説明

2−ヒドロキシ酸モノマーを含む生体吸収性ポリマー

【課題】2−ヒドロキシ酸モノマーを含むPHAコポリマーの生成のための遺伝子操作生物、ならびにその作製方法および使用方法の提供。
【解決手段】2−ヒドロキシ酸モノマーを含むコポリマーは、生細胞におけるPHAポリメラーゼの作用による生合成を介して合成する。該細胞の遺伝的バックグラウンドを変化させることによって、そのPHAポリマー中のグリコール酸co−モノマーのレベルの制御を可能にする特定の代謝経路を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、一般に、2−ヒドロキシ酸モノマーを生成するための方法、および生じるポリヒドロキシアルカノエートポリマーの分野にある。
【背景技術】
【0002】
多数の微生物が、ポリ[(R)−3−ヒドロキシアルカノエート](「PHA」)ポリマーの細胞内貯蔵物を蓄積する能力を有する。PHAは、生分解性の熱可塑物質であり、再生可能資源から生成され、広範囲の産業的適用および生医学的適用を有する(WilliamsおよびPeoples,1996,CHEMTECH 26,38−44)。約100個の異なるモノマーが、文献において報告されたように(SteinbuechelおよびValentin,1995,FEMS Microbiol.Lett.128;219〜228)PHAポリマー中に組み込まれ、その代謝の生物学および遺伝学が、最近概説された(HuismanおよびMadison,1998,Microbiology and Molecular Biology Reviews,63:21〜53)。
【0003】
一定範囲のPHA型についての発酵プロセスおよび回収プロセスが、Brauneggら、1998、Journal of Biotechnology 65:127〜161;ChoiおよびLee,1999,Appl.Microbiol.Biotechnol.51:13〜21によって最近概説されたように、種々の細菌(Azotobacter、Alcaligenes latus、Comamonas testosteroniならびに遺伝子操作したE.coliおよびKlebsiellaを含む)を使用して、開発された。対応するラクトンの直接的縮合および開環重合を含む、より伝統的なポリマー合成アプローチもまた、試験されている(JesudasonおよびMarchessault,1994,Macromolecules 27:2595〜2602)。
【0004】
モノマー4−ヒドロキシブチレート(PHB4HB(Doi,Y.1995,Macromol.Symp.98,585〜599))を含むPHAポリマー、またはPHAポリエステルを含む4−ヒドロキシバレレートおよび4−ヒドロキシヘキサノエートの合成が、記載されている(Valentinら、1992、Appl.Microbiol.Biotechnol.36,507〜514およびValentinら、1994,Appl.Microbiol.Biotechnol.40,710〜716)。このPHB4HBコポリマーは、一定範囲のポリマー特性を提供する種々のモノマー組成物を用いて、生成され得る(Saito,Y.,Nakamura,S.,Hiramitsu,M.およびDoi,Y.,1996,Polym.Int.39:169)。このホモポリマーポリ(4−ヒドロキシブチレート)(すなわち、P4HB)は、組換えE.coliにおいて(Heinら、1997、FEMS Microbiol.Lett.153:411〜418)、プラスミド由来のRalstonia eutropha PHAシンターゼ(phaC)遺伝子およびClostridium kluyveri 4HB−CoAトランスフェラーゼ(orfZ)遺伝子を使用して、合成された。
【0005】
3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシプロピオネートのPHAコポリマーもまた、記載されている(Shimamuraら、1994、Macromolecules 27:4429〜4435;Caoら、1997、Macromol.Chem.Phys.198:3539〜3557)。これらのコポリマー中に組み込まれた3−ヒドロキシプロピオネートの最も高いレベルは、88mol%である(Shimamuraら、1994、Macromolecules 27:4429〜4435)。
【0006】
Metabolix Inc.に対するWO02/08428A2は、ポリオール供給原料からのPHAコポリマーの生成のために、遺伝子操作された細菌を記載する。100個を超えるモノマーが生物中でPHAに組み込まれているが、生合成PHA中にグリコール酸が存在することは、未だ報告されていない。グリコール酸は、ヒドロキシ酸のうちで最も単純なものであり、グリコール酸を含むポリマーが、以前に化学合成されている。例えば、高分子量グリコール酸ポリマーが、環状ダイマーであるグリコリドからの開環重合によって優先的に調製される。グリコール酸含有ポリマーは、吸収可能な縫合糸、内部固定デバイス、組織工学用足場、薬物放出マトリックスなどにおいて使用される。例えば、米国特許第3,867,190号;米国特許第3,736,646号;Fukuzakiら「A new biodegradable copolymer of glycolic acid and lactones with relatively low−molecular weight prepared by direct copolycondensation in the absence of catalysts」J.Biomed.Mater.Res.25(3):315〜28(1991)を参照のこと。グリコール酸を含む合成ポリマーは、1970年代依頼、吸収可能な医療用デバイスのために使用されている。例えば、Chujoら「Ring−opening polymerization of glycolide」Makromol.Chem.100:262〜6(1967);Fukuzakiら「Direct copolymerization of glycolic acid with lactones in the absence of catalysts」Eur.Polym.J.26(4):457〜61(1990);Kricheldorfら「Polylactones,2.Copolymerization of glycolide with β−propiolactone,γ−butyrolactone or δ−valerolactone」Makromol.Chem.186(5):955〜76(1985);Kricheldorfら「Polylactones,3.Copolymerization of glycolide with L,L−lactide and other lactones」Makromol.Chem.12(Polym.Specific Prop.):955〜76(1985);Nakayamaら「Synthesis and biodegradability of novel copolyesters containing γ−butyrolactone units」Polymer 39(5):1213〜1222(1998);Nakayamaら「Syntheses of biodegradable polyesters and effect of chemical structure on biodegradation」Nippon Kagaku Kaishi 1:1〜10(2001)を参照のこと。しかし、化学合成によりグリコール酸と種々のラクトンとから形成されたコポリマーは、比較的低い分子量を有する。さらに、化学合成により形成されたコポリマー中のラクトン単位の立体配置を制御することは、困難である。
【0007】
細菌生成系においてPHAポリマー中にグリコール酸を組み込むこと可能であることは、有用である。これは、そのPHAファミリーのポリマーから利用可能な物理的特性の範囲をさらに拡張し、そのグリコール酸モノマーの存在は、産業上用途および生医学的用途のためにこれらのPHAの分解速度を制御するための手段を提供する。具体的には、PHA中にグリコール酸を組み込むことは、医療用移植物における安全な使用歴を既に有するモノマーを使用するPHA生医学的デバイスのインビボでの分解速度を制御するための手段を提供する。
【0008】
従って、グリコール酸を含むPHAを生合成するための方法を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
グリコール酸と少なくとも1種の他のモノマー(例えば、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、3−ヒドロキシオクタン酸、3−ヒドロキシデカン酸、4−ヒドロキシ酪酸、または4−ヒドロキシ吉草酸)とを含むPHAを生合成するための方法を提供することが、本発明の別の目的である。目的の特定のグリコール酸含有PHAとしては、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸−co−グリコール酸およびポリ−グリコール酸−co−4−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0010】
医学的適用および産業上の適用のために、2−ヒドロキシ酸を含むPHAを生合成によって提供することが、本発明のさらなる目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第02/08428号
【特許文献2】米国特許第3,867,190号
【特許文献3】米国特許第3,736,646号
【非特許文献】
【0012】
【特許文献1】WilliamsおよびPeoples,1996,CHEMTECH 26,38−44
【特許文献2】SteinbuechelおよびValentin,1995,FEMS Microbiol.Lett.128;219〜228
【特許文献3】HuismanおよびMadison,1998,Microbiology and Molecular Biology Reviews,63:21〜53
【特許文献4】Brauneggら、1998、Journal of Biotechnology 65:127〜161
【特許文献5】ChoiおよびLee,1999,Appl.Microbiol.Biotechnol.51:13〜21
【特許文献6】JesudasonおよびMarchessault,1994,Macromolecules 27:2595〜2602
【特許文献7】Doi,Y.1995,Macromol.Symp.98,585〜599
【特許文献8】Valentinら、1992、Appl.Microbiol.Biotechnol.36,507〜514
【特許文献9】Valentinら、1994,Appl.Microbiol.Biotechnol.40,710〜716
【特許文献10】Saito,Y.,Nakamura,S.,Hiramitsu,M.およびDoi,Y.,1996,Polym.Int.39:169
【特許文献11】Heinら、1997、FEMS Microbiol.Lett.153:411〜418
【特許文献12】Shimamuraら、1994、Macromolecules 27:4429〜4435
【特許文献13】Caoら、1997、Macromol.Chem.Phys.198:3539〜3557
【特許文献14】Fukuzakiら「A new biodegradable copolymer of glycolic acid and lactones with relatively low−molecular weight prepared by direct copolycondensation in the absence of catalysts」J.Biomed.Mater.Res.25(3):315〜28(1991)
【特許文献15】Chujoら「Ring−opening polymerization of glycolide」Makromol.Chem.100:262〜6(1967)
【特許文献16】Fukuzakiら「Direct copolymerization of glycolic acid with lactones in the absence of catalysts」Eur.Polym.J.26(4):457〜61(1990)
【特許文献17】Kricheldorfら「Polylactones,2.Copolymerization of glycolide with β−propiolactone,γ−butyrolactone or δ−valerolactone」Makromol.Chem.186(5):955〜76(1985)
【特許文献18】Kricheldorfら「Polylactones,3.Copolymerization of glycolide with L,L−lactide and other lactones」Makromol.Chem.12(Polym.Specific Prop.):955〜76(1985)
【特許文献19】Nakayamaら「Synthesis and biodegradability of novel copolyesters containing γ−butyrolactone units」Polymer 39(5):1213〜1222(1998)
【特許文献20】Nakayamaら「Syntheses of biodegradable polyesters and effect of chemical structure on biodegradation」Nippon Kagaku Kaishi 1:1〜10(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
グリコール酸を含む一定種類のPHAコポリマーと、それを生成し使用する方法が、開発された。グリコール酸を含むコポリマーは、生細胞において、PHAポリメラーゼの作用による生合成を介して合成され得る。この細胞の遺伝的背景を変化することによって、PHBシンターゼ酵素またはPHAシンターゼ酵素によりPHAポリマー中に組み込まれ得るグリコール酸の補酵素Aチオエステルを生成する特定の代謝経路を、制御し得る。代表的な実施形態において、本明細書中に記載される方法は、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼ(PHAシンターゼ)をコードする生物遺伝子およびグリコリル−CoAの形成のための酵素をコードする生物遺伝子において発現することによって、グリコール酸含有ポリマーを生成する。このPHAシンターゼは、PHBシンターゼであっても、PHAシンターゼであってもよい。グリコリル−CoAの形成のための酵素としては、例えば、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、ジオールオキシドレダクターゼ、および/またはアシル−CoAトランスフェラーゼが挙げられる。アセトアセチル−CoAレダクターゼをコードするさらなる遺伝子およびβ−ケトアシル−CoAチオラーゼをコードするさらなる遺伝子もまた、他のPHAコモノマー前駆体(例えば、3−ヒドロキシブチリル−CoA)を提供するために使用され得る。好ましい実施形態において、生じるPHAは、グリコール酸と少なくとも1種の他のモノマー(例えば、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、3−ヒドロキシオクタン酸、3−ヒドロキシデカン酸、4−ヒドロキシ酪酸、または4−ヒドロキシ吉草酸)を含む。目的のPHAを含む特定のグリコール酸としては、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸−co−グリコール酸およびポリ−グリコール酸−co−4−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0014】
この生物は、トランスジェニック植物、トランスジェニック真菌、トランスジェニック酵母、またはトランスジェニック細菌であり得る。好ましくは、この生物は、細菌である。より好ましくは、この生物は、E.coliである。最も好ましい実施形態において、このE.coliは、脂肪酸酸化経路を構成的に発現する変異を有する。
【0015】
グリコール酸モノマーを含むポリマーは、種々の医療用デバイス(例えば、治療剤、予防剤もしくは診断剤、薬物送達、組織工学用足場、細胞カプセル化用デバイスを制御放出するためのデバイス;標的化送達するためのデバイス;生体適合性コーティング;生体適合性移植物;ガイドされる組織再生のためのデバイス;創傷包帯;整形外科用デバイス;補綴物;ならびに骨セメント)または診断剤を形成するために、使用され得る。
【0016】
グリコール酸を含むPHAポリマーは、標準的な産業的溶融押出し技術(適切な場合、溶融紡糸、溶融吹込み(melt blown)、射出成形、ブロー成形キャストフィルム(cast film)、またはブロー成形を含む)を使用して、繊維、フィルム、発泡体、または成形物品を形成するために使用され得る。グリコール酸含有PHAから作製された繊維は、衣類、使い捨て布巾(wipe)、および/または衛生物品(例えば、おむつ、または女性衛生用品)において有用な非織物品または編物物品を作製するために使用され得る。グリコール酸含有ポリマーは、他の物質(ポリ乳酸のような生分解性ポリマー、デンプンもしくは化学修飾デンプンまたは合成ポリエステル(テレフタル酸、コハク酸、1,4−ブタンジオールもしくはアジピン酸を構成ブロックとして含み、生分解性であり得る)を含む)と混合され得る。グリコール酸含有ポリマーは、種々の処理補助剤(核形成剤(nucleant)、可塑剤、架橋剤、熱安定化剤、着色剤、充填剤、および粘着防止(anti−blocking)剤を含む)を用いて処方され得る。
【0017】
(発明の詳細な説明)
(I.定義)
用語P4HBとは、本明細書中で使用される場合、4つの炭素原子とヒドロキシ酸の4位にあるヒドロキシル基とを有するモノマーから形成された、ポリヒドロキシアルカノエートを指し、これは、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)(P4HB)である。用語P4HBGAとは、4つの炭素原子とヒドロキシ酸の4位にあるヒドロキシル基とを有するモノマー(これは、4−ヒドロキシ酪酸である)と、2つの炭素とヒドロキシ酸の2位にあるヒドロキシル基とを有するモノマー(これは、グリコール酸である)とから形成された、ポリヒドロキシアルカノエートコポリマーを指す。従って、用語P4HBGAとは、ポリ(4−ヒドロキシブチレート−co−グリコレート)(P4HBGA)(図1)を指す。
【0018】
用語「MG1655/pFS73」とは、本明細書中で使用される場合、4−ヒドロキシ酪酸(4HB)を餌として利用して4−ヒドロキシブチリル−CoAを生成するE.coli株を指す。この4−ヒドロキシブチリル−CoAは、PHBシンターゼまたはPHAシンターゼによって重合され得る。MG1655/pFS73は、WO02/08428A2に記載される。
【0019】
(II.ポリ(ヒドロキシアルカノエート−co−グリコール酸)コポリマー)
(組成)
((1)ポリマー組成)
本明細書中で使用される場合、「PHA物質」は、1つの以上の、例えば、10個と100,000個との間の個数の、好ましくは100個と30,000個の間の個数の、以下の式I:
−OCR(CRCO−
の単位と、1つの以上の、例えば、1個と100,000個との間の個数の、好ましくは10個と30,000個の間の個数の、以下の式II:
−OCRCO−
の単位とを含み、
ここで、nは、整数であり、例えば、1と15との間の整数であり、好ましい実施形態では1と4との間の整数であり;そして
、R、RおよびRは、独立して、水素、または炭化水素ラジカル(長鎖炭化水素ラジカルを含む);ハロ置換ラジカルおよびヒドロキシ置換ラジカル;ヒドロキシラジカル;ハロゲンラジカル;窒素置換ラジカル;ならびに/または酸素置換ラジカルであり得る。
【0020】
本明細書中で使用される場合、式−(CR−は、以下の式:
−CR−(n=1である):
−CRCR3’4’−(n=2である);および
−CRCR3’4’CR3’’4’’(n=3である);
を包含するものと規定され、
、R、R3’、R4’、R3’’およびR4’’は、独立して、炭化水素ラジカル(長鎖炭化水素ラジカルを含む);ハロ置換ラジカルおよびヒドロキシ置換ラジカル;ヒドロキシラジカル;ハロゲンラジカル;窒素置換ラジカル;酸素置換ラジカル;ならびに/または水素原子であり得る。従って、式Iは、3−ヒドロキシ酸(n=1)、4−ヒドロキシ酸(n=2)、および5−ヒドロキシ酸(n=3)から誘導される、単位を包含する。
【0021】
このポリマーは、代表的には、300ダルトンを超える分子量、例えば、300ダルトンと10ダルトンとの間の分子量、好ましい実施形態では10,000〜10,000,000ダルトンの分子量を有する。
【0022】
好ましい実施形態において、このコポリマーは、3−ヒドロキシ酸モノマーまたは4−ヒドロキシ酸モノマーと、グリコレートモノマーとを含む、コポリマーである。特に好ましい実施形態において、このコポリマーは、ポリ−4−ヒドロキシブチレート−co−グリコレート(P4HBGA)である。
【0023】
(III.2−ヒドロキシ酸モノマーを含むPHAの生合成のための方法)
((1)ポリヒドロキシアルカノエートの合成)
1980年代中期の間に、いくつかの研究グループが、PHA合成を担う遺伝子および遺伝子産物を、積極的に同定しそして単離していた。これらの努力によって、微生物および植物の両方におけるPHAの生成のためのトランスジェニック系の開発、ならびにPHA合成のための酵素的方法の開発が、もたらされた。このような経路は、利用可能なPHA型をさらに増加し得た。これらの進歩は、Williams & Peoples、CHEMTECH 26:38〜44(1996)およびWillaims & Peoples、Chem.Br.33:29〜32(1997)に概説されている。
【0024】
PHAポリマーの分解速度を変化するように後に改変するために適切なPHAポリマーを生成するために使用され得る方法が、例えば、Holmesらに対する米国特許第4,910,145号;Byrom「Miscellaneous Biomaterials」Biomaterials(Byrom編)pp.333〜59(MacMillan Publishers,London 1991);Hocking & Marchessault「Biopolyesters」Chemistry and Technology of Biodegradable Polymers(Griffin編)pp.48〜96(ChapmanおよびHall,London 1994);Holmes「Biologically Produced(R)−3−hydroxyalkanoate Polymers and Copolymers」Developments in Crystalline Polymers(Bassett編)vol.2,pp.1〜65(Elsevier,London 1988);Laffertyら「Microbial Production of Poly−b−hydroxybutyric acid」Biotechnology (RehmおよびReed編)、第66巻、pp.135〜76(Verlagsgesellschaft,Weinheim 1988);Mueller & Seebach,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.32:477〜502(1993);Steinbuechel「Polyhydroxyalkanoic Acids」Biomaterials(Byrom編)pp.123〜213(MacMillan Publishers,London 1991);Williams & Peoples,CHEMTECH 26:38〜44(1996);Steinbuechel & Wiese,Appl.Microbiol.Biotechnol.37:691〜697(1992);米国特許第5,245,023号;同第5,250,430号;同第5,480,794号;同第5,512,669号;および同第5,534,432号;Agostiniら、Polym.Sci.,Part A−1 9:2775〜87(1971);Grossら、Macromolecules 21:2657〜68(1988);Duboisら、Macromolecules 26:4407〜12(1993);Le Borgne & Spassky,Polymer 30:2312〜19(1989);Tanahashi & Doi,Macromolecules 24:5732〜33(1991);Horiら、Macromolecules 26:4388〜90(1993);Kemnitzerら、Macromolecules 26:1221〜29(1993);Horiら、Macromolecules 26:5533〜34(1993);Hockingら、Polym.Bull.30:163〜70(1993);Xieら、Macromolecules 30:6997〜98(1997);Hubbsに対する米国特許第5,563,239号;Nodaらに対する米国特許第5,489,470号および同第5,520,116号に記載される。これらの方法に由来するPHAは、任意の形態(ラテックス形態または固体形態を含む)であり得る。
【0025】
組換え生物中のいくつかの微生物からのPHAの生合成に関与する遺伝子の同定、クローニングおよび発現は、ネイティブPHA生成体ではない生物におけるPHAの生成を可能にする。好ましい例は、E.coliであり、これは、生物薬剤の生成のため、および医療用適用のためのPHAの生成のために、十分に認識されている宿主である。このような組換え生物は、PHA生成プロセスについてのより高い程度の制御を研究者らに提供する。なぜなら、これらは、望ましくないPHA生成体の生合成のためのバックグラウンド酵素活性も、PHAの分解のためのバックグラウンド酵素活性も、含まないからである。さらに、組換え生物の適切な選択は、生成されるPHAの精製を容易にし得るか、または生成されるPHAの生体適合性の増加を可能にし得る。
【0026】
組換え生物におけるPHAの合成のための最低限の要件は、ヒドロキシアルカノイル−CoAおよび適切なPHAシンターゼの供給源である(Gerngross & Martin,Proc.Natl.Acad.Sci.92:6279〜83(1995))。従って、組換えPHA生成体は、ヒドロキシアルカノイル−CoAモノマーおよび適切なPHAシンターゼについての生合成経路を必要とする。ホモポリマーの生成は、PHAシンターゼについての唯一の適切な基質を生成する生物を必要とする。なぜなら、複数の基質の生成は、PHAコポリマーの形成をもたらすからである。例えば、PHAシンターゼをコードする導入遺伝子を含む組換え生物は、P4HBの生成のために十分である。
【0027】
1つの実施形態において、4−ヒドロキシ酪酸(4HB)を餌として利用する遺伝子操作されたE.coli株MG1655/pFS73におけるポリ−4−ヒドロキシ酪酸(P4HB)の生成をもたらす経路は、WO02/08428 A2(図2)に記載される。4HBが餌として使用される場合、P4HBは、遺伝子orfZによりコードされるアシル−CoAトランスフェラーゼによって触媒されるアセチル−CoAとのトランスエステル化反応による4HBから4HB−CoAへの活性化と、その後のPHAシンターゼ(phaC)による4HB−CoAの重合(図2)とを含む経路によって、その細胞中に蓄積される。図3が示すように、この経路は、1,4−ブタンジオールからのP4HBの生成を可能にするように改変されうる。この改変経路は、1,4−ブタンジオールをインサイチュで4HBへと酸化する2つのさらなる遺伝子(dhaTおよびaldH)の生成物を含む。P4HBの形成は、MG1655においてorfZおよびphaCを通ってのように進行する。
【0028】
((2)2−ヒドロキシ酸モノマーを含有するPHAの合成)
PHAの合成をもたらす経路は、2−ヒドロキシ酸単位を含むコポリマーを形成するようにグリコレートを組み込むように、改変され得る。例えば、特定の発酵条件下で、P4HBおよびポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−ヒドロキシブチレート)(PHB4HB)(WO 02/08428A2)の生成のために以前に構築された遺伝子操作されたE.coli株は、新規なPHA組成物ポリ4−ヒドロキシブチレート−co−グリコレート(P4HBGA)を生成し得る(図1)。
【0029】
グリコール酸モノマーの組み込みは、例えば、PHAシンターゼと、生物(例えば、E.coli)中でのグリコリル−CoAの形成をもたらす酵素とを同時発現させることによって、達成され得る。さらに、その生物株の遺伝的バックグラウンドを制御することによって、その細胞がグリコール酸単位をPHA中に組み込む能力を制御し得る。従って、その細胞の遺伝的バックグラウンドを変化させることによって、PHAポリマー中のグリコレート−co−モノマーのレベルを制御するために特定の代謝経路を制御し得る。
【0030】
グリコール酸モノマーを含むPHAの生成をもたらす経路は、生物(例えば、酵母、細菌、真菌、および植物)、好ましくは細菌、より好ましくはE.coliにおいて発現され得る。例えば、E.coli生成株は、グリコール酸モノマーを組み込むためのさらなる遺伝子を用いて、親株に基づいて操作され得る。この経路はまた、インサイチュでグリコリル−CoAを生成するように構築され得る。例えば、グリコレート単位を含むPHAの生合成におけるグリコレートモノマーであるグリコリル−CoAは、ブタンジオール酸化を触媒する同時発現する酵素を介して、形成され得る。PHAの生成のための他の経路は、外部供給(例えば、グリコール酸供給)を介してグリコリル−CoAの形成を触媒する酵素(例えば、アシルトランスフェラーゼ)を発現させることによって、遺伝子を組み込むように構築され得る。
【0031】
記載される方法論は、2−ヒドロキシ酸単位と他のヒドロキシ酸単位(例えば、3−ヒドロキシ酸)とを有するコポリマーを、例えば、PHAシンターゼをコードする遺伝子と、3−ヒドロキシ−CoAの形成をもたらす遺伝子および2−ヒドロキシアシル−CoAの形成をもたらす遺伝子(例えば、ブタンジオール酸化遺伝子(dhaTおよびaldH))とを発現させることによって、生合成するために使用され得る。
【0032】
2−ヒドロキシ酸単位を含むPHAコポリマーの合成のための生物学的経路を使用することに加えて、PHAコポリマーはまた、化学合成によって駆動され得る。広範に使用されている1つのアプローチは、種々の触媒または開始剤を用いるかまたは用いない、ラクトンモノマーの開環重合を含む(例えば、Chujoら「Ring−opening polymerization of glycolide」Makromol.Chem.100:262〜6(1967);Fukuzakiら「Direct copolymerization of glycolic acid with lactones in the absence of catalysts」Eur.Polym.J.26(4):457〜61(1990);Kricheldorfら「Polylactones,2.Copolymerization of glycolide with β−propiolactone,γ−butyrolactone or δ−valerolactone」Makromol.Chem.186(5):955〜76(1985);Kricheldorfら「Polylactones 3.Copolymerization of glycolide with L,L−lactide and other lactones」Makromol.Chem.12(Polym.Specific Prop.):955〜76(1985);Nakayamaら「Synthesis and biodegradability of novel copolyesters containing γ−butyrolactone units」Polymer 39(5):1213〜1222(1998);Nakayamaら「Syntheses of biodegradable polyesters and effect of chemical structure on biodegradation」Nippon Kagaku Kaishi 1:1〜10(2001)を参照のこと)。第2のアプローチは、エステルの縮合重合を含む。これは、Hubbsらに対する米国特許第5,563,239号に記載されている。研究者らはまた、PHAを調製するための酵素的方法を開発した。例えば、Xieら、Macromolecules 30:6997〜98(1997)は、耐熱性リパーゼによるβ−ブチロラクトンの開環重合によりPHBを生じることを開示する。
【0033】
(IV.PHAコポリマー組成物および医療用デバイスとしてのその使用)
本明細書中に記載されるポリマーは、種々のポリマー組成物を形成し得る。それらのポリマー組成物は、種々の生分解性医療用デバイスを調製するために有用である。本明細書中に記載されるPHAコポリマーから調製されたデバイスは、広範囲の種々の医療用適用のために使用され得る。このような適用の例としては、治療剤、予防剤もしくは診断剤の制御放出;薬物送達;組織工学用足場;細胞カプセル化;標的化送達;生体適合性コーティング;生体適合性移植物;誘導された組織再生;創傷包帯;整形外科デバイス;補綴物および骨セメント(接着剤および/または構造充填剤を含む);ならびに診断剤が挙げられる。
【0034】
本明細書中に記載されるPHAコポリマーは、種々の治療剤、予防剤、もしくは診断剤のいずれかをカプセル化するために使用され得、それらの薬剤のいずれかと混合され得、またはそれらの薬剤のいずれかにイオン結合もしくは共有結合され得る。広範な種類の生理活性物質が、ポリヒドロキシアルカノエートによるある部位への送達、またはこのポリマーへの特性(例えば、生体接着、細胞付着、細胞増殖の増強、細菌増殖の阻害、および血餅形成の防止)の付与のいずれかのために、カプセル化または組み込みされ得る。
【0035】
適切な治療剤および予防剤の例としては、合成無機化合物および合成有機化合物、タンパク質およびペプチド、多糖および他の糖、脂質、DNA核酸配列およびRNA核酸配列(治療活性、予防活性、もしくは診断活性を有する)が挙げられる。核酸配列としては、遺伝子、相補的DNAに結合して転写を阻害するアンチセンス分子、およびリボザイムが挙げられる。広範囲の分子量を有する化合物(例えば、1モル当たり100gと500,000gとの間)が、カプセル化され得る。適切な物質の例としては、タンパク質(抗体、レセプターリガンド、および酵素)、ペプチド(例えば、接着ペプチド)、糖および多糖、合成有機薬物もしくは合成無機薬物、および核酸が挙げられる。カプセル化され得る物質の例としては、酵素、血液凝固因子、インヒビターまたは血餅溶解剤(例えば、ストレプトキナーゼおよび組織プラスミノーゲンアクチベーター);免疫用抗原;ホルモンおよび成長因子;多糖(例えば、ヘパリン);オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)、およびリボザイム、および遺伝子治療において使用するためのレトロウイルスが挙げられる。このポリマーはまた、細胞および組織をカプセル化するために使用され得る。代表的診断剤は、X線により検出可能な薬剤、蛍光により検出可能な薬剤、磁気共鳴画像により検出可能な薬剤、放射能により検出可能な薬剤、超音波により検出可能な薬剤、コンピュータ連動断層撮影(CT)により検出可能な薬剤、および陽子射出断層撮影法(PET)により検出可能な薬剤である。超音波診断剤は、代表的には、気体(例えば、空気、酸素、または過フッ化炭化水素)である。
【0036】
制御放出の場合、広範囲の種々の生理活性化合物が、制御放出デバイス中に組み込まれ得る。これらとしては、疎水性、親水性、および高分子量の、高分子(例えば、タンパク質)が挙げられる。この生理活性化合物は、0.1重量%と70重量%との間、より好ましくは5重量%と50重量%との間のパーセント充填で、PHA中に組み込まれ得る。このPHAは、ほとんどあらゆる物理的形態(例えば、粉末、フィルム、成形物品、粒子、球、ラテックス、および結晶物質もしくは非晶質物質)であり得る。このPHAは、さらなる非PHA物質(例えば、他のポリマー)と合わされ得る。このPHAは、ゆっくり分解する生体適合性の成形可能な物質を必要とする適用(例えば、医療用デバイス)に置いて使用するために適切である。このポリマーから調製され得る医療用デバイスの例としては、ロッド(rod)、骨用ネジ(bone screw)、ピン(pin)、外科用縫合糸、ステント、組織工学用デバイス、薬物送達用デバイス、創傷包帯、およびパッチ(例えば、ヘルニアパッチおよび心膜パッチ)が挙げられる。
【0037】
本明細書中に記載されるPHAコポリマーを用いて製造された分解可能な移植物は、広範な種類の整形外科適用および脈管適用、組織工学、誘導された組織再生、および他の熱可塑性エラストマーにより現在遂行されている適用において、使用され得る(McMillin,Rubber Chem.Technol.67:417〜46(1994))。その移植物は、修復および治癒を刺激するために他の因子を含み得る。好ましいデバイスは、体液の通過のために適切なチューブである。これらのデバイスは、細胞付着因子、成長因子、ペプチド、および抗体、ならびにそれらのフラグメントを用いて改変され得る。
【0038】
医療用デバイスを製造する好ましい方法としては、溶媒キャスティング、溶融処理、押出し成形、射出成形および圧縮成形、ならびに噴霧乾燥が挙げられる。粒子は、当該分野において利用可能な方法を使用して、好ましくは、発酵ベースのプロセスから直接調製されるか、または溶媒蒸発技術によって、二重エマルジョン技術によって、またはマイクロフルイダイゼーションによって、調製され得る(Koosha,F.博士論文、1989、Univ.Nottingham,UK,Diss.Abstr.Int.B 51:1206(1990);Bruhn,B.W.およびMueller,B.W.,Proceed.Intern.Symp.Control.Rel.Bioact.Mater.18:668〜69(1991);Conti,B.ら、J.Microencapsulation 9:153〜166(1992);Ogawa,Y.ら、Chem.Pharm.Bull.36:1095〜103(1988);Mathiowitz,E.およびLanger,R.「Polyanhydride microspheres as drug delivery systems」M.Donbrow編、「Microcapsules Nanopart.Med.Pharm.」CRC,Boca Raton,Florida、1992、第5章、pp.99〜123)。
【0039】
本明細書中に記載されるPHAコポリマーは、創傷治癒のために適切なデバイスへと製造され得る。例えば、この目的のための非織繊維物質は、当業者に公知の手順を使用して、まず、ポリマー繊維を生成する工程、そのポリマーを、貫通した出口を通す工程によって、調製され得る。この繊維は、その後、固体支持体上にそれらを広げ、それを圧縮成形に供することによって、有孔膜(布地)へと製造され得る。そのデバイスの厚さは、好ましくは、500μm未満である。その創傷治癒デバイスはまた、レーザーを使用してフィルムもしくは膜に穿孔処理をして有孔性にすることによってか、または浸出技術を使用して有孔性物質を調製することによって、調製され得る。その孔径は、理想的には、細胞および他の組織物質を閉じ込めるために十分に小さくあるべきである。その創傷治癒デバイスは、組織を分離して組織再生を刺激するように、インビボで配置され得る。
【0040】
本明細書中に記載されるPHAコポリマーは、細胞をカプセル化するために使用され得る。当業者に公知の手順を使用して、細胞は、まず、予めコートされ得る。Maysinger、Reviews in the Neurosciences 6:15〜33(1995)。粒子カプセル化手順(例えば、二重エマルジョン技術)を使用して、その細胞は、その後、PHAによってカプセル化され得る。Ogawaら、Chem.Pharm.Bull.36:1095〜103(1988)。その後、カプセル化された細胞は、インビボで移植され得る。
【0041】
本明細書中に記載されるPHAコポリマーは、広範囲なポリマー処理技術を使用して、組織工学用足場へと製造され得る。PHA組織工学用足場を製造するための好ましい方法としては、溶媒キャスティング、溶融処理、繊維処理/紡糸/製織(weaving)、押出し成形、射出成形および圧縮成形、ラミネーション(lamination)、および溶媒浸出/溶媒キャスティングが挙げられる。このような方法は、当業者にとって公知である。
【0042】
本明細書中に記載されるPHAコポリマー組織工学用足場を製造するための他の好ましい方法としては、押出し成形機(例えば、Brabender押出し成形機)を使用することが挙げられる。例えば、この技術は、一定範囲の長さおよびサイズで移植に適切な押出し成形されたチューブを調製するために、使用され得る。
【0043】
別の好ましい方法は、繊維から非織PHA足場を調製することを包含する。繊維は、溶融物または溶液から生成され得、そして当業者にとって公知である方法を使用して、非織物へと処理され得る。この非織物の特性は、例えば、PHA物質、繊維の寸法、繊維の密度、物質の厚さ、繊維の方向、および繊維処理の方法を変化させることによって、調整され得る。その有孔性膜は、望ましい場合は、さらに処理され得る。例えば、これらの膜は、中空管へと形成され得る。
【0044】
別の好ましい方法は、適切なPHAを適切な成型へと溶融処理または溶媒処理する工程、およびレーザーまたは他の手段を使用してその物質を穿孔処理して望ましい有孔性を達成する工程、を包含する。また、好ましいのは、圧縮成型PHAシートをループ状へと巻き、熱シーリングする工程を包含する。このPHAシートは、必要に応じて、別の物質(例えば、第2の生分解性ポリマー)とともに巻かれ得る。例えば、後者の物質は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはグリコール酸と乳酸とのコポリマーから形成された非織物であり得る。そのような手順は、新規な脈管、管、およびチューブの操作において使用するために適切である、積層チューブを提供する。そのPHAはまた、他の組織工学用足場をコートするために使用され得る。このような物質は、他の分解性ポリマーから誘導され得る。コーティングは、例えば、溶媒ベースの溶液を用いてか、または溶融技術によってか、またはPHAラテックスを使用して、実施され得る。
【0045】
本明細書中に記載される組織工学用デバイスは、移植前または移植後に、細胞を播種され得る。その細胞は、ドナーの組織の健常切片から採集され得、細胞培養技術を使用してインビトロで拡大され得、その後、移植前または移植後のいずれかに足場(またはマトリックス)中に播種され得る。あるいは、これらの細胞は、他のドナー組織または既存の細胞株から得られ得る。
【0046】
本明細書中に記載されるPHAコポリマーは、他のデバイスおよび物質をコートするために使用され得る。そのようなコーティングは、医療用適用のためのその特性を改善し得、例えば、その生体適合性特性および機械的特性を改善し、そしてその分解プロフィールおよび制御放出プロフィールを調整し得る。本明細書中に記載されるPHAコポリマーは、上記の製造手順を使用して、他のデバイス上にコートされ得る。そのコーティングの厚さは、適用されるコーティング重量または濃度を変化させることによって、そして/または重層することによって、特定の適用の必要性に調整され得る。
【0047】
本明細書中に記載されるPHAコポリマーは、広範囲のポリマー処理技術を使用して、ステントへと製造され得る。PHAステントを製造するための好ましい方法としては、溶媒キャスティング、溶融処理、繊維処理/紡糸、押出し成形、射出成形、および圧縮成形が挙げられる。そのような方法は、当業者にとって公知である。
【0048】
移植前に、生体吸収性(bioresorbable)ポリマー物品は、レシピエントの疾患および感染を防止するために滅菌されなければならない。滅菌は、ポリマーデバイスに細胞を播種する前に実施される。PHA含有物品の加熱滅菌は、しばしば、非実用的である。なぜなら、その熱処理は、特にそのPHAがその加熱滅菌処置のために必要な温度より低い融解温度を有する場合には、その物品を変形させ得るからである。この問題は、滅菌剤として冷エチレンオキシドガスを使用することによって克服され得る。PHA含有物品を移植前にエチレンオキシド蒸気に曝露することによって、その物品は滅菌され、それによって、その物品は、移植のために適切になる。冷エチレンオキシドガスを用いる滅菌の間、そのPHA含有物品は、その形状を維持する。この処理の型は、理想的には、成形物品または予め形成された物品(その物品の形状は、その適切な機能において重要な役割を果す)の滅菌のために適切である。
【0049】
本明細書中に記載されるデバイスは、全身投与または局所投与され得るか、あるいは、特に細胞培養のためにインビトロで使用さえもされ得る。そのデバイスを全身投与する好ましい方法は、注入、吸入、経口投与、および移植である。そのデバイスを投与するための他の適切な方法としては、そのデバイスを、ローション、軟膏、パッチ、または包帯として、局所投与することが挙げられる。
【0050】
本明細書中に記載されるPHAポリマーは、生分解性または再生可能な資源からの生成が有利である、特定の有用性を有する一定範囲の適用において、従来の石油化学ポリマーを置換するものとして広く有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、ポリ(4−ヒドロキシブチレート−co−グリコレート)の化学構造を示す。
【図2】図2は、MG1655/pFS73においてポリ(4−ヒドロキシブチレート)を生成するための経路である。
【図3】図3は、1,4−ブタンジオールからポリ(4−ヒドロキシブチレート)を生成するための経路を示す。
【図4】図4は、fad系およびato系を介する4−ヒドロキシブチリル−CoAの酸化のための経路を示す。
【図5】図5は、ポリ(4−ヒドロキシブチレート−co−グリコレート)の生成のための経路を示す。
【0052】
以下の実施例は、本明細書中に開示される方法およびその方法により形成されるコポリマーをさらに示す。
【実施例】
【0053】
(実施例1.MBX1928におけるP4HBの生成)
(MBX1628株およびMBX1928株の説明)
MBX1928は、野生型Escherichia coli MG1655株(CGSC#6300)に基づく。MBX1928は、挿入された以下の4つの遺伝子を発現する:E.coli由来のaldH(アルデヒドデヒドロゲナーゼ)、Klebsiella pneumoniae由来のdhaT(ジオールオキシドレダクターゼ)(JohnsonおよびLin,1987、J.Bacteril.169:2050〜2054)、Clostridium kluyveri由来のorfZ(アシル−CoAトランスフェラーゼ)(SoehlingおよびGottshalk.1996,J.Bacteriol.178:871〜880)、ならびにRalstonia eutropha由来のphaC(PHAシンターゼ)。このaldH遺伝子およびdhaT遺伝子は、染色体中に(トランスポゾンTn10由来のテトラサイクリン耐性マーカー遺伝子とともに)挿入されている。このorfZ遺伝子およびphaC遺伝子は、プラスミドpACYC177由来のカナマイシン耐性マーカーとともに、プラスミド上に存在する。MBX1628は、MBX1928と同じ挿入遺伝子を有するが、但し、このMBX1628は、Escherichia coli LS5218株(CGSC#6966)に基づく。LS5218およびMG1655は、密接に関連しているが、顕著な例外は、LS5218が、2つの変異fadR601およびatoCconを含むことである。これらの変異の結果として、fad系のfadRリプレッサー遺伝子は活性ではなく、fadシステムは、抑制されず、一方、ato系のインデューサー(atoC)は、構成的に発現され、その結果、ato系は、構成的である。
【0054】
MBX1870は、MBX1628と同一であるが、但し、MBX1870は、Clostridium kluyveri orfZ遺伝子の代わりに、Pseudomonas oleovorans alkK(アシル−CoAトランスフェラーゼ)遺伝子を発現する(van Bellenら、1992、Mol.Microbiol.6:3121〜3136)。
【0055】
上記の株は、表1に纏められる。これらの挿入遺伝子によって、適切な供給源(例えば、1,4−ブタンジオール)を供給した場合に、これらの株がPHAを生成することが可能になる。
【0056】
(表1.使用されるE.coli株の説明)
【0057】
【表1】

【0058】
本明細書中に開示される遺伝子構築物の構築のために必要な種々の遺伝子のクローニングおよび単離は、十分に記載されている(例えば、Skralyら、Appl.Environ.Microbiol.64:98〜105(1998);SoehlingおよびGottschalk,J.Bacteriol.178:871〜880(1996);Sambrookら、Molecular cloning:A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989)を参照のこと)。本明細書中に記載される種々の遺伝子構築物の構築はまた、当該分野の知識内に十分に入る(Herreroら、J.Bacteriol.172:6557〜67(1990))。細菌(すなわち、E.coli)染色体中にaldH遺伝子、dhaT遺伝子およびtetA遺伝子を接合する技術および形質転換技術は、例えば、Herreroら(同書);Miller,Experiments in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1972;Sambrookら(上記)に記載される。
【0059】
(P4HB2GAの同定)
種々の分析試験により、このポリマー中にグリコール酸が存在することを確認する。バイオマスからのこのポリマーの抽出および選択的沈殿による精製の後、このポリマーを、核磁気共鳴(NMR)によって分析した。NMRスペクトルにおいて、そのグリコール酸コモノマーの存在が、4.6ppmでの一重項ピーク、ならびに4.2ppmおよび2.5ppmにおける2つのさらなる三重項によって示された。予想ピークは、1.9ppmの多重項の下にあった。この一重項ピークは、グリコール酸から生じ、一方、これらのさらなるピークは、4HB−GAおよびGA−4HBの異なる2つ組(diad)から生じる。
【0060】
高コモノマー含量であるポリマーサンプルは、MBX1870株を用いる低供給速度実験から入手可能であった。これらのサンプルは、GCによってそのコモノマーピークを同定するために役立った。そのグリコール酸ピークは、約4.0分という比較的短い保持時間と、他のヒドロキシ酸ブチルエステル誘導体と類似するピーク形状とを有する。グリコリド標準物およびコポリマーサンプルのスパイク(spiking)によって、このピークをグリコール酸ブチルとして確認した。
【0061】
(GCブタノール溶解(butanolysis)の一般的説明)
乾燥PHAバイオマス(5〜20mg)を、3mLブタン溶解試薬(9部ブタノール、1部濃塩酸、2mg/mlジフェニルメタンを含む)中に110℃にて2時間消化した。室温まで冷却したああと、その混合物を、3mLの水で洗浄し、その上部有機層をGC分析用に取り出した。GC分析を、SPB−1カラムとFID検出器とを備えたHP6890 GCにおいて実施した。GC条件は、以下の通りであった:80℃で2分間、10℃/分で250℃まで、250℃にて2分間;キャリアガスはヘリウム、2mL/分;ほぼスプリット1:50;注入体積1μl。定量的測定を、4−ヒドロキシ酪酸およびグリコール酸について、それぞれ、標準物であるγ−ブチロラクトンおよびグリコリド(グリコール酸の環状ダイマー)に対するピーク面積比較によって、行った。
【0062】
(GPC分析の一般的説明)
ポリマーサンプルを、乾燥バイオマス(0.5g)からクロロホルム(10mL)中へと少なくとも2時間抽出した。得られた溶液を、濾紙を通して濾過し、そのクロロホルム溶液をメタノール(50mL)に添加することによって、そのポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを収集し、そして風乾させた。そのポリマーのクロロホルム溶液(1mg/mL)を、Polymer Labs(Amherst,MA)からのPLGel 5μm混合カラムに対して流量1mL/分を使用するGPCによって、室温にて分析した。重量平均分子量を、狭い多分散性のポリスチレン標準物と比較して計算した。
【0063】
(発酵プロセス)
発酵接種物を、50mg/Lの硫酸カナマイシンと15mg/Lの塩酸テトラサイクリンとを補充した滅菌LB培地(10g/Lトリプトン、5g/L 酵母抽出物、5g/L NaCl)200mL中で増殖させた。各接種物を、約200rpmで攪拌する回転振盪器中で30℃にて16〜18時間インキュベートし、その後、それを使用して2L発酵槽または5L発酵槽に接種した。その初期発酵槽の培地は、1L当たり、以下を含んだ:グルコース 5g;酵母抽出物 20g;ダイズペプトン 20g;Na(NH)HPO 3.5g;KHPO・3HO 7.5g;KHPO 3.7g;MgSO 0.602g;FeSO・7HO 5.56mg;CoSO・7HO 5.62mg;ZnSO・7HO 0.58g;MnCl・4HO 3.96mg;CaCl・2HO 3.34mg;CuCl・2HO 0.34mg;塩酸チアミン 10mg;MAZU DF−204またはBreox FMT−30消泡剤 0.2mL;硫酸カナマイシン 50mg;塩酸テトラサイクリン 15mg。このグルコース供給溶液および1,4−ブタンジオール供給溶液は、各々、500g/Lの濃度であった。
【0064】
(発酵条件)
発酵は、30℃にて行った。そのpHを、希NHOH(15%)または希硫酸(3%)の添加によって、7.0(±0.2)に制御した。その空気流を、一定流速(1vvm)に設定した。その溶存酸素を、攪拌速度を変えることによって25%飽和に制御した。pH、温度、溶存酸素濃度、および攪拌(rpm)のオンライン測定を、連続データ取得を介して行った。グルコース濃度およびOD600を、オフラインで測定した。
【0065】
発酵槽に接種した後、その細胞を、OD600 50まで(約4〜5時間)増殖させた。PHAの生成を、1〜5g/Lで(望ましい1,4−ブタンジオール供給速度に依存する)1,4−ブタンジオールをバッチ添加することによって、開始した。その後、この発酵槽に、上記のグルコース供給物および1,4−ブタンジオール供給物を補充した。この1,4−ブタンジオール供給速度は、1〜5g/L/時間に維持した。このグルコース供給は、約5g/L/時間に維持した。グルコース濃度を、毎時間初めにオフライン測定し、供給速度を、そのグルコース濃度が<1g/L(好ましくは0.1g/L付近)を維持するように調整した。発酵は、合計約48時間の間実行した。細胞を、5,000gにて10分間の遠心分離によって収集し、水で洗浄した。細胞ペレットを、そのポリマーを後でクロロホルム中に抽出して分析するために、凍結乾燥によって乾燥した。このバイオマス中のポリマー組成およびポリマー濃度を、GCブタン溶解によって分析した。このPHAの分子量を、精製ポリマーサンプルのGPC分析によって決定した。種々の供給速度における種々の株についての結果を、以下の表2に示す。
【0066】
(表2.種々の供給速度の1,4−ブタンジオールにて操作したE.coli中で生成されたPHAの組成、収量、および分子量の分析)
【0067】
【表2】

*データ値は、2つの別個の実験からの平均である。
**N.D.=測定せず。
【0068】
構成的な脂肪酸分解経路を有する株(MBX1628およびMBX1870)は、1,4−ブタンジオールを供給した場合に、そのポリマー産物中にグリコール酸を組み込んだ。一方、野生型(従って、非誘導性)脂肪酸分解経路を有する株(MBX1928)は、同じ条件下でグリコール酸を組み込まなかった。
【0069】
当業者は、本明細書中に記載される方法および組成物の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、またはその等価物を、慣用的に過ぎない実験しか使用せずに確認可能である。そのような等価物は、上記特許請求の範囲によって包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ヒドロキシ酸含有ポリマーを生成する方法であって、
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)シンターゼをコードする外因性遺伝子と、2−ヒドロキシアシルCoAの生成のための少なくとも1種の酵素をコードする外因性遺伝子とを、生物中で発現させる工程
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記2−ヒドロキシアシルCo−Aは、グリコイルCoAである、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記PHAシンターゼは、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)シンターゼまたはポリ(4−ヒドロキシアルカノエート)シンターゼである、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記酵素は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、ジオールオキシドレダクターゼ、およびアシル−CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記遺伝子は、アセトアセチル−CoAレダクターゼおよびβ−ケトアシル−CoAチオラーゼからなる群より選択される酵素をさらにコードする、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記生物は、酵母、細菌、真菌、および植物からなる群より選択される、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記PHAシンターゼは、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)シンターゼである、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記PHAシンターゼは、ポリ(4−ヒドロキシアルカノエート)シンターゼである、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記PHAシンターゼは、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)シンターゼである、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記生物は、細菌である、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記生物は、E.coliである、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記生物は、fadR601構成的変異およびatoC構成的変異から選択される変異を有する、E.coliである、方法。
【請求項13】
請求項4に記載の方法であって、前記アルデヒドデヒドロゲナーゼは、E.coli由来であり、前記ジオールオキシドレダクターゼは、Klebsiella pneumoniae由来であり、そして前記アシル−CoAトランスフェラーゼは、Clostridium kluyveri由来である、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法によって形成される、ポリマー。
【請求項15】
請求項14に記載のポリマーであって、該ポリマーは、グリコール酸と少なくとも1種の他のモノマーとを含み、該少なくとも1種の他のモノマーは、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、3−ヒドロキシオクタン酸、3−ヒドロキシデカン酸、4−ヒドロキシ酪酸、および4−ヒドロキシ吉草酸からなる群より選択される、ポリマー。
【請求項16】
請求項14に記載のポリマーであって、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸−co−グリコール酸およびポリ−グリコール酸−co−4−ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される、ポリマー。
【請求項17】
ポリヒドロキシアルカノエートを生成する遺伝子操作生物であって、該ポリヒドロキシアルカノエートは、2−ヒドロキシ酪酸以外の2−ヒドロキシ酸を含む、生物。
【請求項18】
請求項14に記載のポリマーを含む組成物から形成された、医療用デバイス。
【請求項19】
請求項18に記載の医療用デバイスであって、該デバイスは、
治療剤、予防剤もしくは診断剤、組織工学用足場もしくは組織工学マトリックス、細胞カプセル化用デバイスを送達するためのデバイス;
治療剤、予防剤もしくは診断剤、生体適合性コーティングを標的化送達するためのデバイス;
生体適合性移植物;
創傷包帯;
整形外科用デバイス;
補綴物;ならびに
骨セメント
からなる群より選択される、デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−261398(P2009−261398A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144458(P2009−144458)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【分割の表示】特願2004−546663(P2004−546663)の分割
【原出願日】平成15年5月7日(2003.5.7)
【出願人】(398055233)メタボリックス,インコーポレイテッド (18)
【出願人】(501347936)テファ, インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】