説明

1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの製造方法

【解決課題】1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを高収率かつ高生産性にて製造する方法を提供する。
【解決手段】塩基性触媒としてアルカリ金属炭酸塩を、生成するハロゲン化水素よりも多くの当量を用い、かつ、有機溶媒として無水のアルコール中でアニリノ酢酸アルキルエステル化合物を得ると共に、その後の各工程の反応混合物の精製をすることなく、最終生成物が得られるまでいずれの反応工程も同一の反応装置中で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率で生産性の高い、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノロノキノロン化合物は、黄色から橙色を呈し、耐光性や耐溶剤性等の各種の耐久性に優れるので、微細化することで、印刷インキや静電荷像現像用トナー向けの黄色や橙色の着色剤として用いられたり、有機電解発光素子のような特殊な用途に用いることが提案されている(特許文献1、2または3)。
【0003】
この様なキノロノキノロン化合物は、1948年に母体骨格が初めて合成されている。この化合物に関しては非特許文献1が知られており、そこにはジメトキシ、ジエトキシ置換体及びジ、トリ、テトラハロゲン置換体が、耐光性、着色力に優れた顔料として記載されている。そして、この様なキノロノキノロン化合物は、元来、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを環化することにより製造される(非特許文献1)。その他、非特許文献2も知られている。
【0004】
1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルは、主に二つの製造方法にて製造することが知られている(特許文献1及び2)。一方は、ジヒドロキシフマル酸のエステル化と、アニリン又は置換アニリンとの脱水縮合とを行う方法(第一の方法)であり、他方は、ベンゼン環に置換基を有していても良いN−フェニルグリシンのエステルとシュウ酸ジエステルとから、ベンゼン環に置換基を有していても良いフェニルアミノ基で置換されたオキサル酢酸ジエステルを合成し、これにアニリン又は置換アニリンを反応させる製造方法(第二の方法)である。
【0005】
しかしながら、これらの製造反応は、いずれも反応率が低かったり副生成物が生じやすいこともあり、個々の反応工程において、反応容器からの取り出しや精製を行っており、これらの工程には、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの収率が低くなったり、単位時間当たりの生産性が低下するという欠点があった。
【0006】
前記した様な一連の反応を一つの反応装置中で行う様にすれば、前記した様な欠点は、ある程度解決できそうではあるが、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを高収率かつ高生産性にて製造する具体的な手段は、これら各文献からは、何も提供されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−17783号公報
【特許文献2】特開平11−80576公報
【特許文献3】特開平11−130972公報
【非特許文献1】Helv.Chim.Acta,31,716
【非特許文献2】J.Heterocyclic Chem,16,1651(1979)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを高収率かつ高生産性にて製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを高収率かつ高生産性にて製造する好適な製造方法について鋭意検討したところ、各工程の反応混合物の精製をすることなく、いずれも同一の反応装置中で行うと共に、反応触媒の量と溶媒に着眼することにより、極力水が少ない系で反応を行うことで前記課題が解決されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、次の発明を提供する。
下記の工程を含んでなる1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの製造方法において、
下記工程1の塩基性触媒としてアルカリ金属炭酸塩を、生成するハロゲン化水素よりも多くの当量を用い、かつ、有機溶媒として無水のアルコール中で工程1を行うと共に、
下記工程1から工程4を、各工程の反応混合物の精製をすることなく、いずれも同一の反応装置中で行う、
ことを特徴とする1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの製造方法。

工程1:アニリン化合物と、ハロゲノ酢酸アルキルエステル化合物とを、塩基性触媒の存在下、有機溶媒中で脱ハロゲン化水素反応させて、アニリノ酢酸アルキルエステル化合物を得る。
工程2:前記アニリノ酢酸アルキルエステル化合物と、蓚酸ジ低級アルキルエステル化合物とを求核置換反応させて、反応生成物を得る。
工程3:前記反応生成物を酸で加水分解して中間体を得る。
工程4:前記中間体と、アニリン化合物とを反応させて、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法では、各工程の反応混合物の精製をすることなく、いずれも同一の反応装置中で行うと共に、反応触媒の量と溶媒に着眼することにより、極力水が少ない系で反応を行うので、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを高収率かつ高生産性にて製造することが出来るという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を詳細に説明する。
本発明は、前記の製造方法において、いずれの工程も同一の反応装置中で、かつ反応触媒の量と使用溶媒を選択することにより行われる。この各工程そのものは公知慣用の工程である。各工程を反応式にて示すと下記の通りである。
【0013】
工程1:
【0014】
【化1】

【0015】
工程2:
【0016】
【化2】

【0017】
工程3:
【0018】
【化3】

【0019】
工程4:
【0020】
【化4】

【0021】
各工程の化学式中、Ra及びRbは、同一でも異なっていても良い水素原子、低級アルキル基又はハロゲン原子であり、ベンゼン環の2位と6位にRa及びRbが結合する場合にRa及びRbが両方とも水素原子であることはない。低級アルキル基とは、炭素原子数1〜3のアルキル基をいう。R〜Rは、低級アルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、Mはアルカリ金属である。R〜Rは、炭素原子数1〜5のアルキル基である。R〜Rの各アルキル基は、同一炭素原子数であっても良い。
【0022】
工程1は、アニリン化合物(A)と、ハロゲノ酢酸アルキルエステル化合物(B)とを、塩基性触媒の存在下、有機溶媒中で脱ハロゲン化水素反応させて、アニリノ酢酸アルキルエステル化合物(C)を得る工程である。アニリン化合物(A)と、ハロゲノ酢酸アルキルエステル化合物(B)とは、例えば、同一または略同一のモル数用いて反応させれば良い。
【0023】
ここでアニリン化合物(A)とは、アニリン及び低級アルキル基またはハロゲン原子が置換されたアニリンを意味する。低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、iso−プロピル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。アニリン化合物(A)としては、例えば、アニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、p−エチルアニリン、p−iso−プロピルアニリン、p−クロロアニリン、p−ブロモアニリン等の一置換アニリン、2,3−キシリジン、3,4−キシリジン、2,4−ジクロロアニリン、2,4,5−トリメチルアニリンが挙げられる。
【0024】
ハロゲノ酢酸アルキルエステル化合物(B)としては、例えば、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸メチル、ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸メチル等が挙げられる。
【0025】
アニリノ酢酸アルキルエステル化合物(C)は、これらアニリン化合物(A)と、ハロゲノ酢酸アルキルエステル化合物(B)とを、脱ハロゲン化水素反応させることで、容易に得ることが出来る。反応により生成するハロゲン化水素は、用いた化合物(B)により異なるが、例えば、塩化水素、臭化水素等である。
【0026】
本発明においては、この工程1の脱ハロゲン化水素反応を、塩基性触媒の存在下、有機溶媒中で行うが、この際に塩基性触媒としてアルカリ金属炭酸塩を用いる。アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。これらは、含水塩でない方が好ましい。また本発明では、有機溶媒として、無水のアルコールを用いる。このアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、iso−プロパノール、tert−ブタノール、tert−アミルアルコール等の炭素原子数1〜6のモノアルコールが挙げられる。本発明で用いるアルコールは、無水アルコールである。無水とは、含水率100ppm未満であることを意味する。反応制御の容易さと取り扱いが容易な濃度の観点から、アルコールは、原料と同量〜4倍量の範囲で用いることが好ましい。
【0027】
脱ハロゲン化水素反応においては、理論的には、化合物(B)のモル数から等モル数のハロゲン化水素が生成する。本発明は、工程1で生成しうる理論量のハロゲン化水素より多くの当量数の前記アルカリ金属炭酸塩を用いることを特徴とする。即ち、化合物(B)のモル数と同一以上のモル数のアルカリ金属炭酸塩、中でも、化合物(B)のモル数の1〜1.5倍のモル数のアルカリ金属炭酸塩を用いることが好ましい。こうすることにより、反応系をアルカリ性に保って、高収率で化合物(C)を得る。またこうすることで、炭酸ひいてはその分解物である水が生成しない様にすることが出来る。本発明においては、溶媒として無水アルコールを用いるので、系内の液性はpHでは表現出来ないが、前記した通り、生成し得る理論量のハロゲン化水素より多くの当量数の前記アルカリ金属炭酸塩を用いることから、水系に擬制したとしても、反応系が弱酸性を含め酸性となることは理論上あり得ない。後記する工程2では、アルカリ金属アルコキシドを用いた無水系で反応を行うため、この工程1で、原料に由来したり、反応に由来して、水が生成する余地がないことは極めて重要である。
【0028】
工程1は、撹拌下で所定の反応温度と反応時間で行うことが出来る。この反応条件は、化合物(C)が生成する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、温度70〜100℃で8〜40時間で行うことが出来る。溶媒が低沸点アルコールである場合には、密閉系で反応を行う様にすれば良い。反応は、例えば、窒素や貴ガスの様な不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応の終点は、例えば、サンプリングによる、ガスククロマトグラフィーでの所定リテンションタイムでの化合物(B)原料ピークの消失により確認することが出来る。終点に達したと判断したら、反応温度を室温に向けて下げることが好ましい。
【0029】
工程2は、工程1で生成した前記アニリノ酢酸アルキルエステル化合物(C)と、蓚酸ジ低級アルキルエステル化合物(D)とを求核置換反応させて、反応生成物(E)を得る工程である。
【0030】
蓚酸ジ低級アルキルエステル化合物(D)としては、例えば、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジイソプロピル等が挙げられる。
【0031】
工程2では、例えば、まず工程1の反応を終了させた反応装置内に、化合物(D)を更に仕込む。工程1で得られた化合物(C)とこの化合物(D)とから反応性生成物(E)を得る反応は、理論上、等モル反応であるので、両者が同一モル数または略同一モル数となる様に、化合物(D)を仕込めば良い。即ち、化合物(C)のモル数と同一以上のモル数、中でも、化合物(C)のモル数の1〜1.8倍のモル数の化合物(D)を用いることが好ましい。但し、化合物(C)の実際の生成モル数が不明な場合には、工程1の化合物(B)の仕込みモル数を基準にしてそれと同一モル数または略同一モル数となる様にしても良い。
【0032】
この工程2の求核置換反応は、塩基性触媒により化合物(C)の窒素原子のα位の炭素原子上の活性水素を引き抜き、その部位と化合物(D)とを反応させることにより行うことが出来る。この際の塩基性触媒としては、工程1で好適に用いられる触媒ではなく、アルカリ金属アルコキシドを用いることが好ましい。何故なら、アルカリ金属アルコキシドを用いた無水系における反応では、前記反応をより確実に完了させることが出来るからである。
【0033】
このアルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムiso−プロポキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ペントキシド(ナトリウム−2−メチル−2−ブトキシド)等を用いることが出来る。アルカリ金属アルコキシドは、リチウムやナトリウムの様なアルカリ金属とモノアルコールとを反応させることにより容易に得ることが出来る。本発明では、前記工程1において無水アルコールを用いているので、これと必要なアルカリ金属とを混合することにより、アルカリ金属アルコキシドを調製することも出来る。
【0034】
アルカリ金属アルコキシドは、化合物(D)と同一モル数以上となる様に用いれば良いが、中でも、化合物(D)のモル数の1〜1.8倍のモル数を用いることが好ましい。
【0035】
この工程2は、工程1の反応混合物と、事前に調製したアルカリ金属アルコキシドの無水アルコール溶液とを混合することが好ましい。工程1の反応混合物と、事前に調製したアルカリ金属アルコキシドの無水アルコール溶液との混合は、好適には、撹拌している工程1の反応混合物に対して、アルカリ金属アルコキシドの無水アルコール溶液を加える。この場合も、反応混合物を事前に冷却しておいてから、アルカリ金属アルコキシドの無水アルコール溶液を加えることが好ましい。このアルコール溶液は、一括で加えても良いが、反応制御を容易にするために、滴下することが好ましい。
【0036】
この反応は、−20〜+20℃、好ましくは−10℃〜+10℃で行うことが好ましい。冷却に当たっては、例えば、氷、塩と氷との混合物等の冷媒を適当量用いることが出来る。反応は、アルカリ金属アルコキシドの無水アルコール溶液の全量を加えてから、更に6〜30時間かけて行うことが出来る。安全性確保のため、反応の初期は、温度を、系内を前記した温度範囲においてより低温側に保持して反応を行い、反応率が飽和に近づいたら、前記した温度範囲においてより高温側に保持して反応を行うことも出来る。この工程2も不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応の終点は、例えば、サンプリングによる、高速液体クロマトグラフィーでの所定リテンションタイムでの化合物(C)原料ピークの消失により確認することが出来る。
【0037】
工程3は、前記工程2で得られた反応生成物(E)を酸で加水分解して中間体を得る工程である。この工程で、アルカリ金属塩となっている反応生成物を中間体(F)とする。この加水分解は、工程2で得られた反応生成物と酸とを混合することにより行うことが出来る。
【0038】
酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、燐酸、酢酸等が挙げられるが、この工程で生成する中和塩が水溶性かつ毒性のない塩化ナトリウムとすることが出来る点で、塩化水素が好ましい。塩化水素は、工程1の残量アルカリ金属炭酸塩および生成し得る炭酸水素金属塩と工程2のアルカリ金属アルコキシドの合計モル数以上となる様に用いれば良いが、中でも、前記両者合計のモル数の1〜1.8倍のモル数となる様に用いることが好ましい。
【0039】
酸は、ガスでも水溶液でも良い。酸として塩化水素ガスを用いる場合には、工程2で得られた反応生成物に対してそれをバブリングすれば良いし、水溶液を用いる場合には、工程2で得られた反応生成物と塩化水素の水溶液とを混合すれば良い。しかしながら、排ガス処理が不要で取り扱いがより容易な点で、塩化水素は水溶液であることが好ましい。塩化水素の水溶液は、例えば、塩酸として入手が容易である。工程2の反応生成物と、塩化水素の水溶液との混合は、好適には、撹拌している工程2の反応生成物に対して、塩酸の様な水溶液を加える。この場合も、反応生成物を事前に冷却しておいてから、塩化水素の水溶液を加えることが好ましい。この水溶液は、一括で加えても良いが、発熱を抑制するために、滴下することが好ましい。
【0040】
この反応も、工程2と同様の温度範囲において行うことが好ましい。必要なら前記した各種の冷媒を用いることが出来る。反応は、塩化水素の全量を加えてから、更に3〜15時間かけて行うことが出来る。工程2と同様に段階的に温度を変化させることも出来る。工程1及び2において用いられたアルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属アルコキシドは、塩化水素で充分に中和される結果、工程3は最終的には中性〜酸性となる。反応の終点は、例えば、サンプリングにより中間体を含む反応混合物が、所望のpH=2.5〜3.0となること、pH値の変動がなくなることにより確認することが出来る。
【0041】
工程4は、前記中間体(F)と、アニリン化合物(A)とを反応させて、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステル(G)を得る工程である。1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルとは、エチレン性不飽和二重結合を形成する炭素原子を1位、2位として命名した化合物の名称である。工程1と工程4とでは、両者同一構造のアニリン化合物、両者相違する構造のアニリン化合物のいずれも用いることが出来る。工程3の中間体(F)とアニリン化合物(A)とは、例えば、同一または略同一のモル数用いて反応させれば良い。
【0042】
エステル(G)は、中間体(F)とアニリン化合物(A)とを、脱水縮合反応させることで、容易に得ることが出来る。工程1〜3を経た工程4の反応系には、主にアルコールと水とが溶媒として含まれている。また、工程3の酸として塩酸を用いた場合、それは塩化水素に基づき酸性となっている。この反応系中で、還流を行うことで前記脱水縮合を行うことが出来る。
【0043】
工程4で生成するエステル(G)としては、例えば、ジアニリノマレイン酸ジメチル、ジアニリノフマル酸ジメチル、ジトルイジノマレイン酸ジメチル、ジトルイジノフマル酸ジメチル、ジ(クロロアニリノ)マレイン酸ジメチル、ジ(クロロアニリノ)フマル酸ジメチル、ジアニリノマレイン酸ジイソプロピル、ジアニリノフマル酸ジイソプロピル、ジトルイジノマレイン酸ジイソプロピル、ジトルイジノフマル酸ジイソプロピル、ジ(クロロアニリノ)マレイン酸ジイソプロピル、ジ(クロロアニリノ)フマル酸ジイソプロピル等が挙げられる。
【0044】
工程4で生成するエステル(G)は、前記した様なジアリールアミノマレイン酸ジアルキルエステルのみであっても、前記した様なジアリールアミノフマル酸ジアルキルエステルのみであっても、これらの混合物であっても良いが、通常は前記二者の幾何異性体混合物となる。
【0045】
工程4は、撹拌下で所定の反応温度と反応時間で行うことが出来る。この反応条件は、エステル(G)が生成する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、温度70〜95℃で2〜10時間で行うことが出来る。必要であれば、更に水を加えて反応を完結させる様にしても良い。反応の終点は、例えば、サンプリングによる、高速液体クロマトグラフィーでの所定リテンションタイムでの生成物エステル(G)のピークが最大になったことにより確認することが出来る。終点に達したと判断したら、反応温度を室温に向けて下げることが好ましい。
【0046】
本発明では、各工程後に一旦取り出しを行ったり、精製をすることなく、いずれも同一の反応装置中で行うと共に、工程1〜2の初期の反応において、反応触媒の量を特定範囲としかつ無水の溶媒を用いるので、収率が低くなったり、単位時間当たりの生産性が低下することが最小限に抑制される。工程2〜工程4をいずれも同一の反応装置で行う方法に比べて、工程1〜工程4の全工程をいずれも同一の反応装置で行う本発明の方法は、反応装置からの分離回収、再仕込等の手間も少なく、より収率を高くすることが出来、単位時間当たりの生産性も高い。
【0047】
こうして、工程4により生成したエステル(G)を含む反応混合物は、溶媒への溶解度を極力下げるため冷却し、濾過、洗浄、再度濾過することで、精製することが出来る。こうして得られたウエットケーキは、そのままで公知慣用の用途に使用することが出来る。ウエットケーキは、更に乾燥し粉砕することにより、グラニュールやパウダーとしても公知慣用の用途に使用することが出来る。
【0048】
こうして得られたエステル(G)は、環化させることにより、キノロノキノロン化合物とすることが出来る。
【0049】
エステル(G)は、一度に二つの環化反応を行っても良いが、それは困難を伴うので、まず常温における沸点が180〜300℃の芳香族又は脂肪族の有機溶媒中で、最初の環化反応を行った後、有機溶媒を除去し、次いで80〜200℃のポリ燐酸の様な各種無機酸中で、第二の環化反応を行い、無機酸を除去することが好ましい。
【0050】
こうして、得られたキノロノキノロン化合物は、洗浄、再度濾過することで、精製することが出来る。こうして得られたウエットケーキは、そのままで公知慣用の有機顔料の用途に使用することが出来る。ウエットケーキは、更に乾燥し粉砕することにより、グラニュールやパウダーとしても公知慣用の用途に使用することが出来る。
【0051】
次に本発明を実施例等により詳細に説明する。以下、特に断りがない限り、部及び%はいずれも質量基準である。
【実施例1】
【0052】
工程1:
p−トルイジン 21.5部、クロロ酢酸エチル 24.5部、炭酸ナトリウム26.5部及び脱水エタノール80部を反応装置に仕込み、窒素雰囲気中、撹拌しながら、78℃で20時間反応し、室温まで冷却し、エステル(C1)を生成させた。
【0053】
工程2:
前記した工程1の反応混合物の撹拌下、更に蓚酸ジエチル 40.8部を追加して、−5℃まで冷却しながら、ナトリウムエトキシド 19.1部と脱水エタノール 130部との混合溶液を2時間で滴下した。その後、5℃以下、8時間、室温、12時間で攪拌を続け、付加反応生成物(E1)を生成させた。
【0054】
工程3:
前記した工程2の反応混合物を再び−5℃まで冷却しながら、撹拌下のそれに、35%塩酸 60.5部を4時間で滴下した。その後、10℃以下、5時間、室温、12時間で攪拌を続け、中間体(F1)を生成させた。
【0055】
工程4:
前記した工程3の反応混合物の撹拌下、更にp−トルイジン 30.0部を追加した後、80〜81℃で6時間還流し、エステル(G1)を生成させた。
【0056】
更に、工程4の反応混合物を一夜室温に放置し、次いで0℃まで冷却した後、濾過、洗浄、乾燥したところ、エステル(G1)と思われる粉体 43.7部が得られた。これは、質量分析による分子イオンピークから、1,2−ジトルイジノ−1,2−エチレンジカルボン酸ジエチルであることがわかった。
【0057】
またこの粉体は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による標準物質のリテンションタイムから、ジ−p−トルイジノマレイン酸ジエチルとジ−p−トルイジノフマル酸ジエチルとの混合物であることがわかった。HPLCの面積比に基づく、1,2−ジトルイジノ−1,2−エチレンジカルボン酸ジエチルとしての収率と純度は、それぞれ56.5%、97%であった。
【実施例2】
【0058】
工程1:
p−トルイジン 21.5部の代わりにアニリン 18.6部を用いて、反応時間20時間を31時間とする以外は、実施例1の工程1と同様の操作を行い、エステル(C2)を生成させた。
【0059】
工程2:
前記した工程1の反応混合物の撹拌下、更に蓚酸ジエチル 40.8部を追加して、0℃まで冷却しながら、ナトリウムエトキシド 19.1部と脱水エタノール 130部との混合溶液を4時間で滴下した。その後、室温で24時間で攪拌を続け、付加反応生成物(E2)を生成させた。
【0060】
工程3:
前記した工程2の反応混合物を再び0℃まで冷却しながら、撹拌下のそれに、35%塩酸 60.5部を4時間で滴下した。その後、10℃以下、5時間、室温、12時間で攪拌を続け、中間体(F2)を生成させた。
【0061】
工程4:
前記した工程3の反応混合物の撹拌下、更にアニリン 26.0部を追加した後、80〜81℃で6時間還流し、エステル(G2)を生成させた。
【0062】
更に、工程4の反応混合物を一夜室温に放置し、水 200部を追加し、エタノールと水の混合物100部を蒸留留去した。次いで5℃まで冷却した後、濾過、洗浄、乾燥したところ、エステル(G2)と思われる粉体 39.7部が得られた。これは、質量分析による分子イオンピークから、1,2−ジアニリノ−1,2−エチレンジカルボン酸ジエチルであることがわかった。
【0063】
またこの粉体は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による標準物質のリテンションタイムから、ジアニリノマレイン酸ジエチルとジアニリノフマル酸ジエチルとの混合物であることがわかった。HPLCの面積比に基づく、1,2−ジアニリノ−1,2−エチレンジカルボン酸ジエチルとしての収率と純度は、それぞれ58.3%、94.8%であった。
【0064】
比較例
工程1´:
p−トルイジン 21.5部、クロロ酢酸エチル 24.5部、炭酸ナトリウム 11.6部及び脱水エタノール80部を反応装置に仕込み、窒素雰囲気中、撹拌しながら、78℃で24時間反応し、室温まで冷却し、エステル(C3)を生成させた。
ここに水 300部を加え、30分攪拌を行い、0℃まで冷却、濾過、水/エタノール=8/1の水溶液 100部、冷却したエタノール 30部にて、この順で洗浄、40℃で真空乾燥したところ、エステル(C3)と思われる粉体 27.0部が得られた。
またこの粉体は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による標準物質のリテンションタイムから、p−トルイジノ酢酸エチルであることがわかった。HPLCの面積比に基づく、p−トルイジノ酢酸エチルとしての収率と純度は、それぞれ70%、97.8%であった。
【0065】
工程2´〜4´:
脱水エタノール 400部およびナトリウムエトキシド 71.4部を反応装置に仕込み、窒素雰囲気中、攪拌しながら、55℃で、更に、蓚酸ジエチル 146.1部および上記で得られたp−トルイジノ酢酸エチル 193.2部を追加し、25℃で20時間反応した。次いで減圧で溶媒を留出した。
水 750部および酢酸 72部を追加し、強力的な攪拌を行った後、攪拌を停止し、トルエン 500部を追加して、再び攪拌を行った後、2時間の静置、トルエン層を分離し、水層はトルエン 2×200部で抽出を行い、トルエン層を合わせて、水 600部で洗浄を行った。
減圧でトルエンを留出し、p−トルイジン 96.5部、エタノール 600部および35%の塩化水素水溶液 9部を追加して、78℃で6時間の反応を行った。
【0066】
次いで0℃まで冷却し、濾過、洗浄、乾燥したところ、エステル(G3)と思われる粉体 221.6部が得られた。これは、質量分析による分子イオンピークから、1,2−ジ−p−トルイジノ−1,2−エチレンジカルボン酸ジエチルであることがわかった。HPLCの面積比に基づく、1,2−ジ−p−トルイジノ−1,2−エチレンジカルボン酸ジエチルとしての収率と純度は、それぞれ41%、96.8%であった。
【0067】
従来の方法である比較例の製造方法は、塩基性触媒であるアルカリ金属炭酸塩を少量しか用いないので、工程1(相当)における収率が著しく低く、しかも、途中で分液等で精製等を行ったり反応装置から取り出しし再仕込みをするので、最終的に得られる1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの収率が著しく低くなる。
これに対して、本発明の実施例1の製造方法では、塩基性触媒であるアルカリ金属炭酸塩を比較的多く用い、かつ溶媒として無水の有機溶媒を用いる上、個々の工程を一つの反応装置内で行うので、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルをより高収率で得ることが出来ていることが明らかである。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含んでなる1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの製造方法において、
下記工程1の塩基性触媒としてアルカリ金属炭酸塩を、生成するハロゲン化水素よりも多くの当量を用い、かつ、有機溶媒として無水のアルコール中で工程1を行うと共に、
下記工程1から工程4を、各工程の反応混合物の精製をすることなく、いずれも同一の反応装置中で行う、
ことを特徴とする1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルの製造方法。

工程1:アニリン化合物と、ハロゲノ酢酸アルキルエステル化合物とを、塩基性触媒の存在下、有機溶媒中で脱ハロゲン化水素反応させて、アニリノ酢酸アルキルエステル化合物を得る。
工程2:前記アニリノ酢酸アルキルエステル化合物と、蓚酸ジ低級アルキルエステル化合物とを求核置換反応させて、反応生成物を得る。
工程3:前記反応生成物を酸で加水分解して中間体を得る。
工程4:前記中間体と、アニリン化合物とを反応させて、1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルを得る。
【請求項2】
1,2−ジアリールアミノ−1,2−エチレンジカルボン酸アルキルエステルが、ジアリールアミノマレイン酸ジアルキルエステルと、ジアリールアミノフマル酸ジアルキルエステルとの混合物である請求項1記載の製造方法。




【公開番号】特開2007−153757(P2007−153757A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347781(P2005−347781)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】