説明

1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置

【課題】1,4−ジオキサン分解菌を用いた1,4−ジオキサン含有廃水の処理において、従来の問題点であった1,4−ジオキサンの分解効率低下及び大気放出の問題を解決することができる処理方法を提供する。
【解決手段】廃水をエア曝気する第1曝気手段26、28を備えると共に1,4−ジオキサン以外の有機物を生物学的に分解する有機物分解菌を少なくとも有し、廃水をエア曝気しながら有機物分解菌と接触させる第1生物処理槽12と、1次処理水をエア曝気する第2曝気手段30、32を備えると共に1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、一次処理水をエア曝気しながら1,4−ジオキサン分解菌とを接触させる第2生物処理槽14と、第1生物処理槽12のエア曝気により廃水から放出されたガスを回収する回収手段16と、回収したガスの全部又は一部を第2生物処理槽14に導入する導入手段18と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置に係り、特に廃水中の1,4−ジオキサンを1,4−ジオキサン分解菌で生物学的に処理する1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4−ジオキサンは一般的に溶剤等として使用されており、塗料などの溶剤として使用されることが多い。また、市販のポリオキシアルキルエーテルのような洗剤中にも含まれている。このため、1,4−ジオキサンを製造する製造工場あるいはポリオキシアルキルエーテルを製造する製造工場の工場廃水、及びポリオキシアルキルエーテルを含有する洗剤を使用した家庭廃水を介して1,4−ジオキサンが下水等に排出される。
【0003】
しかし、1,4−ジオキサンは水溶性の難分解性物質であるため、下水処理場における生物処理や固液分離処理では殆ど分解できず、水環境に対する汚染が懸念されている。
【0004】
一方、環境庁の行う指定化学物質の環境汚染調査において、1,4−ジオキサンは広い範囲で検出されており、特に河川や湖沼等の水環境中での汚染が報告されている。また、地下水から1,4−ジオキサンが検出された例も報告されている。
【0005】
このような背景から、平成16年4月の水道法の改正に伴い、飲料水基準として1,4−ジオキサンの規制値を0.05mg/Lとする内容が導入された。更に、平成22年4月には、環境基準値が制定されており、廃水中の1,4−ジオキサンを効率的に分解除去するための処理技術が要望されている。
【0006】
従来、廃水中の1,4−ジオキサンを分解除去する方法としては、オゾン処理を主として過酸化水素処理及び紫外線処理を併用し、OHラジカルの形成を促進する促進酸化法が提案されている(例えば特許文献1〜3)。また、金属触媒下で過酸化水素水を添加して、OHラジカルを形成させるフェントン酸化法も知られている。
【0007】
しかし、特許文献1〜3の促進酸化法や、フェントン酸化法は、電力消費や薬品使用料が多く、ランニングコストが大きくなるという問題がある。このため、低コストで処理が可能な生物学的な処理方法の開発が求められている。
【0008】
従来、1,4−ジオキサンの生物学的な処理は困難であるとされており、生物学的な処理に関する詳細な報告は極めて少ない。その中で、本出願の出願人は、1,4−ジオキサンを分解する微生物(以後「1,4−ジオキサン分解菌」という」の活性を向上させ、廃水処理に適用することを提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−029966号公報
【特許文献2】特開2001−121163号公報
【特許文献3】特開2000−202466号公報
【特許文献4】特開2008−306939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、出願人は、1,4−ジオキサン分解菌を用いて、実際の廃水(例えば下水)を具体的に処理する上で次の2つの問題があることを見出した。即ち、
(1)1,4−ジオキサンのみを含有する合成廃水の場合には、高い分解効率を得ることができるが、実際の廃水のように廃水中に1,4−ジオキサン以外の有機物を高濃度に含有する場合、1,4−ジオキサンの分解効率が顕著に低下する(分解効率低下の問題)。
(2)1,4−ジオキサン分解菌を有する生物処理装置で生物学的に分解処理する場合、好気性条件を必要とするためエア曝気すると、廃水中の1,4−ジオキサンの一部が大気中に放出されてしまう(大気放出の問題)。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、1,4−ジオキサン分解菌を用いた1,4−ジオキサン含有廃水の処理において、従来の問題点であった1,4−ジオキサンの分解効率低下及び大気放出の問題を解決することのできる1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1は、1,4−ジオキサンを有機物の1種類として含有する廃水の処理方法において、第1生物処理槽において、前記廃水をエア曝気しながら前記1,4−ジオキサン以外の有機物を生物学的に分解する有機物分解菌と接触させて1次処理廃水を得る第1生物処理工程と、第2生物処理槽において、前記1次処理廃水をエア曝気しながら1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌と接触させて処理水を得る第2生物処理工程と、前記第1生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガスを回収する回収工程と、回収した回収ガスの全部又は一部を前記第2生物処理槽に導入する導入工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、1,4−ジオキサン以外の有機物としては、例えばBOD成分及びCOD成分がある。
【0014】
本発明によれば、1,4−ジオキサンを有機物の1種類として含有する廃水を、第2生物処理槽において1,4−ジオキサン分解菌に接触させて分解処理する前に、第1生物処理槽において予め廃水中の1,4−ジオキサン以外の有機物を減少させるようにした。これにより、第2生物処理槽内において1,4−ジオキサンを他の細菌よりも優占化させることができるので、1,4−ジオキサン分解菌の分解効率を顕著に向上させることができる。
【0015】
この場合、第1生物処理槽の処理後における廃水中の1,4−ジオキサン以外の有機物濃度としては、250mg/L以下が好ましく、100mg/L以下がより好ましい。また、エア曝気による第1生物処理槽でのDO濃度としては、1.5〜6.0mg/Lの範囲が好ましく、2.0〜5.0mg/Lの範囲がより好ましい。エア曝気による第2生物処理槽でのDO濃度としては、2.0〜6.0mg/Lの範囲が好ましく、3.0〜5.0mg/Lの範囲がより好ましい。
【0016】
また、第1生物処理槽でのエア曝気で廃水から放出される1,4−ジオキサン濃度の高いガスは、回収して第2生物処理槽に導入するようにしたので、廃水中の1,4−ジオキサンを大気に放出させることなく分解処理することができる。この場合、第2生物処理槽では1,4−ジオキサンを高い分解効率で分解でき、槽内の1,4−ジオキサン濃度を常に低レベルに抑えることができるので、第2生物処理槽でのエア曝気により放出されるガス中の1,4−ジオキサン量を顕著に低減できる。
【0017】
また、回収されたガスを第2生物処理槽で処理することにより、回収ガス中の1,4−ジオキサンを分解処理するための特別な分解装置も必要ない。ちなみに、物理化学的に1,4−ジオキサンを分解する場合には、分解廃液が発生し、この処理を行う必要も生じる。
【0018】
本発明の処理方法において、前記導入工程では、前記回収ガスを前記第2生物処理槽のエア曝気用ガスとして導入することが好ましい。これは、回収ガスを第2生物処理槽で分解処理するための好ましい導入方法の一態様である。これにより、第2生物処理槽の1次処理廃水をエア曝気するためのエア供給設備を省略できる。
【0019】
本発明の処理方法において、前記導入工程では、前記回収ガスをスクラビング処理し、該スクラビング処理水を前記第2生物処理槽に導入することが好ましい。これは、回収ガスを第2生物処理槽で分解処理するための好ましい導入方法の別態様である。これにより、第1生物処理槽から放出されるガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水中に確実に吸収して、第2生物処理槽に導入することができる。
【0020】
本発明の処理方法において、前記導入工程では、前記回収ガスをスクラビング処理して、該スクラビング処理水の一部を前記第1生物処理槽に戻し、残りを前記第2生物処理槽に導入することが好ましい。これは、回収ガスを第2生物処理槽で分解処理するための好ましい導入方法の別態様である。これにより、第2生物処理槽での1,4−ジオキサン負荷が大きくなり過ぎないようにできる。
【0021】
本発明の処理方法において、前記スクラビング処理のための水として、前記第2生物処理槽での処理水を使用することが好ましい。これにより、省水型の処理を行うことができる。
【0022】
前記目的を達成するために、本発明の請求項6は、1,4−ジオキサンを有機物の1種類として含有する廃水の処理装置において、前記廃水をエア曝気する第1曝気手段を備えると共に前記1,4−ジオキサン以外の有機物を生物学的に分解する有機物分解菌を少なくとも有し、前記廃水をエア曝気しながら前記有機物分解菌と接触させる第1生物処理槽と、前記1次処理廃水をエア曝気する第2曝気手段を備えると共に前記1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、前記1次処理廃水をエア曝気しながら前記1,4−ジオキサン分解菌とを接触させる第2生物処理槽と、前記第1生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガスを回収する回収手段と、回収したガスの全部又は一部を前記第2生物処理槽に導入する導入手段と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項6は、本発明を装置として構成したものであり、これにより従来の問題であった1,4−ジオキサンの分解効率低下及び大気放出の問題を解決することができる。
【0024】
本発明の処理装置において、前記回収手段は、前記第1及び第2生物処理槽の液面上方に密閉構造のヘッドスペースを形成する蓋部材であることが好ましい。このように第1及び第2生物処理槽を機密性の密閉構造とすることにより、第1及び第2生物処理槽から放出されるガスが大気にリークしないように回収できる。
【0025】
本発明の処理装置において、前記導入手段は、前記回収手段と前記第2曝気手段とを繋ぐ配管と、前記配管に設けられ、前記回収手段で回収した回収ガスを前記第2曝気手段に送る送風ファンと、を備えたことが好ましい。これにより、第1生物処理槽から放出されたガスを第2生物処理槽のエア曝気用ガスとして利用することができる。
【0026】
本発明の処理装置において、前記導入手段は、前記第1生物処理槽の上方に設けられ前記回収ガスに対してスクラビング処理するスクラビング装置と、前記スクラビング処理したスクラビング水を受けて前記第2生物処理槽槽に送る樋状部材と、を備えたことが好ましい。これにより、第1生物処理槽から放出されたガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収して第2生物処理槽に導入することができる。
【0027】
本発明の処理装置において、前記導入手段は、前記ヘッドスペースのうち前記第2生物処理槽の液面上方に設けられたスクラビング装置と、前記第1生物処理槽から前記ヘッドスペースに回収された回収ガスを前記第2生物処理槽の液面上方に移動させる移動手段と、を備えたことが好ましい。これにより、第1生物処理槽から放出されたガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収して第2生物処理槽に導入するための導入手段をシンプル化できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、1,4−ジオキサン分解菌を用いた1,4−ジオキサン含有廃水の処理において、従来の問題点であった1,4−ジオキサンの分解効率低下及び大気放出の問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置の第1の実施の形態を説明する断面図
【図2】本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置の第2の実施の形態を説明する断面図
【図3】第2の実施の形態の変形例1を説明する断面図
【図4】第2の実施の形態の変形例2を説明する断面図
【図5】1,4−ジオキサン分解菌を含有する包括固定化担体の製造ステップの説明図
【図6】エア曝気による1,4−ジオキサン含有ガスの廃水からの除去率を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面に従って本発明に係る1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法及び処理装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0031】
[第1実施の形態]
図1に示す1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10は、主として、1,4−ジオキサンを有機物の1種類として含有する廃水を処理して1次処理廃水を得る第1生物処理槽12と、1次処理廃水を処理して処理水を得る第2生物処理槽14と、第1及び第2生物処理槽12、14のエア曝気により廃水から放出されたガスを回収する回収手段16と、回収したガスの全部又は一部を第2生物処理槽14に導入する導入手段18と、で構成される。
【0032】
第1及び第2生物処理槽12、14は、立設する仕切板20で仕切られると共に、第1生物処理槽12には廃水の原水配管22が接続される。これにより、原水配管22から供給された廃水で第1生物処理槽12が一杯になると、廃水は仕切板20を乗り越えて第2生物処理槽14に越流する。また、第2生物処理槽14の上部で、第1生物処理槽12とは反対側にトラフ24が設けられ、第2生物処理槽14で処理された処理水がトラフ24に流出する。
【0033】
なお、図1では、第1及び第2生物処理槽12、14を仕切板20で仕切った一つの槽として構成したが、第1及び第2生物処理槽12、14を別体の槽として、第1生物処理槽12で得られた1次処理廃水を送液ポンプ(図示せず)で第2生物処理槽14に送ってもよい。
【0034】
また、第1生物処理槽12内の底部には、第1曝気管26が設けられ、第1曝気管26には第1ブロア28が設けられる。これにより、第1生物処理槽12に流入した廃水をエア曝気して好気性状態にする。また、第1生物処理槽12内には、1,4−ジオキサン以外の有機物を生物学的に分解する有機物分解菌を少なくとも有する。有機物分解菌としては、BOD及びCODの酸化分解に通常使用される好気性細菌を使用することができ、例えば下水処理場の活性汚泥を使用することができる。有機物分解菌は、廃水が下水の場合には、原水配管22を介して第1生物処理槽12に供給される廃水中に浮遊汚泥として含まれているので、特に活性汚泥を投入しなくてもよい。あるいは活性汚泥を固定化材料に包括又は付着させた担体として第1生物処理槽12に投入してもよい。更には、第1生物処理槽12内に固定床を設け、この固定床に活性汚泥を生物膜として付着させるようにしてもよい。
【0035】
同様に、第2生物処理槽14内の底部には、第2曝気管30が設けられ、第2曝気管30には第2ブロア32が設けられる。これにより、第1生物処理槽12から第2生物処理槽14に流入した1次処理廃水をエア曝気して好気性状態にする。
【0036】
また、第2生物処理槽14内には、1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、この1,4−ジオキサン分解菌は好気性状態下で1,4−ジオキサンを分解する。ここで、「1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有する」とは、1,4−ジオキサン分解菌のみが存在するとの誤解を避ける意味であり、他の細菌が併存していてもよい。
【0037】
1,4−ジオキサン分解菌を含む種汚泥としては、1,4−ジオキサンを扱う工場(例えば1,4−ジオキサンを製造する製造工場あるいはポリオキシアルキルエーテルを製造する製造工場)の土壌、あるいはその工場廃水を処理する廃水処理場の汚泥等を用いることができる。しかし、このまま種汚泥を第2生物処理槽14に投入しても1,4−ジオキサン分解菌の菌数濃度が低く十分な活性を発揮することはできないので、予め培養することが好ましい。1,4−ジオキサンの単離・培養の説明については後述する。
【0038】
第1生物処理槽12には、第1曝気管26によって廃水をエア曝気することによって廃水から放出されるガスを回収するための第1蓋部材16A(回収手段)が設けられる。同様に、第2生物処理槽14には、第2曝気管30によって1次処理廃水をエア曝気することによって1次処理廃水から放出されるガスを回収するための第2蓋部材16B(回収手段)が設けられる。これにより、第1生物処理槽12の液面上方に第1ヘッドスペース12Aが形成され、第2生物処理槽14の液面上方に第2ヘッドスペース12Bが形成される。
【0039】
また、第1及び第2蓋部材16A,16Bの側面部が隣接する部分と仕切板20との間には、廃水が越流するための越流口34が形成されると共に、第2生物処理槽14には、処理水をトラフ24に排出する処理水排出口36が開口される。処理水排出口36は、第2生物処理槽14の液面よりも下方に形成され、トラフ24に溜まった処理水により水封される。したがって、第1及び第2ヘッドスペース12A,12Bは、第1蓋部材16A、第2蓋部材16B、及び処理水排出口36を水封する水封構造によって、回収ガスが外部にリークしない密閉構造に形成される。これにより、第1及び第2生物処理槽12、14でのエア曝気により廃水又は1次処理廃水から放出されたガスは、大気中にリークすることなく第1及び第2ヘッドスペース12A,12Bに回収される。
【0040】
また、第1ヘッドスペース12Aに回収した回収ガスを第2生物処理槽14に導入する導入手段18が設けられる。この導入手段18は、第1蓋部材16Aからバッファータンク38を介して第2ブロア32の吸込口側に第1エア配管40が延設されると共に、第1エア配管40には第1送風ファン42が設けられて構成される。これにより、第1ヘッドスペース12Aに溜まった回収ガスは、バッファータンク38を経由して第2ブロア32に送られ、第2曝気管30から1次処理廃水中に曝気される。バッファータンク38には、バッファータンク38内が負圧時に大気からエアを吸い込めるように逆止弁44が設けられている。
【0041】
また、第2蓋部材16Bから第2エア配管46が延設され、第2エア配管46の先端は大気に開放されると共に、第2エア配管46には第2送風ファン48が設けられる。また、第2ヘッドスペース12Bには、第2散水管50が設けられ、第2散水管50から配管52が延設されると共に、配管52の先端がトラフ24内の処理水中に浸漬された水中ポンプ54に接続される。これにより、トラフ24に溜まった処理水を水中ポンプ54によって第2散水管50に送水し、スクラビング水として第2生物処理槽14の液面に向けて散水する。
【0042】
これにより、第2ヘッドスペース12Bに溜まった回収ガスは、第2散水管50からの散水によるスクラビング処理によって吸収される。そして、回収ガスを吸収したスクラビング処理水が第2生物処理槽14の液面に降り注ぐ。この場合、後述するように、第2生物処理槽14でのエア曝気により1次処理廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン濃度が低いため、第2エア配管46から大気中に排気される1,4−ジオキサン量は極微量であるため、第2散水管50を省略することも可能である。
【0043】
なお、本実施の形態では、第2生物処理槽14からの処理水を第2散水管50からのスクラビング水として使用したが、水道水や工業用水を使用することもできる。
【0044】
次に、上記の如く構成された1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置10を用いて廃水中から1,4−ジオキサンを除去するための処理方法について説明する。
【0045】
原水配管22から第1生物処理槽12に供給された廃水は、第1曝気管26によるエア曝気によって好気性状態下で有機物分解菌と接触する。これにより、廃水中に含有される有機物のうちの1,4−ジオキサン以外の有機物(例えばCOD成分,BOD成分)が酸化分解される。したがって、1,4−ジオキサン以外の有機物が低減された1次処理廃水が得られる。1次処理廃水は、仕切板20を越流して第2生物処理槽14に送られる。
【0046】
第2生物処理槽14では、1次処理廃水は有機物が低濃度状態で1,4−ジオキサン分解菌と接触するので、高い分解効率で1,4−ジオキサンを分解処理することができる。これは、難分解性の1,4−ジオキサンと易分解性の有機物とを同じ槽内で処理する場合、易分解性の有機物を分解して増殖する有機物分解菌が優占繁殖してしまい、1,4−ジオキサン分解菌が優占繁殖しにくくなる。この結果、1,4−ジオキサンの分解能力が抑制され、1,4−ジオキサンの除去性能が低下する。また、1,4−ジオキサン分解菌は、後で述べるように、1,4−ジオキサン以外の有機物を基質(栄養源)とする性質もあるので、易分解性の有機物が豊富に存在すると、1,4−ジオキサン分解菌が1,4−ジオキサンよりも分解し易い易分解性の有機物を分解し易い。
【0047】
一方、第1曝気管26によるエア曝気によって廃水中から1,4−ジオキサンを含有するガス放出され、第1ヘッドスペース12Aで回収される。1,4−ジオキサンはエア曝気により廃水中から放出され易く、1,4−ジオキサン量の放出率は30%以上となり、多い場合には70%程度になる。しかし、大気汚染の問題から、放出されたガスをそのまま大気に逃がすことはできない。ここで放出率30%とは、エア曝気しない前の廃水中の1,4−ジオキサンの30%がエア曝気により廃水から放出されることを意味する。
【0048】
そこで、本発明の第1の実施の形態では、第1ヘッドスペース12Aに回収した回収ガスを、第1送風ファン42によりバッファータンク38を経由して第2ブロア32に送り、第2曝気管30からエア曝気用ガスとして曝気するようにした。この場合、第1送風ファン42で送風する風量よりも、第2曝気管30から曝気する風量が多く、バッファータンク38が負圧になると、逆止弁が開いて大気がバッファータンク内に補充される。
【0049】
1,4−ジオキサンは水溶性であり、1,4−ジオキサンを含む回収ガスを曝気することにより、1,4−ジオキサンは1次処理廃水中に溶解する。これにより、第2生物処理槽14において、回収ガス中の1,4−ジオキサンと1,4−ジオキサン分解菌とが接触するので、第1生物処理槽12から放出されたガス中の1,4−ジオキサンを効果的に除去することができる。
【0050】
この場合、第2生物処理槽14でも第2曝気管30からのエア曝気により、1次処理廃水中からガスが放出されるが、ガス中に含有される1,4−ジオキサン濃度は、第1生物処理槽12から放出されるガス中の1,4−ジオキサン濃度に比べて顕著に低い。
【0051】
これは、本発明者が行った実験から得られた知見によれば、廃水中の1,4−ジオキサン濃度に関係なくエア曝気により放出される1,4−ジオキサンの放出率は一定であるため、廃水中の1,4−ジオキサン濃度が小さければ、それだけ放出される1,4−ジオキサン量も少なくなるためである。
【0052】
即ち、第2生物処理槽14では、1,4−ジオキサン分解菌により1次処理廃水中の1,4−ジオキサンが分解除去されており、低濃度化されている。更に、本発明では、第1生物処理槽12において1,4−ジオキサン以外の有機物濃度を低濃度化したことによって、第2生物処理槽での1,4−ジオキサンの分解効率を顕著に向上させることができる。また、第1生物処理槽12でのエア曝気によって廃水中の1,4−ジオキサンは、放出されるガス中に移行するので、第2生物処理槽14に越流する廃水中の1,4−ジオキサン濃度レベルが低下する。これにより、第2生物処理槽14内の1,4−ジオキサン濃度を低レベル(例えば10mg/L以下)に維持できるので、第2生物処理槽14内を好気性にするために1次処理廃水をエア曝気しても1次処理廃水から放出されるガス中の1,4−ジオキサン濃度が小さくなる。これにより、第2生物処理槽14内での1,4−ジオキサン濃度を低レベルに維持することができるので、上記したようにエア曝気によって1次処理廃水から放出される1,4−ジオキサン量は少ない。第2生物処理槽14内の1,4−ジオキサン濃度は10mg/L以下、好ましくは5mg/L以下に維持することが好ましい。
【0053】
また、第1生物処理槽12から放出されるガスを第2生物処理槽14におけるエア曝気ガスとして使用するようにしたので、ガス中の1,4−ジオキサンを分解処理するための特別な分解槽を設ける必要がない。これにより、装置構成のシンプル化及びコンパクト化を図ることができる。
【0054】
〈1,4−ジオキサンの単離・培養〉
1,4−ジオキサン分解菌は増殖速度が極めて小さいため、単離工程において他の微生物が混入し、優先的に増殖しないようにする必要がある。そして、培養工程では、単離した1,4−ジオキサン分解菌の増殖を促すために、1,4−ジオキサン分解菌に有機物を与えることが重要である。このため、単離工程では、有機物として1,4−ジオキサンのみを含む無機培地を使用し、培養工程では1,4−ジオキサン以外の有機物を主に含む有機培地を使用する。
【0055】
即ち、単離工程では、まず、無機培地に、濃度が10〜100mg/Lとなるよう1,4−ジオキサンを添加した培地100〜500mLに、1,4−ジオキサン分解菌を含む種汚泥(ジオキサンを含む廃水の廃水処理工程から採取した汚泥)を約500〜20000mg/L添加し、集積培養する。集積培養は、20〜30℃の条件下で、約1〜3ヶ月間行うことが好ましい。なお、1,4−ジオキサン分解菌の存在については、培地中の1,4−ジオキサン濃度変化を測定することにより確認できる。1,4−ジオキサン濃度の減少率が50%を超えた段階で、集積培養を終了することが好ましい。培地中の1,4−ジオキサン濃度は、公知の方法により測定できる(安部明美(1997)環境化学 vol.7 No1 p95-100)。
【0056】
集積培養を終了した後、上記無機培地に寒天を10〜15%添加した平板培地で、20〜35℃恒温下にて静置培養する。静置培養後、コロニーが形成されたことを確認することで、1,4−ジオキサン分解菌を単離することができる。
【0057】
無機培地を構成する無機物質としては、特に限定されないが、無機塩類(例えば、KHPO、(NHSO、MgSO・7HO、FeCl、CaCl、NaCl)が好ましい。
【0058】
次に培養では、上記のように単離した1,4−ジオキサン分解菌を、有機物を主成分とする有機培地で培養する。有機物としては、CGY培地、具体的には、ペプトン、肉エキス、グリセリン、カジトン、酵母エキス等の易分解性の有機物が好ましい。有機物には、1,4−ジオキサンが含まれてもよい。培養は、1,4−ジオキサン分解菌の活性が約27℃で最も高いことから、培養温度は27℃が好ましく、水温としては約15〜35℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。培養時間は、約5〜30日間が好ましい。
【0059】
1,4−ジオキサン分解菌は、菌数が少ないうちに過剰に1,4−ジオキサンが与えられると増殖しにくく、一方、1,4−ジオキサンが全く与えられないと1,4−ジオキサン分解活性が低下する。このため、培養初期には1,4−ジオキサン以外の有機物を与え、1,4−ジオキサン分解菌の菌数がある程度増加した培養中期、後期において、1,4−ジオキサンを与えることが好ましい。すなわち、1,4−ジオキサン以外の有機物は、主に、1,4−ジオキサン分解菌の増殖を促すように機能し、1,4−ジオキサンは、主に、1,4−ジオキサン分解菌の分解活性を維持又は向上させるように機能する。1,4−ジオキサンの添加は、1,4−ジオキサン分解菌の菌数が1×104cells/mL以上となったときに行うことが好ましい。1,4−ジオキサンの添加量は、有機培地に対して1〜500mg/L以上であり、10〜200mg/L以上とすることが好ましい。これは、1,4−ジオキサンが1mg/L未満であると、1,4−ジオキサン分解菌の分解活性を復活させる効果が小さくなるためである。また、1,4−ジオキサンが200mg/L以上になると分解活性がそれ以上変わらなくなり、1000mg/Lとしても200mg/Lのときと同等であるためである。また、培地を無害な状態で廃棄するために、培地中の1,4−ジオキサン濃度をできるだけ低くする必要がある。このため、1,4−ジオキサンの添加は、1,4−ジオキサン分解菌の菌数や活性の程度に応じて、少量ずつ行うのが好ましい。なお、培養初期から、1,4−ジオキサンを有機培地に含有させてもよい。この場合、1,4−ジオキサンの含有量は、上記と同様にすることができる。
【0060】
培養した1,4−ジオキサン分解菌は、そのまま第2生物処理槽内に投入して使用することもできるが、より高密度に廃水中に投入するために、1,4−ジオキサン分解菌を担体材料に固定化したものを使用することが好ましい。固定化方法としては、含水ゲルに培養した1,4−ジオキサンを包括固定して槽内に流動させる方法(包括固定化担体)、担体材料の表面に培養した1,4−ジオキサンを付着固定して槽内に流動させる方法(付着固定化担体)、及び固定床に培養した1,4−ジオキサンを固着する方法等がある。
【0061】
なお、1,4−ジオキサン分解菌としては、Pseudonocardia dioxanivoransが報告されており、分譲機関(ATCC:American Type Culture Collection) を通して購入し、分解試験に活用することもできる(1,4Dioxane biodegradation at low temperatures in Arctic groundwater samples Water Research, Volume 44 ,Issue 9, 2010,Pages 2894-2900参照)。
【0062】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置100の第2の実施の形態である。なお、第1実施の形態と同様の装置、手段、部材には同符号を付すと共に、説明は省略する。
【0063】
図2に示すように、第2実施の形態は、第1生物処理槽12で発生したガスを第2生物処理槽14に導入するための導入手段18が第1実施の形態とは異なる。即ち、第1ヘッドスペース12Aに回収された回収ガスをエア曝気用ガスとして第2生物処理槽14に導入するのではなく、回収ガスをスクラビング処理して第2生物処理槽14に導入するようにした。
【0064】
図2に示すように、第2実施の形態では、第1蓋部材16Aと第2蓋部材16Bとを一体化し、第1と第2ヘッドスペース12A,12Bとを連続する1つの空間とすると共に、第1ヘッドスペース12Aにも第1散水管56を設けてスクラビング処理できるようにした。この場合、図2に示すように、第1散水管56と第2散水管50とを1本の連続する散水管として構成することが好ましい。
【0065】
また、第1散水管56の下方に、スクラビング水を受ける樋状部材58を設けると共に、この樋状部材58を第1生物処理槽12から第2生物処理槽14に向かって低くなるように傾斜させて設けた。樋状部材58は、第1生物処理槽12の液面の広さに応じて複数設けることができる。
【0066】
これにより、第1生物処理槽12のエア曝気により廃水から放出された1,4−ジオキサン濃度の高いガスは、第1散水管56でスクラビング処理され、スクラビング処理水が樋状部材58を流下して第2生物処理槽に供給(導入)される。したがって、第1生物処理槽12から放出されたガス中の1,4−ジオキサンをスクラビング水に吸収して第2生物処理槽14に導入することができるので、ガス中の1,4−ジオキサンを効率的に除去することができる。
【0067】
[第2の実施の形態の変形例1]
図3は、本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置200の第2の実施の形態の変形例1であり、第2の実施の形態から樋状部材58を省略したものである。
【0068】
変形例1によれば、第1生物処理槽12でのエア曝気により放出されて第1ヘッドスペース12Aに溜まったガスの一部は、第1散水管56からのスクラビング処理により、スクラビング水に吸収されて第1生物処理槽12の液面に降り注ぐ。第1散水管56からのスクラビング水に吸収されなかった残りのガスは、第2送風ファン48の駆動により、第2ヘッドスペース12Bに移動する。そして、第2ヘッドスペース12Bでは、第1ヘッドスペース12Aから移動してきたガスと、第2生物処理槽14でのエア曝気で放出されたガスとの両方が、第2散水管50からのスクラビング水によってスクラビング処理され、スクラビング水が第2生物処理槽14の液面に降り注ぐ。これにより、変形例1の場合にも、第2の実施の形態と同程度の効果を奏することができると共に、装置構成をシンプル化することができる。
【0069】
[第2実施の形態の変形例2]
図4は、本発明の1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置300の第2の実施の形態の変形例2であり、第2の実施の形態から第1散水管56及び樋状部材58の両方を省略したものである。
【0070】
変形例2によれば、第1生物処理槽12でのエア曝気により放出されて第1ヘッドスペース12Aに溜まった全てのガスは、第2送風ファン48の駆動により、第2ヘッドスペース12Bに移動する。そして、第1ヘッドスペース12Aから移動してきたガスと、第2生物処理槽14でのエア曝気で放出されたガスとの両方が、第2散水管50からのスクラビング水によってスクラビング処理され、スクラビング水が第2生物処理槽14の液面に降り注ぐ。
【0071】
これにより、変形例2の場合にも、第2実施の形態と同程度の効果を奏することができると共に、装置を更にシンプル化できる。また、第1散水管56を省略したことによって、トラフ24からの処理水を吸い上げるポンプ能力を小さくすることができ、動力エネルギーを低減できる。
【0072】
なお、本実施の形態では、第1生物処理槽12及び第2生物処理槽14をそれぞれ1基設ける例で説明したが、第1生物処理槽及び第2生物処理槽をそれぞれ複数設けて、多段処理するようにしてもよい。
【0073】
[実施例]
[試験A]
試験Aでは、1,4−ジオキサン分解菌を有する第2生物処理槽14の前段に、廃水中の1,4−ジオキサン以外の有機物を低減する第1生物処理槽12を設けた場合(実施例1)と設けない場合(比較例1)とで、1,4−ジオキサンの処理効率を比較した。
【0074】
〈試験に供した廃水〉
試験に供した廃水(原水)の水質は表1の通りである。
【0075】
【表1】

【0076】
(備考)TOC…全有機炭素
比較例1では、表1の廃水を、1,4−ジオキサン分解菌を包括固定化した担体を投入した第2生物処理槽14で、直接処理した。
【0077】
一方、実施例1では、表1の廃水を、CODやBOD等の有機物を第1生物処理槽12で処理して得られた1次処理廃水について、比較例1と同様の第2生物処理槽14で処理した。なお、試験Aでの第1及び第2生物処理槽12、14は、上記説明した処理装置を試験用に小型化したものを使用した。また、試験Aは、廃水中の1,4−ジオキサン以外の有機物の影響を見る試験であるため、第1及び第2生物処理槽12、14のガスの回収手段16及び第2生物処理槽14への回収ガス導入手段18は使用していない。
【0078】
即ち、第1生物処理槽12の有効反応容積は1Lであると共に、第1曝気管26から廃水中へエア曝気するエア曝気量が0.8L/分で一定になるように、流量計を用いて制御した。廃水を第1生物処理槽12で処理して得られた1次処理廃水の品質は上記表1の通りである。なお、1次処理廃水は、COD、BOD、TOCの有機物濃度が廃水よりも減少した以外に、1,4−ジオキサンの濃度も減少しているが、この主たる理由はエア曝気により廃水中から放出されたことによる減少である。
【0079】
〈1,4−ジオキサン分解菌含有の包括固定化担体の製造〉
1,4−ジオキサン分解菌を以下の方法で包括固定化したものを用いた。
【0080】
図5は、包括固定化担体の製造方法の流れを説明する図である。図5に示すように、まず、プレポリマー材料等の固定化材料と、1,4−ジオキサン分解菌の培養液とを混合し、pHを中性付近(6.5〜8.5)に調整した混合液を調製する。本実施例では、固定化材料として、ポリエチレングリコール系のものを使用した。
【0081】
次いで、この混合液に重合開始剤(本実施例では過硫酸カリウムを使用)を添加して攪拌した後、直ちにシート形状又はブロック形状にゲル化させる(重合させる)。重合温度は、15〜40℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。重合時間は1〜60分が好ましく、10〜60分がより好ましい。そして、ゲル化させたシート又はブロックを所定のサイズ(本実施例では、略3mm角の立方体状)に切断し、これにより包括固定化担体を得た。1,4−ジオキサン分解菌の初期固定化濃度としては、1×10cells/mL・担体とした。
【0082】
そして、得られた包括固定化担体を、1,4−ジオキサンを含む無機廃水を用いて水温25℃、1,4−ジオキサン負荷を1〜8kg−(Dioxan)/m・担体/日とし、約1カ月間連続培養を行った。その結果、担体当たりの1,4−ジオキサン分解活性が7.1kg−(Dioxan)/m・担体となり、この包括固定化担体を試験Aに使用した。
【0083】
なお、包括固定化担体の製造方法は、上記した方法に限らず、チューブ成形法、滴下造粒法等を採用することもできる。
【0084】
〈第2生物処理槽の条件〉
第2生物処理槽14として、有効反応容積が1Lのものを使用し、槽内部に上記の如く集積培養して1,4−ジオキサン分解活性を高めた包括固定化担体を、容積で100mL(充填率10容積%)になるように充填した。
【0085】
1次処理廃水の水温は、ウオータジャケットにより25℃で一定条件とすると共に、槽内のpHが7.0〜8.0の範囲になるように、水酸化ナトリウム及び塩酸で調整した。そして、上記したように、包括固定化担体を10%充填した。また、表2から分かるように処理前の1,4−ジオキサン濃度が比較例1と実施例1とでは異なるため、比較例1ではHRTを56時間とし、実施例1ではHRTを39時間とし、いずれも1,4−ジオキサンの負荷が4kg−(Dioxan)/m・担体/日として運転を行った。第2曝気管30から1次処理廃水中へエア曝気するエア曝気量は流量計を用いて0.8L/分で一定になるように制御した。
【0086】
試験Aでは、比較例1及び実施例1ともに、6週間連続運転し、運転後の処理水をサンプリングして処理水中の1,4−ジオキサン濃度を調べた。そして、処理前と処理後の1,4−ジオキサン濃度から除去率を計算した。
【0087】
〈試験結果〉
試験結果を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2の試験結果から分かるように、第1生物処理槽12を経ずに廃水を第2生物処理槽14で直接処理した比較例1は、1,4−ジオキサン除去率が49%と低かった。なお、第1生物処理槽12のエア曝気量を2倍に増加させたが、1,4−ジオキサン除去率は約15%程度しか上昇しなかった。
【0090】
これに対して、第1生物処理槽12を経ることにより、廃水中の1,4−ジオキサン以外の有機物を低減して1次処理水を得て、この1次処理水を第2生物処理槽14で処理した実施例1は、1,4−ジオキサン除去率が99.8%と極めて高い除去率を得ることができた。
【0091】
比較例1及び実施例1との対比から、有機物濃度の高い廃水を第2生物処理槽14で直接処理しても、廃水中の1,4−ジオキサンを1,4−ジオキサン分解菌で十分に分解除去できないことが実証された。
【0092】
この原因を調べた結果、比較例1の場合には、1,4−ジオキサン分解菌以外の好気性微生物が第2生物処理槽14の槽内や、投入した包括固定化担体の表面で増殖していた。即ち、1,4−ジオキサン分解菌が槽内で優占繁殖することができなかったことが分解活性を低下させた主たる理由と考察される。また、1,4−ジオキサン分解菌以外の好気性微生物が担体表面で増殖したことで、エア曝気による酸素が担体内の1,4−ジオキサン分解菌に十分に行き渡らなかったことも大きな要因と考察される。
【0093】
ちなみに、包括固定化担体を第2生物処理槽14に投入せずに、第2生物処理槽14を包括固定化担体を投入した時と同様のHRT及び曝気条件で運転した結果、廃水中の1,4−ジオキサン濃度940mg/Lが、580mg/Lまで低下した。このことから、エア曝気によって30%程度の1,4−ジオキサンが廃水中から放出されたことが分かる。
【0094】
[試験B]
試験Bでは、エア曝気によって放出されて廃水から除去される1,4−ジオキサンの除去率が、エア曝気される廃水中の1,4−ジオキサン濃度によってどのように変わるかを調べた。
【0095】
試験Bは、上記した第2生物処理槽14を用いて、表3に示す1,4−ジオキサン濃度の廃水6点について、0.75L/分の一定条件でエア曝気したときの放出されるガス中の1,4−ジオキサン濃度を調べた。但し、第2生物処理槽14には、包括固定化担体を投入しないで行った。滞留時間(HRT)は12時間に設定した。
【0096】
試験に供した廃水中の1,4−ジオキサン濃度は、次の通りである。
【0097】
・サンプル1(S−1)…2mg/L
・サンプル2(S−2)…9mg/L
・サンプル3(S−3)…75mg/L
・サンプル4(S−4)…100mg/L
・サンプル5(S−5)…360mg/L
・サンプル6(S−6)…500mg/L
その結果を図6に示す。図6の結果から分かるように、廃水中での1,4−ジオキサン濃度に関係なく、エア曝気により廃水中の20〜40%(平均で約30%)の1,4−ジオキサンが除去されることが分かる。したがって、例えば、1,4−ジオキサン分解菌を含有する実装置規模の生物処理槽において、槽内の1,4−ジオキサン濃度が100g/mまでしか下がらない場合には、1m/日の滞留時間で処理すると、エア曝気によって1日に約30gの1,4−ジオキサンが大気に放出されてしまうことになる。
【0098】
これに対して、槽内の1,4−ジオキサン濃度を1g/mまで下げることができれば、1m/日の滞留時間で処理すると、エア曝気によって1日に0.3g程度の1,4−ジオキサンしか放出されず、放出量を顕著に低減することができる。
【0099】
即ち、エア曝気による1,4−ジオキサンの放出を抑制するには、槽内の1,4−ジオキサン濃度をできだけ下げることが極めて重要であり、そのためには、試験Aの結果から分かるように、第2生物処理槽14で1,4−ジオキサンを1,4−ジオキサン分解菌で分解処理する前に、第1生物処理槽12において廃水中の1,4−ジオキサン以外の有機物を低減しておくことが重要になる。
【0100】
[試験C]
上記説明した1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置の第1の実施の形態(試験1)、第1の実施の形態の変形例(試験2)、第2の実施の形態(試験3)、及び第2の実施の形態の変形例1、2(試験4)のそれぞれについて、1,4−ジオキサンの除去性能を調べた。なお、試験には、表1に示した廃水を用いると共に、試験Cでは回収手段16及び導入手段18等の全ての手段を駆動して試験した。
【0101】
(試験1)
第1及び第2生物処理槽12、14は上記で説明したと同様の大きさ及び構造の各々1L容積のものを用い、次の条件に設定して試験を行った。即ち、第1生物処理槽12には、大きさが3mmの円筒形のプラスチック担体を見掛け体積として20%になるように投入し、担体に付着した活性汚泥(下水処理場から採取)の生物膜を形成した。そして、第1生物処理槽12内の廃水を0.8L/分でエア曝気して好気性条件を形成しながら、廃水と生物膜とを接触させた。原水の流入速度は0.6L/日とした。第1生物処理槽12で処理された1次処理廃水は、第2生物処理槽14に送った。
【0102】
一方、第1生物処理槽12でのエア曝気で廃水から放出されたガス(1,4−ジオキサン含有ガス)は、第1ヘッドスペース12Aに回収され、第1エア配管40及び第1送風ファン42によって10Lのバッファータンク38を経由して第2ブロア32に送られ、第2曝気管30から第2生物処理槽14の1次処理廃水中に0.9L/分でエア曝気された。
【0103】
この試験1において、第1生物処理槽12でのエア曝気により第1ヘッドスペース12Aに放出されたガス中の1,4−ジオキサン量を測定した結果、1日当たり200〜260mgと極めて高い数値であった。したがって、本発明を用いない場合には、この量の1,4−ジオキサンが放出されることとなる。
【0104】
なお、試験1では、第2ヘッドスペース12Bに設けた第2散水管50からのスクラビング処理は行わなかった。
【0105】
上記第1及び第2生物処理槽12,14の条件で1カ月間調整運転を行い、その後約2週間データを採取して、その平均データから性能を評価した。
【0106】
その結果、第2生物処理槽14から排出される処理水中の1,4−ジオキサン濃度は平均で4.6mg/Lとなった。このことは、第2生物処理槽14において、1次処理廃水中の1,4−ジオキサン及びエア曝気ガスとして導入された回収ガス中の1,4−ジオキサンを1,4−ジオキサン分解菌で良好に分解処理できていることが分かる。
【0107】
また、第2生物処理槽14でのエア曝気によって第2ヘッドスペース12Bに放出され、第2エア配管46から排気される1,4−ジオキサン濃度を測定した。その結果、排気される1,4−ジオキサンの1日の排気量は1〜6mgと少なく極めて低いレベルに抑えることができた。
【0108】
上記結果から、第1生物処理槽12のエア曝気で廃水から放出されるガスを第2生物処理槽14のエア曝気用ガスとして使用することにより、廃水中の1,4−ジオキサンを確実に除去できることが証明された。
【0109】
(試験2)図1の第1の実施の形態の変形例
試験2は、試験1の条件に加えて、第2散水管50からスクラビング水を散水させてスクラビング処理を行った場合である。
【0110】
その結果、第2生物処理槽14から排出される処理水中の1,4−ジオキサン濃度は、第1の実施の形態での結果と略同等であった。しかし、第2エア配管46から排気される1,4−ジオキサン量は0.6〜3mgとなり、試験1よりも少なくなり、スクラビング処理の効果が確認された。
【0111】
(試験3)
第1生物処理槽12でのエア曝気で廃水から放出されて第1ヘッドスペース12Aに回収されたガスを第1散水管56からのスクラビング水でスクラビング処理し、スクラビング水を樋状部材58で第2生物処理槽14に導入した場合である。
【0112】
その結果、第2生物処理槽14から排出される処理水中の1,4−ジオキサン濃度は、平均で3.7mg/Lであり、試験1と同等であった。また、第2エア配管46から排気される1,4−ジオキサン量は1日当たり2〜7mgであり、試験1と同等であった。
【0113】
(試験4)
第2の実施の形態から樋状部材58を省略した試験4−1、更に第1散水管56も省略した試験4−2は、試験2と比べると、1,4−ジオキサンの除去性能は若干落ちるが、装置の簡略化及び動力エネルギーの低減を図ることができた。
【符号の説明】
【0114】
10、100、200、300…1,4−ジオキサン含有廃水の処理装置、12…第1生物処理槽、14…第2生物処理槽、16…回収手段、18…導入手段、20…仕切板、22…原水配管、24…トラフ、26…第1曝気管、28…第1ブロア、30…第2曝気管、32…第2ブロア、34…越流口、36…処理水排出口、38…バッファータンク、40…第1エア配管、42…第1送付ファン、44…逆止弁、46…第2エア配管、48…第2送付ファン、50…第2散水管、52…配管、54…水中ポンプ、56…第1散水管、58…樋状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ジオキサンを有機物の1種類として含有する廃水の処理方法において、
第1生物処理槽において、前記廃水をエア曝気しながら前記1,4−ジオキサン以外の有機物を生物学的に分解する有機物分解菌と接触させて1次処理廃水を得る第1生物処理工程と、
第2生物処理槽において、前記1次処理廃水をエア曝気しながら1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌と接触させて処理水を得る第2生物処理工程と、
前記第1生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガスを回収する回収工程と、
回収した回収ガスの全部又は一部を前記第2生物処理槽に導入する導入工程と、
を備えたことを特徴とする1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項2】
前記導入工程では、前記回収ガスを前記第2生物処理槽のエア曝気用ガスとして導入することを特徴とする請求項1に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項3】
前記導入工程では、前記回収ガスをスクラビング処理し、該スクラビング処理水を前記第2生物処理槽に導入することを特徴とする請求項1に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項4】
前記導入工程では、前記回収ガスをスクラビング処理して、該スクラビング処理水の一部を前記第1生物処理槽に戻し、残りを前記第2生物処理槽に導入することを特徴とする請求項1に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項5】
前記スクラビング処理のための水として、前記第2生物処理槽での処理水を使用することを特徴とする請求項3又は4に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処理方法。
【請求項6】
1,4−ジオキサンを有機物の1種類として含有する廃水の処理装置において、
前記廃水をエア曝気する第1曝気手段を備えると共に前記1,4−ジオキサン以外の有機物を生物学的に分解する有機物分解菌を少なくとも有し、前記廃水をエア曝気しながら前記有機物分解菌と接触させる第1生物処理槽と、
前記1次処理廃水をエア曝気する第2曝気手段を備えると共に前記1,4−ジオキサンを分解する1,4−ジオキサン分解菌を少なくとも有し、前記1次処理廃水をエア曝気しながら前記1,4−ジオキサン分解菌とを接触させる第2生物処理槽と、
前記第1生物処理槽のエア曝気により前記廃水から放出されたガスを回収する回収手段と、
回収したガスの全部又は一部を前記第2生物処理槽に導入する導入手段と、を備えたことを特徴とする1,4−ジオキサン含有廃水の処置装置。
【請求項7】
前記回収手段は、前記第1及び第2生物処理槽の液面上方に密閉構造のへッドスペースを形成する蓋部材であることを特徴とする請求項6に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処置装置。
【請求項8】
前記導入手段は、
前記回収手段と前記第2曝気手段とを繋ぐ配管と、
前記配管に設けられ、前記回収手段で回収した回収ガスを前記第2曝気手段に送る送風ファンと、を備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処置装置。
【請求項9】
前記導入手段は、
前記第1生物処理槽の上方に設けられ前記回収ガスに対してスクラビング処理するスクラビング装置と、
前記スクラビング処理したスクラビング水を受けて前記第2生物処理槽槽に送る樋状部材と、を備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処置装置。
【請求項10】
前記導入手段は、
前記ヘッドスペースのうち前記第2生物処理槽の液面上方に設けられたスクラビング装置と、
前記第1生物処理槽から前記ヘッドスペースに回収された回収ガスを前記第2生物処理槽の液面上方に移動させる移動手段と、を備えたことを特徴とする請求項7に記載の1,4−ジオキサン含有廃水の処置装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−161737(P2012−161737A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23910(P2011−23910)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】