説明

1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体

【課題】 環境への負荷が小さい新規化合物である、1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体、並びにそれを含有する生分解性樹脂用可塑剤及び生分解性樹脂組成物の提供。
【解決手段】 式(1)で表される1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体、それを含有する生分解性樹脂用可塑剤、並びにその可塑剤と、生分解性樹脂を含有する生分解性樹脂組成物。
X [-OCH(CH3)CO]m1-(OCH2CH2CH2)n-[OCOCH(CH3)-]m2OX …(1)
(式中、Xは、水素原子又は炭素数2〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアシル基を示す。m1及びm2は、乳酸の平均重合度を示し、0≦m1≦10、0≦m2≦10であって、0.1≦m1+m2≦10を満たす数である。nは1,3−プロパンジオールの平均重合度を示し、1〜20の数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物である1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体、それを含有する生分解性樹脂用可塑剤、並びに生分解性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3−プロパンジオールはテレフタル酸との縮合によりポリトリメチレンテレフタレートに変換されて合成繊維として用いられている。また、その重合体であるポリトリメチレングリコールの誘導体については、そのままで、あるいはアルキルエーテル化、エステル化したものが潤滑油として使用できることが知られている(特許文献1)。しかし、1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸あるいはポリ乳酸エステルについては、その存在と応用についてこれまで知られていなかった。
【0003】
一方、自然界における分解性に優れ、生態系に影響を及ぼさない生分解性を有するポリマーとして、ポリ乳酸樹脂等が開発されている。しかしポリ乳酸樹脂の場合は、脆く、硬く、可撓性に欠ける特性のためにいずれも硬質成形品分野に限られ、フィルム等に成形した場合は、柔軟性が不足したり、折り曲げたとき白化等の問題があり、軟質又は半硬質分野に使用されていないのが現状である。軟質、半硬質分野に応用する技術として可塑剤を添加する方法が種々提案されているが、環境への負荷が小さく、環境保護の観点で十分に満足できる可塑剤は得られていない。
【特許文献1】米国特許第2520733号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、環境への負荷が小さい新規化合物である、1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体、並びにそれを含有する生分解性樹脂用可塑剤及び生分解性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(1)で表される1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体(以下化合物(1)という)、それを含有する生分解性樹脂用可塑剤、並びにその可塑剤と、生分解性樹脂を含有する生分解性樹脂組成物を提供する。
【0006】
X [-OCH(CH3)CO]m1-(OCH2CH2CH2)n-[OCOCH(CH3)-]m2OX …(1)
(式中、Xは、水素原子又は炭素数2〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアシル基を示す。m1及びm2は、乳酸の平均重合度を示し、0≦m1≦10、0≦m2≦10であって、0.1≦m1+m2≦10を満たす数である。nは1,3−プロパンジオールの平均重合度を示し、1〜20の数である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の化合物(1)の原料となる1,3−プロパンジオール及び乳酸は、糖を原料としたバイオ合成法により得られることから、本発明の化合物(1)は、製造過程において石油化学原料由来のポリエチレングリコールや、ポリプロピレングリコールを用いる他のポリエーテル乳酸エステルとは異なり、環境への負荷が小さく環境保護の観点から好ましい。また、本発明の化合物(1)は、生分解性樹脂の可塑剤として有用であり、本発明の可塑剤を含有する生分解性樹脂組成物は、柔軟性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[化合物(1)]
本発明の化合物(1)は、1,3−プロパンジオール又はその重合体と、乳酸又はポリ乳酸とのエステル、あるいはその炭素数2〜4のアシル化物である。
【0009】
式(1)において、Xは、製造の容易性の観点から、水素原子又は炭素数2〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアシル基を示すが、水素原子又はアセチル基が好ましく、可塑剤として用いる観点からアセチル基がより好ましい。m1及びm2は、可塑剤として用いる観点から、0≦m1≦10、0≦m2≦10であって、0.1≦m1+m2≦10を満たす数であるが、0.5≦m1+m2≦8を満たす数が好ましく、1≦m1+m2≦6を満たす数がより好ましい。nは、可塑剤として用いる観点から、1〜20の数であるが、1.1〜10が好ましく、1.2〜5がより好ましい。
【0010】
1,3−プロパンジオール重合体は、公知の方法に従い、1,3−プロパンジオールの脱水縮合又は、1,3−プロパンジオールのオキセタンへの付加により製造することができる。例えば、硫酸、p−トルエンスルホン酸などの酸を触媒として、温度100〜150℃で、常圧下、あるいは減圧下に1,3−プロパンジオールを縮重合させることができる。
【0011】
乳酸、又はポリ乳酸は市販のものを用いることができ、L−乳酸、D−乳酸単位のいずれか、あるいは両単位の混合物が使用できる。
【0012】
1,3−プロパンジオール又はその重合体と乳酸又はポリ乳酸とのエステル化は、例えば、1,3−プロパンジオールの縮重合と同様に硫酸、p−トルエンスルホン酸などの酸を触媒として、温度100〜150℃で、常圧下、あるいは減圧下にエステル化を行うことができる。生成物の構造は1H−NMR及びガスクロマトグラフィーにより確認することができる。
【0013】
乳酸又はポリ乳酸とのエステル化後に、乳酸部の水酸基は、必要に応じ、公知の方法に従って更に炭素数2〜4の酸又はその無水物によりエステル化することができ、製造の容易性及び環境保護の観点から、酢酸無水物、酪酸無水物が好ましい。例えば、上記1,3−プロパンジオール又はその重合体と乳酸又はポリ乳酸とのエステルを無水酢酸、あるいは酪酸無水物などの酸無水物と加熱することによって、それぞれ酢酸エステル、あるいは酪酸エステルに変換することができる。
【0014】
化合物(1)の平均分子量は、可塑剤として用いる観点から、200以上が好ましく、250以上がより好ましく、250〜1000が更に好ましい。
なお、化合物(1)の平均分子量は、1H−NMRにより構造式を決定し、その構造式から計算で求めることができる。
【0015】
[可塑剤]
本発明の化合物(1)は、生分解性樹脂の可塑剤として用いることができる。
【0016】
本発明の可塑剤は、化合物(1)以外に、化合物(1)の製造における未反応分や、化合物(1)以外の可塑剤等の1種又は2種以上を含有することができる。
【0017】
化合物(1)以外の可塑剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル二塩基酸エステル等が挙げられる。具体的には、ビスメチルジグリコールアジペート、ビスメチルトリグリコールサクシネート等である。
【0018】
本発明の可塑剤中の、化合物(1)の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、好ましくは20重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上であり、更に好ましくは70重量%以上である。
【0019】
[生分解性樹脂]
本発明で使用される生分解性樹脂としては、JIS K6953(ISO14855)「制御された好気的コンポスト条件の好気的かつ究極的な生分解度及び崩壊度試験」に基づいた生分解性を有するポリエステル樹脂が好ましい。
【0020】
本発明で使用される生分解性樹脂は、自然界において微生物が関与して低分子化合物に分解される生分解性を有していればよく、特に限定されるものではない。例えば、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレートとポリヒドロキシヘキサノエートの共重合物、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子と上記の脂肪族ポリエステルあるいは脂肪族芳香族コポリエステルとの混合物等が挙げられる。
【0021】
これらのなかで加工性、経済性、大量に入手できることなどから、脂肪族ポリエステルが好ましく、物性の点からポリ乳酸樹脂がさらに好ましい。ここで、ポリ乳酸樹脂とは、ポリ乳酸、又は乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。好ましいポリ乳酸の分子構造は、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位20〜100モル%とそれぞれの対掌体の乳酸単位0〜80モル%からなるものである。また、乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーは、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位85〜100モル%とヒドロキシカルボン酸単位0〜15モル%からなるものである。これらのポリ乳酸樹脂は、L−乳酸、D−乳酸及びヒドロキシカルボン酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトン等から必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。但し、主原料は、D−ラクチド又はL−ラクチドが好ましい。
【0022】
ポリ乳酸樹脂の中で好ましいものとしては、耐熱性の観点から、光学純度90%以上の結晶性ポリ乳酸と光学純度90%未満のポリ乳酸の割合が重量比で、光学純度90%以上の結晶性ポリ乳酸/光学純度90%未満のポリ乳酸=100/0〜10/90、好ましくは100/0〜25/75のポリ乳酸樹脂が挙げられる。
【0023】
市販されている生分解性樹脂としては、例えば、デュポン社製、商品名バイオマックス;BASF社製、商品名Ecoflex;EastmanChemicals社製、商品名EasterBio;昭和高分子(株)製、商品名ビオノーレ;日本合成化学工業(株)製、商品名マタービー;三井化学(株)製、商品名レイシア;日本触媒(株)製、商品名ルナーレ;チッソ(株)製、商品名ノボン;Nature Works LLC社製、商品名Nature Works(登録商標) PLA等が挙げられる。
【0024】
これらの中では、好ましくはポリ乳酸樹脂(例えば三井化学(株)製、商品名レイシアH−100,H−280,H−400,H−440;Nature Works LLC社製、商品名Nature Works(登録商標) PLA)、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル(例えば昭和高分子(株)製、商品名ビオノーレ)、ポリ(ブチレンサクシネート/テレフタレート)等の脂肪族芳香族コポリエステル(デュポン社製、商品名バイオマックス)が挙げられる。
【0025】
耐熱性の観点では、L−乳酸純度が高い結晶性生分解性樹脂が好ましく、延伸により配向結晶化させることが好ましい。結晶性生分解性樹脂としては、三井化学(株)製、レイシアH−100、H−400、H−440等が挙げられる。
【0026】
[生分解性樹脂組成物]
本発明の生分解性樹脂組成物は、本発明の可塑剤と生分解性樹脂とを含有する。本発明の可塑剤の含有量は、生分解性樹脂100重量部に対し、柔軟性の観点から、好ましくは1〜70重量部、更に好ましくは3〜50重量部、特に好ましくは5〜30重量部である。
【0027】
本発明の生分解性樹脂組成物中の、生分解性樹脂の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上である。
【0028】
本発明の組成物は、上記可塑剤以外に、滑剤、結晶核剤等の他の成分を含有することができる。滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス等の炭化水素系ワックス類、ステアリン酸等の脂肪酸類、グリセロールエステル等の脂肪酸エステル類、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸類、モンタン酸ワックス等のエステルワックス類、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の芳香環を有するアニオン型界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のアルキレンオキサイド付加部分を有するアニオン型界面活性剤等が挙げられる。結晶核剤としては、天然又は合成珪酸塩化合物、酸化チタン、硫酸バリウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸ソーダなどが挙げられ、珪酸塩化合物としては、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト、バーミュライト、マイカなどが例示できる。これら滑剤及び結晶核剤の含有量は、生分解性樹脂100重量部に対し、それぞれ0.05〜5重量部が好ましく、0.1〜2重量部が更に好ましい。
【0029】
本発明の組成物は、上記以外の他の成分として、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、無機充填剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、難燃剤、上記本発明の可塑剤以外の可塑剤等を、本発明の目的達成を妨げない範囲で含有することができる。
【0030】
本発明の組成物は、加工性が良好で、例えば160〜190℃等の低温で加工することができるため、カレンダー加工も可能であり、また可塑剤の分解も起こりにくい。本発明の組成物は、フィルムやシートに成形して、各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0031】
合成例1
攪拌機、温度計、脱水管を備えた500mLフラスコに、1,3−プロパンジオール(和光純薬(株)製)203g、L−乳酸(和光純薬(株)製、特級)120g、ジ−n−ブチル酸化スズ3.32gを入れ、窒素雰囲気下、150℃で6時間反応させた。23℃まで冷却後、85%リン酸1.54gを加えて50℃で0.5時間攪拌後、協和化学製キョワード600S 9.0gを加えて80℃で1時間攪拌し、加圧ロ過した。液温95〜101℃、圧力13〜23Paで低沸点成分を留去した後、協和化学製吸着剤キョワード600S 3.4gを添加し、80℃で1時間攪拌し、加圧ロ過して淡黄色透明液体の1,3−プロパンジオール乳酸エステル86gを得た。得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルの油脂分析によれば、酸価0.9KOHmg/g、水酸基価703.5KOHmg/g、鹸化価398.3KOHmg/g、エステル価397.4KOHmg/gであった。図1に得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルの1H−NMRスペクトル(バリアン社MERCURY400、400MHz、CDCl3溶液、TMS内標、以下同じ)を示す。また、図2に得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルのガスクロマトグラムを示す。1H−NMRスペクトルの各吸収ピークは、図1の式(A)で表される化合物(平均分子量148)、式(B)で表される化合物(平均分子量220)、式(C)で表される化合物(平均分子量220)の各水素原子a〜iに帰属でき、その積分値から計算される水酸基価及びエステル価は各々712.3KOHmg/g及び402.5KOHmg/gであった。また、式(A)で表される化合物と、式(B)で表される化合物と、式(C)で表される化合物と、式(P)で表される化合物(1,3−プロパンジオール)のモル比(A)/(B)/(C)/(P)は、77/15/3/5であった。
【0032】
尚、ガスクロマトグラフィー(GLC)分析は、ガラス製サンプル瓶に、サンプル10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)1mLとを加えたものを下記条件により行なった。
【0033】
<GLC条件>
装置;Hewlett Packard 製 5890型
カラム;ULTRA1(Hewlett Packard 製)25m×0.2mm×0.33μm
カラム温度;initial=80℃(3分保持) 、final=340℃
昇温速度=10℃/分、300℃にて20分間保持
検出器;FID、温度=320℃
注入部;温度=320℃
サンプル注入量;1μL
キャリアガス;ヘリウム。
【0034】
合成例2
攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えた500mLフラスコに、合成例1で得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステル74.1gを仕込み、窒素雰囲気下、110〜120℃で滴下漏斗から無水酢酸142.3gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、120℃で2時間熟成した後、液温55〜100℃、圧力3.3kPaで低沸点成分を留去し、さらに液温55℃、圧力4.7kPaでスチーミングを行い、黄色透明液体の1,3−プロパンジオール乳酸エステルアセテート112gを得た。得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルアセテートの油脂分析によれば、酸価2.4KOHmg/g、水酸基価1KOHmg/g以下、鹸化価725.4KOHmg/g、エステル価723.0KOHmg/gであった。図3に得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルアセテートの1H−NMRスペクトルを示す。また、図4に得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルアセテートのガスクロマトグラムを示す。1H−NMRスペクトルの各吸収ピークは、図3の式(D)で表される化合物(平均分子量232)、式(E)で表される化合物(平均分子量322)の各水素原子a〜gに帰属でき、その積分値から計算されるエステル価は719.6KOHmg/gであった。また、式(D)で表される化合物と、式(E)で表される化合物のモル比(D)/(E)は、86/14であった。
【0035】
尚、ガスクロマトグラフィー(GLC)分析は、ガラス製サンプル瓶に、サンプル10mgとアセトン1mLとを加えたものについて、合成例1とは、「カラム温度;initial=100℃」とした以外は同様の条件で行った。
【0036】
合成例3
攪拌機、温度計、脱水管を備えた1Lフラスコに、1,3−プロパンジオール(和光純薬(株)製)342g、L−乳酸(和光純薬(株)製、特級)135g、パラトルエンスルホン酸一水和物1.90gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で29時間反応させ、さらにL−乳酸(和光純薬(株)製、特級)135gを追加し、14時間反応させた。協和化学製吸着剤キョワード500SH 7.6gを添加し、80℃で45分間攪拌し、加圧ロ過して黄色の透明液体436gを得た後、液温114〜135℃、圧力13Paで低沸点成分を留去し、黄色透明液体の1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステル387gを得た。得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルの油脂分析によれば、酸価0.2KOHmg/g、水酸基価391.3KOHmg/g、鹸化価322.3KOHmg/g、エステル価322.1KOHmg/gであった。
【0037】
攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えた500mLフラスコに上記で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステル120gを仕込み、窒素雰囲気下、110〜120℃で滴下漏斗から無水酢酸128.2gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、120℃で2時間熟成し、液温93〜118℃、圧力14.7〜4.8kPaで低沸点成分を留去し、液温115℃、圧力4.3kPaでスチーミングを行い、さらに液温152〜160℃、圧力15Paで低沸点成分を留去し、黄褐色透明液体の1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテート143gを得た。得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートの油脂分析によれば、酸価0.5KOHmg/g、水酸基価1KOHmg/g以下、鹸化価556.5KOHmg/g、エステル価556.0KOHmg/gであった。図5に得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートの1H−NMRスペクトルを示す。また、図6に得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートのガスクロマトグラムを示す。1H−NMRスペクトルの各吸収ピークは図5の式(F)で表される化合物(平均分子量360)の各水素原子a〜iに帰属でき、その積分値から計算される鹸化価は556.3KOHmg/gであった。また、式(F)中のnは0.50、m1+m2は1.57であった。
尚、ガスクロマトグラフィー(GLC)分析は、合成例2と同様の条件により行なった。
【0038】
合成例4
攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えた1Lフラスコに1,3−プロパンジオール(和光純薬(株)製)228.3g、パラトルエンスルホン酸一水和物1.27gを入れ、窒素雰囲気下、150℃で4時間、さらに160℃で16時間反応させた。液温93〜118℃、圧力14.7〜4.8kPaで低沸点成分を留去し、156.7gの1,3−プロパンジオール重合体を得た。得られた1,3−プロパンジオール重合体の油脂分析によれば、酸価2.3KOHmg/g、水酸基価534.0KOHmg/gであった。また、図7に得られた1,3−プロパンジオール重合体のガスクロマトグラムを示す。
尚、ガスクロマトグラフィー(GLC)分析は、合成例1と同様の条件により行なった。
【0039】
フラスコ中の1,3−プロパンジオール重合体146.7gにL−乳酸(和光純薬(株)製、特級)91.7gを加え、130℃で3時間反応させた後、協和化学製吸着剤キョワード500SH 5.3gを添加し、80℃で1時間攪拌し、加圧ロ過して褐色透明液体の1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステル181.6gを得た。得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルの油脂分析によれば、酸価0.07KOHmg/g、水酸基価363.7KOHmg/g、鹸化価259.3KOHmg/g、エステル価259.2KOHmg/gであった。図8に得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルの1H−NMRスペクトルを示す。1H−NMRスペクトルの各吸収ピークは図8の式(H)で表される化合物、式(I)で表される化合物の各水素原子a〜iに帰属でき、その積分値から計算される式(H)で表される化合物と、式(I)で表される化合物のモル比(H)/(I)は2.07であり、式(H)と式(I)をまとめた式(J)で表される化合物(平均分子量312)中のnは3.32、m1+m2は1.40であった。また、1H−NMRスペクトルの積分値から計算される水酸基価は359.9KOHmg/g、エステル価は252.1KOHmg/gであった。
【0040】
合成例5
攪拌機、温度計、滴下漏斗を備えた1Lフラスコに合成例4で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステル150gを仕込み、窒素雰囲気下、110〜120℃で滴下漏斗から無水酢酸140.2gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、120℃で2時間熟成し、液温78〜110℃、圧力10.4〜3.1kPaで低沸点成分を留去し、液温103℃、圧力2.9kPaでスチーミングを行い、さらに液温145〜152℃、圧力15Paで低沸点成分を留去し、褐色透明液体の1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテート173gを得た。得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートの油脂分析によれば、酸価0.08KOHmg/g、水酸基価6.5KOHmg/g、鹸化価480.2KOHmg/g、エステル価480.1KOHmg/gであった。図9に得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートの1H−NMRスペクトルを示す。また、図10に得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートのガスクロマトグラムを示す。
【0041】
1H−NMRスペクトルの各吸収ピークは図9の式(K)で表される化合物、式(L)で表される化合物の各水素原子a〜iに帰属でき、その積分値から計算される式(K)で表される化合物と、式(L)で表される化合物のモル比(K)/(L)は2.85であり、式(K)と式(L)をまとめた式(M)で表される化合物(平均分子量401)中のnは3.33、m1+m2は1.46であった。また、1H−NMRスペクトルの積分値から計算されるエステル価は484.6KOHmg/gであった。
尚、ガスクロマトグラフィー(GLC)分析は、合成例2と同様の条件により行なった。
【0042】
実施例1〜2、比較例1
合成例3及び5で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートの耐揮発性について、下記の方法で評価した。また、これらの乳酸エステルアセテートを可塑剤として用い、50℃で24時間真空乾燥した結晶性ポリ乳酸樹脂(三井化学(株)製レイシア(LACEA)H-400)100重量部に対して、15重量部になるように添加し、180℃の混練機(東洋精機社製、“ラボプラストミル”)にて10分間混練し、190℃のプレス成形機にて厚さ0.5mmのテストピースを作成し、得られたテストピースについて下記の方法で、柔軟性、透明性及び耐ブリード性について評価した。また、比較例として、可塑剤を添加しない結晶性ポリ乳酸樹脂(レイシアH-400)について、下記方法で柔軟性及び透明性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0043】
<耐揮発性の評価法>
熱重量分析機を用い窒素雰囲気下、乳酸エステルアセテートを室温から330℃まで昇温(5℃/分)し、10%重量減する温度を測定した。温度の高い方が耐揮発性が優れている。
【0044】
<柔軟性の評価法>
テストピースを3号ダンベルで打ち抜き、温度23℃、湿度50%RHの恒温室に24時間放置し、引張速度200mm/minで引張試験を行い、柔軟性を弾性率と破断伸度%で示した。弾性率の数値は低い方が、破断伸度%の数値は大きい方が柔軟性が高いことを示す。
【0045】
<透明性の評価法>
JIS-K7105規定の積分球式光線透過率測定装置(ヘイズメーター)を用い、テストピースのヘイズ値を測定した。数字の小さい方が透明性良好であることを示す。
【0046】
<耐ブリード性(ブリードの有無)>
テストピース(縦100mm×横100mm×厚さ0.5mm)を70℃の恒温室に72時間放置し、その表面における可塑剤のブリードの有無を肉眼で観察した。耐ブリード性の評価は、ブリードによって樹脂の表面品質のみならず、樹脂事態の柔軟性が損なわれることから可塑剤の性能評価には不可欠な項目である。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】合成例1で得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルの1H−NMRスペクトルである。
【図2】合成例1で得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルのガスクロマトグラムである。
【図3】合成例2で得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルアセテートの1H−NMRスペクトルである。
【図4】合成例2で得られた1,3−プロパンジオール乳酸エステルアセテートのガスクロマトグラムである。
【図5】合成例3で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートの1H−NMRスペクトルである。
【図6】合成例3で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートのガスクロマトグラムである。
【図7】合成例4で得られた1,3−プロパンジオール重合体のガスクロマトグラムである。
【図8】合成例4で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルの1H−NMRスペクトルである。
【図9】合成例5で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートの1H−NMRスペクトルである。
【図10】合成例5で得られた1,3−プロパンジオール重合体乳酸エステルアセテートのガスクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される、1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体。
X [-OCH(CH3)CO]m1-(OCH2CH2CH2)n-[OCOCH(CH3)-]m2OX …(1)
(式中、Xは、水素原子又は炭素数2〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアシル基を示す。m1及びm2は、乳酸の平均重合度を示し、0≦m1≦10、0≦m2≦10であって、0.1≦m1+m2≦10を満たす数である。nは1,3−プロパンジオールの平均重合度を示し、1〜20の数である。)
【請求項2】
平均分子量が250以上である請求項1記載の1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の1,3−プロパンジオール又はその重合体の乳酸エステル誘導体を含有する生分解性樹脂用可塑剤。
【請求項4】
請求項3記載の可塑剤と、生分解性樹脂を含有する生分解性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−106009(P2008−106009A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291622(P2006−291622)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】