、上記石油留分をそのままあるいは適宜組み合わせて各種石油製品、石油化学原料の製造に有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)芳香環構成炭素比率が40mol%以上である原料炭化水素油を、水素の存在下、水素化精製触媒と接触して窒素分を8.0重量ppm以下に低減すると同時に、多環芳香族炭化水素の一部又は全部を1.5環及び1環芳香族炭化水素に変換する第1工程、及び
(2)第1工程で得られた第1工程生成油を、水素の存在下、水素化分解触媒と接触して多環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の一部又は全部を1環芳香族炭化水素に変換する第2工程
を含む、1環芳香族炭化水素の含有量が25容量%以上である水素化分解生成油を得、かつ、触媒量に対する、原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時と12倍相当経過時における、ヘビーナフサ収率の比(YHN(120)/YHN(12))が0.90以上(容量比)であることを特徴とする選択的1環芳香族炭化水素の製造方法(ただし、YHN(120)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時のヘビーナフサ収率を、YHN(12)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が12倍相当経過時のヘビーナフサ収率を指し、またヘビーナフサとは沸点85〜190℃留分を指す)。
【請求項2】
原料炭化水素油は沸点215℃以上の留分を30容量%以上含有し、水素化分解生成油収率が70容量%以上である請求項1に記載の選択的1環芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項3】
原料炭化水素油は沸点30〜190℃留分の炭化水素を60容量%以上含有する請求項1又は2に記載の選択的1環芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項4】
触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時と12倍相当経過時における、沸点215℃以上の留分の転化率の比(Conv.(120)/Conv.(12))が、0.92以上である請求項1〜3のいずれかに記載の選択的1環芳香族炭化水素の製造方法(ただし、Conv.(120)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が120倍相当経過時の沸点215℃以上留分の転化率を、Conv.(12)は触媒量に対する原料炭化水素油の通油量が12倍相当経過時の沸点215℃以上留分の転化率を指す)。

【公開番号】特開2011−116872(P2011−116872A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276072(P2009−276072)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】