説明

1,1,1−トリフルオロエタンの製造方法

フッ化水素化触媒の存在下で1,1-ジフルオロ-1-クロロエタン(HCFC-142b)をフッ化水素(HF)と気相反応させることにより1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)を製造する方法において、気相反応に導入されるHFに対する導入されるHCFC-142bのモル比が1以上1.3未満である方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)の製造方法に関する。
HFC-143aは、クロロフルオロカーボンに代わる冷媒混合物の成分として使用される。
【背景技術】
【0002】
特許願第EP-A-714874号には、1,1-ジフルオロ-1-クロロエタン(HCFC-142b)からの、1より大きいHF/HCFC-142bのモル比を用いた気相におけるHFC-143aの製造が記載されている。欧州特許第EP-B-714874号には、HCFC-142bの分解による副生成物の形成を回避するためには、このモル比は1.3以上でなければならないことが教示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
良好な体積に基づく生産量を成就して、フッ化水素化反応の終了時に精製作業の必要性を最少化するHCFC-142bからの選択的なHFC-143aの製造を可能にすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、本発明は、フッ化水素化触媒の存在下で1,1-ジフルオロ-1-クロロエタン(HCFC-142b)をフッ化水素(HF)と気相反応させることにより1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)を製造する方法において、気相反応に導入されるHFに対する導入されるHCFC-142bのモル比が1以上1.3未満である製造方法に関する。
驚くべきことに第EP 714874号の文献の教示に反して、約1のHF/HCFC-142b比で作業しながら、HCFC-142bからHFC-143aが効率よく選択的に得られることが見いだされた。本発明による方法においては、長期にわたって触媒の活性が良好な安定性を示すことも観察されている。
本発明による方法においては、HF/HCFC-142bのモル比は、しばしば1.02以上である。好ましくは、このモル比は1.05以上である。本発明による方法においては、HF/HCFC-142bのモル比は、しばしば1.25以下である。好ましくは、このモル比は1.20以下である。
本発明による方法においては、温度は一般的には100℃以上である。好ましくは、温度は150℃以上である。本発明による方法においては、温度は一般的には400℃以下である。好ましくは、温度は250℃以下である。
本発明による方法においては、圧力は一般的には0.001MPa(1バール)以上である。好ましくは、圧力は0.005MPa(5バール)以上である。本発明による方法においては、圧力は一般的には0.03MPa(30バール)以下である。好ましくは、圧力は0.015MPa(15バール)以下である。
【0005】
本発明による方法においては、反応器に導入されるHF及びHCFC-142bの流速に対する触媒の体積の比で定義される接触時間は、一般的には1秒以上である。好ましくは、接触時間は10秒以上である。本発明による方法においては、反応器に導入されるHF及びHCFC-142bの流速に対する触媒の体積の比で定義される接触時間は、一般的には200秒以下である。好ましくは、接触時間は50秒以下である。
本発明による方法においては、フッ化水素触媒は、例えば、支持体付きまたは支持体なしの金属塩から選択されうる。適する場合には、支持体は、例えば活性炭でもよい。
フッ化水素化触媒は、酸化クロムを含むのが有利である。任意の過フッ素化処理の前に100m2/g以上のBET/N2比表面積を示す非晶質酸化クロムの場合に良好な結果が得られる。200m2/g以上のそのような比表面積を示す非晶質酸化クロムが好ましい。適する場合には、非晶質酸化クロムは、一般的には任意の過フッ素化処理の前に600m2/g以下の、好ましくは400m2/g以下のBET/N2比表面積を示す。
本発明による方法において使用するのに特に好ましい触媒は、クロム及びマグネシウムを含む。この触媒は、以下の方法により得られる。
【0006】
(a)水溶性クロム(III)塩を水の存在下で水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウム、及び任意にグラファイトと反応させ、
(b)得られた反応混合物をペーストに加工し、
(c)ペーストを乾燥させ、
(d)乾燥させたペーストを20乃至500℃においてフッ化水素で処理し、
かつ水溶性クロム(III)塩、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウム、及び任意にグラファイトの量がそれぞれ、工程(c)で得られる乾燥させたペーストが、3.5乃至26質量%、好ましくは4.5乃至23質量%の、Cr2O3の形態で表されるクロム、25質量%以上の、MgOの形態で表されるマグネシウム、及び任意に、好ましくは5乃至40質量%のグラファイトを含むように選択される。そのような触媒の製造は、例えば、特許願第EP-A-733611号に開示されており、このことに関するその内容は、本特許出願に参考として導入されている。
別の特徴においては、気相反応に導入されるHCFC-142bの導入されるHFに対するモル比が1.3以上の場合にも、前述のクロム及びマグネシウムを含む触媒に関して、前述のすべてのその他の特徴、触媒活性の安定性に関する特定の利点が得られる。この特定の特徴においては、例えば2以上の比が使用されうる。この特定の特徴においては、気相反応に導入されるHCFC-142bの導入されるHFに対するモル比が、一般的には10以下である。好ましくはこの特定の特徴においては、この比は5以下である。
【0007】
本発明による方法において出発物質として使用されるHCFC-142bは市販されている。あるいは、それは、塩化ビニリデンまたは1,1,1-トリクロロエタンまたはそれらの混合物を出発物質としてフッ化水素化することにより得ることもできる。
気相反応に導入される反応体流は、好ましくは、本質的にHCFC-142b及びフッ化水素からなる。
特に1,1-ジクロロ-1-フルオロエタンのようなその他の化合物は、任意に気相反応に導入される反応体流に存在しうる。好ましくは、そのような化合物の含量は、反応体流に存在する化合物の総モル数に対して5モル%未満である。1モル%未満の含量がさらに特に好ましい。
本発明による方法は、連続的でもバッチ式でも実施しうる。連続的な方法が好ましい。
本発明による方法は、気相フッ化水素化工程を実施するのに適する反応器であればいずれの反応器でも実施しうる。特に、触媒の固定相を含む、反応温度及び圧力においてHFの存在に対して耐性のある物質製の、管型反応器が言及される。
以下の実施例は、本発明を限定することなく説明することを意図する。
【実施例】
【0008】
文献第EP 733611号の実施例にしたがって得られた、4.6質量%の、Cr2O3の形態で表されるクロム、Mg及びグラファイトを含む触媒を、Hastelloy B2製の70mlの容量の管型反応器に導入した。
触媒は、10N2/時間の流速の窒素のフラッシング流下、150℃で1時間乾燥させた。次いで、触媒を200℃において1時間、次いで250℃で1時間、300℃で6時間及び350℃で8時間、HF/N2混合物(111HF/時間−201N2/時間)を用いてフッ素化した。
フッ素化後、加熱は200℃の温度にした。HCFC-142b及びHFを連続的に導入した。導入したHF/HCFC-142b比は1.1であった。反応の圧力は0.01MPa(10バール)であった。反応の終了時にHFC-143aを含む気相を回収し、KOH水溶液で洗浄することにより過剰のHF及び製造されたHClを除去するために洗浄カラムに導入した。この洗浄作業より生じる気体をガスクロマトグラフィーで分析した。HCFC-142bの転化率は93.5%であり、HFC-143aの選択率は99.5%であった。0.5%の不純物は50%のHCFC-141bを含有した。反応は、活性または選択率が低下することなく600時間継続した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)を製造する方法であって、フッ化水素化触媒の存在下で1,1-ジフルオロ-1-クロロエタン(HCFC-142b)をフッ化水素(HF)と気相反応させ、前記気相反応に導入されるHFに対する導入されるHCFC-142bのモル比が1以上1.3未満であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記モル比が1.02以上である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記モル比が1.05以上である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記モル比が1.25以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記モル比が1.20以上である請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記反応の温度が100乃至400℃である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応の圧力が0.001乃至0.03MPa(1乃至30バール)である請求項1乃至6のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項8】
接触時間が1乃至200秒である請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記フッ化水素化触媒が酸化クロムを含む請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記触媒がクロム及びマグネシウムを含み、前記触媒が、以下の工程、
(a)水溶性クロム(III)塩を水の存在下で水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウム、及び任意にグラファイトと反応させる工程、
(b)得られた反応混合物をペーストに加工する工程、
(c)ペーストを乾燥させる工程、
(d)乾燥させたペーストを20乃至500℃の温度においてフッ化水素で処理し、
かつ水溶性クロム(III)塩及び水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムの量がそれぞれ、工程(c)で得られる乾燥させたペーストが、3.5乃至26質量%の、Cr2O3の形態で表されるクロム、及び25質量%以上の、MgOの形態で表されるマグネシウムを含むように選択される工程、
に従う方法により得られる請求項9記載の方法。

【公表番号】特表2006−520762(P2006−520762A)
【公表日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504638(P2006−504638)
【出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002499
【国際公開番号】WO2004/078684
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ (252)
【Fターム(参考)】