説明

1,2−エポキシドを製造する方法及びその方法を実施するための装置

エポキシド化合物を形成させるための装置及び方法が提供される。一実施形態では、エポキシドを製造する方法が提供され、ここで、該方法は、酸化剤、水溶性マンガン錯体及び末端オレフィンを添加して多相反応混合物を形成させること、該末端オレフィンを、該水溶性マンガン錯体の存在下に、少なくとも1の有機相を有している該多相反応混合物の中で酸化剤と反応させること、該反応混合物を少なくとも1の有機相と水相に分離させること、及び、該水相のうちの少なくとも一部を再利用することを含んでいる。本発明は、上記方法を実施するための装置にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化触媒としての水溶性マンガン錯体の存在下における1,2−エポキシドの製造及びその方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2−エポキシドを製造する方法は、公開された欧州特許出願第2149569号に記載されている。それには、酸化触媒として水溶性マンガン錯体を使用する末端オレフィン(terminal olefin)の接触酸化が記載されている。
【0003】
記載されている該方法は、多相系の中で、例えば、二相系(即ち、有機相(これは、液相又は気相であり得る)と水相を含んでいる系)の中で、実施される。実際の反応が水相中で起こるのに対して、生成されたエポキシド生成物は、難溶解性であることに起因してその水相から分離して有機相の中に入るか、又は、その有機相によって抽出若しくは除去される。このような理由で、1,2−エポキシドは、1,2−エポキシドに対する高い選択性(これは、生成された1,2−エポキシドを単離する容易さをさらに向上させる)で、高ターンオーバー数(TON)で生成される。
【0004】
典型的には、上記有利点を達成するために使用される触媒系は、1の配位子又は複数の配位子と配位結合している1個のマンガン原子又は多数のマンガン原子を含んでいる。特に興味深いのは、二核マンガン錯体である。1,2−エポキシドの上記製造の例として、欧州特許出願公開第2149570号を参照する。その欧州特許出願公開第2149570号には、塩化アリルを酸化してエピクロロヒドリンを生成させることが記載されている。欧州特許出願公開第2149569号は、さらに、該方法を1つの反応器の中で実施し得ることを示しているが、そのことについて詳しくは述べていない。しかしながら、結果的に、1,2−エポキシドを単離した後、活性触媒のフラクションを含んでいる水相が残るということが分かった。欧州特許出願公開第2149569号には、このフラクションをさらに使用することに関しては記載されておらず、このことは、該触媒の一部が無駄にされることを意味し、これは、効率的ではない。プロピレンオキシドの製造方法に関する別の例は、公開されていない欧州特許出願第09075528号に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2149569号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2149570号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第09075528号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、触媒効率が改善された方法を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、当該生成物に対する選択性が改善されている方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、分離及び精製段階に必要なエネルギーが少ない方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、1,2−エポキシドの製造を実施するための装置(例えば、反応器)を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、反応器の容積当たりの生産性が同様に改善されていながら、同時に、可能な限り小さな反応器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的のうちの1以上は、酸化剤、水溶性マンガン錯体〔ここで、該水溶性マンガン錯体は、一般式(I):[LMnX]Y(I)の単核化学種又は一般式(II):[LMn(μ−X)MnL](Y)(II)の二核化学種であり、その際、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子であり;各Xは独立して、配位化学種であり、及び、各μ−Xは独立して、配位架橋化学種であり;及び、Yは、非配位対イオンである〕及び末端オレフィンを添加して多相反応混合物を形成させること、該末端オレフィンを該水溶性マンガン錯体の存在下に少なくとも1の有機相を有している該多相反応混合物の中で酸化剤と反応させること、該反応混合物を少なくとも1の有機相と水相に分離させること、並びに、該水相のうちの少なくとも一部を再利用することを含んでいる、エポキシドを製造する方法によって達成される。
【0012】
以下は、図面の簡単な説明であり、ここで、同じ番号が付けられているものは同じ要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】エピクロロヒドリンを製造するための装置の一実施形態の概略図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するためのモード
本発明は、分離された水相がまだ活性を有している触媒を含んでいるという観察結果に基づいている。これにより、本発明者らは、該触媒を含んでいる分離された水相の少なくとも一部を再利用することで、該触媒のより効率的な使用及びその後の分離段階におけるエネルギー消費の低減がもたらされるという洞察に至った。充分に分散されている二相反応系と水相の再利用を組み合わせることで大きなターンオーバー数(TON)〔ターンオーバー数は、1モルの触媒が不活性になる前に転化することが可能な末端オレフィンのモル数である〕がもたらされ得る。そのような組合せによって、さらに、その後の分離及び精製段階におけるエネルギー消費が最小限に低減され、全ての原料に関して生成物に対する高い選択性が得られ、並びに、反応器の容積の有効利用(これは、結果として、あまり複雑ではない方法につながる)がもたらされる。以下において、本発明についてさらに詳細に論じる。
【0015】
該方法は、水相と少なくとも1の有機相からなる多相系の中で実施する。末端オレフィンの酸化(段階(a))は水相の中で起こると考えられ、それに対して、有機相は、生成された1,2−エポキシドを水相から抽出又は除去すると考えられる。本発明者らは、該有機相が水溶性の副産物及び触媒を殆ど含んでいないか又は全く含んでいないことをを見いだした。慣習的に使用されているアリルアルコールの代わりに水中での溶解性が限られている末端オレフィン(例えば、塩化アリル及び酢酸アリル)を使用することは有益である。当該多相系は、溶解性が限られている末端オレフィンを水相にその水相中で溶解するよりも多い量で添加することによって作ることができる。好ましい末端オレフィン類は、最大溶解度が約100g/L(20℃で)であり、さらに好ましくは、0.01から100g/Lである。
【0016】
有機相と水相(これらは、何れも反応器の内部にある)の体積比及び相間の接触の程度は、該触媒系の性能における重要なパラメータである。有機相の量が多すぎる場合、水相はもはや連続相ではない。この場合、成分の混合が不充分であり得る。このことは、末端オレフィンの転化率が大幅に低減されることを意味する。他方では、反応器内部の水相が有機相の量に対して多すぎる場合、水相中の末端オレフィンの濃度は酸化剤の濃度に対して低すぎるであろう。この場合、望ましくない副産物の生成及び触媒の非活性化がもたらされ得る。従って、反応器内部の水相と有機相の体積比は、好ましくは、10:1から1:5の範囲内にある(最大限度として、エマルションが形成される)。
【0017】
上記限度は、混合の程度によっても影響され得る。実際には、これは、有機相が、例えば液滴(好ましくは、可能な限り小さな、例えば、3mm未満の液滴)の形態で、連続水相中に充分に分散されていることが必要であるということを意味する。
【0018】
該有機相が水相中に分散されると直ぐに、該触媒の存在下における末端オレフィンと酸化剤の反応(接触酸化)が起こり得る(段階(a))。得られた反応混合物を反応器から排出させる。その排出された反応混合物は、生成物と未反応の出発物質の両方を含んでいる。その排出された反応混合物を沈澱させて、別々の相(水相及び少なくとも1の有機相)とする。該少なくとも1の有機相は、2つの有機相(例えば、水相の下に位置する1つの有機相と水相の上に位置する1つの有機相)を含み得る。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、当該水相がまだ活性を示す触媒を含んでいるということを見いだした。分離された水相に含まれている触媒は、再利用することが可能であり、それによって、当該触媒の効率が高めることができる。
【0020】
該水相が少なくとも微量の末端オレフィンを含んでいることは有益であると考えられる。どのような理論にも拘束されるものではないが、末端オレフィンの存在が該触媒が活性を維持することを可能とすると考えられるのに対して、末端オレフィンが存在していないと、並びに/又は、末端オレフィンが存在していない状態でエポキド及び/若しくは酸化剤が存在していると、該活性触媒の活性は低減されると考えられる。冷却することも、触媒の効率の低下を低減させるために使用することができる。
【0021】
該水相は、分離された水相の少なくとも一部分を次の反応器に供給するか又は分離された水相の少なくとも一部分を同じ反応器に再循環させることによって、再利用することが可能である(段階(d))。好ましくは、該水相の少なくとも一部分を当該反応混合物の中に再循環させる。このように、再循環された水相の中に存在している触媒は、除去されるのではなく、効率的に再度使用される。
【0022】
該方法を実施する場合、単位時間当たり、特定の体積の水性出発物質(例えば、酸化剤、触媒、及び、必用に応じて、緩衝液)を反応混合物に供給する(段階(a))。
【0023】
これらの水性出発物質は、水性成分として示される。同時に、単位時間当たり、特定の体積の分離された水相も反応混合物の中に再循環させる。当該体積の水性成分と反応混合物に添加される当該体積の再循環される水相の全ての瞬間における質量比は、水再循環比(water recycle ratio)として示される。該触媒を再循環させることの有利な効果達成するためには、該水循環比は、好ましくは、10:1から1:10の範囲内にあり、さらに好ましくは、2:1から1:5の範囲内にあり、及び、最も好ましくは、1:3.5である。さらにまた、水相の高粘度などの乱流条件(turbulent conditions)も、当該媒体中に分散されている有機液滴の凝集を防止する。
【0024】
末端オレフィンと酸化剤のモル比は、本発明の方法において極めて重要である。末端オレフィンと酸化剤のモル比は、1:2より大きくてよい。好ましくは、この比率は、12:1から1:1の範囲内にある。さらに好ましくは、この比率は、1:1、1.2:1、2:1若しくは4:1、又は、2:1から12:1であり得る。過剰量の酸化剤を使用する場合、望ましくは副産物が生成されることに起因して、1,2−エポキシドに対する選択性が低下する。末端オレフィンに対して過剰量の酸化剤を使用することの別の結果は、触媒が急速に失活することである。不充分な量の酸化剤を使用する場合、ターンオーバー数が最適値を下回る。従って、これは、従来技術において記載されている漂白条件〔ここでは、過剰量の酸化剤(即ち、過酸化水素)が使用される〕とは著しく異なる。過酸化物の最適の効率を確実なものとするために、該酸化剤は、好ましくは、接触酸化の反応速度とほぼ等しい速度で水相に添加する。
【0025】
該反応(接触酸化)は、酸化剤として過酸化水素又はその前駆物質を使用して実施する。過酸化水素は、強力な酸化特性を有する。それは、典型的には、水溶液中で使用する。過酸化水素の濃度は、15%(例えば、髪を漂白するするための消費者グレード)から98%(推進薬グレード)まで、さまざまであることができ、工業用グレードに関して好ましいのは、30%から70%までである。さらに好ましくは、過酸化水素の濃度は、70%である。使用し得る別の酸化剤としては、有機過酸化物、過酸及びそれらの組合せなどがある。
【0026】
末端オレフィンの反応(接触酸化)は、水相中で起こる。該水相は、1から8のpH、例えば、2から5のpHを有し得る。該水相は、さらに、pHを特定の範囲内で安定化させるための緩衝液系も含有し得る。例えば、該水相を1から8(さらに好ましくは、2から5)のpH範囲内で安定化させるのが有利であるということが分かった。従って、該pHは、オレフィン類を酸化剤としての過酸化水素を用いて漂白する場合〔これは、典型的にはよりアルカリ性の条件(例えば、NaHCOを用いて9.0に調節されたpH)で実施される〕に使用されるpHよりも(充分に)低い。適切な範囲又は好ましい範囲は、酸−塩の数種類の既知組合せによって達成することができ、ここで、好ましい組合せは、シュウ酸−シュウ酸塩、酢酸−酢酸塩、マロン酸−マロン酸塩及びそれらの組合せに基づく。
【0027】
該水相は、さらに、少量の(存在する場合には)別の有機化合物も含有し得る。該水相は、さらに、例えば当該オレフィンの溶解性を高めるために、少量の共溶媒も含有し得る。適切な共溶媒としては、例えば、アセトン、メタノール及び別の水溶性アルコール類などがある。共溶媒は、例えば二相系を維持する量で、好ましくは、10重量%未満の量で、使用することができる。
【0028】
特に溶解性が低い(例えば、水1L当たり0.1g未満)の末端オレフィンを使用する場合、該水相は、さらに、相間移動剤及び/又は界面活性剤も含むことができる。本発明の方法において使用し得る既知相間移動剤としては、第4級アルキルアンモニウム塩などがある。本発明の方法において使用し得る既知界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、例えば、Union Carbide社製の「Triton X100TM」などがある。
【0029】
水溶性マンガン錯体を含んでいる該触媒系について、以下に記載する。該酸化触媒は、水溶性マンガン錯体である。有利には、該マンガン錯体としては、一般式(I):
[LMnX]Y(I)
の単核化学種、及び、一般式(II):
[LMn(μ−X)MnL](Y)(II)
の二核化学種などを挙げることができ、ここで、上記式中、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子、好ましくは、3個の窒素原子を含んでいる環式化合物又は非環式化合物であり;各Xは、独立して、配位化学種であり、及び、各μ−Xは、独立して、配位架橋化学種であって、それらは、RO、Cl、Br、I、F、NCS、N、I、NH、NR、RCOO、RSO、RSO、OH、O2−、O2−、HOO、HO、SH、CN、OCN及びS2−及びそれらの組合せからなる群から選択され、ここで、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択されるC−C20の基であり;及び、Yは、RO、Cl、Br、I、F、SO2−、RCOO、PF、酢酸アニオン、トシラート、トリフラート(CFSO)及びそれらの組合せからなる群から選択される非配位対イオンであり、ここで、Rは、再度、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択されるC−C20の基である。非配位対イオンYは、該錯体の電荷的中性をもたらすことができ、nの値は、カチオン性錯体とアニオン性対イオンYの電荷に依存し、例えば、nは、1又は2であり得る。一実施形態では、非配位対イオンとして、CHCOO又はPFのイオンを使用することができる。本発明に適している配位子は、その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物であり、これらは、それぞれ、少なくとも2個の炭素原子で隔てられた複数の窒素原子を有している。配位子の好ましい種類は、(置換されている)トリアザシクロノナン(“Tacn”)に基づく配位子である。好ましい配位子は、1,4,7−トリメチル−1,4,7,−トリアザシクロノナン(“TmTacn”)である。
【0030】
二核マンガン錯体が好ましいものとして示されるが、それは、それらがより大きな活性及び水中溶解性を有しているからである。好ましい二核マンガン錯体は、式[MnIV(μ−O)](Y)(これは、以下の式と同じである:[LMn(μ−O)MnL](Y))〔式中、nは、2であり、並びに、L及びYは、上記で特定されている意味(好ましくは、配位子として、TmTacn、及び、対イオンとして、PF又は酢酸アニオン(CHCOO;以下では、OAc))を有する〕の二核マンガン錯体である。水溶性マンガン錯体を含んでいる触媒系は、上記で記載されている。本発明に関して好ましい錯体は、好ましい配位子又は複数の配位子として、1,4,7−トリメチル−1,4,7,−トリアザシクロノナン(“TmTacn”)を含んでいる。この配位子は、Aldrichから市販されている。
【0031】
該マンガン錯体は、触媒的に有効な量で使用する。典型的には、該触媒は、1:10から1:10,000,000、好ましくは、1:100から1:1,000,000、最も好ましくは、1:1000から1:100,000の触媒(Mn)と酸化剤のモル比で使用する。水性媒体の体積を心に留めている場合、便宜上、触媒の量はその濃度で表すこともできる。例えば、それは、0.001から10mmol/L、好ましくは、0.01から7mmol/L、最も好ましくは、0.01から2mmol/Lのモル濃度(Mn基準)で用いることができる。
【0032】
当該接触酸化に関する反応条件は、当業者が直ちに決定することができる。該反応は発熱性であり、該反応混合物を冷却することが必要であり得る。該反応は、使用する末端オレフィンの融点及び沸点などの物理的パラメータに応じて、好ましくは、概して、−5℃から40℃の温度で、実施する。
【0033】
本発明によれば、使用する末端オレフィンは、官能基化され得るエポキシ化可能なオレフィンである。該末端オレフィンは、方法条件下において液体であり得る(例えば、塩化アリル又は液化プロピレン)が、気体であってもよい(例えば、気体プロピレン)。
【0034】
適切な末端オレフィン類の例としては、末端オレフィン性不飽和化合物などを挙げることができる。一実施形態では、該末端オレフィン性不飽和化合物は、少なくとも1の不飽和−C=C−結合、例えば、少なくとも1の不飽和−C=CH基を有することができる。該オレフィン性不飽和化合物は、2以上の不飽和−C=C−結合を含むことができる。さらに、該不飽和−C=C−結合は、末端基である必要はない。末端オレフィン性不飽和化合物は、1以上の末端−C=CH結合を有し得る。
【0035】
従って、末端オレフィン性不飽和化合物の適切な例としては、以下の化合物を挙げることができる:
R−CH=CH
R’−(CH=CH
X−CH=CH
Y−(CH=CH
ここで、Rは、場合により1以上のヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、又は、ケイ素)を含んでいてもよい1以上の炭素原子からなるの基であり;R’は、場合により1以上のヘテロ原子を含んでいてもよい1以上の炭素原子からなる多価の基であり(ここで、nは、該多価の基の結合価に相当する);Xは、ハロゲン原子であり;及び、Yは、酸素原子である。
【0036】
特に興味深いのは、以下の化合物から選択されるオレフィン性不飽和化合物である:
(a) 塩化ビニル又は塩化アリル;
(b) 1−アルケン、好ましくは、プロペン:
(c) モノオール、ジオール又はポリオールのモノアリルエーテル、ジアリルエーテル又はポリアリルエーテル;
(d) モノオール、ジオール又はポリオールのモノビニルエーテル、ジビニルエーテル又はポリビニルエーテル;
(e) モノ酸、ジ酸又はポリ酸のモノアリルエステル、ジアリルエステル又はポリアリルエステル;
(f) モノ酸、ジ酸又はポリ酸のモノビニルエステル、ジビニルエステル又はポリビニルエステル;
(g) ジビニルエーテル又はジアリルエーテル。
【0037】
該末端オレフィンは、水中において限られた溶解性を有し得る。例えば、該末端オレフィンは、20℃で約100g/L、さらに好ましくは、20℃で0.01から100g/Lの水相中における最大溶解度を有し得る。
【0038】
本発明のさらに好ましい実施形態では、該末端オレフィンは、臭化アリル、塩化アリル及び酢酸アリルから選択される。本発明の最も好ましい実施形態では、商業上の興味及び製造されたエピクロロヒドリンの単離の容易さのために、エピクロロヒドリンを製造するために塩化アリルを使用する。
【0039】
本発明の好ましい別の実施形態よれば、プロピレンオキシドを製造するために、該末端オレフィンはプロピレンであり、及び、該反応は−5℃から40℃の範囲内の温度で実施する。プロピレンは、好ましくは、酸化剤よりも過剰量で使用する。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態よれば、緩衝液(存在する場合)と酸化触媒は、プレミックス混合物として、段階(a)に供給する。
【0041】
本発明のべつの態様は、1,2−エポキシドを製造するための上記方法を実施する装置に関する。本発明によれば、該装置は、接触酸化を実施するための反応器を含んでおり、ここで、該反応器は、酸化剤、酸化触媒、場合により緩衝液及び末端オレフィンを反応器へと供給するための注入口、及び、反応器から反応混合物を排出させるための排出口、反応混合物を少なくとも1の有機相と水相に分離するための、反応器排出口に連結されている分離手段、分離手段において分離された水相の一部を再循環させるための循環手段、末端オレフィンを水相の中に分散させるための分散手段、並びに、接触酸化方法の温度を制御するための冷却手段を有している。
【0042】
本発明によれば、該装置は、注入口及び排出口を有している、当該方法を実施するための反応器を含んでいる。反応器の注入口を介して反応物を反応器の中に供給し、反応器の排出口を介して反応混合物を排出する。該装置は、さらに、上記で説明したように、反応混合物を少なくとも1の有機相と水相に分離するための、反応器の排出口に連結されている分離手段も含んでいる。生成物が静置されたときに、その生成物が、水相から分離する少なくとも1の独立した有機相を形成するので、好ましくは、この分離手段は、沈降タンクのような簡単な液体液体分離器を含んでいる。ハイドロサイクロンのような別の装置を使用することも可能である。
【0043】
水相は、反応器の注入口を介して反応器の中に再循環させる。この再循環手段は、単純な設計、例えば、水相を反応器の中へ輸送するためのポンプを備えていて、分離手段の水相排出口と反応器の注入口を連結するパイプなどであり得る。ここで、本発明による反応器が標準的な製造技術的な構成要素(例えば、ポンプ、バルブ及び制御機構など)を備えているということを当業者は承知しているということは特筆される。
【0044】
本発明による反応器は、さらに、有機末端オレフィン相を水相の中に分散させるための分散手段も含んでおり、及び、当該接触酸化が発熱性であるという理由により、接触酸化の温度を制御するための冷却手段も含んでいる。
【0045】
反応器のタイプに関しては、反応器の数種類の設計が本発明の方法を実施するのに適している。反応器は、プラグ流反応器(PFR)であることができる。分散に必要とされる高速度及び長い滞留時間のために、本発明において使用されるPFRは、極めて長いPFRである。反応器は、さらにまた、連続撹拌タンク反応器(CSTR)であることもできる。CSTRを使用する場合、水相の中に末端オレフィンを分散させるときに、特別な注意が必要である。
【0046】
本発明の好ましい実施形態によれば、該接触酸化は、ループ反応器の中で実施することもできる。ループ反応器では、該反応混合物は循環される。ループ反応器の循環速度が水性成分と末端オレフィンが供給される速度(即ち、供給速度)の約15倍である場合、そのループ反応器は、高程度の逆混合の故に、CSTRと称され得る。本発明の方法においてループ反応器を使用することの有利点は、それによって、コンパクトな反応器の設計において分散手段と組み合わされたポンプシステムの混合挙動を明確に定義することが可能となることである。
【0047】
本発明の好ましいさらに別の実施形態によれば、分散手段は静的ミキサーである。それは、静的ミキサーが連続水相中の有機液滴を最大限に分解するからである。
【0048】
本発明の別の実施形態によれば、反応器ハウジング全体に配置されている複数の注入口部分を通して、新たな酸化剤及びオレフィンを細分された状態で反応器中の水相に供給する。
【0049】
図1を用いて、本発明についてさらに説明する。図1は、エピクロロヒドリンを製造するための装置の一実施形態の概略図を示している。
【0050】
ここで、当該装置の全ての製造技術的な構成要素が普通の一般的な製造技術的知識を用いて建設及び操作されるということを本発明による方法を実施するための装置を建設するという課題に取り組んでいる当業者は承知しているということは特筆される。
【0051】
この実施形態では、装置(10)は、注入口(21)及び排出口(22)を含んでいるループ反応器(20)を含んでいる。別々の供給タンク(15)の中に配置された過酸化水素、酸化触媒としての水溶性マンガン錯体、シュウ酸緩衝溶液及び塩化アリルが反応器(20)に供給される。反応物は、供給ポンプ(12)を用いて、供給タンク(15)から供給導管(11)を通って反応器注入口(21)まで輸送される。プレ混合手段(50)は、成分の一部〔例えば、図1における触媒及びシュウ酸緩衝液〕をプレ混合するために、注入口(21)と供給ポンプ(12)のうちの1つ以上との間に配置され得る。反応器注入口(21)は、有利には、数個の注入口ポート(各反応器毎に1ポート)を含んでいる。反応混合物は、反応器排出口(22)を介して反応器(20)から分離手段(30)の中に排出される。反応器排出口(22)と分離手段(30)は排出導管(13)によって連結されている。分離手段(30)は、分離注入口(31)を含んでおり、それを通って反応混合物は分離手段(30)に供給される。分離手段(30)の中では、少なくとも1の有機相と水相が相分離される。エピクロロヒドリンを含んでいる有機相は、生成物排出口(32)を通って分離手段(30)から単離される。
【0052】
分離手段(30)の中の水相の少なくとも一部は、分離手段(30)の再循環排出口(33)と反応器注入口(21)を連結している再循環導管(41)を介して反応器(20)に再循環される。再循環ポンプ(42)は、水相を輸送するために、再循環導管(41)の中に含まれている。反応器(20)の内部の有機相は、分散手段(23)を用いて水相の中に分散される。反応器(20)は、さらに、反応混合物を輸送するための反応器ポンプ(26)及び反応混合物を冷却するための冷却手段(24)も含んでいる。該冷却手段(24)は、例えば、水冷装置又は別のタイプの熱交換手段などであり得る。しかしながら、冷却手段(24)のタイプの選択は、当業者の専門的知識に委ねられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシドを製造する方法であって、
(a) 酸化剤、水溶性マンガン錯体及び末端オレフィンを添加して多相反応混合物を形成させること〔ここで、該水溶性マンガン錯体は、一般式(I):
[LMnX]Y(I)
の単核化学種又は一般式(II):
[LMn(μ−X)MnL](Y)(II)
の二核化学種であり、
その際、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子であり;各Xは独立して、配位化学種であり、及び、各μ−Xは独立して、配位架橋化学種であり;及び、Yは、非配位対イオンである〕;
(b) 該末端オレフィンを、該水溶性マンガン錯体の存在下に、少なくとも1の有機相を有している該多相反応混合物の中で酸化剤と反応させること;
(c) 該反応混合物を少なくとも1の有機相と水相に分離させること;及び、
(d) 該水相のうちの少なくとも一部を再利用すること;
を含んでいる、前記方法。
【請求項2】
段階(a)が、
(a1) 反応混合物の中に、酸化剤及び水溶性マンガン錯体を水性成分として添加すること;及び、
(a2) 末端オレフィンを水相の中に分散させること;
からなるサブ段階を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応が、多相反応混合物の水相の中で起こる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
段階(c)において得られた水相の少なくとも一部を、段階(a)に再循環させる、先行する請求項1から3の1項に記載の方法。
【請求項5】
水性成分と再利用される水相の水再循環比が、10:1から 1:10の範囲内、好ましくは、2:1から1:5の範囲内にある、先行する請求項2から4の1項に記載の方法。
【請求項6】
水再循環比が約1:3.5である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
末端オレフィンと酸化剤のモル比が、12:1から1:1の範囲内にある、先行する請求項1から6の1項に記載の方法。
【請求項8】
末端オレフィンが、20℃で約100g/Lの最大溶解度を有している、先行する請求項1から7の1項に記載の方法。
【請求項9】
水相が、さらに、pHを1から8の範囲内で安定化させるための緩衝液系も含んでおり、及び、該緩衝液を水性成分として反応混合物に添加する、先行する請求項1から8の1項に記載の方法。
【請求項10】
反応を、−5℃から40℃の範囲内の温度で実施する、先行する請求項1から9の1項に記載の方法。
【請求項11】
末端オレフィンが、臭化アリル、塩化アリル及び酢酸アリルから選択され、及び、反応を、−5℃から40℃の範囲内の温度で実施する、先行する請求項1から10の1項に記載の方法。
【請求項12】
末端オレフィンがプロピレンであり、及び、前記反応を、−5℃から40℃の範囲内の温度で実施する、先行する請求項1から11の1項に記載の方法。
【請求項13】
水溶性マンガン錯体と 酸化剤のモル比が、1:10から1:10,000,000の範囲内にある、先行する請求項1から12の1項に記載の方法。
【請求項14】
酸化剤が、過酸化水素又はその前駆物質である、先行する請求項1から13の1項に記載の方法。
【請求項15】
先行する請求項1から14の方法を実施するための装置(10)であって、接触酸化を実施するための反応器(10)(ここで、該反応器(10)が、酸化剤、水溶性マンガン錯体、場合により緩衝液及び末端オレフィンを反応器(10)へと供給するための注入口(10)、及び、該反応器(20)から反応混合物を排出させるための排出口(22)を有する。)、反応混合物を少なくとも1の有機相と水相に分離するための、反応器排出口(22)に連結されている分離手段(30)、分離手段(30)において分離された水相の一部を再循環させるための循環手段(40)、有機相を水相の中に分散させるための分散手段(23)、並びに、接触酸化方法の温度を制御するための冷却手段(24)を含む、前記装置(10)。
【請求項16】
反応器(20)が連続ループ反応器である、請求項15に記載の装置(10)。
【請求項17】
分散手段(23)が静的ミキサーである、請求項15又は16に記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2013−518835(P2013−518835A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551532(P2012−551532)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000320
【国際公開番号】WO2011/107188
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(511026854)モーメンテイブ・スペシヤルテイ・ケミカルズ・インコーポレーテツド (7)
【Fターム(参考)】