説明

2−アルキルシステインアミド又はその塩、並びに、それらの製造方法及び用途

一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩を加水分解して一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩を得る、2−アルキルシステインアミド又はその塩の製造方法。


(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)


(一般式(2)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示し、R及びRは、各々独立に、水素若しくは炭素数1〜4の低級アルキル基、又は互いに結合して炭素数4〜7の脂環式構造をとる。但し、R及びRは両者が同時に水素であることはない。)
一般式(1)の化合物を2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて、2−アルキル−L−システインを生成せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、下記一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩(以下、単に「2−アルキルシステインアミド」と記すことがある)、並びに、それらの製造方法及び用途に関する。詳しくは、下記一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩(以下、単に「4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド」と記すことがある)を加水分解して、下記一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドを製造する方法に関する。また、2−アルキルシステインアミドの、光学活性2−アルキルシステインの製造用原料としての用途に関する。
【背景技術】
従来、下記一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミドの製法を記載した文献はあるが(例えば、Justus Liebigs Ann.Chem.(1966),697,140−157参照)、ここから下記一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドを得る方法については記載されていない。また同文献中には5,5−ジメチルチアゾリジンカルボン酸アミドを濃塩酸中で操作してシステインアミド誘導体であるペニシルアミンアミドを得る手法が記載されているが、同手法を下記一般式(2)に示す4−アルキルチアゾリジンカルボン酸アミドに適用すると、加水分解反応が過剰に進行した2−アルキルシステインが大量に副生してしまい、しかも目的とする下記一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドと性状が類似しているため分離精製が困難となり好ましくない。
また、従来、光学活性2−アルキル−L−システインの製造方法として、例えば、光学活性なL−システインメチルエステルを出発原料として、ピバルアルデヒドで環化、ホルムアルデヒドで保護し、リチウム試薬とヨウ化メチルでメチル化した後、塩酸で開環、脱保護して2−メチル−L−システインを塩酸塩として得る方法がある(例えば、米国特許6,403,830号明細書参照)。しかしながら、この方法は光学活性体を出発原料とする必要があり、工程数が多く煩雑であり、しかも高価な試薬を必要とするため、工業的に優れた方法とは言いがたい。
下記一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドを微生物が有する酵素を利用して不斉加水分解し、下記一般式(2)で示される光学活性2−アルキル−L−システインを製造する方法は、報告されていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、光学活性な医薬品、農薬、各種工業薬品の製造中間体として有用な、光学活性2−アルキル−L−システインを少ない工程数で安価に製造する方法を提供することにある。
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究を行い、下記一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩を提供することにより、上記目的が解消されることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明の一局面によれば、下記一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩が提供される。

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)
一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドは、分子内にメルカプト基、アミノ基及びカルボキシルアミド基を有し、医薬品、農薬、及び各種工業薬品の製造原料として広範な活用が期待される化合物であり、産業上、非常に有用で新規な化合物である。
また、一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドは、下記一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを用いると、チアゾリジン環のC−N結合が選択的に加水分解され、高い収率で製造できる。
したがって、本発明の他の局面によれば、下記一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩を加水分解して一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩を得る、2−アルキルシステインアミド又はその塩の製造方法が提供される。なおその際に、Rがメチル基である4−メチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩を用いれば、次の酵素反応において有利に使用できる2−メチルシステインアミド又はその塩を効率良く製造することができる。

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)

(一般式(2)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示し、R及びRは、各々独立に、水素若しくは炭素数1〜4の低級アルキル基、又は互いに結合して炭素数4〜7の脂環式構造をとる。但し、R及びRは両者が同時に水素であることはない。)
上記製造方法において、原料として使用される一般式(2)の4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩として、その水溶液を用いることが好ましく、その無機酸塩水溶液を用いることがさらに好ましい。
また、一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドに2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて生化学的に不斉加水分解すれば、同様に医薬品、農薬、及び各種工業薬品の製造中間体として有用な光学活性2−アルキル−L−システインへ誘導することも可能である。
したがって、本発明のさらに他の局面によれば、一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドに、2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて、一般式(1−L)で示される2−アルキル−L−システインを生成せしめることを特徴とする、光学活性2−アルキル−L−システインの製造方法が提供される。

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)

(一般式(1−L)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)
この製造方法によれば、少ない工程数で安価に光学活性2−アルキル−L−システインを製造できる。
この製造方法において、2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物としては、プロタミノバクター属、ミコプラナ属又はキサントバクター属に属する細菌が好ましい。
また、この製造方法において、微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて行なう立体選択的な加水分解は、不活性ガス気流下及び/又は還元物質の共存下で行なうことが好ましい。
この製造方法では、一般式(1)及び(1−L)の化合物として、Rがメチル基であるものを用いると有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
本発明の一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩において、式中のRは、メチル基を含む炭素数1〜4の低級アルキル基であればよく、特に制限はなく、例えば、メチル基の他、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどの直鎖又は分枝した低級アルキル基が好適であり、メチル基が特に好適である。また、一般式(1)の化合物は遊離物の他、塩を形成することもできる。塩の種類は、実用上許容できる塩であれば特に制限はないが、例えば塩酸や硫酸等の無機酸、ギ酸や酢酸等の有機酸との塩が挙げられる。得られる2−アルキルシステインアミド又はその塩の安定性という意味で特に塩酸塩又は硫酸塩が好適である。
本発明の一般式(1)で示される化合物の製造原料である一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩は、論文Justus Liebigs Ann.Chem.(1966),697,140−157に記載の方法等を用いることによって、以下のようにして製造することができる。
1)下記の式(3)で示されるハロゲン化メチルアルキルケトン(Xはハロゲン化メチル基を表す)と式(4)で示されるカルボニル化合物又はそのアセタール(ケタール)を水硫化ナトリウム及びアンモニアと反応させ、式(5)で示すチアゾリン化合物となす。
2)得られた式(5)で示されるチアゾリンにHCNを付加して式(6)で示されるニトリルとなす。
3)式(6)で示されるニトリルを酸触媒を用いて加水分解して、一般式(2)の4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩が得られる(式(2’)としてその塩を特に示した)。

一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩は、一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩を部分的に加水分解することにより製造することができる。一般式(2)の4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩を、純水又は当量以上の水を含む極性有機溶媒に溶かして加熱すると加水分解的開環反応が進行する。この加水分解反応は酸触媒で加速させることができるが、過剰の酸が存在した場合、一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドが更に加水分解された2−アルキルシステインが大量に副生してしまうことから好ましくない。そのため用いられる酸触媒の量は、好ましくは一般式(2)のチアゾリジンカルボン酸アミドの0.5から1.3倍当量、更に好ましくは0.8から1.1倍当量、最も好適には1倍当量である。また式(2’)で示されるチアゾリジンカルボン酸アミドと酸からなる中性塩を単離精製し、純水、又は当量以上の水を含む極性有機溶媒中で加熱還流することでも好適に目的とする一般式(1)の2−アルキルシステインアミドを得ることができる。
触媒に用いられる酸としては、一般的に用いられる酸であれば特に限定はされず、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸等の有機酸等を用いることができるが、反応速度や精製時の操作の便の良さから、塩酸、硫酸等の無機酸が好適に用いられる。この際、加水分解することによって式(4)に示すカルボニル化合物が脱離してくるが、留去等の操作を行うことによってこのカルボニル化合物を系外に抜き出しながら反応を行なうとさらに効率よく反応を進行させることができる。反応は定量的に進み、脱離した式(4)に示すカルボニル化合物と反応溶媒を除去するだけで、目的とする一般式(1)に示す2−アルキルシステインアミド又はその塩が高収率かつ高純度で得られる。
本発明の一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドの生化学的不斉加水分解に使用される微生物は、目的の2−アルキル−L−システインに対応する2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物であればよく、このような微生物として、例えば、プロタミノバクター属、ミコプラナ属又はキサントバクター属等に属する微生物、具体的にはプロタミノバクター アルボフラバス(Protaminobacter alboflavus)ATCC8458、ミコプラナ ラモサ(Mycoplana ramose)NCIB9440、ミコプラナ ディモルファ(Mycoplana dimorpha)ATCC4279、キサントバクター オートトロフィカス(Xanthobacter autotrophicus)DSM597、キサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)NCIB10071が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これら微生物から人工的変異手段によって誘導される変異株、又は細胞融合若しくは遺伝子組換え法等の遺伝学的手法により誘導される組換え株等の何れの株であっても上記能力を有するものであれば、本発明に使用できる。
これらの微生物の培養は、通常資化し得る炭素源、窒素源、各微生物に必須の無機塩、栄養等を含有させた培地を用いて行われる。培養時のpHは4〜10の範囲が好ましく、温度は20〜50℃が好ましい。培養は1日〜1週間程度好気的に行われる。このようにして培養した微生物は、生菌体又は該生菌体処理物、例えば培養液、分離菌体、菌体破砕物、さらには精製した酵素として反応に使用される。また、常法に従って菌体又は酵素を固定化して使用することもできる。
2−アルキルシステインアミドの生化学的不斉加水分解反応の条件は、2−アルキルシステインアミド濃度0.1〜40wt%、2−アルキルシステインアミドに対する微生物の使用量は、乾燥菌体として重量比0.0001〜3、反応温度10〜70℃、pH4〜13の範囲が好ましい。
反応原料である2−アルキルシステインアミド、及び生成物である2−アルキルシステインは酸化を受けやすく、酸素存在下で放置すると2量化したジスルフィド(2,2’−ジアルキルシスチン)となる。これを防止するため、生化学的不斉加水分解反応は遊離の酸素や酸素供与体を排除した雰囲気下で行なうことが望ましく、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス気流下、或いは反応系内に2−メルカプトエタノール等の酸素受容体となる還元性物質を共存させた条件下で行うことが好ましい。
2−アルキルシステインアミドの生化学的不斉加水分解反応で生成した光学活性2−アルキル−L−システインは、反応終了液から、例えば遠心分離或いは濾過膜などの通常の固液分離手段により微生物菌体を除いた母液をpH4〜7に調整して濃縮した後、冷却して晶析する結晶を濾別することによって得ることができる。また必要に応じて、母液に活性炭等の吸着剤を加え処理した後に濃縮したり、母液の濃縮物に水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフランやジオキサン等のエーテル類、又はこれらを組み合わせた混合溶媒、さらには水を含むこれらの混合溶媒等を加えて再溶解した後、冷却し晶析することによっても好適に2−アルキルシステインを得ることができる。
以上のようにして、例えば2−メチル−L−システイン、2−エチル−L−システイン等の光学活性2−アルキル−L−システインを製造することができる。
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例よって限定されるものではない。
【実施例1】
1)2,2,4−トリメチルチアゾリンの調製
水硫化ナトリウム(純度70%)250gを500mLの水に溶かし、これを攪拌しながら氷浴にて5℃に冷却し、ここにクロロアセトン278gをゆっくりと滴下した。滴下終了後、水浴にて室温に戻し、アセトン261gを添加し、続いて塩化メチレン800mLを添加した。内温が30℃を越えないように水浴で調節しながら、25%アンモニア水616gをゆっくりと滴下した。滴下終了後4時間攪拌した後、反応液を分液して有機層を飽和食塩水で1回、純水で2回洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを加えて3時間攪拌して脱水乾燥させた。固形物を濾別した後、濾液を減圧蒸留して2,2,4−トリメチルチアゾリン 290g(74.8mol%)を得た。
2)2,2,4−トリメチル−4−シアノチアゾリジンの調製
2,2,4−トリメチルチアゾリン317gをジエチルエーテル 500mLに溶解し、これを15℃に調節した。この溶液を攪拌しながら、20℃を越えないように調節しながら青酸ガス132.7gをゆっくりとバブリングした。青酸ガス吹込み後3時間、20℃に調節しながら攪拌を継続した。反応液をアスピレータで減圧にしてジエチルエーテルを留去し、白色固体を得た。得られた白色固体を、ジエチルエーテル/ヘキサン=800/350mLの混合溶媒に溶解し、この溶液を−50℃に冷却して析出した結晶を濾別し、更に濾液を濃縮して析出した結晶を濾別し、併せて384g(83mol%)の2,2,4−トリメチル−4−シアノチアゾリジンを得た。
3)2,2,4−トリメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド及びその塩酸塩の調
濃塩酸(36%)1924gを20℃以下に調節しながら攪拌し、ここに2,2,4−トリメチル−4−シアノチアゾリジン258gをゆっくりと加え、25℃に上げて13時間攪拌した。析出した結晶を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄、減圧乾燥して2,2,4−トリメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド塩酸塩97g(46mol%)を得た。さらに結晶濾別後の濾液を氷浴で冷却し、これを攪拌しながら、25%アンモニア水1228gをゆっくりと滴下し、析出した結晶を濾別後、純水800mLで洗浄し、2,2,4−トリメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド 67g(38mol%)を得た。
4)2−メチルシステインアミド塩酸塩の調製
上記のようにして得られた2,2,4−トリメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド塩酸塩90gを純水1Lに溶解し、蒸留塔を設けた容器にて105℃のオイルバスで加熱し、ゆっくりと蒸留塔上部より留出分を除去しながら3時間反応させた後、反応液を濃縮、減圧乾燥して、2−メチルシステインアミド塩酸塩77g(96mol%)を無色のガラス状固体として得た。
5)2−メチルシステインアミド塩酸塩の分析結果
得られた2−メチルシステインアミド塩酸塩の性状に関する分析結果を以下に示す。
2−メチルシステインアミド塩酸塩;無色ガラス状固体(潮解性)
H−NMR(90MHz,DO)δ[ppm]3.19(1H,d,J15.3Hz),2.95(1H,d,J15.3Hz),1.64(3H,s)
13C−NMR(22.6MHz,DO)δ[ppm]173.78(s),62.31(s),31.73(t),22.21(q)
IR[cm−1](KBr)1703,1624,1574,1506,1377,1279,1230,1124
元素分析(測定値)C;28.01,H;6.60,N;16.33,S;;18.72,Cl;20.75,(計算値)C;28.15,H;6.50,N;16.41,O;9.37,S;18.79,Cl;20.77
【実施例2】
次の組成を有する培地を調製し、この培地200mLを1Lの三角フラスコに入れ、滅菌後、キサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)NCIB10071を接種し、30℃で48時間振とう培養を行った。
培地組成(pH7.0)
グルコース 10g
ポリペプトン 5g
酵母エキス 5g
KHPO 1g
MgSO・7HO 0.4g
FeSO・7HO 0.01g
MnCl・4HO 0.01g
水 1L
次いで培養液から、遠心分離により、乾燥菌体1.0gに相当する生菌体を得た。実施例1で製造した2−メチルシステインアミド塩酸塩10.0g(0.06mol)を50mMリン酸バッファー300mLに溶かした後、500mLフラスコに入れ、乾燥菌体1.0gに相当する生菌体を加えて、窒素気流下、30℃で24時間攪拌して加水分解反応を行った。
反応後、反応液から遠心分離によって菌体を除去して上清を得た。この上清液に脱気後に不活性ガス置換した活性炭2gを加えて2時間攪拌した後、活性炭を濾別してからエバポレーターで減圧にて水を留去し、白色ペースト状固体を得た。このペースト状濃縮物にイソプロパノール20mLを加えて加熱攪拌後、5℃にて一夜静置して析出した結晶を濾取した。濾取した結晶をエタノールより再結晶して2−メチル−L−システイン 2.6g(0.02mol)を得た。反応に仕込んだラセミ混合物中の2−メチル−L−システインアミドからの単離収率は76mol%、2−メチル−L−システインアミドのラセミ混合物からの単離収率は38mol%であった。また、この固体を光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分析した結果、光学純度は98%e.e.以上であった。
【実施例3】
実施例2と同様にして各種微生物を培養し、生菌体を得た。実施例2と同様の方法で、2−メチルシステインアミド10g(0.06mol)を基質とし、各種微生物の生菌体を用いて酵素反応を行い、除菌した上清液を液体クロマトグラフィーで分析した。結果を表1に示す。なお、該上清液を光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分析した結果、光学純度はいずれも90%e.e.以上であった。
なお、表1に示した略号の詳細は以下の通りである。
収率▲1▼;ラセミ混合物の2−メチルシステインアミドを基準とした2−メチル−L−システインの収率(mol%)
収率▲2▼;ラセミ混合物中の2−メチル−L−システインアミドを基準とした2−メチル−L−システインの収率(mol%)
菌体1;プロタミノバクター アルボフラバス(Protaminobacter alboflavus)ATCC8458
菌体2;ミコプラナ ラモサ(Mycoplana ramose)NCIB9440、
菌体3;ミコプラナ ディモルファ(Mycoplana dimorpha)ATCC4279
菌体4;キサントバクター オートトロフィカス(Xanthobacter autotrophicus)DSM597

【産業上の利用可能性】
本発明によって製造される一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドは、医薬品、農薬、各種工業薬品の製造原料として広範な活用が期待され産業発展に大いに役立つ。また、一般式(1−L)で示される光学活性2−アルキル−L−システインの原料としても有用である。
ラセミ混合物である一般式(1)で示される2−メチルシステインアミドに2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的な加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて2−メチル−L−システインを製造する本発明の方法は、医薬品、農薬、各種工業薬品の製造中間体として非常に重要な光学活性2−アルキル−L−システインを少ない工程数で安価に製造することを可能とし、産業発展に大いに貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩。

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)
【請求項2】
一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩を加水分解して一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド又はその塩を得る、2−アルキルシステインアミド又はその塩の製造方法。

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)

(一般式(2)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示し、R及びRは、各々独立に、水素若しくは炭素数1〜4の低級アルキル基、又は互いに結合して炭素数4〜7の脂環式構造をとる。但し、R及びRは両者が同時に水素であることはない。)
【請求項3】
一般式(2)で示される4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩として、4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド又はその塩の水溶液を用いる、請求項2記載の2−アルキルシステインアミド又はその塩の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドに、2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて、一般式(1−L)で示される2−アルキル−L−システインを生成せしめることを特徴とする、光学活性2−アルキル−L−システインの製造方法。

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)

(一般式(1−L)中、Rは、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)
【請求項5】
2−アルキル−L−システインアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物が、プロタミノバクター属、ミコプラナ属又はキサントバクター属に属する細菌である、請求項4記載の光学活性2−アルキル−L−システインの製造方法。
【請求項6】
微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて行なう立体選択的な加水分解を、不活性ガス気流下及び/又は還元物質の共存下で行なう、請求項4又は5に記載の光学活性2−アルキル−L−システインの製造方法。
【請求項7】
一般式(1)及び(1−L)において、Rがメチル基である、請求項4から6の何れか1項に記載の光学活性2−アルキル−L−システインの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/090152
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505297(P2005−505297)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004988
【国際出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】