説明

1A族または2A族金属−チタン合金

【課題】より幅広い環境下で、安定的に使用することができる合金及びその用途、該合金の製法等を提供する。
【解決手段】Ti又はTi合金(1A族又は2A族金属−Ti合金を除く)5と1A族若しくは2A族金属の溶融物7又は該金属の気体とを該金属の融点以上で、かつβ−Tiの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することにより、Ti又は該Ti合金と1A族又は2A族金属とを含有し、その表面から少なくとも10μmの深さまでの範囲における該金属の濃度が少なくとも0.2原子%で、該合金中における該金属の全含有量が0.001〜0.5原子%である1A族又は2A族金属−Ti合金を製造。該合金は、例えば、口腔内インプラントの製造のための、またはフッ化物存在下で用いるための材料として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金、該合金の製造方法、チタンまたはチタン合金の表面処理方法および該合金の使用に関する。さらに詳しくは、本発明は、医療用材料、分析機器、製造装置、化学製品の製造、製薬などに有用な合金、該合金の製造方法、チタンまたはチタン合金の表面処理方法、および該合金の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
合金は、種々の用途に用いられている。例えば、チタンおよび該チタンとアルミニウム、バナジウム、モリブデン、スズ、鉄、クロムなどとの合金は、高い強度を有し、かつ軽量性に優れるため、現在、車両、船舶、航空機、ゴルフクラブ、生体用材料などの種々の用途に利用されている(例えば、特許文献1などを参照のこと)。
【0003】
しかしながら、前記チタンおよび合金は、環境によっては、使用条件が制限される場合がある。
【特許文献1】特開2005−240144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より幅広い環境下で、安定的に使用することができる合金を提供することを1つの課題とする。また、本発明は、前記合金を、高い効率で得ることができる、該合金の製造方法を提供することを他の課題とする。さらに、本発明は、チタンまたはチタン合金に、例えば、フッ化物などに対する耐食性を付与することができる、チタンまたはチタン合金の表面処理方法を提供することをさらに他の課題とする。また、本発明は、例えば、フッ化物などが存在する条件下でも安定的に使用することができる口腔内インプラントを製造することができる、口腔内インプラントの製造のための前記合金の使用を提供することを別の課題とする。本発明は、例えば、フッ化物などが存在する条件下で使用する装置などの部材、その製造などに用いることができる材料を得ることができる、フッ化物存在下で用いるための材料としての前記合金の使用を提供することをさらに別の課題とする。本発明の他の課題は、本明細書における他の記載からも明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを、該金属の融点以上で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することを特徴とする、1A族または2A族金属−チタン合金の製造方法、
〔2〕 1A族または2A族金属が、マグネシウムである、前記〔1〕記載の1A族または2A族金属−チタン合金の製造方法、
〔3〕 チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と1A族または2A族金属とを含有してなる合金であり、かつ該合金の表面から少なくとも10μmの深さまでの範囲における該金属の濃度が、少なくとも0.2原子%であり、該合金中における該金属の全含有量が、0.001〜0.5原子%である、1A族または2A族金属−チタン合金、
〔4〕 1A族または2A族金属が、マグネシウムである、前記〔3〕記載の1A族または2A族金属−チタン合金、
〔5〕 前記〔1〕または〔2〕記載の製造方法により得られてなる、1A族または2A族金属−チタン合金、
〔6〕 チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを、該金属の融点以上で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することを特徴とする、チタンまたはチタン合金の表面処理方法、
〔7〕 1A族もしくは2A族金属が、マグネシウムである、前記〔6〕記載の表面処理方法、
〔8〕 口腔内インプラントの製造のための、前記〔3〕〜〔5〕いずれか1項に記載の1A族または2A族金属−チタン合金の使用、ならびに
〔9〕 フッ化物存在下で用いるための材料としての、前記〔3〕〜〔5〕いずれか1項に記載の1A族または2A族金属−チタン合金の使用、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金によれば、より幅広い環境下で、安定的に使用することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の1A族または2A族金属−チタン合金の製造方法によれば、前記1A族または2A族金属−チタン合金を、高い効率で得ることができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明のチタンまたはチタン合金の表面処理方法によれば、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)に、例えば、フッ化物などに対する耐食性を付与することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の口腔内インプラントの製造のための前記合金の使用によれば、フッ化物などが存在する条件下でも安定的に使用することができる口腔内インプラントを製造することができるという優れた効果を奏する。本発明のフッ化物存在下で用いるための材料としての前記合金の使用によれば、例えば、フッ化物などが存在する条件下で使用する装置などの部材、その製造などに用いることができる材料を得ることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、1つの側面では、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族または2A族金属とを含有してなる合金であり、かつ該合金の表面から少なくとも10μmの深さまでの範囲における該金属の濃度が、少なくとも0.2原子%であり、該合金中における該金属の全含有量が、0.001〜0.5原子%である、1A族または2A族金属−チタン合金に関する。
【0008】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と1A族または2A族金属とを含有した合金であるため、例えば、フッ化物などに対して、高い耐食性を発現するという優れた効果を発揮する。また、本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、該合金の表面から少なくとも10μmの深さまでの範囲における該金属の濃度が、少なくとも0.2原子%であるため、高い硬度を発現するという優れた効果を発揮する。したがって、本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、より幅広い環境下で、安定的に使用することができるという優れた効果を発揮する。
【0009】
ここで、前記耐食性は、例えば、フッ素イオン濃度:0.024kmol/m3となるようにフッ酸とフッ化ナトリウムと残部水とを含有し、かつ窒素ガスで脱気された水溶液(pH4.0)を試験溶液とし、銀/塩化銀電極を参照電極とし、白金電極を対極として用い、評価温度:25℃で、電位掃引速度:1.6mVs-1、−2.0〜1.0Vの電位範囲で測定した活性態電流密度に基づき評価されうる。
【0010】
本明細書において、前記「1A族または2A族金属−チタン合金」とは、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と1A族または2A族金属とを含有した合金をいう。かかる1A族または2A族金属−チタン合金では、該チタンと1A族または2A族金属とは、固溶状態で存在する。なお、前記1A族または2A族金属−チタン合金には、チタンと1A族または2A族金属と不可避不純物とを含有した合金、チタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と1A族または2A族金属とから得られる合金も包含される。
【0011】
前記1A族金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムが挙げられる。また、前記2A族金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムが挙げられる。前記1A族または2A族金属のなかでは、チタンよりも低融点である観点、取扱いが容易である観点、得られる1A族または2A族金属−チタン合金により、例えば、フッ化物に対する耐食性を十分に発現せしめる観点などから、好ましくは、マグネシウムが望ましい。なお、本発明の1A族または2A族金属−チタン合金を生体に対して適用する場合、前記1A族または2A族金属のなかでは、高い生体適合性を発揮させる観点から、マグネシウムが望ましい。
【0012】
前記チタンは、最密立方構造(α相)を有するα−チタンおよび体心立方構造(β相)を有するβ−チタンのいずれであってもよい。また、前記チタン合金としては、従来用いられているチタン合金などが挙げられる。
【0013】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金において、該合金の表面から少なくとも10μmの深さまでの範囲における該金属の濃度が、少なくとも0.2原子%である。本発明の1A族または2A族金属−チタン合金においては、該合金の表面から、好ましくは、100μm以上の深さまで、より好ましくは、500μm以上の深さまでの範囲における該金属の濃度は、例えば、フッ化物水溶液などに対する耐食性を十分に発現させる観点および十分な硬度を得る観点から、好ましくは、0.3原子%以上、より好ましくは、0.4原子%以上であり、用いられる1A族または2A族金属の固溶限界濃度未満となる濃度であればよい。
【0014】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金の表面は、前記1A族または2A族金属は、実質的に均一に存在する。そのため、本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、例えば、フッ化物などに対する耐食性を安定的に発揮することができる。
【0015】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金中における該金属の全含有量は、例えば、フッ化物水溶液などに対する耐食性を十分に発現させる観点および十分な硬度を得る観点から、0.2原子%以上、好ましくは、0.3原子%以上、より好ましくは、0.4原子%以上であり、用いられる1A族または2A族金属の固溶限界量未満となる含有量であればよい。
【0016】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、例えば、フッ化物水溶液などに対する耐食性を十分に発現させる観点から、好ましくは、マグネシウム−チタン合金である。
【0017】
なお、本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、本発明の目的を妨げないものであれば、チタン、チタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)、1A族金属および2A族金属以外に、他の物質、例えば、他の金属、不可避不純物などを含有していてもよい。
【0018】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、例えば、フッ化物などに対する高い耐食性を有し、高い強度を有するため、例えば、歯科用インプラント、骨インプラントなどの医療用材料;高い反応性や腐食性を有する物質など種々の分析物質の分析装置;高い反応性や腐食性を有する物質など種々の物質の製造装置;化学製品の製造;製薬などの幅広い分野に応用することができる。
【0019】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金は、例えば、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを、該金属の融点以上で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することにより得られうる。
【0020】
したがって、本発明は、他の側面では、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを、該金属の融点以上で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することを特徴とする、1A族または2A族金属−チタン合金の製造方法に関する。
【0021】
本発明の製造方法では、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを接触させるため、本発明の製造方法によれば、例えば、フッ化物などに対して、高い耐食性を発現する合金を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0022】
また、本発明の製造方法では、前記接触を、該金属の融点以上で、かつ体心立方構造のβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で行なうため、本発明の製造方法によれば、例えば、従来の溶融法では、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と1A族または2A族金属とを含有した合金(前記1A族または2A族金属−チタン合金)を得ることが困難であるにもかかわらず、効率よく当該合金を得ることができるという優れた効果を発揮する。なお、本発明の製造方法では、前記接触を、密閉条件下に行なう場合、より効率よく当該合金を得ることができる点で有利である。
【0023】
本発明の製造方法において用いられる1A族または2A族金属は、前記と同様であり、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)よりも低融点である観点、取扱いが容易である観点、得られる1A族または2A族金属−チタン合金に、例えば、フッ化物水溶液に対する優れた耐食性を発現せしめる観点などから、好ましくは、マグネシウムが望ましい。なお、本発明の製造方法により得られる1A族または2A族金属−チタン合金を生体に対して適用する場合、前記1A族または2A族金属のなかでは、高い生体適合性を発揮させる観点から、マグネシウムが望ましい。
【0024】
また、本発明の製造方法において用いられるチタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)は、前記と同様である。
【0025】
前記1A族または2A族金属の溶融物は、前記1A族または2A族金属を、当該1A族または2A族金属の融点以上に維持することにより得られうる。
【0026】
また、前記1A族または2A族金属の気体は、前記1A族または2A族金属を、密閉容器内で該金属の融点以上で維持することにより効率的に生じさせることができる。
【0027】
前記チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族または2A族金属の溶融物との接触は、該チタンまたは該チタン合金を、該溶融物中に浸漬させることにより行なわれうる。以下、本明細書において、かかる手法を、「浸漬法」ともいう。
【0028】
また、前記チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族または2A族金属の気体との接触は、該1A族または2A族金属の気体に、該チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)を曝露させることにより行なわれうる。以下、本明細書において、かかる手法を、「曝露法」ともいう。
【0029】
なお、本発明の製造方法では、例えば、フッ化物に対する耐食性をより向上させる観点から、好ましくは、曝露法が望ましい。
【0030】
前記密閉条件は、例えば、接触の際の温度に対する耐熱性を有する容器、例えば、ステンレス鋼製の容器を溶接することなどにより設定されうる。
【0031】
前記チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体との接触に際する温度は、1A族または2A族金属の融点で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲である。例えば、2A族金属であるマグネシウムの場合、好ましくは、650℃以上であり、より好ましくは、チタン内またはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)内におけるマグネシウムの拡散速度を向上させる観点から、800℃以上、さらに好ましくは、β−チタンの安定温度の観点から、890℃以上、よりさらに好ましくは、950℃以上であることが望ましく、チタンの融点の観点から、1660℃以下であり、好ましくは、マグネシウムの沸点の観点から、1100℃以下であることが望ましい。
【0032】
前記チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体との接触の維持時間は、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)に該金属が十分に拡散し、固溶する時間であればよく、用いられる1A族もしくは2A族金属の種類に応じて、適宜設定されうる。前記維持時間は、例えば、2A族金属であるマグネシウムを用いる場合、チタン内またはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)内にマグネシウムを十分に拡散させる観点から、好ましくは、少なくとも48時間、さらに好ましくは、168時間以上であることが望ましく、430時間程度で、例えば、フッ化物水溶液などに対して、優れた耐食性を示し、優れた硬度を示す、1A族または2A族金属−チタン合金を得ることができる。具体的には、2A族金属であるマグネシウムを用いて、浸漬法により接触を行なう場合、チタン内またはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)内にマグネシウムを十分に拡散させる観点、得られる合金に、例えば、フッ化物などに対する耐食性を十分に発現させる観点などから、前記維持時間は、好ましくは、48時間以上、より好ましくは、168時間以上であることが望ましく、430時間程度で、例えば、フッ化物水溶液などに対して、優れた耐食性を示し、優れた硬度を示す、マグネシウム−チタン合金を得ることができる。また、2A族金属であるマグネシウムを用いて、曝露法により接触を行なう場合、チタン内またはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)内にマグネシウムを十分に拡散させる観点、得られる合金に、例えば、フッ化物などに対する耐食性を十分に発現させる観点などから、前記維持時間は、少なくとも48時間、好ましくは、168時間以上であることが望ましく、430時間程度で、例えば、フッ化物水溶液などに対して、優れた耐食性を示し、優れた硬度を示す、マグネシウム−チタン合金を得ることができる。
【0033】
なお、本発明の製造方法では、前記接触に際して、本発明の目的を妨げないものであれば、チタン、チタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)、1A族金属および2A族金属以外に、他の物質、例えば、他の金属、不可避不純物などが存在していてもよい。
【0034】
本発明は、別の側面では、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを、該金属の融点以上で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することを特徴とする、チタンまたはチタン合金の表面処理方法に関する。なお、本発明の表面処理方法では、前記接触を、密閉条件下に行なう場合、より効率よく実施できる点で有利である。
【0035】
本発明の表面処理方法は、前記製造方法と同様の手法により行なわれうる。
【0036】
本発明の表面処理方法によれば、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)に、例えば、フッ化物などに対する耐食性を付与することができるという優れた効果を発揮する。
【0037】
本発明の表面処理方法において、チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体との接触時間は、浸漬法で行なう場合、少なくとも430時間であることが望ましく、曝露法で行なう場合、少なくとも48時間であることが望ましい。
【0038】
本発明は、さらに他の側面では、口腔内インプラントの製造のための、前記1A族または2A族金属−チタン合金の使用に関する。
【0039】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金の使用によれば、本発明の1A族または2A族金属−チタン合金が用いられるため、例えば、フッ化物などが存在する条件下での使用が考えられる口腔内での使用に適した口腔内インプラントを製造することができる。
【0040】
本発明の1A族または2A族金属−チタン合金の使用では、前記1A族または2A族金属−チタン合金が、口腔内インプラントの材料として用いられる。
【0041】
本発明は、別の側面では、フッ化物存在下で用いるための材料としての、前記1A族または2A族金属−チタン合金の使用に関する。本発明のフッ化物存在下で用いるための材料としての前記合金の使用によれば、例えば、フッ化物などが存在する条件下で使用する装置などの部材、その製造などに用いることができる材料を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0042】
以下、本発明を実施例などに基づき詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
2A族金属として、マグネシウムを用いた。
【0044】
図1に示されるように、ステンレス鋼製容器(容器本体1)内に炭素るつぼ(るつぼ2)を配置した。図1に示されるように、前記炭素るつぼ(るつぼ2)内に、ニクロム線でJIS第2種純チタン板(チタン5)を宙に浮かせて配置し、かつ純マグネシウムを装入した(浸漬法)。一方、図1に示されるように、前記ステンレス鋼製容器内の炭素るつぼ(るつぼ2)の上部に、JIS第2種純チタン板(チタン6)を設置した(曝露法)。その後、ステンレス鋼製のふた(ふた3)と、前記ステンレス鋼製容器(容器本体1)とを、溶接部4にて溶接接合させ、該ステンレス鋼製容器を密閉させた。
【0045】
密閉後のステンレス鋼製容器を、電気炉内に装入した。ついで、電気炉内を、マグネシウムの融点以上の温度であって、かつβ−チタンの安定温度領域である950℃で、48時間、168時間または430時間の処理時間で保持した。前記浸漬法では、密閉容器中で、溶融したマグネシウム中にチタン板を浸漬させて、マグネシウムを、チタン板(チタン5)に拡散浸透させた。一方、前記曝露法では、密閉容器中で、マグネシウム気相を、チタン板に曝露させて、マグネシウムを、チタン板(チタン6)内に拡散浸透させた。その後、前記電気炉を、炉冷して、2A族金属−チタン合金を得た。
【0046】
(比較例1)
2A金属として、マグネシウムを用い、従来の溶融法により、チタンとマグネシウムとの合金の作製を試みた場合、チタンの融点は、マグネシウムの融点に比べ高く、しかも、大きく異なるため、チタンの融点では、マグネシウムが大気中の酸素と反応して発火する。そのため、従来の溶融法では、1A族または2A族金属−チタン合金の作製が困難である。
【0047】
(試験例1)
2A族金属−チタン合金の耐食性の評価
前記実施例1において、前記浸漬法または前記曝露法で得られた2A族金属−チタン合金について、動電位分極試験により、フッ化物水溶液に対する耐食性を評価した。
【0048】
一般的なフッ素添加歯磨剤中のフッ素濃度に相当する0.024kmol/m3のフッ素イオン濃度となるように、46質量% フッ酸 0.25mlとフッ化ナトリウム 1.00gと蒸留水 999.75mlとを、混合し、得られた混合物を、pH4.0に調整し、フッ化物水溶液を得た。
【0049】
図2に示される装置を用い、前記実施例1で得られた各2A族金属−チタン合金を試料9とし、白金電極を対極8、銀/塩化銀電極を参照電極10、前記フッ化物水溶液を試験溶液11として用いて、動電位分極試験を行なった。なお、対照として、前記実施例1において、処理時間が0時間の場合のチタンについても、同様に、動電位分極試験を行なった。結果を図3のパネル(A)およびパネル(B)に示す。
【0050】
その結果、パネル(A)に示されるように、浸漬法の場合、処理時間の増加とともに、最大電流密度が減少し、耐食性が向上していることがわかる。また、パネル(B)に示されるように、曝露法の場合でも、処理時間の増加とともに、最大電流密度が減少し、耐食性が向上していることがわかる。特に、曝露法によれば、浸漬法に比べ、より高い耐食性を有する合金が得られることが示唆される。
【0051】
(試験例2)
前記実施例1で得られた各2A族金属−チタン合金それぞれについて、合金の中央部で、かつ表面に垂直な方向に切断し、その切断面を0.2μmのアルミナ粒子によるバフ仕上げまで研磨を行なった。研磨した切断面に対して、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JSM−6060LV)に付属のエネルギー分散型元素分析器(日本電子株式会社製、商品名:JED−2200)によって、表面から深さ方向にマグネシウムの濃度分布を測定した。各測定箇所に対して8回測定し、最大値と最小値とを除いた6点に対して統計処理を行ない、平均値とエラーバー(1σ)とを算出した。これにより、表面から所定の深さにおける厚さ方向のマグネシウム濃度を測定した。結果を、図4のパネル(A)およびパネル(B)に示す。
【0052】
その結果、パネル(A)に示されるように、浸漬法によれば、チタン板内にマグネシウムを拡散させることができることがわかる。また、パネル(B)に示されるように、曝露法によっても、チタン板内にマグネシウムを拡散させることができることがわかる。特に、曝露法によれば、浸漬法に比べ、より高い濃度で、より表面から深い所まで、マグネシウムを効率よく拡散させることができることが示唆される。
【0053】
(試験例3)
前記実施例1で得られた各2A族金属−チタン合金それぞれについて、合金の中央部で、かつ表面に垂直な方向に切断し、切断面のみが露出するようにエポキシ樹脂に埋入させた。切断面を、0.2μmのアルミナ粒子によるバフ仕上げまで研磨し、マイクロビッカース硬さ試験機(株式会社マツザワ製、商品名:MXT−α)を用いて、0.490Nの条件で、厚さ方向のビッカーズ硬さの分布を測定した。各測定箇所に対して8回測定し、最大値と最小値とを除いた6点に対して統計処理を行ない、平均値とエラーバー(1σ)とを算出した。結果を、図5のパネル(A)およびパネル(B)に示す。
【0054】
その結果、パネル(A)および(B)に示されるように、曝露法によれば、浸漬法に比べ、平均的に高い硬さの分布を有する2A族金属−チタン合金が得られることがわかる。
【0055】
(試験例4)
前記実施例1において、曝露法(処理時間:430時間)により作製した2A金属−チタン合金におけるマグネシウム原子の分散状態を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JSM−6060LV)に付属のエネルギー分散型元素分析器(日本電子株式会社製、商品名:JED−2200)を用いて、15kVの条件でZAF法により測定した。結果を図6に示す。
【0056】
その結果、図6に示されるように、前記2A金属−チタン合金の表面に、マグネシウム原子が実質的に均一に分散していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、より幅広い環境下で、安定的に使用することができる材料の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、2A金属−チタン合金の作製に用いた装置の概略説明図である。
【図2】図2は、電気化学動電位分極試験に用いた装置の概略説明図である。
【図3】図3は、2A金属−チタン合金の動電位分極試験の結果を示す図である。パネル(A)は、浸漬法の場合の結果、パネル(B)は、曝露法の場合の結果を示す。パネル(A)中、実線は、0時間、短破線は、168時間、長破線は、430時間を示し、パネル(B)中、実線は、0時間、長破線は、48時間、短破線は、168時間、二点長破線は、430時間を示す。
【図4】図4は、2A金属−チタン合金の厚さ方向のマグネシウム濃度分布の結果を示す図である。パネル(A)は、浸漬法の場合の結果、パネル(B)は、曝露法の場合の結果を示す。図中、四角(破線)は、処理時間:48時間の場合の結果、三角(一点破線)は、処理時間:168時間の場合の結果、丸(点線)は、処理時間:430時間の場合の結果を示す。
【図5】図5は、2A金属−チタン合金の厚さ方向のビッカーズ硬さ分布の結果を示す図である。パネル(A)は、浸漬法の場合の結果、パネル(B)は、曝露法の場合の結果を示す。図中、小丸(実線)は、処理時間:0時間の場合の結果、四角(破線)は、処理時間:48時間の場合の結果、三角(一点破線)は、処理時間:168時間の場合の結果、大丸(点線)は、処理時間:430時間の場合の結果を示す。
【図6】図6は、曝露法により得られた2A金属−チタン合金の表面における2A金属の分布状態を示す図である。図中、最下部のスケールバーは、10μmを示す。
【符号の説明】
【0059】
1 容器本体
2 るつぼ
3 ふた
4 溶接部
5 チタン(浸漬法)
6 チタン(曝露法)
7 マグネシウム
8 対極
9 試料
10 参照電極
11 試験溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを、該金属の融点以上で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することを特徴とする、1A族または2A族金属−チタン合金の製造方法。
【請求項2】
1A族または2A族金属が、マグネシウムである、請求項1記載の1A族または2A族金属−チタン合金の製造方法。
【請求項3】
チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と1A族または2A族金属とを含有してなる合金であり、かつ該合金の表面から少なくとも10μmの深さまでの範囲における該金属の濃度が、少なくとも0.2原子%であり、該合金中における該金属の全含有量が、0.001〜0.5原子%である、1A族または2A族金属−チタン合金。
【請求項4】
1A族または2A族金属が、マグネシウムである、請求項3記載の1A族または2A族金属−チタン合金。
【請求項5】
請求項1または2記載の製造方法により得られてなる、1A族または2A族金属−チタン合金。
【請求項6】
チタンまたはチタン合金(ただし、1A族または2A族金属−チタン合金を除く)と、1A族もしくは2A族金属の溶融物または該金属の気体とを、該金属の融点以上で、かつβ−チタンの安定温度領域の範囲内の温度範囲で接触させて維持することを特徴とする、チタンまたはチタン合金の表面処理方法。
【請求項7】
1A族もしくは2A族金属が、マグネシウムである、請求項6記載の表面処理方法。
【請求項8】
口腔内インプラントの製造のための、請求項3〜5いずれか1項に記載の1A族または2A族金属−チタン合金の使用。
【請求項9】
フッ化物存在下で用いるための材料としての、請求項3〜5いずれか1項に記載の1A族または2A族金属−チタン合金の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−81751(P2008−81751A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246962(P2006−246962)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】