説明

16α位水酸化ステロイド化合物の製造方法

【課題】シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質、またはCYP154に属するタンパク質を合成させた大腸菌等の生きた細胞を用いて効率良く、置換基を有するステロイド化合物のD環16α位に位置選択的、かつ立体選択的に水酸基を導入する方法を提供する。
【解決手段】シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有するステロイド化合物に作用させてステロイド骨格D環の16α位に水酸基を導入する16α位が水酸化されたステロイド化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いる16α位が水酸化されたステロイド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シトクロムP450 (以下、「P450」という)は、全ての真核生物と、大腸菌などの一部の原核生物を除くすべての生物種に広く保存されている。P450は、現在までに12,456のP450遺伝子が確認されている酵素最大のスーパーファミリーである(非特許文献1)。P450は、1958年にMartin KlingenbergとDavid Garfinkelによって、それぞれラットとブタの肝臓ミクロソーム分画からシトクロム様の一酸化炭素結合スペクトルを示す色素タンパク質として発見された (非特許文献2および3)。その後、1962年に大村と佐藤らは、この肝臓ミクロソーム分画から色素を可溶化すると、420 nm付近に吸収極大を示すシトクロムb5とは異なる新しいシトクロムが得られたと報告した。また、この報告の中で、一酸化炭素結合型をP-450、結合していない状態をP-420と命名した(非特許文献4)。しかしながら、翌年の1963年、Estabrookらのグループは、シトクロムと考えられた上記の色素タンパク質が、17-HydroxyprogesteroneのC21の水酸化反応を行うことを発見した(非特許文献5)。その結果、P450は一酸素原子を基質に添加するモノオキシゲナーゼであることが判明した。だが、すでに“シトクロム”という呼称が一般化していたことから、現在でもシトクロムP450(通常、P450またはCYPと省略して呼ばれる)と呼称されている。その後、大村らのグループによりP450による酸素の活性化機構が提示され、モノオキシゲナーゼとしてのP450の研究が始まった(非特許文献6)。
【0003】
P450は真核生物では500前後、原核生物では400前後のアミノ酸残基から構成される。P450は活性中心にプロトヘムを1分子保有するヘムタンパク質である事から真核、原核生物共に赤色を呈する。P450の細胞内局在は、真核生物、原核生物で異なっており、前者は膜画分、後者は細胞質画分に局在する。全てのP450の立体構造は、一辺が約60 Å、厚さは約30 Åの共通したプリズム型を保持している。一次構造には、数カ所の共通した領域があり、中でも、カルボキシル末端から約50〜60アミノ酸残基手前に存在するPhe-X-X-Gly-X-Arg/His-X-Cys-X-Gly(それぞれ配列番号12および13)というヘム結合領域のアミノ酸配列は、全てのP450に保存される配列であり、ゲノム情報からP450遺伝子を同定する際に利用される。これらの共通性から、P450は、同一の祖先に由来すると考えられている(非特許文献7)。P450の分類は、触媒機能が二次代謝物、ステロイドホルモンの生合成、異物代謝、炭化水素の資化など基質、触媒反応ともに多岐に及ぶことから機能ではなく、アミノ酸配列の類似度に基づいて分類される。分類の方法は、シトクロムP450を示すCYPを接頭辞に付け、その後にファミリー番号、サブファミリー番号、遺伝子番号の順に分類する。原則的に、アミノ酸配列が40%以上一致する場合は同一ファミリー、55%以上一致する場合には、同一サブファミリーに分類される。遺伝子番号は発見順に付与される。そして、命名された新規のP450は、順次Dr. Nelsonのホームページに掲載される (http://drnelson.uthsc.edu/CytochromeP450.html)。このようにP450は、アミノ酸配列の相同性によりファミリー、サブファミリーに分類されるが、同一サブファミリーに分類されるP450でも、同じ基質特異性を有することは少ない。このことは、同一サブファミリーに分類されるアミノ酸配列の相同性の基準が55%と低いことから容易に予想され、このような分類だけでは、P450の基質やP450の変換産物を予測することは困難である。
【0004】
P450は、炭化水素や芳香族化合物のように、化学的に非常に安定な化合物のC-H結合の水酸化反応を触媒する。しかしながら、P450の触媒反応は水酸化反応だけではない。現在判明しているP450の触媒反応は、水酸化のほかに、エポキシ化、O-脱メチル化、スルホキシド化、酸化的アリル転移(非特許文献8)、酸化的Baeyer-Villiger反応(非特許文献9)等の様々な反応を触媒する(非特許文献9)。さらに、基質となる化合物の大きさは、2-ブロモフェノール (Mr 173)のような低分子から、シクロスポリン(Cyclosporin)A (Mr 1202)の様に非常に大きな化合物まで触媒可能であり、基質適応性の広さが特徴的である。
【0005】
P450がモノオキシゲナーゼとして機能するには、通常、NAD(P)H由来の電子をP450に伝達する電子伝達タンパク質を必要とする。放線菌を始めとする細菌由来のP450は通常、フェレドキシンレダクターゼ(ferredoxin reductase;FADを補酵素とする)とフェレドキシン(ferredoxin;Fe-S小タンパク質)(この2つのタンパク質を総称して、電子伝達タンパク質、またはレドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質と呼ばれている。)を必要とする(非特許文献10)。P450の機能解析を実施する場合においても、電子伝達タンパク質を必要とするが、P450はこれらの電子伝達タンパク質との相性が厳しく、しかもP450自体が失活しやすい不安定酵素であることから、せっかく新しいP450遺伝子を取得しても、その機能を発現させることは困難であることが多かった。
【0006】
P450の触媒機能の解析は、前述の通り複雑な反応系が必要であり、機能解析が困難な場合が多い(非特許文献11)。この対応策として、P450(特に真核生物由来のP450)の機能解析研究では、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)の機能発現系が広く利用されている。パン酵母の機能発現系は、酵母に元々存在するNADPH-P450還元酵素(電子伝達タンパク質に相当する)を利用して、基質触媒反応試験を実施する。酵母のP450還元酵素は、真核生物のミクロソームに存在するP450(class IIに属するP450と言われる)(非特許文献11)との適応性が比較的高いため、電子伝達タンパク質の検討を行わずに結果を得られる場合が多い。しかしながら、酵母機能発現系にはいくつかの問題点が存在する。一つ目の問題点は、パン酵母はCYP51、CYP56、およびCYP61の3種類のP450を保有しており、これらのP450による影響を考慮する必要がある。そのため、異種生物のP450遺伝子を導入し、機能発現解析を実施する場合、その影響の有無を検証する必要がある。二つ目の問題点は、原核生物由来のP450や真核生物のミトコンドリアで機能するP450 (class Iに属するP450と言われる)(非特許文献11)と酵母に存在するNADPH-P450還元酵素との相性の問題がある。酵母のNADPH-P450還元酵素は、class IIに属するP450への適応性は高いが、class Iに属するP450との相性には問題がある場合が多い。
【0007】
対して、大腸菌(Escherichia coli)を用いたP450遺伝子の機能発現系の場合、形質転換等の遺伝子操作が簡便であることに加え、P450を保有しないことから大腸菌機能解析系の利点は多い。ただし、大腸菌機能解析系は、P450への電子伝達タンパク質の選択が問題となる。大腸菌はP450を保有しないことから、通常はP450に対応する電子伝達タンパク質もまた保有しない。そのため、細菌に多く見られるNAD(P)H‐鉄硫黄タンパク質還元酵素(フェレドキシンレダクターゼ)と鉄硫黄タンパク質(フェレドキシン)からなる電子伝達タンパク質の代用となる汎用性の高い電子伝達タンパク質が求められていた(非特許文献11)。
【0008】
ロドコッカス(Rhodococcus)属 NCIMB 9784株に由来するP450RhF(CYP116)は、フェレドキシンレダクターゼ(FMNを補酵素とする)とフェレドキシン(Fe-S小タンパク質)からなる還元酵素末端(reductase domain、還元酵素ペプチド、電子伝達タンパク質部分;C末側)がリンカー配列を介してP450本体タンパク質(N末側)と連結した融合型タンパク質であり、一般的なP450とは異なる珍しい構造を持つことが、エジンバラ大学のグループによって発見された(非特許文献12)。野舘らは、このP450RhFのリンカー配列を含む還元酵素ドメインを基に、機能解析対象であるP450遺伝子のクローニング部位としてNdeI部位およびEcoRI部位を付与した大腸菌機能発現ベクターpREDを作製した(特許文献1および非特許文献13)。なお、pREDのベースベクターには、T7lacプロモーター(以下T7プロモーターと呼ぶ)により導入遺伝子の発現制御を行うpET21a(Novagen社製)が使用された。pREDベクターの構造を図1に示す。pREDベクターの利用により、いくつかの細菌由来のP450遺伝子(P450cam(CYP101)、P450Bzo(CYP203)、P450balk(CYP153)、CYP110E1)を大腸菌で人工の融合型タンパク質として発現させ、モノオキシゲナーゼとしての機能を発現できることが示された(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献13および非特許文献14)。この大腸菌機能発現系の最大の利点は、今まで機能発現が困難であった細菌由来のP450を汎用的に、且つ効率良く発現できることである。そのため、異種生物由来のP450の機能解析に適していると考えられた。
【0009】
現在、ストレプトマイセス属は5種のゲノムの解読が終了しており、そのゲノム配列情報が公開されている(ストレプトマイセス・エバーメチルス(Streptomyces avermitilis);http://www.ls.kitasato-u.ac.jp/、 ストレプトマイセス・グリセウス (Streptomyces griseus); http://streptomyces.nih.go.jp/griseus/、 ストレプトマイセス・セリカラー A3(2))(Streptomyces coelicolor A3(2));http://www.sanger.ac.uk/resources/downloads/bacteria/streptomyces-coelicolor.html、 ストレプトマイセス・スカビエ(Streptomyces scabiei);http://www.sanger.ac.uk/resources/downloads/bacteria/streptomyces-scabies.html、 ストレプトマイセス・ビンチェンジェンシス (Streptomyces bingchenggensis BCW-1); http://gib.genes.nig.ac.jp/single/main.php?spid=Sbin_BCW1)。抗生物質を始めとする多様な二次代謝物を生産するストレプトマイセス属は、一般的なバクテリアと比較して多くのP450遺伝子を保有する(15分子種〜34分子種)。公開されたゲノム情報から22ファミリー、92分子種のP450遺伝子配列が確認された。例えば、CYP154ファミリーは、上記のゲノム解析が終了した5種全てに保存されており、それぞれ1〜3分子種保存されている。
【0010】
ストレプトマイセス属由来のP450の基質化合物は、二次代謝物の生合成クラスターに含まれる分子種を除き、ほとんど不明である。
【0011】
CYP154ファミリーは、ストレプトマイセス属を中心に広く保存されている。これまでに2分子種の三次元立体構造が明らかにされたが、ストレプトマイセス属由来のCYP154の触媒反応は不明である(非特許文献15および16)。ただし、ノカルディア ファルシニカ IFM 10152株(Nocardia farcinica)由来のCYP154がテストステロンの16α位に水酸基を導入する事が以前に報告されている(非特許文献17)が、テストステロンの基質濃度が0.1 mMと低い中で変換率は50%程度と低く、変換物の生産レベルには至っていないと言える。また、サーモビフィーダ フスカ(Thermobifida fusca)由来のCYP154H1の機能解析研究では、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、スチレン、インドール、チオアニソールを始めとするスフィドなどを基質とした変換例が報告されている(非特許文献18)。
【0012】
上述したように、P450ファミリー群は基質適応性 (基質特異性)が極めて広く、触媒反応が多岐に及ぶために基質の同定が難しく、ゲノム上にP450の遺伝子が確認されても機能の推定に至る例は少ない。そのため、これまでのP450の研究は、代謝物解析の研究が進み、基質の推定が比較的容易であるヒトをはじめとする動物、あるいは同様に代謝物解析が積極的に実施されている植物由来のP450を中心に研究が行われてきた。一方、細菌に由来するP450は、ゲノム解析の進展から多くのP450遺伝子配列が確認されているが、代謝物解析情報が非常に少ないことを一因として機能解析研究例が動植物のP450に比べて極端に少ない。機能解析に成功した細菌由来P450の一例として、放線菌由来のP450は、ペニシリン(penicillin)、エリスロマイシン(Erythromycin)、エバーメクチン(Avermectin)等の抗生物質の生合成に関与しているものが挙げられる。また、樟脳、シネオール(cineol)、テルピネオール(terpineol)等のテルペン類を炭素源として利用する細菌では、P450がこれらの資化に重要な役割を担っている。このように、細菌由来のP450の中には有機化学合成では合成困難な化合物への代謝に関与するP450の分子種が多数存在することが予想されており、新規の触媒機能を有するP450の同定や、その触媒反応の解明および産業への利用が望まれている。
【0013】
ステロイドは、シクロペンタヒドロフェナントレンを基本骨格とし、その一部あるいはすべての炭素が水素化されている化合物である。ステロイド化合物は、通常は10位と13位の炭素にメチル基を有し、また、様々な位置の炭素に水酸基、オキソ基、アルキル基などの様々な置換基が結合している多様な化合物群である。ステロイド化合物は、ほとんどの生物の生体内でメバロン酸経路にて生合成されたスクワレンが様々な環化酵素により様々なステロイド骨格が形成され、さらにP450を始めとする酵素によって多段階で修飾されることにより多様なステロイド化合物が生合成される。ステロイド化合物は、中性脂質、タンパク質、および糖類と共に細胞膜の重要な構成成分となっているほか、胆汁に含まれる胆汁酸や、性ホルモン、糖質コルチノイド、鉱質コルチノイドなど生体維持に重要なステロイドホルモンや昆虫の変態ホルモンとして、生体に幅広く利用されている。例えば、プロゲストゲンやエストゲンの誘導体は避妊薬として広く使用され、テストステロンは成長促進剤として使用されている。アンチアンドロゲンは前立腺ガンの治療薬として使用されている。コルチゾン、コルチゾル、プレドニゾロンおよびプレドニゾン並びにこれらの誘導体は、皮膚疾患、リューマチ、アレルギー疾患および腎臓病などの治療薬として使用されている。さらに、ステロイド化合物のD環の16α位が水酸化されたステロイド化合物の中には、様々な機能や用途があることが知られている。例えば、16α−ヒドロキシ−デヒドロエピアンドロステロンは、胎児中のみに存在する副腎皮質ステロイドホルモンで、胎盤エストリオールの基になる重要な前駆物質であり、16α−ヒドロキシ−デヒドロエピアンドロステロンを測定することにより胎児副腎−肝臓系機能の指標とすることのできる有用な化合物である。エストロンの16α位が水酸化されたエストリオールは、妊娠後期に胎盤より多量に分泌され、エストロン・エストラジオールの子宮興奮作用を抑制し、胎児−胎盤機能に対し、生理的に重要な意義を持ち、特に尿中エストリオール値は、胎児、胎盤、母体系機能の指標として、臨床上最もよく測定されている。16α−ヒドロキシ−Δ4−アンドロステン−3,17−ジオンおよび16α−テストステロンは、アンドロゲン作用を有する。さらに、16α−ヒドロキシプロゲステロンは、アロプレグナン−3,6,20−トリオンやプレグナン−3,11,20−トリオンの合成原料として有用である。16α−ヒドロキシ−11−デオキシコルチコステロンは、Δ4−アンドロステン−3,16−ジオンの合成原料として有用である。
【0014】
このように、16α位が水酸化されたステロイド化合物には、臨床検査や代謝物測定における標準品、創薬におけるシード・リード化合物の創生、合成中間体などの様々な有用な用途がある。しかしながら、16α位が水酸化されたステロイド化合物の構造は、多様で、且つ複雑であるが故に、化学合成では多工程を要し、合成が困難であることが多い。このため、16α位が水酸化されたステロイド化合物の簡便で効率の良い製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開WO2006/051729号公報
【特許文献2】特開2009−5687号公報
【特許文献3】特開2010−220609号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】David R. Nelson Progress in tracing the evolutionary paths of cytochrome P450. Biochimica et Biophysica Acta 1814: 14-18 (2011)
【非特許文献2】Klingenberg, M. Pigments of Rat Liver Microsomes. Arch. Biochem. Biophys. 75: 376-386 (1958)
【非特許文献3】Garfinkel, David. Studies on pig liver Microsomes. I. enzymic and pigment composition of different microsomal fraction. Arch. Biochem. Biophys. 77: 493-509 (1958)
【非特許文献4】Omura, T. and Sato, R. A new cytochrome in liver Microsomes. J. Biol. Chem. 237: 1375-1376 (1962)
【非特許文献5】Estabrook, R.W., Cooper, D.Y. and Rosenthal, O. The light reversible carbon monoxide inhibition of the steroid C21-hydroxylase system of the adrenal cortex. Biochem. Z. 338: 741-755 (1963)
【非特許文献6】Omura, T., Sato, R., Cooper, D.Y., Rosenthal, O. and Estabrook, R.W. Function of cytochrome P-450 of Microsomes. Fed. Proc. 24: 1181-1189 (1965)
【非特許文献7】Degtyarenko, K.N., Archakov, A.I. Molecular evolution of P450 superfamily and P450-containing monooxygenase systems. FEBS. Lett. 332: 1-8 (1993)
【非特許文献8】Sawada, Y., Kinoshita, K., Akashi, T., Aoki, T. and Ayabe, S. Key amino acid residues require for aryl migration catalysed by the cytochrome P450 2-hydroxyisoflavanone synthase. Plant J. 31: 555-564 (2002)
【非特許文献9】Kim, T.W., Hwang, J.Y., Kim, Y.S., Joo, S.H., Chang, S.C., Lee, J.S., Takatsuto, S. and Kim, S.K. Arabidopsis CYP85A2, a cytochrome P450, Mediates the Baeyer-Villiger oxidation of castasterone to brassinolide in brassinosteroid biosynthesis. Plant Cell 17: 2397-2412 (2005)
【非特許文献10】Isin, E.M. Guengerich, F.P. Complex reactions catalyzed by cytochrome P450 enzymes. Biochim. Biophys, Acta. 1770: 314-329 (2007)
【非特許文献11】F. Hannemann et al, Cytochrome P450 systems--biological variations of electron transport chains. Biochim. Biophys. Acta, 1770: 330-344 (2007)
【非特許文献12】G. A. Roberts et al, Identification of a New Class of Cytochrome P450 from a Rhodococcus sp. J. Bacteriol. 184: 3898-3908 (2002)
【非特許文献13】M. Nodate et al, Functional expression system for cytochrome P450 genes using the reductase domain of self-sufficient P450RhF from Rhodococcus sp. NCIMB 9784. Appl. Microbiol. Biotechnol., 71: 455-462 (2006)
【非特許文献14】T. Otomatsu et al, Bioconversion of aromatic compounds by Escherichia coli that expresses cytochrome P450 CYP153A13a gene isolated from an alkane-assimilating marine bacterium Alcanivorax borkumensis. Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic, 66: 234-240 (2010)
【非特許文献15】Rarissa m, podust et al, Comparison of the 1.85 Å structure of CYP154A1 from Streptomyces coelicolor A3(2) with the closely related CYP154C1 and CYPs from antibiotic biosynthetic pathways. Protein Science., 13: 255-268 (2004)
【非特許文献16】Rarissa m, podust et al, The 1.92-Å structure of Streptomyces coelicolor A3(2) CYP154C1. The Journal of Biological Chemistry., 278(14): 12214-12221 (2003)
【非特許文献17】H. Agematu et al, Hydroxylation of Testosterone by Bacterial Cytochromes P450 Using the Escherichia coli Expression System. Biosci. Biotechnol. Biochem., 70(1): 307-311 (2006)
【非特許文献18】Anett Schallmey et al, Characterization of cytochrome P450 monooxygenase CYP154H1 from the thermophilic soil bacterium Thermobifida fusca. Appl. Microbiol. Biotechnol., 89: 1475-1485 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質、またはCYP154に属するタンパク質を合成させた大腸菌等の生きた細胞を用いて効率良く、置換基を有するステロイド化合物のD環16α位に位置選択的、かつ立体選択的に水酸基を導入する方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、細菌由来のP450のバイオコンバージョン技術への応用を目的として、新規の触媒機能を有するP450の探索を後述するように行った。
研究を行う対象として、すでにゲノム情報が公開されている、放線菌 ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株由来の 27個のP450遺伝子を取得した。そして、これらのP450遺伝子の機能解析を、pREDベクター(図1、特許文献1、非特許文献13および非特許文献14)を用いて行った。
【0019】
pREDベクターは、上述したように、ロドコッカス属NCIMB 9784株が保有するP450RhF(非特許文献12)が、一般的なP450とは異なる構造(NAD(P)H-鉄イオウタンパク質還元酵素 (フェレドキシンレダクターゼ)領域と鉄イオウタンパク質 (フェレドキシン)領域とからなるP450還元酵素末端 (C末端側)が、リンカー配列を介してP450タンパク質と一本のポリペプチド鎖として融合している構造)を有することに着目して作製された。そして、pREDベクターは、T7プロモーターにより導入遺伝子の発現制御行うpET21a (Novagen社製)を元に、P450RhFのリンカー配列を含む還元酵素末端とP450遺伝子のクローニング部位としてNdeIとEcoRI部位を付与した異種由来P450の大腸菌用機能発現ベクター(図1)である。このpREDベクターに異種細菌由来のいくつかのP450遺伝子を連結し、大腸菌で機能解析することにより、既に該ベクターの汎用性が確認されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献13および非特許文献14)。
【0020】
その結果、新規の触媒機能を有するP450の探索過程において、CYP154に属するP450(CYP154)、例えば配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(SGR 1085 (CYP154))を用いると、置換基を有する種々のステロイド化合物のD環16α位に位置・立体選択的に水酸基を導入できることを見出した。その産物には、16α-ヒドロキシ-4-プレグネン-3, 11, 20-トリオン、16α-ヒドロキシアドレノステロンのように新規化合物も含まれていた。ステロイド化合物を生合成しない放線菌由来のP450がこのような触媒反応を担うというのは、全く予想外の知見であった。
【0021】
すなわち本発明者らは、以下の知見を得た。
(i) CYP154に属するタンパク質またはこれを含む人工の融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有するステロイド化合物に作用させることにより、このステロイド化合物のD環16α位に位置選択的、かつ立体選択的に水酸基を効率的に導入できる。
(ii) 上記の反応は、例えば、CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質と、必要に応じて(特に前者の場合)CYP154に属するタンパク質に電子を伝達するタンパク質(電子伝達タンパク質;レドックスパートナータンパク質)とを共に発現する組換えベクターを導入した形質転換体をステロイド化合物に作用させることにより行うことができるが、従来のpREDベクターにCYP154に属するタンパク質をコードする遺伝子を挿入した組換えベクターで大腸菌(エシェリキア・コリ)を形質転換した形質転換体を用いれば、水酸基導入反応が進行し易い。
(iii) 上記の反応は、CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質を発現する大腸菌等の生きた細胞を用いて行うことができるので、高価なNADPHまたはNADHの添加が不要で、また、反応の際に酵素を精製して使用する必要がなく、しかも反応後は遠心分離等により菌体を容易に除去することができることから、生成物の精製も容易である。このため、目的化合物を酵素法で安価で簡便に、しかも大量に製造することができる。
【0022】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項の新規なステロイド化合物の効率の良い製造方法を提供する。
項1. シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有するステロイド化合物に作用させてステロイド骨格のD環16α位に水酸基を導入することを特徴とする16α位が水酸化されたステロイド化合物の製造方法。
項2. CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と、置換基を有するステロイド化合物とを共存させることにより、CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有するステロイド化合物に作用させる項1に記載の製造方法。
項3. 置換基を有するステロイド化合物が、下記一般式(1)
【0023】
【化1】

【0024】
(上記式中、R1〜R6、−A−A’−、および−B−B’−B’’−は、以下の(A)または(B)である;
(A)R1は、水酸基、オキソ基またはアセトキシ基であり、
R2は、水素、水酸基、アセトキシ基またはオキソ基であり、
R3は、水酸基、アセチル基、ヒドロキシメチルカルボニル基、アセトキシメチルカルボニル基、2-ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基またはヒドロキシメチルカルボニル基であり、
R4は、水素またはメチル基であり、
−A−A’−は、−CH2−CH2−または−CH=CH−であり、
−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、−CH=C−CH2−または−CH=C−CHF−であり、
Rは、水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基であり、
Rは、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基である、または、
(B)R3およびR4が一緒になってオキソ基であり、
R1は、水酸基、オキソ基またはアセトキシ基であり、
R2は、水素、水酸基またはオキソ基であり、
−A−A’−は、−CH2−CH2−または−CH=CH−であり、
−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、−CH=C−CH2−または−CH=C−CHF−であり、
Rは、水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基であり、
Rは、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基である)で表されるステロイド化合物であることを特徴とする項1または2に記載の製造方法。
項4. CYP154に属するタンパク質が以下の(a)または(b)である項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸配列が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチド
項5. 融合型タンパク質が、CYP154に属するタンパク質と電子伝達タンパク質との融合型タンパク質である、項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 融合型タンパク質が、CYP154に属するタンパク質と、電子伝達タンパク質であるロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチドまたはそれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質である、項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 電子伝達タンパク質が以下の(c)または(d)のポリペプチドである項5または6に記載の製造方法。
(c) 配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(d) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するポリペプチド
項8. 形質転換体が、CYP154に属するタンパク質をコードする以下の(e)〜(g)のいずれかのDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(h)〜(j)のいずれかのDNAを連結した融合型タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌ベクターに挿入した組換えプラスミドを大腸菌に導入してなるものである項2〜7のいずれかに記載の製造方法。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドをコードするDNA
(g) 配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸配列が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドをコードするDNA
(h) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(i) 配列番号4のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(j) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
本明細書中、シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質を、CYP154に属するタンパク質という。
【発明の効果】
【0025】
化学合成によりステロイド化合物のD環16α位に位置選択的、かつ立体選択的に水酸基を導入する場合、多工程反応、すなわち保護基の導入や脱離反応などを要する場合があり、高温高圧の過酷な条件、高価または危険な試薬、廃液処理などを要する場合もある。また、多工程でのカラムクロマト精製、副産物の生成に起因する問題がある。この点、本発明の方法は酵素を用いた反応であるため、安価な市販原料を用いて、1工程で、特異的に反応を進めることができる。さらに、CYP154に属するタンパク質を生産する大腸菌等の生きた細胞を用いて反応を行うことができるので、高価なNADPHまたはNADHの添加や酵素を精製する必要もなく簡便で、変換産物の大量製造も容易であるという優れた利点がある。また、酵素により反応を行うことから、温和な条件で反応を行うことができ、環境に悪影響を与える試薬を使用する必要がない、たいへん環境にやさしい製造方法である。
【0026】
従って、本発明によれば、代謝物解析や医薬品として有用であるステロイド化合物を、温和な条件下で簡便に、しかも効率よく大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、P450機能発現ベクターpREDの構造を示す図である。
【図2】図2は、ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株由来のP450の系統樹を示す図である。
【図3】図3は、放線菌由来CYP154ファミリーの系統樹を示す図である。
【図4】図4は、pHSG396プラスミドベクターに挿入した塩基配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の16α位が水酸化されたステロイド化合物の製造方法は、シトクロムP450の1ファミリーであるCYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有するステロイド化合物原料(基質)に作用させて、置換基を有するステロイド化合物の酸化物を製造する方法である。より具体的には、本発明の16α位が水酸化されたステロイド化合物の製造方法においては、シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有するステロイド化合物に作用させてステロイド骨格のD環16α位に水酸基を導入する。これにより、16α位が水酸化されたステロイド化合物を製造する。本発明の製造方法における原料(基質)には、種々の置換基を有するステロイド化合物を用いることができる。
【0029】
置換基を有するステロイド化合物
本発明の製造方法において原料として用いられる置換基を有するステロイド化合物は特に限定されないが、ステロイド骨格(シクロペンタヒドロフェナントレン骨格)の16位に置換基を有さないものが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法の原料(基質)には、例えば、下記一般式(1)で示される置換基を有するステロイド化合物が好適に用いられる。
【0031】
【化2】

【0032】
上記一般式(1)中、R1〜R6、−A−A’−、および−B−B’−B’’−は、以下の(A)または(B)である。
(A)R1は、水酸基、オキソ基またはアセトキシ基であり、
R2は、水素、水酸基、アセトキシ基またはオキソ基であり、
R3は、水酸基、アセチル基、ヒドロキシメチルカルボニル基、アセトキシメチルカルボニル基、2-ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基またはヒドロキシメチルカルボニル基であり、
R4は、水素またはメチル基であり、
−A−A’−は、−CH2−CH2−または−CH=CH−であり、
−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、−CH=C−CH2−または−CH=C−CHF−であり、
Rは、水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基であり、
Rは、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基である。
【0033】
(B)R3およびR4が一緒になってオキソ基であり、
R1は、水酸基、オキソ基またはアセトキシ基であり、
R2は、水素、水酸基またはオキソ基であり、
−A−A’−は、−CH2−CH2−または−CH=CH−であり、
−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、−CH=C−CH2−または−CH=C−CHF−であり、
Rは、水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基であり、
Rは、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基である。
【0034】
中でも、本発明における置換基を有するステロイド化合物として、上記一般式(1)において、R1〜R6、−A−A’−、および−B−B’−B’’−が、上記(A)の場合、R1〜R6、−A−A’−、および−B−B’−B’’−は、それぞれ以下であることが好ましい。
R1は、水酸基、またはオキソ基であることが好ましい。R2は、水素、水酸基、またはオキソ基であることが好ましい。R3は、水酸基、アセチル基、ヒドロキシメチルカルボニル基、アセトキシメチルカルボニル基、またはヒドロキシメチルカルボニル基であることが好ましい。R4は、水素、またはメチル基であることが好ましい。R5は、メチル基であることが好ましい。R6は、メチル基であることが好ましい。−A−A’−は、−CH2-CH2−、または−CH=CH−であることが好ましい。−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、または−CH=C−CH2−であることが好ましい。
【0035】
上記一般式(I)において、R1〜R2、R5〜R6、−A−A’−、および−B−B’−B’’−が、上記(B)の場合、R1〜R2、R5〜R6、−A−A’−、および−B−B’−B’’−は、それぞれ以下であることが好ましい。
R1は、水酸基、またはオキソ基であることが好ましい。R2は、水素、またはオキソ基であることが好ましい。R5は、メチル基であることが好ましい。R6は、メチル基であることが好ましい。−A−A’−は、−CH2-CH2−、または−CH=CH−であることが好ましい。−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、または−CH=C−CH2−であることが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、原料(基質)となる上記一般式(I)で表される置換基を有するステロイド化合物は、例えば、1,4-アンドロスタジエン-3,17-ジオン (1,4-Androstadiene-3,17-dione)、11-デヒドロコルチコステロン(11-Dehydrocorticosterone)、11α-ヒドロキシプロゲステロン(11α-Hydroxyprogesterone)、 11α-ヒドロキシプロゲステロンアセテート(11α-Hydroxyprogesterone acetate)、11β,21-ジヒドロキシ-3,20-オキソ-5β-プレグナン-18-アール(11β,21-Dihydroxy-3,20-oxo-5β-pregnan-18-al)、11β,21-ジヒドロキシ-5β-プレグナン-3,20-ジオン (11β,21-Dihydroxy-5β-pregnane-3,20-dione)、11β-ヒドロキシアンドロステ-4-エン-3,17-ジオン (11β-Hydroxyandrost-4-ene-3,17-dione)、11β-ヒドロキシプロゲステロン (11β-Hydroxyprogesterone)、17α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン (17α-Methylandrostan-17β-ol-3-one)、18-ヒドロキシコルチコステロン(18-Hydroxycorticosterone)、19-ヒドロキシアンドロステ-4-エン-3,17-ジオン(19-Hydroxyandrost-4-ene-3,17-dione)、19-ヒドロキシテストステロン (19-Hydroxytestosterone)、19-ノルテストステロン (19-Nortestosterone)、19-オキソアンドロステ-4-エン-3,17-ジオン (19-Oxoandrost-4-ene-3,17-dione)、19-オキソテストステロン (19-Oxotestosterone)、1-デヒドロ-17α-メチルテストステロン(1-Dehydro-17α-methyltestosterone)、20α-ヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン (20α-Hydroxy-4-pregnen-3-one)、21-ヒドロキシ-5β-プレグナン-3,11,20-トリオン (21-Hydroxy-5β-pregnane-3,11,20-trione)、21-ヒドロキシプレグネノロン (21-Hydroxypregnenolone)、3α,11β,21-トリヒドロキシ-20-オキソ-5β-プレグナン-18-アール (3α,11β,21-Trihydroxy-20-oxo-5β-pregnan-18-al)、3α,20α,21-トリヒドロキシ-5β-プレグナン-11-オン(3α,20α,21-Trihydroxy-5β-pregnane-11-one)、3α,21-ジヒドロキシ-5β-プレグナン-11,20-ジオン (3α,21-Dihydroxy-5β-pregnane-11,20-dione)、3α-ヒドロキシ-5α-プレグナン-20-オン (3α-Hydroxy-5α-pregnan-20-one)、3α-ヒドロキシ-5β-アンドロスタン-17-オン (3α-Hydroxy-5β-androstan-17-one)、3α-ヒドロキシ-5β-プレグナン-20-オン (3α-Hydroxy-5β-pregnane-20-one)、3β,17β-ジヒドロキシ-5-アンドロステン (3β,17β-Dihydroxy-5-androstene)、4-プレグネン-3,11,20-トリオン (4-Pregnane-3,11,20-trione)、5α-アンドロスタン-3,17-ジオン (5α-Androstane-3,17-dione)、5α-ジヒドロデオキシコルチコステロン (5α-Dihydrodeoxycorticosterone)、5α-プレグナン-20α-オール-3-オン (5α-Pregnan-20α-ol-3-one)、5α-プレグナン-3,20-ジオン (5α-Pregnane-3,20-dione)、5α-プレグナン-3α,20α-ジオール (5α-Pregnane-3α,20α-diol)、5β-アンドロスタン-3,17-ジオン (5β-Androstane-3,17-dione)、5β-ジヒドロテストステロン (5β-Dihydrotestosterone)、5β-プレグナン-3,20-ジオン (5β-Pregnane-3,20-dione)、5β-プレグナン-3α,20α-ジオール (5β-Pregnane-3α,20α-diol)、6α-フルオロテストステロン (6α-Fluorotestosterone)、アドレノステロン (Adrenosterone)、アルドステロン (Aldosterone)、アンドロスタン-3α,17β-ジオール (Androstan-3α,17β-diol)、アンドロステロン (Androsterone)、コルチコステロン(Corticosterone)、コルチコステロン 21-アセテート (Corticosterone 21-acetate)、デヒドロエピアンドロステロン (Dehydroepiandrosterone)、デヒドロエピアンドロステロンアセテート (Dehydroepiandrosterone acetate)、デオキシコルチコステロン (Deoxycorticosterone)、デオキシコルチコステロンアセテート (Deoxycorticosterone acetate)、ジヒドロテストステロン (Dihydrotestosterone)、メチルアンドロステンジオール (Methylandrostenediol)、メチルテストステロン(Methyltestosterone)、プレグナンジオール (Pregnanediol)、プレグネノロン(Pregnenolone)、プレグネノロンアセテート (Pregnenolone acetate)、プロゲステロン (Progesterone)、スタノロン (Stanolone)、テストステロン (Testosterone)、テトラヒドロコルチコステロン (Tetrahydrocorticosterone)、Δ4-アンドロステン-3,17-ジオン (Δ4-Androstene-3,17-dione) 等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明の製造方法おいて、基質(原料化合物)となる置換基を有するステロイド化合物は、市販のものを利用しても良いし、従来から知られ、常用されている方法により製造して用いてもよい。
【0038】
本発明の製造方法においては、上記置換基を有するステロイド化合物のステロイド骨格D環の16α位に位置選択的、かつ立体選択的に水酸基を導入する。
置換基を有するステロイド化合物のステロイド骨格D環の16α位に水酸基を導入するとは、ステロイド化合物を構成するD環の16α位の炭素原子に直接水酸基を導入することを意味する。
【0039】
バイオコンバージョン反応
本発明の製造方法におけるバイオコンバージョン反応(以下、「反応」と略称することがある。)は、適当な溶液または溶媒中で、基質(原料化合物)とCYP154に属するタンパク質(以下、「CYP154タンパク質」と略称することがある。)またはこれを含む融合型タンパク質を、必要に応じてレドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質(電子伝達タンパク質)と共に反応させることにより行うことが好ましい。電子伝達タンパク質としては、フェレドキシンレダクターゼおよびフェレドキシンが好ましい。CYP154タンパク質は、生物材料から単離して用いることもできる。単離したCYP154タンパク質としては、菌体のような生物材料の破砕物、抽出物、精製物などが挙げられる。単離したCYP154は適当な担体に固定化されたものであってもよい。この場合、酸化反応を触媒する電子伝達タンパク質であるフェレドキシンレダクターゼおよびフェレドキシンを、反応系に共存させることが好ましい。なお、CYP154タンパク質と、P450RhF(ロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼ)の還元酵素末端のような電子伝達タンパク質とが融合したタンパク質(融合型タンパク質)を基質と反応させる場合は、別途フェレドキシンレダクターゼやフェレドキシンと共存させる必要は無い。CYP154タンパク質と電子伝達タンパク質とを共に反応させることにより、CYP154タンパク質はモノオキシゲナーゼとしてより効率よく機能する。
【0040】
また、P450ファミリータンパク質は不安定な酵素であるため、本発明における反応は、反応液中で、CYP154タンパク質を生産する細胞と基質とを接触ないしは共存させることにより行うことが好ましい。この反応は、CYP154タンパク質を生産する細胞の培養液中に基質を添加することにより行ってもよく、例えば緩衝液中でCYP154タンパク質を生産する細胞と基質とを共存させることにより行ってもよい。例えば、緩衝液(バッファー)中で、CYP154タンパク質を生産する細胞を、基質である置換基を有するステロイド化合物の存在下で攪拌または振とうすることにより16α位が水酸化されたステロイド化合物を効率よく製造することできる。
【0041】
CYP154タンパク質、およびこれを生産する細胞については、後に詳述する。
以下、CYP154タンパク質を生産する細胞を用いた方法について説明する。なお、以下では例としてCYP154タンパク質を生産する細胞を用いた方法を説明するが、CYP154タンパク質を含む融合型タンパク質を生産する細胞を用いる場合も、同様である。
反応は、回分反応や流加(半回分)反応などのバッチ方式;灌流反応などの連続反応方式のいずれでも行い得る。基質は一括、または連続的に添加し得る。
【0042】
反応条件は用いる細胞(CYP154タンパク質を生産する微生物等の細胞)、および基質(原料化合物)の種類によって適宜設定すればよいが、例えば、回分反応の場合は、反応液中の基質濃度は約0.1〜10mMが好ましく、約0.5〜3mMがより好ましい。反応液には、例えば、通常微生物の培養に使用される炭素源、窒素源、ミネラル源等を含む通常の液体培地、または緩衝液等を好適に用いることができる。好ましくは、リン酸バッファーなどの緩衝液を用いる。また、予め通常の培地等で培養したCYP154タンパク質を生産する微生物を用いて、緩衝液で反応を行うことが好ましい。緩衝液は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、リン酸バッファー、トリスバッファー等を使用することができる。また、非水溶性かつ液体の基質の場合は、CYP154タンパク質を生産する細胞を含む反応液に、基質を重層することができる。反応液のpHは約5〜9が好ましく、約6〜8がより好ましい。また、反応は、通常、約20〜40℃、好ましくは約20〜30℃で行えばよい。反応時間は、通常約12〜48時間行えばよい。反応中は、反応液を適宜撹拌又は振とうすることが好ましい。流加(半回分)反応や連続反応の場合は、回分反応の条件に準じて条件を設定すればよい。上記範囲であれば、基質から16α位が水酸化された目的物への変換率が高く、かつ精製が容易となる。生成した16α位が水酸化されたステロイド化合物は、通常、反応液中に蓄積する。
【0043】
例えば、CYP154タンパク質を生産する微生物として、後述する大腸菌に上記遺伝子を導入してなる形質転換体を用いる場合、基質存在下での反応は、好気条件下で行うことが好ましい。
【0044】
反応生成物(変換産物)
バイオコンンバージョン反応で生じた16α位に水酸基を有するステロイド化合物は、常法により精製され得る。例えば、必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで一般的な抽出溶剤、例えば酢酸エチル、クロロホルム、メタノール等の有機溶剤で抽出する。次いで、有機溶剤を減圧下で除去し、そして減圧蒸留、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、または吸着性樹脂等の処理を行うことにより精製され得る。
【0045】
シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質
本発明におけるシトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質は、モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質である。好ましくは、本発明におけるCYP154に属するタンパク質は、ステロイド骨格のD環16α位に選択的に一酸素原子を添加するモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質である。
前記CYP154に属するタンパク質としては、例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces) 属、ノカルディア(Nocardia)属、サーモビフィーダ(Thermobifida)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属等に属する細菌が生産するCYP154タンパク質が挙げられる。
【0046】
具体的には、例えば、ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株由来のCYP154(CYP154; DNA配列は、NCBIにおいて、アクセッション番号AP009493で登録されている;CYP154 のアミノ酸配列を、配列番号1に示す)、ノカルディア フランシニカ(Nocardia farcinica)IFM 10152株由来のCYP154H(DNA配列は、NCBIにおいて、アクセッション番号AP006618で登録されている)、ストレプトマイセス ロゼオスポラス(Streptomyces roseosporus)NRRL 15998株由来のCYP154H (DNA配列は、NCBIにおいて、アクセッション番号ZP_04697453で登録されている)等が好適に使用される。
【0047】
中でも、本発明におけるCYP154タンパク質としては、(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。また、(b)配列番号1のアミノ酸配列において1もしくは複数個(複数個とは、例えば約2〜20個、好ましくは約2〜10個、より好ましくは約2〜7個、さらに好ましくは約2〜5個、特に好ましくは約2〜3個、最も好ましくは約2個、以下同様である。)のアミノ酸配列が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドも好ましく使用できる。
【0048】
配列番号1のポリペプチドは、ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株由来のCYP154であり、ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株の培養物から単離することができる。また、配列番号1に基づき化学合成することもできる。
【0049】
(a)のポリペプチドに基づき(b)のポリペプチドを得る方法について述べれば、生物学的機能を喪失しない改変は、例えば、得られるタンパク質の構造保持の観点から、極性、電荷、可溶性、親水性/疎水性等の点で、置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンは非極性アミノ酸に分類され;セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンは極性アミノ酸に分類され;フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンは芳香族側鎖を有するアミノ酸に分類され;リジン、アルギニン、ヒスチジンは塩基性アミノ酸に分類され;アスパラギン酸、グルタミン酸は酸性アミノ酸に分類される。従って、同じ群のアミノ酸から選択して置換することができる。
【0050】
モノオキシゲナーゼ活性は、酸素分子を還元して1分子の水を作るとともに、残りの酸素原子を様々な低分子有機化合物に導入して、酸化生成物に変換する反応を触媒する活性を意味する。
【0051】
本明細書中、シトクロムP450として機能するポリペプチドとは、該ポリペプチドに溶液中で還元状態で一酸化炭素を通気すると吸収スペクトルが変化し450 nmに極大をもつ差スペクトル(CO差スペクトル)が現れることを意味する。また、本発明におけるシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドとは、好ましくはステロイド骨格のD環16α位に選択的に一酸素原子を添加するモノオキシゲナーゼ活性を有するものであるが、より好ましくは、該ポリペプチドと共に後述する電子伝達タンパク質が存在する場合に、ステロイド骨格のD環16α位に一酸素原子を添加するモノオキシゲナーゼ活性を発揮するものである。
【0052】
また、CYP154タンパク質を含む融合型タンパク質としては、例えば、CYP154タンパク質と電子伝達タンパク質(レドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質)との融合型タンパク質や分泌シグナルとの融合型タンパク質が挙げられるが、CYP154タンパク質と電子伝達タンパク質との融合型タンパク質が好ましい。このようなタンパク質として、代表的には、CYP154タンパク質と、シトクロムP450モノオキシゲナーゼに含まれる還元酵素ペプチド(電子伝達タンパク質)またはそれと同等の還元酵素活性を有するペプチドとの融合型タンパク質が挙げられる。この融合型タンパク質は、具体的には、CYP154タンパク質と、フェレドキシンレダクターゼおよびフェレドキシンの機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質が好ましい。シトクロムP450モノオキシゲナーゼに含まれる還元酵素ペプチドと同等の還元酵素活性を有するとは、該還元酵素ペプチドが有する還元酵素活性と機能的に同等の活性を有することを意味する。
【0053】
中でも、電子伝達タンパク質として、ロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド(ドメイン)またはそれと同等の還元酵素活性を有するペプチドがより好ましい。
すなわちCYP154タンパク質を含む融合型タンパク質としては、CYP154タンパク質と、電子伝達タンパク質であるロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド(ドメイン)またはそれと同等の還元酵素活性を有するペプチドとの融合型タンパク質が好ましい。ロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド(ドメイン)は、(c)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。本発明においては、また、ロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチドと同等の還元酵素活性を有するペプチドとして、(d)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するポリペプチドも好ましく用いることができる。ポリペプチドが還元酵素活性を有することは、基質が知られた既知のP450と該ポリペプチドの融合型タンパク質を作り、実際に反応生成物が生じるかどうかを確かめることで確認することができる。
【0054】
配列番号2のポリペプチドは、ロドコッカス属NCIMB 9784株の培養物から単離することにより得られる。また、化学合成によっても得られる。例えば、(c)のポリペプチドの生物活性を保持しつつ配列を改変して(d)のポリペプチドを得る方法は、前述した(a)のポリペプチドに基づき(b)のポリペプチドを得る方法と同様である。
【0055】
CYP154タンパク質と還元酵素ペプチドとの間には、リンカーペプチドを介在させることができる。通常は、CYP154タンパク質のC末端側にリンカーペプチドを介して還元酵素ペプチドが結合していればよい。リンカーペプチドの長さは、CYP154タンパク質と還元酵素ペプチドとで効率良く反応を進める上で、約6〜60アミノ酸とすることが好ましく、より好ましくは14〜40アミノ酸前後とする。リンカーペプチドの配列は、特に限定されないが、例えば、VLHRHQPVTIGEPAAR(配列番号5)等が好ましい。
【0056】
これらのモノオキシゲナーゼCYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質は、自然界に存在する微生物等から抽出しても良いし、アミノ酸配列に基づき化学合成してもよい。前記融合型タンパク質は、通常、遺伝子工学的手法により人工的に作製される。また、後述する本発明の形質転換体から単離、精製しても良い。精製方法も特に限定されるものではなく、公知の方法で大腸菌の形質転換体等から抽出液を調製し、この抽出液を公知の方法、例えばカラム等を用いて精製すればよい。
【0057】
組換えベクター
CYP154タンパク質またはそれを含む融合型タンパク質を生産する細胞は、これらをコードするDNAを含む組換えベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体であることが好ましい。すなわち本発明においては、CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有するステロイド化合物とを共存させることにより、CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有するステロイド化合物に作用させることが好ましい。このようにCYP154タンパク質を高発現する形質転換体を用いることにより、効率よく反応を行うことができる。
【0058】
上記組換えベクターは、適当なベクターDNAに、本発明におけるモノオキシゲナーゼ活性を有するCYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をコードするDNAを公知の遺伝子工学的手法を用いて連結することにより得ることができる。ベクターとしては、宿主中で複製可能なもので、宿主中で目的タンパク質を発現できるものであれば特に限定されず、公知のベクターを宿主に応じて広い範囲から選択することができる。例えば、ファージ、ファージミドベクター、プラスミドベクター等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌(エシェリキア・コリ)由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルス、トガウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0059】
細菌細胞は生育が容易で反応を行い易いため、細菌由来のベクターが好ましく、大腸菌由来のベクターがより好ましい。大腸菌由来のベクターとしては、pUC系ベクター、pTTQベクターやpETベクターが好ましい。中でも、pETベクターが好ましい
【0060】
形質転換体においてCYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質を高発現させるためには、プロモーターおよび翻訳シグナルの選択が重要である。プロモーターは、宿主中で機能できるものであればよいが、例えば、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなどが挙げられる。中でも、lacプロモーターやT7プロモーターを用いることにより、CYP154タンパク質を高発現させることができる。より好ましくは、T7プロモーターを用いる。翻訳シグナルも宿主中で機能できるものであればいずれを用いてもよいが、例えば、pUC系ベクター(LacZ)の翻訳シグナル、pET系ベクターの翻訳シグナルなどが挙げられる。中でも、CYP154タンパク質を高発現させることができる点で、pET系ベクターの翻訳シグナルが好ましい。
【0061】
組換えベクターで最も好ましいのは、例えば、モノオキシゲナーゼ活性を有するCYP154タンパク質に属するタンパク質をコードするDNAの3’末端に、リンカーを介して、ロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFの還元酵素ペプチド(ドメイン)またはこれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドをコードするDNAを連結した融合型タンパク質発現カセットを、T7プロモーターとpET系ベクターのシグナルとを利用するようにpET系ベクターに挿入したCYP154遺伝子機能発現用プラスミドである。
【0062】
CYP154に属するタンパク質をコードするDNAとしては、(e)配列番号3の塩基配列からなるDNA、(f)配列番号3の塩基配列からなるDNA(配列番号3のDNA)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドをコードするDNA、(g)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸配列が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドをコードするDNA等が好ましい。また、ロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFの還元酵素ペプチド(ドメイン)またはこれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドをコードするDNAとしては、(h)配列番号4の塩基配列からなるDNA、(i)配列番号4の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA、(j)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA等が好ましい。
配列番号3の塩基配列は、配列番号1のポリペプチドをコードするDNA配列であり、配列番号4の塩基配列は、配列番号2のポリペプチドをコードするDNA配列である。
【0063】
配列番号3の塩基配列からなるDNAは、例えば、ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株のゲノムDNAライブラリーから、配列番号3に基づき設計したプローブを用いたハイブリダイゼーションや、配列番号3に基づき設計したプライマーを用いて、ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株のゲノムDNAを鋳型としたPCRなどにより得ることが出来る。また、化学合成によっても得られる。配列番号4の塩基配列からなるDNAは、例えばロドコッカス属細菌のゲノムDNAまたはそのライブラリーを用いて、配列番号3のDNAの場合と同様にして得ることができる。また化学合成することもできる。また、(e)のDNAの改変により(f)または(g)の遺伝子を得る方法、および(h)のDNAの改変により(i)または(j)の遺伝子を得る方法としては、例えば、(e)または(h)のDNA配列を基に化学合成する方法、(e)または(h)のDNAにγ-線を照射する方法、(e)または(h)のDNAを鋳型として用いたエラープローンPCRを行なう方法等の一般的な方法が挙げられる。
【0064】
CYP154タンパク質をコードする上記(e)〜(g)のいずれかのDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする上記(h)〜(j)のいずれかのDNAを連結した融合型タンパク質発現カセットを、T7プロモーターとpET系ベクターの翻訳シグナルを利用するようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターは、本発明における好ましい実施態様の1つである。
【0065】
本発明において、あるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrookら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年)に記載の方法等によって得ることができる。本発明において「ストリンジェント」な条件としては、6×SSC (standard saline citrate; 1×SSC=0.15 M NaCl, 0.015 M Sodium citrate)、0.5% SDSおよび50% ホルムアミドの溶液中において42℃で一夜加温した後、0.1×SSC、0.5% SDSの溶液中において68℃で30分間洗浄した場合にそのポリヌクレオチドから脱離しない条件が挙げられる。より好ましい「ストリンジェントな条件」とは、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の相同性が配列間に存在するときにハイブリダイゼーションが起こることを意味する。このような「ストリンジェントな条件」については、上記Molecular Cloning、特に11.45節”Conditions for Hybridization of Oligonucleotide Probes”に記載されており、ここに記載の条件を使用し得る。
【0066】
なお、本発明において、あるDNA、例えば、配列番号3の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAは、配列番号3の塩基配列からなるDNAの塩基配列と約90%以上の配列相同性を有することが好ましく、約95%以上の配列相同性を有することがより好ましく、約98%以上の配列相同性を有することが特に好ましい。
【0067】
形質転換体
本発明における形質転換体は、CYP154タンパク質と、電子伝達タンパク質との融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入したものであることが好ましい。形質転換体は、CYP154タンパク質をコードする上記(e)〜(g)のいずれかのDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする上記(h)〜(j)のいずれかのDNAを連結した融合型タンパク質をコードする遺伝子を、上述したベクターに挿入した組換えプラスミドを宿主に導入してなるものであることがより好ましい。CYP154タンパク質をコードする遺伝子は、より好ましくは上記(e)の遺伝子である。還元酵素ペプチドをコードする遺伝子は、より好ましくは上記(h)の遺伝子である。また、好ましい態様においては、CYP154に属するタンパク質をコードする上記(e)〜(g)のいずれかのDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする上記(h)〜(j)のいずれかのDNAを連結した融合型タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌ベクターに挿入した組換えプラスミドを大腸菌に導入してなる形質転換体を用いる。
組換えプラスミドとしては、上記(e)〜(g)のいずれかのDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする上記(h)〜(j)のいずれかのDNAを連結した融合型タンパク質発現カセットを、T7プロモーターとpET系ベクターの翻訳シグナルを利用するようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターが特に好ましい。
【0068】
上記形質転換体は、上記の組換えベクターを宿主中に導入することにより得ることができる。組換えベクターの導入方法としては、特に限定されないが、細菌に導入する方法であれば、例えば、カルシウムイオンを用いる方法(Cohen et a1.: Proc. Nat1. Acad. Sci., USA, 69, 2110, 1972)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、酵母へ導入する方法であれば、例えば、エレクトロポレーション法(Becker,D.M. et a1.: Methods Enzymo1., 194,182, 1990)、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et a1.: Proc. Nat1. Acad. Sci., USA, 75, 1929, 1978)、酢酸リチウム法(Itoh, H.: J .Bacterio1.,153, 163, 983)等が挙げられる。また、動物細胞へ導入する方法であれば、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が、また、昆虫細胞へ導入する方法であれば、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0069】
宿主はベクターに合わせて選択すればよい。動物、酵母等の真核細胞でも、放線菌、真正細菌(eubacteria)等の原核細胞でもよいが、生育が簡単で早く変換反応を行い易い点で、真正細菌細胞が好ましい。真正細菌細胞としては、例えば、大腸菌 (エシェリキア・コリ;Escherichia coli)などのエシェリキア属、バチルス・ズブチリス (Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ (Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌などが挙げられるが、中でも、大腸菌が好ましい。
【0070】
得られた形質転換体と、基質である置換基を有するステロイド化合物とを、上述したように反応液中に共存させることにより、該形質転換体が生産するCYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質が該置換基を有するステロイド化合物に作用し、目的物である16α位が水酸化されたステロイド化合物を製造することができる。
【0071】
一例として、大腸菌に上記遺伝子を導入してなる形質転換体であれば、例えば、まず好気条件で該大腸菌形質転換体を培養して菌体濃度を高めることが好ましい。好気条件で培養することにより、短時間で高微生物濃度まで培養することができる。培養するための手段としては公知の方法が用いられる。次いで基質である置換基を有するステロイド化合物と、該大腸菌形質転換体とを共存させて、緩衝液中等で反応を行うことが好ましい。
該大腸菌形質転換体において、導入した遺伝子の誘導発現を行う場合には、通常、菌体濃度を高めた後、IPTG等を添加して誘導発現を行うことが好ましい。また、大腸菌を宿主として、ヘムタンパク質であるP450、具体的にはCYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質を誘導発現する場合には、5−アミノレブリン酸(5-Aminolevulinic Acid)および塩化鉄(II)(FeCl2)、硫酸鉄(II)(FeSO4)、硫酸アンモニウム鉄(Fe(NH4)2(SO4)2)などの2価の鉄の塩を各々終濃度10〜300 mM程度にて培地又は反応液に添加することが好ましい。誘導発現は、基質存在下での培養と同時に行ってもよい。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
(1)ストレプトマイセス属由来P450の系統樹解析
ゲノム配列情報が公開されている5種のストレプトマイセス属 Streptomyces avermitilis (http://www.ls.kitasato-u.ac.jp/)、 Streptomyces griseus (http://streptomyces.nih.go.jp/griseus/)、 Streptomyces coelicolor A3(2) (http://www.sanger.ac.uk/resources/downloads/bacteria/streptomyces-coelicolor.html、Streptomyces scabiei (http://www.sanger.ac.uk/resources/downloads/bacteria/streptomyces-scabies.html、 Streptomyces bingchenggensis BCW-1 (http://gib.genes.nig.ac.jp/single/main.php?spid=Sbin_BCW1)のゲノムに存在するP450遺伝子のアミノ酸配列情報を検索および収集した。得られたアミノ酸配列情報について、Blast (http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を使用して相同性検索し、それぞれのCYP154をサブファミリーに分類した。
【0074】
表1に系統解析結果を示す。表1から、例えば、Streptomyces griseus IFO13350は、3種のCYP154を有する。表1に示した結果から、CYP154ファミリー群はストレプトマイセス属において主要な分子種として広く分布していることが判明した。
【0075】
【表1】

【0076】
(2)CYP154の系統学的位置
P450 Engineering Database (http://www.cyped.uni-stuttgart.de/)から公開されている以下の細菌のゲノムに存在するCYP154のアミノ酸配列情報を検索および収集した。得られたアミノ酸配列情報について、Blast (http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を使用して相同性検索した。
【0077】
Streptomyces griseus NBRC13350
Streptomyces albus J1074
Streptomyces roseosporus NPRL 15998
Streptomyces flavogriseus ATCC 33331
Streptomyces sp. Mg1
Streptomyces ghanaensis ATCC 14672
Streptomyces griseoflavus Tu4000
Streptomyces sp. e14
Streptomyces coelicolor A3(2)
Streptomyces lividans TK24
Streptomyces ambofaciens ATCC 23877
Streptomyces avermitilis MA-4680
Nocardia farcinica IFM 10152
Streptomyces hygroscopicus ATCC 53653
Nocardiopsis dassonvillei DSM 43111
Thermobifida fusca YX
Catenulispora acidiphila DMS 44928
Streptomyces clavuligerus ATCC 27064
Streptomyces violaceusniger Tu 4113
Streptomyces hygroscopicus ATCC 53653
Streptomyces bingchenggensis BCW-1
Streptomyces flaveolus FJ 809786
Thermomonospora curvata DSM 43183
Streptomyces ghanaensis ATCC 14672
Frankia sp. EUN1f
Streptomyces viridochromogenes DSM 40736
Streptomyces scabiei 87.22
Streptomyces pristinaespiralis ATCC25486
Streptomyces fradiae AF 145049
Streptomyces rishinensis EU 147298
Streptomyces rochei pSLA2-L
Streptomyces tsukubaensis GU 067679
Streptomyces peucetius ATCC 27952
Streptomyces roseum DSM 43021
Salinispora tropica CNB-440
Salinispora arenicola CNS-205
【0078】
図2および図3に系統解析結果を示す。図2および図3中の数値は、CYP154の相同性を表す。図2および図3に示した結果から、CYP154ファミリー群はストレプトマイセス属を中心に広く分布していることが判明した。
【0079】
[実施例2]
ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154遺伝子の大腸菌での機能発現用プラスミドの作製
次に、ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154遺伝子の機能発現用プラスミドpRED-CYP154の作製を行った。
本発明者らは、上記でも述べたように大腸菌でのP450遺伝子の機能発現系を構築した(特許文献1および非特許文献13)。本研究で機能解析を実施するストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154遺伝子の機能発現解析に、このpREDベクターを利用した。
【0080】
(1) ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154遺伝子の塩基配列確認用プラスドの作製とPCR増幅したCYP154遺伝子の塩基配列の確認
塩基配列の確認の為に、α相補性を利用した青白選抜が可能である大腸菌用プラスミドベクターpHSG396(クロラムフェニコール耐性;TaKaRa Bio 社製)を材料として用いた。その後のP450遺伝子のサブクローニング操作が容易となるように、マルチクローニング部位を新たに付与し、汎用性を高めたpHSG396NMSベクターを構築した。その後、このpHSG396NMSに、ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株のゲノムからPCR法により増幅したCYP154遺伝子(終止コドンは除いている)を挿入し、pHSG396NMS-CYP154プラスミドを作製し、CYP154遺伝子の塩基配列の確認を行った。pHSG396NMSに連結(挿入)したCYP154遺伝子の塩基配列は、配列番号3で示される塩基配列から終始コドン(TAG)を除去したもの(1,251 bp)である。また、開始コドンのGTGを大腸菌で利用されやすい開始コドンであるATGへ改変した。
【0081】
1) P450遺伝子の塩基配列確認用プラスミドpHSG396NMSプラスミドベクターの作製
pHSG396プラスミドベクター(TakaraBio社製)をHindIIIとHincIIとで二重消化した後、アガロース電気泳動をかけてDNA断片をゲルから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲル抽出を行った(2,218 bp)。次にHindIII-NdeI-NotI-MfeI(MunI)-SpeI-HincII部位を持つようにデザインした合成DNAを二重鎖になるようにアニーリングしたもの(0.5 μg)(配列は図4に示す)をHindIII-HincII切断したpHSG396ベクター(0.2 μg)と混合し、Ligation high溶液(東洋紡社製)と1:1の量比で混合し、16℃、45分間のライゲーション反応を行い、合成二本鎖DNAをpHSG396ベクターに連結した。その後、氷水中で大腸菌コンピテントセル(ECOS Competent E. coli DH5α(ニッポンジーン社製))にライゲーション反応液を1/10量混合し、5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することで形質転換した。次に、SOC培地 (2% トリプトン、0.5% yeast extract、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、10 mM MgCl2、10 mM MgSO4、20 mM グルコース)を菌体溶液の2倍量加え、37℃、30分間インキュベートした。その後、30 μg/mlのクロラムフェニコールを含み、30 μlの100 mM IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)と30 μlの20%のX-Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド)-DMSO (Dimethyl sulfoxide)溶液を塗布したLB培地プレート (1% Bacto-tryptone、0.5% Bacto-yeast extract、1% NaCl、0.02% 5 N NaOH、1.5%アガロース)にインキュベートした菌体溶液を塗布し、37℃で16時間培養した。16時間の培養後、プラスミドを抽出するために、白色コロニーを採り、クロラムフェニコールを30 μg/ml含むLB培地 (1% Bacto-tryptone、0.5% Bacto-yeast extract、1% NaCl、0.02% 5 N NaOH)へ移植し、37℃で16時間、170 rpm (恒温振盪培養器)の条件下、振盪培養した。培養した形質転換大腸菌から、QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN社製)を用いてプラスミドの抽出を行った。抽出したプラスミドを、マルチクローニングサイトの外側の塩基配列から設計したプライマーを使用し、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems 社製)を用いてシークエンス反応に供した。シークエンス反応条件は、1 μlのReady reaction premix、3.5 μlの5×BigDye sequencing Buffer、プライマー (3.5 μlのフォワードプライマー:pHSG396NMS-Fo (1μmol/μl)もしくは、3.5 μlのリバースプライマー:pHSG396NMS-Rv (1 μmol/μl))、200 ngのプラスミドDNA、および滅菌蒸留水を20 μlとなるように混合し、シークエンス反応として96℃で1分間加熱した後、96℃で10秒間、50℃で5 秒間、および60℃で4分間を30サイクル行った。その後、model 3730 DNA analyzer (Applied Biosystems 社製)を使用して、インサートの塩基配列を確認し、P450遺伝子の塩基配列確認用プラスミドをpHSG396NMS (2,347 bp)とした。
【0082】
<シークエンス用プライマーの塩基配列>
シークエンス確認に使用したプライマーの塩基配列は以下の通りである。
pHSG396NMS-Fo : 5’- AGTCACGACGTTGTA -3’(配列番号6)
pHSG396NMS-Rv : 5’- CAGGAAACAGCTATGAC -3’(配列番号7)
【0083】
<pHSG396挿入塩基配列>
前述のpHSG396に挿入したHindIII-NdeI-NotI-MfeI(MunI)-SpeI-HincIIの合成二本鎖DNAは、図4に示す通りである。構築したpHSG396NMSの塩基配列を、配列番号8に示す。なお、図4の上段に示される配列は、配列番号8の塩基配列中、1187番目〜1219番目に挿入されていた。
【0084】
2) ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154遺伝子の塩基配列確認用プラスミドpHSG396NMS-CYP154の作製
<ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株のゲノムDNAの抽出>
ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株菌体(約1 g)に300 μlのSTE Buffer(100 mM NaCl、10 mM Tris・HCl (pH8.0)、1 mM EDTA (pH8.0))を加え、懸濁後、4℃、15分間、8,000 rpm遠心分離し、上清を除いた。菌体を300 μlのSTE Bufferに再懸濁し、68℃、15分間のインキュベートにより、DNaseを失活させた。4℃、15分間、8,000 rpm遠心分離し、上清を除いた。菌体にリゾチームを終濃度5 mg/ml、および60 μlのRNase A (10 mg/ml)を加えた600 μlの溶菌 Buffer(50 mM グルコース、25 mM Tris・HCl (pH8.0)、10 mM EDTA (pH8.0))を加え、再懸濁し、37℃、30分間保温した。12 μlのProteinase K (20 mg/ml) (TaKaRa Bio 社製)を加え、混和後、さらに37℃で10分間保温した。6 mgのN-Lauroylsarcosine・Naを加え、混和後、37℃、16時間保温し、菌体を溶菌させた。600 μlのフェノール/クロロホルム(TE Buffer (10 mM Tris・HCl (pH8.0)、1 mM EDTA (pH8.0))飽和フェノール:(クロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)=1:1)を加え、5分間混和後、10℃、15分間、9,000 rpm遠心分離した。上層を回収し、400 μlのフェノール/クロロホルムを加え、5分間混和後、10℃、15 分間、9,000 rpm遠心分離した。再度、上層を回収し、400 μlのフェノール/クロロホルムを加え、5分間混和後、10℃、15 分間、9,000 rpm遠心分離した。上層を回収し、1/10量の3 M酢酸ナトリウム、1/10量の125 mM EDTA、および3倍量の100%エタノールを加え、4℃、20分間、10,000 rpm遠心分離し、上清を除いた。70%エタノールを500 μl加え、4℃、10分間、10,000 rpm遠心分離し、上清をよく除いた。200 μlのTE Bufferを加え、沈殿したゲノムDNAを4℃で24時間溶解させた。
【0085】
<pHSG396NMS-CYP154の作製>
pHSG396NMSプラスミドベクターを、制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、4時間、2重消化した。その後、1.5%アガロース電気泳動を行い、NdeIとEcoRIとで切断されたpHSG396NMSを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。このDNAをベクターDNAとした。
【0086】
次に、PCR法を用いて、ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154遺伝子を増幅した。PCR増幅には、pHSG396NMSプラスミドベクターへの連結を行うためにCYP154遺伝子のN末端側にNde I配列、C末端側にEcoR I配列を付与するように設計したプライマーを使用した。また、後に述べるP450還元酵素とのキメラタンパク質としての発現のために、C末端側のプライマーは、終止コドンを除くように設計した。PCR増幅反応は、25 μlの2×PrimeSTAR MaxPremix (TaKaRa Bio 社製)、1 μlのフォワードプライマー: SGR1085_F (10 μmol/μl)、1 μlのリバースプライマー:SGR1085_R (10 μmol/μl)、0.5 μlのストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株ゲノムDNA (25 ng)、2.5 μlのDMSO(ジメチルスルホキシド)、および20 μlの滅菌蒸留水を混合し、PCR反応として98℃で2分間加熱した後、98℃で10秒間、55℃で10秒間、および72℃で15秒間を5サイクル行った。その後、98℃で10秒間、62℃で5秒間、および72℃で15秒間を30サイクル行い、CYP154遺伝子を増幅した。PCR増幅反応の終了後、反応液2 μlを用いて1.5%アガロース電気泳動を行い、CYP154遺伝子(1,266 bp)の大きさのPCR増幅産物が得られたことを確認した。CYP154遺伝子の増幅を確認後、MinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いてPCR増幅産物を精製した。精製したPCR増幅産物は、1.5%アガロース電気泳動を行い、CYP154遺伝子の大きさのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。抽出したPCR増幅産物を、制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、4時間、2重消化した。その後、1.5%アガロース電気泳動を行い、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。このPCR増幅産物をインサートDNAとした。
【0087】
次いで、ベクターDNAとインサートDNAとをモル比で3:1の割合で混合し、Ligation Convenience Kit (ニッポンジーン社製)を等量加えて混合後、16℃、15分間ライゲーションした。氷水中で2.5 μlのライゲーション反応液を25 μlの大腸菌コンピテントセル (ECOS Competent E.coli DH5α)へ混合した。これを5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することでコンピテントセルを形質転換した。その後、得られた形質転換体に25 μlのSOC培地を加え、37℃で、30分間放置した後、30 μg/mlのクロラムフェニコールを含み、30 μlの100 mM IPTGと30 μlの20%のX-Gal-DMSO溶液とを塗布したLBプレートに塗り広げた。その後、37℃、16時間培養し、コロニーを形成させた。次に、生じた白色コロニーを採り、コロニーダイレクトPCR法を用いて、プラスミドのインサートを確認した。コロニーダイレクトPCRは、0.125 μlのSpeedSTAR HS DNA polymelase (TaKaRa Bio 社製)、2.5 μlの10×Fast Buffer I (TaKaRa Bio 社製)、0.7 μlのフォワードプライマー:SGR1085_F (10 pmol/μl)、0.7 μlのリバースプライマー:SGR1085_R (10 pmol/μl)、1.25 μlのDMSO、2 μlのdNTP Mixture (2.5 mM each)、および17.725 μlの滅菌蒸留水のPCR反応溶液へコロニーを少量混合し、98℃で5秒間、64℃で10秒間、および72℃で10秒間のPCR反応を30サイクル繰り返した。反応後、PCR反応液の内、3 μlを1.5%アガロース電気泳動することで、インサートDNAが挿入されているコロニーを選び出した。インサートを確認したコロニーを、次に、30 μg/mlのクロラムフェニコールを含む10 mlのLB培地に植菌し、37℃で16時間、170 rpm (恒温振盪培養器)の条件下、振盪培養した。培養した形質転換大腸菌から、QIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドの抽出を行った。抽出したプラスミドは、マルチクローニングサイトの外側の塩基配列から設計したプライマーを使用し、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを用いてシークエンス反応を行い、インサートDNAの塩基配列を確認した。シークエンス条件は、CYP154遺伝子のGC含有量が高いことから、DMSOを反応液に5%添加し、pHSG396NMSの作製と同様にシークエンス反応を行った。なお、CYP154遺伝子の挿入が確認されたプラスミドをpHSG396NMS-CYP154とした。
【0088】
CYP154遺伝子のPCR増幅に使用したプライマーの塩基配列>
前述のプライマーの塩基配列は以下の通りである。
SGR1085_F: 5’-TACCATATGAACTGCCCGCACACTGC-3’(配列番号9)
SGR1085_R: 5’-TACGAATTCTCAGCCCAGGAGGACCG-3’(配列番号10)
CYP154のアミノ酸配列 (417アミノ酸)を、配列番号1に示す。
【0089】
(2) ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154遺伝子の機能発現用プラスミドpRED-CYP154の作製
pREDベクター(配列番号11)を制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、3時間、2重消化した。処理後は、0.8%アガロース電気泳動を行い、バンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。これを酵素機能発現用ベクターDNAとした。プラスミドpHSG396NMS-CYP154を制限酵素NdeIとEcoRIとで37℃、3時間、2重消化した。制限酵素処理後、0.8% アガロース電気泳動に供し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてゲル抽出を行った。これをインサートDNAとした。次いで、ベクターDNAとインサートDNAとをモル比で3:1の割合で混合し、Ligation Convenience Kitを等量加えて混合後、16℃、15分間ライゲーションした。氷水中で2.5 μlのライゲーション反応液を25 μlの大腸菌コンピテントセル (ECOS Competent E. coli DH5α)へ加え、5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することで形質転換した。その後、SOC培地を25 μl加え、100 μg/mlのアンピシリンを含むLBプレートへ塗り広げた。これを、37℃、16時間培養し、コロニーを形成させた。次に、生じたコロニーを採り、コロニーダイレクトPCR法を用いて、プラスミドへのインサート配列の挿入を確認した。コロニーダイレクトPCRの条件は、生じたコロニーを0.125 μlのSpeedSTAR HS DNA polymelase、2.5 μlの10×Fast Buffer I、0.7 μlのフォワードプライマー:SGR1085_F (10 pmol/μl)、0.7 μlのリバースプライマー:SGR1085_R (10 pmol/μl)、1.25 μlのDMSO、2 μlのdNTP Mixture (2.5 mM each)、および17.725 μlの滅菌蒸留水に少量混合し、PCR反応として98℃で5秒間、64℃で10秒間、および72 ℃で10秒間を30サイクル行った。反応後、PCR反応液を3 μl、1.5%アガロース電気泳動することで、インサート配列の挿入を確認した。その後、プラスミドを抽出するために、インサートを確認したコロニーを100 μg/mlのアンピシリンを含む10 mlのLB培地に植菌し、37℃で16時間振盪培養した。培養した形質転換大腸菌は、QIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出した。目的とするCYP154機能発現用プラスミド (CYP154-Redと命名)は、7,631 bpの大きさであり、インサートチェックの結果、挿入したCYP154遺伝子の1,251 bpの増幅を確認し、CYP154-Redの作製を確認した。
【0090】
[実施例3]
基質スクリーニング
ストレプトマイセス グリセウス NBRC 13350株由来のCYP154は、これまでに機能解析された例がなく、また、ストレプトマイセス属の代謝経路における機能も不明であった。そのため、基質のスクリーニングを行う必要があった。本発明者らは、効率的に基質スクリーニングしCYP154の触媒機能を見つけるために、スクリーニング用有機低分子化合物として種々の基質候補物質を含む96穴プレートを作製した。その中から変換される化合物を探索し、さらに、変換した基質化合物についてはその類似体の変換試験を実施することで、CYP154の触媒する反応、触媒可能な基質の同定を行った。
【0091】
(1) BLR(DE3)株の大腸菌へのCYP154-Redの導入と導入遺伝子の機能発現の確認
基質スクリーニングの前に、実施例2で作製したCYP154-Redプラスミドを大腸菌BLR(DE3)で発現させ、これにコードされるCYP154とP450RhF還元酵素末端 (reductase domain)との融合型タンパク質 (以後CYP154-Redと呼ぶ)の活性型が作られるかどうかを確認した。以下にその詳細を示す。P450RhFは、ロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼである。
【0092】
0.5 μlのCYP154-Redのプラスミド (約200 ng/μl)を5 μlのBLR(DE3)大腸菌コンピテントセル(Novagen社製)に加え、氷水中で30分間放置した。その後、42℃、45 秒間加熱し、氷水中で3分間冷却し、25 μl のSOC培地を形質転換溶液に加えた。得られた形質転換体を含む培地を、100 μg/mlのカルベニシリンを含むLBプレートへ塗り広げた後、37℃、16 時間培養した。カルベニシリン(終濃度100 μg/ml)を含む2×YT培地5 mlを加えた50 ml試験管へ生じたコロニー各3個を移植し、37℃、4時間、300 rpm (レシプロ振盪培養器)の条件下、振盪培養し、前培養液とした。続いて、カルベニシリン(終濃度100 μg/ml)、5-Aminolevulinic Acid (5-ALA) (終濃度80 μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2 (終濃度0.1 mM)を含む2×YT培地 50 mlを3本の500 mlバッフル付三角フラスコに調製し、前培養液を50 μl移植した。OD600が約0.8になるまで37℃、3時間、150 rpm(ロータリー培養器)の条件で培養した。その後、IPTG (終濃度0.05 mM)を加えて20℃、150 rpm(ロータリー培養器)の条件で21時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。
【0093】
培養終了後、OD600を測定し、50 ml遠沈管に培養液を移し、5,000 rpm、4℃、20分間遠心分離した。培養上清を除去後、菌体湿重量を測定し、本培養液の1/5量のリン酸緩衝液(50 mMリン酸ナトリウム緩衝液、グリセロール (終濃度10%)、pH7.2)を菌体に加え、vortexで完全に菌体を再懸濁した。3本の15 mlファルコンチューブに再懸濁液を各サンプルにつき2 ml分注し、100 μlのBug Buster 10×Protein Extraction Reagent (Novagen 社製)、1 μlのBenzonase Nuclease (Novagen 社製)、およびLysozyme (終濃度200 μg/ml)を加え、室温で20分間、緩やかに回転混和して菌体を溶菌破砕した。15,000 rpm、4℃、20分間遠心分離し、上清の可溶性分画を回収した。回収した可溶性分画にジチオネイトを少量加え、氷水中で5分間インキュベートした後、半量1.5 mlエッペンチューブに移した。分光光度計を用いて吸収波長400 nmから500 nmまで0.5 nm間隔で一酸化炭素をバブリングしていない試料でブランクを測定した後、一酸化炭素をバブリングしたもう一方の試料の吸光スペクトルを測定した(n=3)。
【0094】
3本の本培養液のOD600と菌体湿重量は、1本目がOD600=3.09、菌体湿重量=446.8 mg、2本目がOD600=3.03、菌体湿重量=446.1 mg、そして3本目はOD600=3.04、菌体湿重量=448.2 mgであった。CO差スペクトルの測定の結果、3サンプル共にヘムドメインにCOが結合すると確認されるP450に特有の約450 nmのソーレー帯が検出されたことから、活性型のCYP154融合型タンパク質が発現していることが確認された。また、Omura とSatoの方法(T. Omura and R. Sato, The carbon monoxide-binding pigment of liver microsomes. I. Evidence for its hemoprotein nature. J. Biol. Chem. 239: 2370-2378, 1964)に基づいてCO差スペクトルから算出した本培養液中のP450(CYP154)の濃度は、1本目が474.3 μg/L、2本目は651.1 μg/L、そして3本目は447.9 μg/Lであった。本培養液1 L中に約524.4 μgの活性型のCYP154融合型タンパク質が発現していることが判明した。
【0095】
(2) CYP154-Redを保持する大腸菌BLR(DE3)によるバイオコンバージョンの方法
基質スクリーニングにおいては、プラスミドCYP154-Redを導入した大腸菌BLR(DE3)株の懸濁液を、独自のスクリーニング用化合物基質が入ったプレートに加えて反応させ、その後、反応液から変換産物を抽出し、HPLC (高速液体クロマトグラフィー;High Performance Liquid Chromatography)-PDA (PhotoDiode Array Detector)分析を行うことにより基質全体のバイオコンバージョンのプロフィールを調べた。以下にその詳細を示す。
【0096】
(a) BLR(DE3)株の大腸菌へのCYP154-Redの導入
0.5 μlのCYP154-Redのプラスミド (約200 ng/μl)を5 μlの大腸菌BLR(DE3) 株コンピテントセルに加え、氷水中で30分間放置した。その後、42℃、45 秒間加熱し、氷水中で3分間冷却し、25 μl のSOC培地を形質転換溶液に加えた。得られた形質転換体を含む培地を、100 μg/mlのカルベニシリンを含むLBプレートへ塗り広げた後、37℃、16 時間培養した。100 μg/mlのカルベニシリン(終濃度100 μg/ml)を含む2×YT培地5 mlを加えた50 ml試験管へ生じたコロニー各3個を移植し、37℃、4時間、300 rpm (レシプロ振盪培養器)の条件下、振盪培養し、前培養液とした。続いて、カルベニシリン (終濃度100 μg/ml)、5-Aminolevulinic Acid (5-ALA) (終濃度80 μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2 (終濃度0.1 mM)を含む2×YT培地 50 mlを2本の500 mlバッフル付三角フラスコに調製し、前培養液を50 μl移植した。OD600が約0.8になるまで37℃、3時間、150 rpm (ロータリー培養器)の条件で培養した。その後、およびIPTG (終濃度0.05 mM)を加えて20℃、150 rpm (ロータリー培養器)の条件で21時間培養を続け、導入遺伝子を発現させ、本培養液とした。
【0097】
(b) 基質変換試験(バイオコンバージョン反応)
培養終了後、OD600を測定し、50 ml遠沈管に培養液を移し、5,000 rpm、4℃、20分間遠心分離した。培養上清を除去後、菌体湿重量を測定し、本培養液の1/5量のリン酸緩衝液(50 mMリン酸ナトリウム緩衝液、グリセロール (終濃度10%)、pH7.2)を菌体に加え、vortexで完全に菌体を再懸濁した。次に、96穴ディープウェルプレート (PP-MASTER BLOCK 2ML、128,0/85 MM 96WELL STERIL、Greiner bio-one社製)の各ウェルに5 μlの様々な100 mMの基質候補物質-DMSO溶液をそれぞれ加え、細胞懸濁液を各500 μl分注した。その後、シーリングマット (Flexible Sealing Mat for 2.2 ml Deep Well Plate、IWAKI社製)あるいはCO2透過シート(BREATHseal、Greiner bio-one社製)でウェルを密閉し、25℃、24時間、1,500 rpm(商品名MS 3 basic、IKA社製)の条件で変換試験を実施した。
【0098】
(c) 変換産物のHPLC-PDA分析
変換試験終了後、各ウェルの溶液を、飽和食塩水を200 μlと、酢酸エチルを500 μl加えた2.0 mlエッペンチューブへ全量ピペットアウトした。10分間vortexした後、15,000 rpm、25℃、15分間遠心分離を行い、酢酸エチル層を回収した。水層に再び酢酸エチルを500 μl加え、10分間vortexした後、15,000 rpm、25℃、15分間遠心分離を行い、酢酸エチル層を回収した。合併した酢酸エチル層は、減圧下濃縮した後、酢酸エチル200 μlに再溶解してHPLC分析試料とした。HPLC分析条件は以下の通りに実施した。
【0099】
HPLCシステム:Waters e2695 Separation Module (waters社製)
検出器:Waters2998 Photodiode array detector (PDA) 検出器 (waters社製)
カラム:Waters Xterra MS C18 5μm I.D.4.6 mm×100 mm (waters社製)
移動相:0-3 min: 5% CH3CN/H2O (0.1% TFA)
3-38 min: 5% CH3CN/H2O (0.1% TFA)
→100% CH3CN/H2O (0.1% TFA) (リニアグラジエント)
38-43 min: 100% CH3CN/H2O (0.1% TFA)
カラム温度:35℃
サンプル温度:20℃
流速:1 ml/min
検出波長域:PDA (200-450 nm)
分析試料:10 μl
変換率は、λmaxで抽出した基質、および変換産物各々のピーク面積値から、生成物と基質との合計面積に占める生成物の面積の割合として算出した。
【0100】
(3) CYP154-Redを保持する大腸菌BLR(DE3)によるバイオコンバージョン結果
HPLC-PDA分析の結果、1,4-アンドロスタジエン-3,17-ジオン (1,4-Androstadiene-3,17-dione)、11α-ヒドロキシプロゲステロン(11α-Hydroxyprogesterone)、1-デヒドロ-17α-メチルテストステロン(1-Dehydro-17α-methyltestosterone)、4-プレグネン-3,11,20-トリオン (4-Pregnane-3,11,20-trione)、アドレノステロン (Adrenosterone)、コルチコステロン(Corticosterone)、デヒドロエピアンドロステロン (Dehydroepiandrosterone)、デオキシコルチコステロン (Deoxycorticosterone)、メチルテストステロン(Methyltestosterone)、プレグネノロン(Pregnenolone)、プロゲステロン (Progesterone)、テストステロン (Testosterone)およびΔ4-アンドロステン-3,17-ジオン (Δ4-Androstene-3,17-dione)等の置換基を有するステロイド化合物についてバイオコンバージョン反応が進行することが明らかになった。バイオコンバージョン結果を表2に示す。一方、サーモビフィーダ フスカ(Thermobifida fusca)由来のCYP154H1が変換することができると報告されている(非特許文献18)エチルベンゼン (Ethylbenzene)、ノルマルプロピルベンゼン (n-Propylbenzene)、チオアニソール (Thioanisole)およびインドール (Indole)を用いてバイオコンバージョン反応を行ったが、反応は全く進行しなかった。この際、エチルベンゼン (Ethylbenzene)およびノルマルプロピルベンゼン (n-Propylbenzene)を用いた実験ではガスクロマトグラフィーを用いて検出をおこなった。
【0101】
【表2】

【0102】
[実施例4]
変換産物の構造解析
実施例3の基質スクリーニングにおいて変換が認められた一部の基質について、スケールアップした基質変換試験を行い、得られた変換産物について、MS (Mass Spectrometry、質量分析法)およびNMR (Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy、核磁気共鳴分光法)による構造解析を実施した。
【0103】
(1) スケールアップした基質変換試験(バイオコンバージョン反応)
CYP154-Redを導入した大腸菌BLR(DE3)株のコロニー3個をカルベニシリン (終濃度100 μg/ml)を含む2×YT培地5 mlを加えた50 mlガラス試験管に懸濁した。培養液はOD600が約0.8になるまで37℃、300 rpm、4 時間振盪培養 (レシプロ振盪培養器)し、前培養液とした。続いて、カルベニシリン (終濃度100μg/ml)、グリセロール (終濃度0.4%)、5-ALA (終濃度80 μg/ml)、Fe(NH4)2(SO4)2 (終濃度0.1 mM)を含むTB培地1 Lを加えた5 Lバッフル付三角フラスコを2本調製し、前培養液をそれぞれ1 ml移植した。OD600が約0.8になるまで37℃、150 rpmの条件で培養 (ロータリー培養器)した後、IPTG (終濃度0.05 mM)と10 μlの消泡剤SI (和光純薬工業社製)を加えて20℃、150 rpmで20時間培養を続け導入遺伝子を発現させた。培養終了後、500 ml遠沈管に培養液を移し、6,000 rpm、4℃、20分間遠心分離した。上清を除去後、400 mlのリン酸緩衝液(50 mMリン酸ナトリウム緩衝液、グリセロール (終濃度10%)、pH7.2)に菌体を再懸濁した。次に、菌体懸濁液を5 Lバッフル付三角フラスコに全量移し、DMSO溶解基質 (終濃度1 mM)を加え、変換試験液とした。変換試験液は、CO2透過シート(BREATHseal、Greiner bio-one社製)でフラスコの口をシールして25℃、48時間、150 rpmの条件下、変換試験を実施した。
【0104】
(2) 変換産物の構造解析法
(a) 変換産物の精製
変換試験液に200 mlの飽和食塩水を加えた後、酢酸エチルを600 ml加え、次いで、回転子とスターラーを用いて室温で20分間撹拌抽出した。有機溶媒耐性の遠沈管へ移し8,000 rpm、30℃、20分間遠心分離した。酢酸エチル層を回収した後、水層に等量の酢酸エチルを加え、再度同様に抽出、遠心分離、酢酸エチル層の回収を実施した。回収した酢酸エチル層を合併し無水硫酸ナトリウムで脱水後、シリカゲルカラムクロマトグラフ(I.D. 10×200 mm、Silica Gel 60 (Merck 社製))に供した後、減圧下濃縮して粗体を得た。粗体を分取HPLCに供し、変換産物を分取した。目的物を含む分画を、減圧にてアセトニトリルを留去した液を氷冷後、遠心分離(0℃、3500 rpm、15 min)し、上清を除去した。さらに、残渣に蒸留水を加え、氷冷後、遠心分離(0℃、3500 rpm、15 min)し、上清を除去する操作を3回繰り返し、得られた残渣を凍結乾燥して精製産物とした。分取HPLCは以下の条件で実施した。
【0105】
HPLCシステム:Waters 600 Separation Module (waters社製)
検出器:Waters996 Photodiode array detector (PDA) 検出器 (waters社製)
カラム:DOCOSIL-B I.D 20 mm×250 mm (センシュウ科学社製)+ DOCOSIL-B I.D 10 mm×30 mm (センシュウ科学社製)
移動相:0-5 min: 27% CH3CN/H2O (0.1% TFA)
5-35 min: 27% CH3CN/H2O (0.1% TFA)
→73% CH3CN/H2O (0.1% TFA) (リニアグラジエント)
36-50 min: 100% CH3CN/H2O (0.1% TFA)
カラム温度:室温
流速:5 ml/min
検出波長域:PDA (200-500 nm)
分析試料:150 μl
【0106】
(b) 変換産物MSおよびNMRによる構造の同定
精製産物の構造はLC-ESI-TOF-MS (JMS-T100LC JEOL)およびNMR (500 MHz、JNM-A500 JEOLまたは500 MHz、INOVA-500AS Varian)分析により取得したスペクトルデータを解析し同定を行った。
【0107】
(3) 変換産物の同定結果
(a)プロゲステロン(Progesterone)
【0108】
【化3】

【0109】
基質のプロゲステロン (Progesterone)は、HPLCで保持時間24.2分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間17.59分に29.1%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物1 (67.1 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物1はm/z 329.21189に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC21H30O3 (理論値 329.21167 C21H29O3)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物1を16α−ヒドロキシプロゲステロン(16α-Hydroxyprogesterone)と同定した。化合物1(16α−ヒドロキシプロゲステロン)の構造式を以下に示す。
【0110】
【化4】

【0111】
参考のために化合物1の1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
(b)1, 4-アンドロスタジエン-3, 17-ジオン(1,4-Androstadiene-3, 17-dione)
【0114】
【化5】

【0115】
基質の1, 4-アンドロスタジエン-3, 17-ジオン(1, 4-Androstadiene-3, 17-dione)は、HPLCで保持時間18.8分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間15.08分に78.4%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物2 (38.0 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物2はm/z 229.16450に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC19H24O3 (理論値 229.16472 C19H23O3)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H gDQFCOSY、gHSQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物2を16α−ヒドロキシ−1, 4-アンドロスタジエン-3, 17-ジオン(16α-Hydroxy-1, 4-androstadiene-3,17-dione)と同定した。化合物2(16α−ヒドロキシ−1, 4-アンドロスタジエン-3, 17-ジオン)の構造式を以下に示す。
【0116】
【化6】

【0117】
参考のために化合物2の1H、13C、1H-1H gDQFCOSY、gHSQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表4に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
(c)Δ4-アンドロステン-3, 17-ジオン(Δ4-Androstene-3, 17-dione)
【0120】
【化7】

【0121】
基質のΔ4-アンドロステン-3, 17-ジオン(Δ4-Androstene-3, 17-dione)はHPLCで保持時間20.3分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間16.1分に45.9%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物3 (40.2 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物3はm/z 301.18119に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC19H26O3 (理論値 301.18037 C19H25O3)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H gDQFCOSY、gHSQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物3を16α−ヒドロキシ−Δ4-アンドロステン-3, 17-ジオン(16α-Hydroxy-Δ4-androstene-3, 17-dione)と同定した。化合物3(16α−ヒドロキシ−Δ4-アンドロステン-3, 17-ジオン)の構造式を以下に示す。
【0122】
【化8】

【0123】
参考のために化合物3の1H、13C、1H-1H gDQFCOSY、gHSQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表5に示す。
【0124】
【表5】

【0125】
(d)4-プレグネン-3, 11, 20-トリオン(4-Pregnene-3, 11, 20-trione)
【0126】
【化9】

【0127】
基質の4-プレグネン-3, 11, 20-トリオン(4-Pregnene-3, 11, 20-trione)は、HPLCで保持時間19.7分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間14.9分に32.8%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物4(32.0 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物4はm/z 343.19125に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC21H28O4 (理論値 343.19093 C21H27O4)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物4を16α−ヒドロキシ−4-プレグネン-3, 11, 20-トリオン(16α-Hydroxy-4-pregnene-3, 11, 20-trione)と同定した。化合物4(16α−ヒドロキシ−4-プレグネン-3, 11, 20-トリオン)の構造式を以下に示す。化合物4はCASデータベース解析の結果、新規物質であることが分った。
【0128】
【化10】

【0129】
参考のために化合物4の1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表6に示す。
【0130】
【表6】

【0131】
(e)テストステロン(Testosterone)
【0132】
【化11】

【0133】
基質のテストステロン(Testosterone)は、HPLCで保持時間19.6分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間14.8分に95.4%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物5 (36.7 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物5はm/z 303.19684に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC19H28O3 (理論値 303.19602 C19H278O3)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物5を16α−ヒドロキシテストステロン(16α-Hydroxytestosterone)と同定した。化合物5(16α−ヒドロキシテストステロン)の構造式を以下に示す。
【0134】
【化12】

【0135】
参考のために化合物5の1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表7に示す。
【0136】
【表7】

【0137】
(f)デオキシコルチコステロン(Deoxycorticosterone)
【0138】
【化13】

【0139】
基質のデオキシコルチコステロン(Deoxycorticosterone)は、HPLCで保持時間20.0分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間15.2分に49.4%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物6 (51.9 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物6はm/z 345.20544に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC21H30O4 (理論値 345.20658 C21H29O4)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物6を16α−ヒドロキシ−デオキシコルチコステロン(16α-Hydroxy-deoxycorticosterone)と同定した。化合物6(16α−ヒドロキシ−デオキシコルチコステロン)の構造式を以下に示す。
【0140】
【化14】

【0141】
参考のために化合物6の1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表8に示す。
【0142】
【表8】

【0143】
(g)デヒドロエピアンドロステロン(Dehydroepiandrosterone)
【0144】
【化15】

【0145】
基質のデヒドロエピアンドロステロン(Dehydroepiandrosterone)は、HPLCで保持時間20.6分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間16.0分に14.1%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物7 (38.0 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物7はm/z 303.19484に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC19H28O3 (理論値 303.19602 C19H27O3)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物7を16α−ヒドロキシ−デヒドロエピアンドロステロン(16α-Hydroxy-dehydroepiandrosterone)と同定した。化合物7(16α−ヒドロキシ−デヒドロエピアンドロステロン)の構造式を以下に示す。
【0146】
【化16】

【0147】
参考のために化合物7の1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表9に示す。
【0148】
【表9】

【0149】
(h) アドレノステロン (Adrenosterone)
【0150】
【化17】

【0151】
基質のアドレノステロン(Adrenosterone)はHPLCで保持時間17.1分に検出された。HPLC-PDA分析の結果、保持時間13.8分に41.4%の変換産物のピークが検出された。本化合物を分取HPLCにより精製し、化合物8 (21.4 mg)を得た。LC-ESI-TOF-MS分析で化合物8はm/z 315.16045に(M-H)-イオンピークを与えることから、その分子式をC19H24O4 (理論値 315.15963 C19H24O3)と決定した。さらに詳細なNMR解析[1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESY]の結果、化合物8を16α-ヒドロキシ-アドレノステロン(16α-Hydroxy- adrenosterone)と同定した。化合物8(16α-ヒドロキシ-アドレノステロン)の構造式を以下に示す。化合物8はCASデータベース解析の結果、新規化合物であることがわかった。
【0152】
【化18】

【0153】
参考のために化合物8の1H、13C、1H-1H COSY、gHMQC、gHMBC、NOESYによる帰属データを表10に示す。
【0154】
【表10】

【0155】
(4) CYP154の触媒機能の考察
基質スクリーニングの結果、ストレプトマイセス グリセウス (Streptomyces griseus) NBRC 13350株由来のCYP154は、様々な置換基を有するステロイド化合物のD環の16α位を位置選択的かつ立体選択的に水酸化する反応を触媒することが判明した。特に新規化合物である16α-ヒドロキシ-4-プレグネン-3, 11, 20-トリオン、16α-ヒドロキシアドレノステロンの例のように難化学合成化合物を合成するCYP154による触媒反応は、これまでの医薬品等の研究開発段階におけるシード・リード化合物のスクリーニング範疇にない化合物の合成を触媒出来る可能性が高く、触媒機能の応用性が期待される。
また、該CYP154の触媒能力は、例えば、1 mMのテストステロンを70%程度変換するので、ノカルディア ファルシニカ(Nocardia farcinica)IFM 10152株由来のCYP154が0.1 mMのテストステロンを50%程度変換した例(非特許文献17)と比べると、10倍以上も高い事が明らかになり、工業生産レベルでの利用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の製造方法は、創薬におけるシード・リード化合物の創製、代謝物の調製、長い工程を要する製造プロセスの短縮、化学合成では合成が困難な化合物の合成などにおいて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトクロムP450のファミリー154(CYP154)に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有するステロイド化合物に作用させてステロイド骨格のD環16α位に水酸基を導入することを特徴とする16α位が水酸化されたステロイド化合物の製造方法。
【請求項2】
CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と、置換基を有するステロイド化合物とを共存させることにより、CYP154に属するタンパク質またはこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有するステロイド化合物に作用させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
置換基を有するステロイド化合物が、下記一般式(1)
【化1】

(上記式中、R1〜R6、−A−A’−、および−B−B’−B’’−は、以下の(A)または(B)である;
(A)R1は、水酸基、オキソ基またはアセトキシ基であり、
R2は、水素、水酸基、アセトキシ基またはオキソ基であり、
R3は、水酸基、アセチル基、ヒドロキシメチルカルボニル基、アセトキシメチルカルボニル基、2-ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシエチル基またはヒドロキシメチルカルボニル基であり、
R4は、水素またはメチル基であり、
−A−A’−は、−CH2−CH2−または−CH=CH−であり、
−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、−CH=C−CH2−または−CH=C−CHF−であり、
Rは、水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基であり、
Rは、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基である、または、
(B)R3およびR4が一緒になってオキソ基であり、
R1は、水酸基、オキソ基またはアセトキシ基であり、
R2は、水素、水酸基またはオキソ基であり、
−A−A’−は、−CH2−CH2−または−CH=CH−であり、
−B−B’−B’’−は、−CH2−CH−CH2−、−CH2−C=CH−、−CH=C−CH2−または−CH=C−CHF−であり、
Rは、水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基であり、
Rは、メチル基、ヒドロキシメチル基、またはホルミル基である)で表されるステロイド化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
CYP154に属するタンパク質が以下の(a)または(b)である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸配列が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチド
【請求項5】
融合型タンパク質が、CYP154に属するタンパク質と電子伝達タンパク質との融合型タンパク質である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
融合型タンパク質が、CYP154に属するタンパク質と、電子伝達タンパク質であるロドコッカス属NCIMB 9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチドまたはそれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
電子伝達タンパク質が以下の(c)または(d)のポリペプチドである請求項5または6に記載の製造方法。
(c) 配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(d) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するポリペプチド
【請求項8】
形質転換体が、CYP154に属するタンパク質をコードする以下の(e)〜(g)のいずれかのDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(h)〜(j)のいずれかのDNAを連結した融合型タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌ベクターに挿入した組換えプラスミドを大腸菌に導入してなるものである請求項2〜7のいずれかに記載の製造方法。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドをコードするDNA
(g) 配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸配列が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつシトクロムP450モノオキシゲナーゼとして機能するポリペプチドをコードするDNA
(h) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(i) 配列番号4のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(j) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−170409(P2012−170409A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36447(P2011−36447)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(598041795)神戸天然物化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】