説明

1種以上の抗生物質の粒子の製造方法並びにその使用

【課題】経済的に好ましく、容易な様式で、アミノグリコシド−抗生物質を、400μmまでの粒度、特に63〜400μmの範囲の粒度を有する粒子形に変換することができる方法を開発する。
【解決手段】1種のアミノグリコシド−抗生物質の水溶液又は2種以上のアミノグリコシド−抗生物質の水溶液を、撹拌しながらイソプロパノールと少なくとも1種の他のアルコールとからなる溶剤混合物と混合し、その際、溶剤混合物と水溶液との容量比が少なくとも3対1であり、かつ生ずる懸濁液を、一次的に生ずる粗大な1種以上の抗生物質−凝集物が粒度400μm未満を有する粒子に崩壊されるまでの間、撹拌するか又は撹拌せずに放置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種以上の抗生物質の粒子の製造方法並びにその使用に関する。この場合に、1種以上の抗生物質の粒子とは、約400μmまでの粒度を有する、特に63〜400μmの範囲の粒度を有する粒子を意味する。
【背景技術】
【0002】
アミノグリコシド−抗生物質は、顕著な抗生物質後効果を有する典型的な殺細菌性の広域抗生物質である。アミノグリコシド−抗生物質、特に硫酸ゲンタマイシンの形のゲンタマイシンは、ポリメチルメタクリレート骨セメントの抗生物質保護のために使用される(K.−D.Kuehn:骨セメント、シュプリンガー出版、2000年(Bone Cements,Springer−Verlag,2000))。ポリメチルメタクリレート骨セメントは、外科学及び整形外科学において内部人工器官の固定のために用いられる。この場合に、骨セメントが硬化した後に、骨組織とポリメチルメタクリレート骨セメントとの間の境界で病原菌の生息が始まりうるという危険をはらんでいる。細菌性の病原菌の生息に対する有効な保護は、骨セメント中に導入された殺細菌性の抗生物質によって達成でき、該抗生物質は、水性の生理的環境の作用によって硬化されたポリメチルメタクリレート骨セメントから溶け出し、そして骨組織とポリメチルメタクリレート骨セメントとの間の境界で敏感な細菌性の病原菌の死滅をもたらす。アミノグリコシド−抗生物質は、生物工学的あるいは部分合成的に、ミクロモノスポラの種、例えばミクロモノスポラ・プルプレアを使用して工業的に製造される。この場合に、該アミノグリコシド−抗生物質は、少なくとも応用された噴霧乾燥法に基づいて、64μm未満の典型的な粒度を有する非常に微細な粉末として生成する。しかしながら、ポリメチルメタクリレート骨セメントからの抗生物質の最適な遊離のためにはより粗大な粒子が好ましいことが指摘されている。最適には、粒度は63〜250μmである。
【0003】
アミノグリコシド−抗生物質は、一般に硫酸塩の形で使用され、そして水中に問題なく溶解する。US3,136,704号及びUS3,091,572号から、硫酸ゲンタマイシンをメタノールとの水溶液から沈殿させられることが知られている。しかしながら、特有の試みにおいて、メタノールと硫酸ゲンタマイシン水溶液との混合によっては、粒状の容易に単離されるべき粗大な沈殿物は生成しないことが指摘された。硫酸ゲンタマイシン水溶液とメタノール又は他の低級アルコールとを混合すると、硫酸ゲンタマイシンは、反応槽の底に極めて粘着性のスライム状の層の形で堆積する。該層とその上に存在する溶液との間の境界に、硫酸ゲンタマイシンのスライムの脱水を阻むか又は不可能にする被膜が形成される。複数日ないし複数週の後になって該層は凝固する。この硫酸ゲンタマイシンからなる層を、更に乾燥させ、引き続き破砕後に所望の粒度に分級することができる。しかしながら、粒子状の硫酸ゲンタマイシンの製造は、前記の方法様式によっては経済的には合理的でない。
【0004】
抗生物質のトブラマイシン、アミカシン、ネチルマイシン、シソマイシン及びカナマイシンの硫酸塩及び塩化物も十分に同じ挙動を示す。
【特許文献1】US3,136,704号
【特許文献2】US3,091,572号
【非特許文献1】K.−D.Kuehn:骨セメント、シュプリンガー出版、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、経済的に好ましく、容易な様式で、アミノグリコシド−抗生物質を、400μmまでの粒度、特に63〜400μmの範囲の粒度を有する粒子形に変換することができる方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、1種のアミノグリコシド−抗生物質の水溶液又は2種以上のアミノグリコシド−抗生物質の水溶液を、撹拌しながらイソプロパノールと少なくとも1種の他のアルコールとからなる溶剤混合物と混合し、その際、溶剤混合物と水溶液との容量比が少なくとも3対1であり、かつ生ずる懸濁液を、一次的に生ずる粗大な1種以上の抗生物質−凝集物が粒度400μm未満を有する粒子に崩壊されるまでの間、撹拌するか又は撹拌せずに放置することによって解決される。
【0007】
本発明は、30〜70容量%のイソプロパノールと30〜70容量%のメタノールとからなる混合物を、アミノグリコシド−抗生物質の水溶液と混合した場合に、まず約1〜10mmの寸法を有する粗大な抗生物質−凝集物が形成し、その凝集物は、外的影響なくして又は撹拌により加速させても粒度<400μmを有する粒子に崩壊し、その際、主に粒度100〜250μmを有する粒子が生ずるという驚くべき知見に基づくものである。その崩壊過程は、室温でも高められた温度でも進行する。50容量%のイソプロパノールと50容量%のメタノールとの混合物が最適であると見なされている。前記混合物の使用下に、一次的に形成された抗生物質−凝集物は、数分ないし数時間以内に崩壊する。形成された1種以上の抗生物質−粒子は、濾別又は遠心分離することができ、そして更なる乾燥工程後に篩別によって分級することができる。それによって、例えば粒度63〜400μmを有する好ましい篩分級物が得られる。
【0008】
本方法の範囲では、一次的に形成された抗生物質−凝集物の崩壊を高められた温度で進行させることもできる。
【0009】
イソプロパノール以外の他のアルコールとしては、メタノールが好ましい。
【0010】
それに応じて、30〜70容量%のイソプロパノールと70〜30容量%のメタノールとからなる溶剤混合物が好ましい。
【0011】
特に、50容量%のイソプロパノールと50容量%のメタノールとからなる溶剤混合物が好ましい。
【0012】
1種のアミノグリコシド−抗生物質又は複数種のアミノグリコシド抗生物質は、有利には、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、カナマイシン、ネチルマイシン及びシソマイシンからなる群に由来する。
【0013】
その水溶液は、有利には1種以上の抗生物質−含量30〜60質量%を有する。1種以上の抗生物質−含量がより低い溶液は非経済的であり、時として微細すぎる粒子をもたらす。1種以上の抗生物質−含量がより高い場合には、水溶液は高粘性であって、取り扱いが困難である。特に、一次凝集物の崩壊過程は、好ましい濃度範囲のときよりも明らかに長時間かかる。1種以上の抗生物質−含量50質量%を有する水溶液を使用することが溶くに好ましいと見なされている。
【0014】
その水溶液は、1種又は複数種のアミノグリコシド−抗生物質の他に、場合によりグリコペプチド−抗生物質、4−キノロン抗生物質、リンコサミド−抗生物質、マクロライド、ケトライド、グリシルサイクリン及びリネゾリド又はそれらから誘導される抗微生物作用を有する誘導体の群からの1種又は複数種の抗生物質を含有することができる。それによって、有利には抗生物質−粒子を仕上げることができ、該粒子は、それらをポリメチルメタクリレート骨セメント中で使用する際に、骨セメントのラジカル硬化の後に2種又は複数種の抗生物質の同時の遊離が可能であるという点で優れている。それにより、特に相乗作用を有する抗生物質の最適な作用物質濃度を同時に達成できる。
【0015】
その水溶液は、また更に、ポリビニルピロリドン、ビニルアルコール、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシ−エチルセルロース、メチルセルロース及びポリアクリル酸塩の群からの1種又は複数種のポリマーを溶解された形で含有することができる。添加されたポリマーによって、形成された抗生物質−粒子の細流挙動(Rieselverhalten)に影響が及ぼされることがある。
【0016】
本発明による方法の範囲において、1種以上の抗生物質の水溶液中に、場合により更に未溶解の1種以上の抗生物質−一次粒子が懸濁されていてもよい。抗生物質−粒子の工業的な製造に際して、まったくもって光学的に澄明でない1種又は複数種の抗生物質溶液を使用することも可能である。驚くべきことに、なおも存在する一次粒子の残りが、所望の粗大な抗生物質−粒子の形成に悪影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0017】
また本発明は、本発明による方法に従って製造された抗生物質−粒子を、1種又は複数週の抗生物質の局所的な遊離のために規定されている医薬製品及び医薬品の抗生物質仕上げのために用いる使用に関する。特に、本発明による抗生物質粒子を、ポリメチルメタクリレート骨セメントの抗生物質仕上げのために用いる使用が好ましい。
【0018】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に説明するが、これは本発明を制限するものではない。特に記載がない限り、部及びパーセントの表記は、質量に対するものである。
【実施例】
【0019】
実施例1
10.0gの硫酸ゲンタマイシン(AK648、Fujiang/Fukang)を10.0gの蒸留されたパイロジェンフリーな水中に溶解させる。この溶液を、撹拌しながら50mlのイソプロパノールと50mlのメタノールとからなる混合物中に滴加する。数秒以内に一次凝集物が形成される。半時間後には、もう撹拌しない。4時間後に、沈殿した一次凝集物は崩壊されている。形成された粒子を吸引により分離し、その後に室温でメタノール中で半時間撹拌し、次いで質量一定になるまで真空中で乾燥させる。全収量は、9.8gである。篩別後に、63〜250μmの篩分級物を有する粒子7.3gが得られる。図1に、この粒子の光学顕微鏡写真を描写する。
【0020】
実施例2
10.0gの硫酸ゲンタマイシン(AK648、Fujiang/Fukang)を10.0gの蒸留されたパイロジェンフリーな水中に溶解させる。この溶液を、撹拌しながら50mlのイソプロパノールと50mlのメタノールとからなる還流下に沸騰した混合物中に滴加する。数秒以内に一次凝集物が形成される。半時間後には、もう撹拌せず、溶剤混合物を還流させたままにする。形成された粒子を5時間後に室温に冷却し、吸引により分離し、その後に室温でメタノール中で半時間撹拌し、次いで質量一定になるまで真空中で乾燥させる。全収量は、9.6gである。篩別後に、63〜250μmの篩分級物を有する粒子6.6gが得られる。
【0021】
実施例3
7.7gの硫酸ゲンタマイシン(AK648、Fujiang/Fukang)及び5.8gの塩酸クリンダマイシン(AK862)を10.0gの蒸留されたパイロジェンフリーな水中に溶解させる。この溶液を、撹拌しながら50mlのイソプロパノールと50mlのメタノールとからなる混合物中に滴加する。数秒以内に一次凝集物が形成される。半時間後には、もう撹拌しない。5時間後に、沈殿した一次凝集物は崩壊されている。形成された粒子を吸引により分離し、その後に室温でメタノール中で半時間撹拌し、次いで質量一定になるまで真空中で乾燥させる。全収量は、11.2gである。篩別後に、63〜250μmの篩分級物を有する粒子6.4gが得られる。
【0022】
実施例4
1.540kgの硫酸ゲンタマイシン(AK648、Fujiang/Fukang)を1.0kgの蒸留されたパイロジェンフリーな水中に溶解させる。30リットルの受け容器(Haengegefaess)中で、5.0kgのイソプロパノールと5.0kgのメタノールとを装入する。この溶液中に、前記水溶液を撹拌(1分間当たりに50回転)しつつ30分以内に滴加する。滴加に際して数秒以内に一次凝集物が形成される。室温で4時間撹拌した後に、一次凝集物は崩壊されている。形成された粒子を吸引により分離し、その後に室温で無水メタノール中で1時間撹拌し、次いで質量一定になるまで真空中で乾燥させる。全収量は、1.351kgである。篩別後に、63〜250μmの篩分級物を有する粒子0.899kgが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例1の生成物の光学顕微鏡写真を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の抗生物質−粒子の製造方法において、
・ 1種のアミノグリコシド−抗生物質の水溶液又は2種以上のアミノグリコシド−抗生物質の水溶液を、撹拌しながらイソプロパノールと少なくとも1種の他のアルコールとからなる溶剤混合物と混合し、その際、溶剤混合物と水溶液との容量比が少なくとも3対1であり、かつ
・ 生ずる懸濁液を、一次的に生ずる粗大な1種以上の抗生物質−凝集物が粒度400μm未満を有する粒子に崩壊されるまでの間、撹拌するか又は撹拌せずに放置する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、アルコールとしてメタノールが好ましいことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、1種のアミノグリコシド−抗生物質又は複数種のアミノグリコシド−抗生物質が、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、カナマイシン、ネチルマイシン及びシソマイシンからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法において、30〜70容量%のイソプロパノールと70〜30容量%のメタノールとからの溶剤混合物を使用することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法において、50容量%のイソプロパノールと50容量%のメタノールとからの溶剤混合物を使用することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法において、水溶液が、30〜60質量%の1種以上の抗生物質の含量を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法において、水溶液が、1種以上のアミノグリコシド−抗生物質の他に、付加的にグリコペプチド−抗生物質、4−キノロン抗生物質、リンコサミド−抗生物質、マクロライド、ケトライド、グリシルサイクリン及びリネゾリド又はそれらから誘導される抗微生物作用を有する誘導体の群からの1種以上の抗生物質を含有することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法において、水溶液が、付加的に、ポリビニルピロリドン、ビニルアルコール、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース及びポリアクリル酸塩の群からの1種以上のポリマーを溶解された形で含有することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法において、1種以上の抗生物質の水溶液中に、更に未溶解の1種以上の抗生物質−一次粒子が懸濁されていることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法により製造された抗生物質−粒子を、1種の抗生物質又は複数種の抗生物質の局所的遊離のために規定されている医薬製品及び医薬品の抗生物質仕上げのために用いる使用。
【請求項11】
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法により製造された抗生物質粒子を、ポリメチルメタクリレート骨セメントの抗生物質仕上げのために用いる使用。

【図1】
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【公開番号】特開2007−169279(P2007−169279A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343013(P2006−343013)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】