説明

1,2−アルカンジオールの製造法

【課題】低臭気の1,2−アルカンジオールを高純度で容易かつ安全に製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】ギ酸の存在下で、オレフィンと過酸化水素とを反応させ、得られた反応混合物とアルコールとを反応させることを特徴とする1,2−アルカンジオールの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2−アルカンジオールの製造法に関する。さらに詳しくは、潤滑油、化粧品、香料、医薬品などの原料として有用な1,2−アルカンジオールの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2−アルカンジオールの製造法として、ギ酸または酢酸の存在下で、オレフィンと過酸化水素とを反応させ、生成したエポキシドを加水分解させる方法が知られている(例えば、非特許文献1および2参照)。しかし、この方法には、反応終了後に、溶媒の除去、水酸化ナトリウム水溶液との反応、および塩酸による中和などの多段階の操作を必要とするため、製造効率の点で欠点がある。
【0003】
また、1,2−ジオールの製造法として、過酢酸を酸化剤として用い、オレフィンからエポキシドを経由して1,2−ジオールを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法には、エポキシドとジオールによる副生成物が生じるという欠点がある。
【0004】
一方、エポキシドとジオールによる副生成物が生じることを回避しうる1,2−ジオールの製造法として、触媒としてタングステン錯体の存在下で、過酸化水素水とオレフィンとを反応させて1,2−ジオールを製造する方法が知られている(例えば、非特許文献3〜5参照)。しかし、この方法には、生成したジオールがさらに酸化されるため、ケトンやカルボン酸を副生するという欠点がある。
【0005】
反応条件を工夫することにより、1,2−ジオールの選択性を高める方法も提案されている(例えば、特許文献2および非特許文献6参照)。しかし、この方法には、毒性の高いベンゼンを溶媒として用いるため、作業環境における安全性に欠点があり、さらに生成物を単離するために30%硫酸水溶液で抽出し、塩基で中和するという煩雑な操作を必要とするため、製造効率の点でも欠点がある。
【0006】
また、他の1,2−ジオールの製造法として、濾過により容易に分離することができる固体触媒を用いてオレフィンと過酸化水素水とを反応させる方法が提案されている(例えば、非特許文献7〜9参照)。しかし、この方法には、反応操作上での改善が認められるが、目的化合物とともにエポキシドやケトンを多量に生じるため、1,2−ジオールの収率および選択性が低いという欠点がある。
【0007】
他の1,2−ジオール類の製造法として、スルホン酸基を有する高分子化合物の存在下に、オレフィン類と過酸化水素とを反応させることを特徴とする1,2−ジオール類の製造法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この方法には、反応時間をはじめ、効率面や安全性の面で欠点がある。
【0008】
また、従来の1,2−アルカンジオールには、微量の不純物が含まれていることなどにより臭気が強いものが多いため、香料、化粧品などの用途に原料として用いられる1,2−アルカンジオールには、低臭気であることが求められている。
【0009】
【特許文献1】特開平4−41449号公報
【特許文献2】欧州特許第146374号明細書
【特許文献3】特開2003−212804号公報
【非特許文献1】オーガニック・シンセシス(Organic Syntheses), Coll. 3巻、217−219頁(1955年)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(J. Am. Chem. Soc.) 67巻、1786−1788頁(1945年)
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイエティー(J. Chem. Soc.)2988−3000頁(1949年)
【非特許文献4】ジャーナル・オブ・アメリカン・オイル・ケミカル・ソサイエティー(J. Am. Oil Chem. Soc.) 44巻、316−320頁(1967年)
【非特許文献5】テトラへドロン・レターズ(Tetrahedron Lett.) 29巻、823−826頁(1988年)
【非特許文献6】シンセシス(Synthesis) 295−297頁(1989年)
【非特許文献7】ジャーナル・オブ・キャタリスト(J. Cat.) 145巻、151−158頁(1994年)
【非特許文献8】ケミカル・コミュニケーションズ(Chem. Commun.) 325−326頁(1998年)
【非特許文献9】ジャーナル・オブ・キャタリスト(J. Cat.) 189巻、40−51頁(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、低臭気の1,2−アルカンジオールを高純度で容易かつ安全に製造しうる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記従来技術に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ギ酸の存在下で、オレフィンと過酸化水素とを反応させ、得られた反応混合物とアルコールとを反応させた場合には、1,2−アルカンジオールが高純度で容易に得られ、しかも得られた1,2−アルカンジオールは、臭気をほとんど生じさせないという驚くべき効果が奏されることを見出した。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、ギ酸の存在下で、オレフィンと過酸化水素とを反応させ、得られた反応混合物とアルコールとを反応させることを特徴とする1,2−アルカンジオールの製造法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造法によれば、低臭気の1,2−アルカンジオールを高純度で容易かつ安全に製造することができるという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、まず、ギ酸の存在下で、オレフィンと過酸化水素とを反応させる。
【0015】
オレフィンとしては、種々のものを広範囲で用いることができる。代表的なオレフィンとしては、例えば、式(I):
C=CR (I)
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示すが、R、R、RおよびRのうちの2つの基が一緒になって環を形成していてもよい)
で表されるオレフィンが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0016】
アルキル基としては、炭素数1〜35のアルキル基が好ましく、炭素数が1〜21のアルキル基がより好ましい。アルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、水酸基、炭素数1〜22のアルコキシ基などが挙げられる。
【0017】
アリール基としては、炭素数6〜35のアリール基が好ましく、炭素数6〜22のアリール基がより好ましい。アリール基が有していてもよい置換基としては、例えば、水酸基、フェニル基、炭素数1〜22のアルコキシ基などが挙げられる。
【0018】
なお、R、R、RおよびRのうちの2つの基が一緒になって環を形成していてもよい。かかる環の例としては、炭素数3〜35のシクロアルキル基などが挙げられ、また、これらの環は他の環と縮合環、非縮合環等の多環を形成していてもよい。更にはR、R、R及びRの何れか二つから水素原子を取り除いた残基が2価の原子及び/又は2価の官能基を介して互いに結合して、それらが結合している炭素原子と一緒になって環を形成していてもよいが、この場合の2価の原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が、また2価の官能基としてはシリレン基、エチレンジオキシ基、アリーレンジオキシ基、カルボニル基、スルホキシド基、スルホン基等が例示される。
【0019】
式(I)で表されるオレフィンの具体例としては、1−へキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン、2−メチル−2−ペンテン、2−へプテン、シクロペンテン、シクロへキセン、1−メチルシクロへキセン、シクロオクテン、シクロドデセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、2−シクロヘキセン−1−オール、1−エチル−1−シクロペンテン、けい皮アルコール、2−メチル−3−フェニル−2−プロペン−1−オール、4−(1−プロペニル)−1,2−ジメトキシベンゼンなどが挙げられる。
【0020】
過酸化水素は、通常、水溶液として用いられる。過酸化水素水溶液における過酸化水素の濃度には特に制限がないが、通常、好ましくは1〜80%、より好ましくは3〜60%である。
【0021】
過酸化水素の量は、オレフィンの二重結合に対して、当量以下が好ましい。通常、過酸化水素の量は、過酸化水素がオレフィンに対して過剰な場合は、反応後に過剰の過酸化物を処理する必要があり、場合によっては処理に用いたものの洗浄分離や濾過による除去工程も必要となる点、また過酸化物の処理剤により臭気成分が発生したり副反応物が生成したりする(通常、チオ硫酸ナトリウムなどの場合は、その硫黄原からの臭気が発生しやすく、酸化マンガンなどの触媒の場合には、ジオールの酸化などの副反応や、発熱による臭気成分や不純物が生じやすい)場合が多い点、および過酸化物過剰による危険性の増加による安全面の観点から、オレフィンの二重結合に対して、好ましくは0.5〜1当量、より好ましくは0.7〜0.95当量である。
【0022】
ギ酸の量は、オレフィンの酸化をより温和な条件で安全に進行させるため、反応系内において過ギ酸を生成させること、およびオレフィンから中間体として生成するエポキシ体とジオールとの副反応を抑制するため、エポキシ中間体をギ酸と反応させて開環させる観点から、通常、オレフィンの二重結合に対して、好ましくは1〜30当量、より好ましくは1〜15当量、生産効率の観点から、さらに好ましくは1〜5当量である。
【0023】
オレフィンと過酸化水素との反応は、例えば、オレフィンとギ酸とを混合した後、得られた混合物を攪拌しながら、該混合物に過酸化水素を添加する方法により、容易に行うことができる。
【0024】
オレフィンと過酸化水素との反応温度は、通常、20〜100℃、好ましくは30〜60℃である。
【0025】
なお、オレフィンと過酸化水素との反応の際には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、例えば、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド類、炭化水素化合物などが挙げられる。溶媒の量は、特に制限されないが、一般的には、オレフィン100容量部あたり、好ましくは1000容量部以下、より好ましくは300容量部以下である。
【0026】
オレフィンと過酸化水素との反応の終点は、例えば、ガスクロマトグラフィーによる分析及び、過酸化物の滴定による過酸の消失確認などにより、容易に確認することができる。
【0027】
かくしてオレフィンと過酸化水素との反応により、生成したエステルを含有する反応混合物が得られる。得られた反応混合物は、必要により、濃縮してもよい。
【0028】
次に、得られた反応混合物とアルコールとを反応させる。かかる反応は、具体的には、得られた反応混合物に含まれている生成したエステルとアルコールとのエステル交換反応である。
【0029】
アルコールとしては、例えば、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖を有する1価アルコールが挙げられる。かかる1価アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
アルコールの量は、反応混合物に含まれるエステル部位と残留しているギ酸を完全にギ酸エステル化する観点から、反応混合物に含まれている生成したエステルのエステル部と残留しているギ酸の合計に対して、好ましくは1〜10当量、より好ましくは2〜10当量、さらに好ましくは3〜5当量である。
【0031】
なお、得られた反応混合物とアルコールとの反応の際には、触媒を用いることができる。触媒としては、一般にエステル交換反応の際に使用されるものであればよい。触媒の例としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホニル化合物、スルホン酸基を有する高分子化合物などの酸触媒、リチウム化合物、チタン化合物、ナトリウム化合物、アルミニウム化合物、スズ化合物、亜鉛化合物などの金属触媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
触媒の量は、特に制限されないが、一般的には、反応混合物100重量部あたり、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。
【0033】
また、オレフィンと過酸化水素との反応は、通常溶媒を用いずに行うこともできるが、溶媒を用いることも可能である。溶媒としては、一般に酸化反応やエステル交換反応の際に使用されるものを用いることができる。溶媒の例としては、エーテル類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド類、炭化水素化合物などが挙げられる。溶媒の量は、特に制限されないが、一般的には、オレフィン100容量部あたり、好ましくは50〜1000容量部、より好ましくは100〜300容量部である。
【0034】
得られた反応混合物とアルコールとの反応は、例えば、反応混合物に、アルコールおよび必要により触媒を添加し、混合することによって行うことができる。
【0035】
反応温度は、通常、20〜80℃の範囲内であることが好ましく、生成するギ酸エステルを選択的に反応系外へ出して、平衡反応を進行させる観点から、用いられるアルコールの沸点以下および生成するギ酸エステルの沸点以上であることがより好ましい。反応の際には、生成するギ酸エステルを回収することが好ましいが、特に、アルコールとしてメタノールを用いた場合には、他のギ酸エステルに比べて沸点が低いギ酸メチルが生成するため、より温和な条件下で反応混合物とアルコールとの反応を行うことができ、またメタノールとギ酸メチルは共沸せず、ギ酸メチルのみが揮発するため、ギ酸メチルを容易に反応系外に除去することができる。
【0036】
反応混合物とアルコールとの反応は、通常溶媒を用いずに行うこともできるが、溶媒を用いることも可能である。溶媒としては、エステル交換反応の際に使用されるものを用いることができる。溶媒の例としては、エーテル類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド類、炭化水素化合物などが挙げられる。
【0037】
反応混合物とアルコールとの反応の終点は、例えば、ガスクロマトグラフィーによる分析などにより容易に確認することができる。
【0038】
かくして、目的化合物である1,2−アルカンジオールが得られる。なお、反応の際に触媒を用いた場合には、生成した1,2−アルカンジオールを含有する反応混合物にアルカリを添加することにより、触媒を中和することが好ましい。
【0039】
なお、1,2−アルカンジオールを含有する反応混合物に含まれているギ酸エステル、ギ酸およびアルコールは、反応混合物を濃縮することにより回収し、再利用することができる。得られた1,2−アルカンジオールは、例えば、蒸留などによって精製してもよい。また、1,2−アルカンジオールが、水と混合した際に少なくとも水層への移行が可能な程度の水溶性を示す場合には、1,2−アルカンジオールを、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、2−メチルヘキサン等の疎水性溶剤及び水と混合することにより、臭気成分は有機層に、1,2−アルカンジオールは水層にそれぞれ移行し、より臭気の低減された1,2−アルカンジオールを水層に抽出することができる。
【0040】
本発明の製造法は、毒性の高いベンゼンなどの溶媒を必要しないので、作業環境における安全性に優れている。また、本発明の製造法によれば、1,2−アルカンジオールを高純度でかつ高収率で容易に得ることができる。さらに、本発明の製造方法で得られた1,2−アルカンジオールは、ほとんど臭気を発しないので、潤滑油、化粧品、香料、医薬品などの原料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
実施例1
(1)オレフィンと過酸化水素との反応
1−へキセン100gおよびギ酸(純度95%)237.5gを1リットル容のビーカー内で混合し、得られた混合物を攪拌しながら加熱し、30℃に到達した時点で35%過酸化水素水溶液98.2gを10時間かけてゆっくりと前記混合物に添加した。反応により発熱するので、混合物の温度が30〜40℃となるように外部から冷却した。
【0043】
過酸化水素水溶液の添加終了後、混合物の温度を35℃で2時間保持することにより、反応を終了した。反応の終点は、過酸化物量の滴定(ヨウ化カリウム滴定法)により確認した。得られた反応混合物を過剰分のギ酸の留出が少なくなるまで(ギ酸もギ酸エステルとなるため完全に濃縮する必要は無い)となるまで濃縮し、濃縮された反応混合物を次のアルコールとの反応に供した。
【0044】
(2)反応混合物とアルコールとの反応
前記(1)で得られた濃縮された反応混合物176.7g、メタノール170gおよびパラトルエンスルホン酸一水和物0.09gを1リットル容のビーカー内で混合し、生成するギ酸メチルをビーカーから取り出しながら55℃で7時間攪拌した。その後、ビーカー内に30%水酸化ナトリウム水溶液0.08gを添加し、触媒(パラトルエンスルホン酸一水和物)の中和を行った後、メタノールを減圧下で留去し、1,2−ヘキサンジオール120.7gを得た。その結果、1,2−ヘキサンジオールの収率は92%であり、1,2−ヘキサンジオールの純度は、92%であった。
【0045】
次に、得られた1,2−ヘキサンジオールを蒸留により精製したところ、収率76%、初留をさらに再蒸留することにより、蒸留収率94%で、98%以上の純度を有する1,2−ヘキサンジオールが得られた。
【0046】
実施例2
実施例1と同様にして1,2−ヘキサンジオールを製造し、蒸留による精製まで行った。得られた1,2−ヘキサンジオール5g(純度98%)、ノルマルヘキサン10gおよび水10gを25℃で混合攪拌した。ヘキサン層を分離し、水層を濃縮し、臭気成分が除去された、1,2−ヘキサンジオール4.9g(ノルマルヘキサンおよび水と混合した1,2−ヘキサンジオールに対する収率98%、純度99%)を得た。
【0047】
実施例3〜9
1−ヘキセンの代わりに表1に示すオレフィンを使用し、ギ酸、過酸化水素水溶液等を表1に示す量で使用した以外は、実施例1と同様にして、1,2−アルカンジオールを得た。得られた1,2−アルカンジオール及びその収率、純度を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例1
シクロヘキセン41gをガラスのフラスコに仕込み、攪拌しながら30℃に昇温する。30℃に達したところで30%の過酢酸をモル比で1.2倍になるように2時間かけてゆっくり添加した。反応により発熱するので混合物の温度が30℃程度になるように、外部から冷却した。過酢酸の添加終了後、混合物の温度を30℃で1時間保持することにより、反応を完結させた。反応粗液を、ガスクロマトグラフィーにより分析した結果、シクロヘキセンオキシドが収率の93%で得られていることを確認した。
【0050】
水50gをガラス製のフラスコに仕込み、撹拌しながら加熱し、70℃に到達した時点で、前記で得られたシクロヘキセンオキシドおよび酢酸を含む溶液21.6gを2時間かけてゆっくり添加した。溶液の添加終了後、すぐに反応粗液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、シクロへキサン−1,2−ジオールが、シクロヘキセンオキシド基準では94%の収率で、シクロヘキセン基準では87.4%の収率で得られていることを確認した。
【0051】
比較例2
Nafion−NR50(DuPont社製)500mg(オレフィンに対するスルホン酸基の当量は0.04に相当)、30%過酸化水素水溶液2.23g(19.6mmol)および1−ヘキセン825mg(9.81mmol)を混合し、70℃で24時間撹拌した。ガスクロマトグラフィーで反応溶液を分析した結果、ほとんど反応の進行は認められなかった。
【0052】
反応溶液からNafion−NR50を濾過して取り除き、溶液中に過剰に存在する過酸化水素を分解するため二酸化マンガン10mg(0.115mmol)を加えた。反応溶液を濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて水等を留去したところ、1,2−ヘキサンジオールを濃縮混合物として得た(収率:5%未満)。
【0053】
比較例3
実施例1の(1)オレフィンと過酸化水素との反応と同様にして得られた、濃縮された反応混合物176.7gに、30%水酸化ナトリウム水溶液239.3gを、20〜35℃で滴下した。反応の終点は、ガスクロマトグラフィーによる分析により確認した。得られた反応混合物に、抽出溶剤のメチルターシャリーブチルエーテル142.4gを加え、攪拌後、静置しギ酸カリウムが含まれる水層を分離した。有機層に、20%食塩水71.2gを加え洗浄し、攪拌、静置後水層を分離した。この洗浄操作を合計3回行った後、有機層を濃縮しメチルターシャリーブチルエーテルを取り除き、1,2−ヘキサンジオール118.1gを得た。その結果、1,2−ヘキサンジオールの収率は85.2%であり、1,2−ヘキサンジオールの純度は85%であった。また、この1,2−ヘキサンジオールには、溶剤由来の臭気や、強アルカリ処理による着臭がみられた。
【0054】
実験例
実施例1〜9および比較例1、3で得られた1,2−アルカンジオールと、これらを精製水で20倍に希釈した5重量%1,2−アルカンジオール水溶液を用意した。
【0055】
100mL容のガラス製広口瓶に、前記で用意した1,2−アルカンジオールまたは5重量%1,2−アルカンジオール水溶液を入れ、無作為に抽出した男女20名の各パネラーに、瓶口での臭気を確認してもらい、1,2−アルカンジオールおよび5重量%1,2−アルカンジオール水溶液のそれぞれについて、以下の評価基準に基づいて評価してもらった。結果を表2に示す。なお、実施例および比較例で得られた1,2−アルカンジオール自体は、無臭の化合物である。
【0056】
〔評価基準〕
○:ほぼ無臭である。
△:わずかに臭う。
×:臭気が明らかに感じられる。
【0057】
次に、上記の結果に基づいて、各評価を行った者の人数を集計し、以下の基準にしたがってランク付けを行なった。なお、S以上のランクが合格である。
【0058】
〔ランク〕
SSS:○の評価をした評価者が18名以上である場合
SS:○の評価をした評価者が15〜17名であり、×の評価をした評価者がひとりもいない場合
S:○の評価をした評価者が15〜17名であり、×の評価をした評価者がいる場合
A:○の評価をした評価者が10〜14名である場合
B:○の評価をした評価者が5〜9名である場合
C:○の評価をした評価者が4名以下である場合
【0059】
【表2】

【0060】
表1に示された結果より、実施例1〜9の方法によれば、生成した1,2−アルカンジオールの臭気が比較的生じがたい従来の比較例1、3と対比しても、著しく1,2−ヘキサンジオールの臭気を低減させることができることがわかる。
【0061】
また、実施例1〜9によれば、毒性の高いベンゼンなどの溶媒を必要しないので、作業環境における安全性に優れており、しかも従来、必要とされていた過酸化物のチオ硫酸ナトリウムやマンガン触媒をはじめとした過酸処理や、エステルの強アルカリによる処理などの操作を必要とせず、また酸化反応を従来よりも低い温度で行うことができるため、臭気が低減された1,2−アルカンジオールを容易にかつ効率よく安全に製造することができることがわかる。
【0062】
したがって、本発明の製造法によれば、潤滑油、化粧品、香料、医薬品などの原料として有用な1,2−アルカンジオールを高純度で容易かつ安全に製造することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造法によって得られた1,2−アルカンジオールは、潤滑油、化粧品、香料、医薬品などの原料として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸の存在下で、オレフィンと過酸化水素とを反応させ、得られた反応混合物とアルコールとを反応させることを特徴とする1,2−アルカンジオールの製造法。
【請求項2】
オレフィンが、式:
C=CR (I)
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示すが、R、R、RおよびRのうちの2つの基が一緒になって環を形成していてもよい)
で表されるオレフィンである請求項1記載の製造法。
【請求項3】
過酸化水素の量が、オレフィンの二重結合に対して、0.5〜1当量である請求項1または2記載の製造法。

【公開番号】特開2008−7463(P2008−7463A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179791(P2006−179791)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】