説明

1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンを含む共沸様組成物

1−ブロモプロパン及び1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンを含む共沸混合物様組成物、並びにその使用について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンを含む共沸混合物及び共沸混合物様組成物、並びに共沸混合物及び共沸混合物様組成物を用いて、基材を洗浄する、コーティングを沈着させる、熱エネルギーを伝達する、及び工作作業を円滑にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロフルオロカーボン(CFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、及びヒドロクロロカーボン(HCC、例えば、1,1,1−トリクロロエタン及び四塩化炭素)は、乾燥、洗浄(例えば、プリント基板からフラックス残渣を除去する)、及び蒸気脱脂のような、広範な溶媒用途に用いられている。これらの物質はまた、冷蔵及び熱伝プロセスにおいても用いられている。しかしながら、塩素含有炭素部位における光分解性及び等方性反応性は、地球のオゾン層の破壊の一因となることが示されている。加えて、CFCの長い大気寿命は、地球温暖化につなっている。結果として、CFCを置き換えようとする世界的な動きが存在する。
【0003】
代替品に求められる特徴は、オゾン層を破壊する潜在力が低いことに加えて、典型的には、種々の溶媒洗浄用途に好適な範囲の沸点を有し、低可燃性、及び毒性が低いことを含む。いくつかの用途では、溶媒の代替品はまた、炭化水素系の汚れ及びフルオロカーボン系の汚れの両方を溶解する能力を有するべきである。いくつかの実施形態では、溶媒の代替品はまた、毒性が低く、引火点を有さず(ASTM D3278−98 e−1、「Flash Point of Liquids by Small Scale Closed−Cup Apparatus」により測定することができるとき)、許容可能な安定性を有し、大気寿命が短く、地球を温暖化させる潜在力が低い。
【0004】
ヒドロフルオロエーテル(HFE)は、CFC及びHCFCの代替品として関心が持たれている。一般に、HFEは化学的に安定であり、毒性が低く、不燃性であり、オゾン層を破壊しない。
【0005】
いくつかの例では、HFEは、1種以上の共溶媒と共沸混合物を形成して、HFEの溶媒特性を改変又は高めることができる。多くの共沸混合物が、それを有用な溶媒にする特性を保有する。例えば、共沸混合物は、加工及び使用中の沸点ドリフトを避ける一定の沸点を有する。加えて、共沸混合物を溶媒として用いるとき、沸騰又は還流中組成物が変化しないため、特性は一定に保たれる。溶媒として用いられる共沸混合物はまた、蒸留により便利に回収できる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの実施形態では、優れた溶媒強度を有する共沸混合物様組成物を提供することが望ましい。別の態様では、いくつかの実施形態では、低可燃性の共沸混合物様組成物を提供することが望ましい。更に別の態様では、いくつかの実施形態では、オゾン層を破壊せず、及び/又は地球の温暖化をそれほど助長しないよう比較的短い大気寿命を有する共沸混合物様組成物(すなわち、地球を温暖化させる潜在力が低い共沸混合物様組成物)を提供することが望ましい。
【0007】
簡潔に言うと、1つの実施形態では、本発明は、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンと1−ブロモプロパンとのブレンドを含む共沸混合物様組成物を提供する。いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物は、潤滑添加剤、及び/又はフッ化水素酸を更に含む。
【0008】
別の実施形態では、本発明は、共沸混合物様組成物、及び共沸混合物様組成物に可溶性又は分散性である少なくとも1種のコーティング物質を含むコーティング組成物を提供する。
【0009】
更に別の実施形態では、本発明は、表面の少なくとも一部に共沸混合物様組成物を含むコーティング組成物を適用する工程を含む、表面上にコーティングを沈着させるプロセスであって。少なくとも1種のコーティング物質が共沸混合物様組成物に可溶性又は分散性であるプロセスを提供する。
【0010】
更に別の実施形態では、本発明は、金属、サーメット、又は複合材料を潤滑するプロセスであって、本発明の共沸混合物様組成物を含む潤滑剤を使用するプロセスを提供する。
【0011】
更に別の実施形態では、本発明は、汚染物質が共沸混合物様組成物に溶解する、分散する、又は置換されるまで、本発明による1種以上の共沸混合物様組成物を基材と接触させる工程と、基材の表面から溶解、分散、又は置換された汚染物質を含有する共沸混合物様組成物を除去する工程と、を含む、基材の表面からの汚染物質の除去を補助するプロセスを提供する。
【0012】
更に別の実施形態では、本発明は、本発明による1種以上の共沸混合物様組成物を熱伝流体として用いる、熱伝プロセスを提供する。
【0013】
上記要約は、それぞれの実施形態を記載することを意図するものではない。本発明の1つ以上の実施形態の詳細はまた、以下の明細書に記載する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、明細書及び特許請求の範囲から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本開示の実施形態は、添付図面において、一例として例示され、限定するものではない。
【図1】共沸混合物及び共沸混合物様領域を示す、沸点対成分Aの割合の概要図。
【図2】沸点対1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンの重量パーセントのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
共沸混合物組成物、又は共沸混合物は、その沸点で液体共沸混合物組成物の部分蒸発により生じる蒸気が液体と同じ組成物を有する、単一物質のように挙動する2種以上の物質の混合物を含む。
【0016】
用語を定義するために、図1を用いる。図1に示すのは、仮想上の混合物、B’及びC’である。混合物B’は成分A及びBを含む。混合物C’は成分A及びCを含む。混合物B’及びC’は、沸点対成分Aの割合としてプロットされ、それぞれ曲線150及び151として表される。図1では、個々の成分、A、B、及びCの沸点は、それぞれ95℃、105℃、及び100℃である。
【0017】
共沸混合物組成物は、個々の成分のそれぞれより高い最大沸点、又はそれより低い最小沸点のいずれかを呈する定沸点混合物である。図1では、混合物B’の共沸は154により表される。この共沸混合物は、成分A及びBの両方よりも高い沸点を有する。混合物C’の共沸は155により表される。この共沸混合物は、成分A及びCの両方よりも低い沸点を有する。
【0018】
共沸混合物様組成物は、個々の成分のそれぞれの沸点より高い、又は個々の成分のそれぞれの沸点より低い温度で沸騰する。図1では、混合物B’の共沸混合物様組成物は、斜線部152により表される。それ故、20%〜100%の成分Aを含むB’組成物は共沸混合物様であると考えられ、成分A及びBの両方よりも高い沸点を有する。共沸混合物様である混合物C’は、斜線部153により表される。0%〜40%の成分Aを含むC’組成物は共沸混合物様であると考えられ、成分A及びCの両方よりも低い沸点を有する。図1に見ることができるように、共沸混合物組成物は、物質の特定の混合物の共沸混合物様組成物の範囲内に含まれる。
【0019】
共沸混合物組成物は、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパン及び1−ブロモプロパンを含む。特定の共沸混合物組成物中の1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンの濃度は、対応する共沸混合物組成物と実質的に異なってもよく、この許容差の大きさは濃度に依存する。いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物は、周囲圧力でそれらの間に形成される共沸混合物を含むとき、本質的に同じ濃度の1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンを含む。いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物は、経時的に組成物の溶媒力が著しく変化しない。
【0020】
典型的には、共沸混合物様組成物は、個々の成分溶媒の特性のうちいくつかを保持し、これは特性が組み合わせられるため、個々の成分を超えて性能を強化できる。
【0021】
1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンに加えて、共沸混合物様組成物の形成において干渉しない他の化合物を添加してよい。典型的には、他の化合物が少量存在する。例えば、いくつかの実施形態では、共溶媒又は界面活性剤が存在して、例えば、共沸混合物様組成物における、水、汚れ、又はコーティング物質(例えば、ペルフルオロポリエーテル潤滑剤及びフルオロポリマー)のような、物質の分散性又は可溶性を高めることができる。いくつかの実施形態では、少量の潤滑添加剤が存在して、例えば、共沸混合物様組成物の潤滑特性を高める場合がある。
【0022】
本発明の共沸混合物様組成物は、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパン及び1−ブロモプロパンのブレンドを含み、このブレンドは、約101kPa(760トール)にて約54.2℃未満で沸騰する、0.1〜約42重量%の1−ブロモプロパン及び99.9〜約58重量%の1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンから本質的になる。これは、図2の線12に見ることができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、本発明の共沸混合物様組成物は、最も沸点の低い成分から共沸混合物様組成物の最小沸点までの沸点降下の75%未満の沸点を有する。つまり、最も沸点の低い成分の沸点がX(℃)であり、共沸混合物様組成物の最小沸点の沸点がY(℃)である場合、これらの共沸混合物様組成物の沸点(℃)はX−0.25(X−Y)より低い。
【0024】
本発明のこれらの共沸混合物様組成物は、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンのブレンドを含み、このブレンドは、約101kPa(760トール)にて約54.0℃未満で沸騰する、約2〜約39重量%の1−ブロモプロパン及び約98〜約61重量%の1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンから本質的になる。これは、図2の線16に示される。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明の共沸混合物様組成物は、最も沸点の低い成分から共沸混合物様組成物の最小沸点までの沸点降下の50%未満の沸点を有する。つまり、最も沸点の低い成分の沸点がX(℃)であり、共沸混合物様組成物の最小沸点の沸点がY(℃)である場合、これらの共沸混合物様組成物の沸点(℃)はX−0.5(X−Y)より低い。
【0026】
本発明のこれらの共沸混合物様組成物は、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンのブレンドを含み、このブレンドは、約101kPa(760トール)にて約53.7℃未満で沸騰する、約4〜約34重量%の1−ブロモプロパン及び約96〜約66重量%の1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンから本質的になる。これは、図2の線16に示される。
【0027】
本発明の共沸混合物様組成物は、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンのブレンドを含み、このブレンドは、約96.6kPa(725トール)にて約51.7℃で沸騰する、約80.9重量%の1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び約19.1重量%の1−ブロモプロパンから本質的になる。
【0028】
当該技術分野において既知であるように、共沸混合物の組成物は、圧力により変化する、例えば、周囲圧力が上昇すると、液体の沸点も上昇し、同様に、周囲圧力が低下すると、液体の圧力も低下する。
【0029】
いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物は均質である、すなわち、周囲条件(すなわち、室温及び周囲圧力)下で単相を形成する。
【0030】
共沸混合物様組成物は、従来の混合手段を用いて、所望の量の1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパン、並びに任意の他の微量成分(例えば、界面活性剤又は潤滑添加剤)を混合することにより調製することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物は、洗浄プロセス、熱伝プロセスにおいて、冷媒、潤滑流体、コーティング液体等として用いることができる。
【0032】
種々の異なる溶媒洗浄及び/又は汚染物質除去技術は当該技術分野において既知である。1つの実施形態では、洗浄プロセスは、基材上の汚染物質が共沸混合物様組成物に実質的に溶解、分散、又は置換されるまで、本発明の共沸混合物様組成物の1種を汚染された基材と接触させ、次いで(例えば、基材を新鮮な汚染されていない共沸混合物様組成物ですすぐことにより、又は槽から共沸混合物様組成物に浸漬された基材を取り出し、基材から汚染された共沸混合物様組成物を流すことを可能にすることにより)基材から溶解、分散、又は置換された汚染物質を含有する共沸混合物様組成物を除去することにより、実行することができる。共沸混合物様組成物は、気相又は液相のいずれか(又は両方)で用いることができ、基材と「接触させる」ための任意の既知の技術を用いることができる。例えば、液体共沸混合物様組成物を基材上に噴霧若しくははけ塗りしてよく、蒸気共沸混合物様組成物を基材に吹きつけてよく、又は基材を蒸気若しくは液体共沸混合物様組成物のいずれかに浸漬してもよい。いくつかの実施形態では、高温、超音波エネルギー、及び/又は攪拌を用いて、洗浄を促進してよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物はまた、半導体製作中の汚染物質の除去にも有用である。例えば、集積回路又は他の小型構成品を共沸混合物様組成物に曝露して、フォトレジスト残留物、イオン注入後残留物、エッチング後残留物、微粒子、又は更には水を含む、表面上の望ましくない物質を除去することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明の代表的なプロセスを用いて有機及び/又は無機基材を洗浄してよい。基材の代表的な例としては、金属;セラミックス;ガラス;シリコンウェファー;ポリマー、例えばポリカーボネート、ポリスチレン、及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー;天然繊維(及びそれに由来する布地)、例えば、綿、絹、亜麻、羊毛、ラミー、皮革、及びスエード;合成繊維(及びそれに由来する布地)、例えば、ポリエステル、レーヨン、アクリル、ナイロン、ポリオレフィン、アセテート、トリアセテート、及びこれらのブレンド;天然繊維及び合成繊維を含む布地;並びに前述の材料の組み合わせ(例えば、積層体、混合物、ブレンド等)が挙げられる。いくつかの実施形態では、プロセスは、電子的構成要素(例えば、回路基板);光学又は磁気媒体;並びに医療機器及び医療物品、例えば注射器、手術装置、埋め込み型装置、及び人工器官の精密洗浄に特に有用である。
【0035】
いくつかの実施形態では、代表的な洗浄及び/又は汚染物質除去プロセスを用いて、基材の表面から大部分の汚染物質を溶解又は除去することができる。例えば、軽質炭化水素汚染物質;鉱物油、グリース、切削油及びスタンピング油、並びにワックスのようなより高分子量の炭化水素汚染物質;ペルフルオポリロエーテル、ブロモフルオロエチレンオリゴマー(ジャイロスコープ流体)、及びクロロトリフルオロエチレンオリゴマー(作動液、潤滑剤)のようなフルオロカーボン汚染物質;シリコーン油及びグリース;フォトレジスト、はんだ溶剤;微粒子;並びに精密、電子、金属、及び医療機器の洗浄において遭遇する他の汚染物質のような物質を除去することができる。いくつかの実施形態では、プロセスは、炭化水素汚染物質(特に、軽質炭化水素油)、フルオロカーボン汚染物質、フォトレジスト及び微粒子の除去に特に有用である。
【0036】
いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物はまた、抽出にも有用である。ここで、洗浄は、物体(例えば、天然由来の物質、食品、化粧品、及び医薬品)から、これらの物質を溶解又は置換することにより、汚染物質(例えば、脂肪、ワックス、油、又は他の溶媒)を除去することを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、代表的な共沸混合物様組成物はまた、コーティング沈着用途(この場合共沸混合物様組成物はコーティング物質の担体として機能して、物質の基材の表面上への沈着を可能にし、それにより共沸混合物様組成物を含むコーティング組成物を提供する)、及び共沸混合物様組成物を用いて基材表面上にコーティングを沈着させるプロセスにも用いることができる。プロセスは、基材の少なくとも1つの表面の少なくとも一部に、(a)共沸混合物様組成物、及び(b)共沸混合物様組成物に可溶性又は分散性である少なくとも1種のコーティング物質を含む液体コーティング組成物のコーティングを適用する工程を含む。コーティング組成物は、1種以上の添加剤(例えば、界面活性剤、着色剤、安定剤、酸化防止剤、難燃剤等)を更に含んでよい。好ましくは、プロセスは、例えば、蒸発させることにより(これは、例えば、熱又は真空の適用により補助され得る)、沈着したコーティングから共沸混合物様組成物を除去する工程を更に含む。
【0038】
このプロセスにより沈着させることができるコーティング物質としては、顔料、シリコーン潤滑添加剤、安定剤、接着剤、酸化防止剤、染料、ポリマー、医薬品、化粧品、剥離剤、無機酸化物等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好ましい物質としては、ペルフルオロポリエーテル、炭化水素、及びシリコーン潤滑添加剤;テトラフルオロエチレンの非晶質コポリマー;ポリテトラフルオロエチレン;及びこれらの組み合わせが挙げられる。このプロセスで使用するのに好適な物質の代表例としては、二酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム、ペルフルオロポリエーテル、ポリシロキサン、ステアリン酸、アクリル接着剤、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンの非晶質コポリマー、及びこれらの組み合わせが挙げられる。(汚染物質除去用途のための)上記基材のいずれをコーティングしてもよい。1つの実施形態で特に有用なのは、ペルフルオロポリエーテル潤滑剤による磁気ハードディスク若しくは電気コネクタのコーティング、又はシリコーン潤滑添加剤による医療機器のコーティングである。
【0039】
コーティング組成物を形成するために、組成物の成分(すなわち、用いられる共沸混合物様組成物、コーティング物質、及び任意の添加剤)を、コーティング物質を溶解、分散、又は乳化するために用いられる任意の従来の混合技術により、例えば、機械的攪拌、超音波攪拌、手動攪拌等により、組み合わせることができる。共沸混合物様組成物及びコーティング物質は、コーティングの所望の厚さに応じて任意の比で組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、コーティング物質は、コーティング組成物の約0.1〜約10重量パーセント含まれる。
【0040】
本発明の代表的な沈着プロセスは、任意の従来の技術によりコーティング組成物を基材に適用することにより実行することができる。例えば、組成物を基材上にはけ塗り又は噴霧(例えば、エアゾールとして)してもよく、又は基材をスピンコーティングしてもよい。いくつかの実施形態では、組成物に浸漬することにより、基材をコーティングする。浸漬は任意の好適な温度で実行してよく、任意の都合のよい時間維持してよい。基材がカテーテルのような管であり、組成物がカテーテルの管腔壁を確実にコーティングすることが望ましい場合、減圧を適用することにより、管腔に組成物を引き込むことが有利である場合がある。
【0041】
いくつかの実施形態では、コーティングを基材に適用した後、共沸混合物様組成物を蒸発により沈着したコーティングから除去することができる。いくつかの実施形態では、蒸発速度は減圧又は中程度の熱の適用により加速することができる。コーティングは任意の所望の厚さであってよい。一般に、厚さは、例えば、コーティング物質の粘度、コーティングが適用される温度、及び引き出し速度(浸漬が用いられる場合)のような要因により決定される。
【0042】
いくつかの実施形態では、熱伝流体が直接的又は間接的方式で熱エネルギーを伝達する(例えば、加熱する)ことができる場合、本発明の共沸混合物様組成物を熱伝プロセスにおける熱伝流体として用いることができる。直接熱伝(ときに「直接接触熱伝」と呼ばれる)は、流体をヒートシンク若しくは熱源と直接的に接触させることにより、熱伝流体が熱を直接的にヒートシンク若しくは熱源に、及び/又はヒートシンク若しくは熱源から流体に伝導する熱伝プロセスを指す。直接熱伝の例としては、電気構成要素の浸漬冷却及び内燃機関の冷却が挙げられる。
【0043】
間接的熱伝は、流体をヒートシンク若しくは熱源と直接的に接触させることなく、熱伝流体が熱をヒートシンク若しくは熱源に、及び/又はヒートシンク若しくは熱源から伝導する熱伝プロセスを指す。間接熱伝の例としては、ビル、自動車、及び静止機械で用いられるような、冷蔵、空調及び/又は加熱(例えば、ヒートポンプを用いる)プロセスが挙げられる。他の実施形態では、二次ループ冷媒として又は一次ループ冷媒として共沸混合物様組成物を使用することを含む熱伝プロセスが提供される。これらの実施形態では、二次ループ冷媒(すなわち、広い温度範囲の液体流体)は、熱源と一次ループ冷媒(すなわち、低温沸騰流体、これは、例えば、気体に膨張することにより熱を受け取り、典型的には圧縮機を用いることにより液体に圧縮されることにより熱を拒絶する)の間で熱を伝達するための手段を提供する。共沸混合物様組成物が有用である可能性のある設備の例としては、遠心冷却機、家庭用冷蔵庫/冷凍庫、自動車のエアコン、保冷輸送車両、ヒートポンプ、スーパーマーケットの食品冷却機及び陳列ケース、並びに低温貯蔵倉庫が挙げられる。
【0044】
間接熱伝プロセスでは、可動部(例えば、ポンプ及びバルブ)が長期間にわたって確実に作動し続けるために可動部が関与している場合、熱伝のための潤滑添加剤を、熱伝流体に組み込むことができる。一般に、これらの潤滑添加剤は、良好な熱及び加水分解安定性を有するべきであり、熱伝流体に対して少なくとも部分的可溶性を呈するべきである。好適な潤滑添加剤の例としては、鉱物油、脂肪酸エステル、クロロトリフルオロエチレン含有ポリマーのような高度にハロゲン化された油、及びアルキレンオキシドポリマーのような合成潤滑添加剤が挙げられる。共沸混合物様組成物はまた、有機ランキンサイクルにおいて作動流体として機能し、例えば工業プロセスからの廃熱、地熱、又は太陽熱のような源からエネルギーを回収できる。
【0045】
いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物を用いて、本発明の共沸混合物様組成物及び少なくとも1種の完全に揮発性である潤滑添加剤を含む作動流体又は潤滑剤を配合できる。潤滑添加剤は、本明細書では、工作物と工具との間の摩擦係数を修正する添加剤として定義される。いくつかの実施形態では、潤滑添加剤とともに共沸混合物様組成物は、工作作業用の作動流体を形成する。
【0046】
工作作業における代表的な基材としては、金属、サーメット、及び複合材料工作物が挙げられる。代表的な金属としては、高融点金属(例えば、タンタル、ニオビウム、モリブデン、バナジウム、タングステン、ハフニウム、レニウム、及びチタン)、貴金属(例えば、銀、金、及び白金)、高温金属(例えば、ニッケル、チタン合金、及びニッケルクロム)、例えば、マグネシウム、銅、アルミニウム、鋼(例えば、ステンレス鋼)を含む他の金属、合金(例えば、黄銅、及び青銅)、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0047】
典型的には、作動流体は、機械加工表面を潤滑し、それにより滑らかで、実質的に残留物の残っていない機械加工された工作物表面が得られる。いくつかの実施形態では、これらの作業で用いられる代表的な作動流体はまた、例えば、それから熱及び/又は微粒子状物質を除去することにより、機械加工環境(例えば、工作物と機械加工工具との間の表面界面)を冷却する。
【0048】
サーメットは、いずれか一方のみで単独ではみられない物理的特性を有する、セラミック及び金属成分の混合物からなる半合成製品である。例としては、金属炭化物、酸化物、及びケイ化物が挙げられる。
【0049】
複合材料は、本明細書では、ポリマーマトリックス、例えば、エポキシ樹脂中のガラス繊維又炭素繊維中の高温繊維の組み合わせ(例えば、積層体、混合物、ブレンド等)として記載される。
【0050】
いくつかの実施形態では、作動流体は、切削及び成形プロセスを潤滑して、摩擦を低減し、工具若しくは工作物内で発熱し、及び/又は工作物から工具への物質移動を防ぐように配合される。いくつかの実施形態では、作動流体は工作工具を完全に湿潤させる。いくつかの実施形態では、作動流体に含まれる共沸混合物様組成物は、工作工具及び工作物から蒸発する。いくつかの実施形態では、潤滑添加剤は、摩擦を低減し、工具及び工作物の表面上での発熱、及び/又は工作物から工具への物質移動を防ぐ薄膜として存在する。一般に、潤滑添加剤は、その沸点が、時期尚早に蒸発することなく工作プロセスを潤滑するのに十分高く、更に残留物がほとんど又は全く残らない(すなわち、揮発性である)ように工作プロセスから完全に蒸発するのに十分低いように選択される。工作作業用潤滑添加剤の例としては、C〜C14脂肪酸のエステル、アルキレングリコールエーテル、炭化水素留出物、及び乳酸のエステルが挙げられる。
【0051】
記載したそれぞれの用途では、共沸混合物様組成物をこのように用いてよく、又はブレンドもまた共沸混合物様であるならば、共沸混合物様組成物のブレンドを用いてよい。同様に、添加が共沸混合物の挙動を乱さないならば、微量の共溶媒を共沸混合物様組成物に添加してよい。有用な共溶媒としては、例えば、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、炭化水素、ヒドロクロロカーボン(HCC)、又は水を挙げることができる。いくつかの実施形態では、共沸混合物様組成物はフッ化水素酸(HF)を更に含んでよい。
【0052】
本発明の利点及び実施形態は、以下の実施例により更に例示されるが、これらの実施例に列挙したその特定の材料及び量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を過度に限定すると解釈されるべきではない。特に断らない限り、全ての材料は市販されているか、又は当業者に既知である。
【実施例】
【0053】
本発明の共沸混合物様組成物の調製、同定、及び試験を、以下の実施例に更に記載する。これらの実施例に列挙されるその具体的な材料及び量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を過度に限定するものと解釈すべきではない。これらの実施例では、全ての百分率、比率、及び比は、特に断らない限り重量による。
【0054】
1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンは、Synquest Labs(Aluchua,FL)から入手することができる。1−ブロモプロパンは、Aldrich Chemical Company,Inc.(Milwaukee,WI)から入手することができる。
【0055】
(実施例1)
1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンの種々の混合物を、以下の手順を用いて周囲気圧(722〜727トール)で蒸留して、混合物が二成分共沸混合物を形成するかどうかを確認し、形成した場合、共沸混合物の組成物及び沸点(bp℃)を記録した。混合物を調製し、同心管蒸留カラム(Ace Glass(Vinland,NJ)製モデル933)内で、周囲研究室圧力(722〜727トール)で蒸留した。それぞれの場合、蒸留により少なくとも60分間全還流で平衡化することが可能になる。それぞれの蒸留では、10〜1の液体還流比でカラムを操作しながら、5つの連続留出物サンプル(それぞれ、全液体電荷のおよそ10体積パーセント)を採取した。次いで、留出物サンプルの組成物を、RTX−200キャピラリーカラム(Restek Corp.(Bellefonte,PA)又はNukolキャピラリーカラム(Supelco(Bellefonte,PA)又はQuadrex 007シリーズメチルシリコーンキャピラリーカラム(Quadrex Corp.(New Haven,CT)及び熱伝導率検出器を備えるHP−5890シリーズIIプラスガスクロマトグラフを用いて分析した。それぞれの留出物の沸点を、熱電対を用いて測定した。この試験手順に続いて、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパン及び1−ブロモプロパンの共沸混合物を同定した。
【0056】
以下に示す表1では、共沸混合物の組成物及び沸点(指定した圧力における)を提示する。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2〜4)
本発明の共沸混合物様組成物の百分率範囲を、沸点計又は沸点装置(Cal−Glass for Research,Inc.(Costa Mesa,CA)製のモデルMBP−100)を用いて、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンの試験混合物の沸点を決定することにより確認した。試験組成物の低沸点成分のアリコート(25〜30ミリリットル(mL))を沸点装置に添加した。液体を加熱し、その沸点に平衡化させた(典型的には約30分)。平衡化した後、沸点を記録し、高沸点成分のおよそ1.0mLのアリコートを装置に添加し、得られた新組成物を約10分間平衡化させ、その時点で沸点を記録した。25〜30mLの高沸点成分を添加するまで、10分毎に約1.0mLの高沸点成分を試験混合物に添加しながら、基本的には上記のように試験を続けた。装置内25〜30mLの高沸点成分のアリコートで開始し、低沸点成分のおよそ1.0mLのアリコートを添加することにより、この試験手順を繰り返した。試験混合物が低沸点成分の沸点よりも低い沸点を呈したとき、共沸混合物様組成物の存在を書き留めた。
【0059】
得られた共沸混合物様組成物の範囲を表2に提示する。全ての沸点決定を標準圧力(760+/−1トール)で実行した。
【0060】
【表2】

【0061】
図2は、沸点対1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンの重量パーセントのグラフである。曲線10は、沸点対1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパン及び1−ブロモプロパンの混合物の重量パーセントのプロットである。線12は、完全な沸点降下を示す。線14は、75%の沸点降下を示す。線16は、50%の沸点降下を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンと、
(b)1−ブロモプロパンと、
のブレンドを含む共沸混合物様組成物であって、
前記ブレンドが、約101キロパスカル(760トール)にて約54.2℃未満で沸騰する、0.1〜約42重量パーセントの1−ブロモプロパンと58〜約99.9重量パーセントの1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンとから本質的になる、共沸混合物様組成物。
【請求項2】
前記ブレンドが、約101キロパスカル(760トール)にて約54.0℃未満で沸騰する、2〜約39重量パーセントの1−ブロモプロパンと61〜約98重量パーセントの1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンとから本質的になる、請求項1に記載の共沸混合物様組成物。
【請求項3】
前記ブレンドが、約101キロパスカル(760トール)にて約53.7℃未満で沸騰する、4〜約34重量パーセントの1−ブロモプロパンと66〜約96重量パーセントの1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンとから本質的になる、請求項1に記載の共沸混合物様組成物。
【請求項4】
前記組成物が共沸混合物であり、前記ブレンドが約96.7キロパスカル(725トール)にて約51.7℃未満で沸騰する、19.1重量パーセントの1−ブロモプロパンと80.9重量パーセントの1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−メトキシ−プロパンとから本質的になる、請求項1に記載の共沸混合物様組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の共沸混合物様組成物と、少なくとも1種のコーティング物質とを含むコーティング組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のコーティング組成物が第1表面の少なくとも一部に接触する、第1表面を有する基材を含むコーティングされた物品。
【請求項7】
請求項5に記載のコーティング組成物を、基材の少なくとも1つの表面の少なくとも一部に適用することを含み、前記少なくとも1種のコーティング物質が前記共沸混合物様組成物に可溶性又は分散性である、基材表面上にコーティングを沈着させるプロセス。
【請求項8】
請求項1に記載の共沸混合物様組成物と潤滑添加剤とを含む作動流体。
【請求項9】
前記潤滑添加剤が揮発性である、請求項8に記載の作動流体。
【請求項10】
フッ化水素酸を更に含む、請求項1に記載の共沸混合物様組成物。
【請求項11】
前記プロセスが請求項8に記載の作動流体を用いて潤滑される、金属、サーメット、又は複合材料を潤滑するプロセス。
【請求項12】
汚染物質が共沸混合物様組成物に溶解、分散、又は置換されるまで、請求項1に記載の共沸混合物様組成物を基材と接触させる工程と、前記基材の表面から溶解、分散、又は置換された汚染物質を含有する共沸混合物様組成物を除去する工程と、を含む、基材の表面から汚染物質を除去するプロセス。
【請求項13】
請求項1に記載の共沸混合物様組成物を熱伝流体として用いる、熱伝プロセス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−506681(P2011−506681A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538046(P2010−538046)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/085253
【国際公開番号】WO2009/079201
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】