説明

1,1,1,2−テトラフルオロプロペンの製造方法

【課題】ヘキサフルオロプロペン(HFP)を原料として用い、水素化、脱HFおよび蒸留により、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)を得る。
【解決手段】HFPの水素化により、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)を得、HFC−236eaの脱HFにより1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)を得、HFC−1225yeの水素化により1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)を得、HFC−245ebの脱HFによりHFC−1234yfを得るという一連の反応工程を連続的に実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,1,2−テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CFC(クロロフルオロカーボン)およびHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が冷媒物質として用いられていた。これら物質はオゾン層を破壊し得るため、代替冷媒物質としてHFC(ハイドロフルオロカーボン)、特にHFC−125(ペンタフルオロエタン)およびHFC−32(ジフルオロメタン)が広く用いられるようになっている。しかしながら、HFC−125およびHFC−32は強力な温暖化物質であり、その拡散によって地球温暖化に悪影響を及ぼすことが懸念されている。拡散ひいては温暖化を防止するために、これらを不要になった装置から回収しているものの、これら物質の全てを回収できるわけではない。また、漏洩などによる拡散も無視できない。そこで、更なる代替冷媒物質として、COや炭化水素系化合物を利用することも検討されている。しかし、CO冷媒は効率が悪く、機器が大きくなることから、機器の消費エネルギーを含めた総合的な温暖化ガス排出量の削減には課題が多い。また、炭化水素系物質はその燃焼性の高さから安全性の面で問題がある。
【0003】
このような問題を解決する代替冷媒物質として、最近、温暖化係数の低いオレフィンのHFCである1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(または2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、CFCF=CH、以下、「HFC−1234yf」とも言う)が注目されている。
【0004】
HFC−1234yfについては、これまでにいくつかの製造方法が開示されている。下記の特許文献1には、CFCH=CHを原料とし、これをハロゲン化したのち脱HF反応を行ってHFC−1234yfを得る方法が記載されている。下記の特許文献2には、少なくとも2つの反応ステージにより、炭素数3〜6のフッ素化オレフィンを水素化してアルカンとし、このアルカンを脱HFすることにより、HFC−1234yfなどのフッ素化オレフィンを製造する方法が記載されている。下記の特許文献3には、CFCFCHCl(HCFC−225ca)およびCClFCFCHClF(HCFC−225cb)の混合物から、Pd/C触媒を用いてHFC−1234yfを直接得る方法が記載されている。下記の特許文献4には、炭素数1のアルカンと炭素数2のアルカンとをカップリングして、HFC−1234yfなどの炭素数3のオレフィンを製造する方法が記載されている。下記の特許文献5には、炭素数1のアルカンと炭素数2のアルカンとの反応により炭素数3のアルカンを合成し、この合成したアルカンを脱ハロゲン化水素することにより、HFC−1234yfなどのフッ素化オレフィンを製造する方法が記載されている。下記の特許文献6には、CFCHFCHF(HFC−236ea)とCFCHFCHF(HFC−245eb)を同時に触媒層に流通させて脱HF反応を行い、HFC−1225ye(1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン)とHFC−1234yfの混合物を直接製造する方法が記載されている。下記の特許文献7には、CXCXYCHをHFによりフッ素化しながら、同時に脱HF反応を行うHFC−1234yfの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/056194号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0179324号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/086972号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/056127号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2007/056128号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2007/117391号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2007/056148号パンフレット
【特許文献8】国際公開第93/25510号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような方法は、目的生成物であるHFC−1234yfおよびその前駆体であるHFC−245ebのほかに、HFC−1234yfとなり得ない副生成物を生じることが多い。本発明の目的は、従来の方法に比して、HFC−1234yfをより高選択的に製造することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、HFC−1234yfを得るための原料としてヘキサフルオロプロペン(HFP)を用いることについて検討し、水素化、脱HF(または脱フッ化水素)および蒸留の適当な実施方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の第1の要旨においては、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)の製造方法であって、
a)原料のヘキサフルオロプロペン(HFP)を1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)と共に還元触媒の存在下にて水素化して、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)および1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)を含む反応混合物を得る工程、
b)工程a)より得た反応混合物を脱HF反応に付して、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)および1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)を含んで成る反応混合物を得る工程、
c)工程b)より得た反応混合物を蒸留に付して、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)を含む第1Aフラクションと、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)を含む第2Aフラクションとに分離する工程、および
d)第2Aフラクションに含まれる1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)を工程a)に用いる工程
を含み、1,1,1,2−テトラフルオロプロペンを第1Aフラクション中に得る方法が提供される。
【0009】
本発明の第1の要旨による製造方法においては、HFPからHFC−1234yfを生じるために、以下のような反応がHFC−1225yeを経て逐次的に進行していると考えられる。
【化1】

本発明者らは、HFPからHFC−236eaを生じる水素化反応と、HFC−1225yeからHFC−245ebを生じる水素化反応とを同じ条件下にて進行させることが可能であり、かつ、HFC−236eaからHFC−1225yeを生じる脱HF反応と、HFC−245ebからHFC−1234yfを生じる脱HF反応とを同じ条件下にて進行させることも可能であることを見出した。これにより、これら水素化および脱HFをそれぞれ同時に(言わば、上記逐次反応を「折り畳んで」)実施し、その後、蒸留によりHFC−1234yfを得るものとした。本発明のこのような製造方法によれば、HFC−1234yfをより高選択的に製造することが可能となる。
【0010】
本発明の上記第1の要旨による製造方法において、
工程c)より得られる第2Aフラクションが、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)に加えて、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)および1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)の少なくとも一方を含んで成るものであってよく、ならびに
工程d)が、第2Aフラクションを更なる蒸留に付して、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)および1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)の少なくとも一方を含んで成る第3Aフラクションと、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)を含んで成る第4Aフラクションとに分離し、第3Aフラクションを工程b)の脱HF反応に付し、および第4Aフラクションを工程a)の水素化反応に付すことを含むものであってよい。
これにより、中間体であるHFC−245ebおよびHFC−236eaの少なくとも一方ならびにHFC−1225yeをそれぞれ適切な反応段階に戻して使用することができる。
しかしながら、本発明の第1の要旨はこれに限定されず、例えば第2Aフラクションをそのまま全部、工程a)の水素化反応に付すようにしてもよい。
【0011】
本発明の第2の要旨においては、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)の製造方法であって、
p)原料のヘキサフルオロプロペンを還元触媒の存在下にて水素化して、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)および1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)を含む反応混合物を得る工程、
q)工程p)より得た反応混合物を蒸留に付して、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)を含んで成る第1Bフラクションと、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)を含んで成る第2Bフラクションとに分離する工程、および
r)第1Bフラクションを脱HF反応に付して、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)を含んで成る反応混合物を得る工程
を含み、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)を工程r)の反応混合物中に得る方法が提供される。
【0012】
本発明の第2の要旨による製造方法においては、HFPからHFC−1234yfを生じるために、以下のような反応が進行していると考えられる。
【化2】

本発明者らは、HFPを適切な条件で水素化することによって、HFC−236eaに加えてHFC−245ebが直接に得られることを見出し、得られたHFC−245ebを蒸留分離して脱HFすることによりHFC−1234yfを得るものとした。本発明のこのような製造方法によれば、HFC−1234yfをより高選択的に製造することが可能となる。
【0013】
本発明の上記第2の要旨による製造方法は、工程q)より得られる第2Bフラクションを工程p)の水素化反応に付すことを更に含むものであってよい。
これにより、中間体であるHFC−236eaを水素化に付してHFC−245ebを得ることができる。
しかしながら、本発明の第2の要旨はこれに限定されず、第2Bフラクションを水素化に利用しなくてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヘキサフルオロプロペン(HFP)を原料として用い、水素化、脱HFおよび蒸留を適切に組み合わせることにより、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)をより高選択的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1つの実施形態における1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)の製造方法を説明する概略図である。
【図2】本発明のもう1つの実施形態における1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)の製造方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の2つの実施形態について図面を参照しながら以下に詳述する。
【0017】
(実施形態1)
本実施形態は、水素化反応後に脱HFを行い、その後に蒸留を行う態様(「折畳み」タイプ)に関する。
【0018】
図1を参照して、ヘキサフルオロプロペン(HFP)を原料として外部からライン11に供給し、および、後述するように蒸留塔T12からライン17を通じて取り出した第6ストリーム(S16)をライン11にリサイクルする。第6ストリーム(S16)は1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)を含んで成る第4Aフラクションである。これにより、フィード(F1)としてHFPおよびHFC−1225yeの混合物がライン11を通じて反応器R11に供給される。
【0019】
フィード(F1)として供給されたHFPおよびHFC−1225yeの混合物は、反応器R11にて還元触媒の存在下にて水素化(図1中、Hの供給は省略する)に付されて、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)および1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)を生じる。尚、反応混合物中には、未反応のHFPおよびHFC−1225yeもわずかに残留し得るが、最終的にHFC−1234yfに転化しない物質は実質的に存在しないことが好ましい。
【0020】
このような還元触媒には、例えば、一般的な還元触媒を使用し得る。好ましい還元触媒は、Pd、Pt、Rh、Ru、またはReなどの金属を、活性炭、アルミナなどの金属酸化物、または金属フッ化物に担持したものである。金属の担持割合は0.1〜20重量%であり、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは0.5〜5重量%である。
【0021】
触媒によっては還元の能力が異なり、還元が進みすぎたり、逆に還元が進まなかったり(転化率が上がらなかったり)することもあるので、触媒は本実施形態に従った目的に応じて適宜選択され得る。
反応圧力は特に限定されず、減圧下、常圧下、もしくは加圧下で反応を進行させることが可能であるが、常圧下もしくは加圧下での反応が好ましい。約0〜1.5MPaG(ゲージ圧)の範囲の圧力とすることが好ましく、このような圧力は反応の進行に際し比較的大きな装置を要しないという利点がある。しかしながら、この範囲外の圧力を適用することも可能である。
反応温度は、通常約30℃〜400℃の範囲とされ、好ましくは約30℃〜300℃、更に好ましくは約30℃〜180℃の範囲である。不必要に高い反応温度としないことによって、副生成物を比較的少量に抑えることができる。また、本反応は発熱反応であるため部分的に(触媒の一部が)上記の温度範囲を超えて高温になることがあってもよい。
接触時間はW/F0(g・Nml−1・sec)(この場合、F0(Nml・sec−1)は反応器R11へのフィード(F1)の供給量であり、W(g)は反応器R11に充填した触媒の量である)で表わされ、通常約0.1〜30の範囲とされ得、好ましくは約0.5〜15の範囲である(尚、単位における記号「N」は0℃および1atmでの標準状態換算を示す。以下も同様である)。接触時間は、選択率および転化率に影響を与えるので、目的に応じて適宜選択され得る。
水素化に用いる水素(H)と、原料であるHFPおよびHFC−1225yeは、通常、理論等量以上の比で混合して反応器R11に供給される。よって、H/(HFPおよびHFC−1225ye)の供給モル比は通常1〜6の範囲であり、好ましくは1〜3である。
【0022】
次に、反応器R11にて得られた反応混合物はライン12より第1ストリーム(S11)として抜き出され、反応器R12に供給される。そして、反応混合物中のHFC−236eaおよびHFC−245ebが脱HFに付されて、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)および1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)を生じる。尚、これにより得られる反応混合物中には、未反応のHFC−236eaおよびHFC−245ebなどが残留し得る。
【0023】
脱HF反応には、一般的な脱ハロゲン化水素反応に用いられる触媒を使用し得る。具体的には金属酸化フッ化物、もしくは金属フッ化物等であり、更に具体的には酸化フッ化クロム、酸化フッ化アルミニウム、フッ化ニオブ、フッ化マグネシウム、フッ化タンタル、フッ化アンチモンなどであるが、特に限定されない。また、例えば、上記の特許文献8に開示されているような活性炭系触媒を使用してもよい。
【0024】
反応圧力は特に限定されず、減圧下、常圧下、もしくは加圧下で反応を進行させることが可能であるが、常圧下での反応が好ましい。常圧下での反応は、加圧下での反応に比べて平衡的に有利であり、減圧下での反応に比べて比較的大きな装置を要しないという利点がある。
反応温度は、常圧下の場合は約200〜600℃の範囲とされ得、好ましくは250〜450℃の範囲である。
接触時間はW’/F0’(g・Nml−1・sec)(この場合、F0’(Nml・sec−1)は反応器R12への第1ストリーム(S11)および存在する場合には後述する第5ストリーム(S15)の供給量であり、W’(g)は反応器R12に充填した触媒の量である)で表わされ、通常約0.1〜120の範囲とされ得、好ましくは約0.5〜60の範囲である。
本実施形態における反応では脱HF反応が律速段階となっている。
【0025】
次に、反応器R12にて得られた反応混合物はHF脱離後、ライン13より第2ストリーム(S12)として抜き出され、蒸留塔T11に供給される。第2ストリーム(S12)は、HFC−1234yf(標準沸点約−29℃)およびHFC−1225ye(標準沸点約−19.5℃(Z異性体)および約−15.3℃(E異性体))を含み、蒸留により、HFC−1234yf(低沸点成分)を含んで成る第1Aフラクションと、HFC−1225ye(高沸点成分)を含んで成る第2Aフラクションとに分離される。
【0026】
第1Aフラクションは蒸留塔T11よりライン14を通じて第3ストリーム(S13)として抜き出される。第1Aフラクションは、好ましくはHFC−1234yfより実質的に成り、第1Aフラクションによって、HFC−1234yfを得ることができる。
【0027】
第2Aフラクションは蒸留塔T11よりライン15を通じて第4ストリーム(S14)として抜き出される。第2Aフラクションは、一般的には、HFC−1225yeに加えてHFC−245eb(標準沸点約23℃)および/またはHFC−236ea(標準沸点約6℃)を含み得る。
【0028】
このようにして得られた第2Aフラクションは、蒸留塔T11より第4ストリーム(S14)として抜き出された後、更に蒸留塔T12に供給され、蒸留により、HFC−245ebおよびHFC−236ea(高沸点成分)の少なくとも一方、一般的には双方を含んで成る第3Aフラクションと、HFC−1225ye(低沸点成分)を含んで成る第4Aフラクションとに分離される。第3Aフラクションは、蒸留塔T12よりライン16を通じて第5ストリーム(S15)として抜き出され、反応器R12に戻されて、脱HF反応に付され得る。第4Aフラクションは、蒸留塔T12よりライン17を通じて第6ストリーム(S16)として抜き出され、上述したようにHFPと共に反応器R11にフィード(F1)として供給されて、水素化反応に付される。
【0029】
以上のようにして、本実施形態によれば、HFPからHFC−1225yeを経てHFC−1234yfを得る逐次反応を簡素化されたプロセスにて実施して、HFC−1234yfを高選択的に製造することができる。本実施形態の製造方法は連続的に実施され得る。
【0030】
なお、本実施形態において不純物の生成はわずかであるが、低沸および高沸の不純物は、蒸留によりストリーム(製品ストリームおよびリサイクルストリームなど)中より適宜除去され得る。また、工程中で生成するフッ化水素(HF)は水洗および/または蒸留により適宜分離除去され得る。未反応の水素(H)がストリーム中に存在し得るが、分離除去または反応器R11へのリサイクルなどによって、適宜処理され得る。
【0031】
(実施形態2)
本実施形態は、水素化反応後に蒸留を行い、その後に脱HFを行う態様(「直接」タイプ)に関する。以下、特に説明のない限り、上述の実施形態1と同様である。
【0032】
図2を参照して、ヘキサフルオロプロペン(HFP)を原料として外部からライン21に供給し、および、後述するように蒸留塔T21からライン24を通じて取り出した第4ストリーム(S24)をライン21にリサイクルする。第4ストリーム(S24)はHFC−236eaを含んで成る第2Bフラクションである。これにより、フィード(F2)としてHFPおよびHFC−236eaの混合物がライン21を通じて反応器R21に供給される。但し、HFC−236eaの供給は本実施形態に必須ではない。
【0033】
フィード(F2)として供給されたHFPおよびHFC−236eaの混合物は、反応器R21にて還元触媒の存在下にて水素化(図2中、Hの供給は省略する)に付されて、HFC−236eaおよびHFC−245ebを生じる。本実施形態においては、フィード(F2)としてHFPのみを供給しても、HFPからHFC−245ebが直接生じ得る。尚、反応混合物中には、HFC−1225yeも含まれ得る。
【0034】
このような還元触媒には、HFPからHFC−245ebを直接生じ得るような任意の適切な還元触媒、例えば実施形態1にて上述したものなどを適宜使用し得る。
【0035】
触媒によっては還元の能力が異なり、還元が進みすぎたり、逆に還元が進まなかったり(転化率が上がらなかったり)することもあるので、触媒は本実施形態に従った目的に応じて適宜選択され得る。
反応圧力は特に限定されず、減圧下、常圧下、もしくは加圧下で反応を進行させることが可能であるが、常圧下もしくは加圧下での反応が好ましい。約0〜1.5MPaG(ゲージ圧)の範囲の圧力とすることが好ましく、このような圧力は反応の進行に際し比較的大きな装置を要しないという利点がある。しかしながら、この範囲外の圧力を適用することも可能である。
反応温度は、通常約30℃〜500℃の範囲とされ、好ましくは約30℃〜400℃、更に好ましくは約30℃〜300℃の範囲である。不必要に高い反応温度としないことによって、副生成物を比較的少量に抑えることができる。また、本反応は発熱反応であるため部分的に(触媒の一部が)上記の温度範囲を超えて高温になることがあってもよい。
接触時間はW/F0(g・Nml−1・sec)(この場合、F0(Nml・sec−1)は反応器R21へのフィード(F2)の供給量であり、W(g)は反応器R21に充填した触媒の量である)で表わされ、通常約0.1〜30の範囲とされ得、好ましくは約0.5〜15の範囲である。接触時間は、選択率および転化率に影響を与えるので、目的に応じて適宜選択され得る。
水素化に用いる水素(H)と、原料であるHFP(および本実施形態のようにフィード中に存在する場合にはHFC−236ea)は、通常、理論等量以上の比で混合して反応器R21に供給される。よって、H/HFP(または、本実施形態のようにHFC−236eaがフィード中に存在する場合は、H/(HFPおよびHFC−236ea))の供給モル比(ガス状態では体積比に等しい)は通常1〜6の範囲であり、好ましくは1〜4である。
【0036】
次に、反応器R21にて得られた反応混合物はライン22より第1ストリーム(S21)として抜き出され、蒸留塔T21に供給される。第1ストリーム(S21)は、HFC−245ebおよびHFC−236eaを含み、蒸留により、HFC−245eb(高沸点成分)を含んで成る第1Bフラクションと、HFC−236ea(低沸点成分)を含んで成る第2Bフラクションとに分離される。
【0037】
第1Bフラクションは蒸留塔T21よりライン23を通じて第2ストリーム(S22)として抜き出され、反応器R22に供給される。そして、第1Bフラクション中のHFC−245ebが脱HFに付されて、HFC−1234yfを生じる。
【0038】
脱HF反応の条件は実施形態1と同様である。
反応圧力は特に限定されず、減圧下、常圧下、もしくは加圧下で反応を進行させることが可能であるが、常圧下での反応が好ましい。常圧下での反応は、加圧下での反応に比べて平衡的に有利であり、減圧下での反応に比べて比較的大きな装置を要しないという利点がある。
反応温度は、常圧下の場合は約200〜600℃の範囲とされ得、好ましくは250〜450℃の範囲である。
接触時間はW’/F0’(g・Nml−1・sec)(この場合、F0’(Nml・sec−1)は反応器R22への第2ストリーム(S22)および存在する場合には後述するリサイクルストリームの供給量であり、W’(g)は反応器R22に充填した触媒の量である)で表わされ、通常約0.1〜120の範囲とされ得、好ましくは約0.5〜60の範囲である。
これにより得られる反応混合物は、未反応のHFC−245ebも残留し得るが、好ましくはHFC−1234yfを高純度で含んで成る。これによって、HFC−1234yfを得ることができる。所望により、反応混合物をHFC−1234yfを含んで成るフラクションと、HFC−245ebを含んで成るフラクションとに分離し、後者のフラクションを反応器R22に戻して(リサイクルストリーム)脱HF反応に付してよい。本実施形態における反応でも脱HF反応が律速段階となっている。
【0039】
他方、第2Bフラクションは蒸留塔T21よりライン24を通じて第4ストリーム(S24)として抜き出され、上述したようにHFPと共に反応器R21にフィード(F2)として供給されて、水素化反応に付される。尚、第2Bフラクションは、一般的には、HFC−236eaに加えてHFC−1225yeを含み得る。
【0040】
以上のようにして、本実施形態によれば、HFPからHFC−245ebを直接得る反応を利用することにより、極めて簡単なプロセスでHFC−1234yfを高選択的に製造することができる。本実施形態の製造方法も連続的に実施され得る。
【0041】
なお、本実施形態において不純物の生成はわずかであるが、低沸および高沸の不純物は、蒸留によりストリーム(製品ストリームおよびリサイクルストリームなど)中より適宜除去され得る。また、工程中で生成するフッ化水素(HF)は水洗および/または蒸留により適宜分離除去され得る。未反応の水素(H)がストリーム中に存在し得るが、分離除去または反応器R21へのリサイクルなどによって、適宜処理され得る。
【実施例1】
【0042】
図1を参照して詳述した実施形態1に従って、本発明の方法を実施した。
【0043】
原料にはHFPをガス状態で用いた。この原料と蒸留塔T12からリサイクルされる第6ストリーム(S16)を一緒にして、フィード(F1)として反応器R11に供給して還元触媒の存在下にて水素化反応に付した。還元触媒には活性炭担持Pd触媒(Pd担持量:3重量%)を用いた。反応条件は次の通りであった: 反応温度は200℃とし、反応圧力は常圧とした。H/(HFPおよびHFC−1225ye)の供給体積比3とした。また、反応器R11へのフィード(F1)の供給量をF0(Nml・sec−1)とし、反応器R11に充填した触媒の量をW(g)として、W/F0=8(g・Nml−1・sec)であった。
反応器R11にて得られた反応混合物を第1ストリーム(S11)として抜き出し、反応器R12に供給して脱HF反応に付した。反応器R12には、蒸留塔T12からリサイクルされる第5ストリーム(S15)も供給して脱HF反応に付した。触媒には酸化フッ化クロム触媒(フッ素含量:約31.4重量%)を用いた。反応条件は次の通りであった: 反応温度は400℃とし、反応圧力は常圧とした。また、反応器R12への第1ストリーム(S11)および第5ストリーム(S15)の供給量をF0’(Nml・sec−1)とし、反応器R12に充填した触媒の量をW’(g)として、W’/F0’=20(g・Nml−1・sec)であった。
反応器R12にて得られた脱HF後の反応混合物を第2ストリーム(S12)として抜き出し、蒸留塔T11に移送して、低沸点部分である第3ストリーム(S13)と高沸点部分である第4ストリーム(S14)とに分離した。得られた第4ストリーム(S14)を蒸留塔T12に移送して、高沸点部分である第5ストリーム(S15)と低沸点部分である第6ストリーム(S16)とに分離した。得られた第5ストリーム(S15)および第6ストリーム(S16)は、上述のように、それぞれその全量を反応器R12および反応器R11にリサイクルした。
【0044】
運転開始より12時間経過した後、フィード(F1)および第1〜6ストリーム(S11〜S16)の組成をガスクロマトグラフィーにより分析し、水素(H)およびフッ化水素(HF)を除いた各成分の流量を求めた。結果を表1に示す。尚、表中、記号「-」は検出されなかったことを、「trace」は痕跡量(または微量)しか存在しなかったことを示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1より、第1Aフラクションに該当する第3ストリーム(S13)としてHFC−1234yfが高収率で得られることが確認された。
【実施例2】
【0047】
図2を参照して詳述した実施形態2に従って、本発明の方法を実施した。
【0048】
原料にはHFPをガス状態で用いた。この原料と蒸留塔T21からリサイクルされる第4ストリーム(S24)を一緒にして、フィード(F2)として反応器R21に供給して還元触媒の存在下にて水素化反応に付した。還元触媒には活性炭担持Pd触媒(Pd担持量:3重量%)を用いた。反応条件は次の通りであった: 反応温度は200℃とし、反応圧力は常圧とした。H/(HFPおよびHFC−236ea)の供給体積比4とした。また、反応器R21へのフィード(F2)の供給量をF0(Nml・sec−1)とし、反応器R21に充填した触媒の量をW(g)として、W/F0=8(g・Nml−1・sec)であった。
反応器R21にて得られた反応混合物を第1ストリーム(S21)として抜き出し、蒸留塔T21に供給して、高沸点部分である第2ストリーム(S22)と低沸点部分である第4ストリーム(S24)とに分離した。
得られた第2ストリーム(S22)を反応器R22に供給して脱HF反応に付した。触媒には酸化フッ化クロム触媒(フッ素含量:約31.4重量%)を用いた。反応条件は次の通りであった: 反応温度は400℃とし、反応圧力は常圧とした。また、反応器R22への第2ストリーム(S22)の供給量をF0’(Nml・sec−1)とし、反応器R22に充填した触媒の量をW’(g)として、W’/F0’=20(g・Nml−1・sec)であった。
他方、第4ストリーム(S24)は、上述のように、その全量を反応器R21にリサイクルした。
【0049】
運転開始より12時間経過した後、フィード(F2)および第1〜4ストリーム(S21〜S24)の組成をガスクロマトグラフィーにより分析し、水素(H)およびフッ化水素(HF)を除いた各成分の流量を求めた。結果を表2に示す。尚、表中、記号「-」は検出されなかったことを、「trace」は痕跡量(または微量)しか存在しなかったことを示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2より、脱HF後の反応混合物に該当する第3ストリーム(S23)中にHFC−1234yfが90%の収率で得られた。この第3ストリーム中のHFC−245ebは中間体であるから、HFC−245ebを分離して脱HF反応にリサイクルすることによりHFC−1234yfが得られることを考慮すれば、97%以上の高収率が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)は冷媒物質として使用でき、ヘキサフルオロプロペン(HFP)を原料としてHFC−1234yfを製造する方法は、代替冷媒の製造方法として有望なものと期待され得る。
【0053】
本願は、発明の名称を「PROCESS FOR PRODUCING 1,1,1,2-TETRAFLUOROPROPENE(1,1,1,2−テトラフルオロプロペンの製造方法)」とする2007年12月27日に出願された米国仮出願第61/017,052号に基づく優先権を主張する。同出願の内容は、参照することによりその全体が本願明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0054】
11〜17、21〜25...ライン
R11、R21...反応器(水素化反応)
R12、R22...反応器(脱HF反応)
T11、T12、T21...蒸留塔
F1、F2...フィード(混合物)
S11...第1ストリーム(反応混合物)
S12...第2ストリーム(反応混合物)
S13...第3ストリーム(第1Aフラクション)
S14...第4ストリーム(第2Aフラクション)
S15...第5ストリーム(第3Aフラクション)
S16...第6ストリーム(第4Aフラクション)
S21...第1ストリーム(反応混合物)
S22...第2ストリーム(第1Bフラクション)
S23...第3ストリーム(反応混合物)
S24...第4ストリーム(第2Bフラクション)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,2−テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
原料のヘキサフルオロプロペンを還元触媒の存在下にて水素化して、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパンを得る第1の水素化工程、
該1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパンを脱HF反応に付して、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペンを得る第1の脱HF工程、
該1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペンを還元触媒の存在下にて水素化して、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパンを得る第2の水素化工程、および
該1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパンを脱HF反応に付して、1,1,1,2−テトラフルオロプロペンを得る第2の脱HF工程
を逐次的に実施することを含む方法。
【請求項2】
第1の水素化工程および第2の水素化工程が同じ条件下で実施され、第1の脱HF工程および第2の脱HF工程が同じ条件下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1,1,1,2−テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペンを還元触媒の存在下にて水素化して、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパンを得る水素化工程、および
該1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパンを脱HF反応に付して、1,1,1,2−テトラフルオロプロペンを得る脱HF工程
を実施することを含む方法。
【請求項4】
水素化工程における還元触媒が、Pd、Pt、Rh、RuおよびReからなる群より選択される少なくとも1種の金属を活性炭に担持したものである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
水素化工程が、気相で実施される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
脱HF工程が、気相で実施される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
脱HF工程が、触媒の存在下にて実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
脱HF工程における触媒が、酸化フッ化クロム、酸化フッ化アルミニウム、フッ化ニオブ、フッ化マグネシウム、フッ化タンタルおよびフッ化アンチモンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水素化工程における還元触媒が、金属を0.5〜5重量%の割合で担持している、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
水素化工程が、30℃〜300℃の温度で実施される、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
脱HF工程が、250℃〜450℃の温度で実施される、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77086(P2012−77086A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252996(P2011−252996)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【分割の表示】特願2010−525122(P2010−525122)の分割
【原出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】