1種または複数種の流体試料の列を搬送流体内に作成および/または配列するための装置および方法
本発明は、1種または複数種の流体試料(A)の列を搬送流体(B)内に作成および/または配列するための装置に関する。この装置は、入口(02)と、出口(03)と、入口(02)と出口(03)との間においてマイクロチャネル(01)に開口するノズル開口(03)とを備えたマイクロチャネル(01)を含む。更に、搬送流体(B)を導入体積流量(V1)にて注入して導出体積流量(V2)にて吸い出す供給ユニットが設けられている。試料容器(10)内においてノズル開口(04)が流体試料(A)に接触している。制御ユニットにより、導入体積流量(V1)と導出体積流量(V2)との間の比が変化させられる。ノズル開口(04)の横断面積は、導入体積流量が導出体積流量に等しい場合(V1=V2)、搬送媒体(B)がノズル開口(04)から試料容器(10)へ流出しないように、また導出体積流量が導入体積流量よりも大きい場合(V2>V1)、流体試料(A)がノズル開口(04)内に流入するように選ばれている。本発明は、更に1種または複数種の流体試料(A)の列を搬送流体(B)内に作成および/または配列するための方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種または複数種の流体試料の列(sequence)をその流体試料と混和しない搬送流体内に作成および/または配列するための装置および方法に関する。このような装置および方法によって、例えばマイクロタイタープレート又はこれに類する容器内に保存した流体試料を、自動的に後続プロセスに供給するために、規則正しい試料列に移行させることができる。上述の装置および方法は同時に、これらの試料列を、搬送媒体内でのそれらの個数、体積量又は配列に関して操作するのに適している。
【背景技術】
【0002】
このセグメント化された流れの方法(segmented flow method;セグメントフロー法)による試料の処理は、先年来、非常に多くの応用をもたらした。その際にセグメントおよびセグメント列の作成および操作のために、種々の技術的な解決策および方法が開示された。逐次的方法による液体試料の処理は、種々の応用背景を有する高スループット実験を有利に実現することを可能にする。
【0003】
セグメント化された試料の流れは、流体案内ユニットの内部において、試料相と混和しない搬送液体(分離相)の中に、滴又はセグメント又はプラグとして埋め込まれた液体試料相からなる(非特許文献1参照)。流体案内ユニットの幾何学的寸法および試料体積がセグメントの幾何学的形状を決定する。流体表面力によって形成されるセグメントの周囲が少なくともチャネル断面を塞ぐならば、セグメント化された試料の流れは、個々のセグメント同士の合体なしに安定に案内されて操作される。取り囲むチャネルの直径を有する球形の液滴が最小である場合、これを理想最小セグメント(IMS)と呼ぶ(非特許文献2参照)。
【0004】
セグメント列は、隣り合うセグメント同士の組成がそれぞれ徐々にしか互いに違わない多数のセグメントから構成することができる。それに相当する列は、流体案内ユニット内において複数の試料溶液と分離相とを同時に配量することによって作成することができる。イスマギロフ氏ら共著による文献(非特許文献3および4参照)は、例えば異なる条件を有する3つの流体の流れを組み合わせて、分離相の導入によって漸進的に段階付けしたセグメントを作成することを可能にするノズル形状を開示している。
【0005】
特許文献1は、流体セグメントの作成および操作のための種々の方法を開示している。全ての実施形態において、流体案内ユニットに供給される全ての流体の流れが能動的にポンプで送り込まれて、精密に制御されなければならない。この文献には前もって形成された列(前もって形成されたカートリッジ)が開示されている。しかし、それらを作成するための手段は詳述されていない。
【0006】
特許文献2は、分離媒体中に埋め込まれた液体区画へ反応液体を配量するための装置および方法を開示している。この場合にも、全ての流体の流れが流体案内ユニットに能動的に供給されなければならない、即ち、ポンプで送り込まれなければならない。開示された全ての事例において、原液が能動ポンプによって、例えば充填された注入器のような貯蔵容器からシステムに供給さければならない。従って、是認できる費用によっては、ほんの僅かな原液しかセグメントとして送り込むことができない。ここでは、幾つかの定められた試料/添加物の組成に非常に敏感に依存する標的パラメータを有する実験が応用背景にある。この場合に、作成される列のアドレス可能な多様性は、漸進的に微調整される段階の定められた範囲をカバーしているにすぎない。
【0007】
実験室の実務において通常に用いられる例えばマイクロタイタープレートのような受け器容器から試料をセグメント列に移行させることは、公知の装置および方法によっては不可能であるか、もしくは少なくとも実用的でない。搬送流体内への試料セグメントの配量が、従来技術には確かに基本的に開示されていないが、そのためには常に、試料を能動的に運ぶ供給ユニットが必要である。このアプローチは、少量の試料量又は多数の種類の異なった試料の場合には除外される。何故ならば損失が非常に大きくて装置費用が抑制できなくなるからである。従って、これらの公知の方法によっては、一連の完全に異なった組成のセグメントからなるセグメント列を効率よく作成することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許出願公開第2004/038363号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10322893号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“Digital reaction technology by micro segmented flow-components, concepts and applications”; J.M.Koehler, Th.Henkel, A.Grodrian, Th.Kirner, M.Roth, K.Martin, J.Metze ; Chem.Eng.J.101 (2004), 201-216
【非特許文献2】“Chip modules for generation and manipulation of fluid segments for micro serial flow processes”; Th.Henkel, T.Bermig, M.Kielpinski, A.Grodrian, J.Metze, J.M.Koehler ; Chem.Eng.J.101 (2004), 439-445
【非特許文献3】“Reactions in Droplets in Microfluidic Channels”; H.Song, D.L.Chen, R.F.Ismagilov; Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7336-7356
【非特許文献4】“A Microfluidic Approach for Screening Submicroliter Volumes against Multiple Reagents by Using Preformed Arrays of Nanoliter Plugs in a Three-Phase Liquid/Liquid/Gas Flow”; B.Zheng, R.F.Ismagilov; Angew.Chem. 2005,117, 2576-2579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、流体試料をとりわけ規則正しい試料列に移行させるための装置および方法を提供することにある。容器、特にマイクロタイタープレートやこれに類する容器に貯蔵された流体試料を計量可能なセグメントの形で搬送流体の中に入れることができなければならない。しかも、このことは、そのために流体試料をポンプ装置の中に吸い込まなければならないということなしにできなければならない。より多くの原流体試料から任意に調合された規則正しい再現可能な試料列を提供することができるようにするために、この規則正しい試料列の操作を可能にすることを部分課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、本発明によれば、請求項1による装置および請求項8による方法によって解決される。本発明の有利な実施態様は従属請求項に記載されている。
【0012】
本発明による装置は、重力に依存せずに流体試料を規則正しい試料列へ移行させるのに適している。そのために搬送流体が通流するマイクロチャネルが存在し、このマイクロチャネルが例えば容器内に存在する流体試料に接触させられる。マイクロチャネルの入口およびマイクロチャネルの出口は流体試料の外側に存在するか、又は当該流体試料に対して密閉されているので、流体試料がその入口もしくは出口を介してチャネル内に入り込むことはできない。マイクロチャネルは流体試料との接触領域に1つのノズル開口を持ち、このノズル開口の断面積はマイクロチャネルの流体力学的断面積を上回らない。
【0013】
本発明の好ましい応用分野は、例えばコンビナトリアルケミストリーのような多様性指向の高スループット実験である。このためには、多数の種類の異なった原液から任意に調合された試料セグメントからなるセグメント列の作成および操作が必要である。直列操作のためには、セグメントが、それらの組成に関係せずに、大きさに関しても相互間隔に関しても高い規則性で作成可能であることが重要である。本発明は、1種または複数種の流体試料から成るそのような列の作成および/または配列を、互いに異なる組成の複数種の試料を規則正しい直列のセグメントへ移行させることによって可能にする。そのために、その列が流体試料と混和しない搬送流体の中に形成され、そこに適切に配列される。
【0014】
既に述べたように、本発明による装置は、そのために入口と、出口と、入口と出口との間でマイクロチャネル内に開口するノズル開口とを備えたマイクロチャネルを持つ。更に、搬送流体を導入体積流量V1にて入口を介してマイクロチャネル内に注入し、同時に導出体積流量V2にて出口を介してマイクロチャネルから吸い出す供給ユニットが設けられている。最後に、流体試料を含む少なくとも1つの容器が存在し、この容器内でノズル開口が流体試料に接触している。この容器の形状および位置は重要でない。重要なことは、ノズル開口を含む該マイクロチャネルの部分が、セグメント化されるべき流体試料の中に配置可能であることだけである。これは、例えば流体試料の中にマイクロチャネルを浸漬することによって、又は流体試料を案内する管をノズル開口に接続することによって可能である。容器内の流体試料は圧力をかけられる必要がない(ポンプが必要でない)ので、開放された容器で動作可能である。
【0015】
更に、本発明による装置は、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の比を変化させるために供給ユニットを制御する制御ユニットを含む。ノズル開口を適切に設計すると、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の差を設定するだけで、流体試料をマイクロチャネル内の搬送流体の中に吸い込みそこでセグメント化することができ(V2>V1の場合)、あるいは必要ならば流体試料の個々のセグメントの間の余分な搬送媒体をマイクロチャネルからノズルを介して外側に向けて押し出して個々のセグメントの間の間隔を短縮することができる(V1>V2の場合)。ノズル開口の横断面積は、次の境界条件を満たすことによって大きさが定められる。a)導入体積流量が導出体積流量に等しい場合(V1=V2)、搬送媒体がノズル開口から試料容器の中に流出せず、流体試料がマイクロチャネルの中に流入しない。b)導出体積流量が導入体積流量よりも大きい場合(V2>V1)、流体試料がノズル内に流入して試料セグメントとして搬送媒体の流れの中に入れられる。従って、ノズル開口は、一方では、体積流量が等しい場合に搬送媒体がノズルから漏れ出るほど大きくしてはならない。それゆえ、最大ノズル開口は、搬送流体の特性(表面張力)と、通流されるマイクロチャネルの横断面積とを考慮して決定することができる。他方では、ノズル開口は、導出体積流量と導入体積流量との間の選択された差(V2>V1)において、マイクロチャネル内への流体の吸い込みを可能にするのに十分な大きさにしなければならない。ノズル開口に生じる毛管圧は、マイクロチャネル内に蒸発が生じないようにするために搬送流体の蒸気圧を上回ってはならない。
【0016】
実用的な実現において、マイクロチャネルは好ましくは5μm2〜3mm2の横断面積を有し、これに対してノズル開口の横断面積は約5μm2〜2mm2であるとよい。搬送流体としては、例えば、パーフルオロオクタン(C8F18)又はパーフルオロメチルデカリン(C11F20)のようなパーフルオロ化されたアルカンが適している。
【0017】
本発明による方法によれば、マイクロチャネルの導入側で流体試料体積流量V1が設定され、マイクロチャネルの導出側で流体試料体積流量V2が設定される。流体試料体積流量V2の大きさが流体試料体積流量V1の大きさよりも大きい場合、個々の試料列の長さおよび個々の試料列間の間隔を比V2/V1により設定することができる。基本的にはV1≠V2ならば常にノズル体積流量V3が生じる。一部変更された方法では流体試料又は搬送流体の一部をマイクロチャネルからノズルを介して抜き取ることもできる。同様に、マイクロチャネル内に事前に作成された規則正しい試料列に、第1の流体試料と混和し得る第2の流体試料を混合することも可能である。
【0018】
本発明による方法を実行するために、第1のステップでは、搬送流体がマイクロチャネル内に入口を介して導入体積流量V1にて供給され、同時にマイクロチャネルから出口を介して導出体積流量V2にて吸い出される。第2のステップでは、マイクロチャネルにおいて入口と出口との間にあるノズル開口が搬送媒体と混和しない流体試料の中に搬入される。第3ステップでは、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の差をV2>V1に設定する。これにより、或る量の流体試料がノズル開口を通してマイクロチャネル内に吸い込まれ、継続動作において流体試料の複数のセグメントが、マイクロチャネル内を案内された搬送媒体の中に形成される。マイクロチャネル内での個々のセグメントの大きさ(体積)およびそれらのセグメントの間隔は、導入体積流量と導出体積流量との比を変化させることによって設定することができる。比V2:V1は1.05:1〜20:1の範囲内にあるとよい。
【0019】
以下において図面に基づいて本発明を更に詳細に説明する。その際に装置の構造上の特徴も方法の細部も更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は1種の流体試料の列を搬送流体内に作成するための本発明による装置の概略図を示す。
【図2】図2は1つの試料列を作成する際の4つのステップの概略図を示す。
【図3】図3はマイクロチャネル内にノズル開口を配置するための実施例を示す。
【図4】図4は複数種の異なる流体試料からなるセグメント列を作成するための進行の概略図を示す。
【図5】図5は本発明による装置の一部変更された実施例を示す。
【図6】図6はセグメント列の4つの異なる操作の概略図を示す。
【図7】図7はマイクロチャネル内で作成された列を測定するための構成の概略図を示す。
【図8】図8はV2=−50μL/minおよびV1=+25μL/minの場合に内径0.8mmの管内に作成されたセグメント頻度数の測定信号のダイアグラムを示す。
【図9】図9は比V2/V1が異なる場合の、ダイアグラム形式で表されたセグメント長およびセグメント間隔を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、流体案内ユニットの内部のマイクロチャネル(マイクロ流路)内に複数のセグメントを作成し、それらのセグメントを配列するための本発明による装置の基本構成を示す。並列配置された流体試料から直列配置された試料セグメントへの移行が行なわれる。この装置は少なくとも1つのマイクロチャネル01を持ち、そのマイクロチャネル01は入側に1つの入口02を有し、出側に1つの出口03を有する。更に、入口02と出口03との間に位置しマイクロチャネルに通じる通路を形成する少なくとも1つのノズル開口04が設けられている。動作状態ではノズル開口04が多量の液体A(流体試料)に連通しており、適切な流れ状態を選択すると、ノズル開口04を通してマイクロチャネル01の中に液体Aを吸い込むことができる。
【0022】
この装置は、例えば噴射ポンプによって構成される供給ユニット(図示せず)を持ち、この供給ユニットは、入口02を介して、液体Aと混和しない他の液体B(搬送流体)を導入体積流量V1にて供給する。同時にこの供給ユニットは、マイクロチャネル01の出口03において導出体積流量V2を引き出す。導出体積流量が導入体積流量よりも大きく(V1<V2)選ばれると、その結果生じる差がノズル体積流量V3により相殺され、従って流体試料Aがマイクロチャネル01内に流入する。その結果、ノズル形状およびマイクロチャネルのチャネル直径dによって定められる規則正しい流体試料セグメントCが生成され、これは流体試料の組成に関係しない。
【0023】
試料セグメントの作成の時間的経過および1つの列への複数のセグメントの配列が図2に明らかにされている。
【0024】
流体案内ユニットのマイクロチャネル内のノズル開口04の形状は、その断面積が、流体案内マイクロチャネル01の流体力学的断面積を上回ってはならない。
【0025】
図3に模範的に示されているように、流体案内ユニットにおけるマイクロチャネル01内のノズル開口04の相対的位置は変えることができる。特に流体試料Aのレベル位置に対する相対的なノズル開口04の位置は、ノズル開口04が常に流体試料Aによって覆われているかもしくは取り囲まれていることが保証されているかぎり、重要ではない。搬送流体の中への流体試料のセグメントの移行は重力に関係せずに行なわれる。
【0026】
流体案内ユニットのマイクロチャネル01において、搬送流体Bの流れ方向に見て、ノズル開口04の前では導入体積流量(流量)V1が設定され、ノズル開口04の後では導出体積流量(流量)V2が設定される。試料溶液(流体試料)Aを直列の列に移行させるためには、ノズル開口04の後の流量V2はノズル開口04の前の流量V1よりも多くなければならない。その結果、流体案内ユニットのマイクロチャネル01内へのノズル開口04にノズル体積流量(流量)V3が生じる。幾何学的な条件ならびに発生する表面力が、規則正しい流体試料セグメントCの形成を生じる。セグメント長も、セグメント同士の間隔も、流量比V2/V1の変化によって調整することができる。導出体積流量V2の変化によって、生成するセグメントの大きさを制御することができる。セグメントの頻度数は流量V2によって決定される。V2が多ければ多いほど、セグメント形成の頻度数が高くなる。導出体積流量V2が導入体積流量V1よりもほんの僅かだけ大きい(例えば5〜15%)場合、小さい球形のセグメントCが発生する(図1)。流体試料Aがノズル開口04を通して吸い込まれる際、ノズル開口とは反対側のマイクロチャネル01の壁に流体試料が到達するとセグメントが裂き取られる。導出体積流量V2が導入体積流量V1よりも明らかに大きい(例えば20〜80%)場合、長く延びたセグメントCが搬送流体内に形成される。
【0027】
図4は異なる流体試料A1〜A6からなる1つの列の作成を概略的に示す。例えば、複数の容器10内にある異なる流体試料A1〜A6の中にマイクロチャネル01をプログラム制御により浸漬し、かつ流量V1,V2で一工程分進ませることによって、連続した複数のセグメント又はセグメントパケットの組成が大幅に異なり得る定められたセグメント列を作成することができる。従って、本発明による装置は、特に、マトリックス状に配置された試料受け器から種々の流体試料をプログラム制御により採取するのに適している。この場合、例えばマイクロタイタープレートからマトリックス状に配置された流体試料が効率的に1つの直列の試料列へ移行させられる。これは応用技術的に例えば小形化されたコンビナトリアルケミストリーの分野でも高スループットのスクリーニングの分野でも有意義である。
【0028】
ここに開示した装置および説明したそれの作動方法により、例えばマイクロタイタープレートのような通常の受け器からの流体試料を、並列−直列の移転によって、ディジタルマイクロ流体プロセスに利用可能にすることができる。この並列−直列移転方法の使用は、μL範囲、nL範囲およびpL範囲のセグメント体積を有する試料溶液の精密な試料列を提供する。
【0029】
図5に本発明による装置の他の実施例が概略的に示されている。この実施例ではセグメントを作成するノズル04が直接に試料容器10に接続されている(ここでは容器底部により示されている)。この場合、ノズル04は直接に試料容器10の壁に組み込まれ、試料溶液Aがこの接続部を通してマイクロチャネルシステム01の中に移送される。この実施例によれば、流体アクチュエータ系の適切な制御と流体試料溶液Aiの入れ替えとによって、異なる試料溶液からなるセグメント列を作成することができる。
【0030】
更に、図6に示されている実施形態によって明らかにするように、本発明による装置は既に存在するもしくは既に作成されたセグメント列を操作するのに適している。既に作成された列がマイクロチャネル01内のノズル開口04の傍らを通過することによって、上述の方法条件(V1<V2)を維持すれば、例えば異なる複数種の試料溶液からなる混合セグメントを実現することができる(図6a)。この場合、混合比は異なる体積流量V1,V2を設定することによって設定することができる。しかし、逆の流量条件(V2<V1)を設定することによって列内のセグメントの体積を減らすこともできる(図6b)。この条件下でセグメントがノズル開口04の傍らを通流すると、流体試料の一部がそのノズルから外に向けて押し出されるので、その結果マイクロチャネル01内に生じる体積流量が減少する。この場合に分離相(搬送流体)はノズル開口04を通して流れ出ない。何故ならば非混和性の相の間の表面張力がこれを阻止するからである。
【0031】
(マイクロチャネル01の外側に存在しノズル開口04に外側から接している)外部の液体として流体試料Aの代わりに搬送流体Bを使用する場合、試料セグメントを変化させることなくマイクロチャネル01内のセグメントの間隔を操作することができる。このようにして、1つの列において個々のセグメント間の間隔を、V1>V2に設定することによって縮小することができ(図6c)、あるいはV1<V2に設定することによって拡大することができる(図6d)。
【0032】
図7には、例えばセグメント長およびセグメント間隔のような列特性を測定するための実験装置が示されている。このために透明のマイクロチャネル01(管)に、照明側ではLED11を光源として使用し検出側ではフォトダイオード12を使用している測光式マイクロフロー検出器が直接に取り付けられている。両ダイオードは絞りにより直接に管01に取り付けられている。このようにして生じた測定点は、分離相(搬送流体)に比べて試料セグメントの屈折率が異なることに基づいても、吸収特性が異なることに基づいても、試料セグメントを検出することを可能にする。
【0033】
図8には前述のフロー検出器により次の条件下で得られた検出信号の典型的な例が示されている。列特性を測定するために、エタノールからなる試料液が色素(クリスタルバイオレット)により着色され、本発明による装置によりセグメントに移行された。分離相(搬送流体)としてパーフルオロ化されたアルカンが使用された(パーフルオロメチルデカリン)。流量比(V2/V1)が種々異なる場合における図8に示されたセグメント経過の評価が、ダイアグラムとして図9に示されており、作成されたセグメントの高い再現性と本発明による方法により作成されたセグメント列の質とを示している。
【符号の説明】
【0034】
01 マイクロチャネル
02 入口
03 出口
04 ノズル開口
10 流体試料容器
11 LED
12 フォトダイオード
A 流体試料
B 搬送流体
C 試料セグメント
V1 導入体積流量
V2 導出体積流量
V3 ノズル体積流量
d マイクロチャネルのチャネル直径
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種または複数種の流体試料の列(sequence)をその流体試料と混和しない搬送流体内に作成および/または配列するための装置および方法に関する。このような装置および方法によって、例えばマイクロタイタープレート又はこれに類する容器内に保存した流体試料を、自動的に後続プロセスに供給するために、規則正しい試料列に移行させることができる。上述の装置および方法は同時に、これらの試料列を、搬送媒体内でのそれらの個数、体積量又は配列に関して操作するのに適している。
【背景技術】
【0002】
このセグメント化された流れの方法(segmented flow method;セグメントフロー法)による試料の処理は、先年来、非常に多くの応用をもたらした。その際にセグメントおよびセグメント列の作成および操作のために、種々の技術的な解決策および方法が開示された。逐次的方法による液体試料の処理は、種々の応用背景を有する高スループット実験を有利に実現することを可能にする。
【0003】
セグメント化された試料の流れは、流体案内ユニットの内部において、試料相と混和しない搬送液体(分離相)の中に、滴又はセグメント又はプラグとして埋め込まれた液体試料相からなる(非特許文献1参照)。流体案内ユニットの幾何学的寸法および試料体積がセグメントの幾何学的形状を決定する。流体表面力によって形成されるセグメントの周囲が少なくともチャネル断面を塞ぐならば、セグメント化された試料の流れは、個々のセグメント同士の合体なしに安定に案内されて操作される。取り囲むチャネルの直径を有する球形の液滴が最小である場合、これを理想最小セグメント(IMS)と呼ぶ(非特許文献2参照)。
【0004】
セグメント列は、隣り合うセグメント同士の組成がそれぞれ徐々にしか互いに違わない多数のセグメントから構成することができる。それに相当する列は、流体案内ユニット内において複数の試料溶液と分離相とを同時に配量することによって作成することができる。イスマギロフ氏ら共著による文献(非特許文献3および4参照)は、例えば異なる条件を有する3つの流体の流れを組み合わせて、分離相の導入によって漸進的に段階付けしたセグメントを作成することを可能にするノズル形状を開示している。
【0005】
特許文献1は、流体セグメントの作成および操作のための種々の方法を開示している。全ての実施形態において、流体案内ユニットに供給される全ての流体の流れが能動的にポンプで送り込まれて、精密に制御されなければならない。この文献には前もって形成された列(前もって形成されたカートリッジ)が開示されている。しかし、それらを作成するための手段は詳述されていない。
【0006】
特許文献2は、分離媒体中に埋め込まれた液体区画へ反応液体を配量するための装置および方法を開示している。この場合にも、全ての流体の流れが流体案内ユニットに能動的に供給されなければならない、即ち、ポンプで送り込まれなければならない。開示された全ての事例において、原液が能動ポンプによって、例えば充填された注入器のような貯蔵容器からシステムに供給さければならない。従って、是認できる費用によっては、ほんの僅かな原液しかセグメントとして送り込むことができない。ここでは、幾つかの定められた試料/添加物の組成に非常に敏感に依存する標的パラメータを有する実験が応用背景にある。この場合に、作成される列のアドレス可能な多様性は、漸進的に微調整される段階の定められた範囲をカバーしているにすぎない。
【0007】
実験室の実務において通常に用いられる例えばマイクロタイタープレートのような受け器容器から試料をセグメント列に移行させることは、公知の装置および方法によっては不可能であるか、もしくは少なくとも実用的でない。搬送流体内への試料セグメントの配量が、従来技術には確かに基本的に開示されていないが、そのためには常に、試料を能動的に運ぶ供給ユニットが必要である。このアプローチは、少量の試料量又は多数の種類の異なった試料の場合には除外される。何故ならば損失が非常に大きくて装置費用が抑制できなくなるからである。従って、これらの公知の方法によっては、一連の完全に異なった組成のセグメントからなるセグメント列を効率よく作成することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許出願公開第2004/038363号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10322893号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“Digital reaction technology by micro segmented flow-components, concepts and applications”; J.M.Koehler, Th.Henkel, A.Grodrian, Th.Kirner, M.Roth, K.Martin, J.Metze ; Chem.Eng.J.101 (2004), 201-216
【非特許文献2】“Chip modules for generation and manipulation of fluid segments for micro serial flow processes”; Th.Henkel, T.Bermig, M.Kielpinski, A.Grodrian, J.Metze, J.M.Koehler ; Chem.Eng.J.101 (2004), 439-445
【非特許文献3】“Reactions in Droplets in Microfluidic Channels”; H.Song, D.L.Chen, R.F.Ismagilov; Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7336-7356
【非特許文献4】“A Microfluidic Approach for Screening Submicroliter Volumes against Multiple Reagents by Using Preformed Arrays of Nanoliter Plugs in a Three-Phase Liquid/Liquid/Gas Flow”; B.Zheng, R.F.Ismagilov; Angew.Chem. 2005,117, 2576-2579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、流体試料をとりわけ規則正しい試料列に移行させるための装置および方法を提供することにある。容器、特にマイクロタイタープレートやこれに類する容器に貯蔵された流体試料を計量可能なセグメントの形で搬送流体の中に入れることができなければならない。しかも、このことは、そのために流体試料をポンプ装置の中に吸い込まなければならないということなしにできなければならない。より多くの原流体試料から任意に調合された規則正しい再現可能な試料列を提供することができるようにするために、この規則正しい試料列の操作を可能にすることを部分課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、本発明によれば、請求項1による装置および請求項8による方法によって解決される。本発明の有利な実施態様は従属請求項に記載されている。
【0012】
本発明による装置は、重力に依存せずに流体試料を規則正しい試料列へ移行させるのに適している。そのために搬送流体が通流するマイクロチャネルが存在し、このマイクロチャネルが例えば容器内に存在する流体試料に接触させられる。マイクロチャネルの入口およびマイクロチャネルの出口は流体試料の外側に存在するか、又は当該流体試料に対して密閉されているので、流体試料がその入口もしくは出口を介してチャネル内に入り込むことはできない。マイクロチャネルは流体試料との接触領域に1つのノズル開口を持ち、このノズル開口の断面積はマイクロチャネルの流体力学的断面積を上回らない。
【0013】
本発明の好ましい応用分野は、例えばコンビナトリアルケミストリーのような多様性指向の高スループット実験である。このためには、多数の種類の異なった原液から任意に調合された試料セグメントからなるセグメント列の作成および操作が必要である。直列操作のためには、セグメントが、それらの組成に関係せずに、大きさに関しても相互間隔に関しても高い規則性で作成可能であることが重要である。本発明は、1種または複数種の流体試料から成るそのような列の作成および/または配列を、互いに異なる組成の複数種の試料を規則正しい直列のセグメントへ移行させることによって可能にする。そのために、その列が流体試料と混和しない搬送流体の中に形成され、そこに適切に配列される。
【0014】
既に述べたように、本発明による装置は、そのために入口と、出口と、入口と出口との間でマイクロチャネル内に開口するノズル開口とを備えたマイクロチャネルを持つ。更に、搬送流体を導入体積流量V1にて入口を介してマイクロチャネル内に注入し、同時に導出体積流量V2にて出口を介してマイクロチャネルから吸い出す供給ユニットが設けられている。最後に、流体試料を含む少なくとも1つの容器が存在し、この容器内でノズル開口が流体試料に接触している。この容器の形状および位置は重要でない。重要なことは、ノズル開口を含む該マイクロチャネルの部分が、セグメント化されるべき流体試料の中に配置可能であることだけである。これは、例えば流体試料の中にマイクロチャネルを浸漬することによって、又は流体試料を案内する管をノズル開口に接続することによって可能である。容器内の流体試料は圧力をかけられる必要がない(ポンプが必要でない)ので、開放された容器で動作可能である。
【0015】
更に、本発明による装置は、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の比を変化させるために供給ユニットを制御する制御ユニットを含む。ノズル開口を適切に設計すると、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の差を設定するだけで、流体試料をマイクロチャネル内の搬送流体の中に吸い込みそこでセグメント化することができ(V2>V1の場合)、あるいは必要ならば流体試料の個々のセグメントの間の余分な搬送媒体をマイクロチャネルからノズルを介して外側に向けて押し出して個々のセグメントの間の間隔を短縮することができる(V1>V2の場合)。ノズル開口の横断面積は、次の境界条件を満たすことによって大きさが定められる。a)導入体積流量が導出体積流量に等しい場合(V1=V2)、搬送媒体がノズル開口から試料容器の中に流出せず、流体試料がマイクロチャネルの中に流入しない。b)導出体積流量が導入体積流量よりも大きい場合(V2>V1)、流体試料がノズル内に流入して試料セグメントとして搬送媒体の流れの中に入れられる。従って、ノズル開口は、一方では、体積流量が等しい場合に搬送媒体がノズルから漏れ出るほど大きくしてはならない。それゆえ、最大ノズル開口は、搬送流体の特性(表面張力)と、通流されるマイクロチャネルの横断面積とを考慮して決定することができる。他方では、ノズル開口は、導出体積流量と導入体積流量との間の選択された差(V2>V1)において、マイクロチャネル内への流体の吸い込みを可能にするのに十分な大きさにしなければならない。ノズル開口に生じる毛管圧は、マイクロチャネル内に蒸発が生じないようにするために搬送流体の蒸気圧を上回ってはならない。
【0016】
実用的な実現において、マイクロチャネルは好ましくは5μm2〜3mm2の横断面積を有し、これに対してノズル開口の横断面積は約5μm2〜2mm2であるとよい。搬送流体としては、例えば、パーフルオロオクタン(C8F18)又はパーフルオロメチルデカリン(C11F20)のようなパーフルオロ化されたアルカンが適している。
【0017】
本発明による方法によれば、マイクロチャネルの導入側で流体試料体積流量V1が設定され、マイクロチャネルの導出側で流体試料体積流量V2が設定される。流体試料体積流量V2の大きさが流体試料体積流量V1の大きさよりも大きい場合、個々の試料列の長さおよび個々の試料列間の間隔を比V2/V1により設定することができる。基本的にはV1≠V2ならば常にノズル体積流量V3が生じる。一部変更された方法では流体試料又は搬送流体の一部をマイクロチャネルからノズルを介して抜き取ることもできる。同様に、マイクロチャネル内に事前に作成された規則正しい試料列に、第1の流体試料と混和し得る第2の流体試料を混合することも可能である。
【0018】
本発明による方法を実行するために、第1のステップでは、搬送流体がマイクロチャネル内に入口を介して導入体積流量V1にて供給され、同時にマイクロチャネルから出口を介して導出体積流量V2にて吸い出される。第2のステップでは、マイクロチャネルにおいて入口と出口との間にあるノズル開口が搬送媒体と混和しない流体試料の中に搬入される。第3ステップでは、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の差をV2>V1に設定する。これにより、或る量の流体試料がノズル開口を通してマイクロチャネル内に吸い込まれ、継続動作において流体試料の複数のセグメントが、マイクロチャネル内を案内された搬送媒体の中に形成される。マイクロチャネル内での個々のセグメントの大きさ(体積)およびそれらのセグメントの間隔は、導入体積流量と導出体積流量との比を変化させることによって設定することができる。比V2:V1は1.05:1〜20:1の範囲内にあるとよい。
【0019】
以下において図面に基づいて本発明を更に詳細に説明する。その際に装置の構造上の特徴も方法の細部も更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は1種の流体試料の列を搬送流体内に作成するための本発明による装置の概略図を示す。
【図2】図2は1つの試料列を作成する際の4つのステップの概略図を示す。
【図3】図3はマイクロチャネル内にノズル開口を配置するための実施例を示す。
【図4】図4は複数種の異なる流体試料からなるセグメント列を作成するための進行の概略図を示す。
【図5】図5は本発明による装置の一部変更された実施例を示す。
【図6】図6はセグメント列の4つの異なる操作の概略図を示す。
【図7】図7はマイクロチャネル内で作成された列を測定するための構成の概略図を示す。
【図8】図8はV2=−50μL/minおよびV1=+25μL/minの場合に内径0.8mmの管内に作成されたセグメント頻度数の測定信号のダイアグラムを示す。
【図9】図9は比V2/V1が異なる場合の、ダイアグラム形式で表されたセグメント長およびセグメント間隔を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、流体案内ユニットの内部のマイクロチャネル(マイクロ流路)内に複数のセグメントを作成し、それらのセグメントを配列するための本発明による装置の基本構成を示す。並列配置された流体試料から直列配置された試料セグメントへの移行が行なわれる。この装置は少なくとも1つのマイクロチャネル01を持ち、そのマイクロチャネル01は入側に1つの入口02を有し、出側に1つの出口03を有する。更に、入口02と出口03との間に位置しマイクロチャネルに通じる通路を形成する少なくとも1つのノズル開口04が設けられている。動作状態ではノズル開口04が多量の液体A(流体試料)に連通しており、適切な流れ状態を選択すると、ノズル開口04を通してマイクロチャネル01の中に液体Aを吸い込むことができる。
【0022】
この装置は、例えば噴射ポンプによって構成される供給ユニット(図示せず)を持ち、この供給ユニットは、入口02を介して、液体Aと混和しない他の液体B(搬送流体)を導入体積流量V1にて供給する。同時にこの供給ユニットは、マイクロチャネル01の出口03において導出体積流量V2を引き出す。導出体積流量が導入体積流量よりも大きく(V1<V2)選ばれると、その結果生じる差がノズル体積流量V3により相殺され、従って流体試料Aがマイクロチャネル01内に流入する。その結果、ノズル形状およびマイクロチャネルのチャネル直径dによって定められる規則正しい流体試料セグメントCが生成され、これは流体試料の組成に関係しない。
【0023】
試料セグメントの作成の時間的経過および1つの列への複数のセグメントの配列が図2に明らかにされている。
【0024】
流体案内ユニットのマイクロチャネル内のノズル開口04の形状は、その断面積が、流体案内マイクロチャネル01の流体力学的断面積を上回ってはならない。
【0025】
図3に模範的に示されているように、流体案内ユニットにおけるマイクロチャネル01内のノズル開口04の相対的位置は変えることができる。特に流体試料Aのレベル位置に対する相対的なノズル開口04の位置は、ノズル開口04が常に流体試料Aによって覆われているかもしくは取り囲まれていることが保証されているかぎり、重要ではない。搬送流体の中への流体試料のセグメントの移行は重力に関係せずに行なわれる。
【0026】
流体案内ユニットのマイクロチャネル01において、搬送流体Bの流れ方向に見て、ノズル開口04の前では導入体積流量(流量)V1が設定され、ノズル開口04の後では導出体積流量(流量)V2が設定される。試料溶液(流体試料)Aを直列の列に移行させるためには、ノズル開口04の後の流量V2はノズル開口04の前の流量V1よりも多くなければならない。その結果、流体案内ユニットのマイクロチャネル01内へのノズル開口04にノズル体積流量(流量)V3が生じる。幾何学的な条件ならびに発生する表面力が、規則正しい流体試料セグメントCの形成を生じる。セグメント長も、セグメント同士の間隔も、流量比V2/V1の変化によって調整することができる。導出体積流量V2の変化によって、生成するセグメントの大きさを制御することができる。セグメントの頻度数は流量V2によって決定される。V2が多ければ多いほど、セグメント形成の頻度数が高くなる。導出体積流量V2が導入体積流量V1よりもほんの僅かだけ大きい(例えば5〜15%)場合、小さい球形のセグメントCが発生する(図1)。流体試料Aがノズル開口04を通して吸い込まれる際、ノズル開口とは反対側のマイクロチャネル01の壁に流体試料が到達するとセグメントが裂き取られる。導出体積流量V2が導入体積流量V1よりも明らかに大きい(例えば20〜80%)場合、長く延びたセグメントCが搬送流体内に形成される。
【0027】
図4は異なる流体試料A1〜A6からなる1つの列の作成を概略的に示す。例えば、複数の容器10内にある異なる流体試料A1〜A6の中にマイクロチャネル01をプログラム制御により浸漬し、かつ流量V1,V2で一工程分進ませることによって、連続した複数のセグメント又はセグメントパケットの組成が大幅に異なり得る定められたセグメント列を作成することができる。従って、本発明による装置は、特に、マトリックス状に配置された試料受け器から種々の流体試料をプログラム制御により採取するのに適している。この場合、例えばマイクロタイタープレートからマトリックス状に配置された流体試料が効率的に1つの直列の試料列へ移行させられる。これは応用技術的に例えば小形化されたコンビナトリアルケミストリーの分野でも高スループットのスクリーニングの分野でも有意義である。
【0028】
ここに開示した装置および説明したそれの作動方法により、例えばマイクロタイタープレートのような通常の受け器からの流体試料を、並列−直列の移転によって、ディジタルマイクロ流体プロセスに利用可能にすることができる。この並列−直列移転方法の使用は、μL範囲、nL範囲およびpL範囲のセグメント体積を有する試料溶液の精密な試料列を提供する。
【0029】
図5に本発明による装置の他の実施例が概略的に示されている。この実施例ではセグメントを作成するノズル04が直接に試料容器10に接続されている(ここでは容器底部により示されている)。この場合、ノズル04は直接に試料容器10の壁に組み込まれ、試料溶液Aがこの接続部を通してマイクロチャネルシステム01の中に移送される。この実施例によれば、流体アクチュエータ系の適切な制御と流体試料溶液Aiの入れ替えとによって、異なる試料溶液からなるセグメント列を作成することができる。
【0030】
更に、図6に示されている実施形態によって明らかにするように、本発明による装置は既に存在するもしくは既に作成されたセグメント列を操作するのに適している。既に作成された列がマイクロチャネル01内のノズル開口04の傍らを通過することによって、上述の方法条件(V1<V2)を維持すれば、例えば異なる複数種の試料溶液からなる混合セグメントを実現することができる(図6a)。この場合、混合比は異なる体積流量V1,V2を設定することによって設定することができる。しかし、逆の流量条件(V2<V1)を設定することによって列内のセグメントの体積を減らすこともできる(図6b)。この条件下でセグメントがノズル開口04の傍らを通流すると、流体試料の一部がそのノズルから外に向けて押し出されるので、その結果マイクロチャネル01内に生じる体積流量が減少する。この場合に分離相(搬送流体)はノズル開口04を通して流れ出ない。何故ならば非混和性の相の間の表面張力がこれを阻止するからである。
【0031】
(マイクロチャネル01の外側に存在しノズル開口04に外側から接している)外部の液体として流体試料Aの代わりに搬送流体Bを使用する場合、試料セグメントを変化させることなくマイクロチャネル01内のセグメントの間隔を操作することができる。このようにして、1つの列において個々のセグメント間の間隔を、V1>V2に設定することによって縮小することができ(図6c)、あるいはV1<V2に設定することによって拡大することができる(図6d)。
【0032】
図7には、例えばセグメント長およびセグメント間隔のような列特性を測定するための実験装置が示されている。このために透明のマイクロチャネル01(管)に、照明側ではLED11を光源として使用し検出側ではフォトダイオード12を使用している測光式マイクロフロー検出器が直接に取り付けられている。両ダイオードは絞りにより直接に管01に取り付けられている。このようにして生じた測定点は、分離相(搬送流体)に比べて試料セグメントの屈折率が異なることに基づいても、吸収特性が異なることに基づいても、試料セグメントを検出することを可能にする。
【0033】
図8には前述のフロー検出器により次の条件下で得られた検出信号の典型的な例が示されている。列特性を測定するために、エタノールからなる試料液が色素(クリスタルバイオレット)により着色され、本発明による装置によりセグメントに移行された。分離相(搬送流体)としてパーフルオロ化されたアルカンが使用された(パーフルオロメチルデカリン)。流量比(V2/V1)が種々異なる場合における図8に示されたセグメント経過の評価が、ダイアグラムとして図9に示されており、作成されたセグメントの高い再現性と本発明による方法により作成されたセグメント列の質とを示している。
【符号の説明】
【0034】
01 マイクロチャネル
02 入口
03 出口
04 ノズル開口
10 流体試料容器
11 LED
12 フォトダイオード
A 流体試料
B 搬送流体
C 試料セグメント
V1 導入体積流量
V2 導出体積流量
V3 ノズル体積流量
d マイクロチャネルのチャネル直径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数種の流体試料(A)の列をその流体試料(A)と混和しない搬送流体(B)内に作成および/または配列するための装置であって、
入口(02)と、出口(03)と、入口(02)と出口(03)との間でマイクロチャネル(01)に開口するノズル開口(04)とを備えたマイクロチャネル(01)と、
搬送流体(B)を導入体積流量(V1)にて入口(02)を介してマイクロチャネル(01)内に注入し、導出体積流量(V2)にて出口(03)を介してマイクロチャネル(01)から吸い出す供給ユニットと、
流体試料(A)を含み、ノズル開口(04)が流体試料(A)に接触している試料容器(10)と、
を含む装置において、
この装置が更に、導入体積流量(V1)と導出体積流量(V2)との間の比を変化させるために供給ユニットを制御する制御ユニットを含み、ノズル開口(04)の横断面積が次の条件、
a)導入体積流量が導出体積流量に等しい場合(V1=V2)、搬送媒体(B)がノズル開口(04)から試料容器(10)内へ流出せず、かつ流体試料(A)がマイクロチャネル(01)内に流入しないこと、
b)導出体積流量が導入体積流量よりも大きい場合(V2>V1)、流体試料(A)がノズル開口(04)内に流入して、試料セグメント(C)として搬送媒体(B)の流れの中に入れられること、
を満たすことを特徴とする装置。
【請求項2】
マイクロチャネル(01)のノズル開口(04)を互いに異なる試料容器(10)の中に搬入可能である位置決めユニットを含むことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
複数の試料容器(10)がマトリクス状に、特にマイクロタイタープレートの形で配置されていることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
ノズル開口(04)が、管によって形成されたマイクロチャネルにおけるV字形の切り込みとして形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
供給ユニットが噴射ポンプとして形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
試料容器(10)が流体試料(A)のレベルの下方に1つの開口を有し、この開口にマイクロチャネル(01)のノズル開口(04)が接続されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
マイクロチャネル(01)が流れ方向においてノズル開口(04)の後に透明領域を有し、該透明領域に、搬送流体(B)内に形成された流体試料セグメント(C)を検出する光学センサ(11,12)が配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
1種または複数種の流体試料(A)の列をその流体試料(A)と混和しない搬送流体(B)内に作成および/または配列するための方法であって、
搬送流体(B)がマイクロチャネル(01)内に入口(02)を介して導入体積流量(V1)にて供給されるステップと、
同時に搬送流体(B)がマイクロチャネル(01)から出口(03)を介して導出体積流量(V2)にて吸い出されるステップと、
マイクロチャネル(01)において入口(02)と出口(03)との間にあるノズル開口(04)が、流体試料(A)又は搬送流体(B)を含む容器(10)の中に搬入されるステップと、
導入体積流量(V1)と導出体積流量(V2)との間の差が設定されることによって、ノズル開口(04)を通して、その設定された差に相応する大きさを有するノズル体積流量(V3)が発生されるステップとを含む方法。
【請求項9】
容器(10)内に流体試料(A)が注入され、導出体積流量(V2)が導入体積流量(V1)よりも大きく設定(V2>V1)されることによって、流体試料(A)がノズル開口(04)を通してノズル体積流量(V3)にてマイクロチャネル内に吸い込まれ、流体試料(A)の複数のセグメント(C)が、マイクロチャネル(01)内を案内された搬送媒体(B)の中に形成されて1つの列を作成する請求項8記載の方法。
【請求項10】
マイクロチャネル(01)のノズル開口(04)が、順次、互いに異なる流体試料(A1…A6)の中に搬入されることを特徴とする請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
ノズル開口(04)が第2の流体試料の中に搬入されている間に、事前に作成された列がマイクロチャネル(01)に入口(02)を介して新たに供給され、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の差をV2>V1に新たに設定することによってノズル開口(04)を通して第2の流体試料がマイクロチャネル(01)の中に吸い込まれ、第2の流体試料(A2)の複数のセグメントが、マイクロチャネル内を案内された搬送媒体(B)の中に形成されるか、又は第1の流体試料(A1)のセグメントに混合されることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ノズル開口(04)が搬送媒体(B)の中に搬入されている間に、事前に作成された列がマイクロチャネル(01)に入口(02)を介して新たに供給され、流体試料(A)の列の間にノズル開口を通して更に搬送媒体(B)をマイクロチャネル(01)内に吸い込むために、導出体積流量(V2)が導入体積流量(V1)よりも大きく設定されるか、又は、マイクロチャネル(01)内において流体試料(A)の列の間に存在する搬送媒体(B)の一部をノズル開口(04)を通して押し出すために、導出体積流量(V2)が導入体積流量(V1)よりも小さく設定されることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
導入体積流量(V1)と導出体積流量(V2)との間の差を設定する際に、比V2:V1が1.05:1〜20:1の範囲内に選ばれることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
1種または複数種の流体試料(A)の列をその流体試料(A)と混和しない搬送流体(B)内に作成および/または配列するための装置であって、
入口(02)と、出口(03)と、入口(02)と出口(03)との間でマイクロチャネル(01)に開口するノズル開口(04)とを備えたマイクロチャネル(01)と、
搬送流体(B)を導入体積流量(V1)にて入口(02)を介してマイクロチャネル(01)内に注入し、導出体積流量(V2)にて出口(03)を介してマイクロチャネル(01)から吸い出す供給ユニットと、
流体試料(A)を含み、ノズル開口(04)が流体試料(A)に接触している試料容器(10)と、
を含む装置において、
この装置が更に、導入体積流量(V1)と導出体積流量(V2)との間の比を変化させるために供給ユニットを制御する制御ユニットを含み、ノズル開口(04)の横断面積が次の条件、
a)導入体積流量が導出体積流量に等しい場合(V1=V2)、搬送媒体(B)がノズル開口(04)から試料容器(10)内へ流出せず、かつ流体試料(A)がマイクロチャネル(01)内に流入しないこと、
b)導出体積流量が導入体積流量よりも大きい場合(V2>V1)、流体試料(A)がノズル開口(04)内に流入して、試料セグメント(C)として搬送媒体(B)の流れの中に入れられること、
を満たすことを特徴とする装置。
【請求項2】
マイクロチャネル(01)のノズル開口(04)を互いに異なる試料容器(10)の中に搬入可能である位置決めユニットを含むことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
複数の試料容器(10)がマトリクス状に、特にマイクロタイタープレートの形で配置されていることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
ノズル開口(04)が、管によって形成されたマイクロチャネルにおけるV字形の切り込みとして形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
供給ユニットが噴射ポンプとして形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
試料容器(10)が流体試料(A)のレベルの下方に1つの開口を有し、この開口にマイクロチャネル(01)のノズル開口(04)が接続されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
マイクロチャネル(01)が流れ方向においてノズル開口(04)の後に透明領域を有し、該透明領域に、搬送流体(B)内に形成された流体試料セグメント(C)を検出する光学センサ(11,12)が配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
1種または複数種の流体試料(A)の列をその流体試料(A)と混和しない搬送流体(B)内に作成および/または配列するための方法であって、
搬送流体(B)がマイクロチャネル(01)内に入口(02)を介して導入体積流量(V1)にて供給されるステップと、
同時に搬送流体(B)がマイクロチャネル(01)から出口(03)を介して導出体積流量(V2)にて吸い出されるステップと、
マイクロチャネル(01)において入口(02)と出口(03)との間にあるノズル開口(04)が、流体試料(A)又は搬送流体(B)を含む容器(10)の中に搬入されるステップと、
導入体積流量(V1)と導出体積流量(V2)との間の差が設定されることによって、ノズル開口(04)を通して、その設定された差に相応する大きさを有するノズル体積流量(V3)が発生されるステップとを含む方法。
【請求項9】
容器(10)内に流体試料(A)が注入され、導出体積流量(V2)が導入体積流量(V1)よりも大きく設定(V2>V1)されることによって、流体試料(A)がノズル開口(04)を通してノズル体積流量(V3)にてマイクロチャネル内に吸い込まれ、流体試料(A)の複数のセグメント(C)が、マイクロチャネル(01)内を案内された搬送媒体(B)の中に形成されて1つの列を作成する請求項8記載の方法。
【請求項10】
マイクロチャネル(01)のノズル開口(04)が、順次、互いに異なる流体試料(A1…A6)の中に搬入されることを特徴とする請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
ノズル開口(04)が第2の流体試料の中に搬入されている間に、事前に作成された列がマイクロチャネル(01)に入口(02)を介して新たに供給され、導入体積流量V1と導出体積流量V2との間の差をV2>V1に新たに設定することによってノズル開口(04)を通して第2の流体試料がマイクロチャネル(01)の中に吸い込まれ、第2の流体試料(A2)の複数のセグメントが、マイクロチャネル内を案内された搬送媒体(B)の中に形成されるか、又は第1の流体試料(A1)のセグメントに混合されることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ノズル開口(04)が搬送媒体(B)の中に搬入されている間に、事前に作成された列がマイクロチャネル(01)に入口(02)を介して新たに供給され、流体試料(A)の列の間にノズル開口を通して更に搬送媒体(B)をマイクロチャネル(01)内に吸い込むために、導出体積流量(V2)が導入体積流量(V1)よりも大きく設定されるか、又は、マイクロチャネル(01)内において流体試料(A)の列の間に存在する搬送媒体(B)の一部をノズル開口(04)を通して押し出すために、導出体積流量(V2)が導入体積流量(V1)よりも小さく設定されることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
導入体積流量(V1)と導出体積流量(V2)との間の差を設定する際に、比V2:V1が1.05:1〜20:1の範囲内に選ばれることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2012−529634(P2012−529634A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514398(P2012−514398)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052334
【国際公開番号】WO2010/142471
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(509347479)テヒニッシェ ウニフェルジテート イルメナウ (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052334
【国際公開番号】WO2010/142471
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(509347479)テヒニッシェ ウニフェルジテート イルメナウ (3)
【Fターム(参考)】
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