説明

10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物、その製造法及びその重合物

【課題】ナフタレン骨格及びアントロン骨格を有する高屈折率アクリレート及びその重合物を提供する。
【解決手段】例えば10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オンと塩化アクリロイルを反応させて得られる9,10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン及びこれを用いた重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率材料として有用な10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物、その製造法、及びその重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光学レンズの分野などにおいてガラス代替材料としてプラスチックが盛んに用いられている。たとえば、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどがよく知られている。これらプラスチック材料は、軽量性、安全性、意匠性を有している反面、屈折率の面では無機ガラスより低く、分厚くなりやすいという欠点がある。そこで、近年、高屈折率プラスチック材料に対する要望が高くなってきている。特に、高屈折率プラスチック材料の光学用物品への進出は著しく、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、 TFT用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、ホログラム、光ファイバー、光道波路等への応用検討が盛んに行われている。
【0003】
有機化合物の屈折率を高くする方法としては、分子構造中にハロゲン原子(フッ素を除く。)や硫黄原子を導入することが有用であることは既に良く知られている。たとえば、ハロゲン原子の有する高い固有屈折率を利用し、ビフェニル骨格にハロゲン原子を導入した高屈折率重合体が報告されている(特許文献1)。しかし、ハロゲン化によって、耐光性が著しく劣化し、また、高比重であるという欠点があった。又、ハロゲン以外に高い固有屈折率を示す硫黄原子を有する単量体組成物も報告されている(特許文献2)。しかし、これらは高い屈折率、優れた耐衝撃性を有するものの、得られたポリマーの耐光性が著しく劣り、また硫黄特有の不快臭が問題となる欠点があった。
【0004】
一方、芳香族骨格を有するアクリレート化合物の重合物は脂環式アクリレート化合物の重合物に比較し、屈折率が高いことが知られており、高屈折率の重合物を得るための原料として、例えばフェニル基を有するフェノキシエチルアクリレート化合物について報告例がある(特許文献3〜7)。これら芳香族骨格を有するアクリレート化合物は、軽くて透明性に優れ、バランスの良い高屈折率材料となる。そして、ナフタレン骨格を有するアクリレートについても高屈折率化合物としていくつか報告例がある(特許文献8、9)。また、さらに縮合度の高い環あるいはさらに多環式の環を導入することにより、さらに、高屈折率の材料となることが知られており、フルオレン骨格等の導入(特許文献10)やアントラセン骨格の導入(特許文献11)が検討されている。
【0005】
一方、ナフタレン骨格やアントラセン骨格を有する多環芳香族アクリレート化合物を光重合用増感剤として用いる例が近年報告されている(特許文献12〜17)が、当該文献では、光重合用増感剤としての効果は記載されているが高屈折率を有する重合体合成原料として用いることに関しては記載されていない。また、アントラセン骨格にエチレンオキサイド結合を介してアクリレート基を結合させた化合物が開示されており、その重合体が高屈折率を有することが示されている(特許文献18)が、さらに高屈折率で、生成する重合体の塗膜性能が優れた重合体原料が求められている。
【0006】
また、1分子の中にナフタレン骨格とアントラセン骨格をともに含むナフチルアントラセン系化合物が、有機発光素子の発光性ポリマー材料として合成されているが(特許文献19〜21)、いずれもラジカル重合性化合物ではなく、ポリマーがラジカル重合で合成されたものでもなく、その示唆もない。また、当該化合物の屈折率についても明らかにされていない。さらに、本願発明の化合物の構造である1分子の中にナフタレン骨格とアントロン骨格をともに含むアクリレート化合物はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−170702号公報
【特許文献2】特開2002−20433号公報
【特許文献3】特表2003−144538号公報
【特許文献4】特表2002−511012号公報
【特許文献5】特表2002−511598号公報
【特許文献6】特開平06−230224号公報
【特許文献7】特開2006−350290号公報
【特許文献8】特開2001−276587号公報
【特許文献9】特開2008−81682号公報
【特許文献10】特開2004−083855号公報
【特許文献11】特開2006−312709号公報
【特許文献12】特開2008−001640号公報
【特許文献13】特開2008−001641号公報
【特許文献14】特開2008−024694号公報
【特許文献15】特開2007−99637号公報
【特許文献16】特開2007−204438号公報
【特許文献17】特開2008−088132号公報
【特許文献18】特開2009−40811号公報
【特許文献19】特開2005−8600号公報
【特許文献20】特開2001−181619号公報
【特許文献21】特許4050300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の解決しようとする課題は、ナフタレン骨格及びアントロン骨格を有する新規な高屈折率アクリレート及びその重合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため、アクリル基を有する多環芳香族化合物の構造と重合性について鋭意検討した結果、下記一般式(1)に示される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物が重合開始剤存在下重合し、高い屈折率を示すポリマーを与えることを見いだし、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下に記載の骨子を要旨とするものである。
【0010】
本発明の第1の要旨は、下記一般式(1)で示される新規な10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物に存する。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(1)において、R、Rは同一であっても異なっていても良く、水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基のいずれかを示し、Y及びZは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0013】
本発明の第2の要旨は、下記一般式(2)で示される10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物を(メタ)アクリル化することよりなる上記一般式(1)で示される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の製造方法に存する。
【0014】
【化2】

【0015】
一般式(2)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基のいずれかを示し、Y及びZは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0016】
本発明の第3の要旨は、一般式(1)で示される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物をラジカル重合開始剤の存在下に重合して得られる重合物に存する。
【0017】
本発明の第4の要旨は、一般式(1)で示される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物と10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物以外のラジカル重合性化合物の混合物をラジカル重合開始剤の存在下に重合して得られる共重合物に存する。
【0018】
本発明の第5の要旨は、上記のラジカル重合開始剤が、光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする上記の重合物に存する。
【0019】
本発明の第6の要旨は、第3の要旨乃至第5の要旨のいずれかに記載の重合物を含む高屈折率材料に存する。
【0020】
本発明の記述において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを表し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを表す。
【発明の効果】
【0021】
本発明の10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物はナフタレン骨格とアントロン骨格を含有する新規な化合物であり、ラジカル重合開始剤の存在下に容易に重合し、かつ、重合して得られる重合物は高い屈折率をしめす。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物は、下記一般式1に記載の構造を有する新規な化合物で、一般式(1)において、R、Rは同一であっても異なっていても良く、水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基のいずれかを示し、Y及びZは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0023】
【化3】

【0024】
一般式(1)に於いて、Xで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル、4−メチル−3−ペンテニル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基,n−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基、o−トリルオキシ基、ナフチルオキシ等が挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基,ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、o−トリルチオ基、m−トリルチオ基、p−トリルチオ基、p−ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられ、アルキルカルボニルオキシ基としてはアセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基等が挙げられ、アルコキシカルボニル基としてはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。また、Y及びZで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル、4−メチル−3−ペンテニル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基,n−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基、o−トリルオキシ基、ナフチルオキシ等が挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基,ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、o−トリルチオ基、m−トリルチオ基、p−トリルチオ基、p−ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられる。
【0025】
一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル] アントラセン−9(10H)−オン化合物としては、例えば、次のものが挙げられる。すなわち、10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、さらには、Xがアルキル基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−メチル−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3−メチル−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−エチル−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3−エチル−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0026】
またさらには、Xがハロゲン原子である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−クロロ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3−クロロ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0027】
またさらには、Xがアルコキシ基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−メトキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3−メトキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0028】
またさらには、Xがアルキルカルボニルオキシ基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−アセトキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3−アセトキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0029】
またさらには、Xがアルコキシカルボニル基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−メトキシカルボニル−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3−メトキシカルボニル−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0030】
さらには、Yがアルキル基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−メチルアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2メチルアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−エチルアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−エチルアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0031】
またさらには、Yがハロゲン原子である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−クロロアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−クロロアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0032】
またさらには、Yがアルコキシ基である、10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−メトキシアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−メトキシアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0033】
またさらには、Yがアルキルチオ基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−メチルチオアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−メチルチオアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0034】
またさらには、Yがアリールチオ基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−フェニルチオアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−2−フェニルチオアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0035】
さらには、Zがアルキル基である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−6−メチルアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−6−メチルアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0036】
またさらには、Zがハロゲン原子である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)−6−クロロアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)−6−クロロアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0037】
さらには、X,Yが共にアルキル基である、10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−メチル−2−ナフチル)−2−メチルアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3メチル−2−ナフチル)−2−メチルアントラセン−9(10H)−オン等が、X,Yが共にハロゲン原子である10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−3−クロロ−2−ナフチル)−2−クロロアントラセン−9(10H)−オン、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−3−クロロ−2−ナフチル)−2−クロロアントラセン−9(10H)−オン等が挙げられる。
【0038】
上記化合物の中では、10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン(下記構造式(3)の化合物)、10−(1,4−ジメタクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン(下記構造式(4)の化合物)が合成容易であるという観点から好ましい。
【0039】
【化4】

【0040】
[製造方法]
一般式(1)に示す、本発明の10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物は、下記一般式(2)で示される10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物を塩基性化合物の存在下、塩化アクリロイルまたは塩化メタクリロイルと反応させることによって得られる。
【0041】
【化4】

【0042】
一般式(2)に於いて、Xで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル、4−メチル−3−ペンテニル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基,n−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基、o−トリルオキシ基、ナフチルオキシ等が挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基,ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、o−トリルチオ基、m−トリルチオ基、p−トリルチオ基、p−ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられ、アルキルカルボニルオキシ基としてはアセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基等が挙げられ、アルコキシカルボニル基としてはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。また、Y及びZで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル、4−メチル−3−ペンテニル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基,n−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基、o−トリルオキシ基、ナフチルオキシ等が挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基,ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、o−トリルチオ基、m−トリルチオ基、p−トリルチオ基、p−ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられる。
【0043】
先ず、原料である一般式(2)で示される10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物の製造方法について説明する。この化合物は下記反応式に示すように、ナフトキノン化合物を酸存在下、アントロン化合物と溶液中加熱することにより得られる。この反応を第一反応と称する。次いで、第一反応で得られた一般式(2)で示される10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物を塩基の存在または非存在下、塩化(メタ)アクリロイルと反応させることにより、一般式(1)に示す10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物を得ることが出来る。この(メタ)アクリル化の反応を第二反応と称する。
【0044】
【化5】

【0045】
第一反応に用いられるナフトキノン化合物としては、例えば次のものが挙げられる。すなわち、1,4−ナフトキノン、2−メチル−1,4−ナフトキノン、2−エチル−1,4−ナフトキノン、2−クロロ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシ−1,4−ナフトキノン、2−フェノキシ−1,4−ナフトキノン、2−アセトキシ−1,4−ナフトキノン、2−メトキシカルボニル−1,4−ナフトキノン等である。
【0046】
第一反応に用いられるアントロン化合物としては、例えば次の化合物が挙げられる。すなわち、9−アントロン、2−メチル−9−アントロン、2−エチル−9−アントロン、2−クロロ−9−アントロン、2−メトキシ−9−アントロン、2−メチルチオ−9−アントロン、2−フェニルチオ−9−アントロン、6−メチル−9−アントロン、6−エチル−9−アントロン、6−クロロ−9−アントロン、6−メトキシ−9−アントロン、6−メチルチオ−9−アントロン、6−フェニルチオ−9−アントロン等である。
【0047】
第一反応に用いられる酸としては、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸、硫酸、塩酸等の無機酸等が用いられる。p−トルエンスルホン酸が、反応操作上取り扱いが容易なことから好ましい。
【0048】
第一反応は通常溶媒の存在下で行われる。使用する溶媒としては、使用する酸と反応しなければよく、通常、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系溶媒、ジクロルメタン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒が用いられる。反応操作上取り扱いが容易なことから特に好ましいのはトルエンである。
【0049】
第一反応において、ナフトキノン化合物はアントロン化合物より等モル以下に用いることが望ましい。ナフトキノン化合物をアントロン化合物に対して等モル以上に添加すると反応混合物が黒くなり、生成物の脱色・精製が困難となる場合がある。好ましくは、ナフトキノン化合物のアントロン化合物に対する添加比率は0.8モル倍程度が望ましい。ナフトキノンを等モル以上に添加した場合は生成物の10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物と未反応のナフトキノンがキンヒドロン化合物を作るために真っ黒な結晶が生成し、その後の精製が困難となる場合がある。
【0050】
第一反応の反応温度は、80℃以上、140℃以下が望ましい。当該温度範囲が実用的な反応速度を得るために好ましく、140℃を超える温度では副反応による副生物が増加する傾向にある。特に好ましくは100℃以上、120℃以下である。反応時間は反応温度によるが、通常0.5時間から2時間である。トルエン等、芳香族系の溶媒を用いた場合、反応の進行に伴い、生成物が析出してくるので、このものを濾過乾燥すれば、10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物が得られる。
【0051】
第一反応で得られた10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物を塩基存在下、または塩基非存在下、塩化アクリロイルまたは塩化メタクリロイルと反応させる第二反応により、一般式(1)に示す10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物となす事が出来る。
【0052】
第二反応で使用される(メタ)アクリル化剤としては、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、無水アクリル酸、無水メタクリル酸等が挙げられる。
【0053】
第二反応で使用される塩基としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。
【0054】
溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンのような芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレンのようなハロゲン化炭素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドのようなアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのようなエーテル系溶媒が好適に用いられる。
【0055】
10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物に対する塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、無水アクリル酸又は無水メタクリル酸の添加量は2モル倍から8モル倍、好ましくは4モル倍から6モル倍である。
【0056】
10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物に対する塩基の添加量は、2モル倍から8モル倍、好ましくは4モル倍から6モル倍である。
【0057】
反応温度は、用いる溶媒にもよるが−10℃以上、50℃以下、好ましくは−10℃以上、20℃以下である。反応温度が−10°未満では反応が遅く実用的ではなく、反応温度が50℃を超えると目的とする生成物以外に、生成物のエノール化による逐次反応も起こりやすくなり好ましくない。
【0058】
反応時間は15分から60分程度である。反応終了後、水またはメタノールを加えて未反応の塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、無水アクリル酸又は無水メタクリル酸を水和した後、塩酸塩を濾過して除去し、次いで濾液に水を添加して晶析し、析出した結晶を濾過して黄白色粉末を得る。さらに、例えば、塩化メチレン/メタノールから再結晶し、白黄色の結晶を得ることが出来る。
【0059】
得られた化合物の同定は、HNMRスペクトル、IRスペクトルを用いて行い、相当する10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物であることを確認した。
【0060】
かくして得られた一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物は、ラジカル重合開始剤の存在下に重合させることができる。
【0061】
[ラジカル重合開始剤]
一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物を重合する際に用いるラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤及び熱ラジカル重合開始剤の両方を用いることができる。一般に、光ラジカル重合は硬化速度が速く、重合反応によって得られる重合物の透明性が高いので、特に本願発明の重合物を光学用途に用いる場合は、光ラジカル重合が好ましく、重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0062】
用いられる光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2−イソプロピルチオキサントン、2−t−ブチルアントラキノン等が挙げられる。実際の工業製品としてはチバスペシャリティケミカルズ社製のイルガキュア651、イルガキュア184、ダロキュア1173、イルガキュア907、イルガキュア369、ダロキュアTPO、イルガキュア819が挙げられる(イルガキュア、ダロキュアはチバスペシャリティケミカルズ社の登録商標)。
【0063】
光ラジカル重合において用いる、光ラジカル重合開始剤の添加濃度は、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物および必要に応じて併用されるラジカル重合性化合物の合計重量に対して0.5〜10重量%の範囲が実用的な反応速度を得るためには好ましく、さらに好ましくは0.7〜3重量%である。10重量%より多いと重合物の物性が悪化する場合があるので好ましくない。
【0064】
本発明の重合において、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オンを単独モノマーとして用いるだけでなく、これ以外の通常のラジカル重合性化合物を加えて共重合性のラジカル重合性組成物とすることも出来る。このラジカル重合性化合物としては、例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリオールアクリレート、ポリエーテルアクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、イミドアクリレートさらには、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等あるいはこれらのオリゴマー等が挙げられる。これらの他のラジカル重合性化合物を用いる場合、10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物との相溶性にもよるが、10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物10重量部に対し、他のラジカル重合性化合物を0.1から90重量部の範囲で用いるのが好ましい。生成する重合物の耐熱性や屈折率などの性能の観点から他のラジカル重合性化合物を90重量部以下に抑えるのが好ましい。
【0065】
また、10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物及びその共重合性のラジカル重合性組成物において、ラジカル重合開始剤以外に添加剤を加えることも可能である。添加剤としては、重合物の変質、劣化等を防止するために、重合禁止剤、酸化防止剤、光(紫外線)吸収剤、光安定剤、老化防止剤、防火微剤等、美観、意匠を向上させるための顔料、染料、光沢材等、加工性を向上させるための可塑剤、スリップ剤、離型剤、ゲル化剤等、その他の機能を付与させるために難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、防臭剤、香料等挙げられる。
【0066】
以上、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物をラジカル重合開始剤の存在下に重合させて得られる重合物について説明したが、本発明の一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物及びその共重合性のラジカル重合性組成物とラジカル重合開始剤を含有してなる重合性組成物とすることも有用であり、当該重合性組成物を重合させることにより重合物を得ることができる。本発明の一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の融点が比較的高いことより、形状加工のための加熱による予期せぬ重合を招かない利点があるからである。
【0067】
[重合反応]
一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物は、ラジカル重合開始剤の存在下に、熱エネルギーにより、または活性エネルギー線を照射することにより重合させることが出来る。特に、活性エネルギー線による重合は硬化速度が速いので好ましい。使用可能な活性エネルギー線としては可視光、UV光、電子線、マイクロ波等が挙げられる。
【0068】
使用する光源としては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、フュージョン社製のHランプ、Dランプ、Vランプさらには紫外線LED、青色LD等の光源が挙げられる。太陽光の使用も可能である。
【0069】
光ラジカル重合の具体的な態様としては、溶媒を使用した溶液状態での重合、溶媒を使用しない塊状態での重合共に可能である。前者の溶媒を使用した溶液状態の重合で使用可能な溶媒としては、重合禁止効果を持たなければ特に種類を選ばない。なかでも、トルエン、キシレン、t−ブチルベンゼン、クロロベンゼン、クロロナフタレン等の芳香族系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒が好適に用いられる。溶液状態での重合方法においては、上記の重合開始剤の存在下に上記の光源を用いて光照射をすることで、重合物が不溶解性となり沈澱してくる。このものを濾別・乾燥し、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の重合物を得ることが出来る。このようにして得られる重合物は、原料モノマーの一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の良溶媒であるメタノール、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解せず、重合物であることが示唆される。
【0070】
また、溶媒を使用しない光重合の場合は、目的とする形状に応じた塊のまま重合させる場合と、フィルム状にして硬化・重合させる場合とがある。塊のまま光ラジカル重合させる場合は、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の融点以上に加熱して溶融させるか、もしくは他のラジカル重合性化合物を加えて得られる混合物を加熱共融させ、そこに所定の光ラジカル開始剤を添加・溶解させて上記の重合性組成物として、溶融状態のまま光照射する。
【0071】
光照射に使用する光源は、溶液状態で用いた光源と同じである。光照射するにつれ、溶融物が硬化・重合してくる。光照射時間は、通常数秒から数分の間である。当該溶融物を光照射することにより、原料モノマーの一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の良溶媒であるトルエン、アセトン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解しないため、当該溶融物は光重合した重合物であることが示唆される。
【0072】
次に、溶媒を使用しない光重合において、フィルム状で重合させる場合は、例えば、次のように行う。フィルムの作成は,たとえば上記のように調整した一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物と光ラジカル開始剤を含む重合性組成物を、ポリエステルフィルム、アルミ箔、金属板等の基板上にバーコーターを用いて塗布し,膜厚10〜200ミクロン程度の塗膜を作ることにより行う。同様にして、厚さ1mmから10mm程度の厚みのシート状の組成物の硬化が可能である。塗布物に上記記述した光源を用いて光照射することにより、重合したフィルムやシートを得ることが出来る。得られたフィルムやシートは、原料モノマーの一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の良溶媒であるメタノール、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解せず、重合物であることが示唆される。また、屈折率を測定した結果、モノマーの屈折率より高い屈折率が得られており、フィルムやシートが重合していることが示された。
【0073】
このようにして得られた重合物からなるフィルム、シートもしくは塊状物は高屈折率を示し、また、その構造から、紫外線吸収性、高硬度、高光沢率、高い疎水性等が期待できる工業的に有用な組成物である。
【0074】
本発明の重合物の用途としては、レンズ、回折格子、フィルター、反射材等の光機能材料、封止剤、レジスト、絶縁材料、コンデンサー材料等のエレクトロニクス材料、キャパシター、太陽電池等のエネルギー関連材料、イオン交換樹脂等の分離機能材料、歯科材料等のバイオ、医療機能材料、高強度材料、接着剤等の航空、自動車材料、その他、塗料、粘着剤挙げられ、文献等で広く紹介されている。(たとえば、高分子材料・技術総覧編集委員会「高分子材料・技術総覧」(株式会社産業技術サービスセンター、2004)、光応用技術・材料事典編集委員会「光応用技術・材料事典」(株式会社産業技術サービスセンター、2006)。光学材料の分野において、レンズは高屈折率ほど薄くでき、レジスト材料は屈折率高いほど解像度が良いため、高屈折率が求められる傾向にある。ここで高屈折率とは常温(20℃)でのD線の屈折率が1.55以上のものを示す。
【0075】
下記の実施例により本発明を例示するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。特記しない限り、すべての部および百分率は、重量基準である。
【0076】
生成物の確認および物性は下記の機器による測定により行った。
(1)融点:ゲレンキャンプ社製融点測定装置、型式:MFB−595(JIS K0064準拠)を用いて測定した。
(2)IRスペクトル:赤外線(IR)分光光度計、日本分光社製、型式:IR−810
(3)H−NMR分析:核磁気共鳴装置(NMR)、日本電子社製、型式:GSX FT NMR Spectorometer、270MHz
(4)屈折率:ERMA製ユニバーサルアッベ屈折率計ER−7MWを用いて20℃にて測定した。
【実施例1】
【0077】
[1,4−ナフトキノンと9−アントロンとの反応による10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オンの合成]
攪拌機、温度計付きの100ml三つ口フラスコ中に9−アントロン3.88g(20.0ミリモル)、1,4−ナフトキノン2.95g(18.7ミリモル)、p−トルエンスルホン酸60mgを仕込み、トルエン14g加えた後、窒素置換し、105℃のオイルバスに50分間浸漬した。加熱により一旦均一な溶液となった後、析出した結晶を濾別して10gのアセトン中リスラリーし、濾別・乾燥して淡黄白色の10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン4.96g(14.1ミリモル)を得た。1,4−ナフトキノンに対する収率は75モル%であった。
【0078】
(1)融点:191−193℃
(2)IR(KBr,cm−1):3450,3350,1646,1604,1460,1336,1282,1160,1072,938,760,710,695.
(3)H−NMR(270MHz,CDCl):δ=5.94(s,1H),6.46(s,1H),7.42−7.51(m,4H),7.51−7.58(m,4H),8.20(s,1H),8.26−8.34(m,4H).
【実施例2】
【0079】
[9,10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オンの合成(構造式(3)]
攪拌機、温度計付きの300ml三口フラスコに、10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン3.52g(10.0ミリモル)を仕込み、アセトン70ml加えスラリー状態にした。ついで塩化アクリロイル5.4g(60ミリモル)を加え、該スラリーの入った三口フラスコを氷水につけて冷やす。さらに、トリエチルアミン5.05g(50.0ミリモル)のアセトン10ml溶液を反応液の温度が5℃以上にならないよう少しずつ加えて全量加えた後、さらに30分間5℃以下に保ち攪拌した。ついで、水を40ml及びアセトンを20ml加え均一溶液とした後、減圧濃縮し、淡黄白色の9,10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン3.50g(7.5ミリモル)を得た。原料の10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オンに対する収率は75モル%であった。
【0080】
(1)融点:179−181℃
(2)IR(KBr,cm−1):3080、1750,1670,1608,1462,1410,1375,1330,1306,1242,1225,1140,1072,980,932,760,712.
(3)H−NMR(270MHz,CDCl):δ=5.78(s,1H),6.03(d,J=8Hz,1H),6.14(d,J=8Hz,1H),6.27−6.41(m,2H),6.62(d,J=17Hz,1H),6.68(d,J=17Hz,1H),7.36−7.62(m,9H),7.70−7.84(m,2H),8.35−8.45(m,2H).
(4)屈折率:nD=1.638
【実施例3】
【0081】
[10−(1,4−アクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オンとトリメチロールプロパントリアクリレートの光共重合]
実施例2と同様にして合成した10−(1,4−アクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン10部、トリメチロールプロパントリアクリレート100部に対しビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャリティ社製イルガキュア819)1部を混合し、60℃のオイルバス中に浸漬して溶融した。得られた重合性組成物をポリエステルフィルム(東レ製ルミラー)の上に膜厚が0.2mmになるように塗布し、その後、窒素雰囲気下、膜を50℃に保温した状態で、表面に紫外線LED(波長395nmにおける照射強度が10mw/cm)を1分間照射し光重合物を得た。
【0082】
得られた重合物の屈折率を測定したところn=1.528であり、トリメチロールプロパントリアクリレート単独の重合物の屈折率1.512より0.016高い値を示した。このことより、本願発明の10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オンがトリメチロールプロパントリアクリレートのような一般的な重合性化合物と共重合していること及びその共重合物はトリメチロールプロパントリアクリレート単独の重合物より高屈折率を示すことから、本願発明の9,10−(1,4−ジアクリロイルオキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オンの重合物は高屈折率であり、共重合物の屈折率を高める効果があることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるで示される10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物。
【化1】


(一般式(1)において、R、Rは同一であっても異なっていても良く、水素原子又はメチル基を示し、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基のいずれかを示し、Y及びZは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。)
【請求項2】
一般式(2)に示す10−(1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル)アントラセン−9(10H)−オン化合物を(メタ)アクリル化することによる請求項1記載の10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物の製造方法。
【化2】


(一般式(2)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基のいずれかを示し、Y及びZは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。)
【請求項3】
請求項1記載の10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物をラジカル重合開始剤の存在下に重合して得られる重合物。
【請求項4】
請求項1記載の10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物と10−[1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル]アントラセン−9(10H)−オン化合物以外のラジカル重合性化合物の混合物をラジカル重合開始剤の存在下に重合して得られる共重合物。
【請求項5】
ラジカル重合開始剤が、光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項3又は4のいずれか一項に記載の重合物。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の重合物を含む高屈折率材料。



【公開番号】特開2011−84475(P2011−84475A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236131(P2009−236131)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】