説明

2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸の結晶多形体の製造方法

【課題】2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶を選択的に製造する方法を提供する。
【解決手段】2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を1−プロパノールまたは2−プロパノールまたはアセトニトリルに溶解し、これを冷却することを特徴とする2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法に関する。該化合物は、生体において尿酸の生合成を調節する作用を有し、高尿酸血症の治療薬として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
医薬品を製造するうえで、その原末である化学物質の結晶多形を制御することは、ICH(International Conference on Harmonisation)のQ6A「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」の中にも述べられている通り、その違いが製剤機能、バイオアベイラビリティ、安定性など医薬品としての性質に大きな影響を及ぼすことからも、重要なことと認識されている。
【0003】
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸の結晶多形に関しては、特許文献1にA晶、B晶、C晶、D晶、およびG晶の5種の結晶多形体および非晶質が存在すること、ならびにそれらの製造方法が開示されている。ここで示されている結晶多形体の製造方法とは、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸に所定のメタノールまたは2−プロパノールと、水との混合溶媒を加え、加熱攪拌してこれを溶解し、水を加えて冷却することにより所定のメタノール/水組成ならびに温度に設定し、その後、結晶を濾取・乾燥することにより、各結晶多形体を製造するものである。
【0004】
しかしながら、当該発明で提示する初期濃度の影響については、化学的純度ならびに回収量との関係で言及しているのみであり、得られる結晶多形体への影響は述べられていない。また、2−プロパノールと水の混合溶媒から晶析させる場合にはG晶が得られるとのみ記載されている。
【0005】
また、International Symposium on Industrial Crystallization(1998年9月21−25日、Tianjin、中国)において、Mr. M. Kitamura, Mr. M. Hanada, Mr. K. Nakamuraらは「Crystallization and transformation behavior of thiazole−derivative」の中で、A晶のみが得られると考えていたメタノール/水組成ならびに温度において、水添加時間を著しく変化させたとき、場合によっては晶析時にG晶、もしくはA晶とG晶の混合物を得られることが示されており、また、その後温度を変更して撹拌状態で維持することによりD晶に転移することが示されている。
【0006】
工業的に有用なA晶を製造する場合において、これら従来の方法においては、G晶が混入することが皆無とは言い切れない。G晶の混入を回避するためには水添加時間が限定されることから、工業的な製造には時間がかかってしまうという問題もある。
【0007】
一方、特許文献2には、メタノールあるいはメタノール/水混合溶媒に溶解した2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸に水を添加して結晶多形体を製造する方法であって、初期濃度および水添加時間を変えることを特徴とする、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶、G晶、またはA晶およびG晶の混合物の製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、こうした従来の混合溶媒系での晶析、例えばメタノール/水の比率が7/3の混合溶媒系での晶析では、A晶とは異なる結晶形もしくはA晶とは異なる結晶形とA晶との混合物として得られ、A晶を安定して得ることができなかった。
これまでは、単一溶媒から2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶を選択的に取得する技術は知られていなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO99/65885号明細書
【特許文献2】特開2003−261548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶を工業化に適した条件で選択的に得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を1−プロパノールまたは2−プロパノールまたはアセトニトリルに溶解し、これを冷却することを特徴とする2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法である。
すなわち、単一溶媒により2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を溶解するものである。
【0012】
ここで、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶とは、反射角度2θで表わして、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す結晶多形体をいう。あるいは、赤外分光分析において、1678cm−1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する結晶多形体と表現することもできる(特許文献1参照)。
【0013】
なお、特許文献1には、2−プロパノールと水の混合溶媒からG晶が得られることが示されているが、その溶媒の比率は明示されておらず、その実施例に1/1の溶媒量比の結果のみが示されている。よって特許文献1に記載の発明と本発明とは異なる。
【発明の効果】
【0014】
従来技術たる混合溶媒からの晶析では、その条件により、溶媒和物や水和物、あるいはそれらとの混合物で得られるところ、本発明の製造方法によれば、単一溶媒から条件変動の影響を受けずに2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶を選択的かつ安定的に取得できる効果がある。
【0015】
また、本発明の製造方法によれば、用いる溶媒が単一であるから、その回収が容易であり、工業的にも有利である。
すなわち、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶を、他晶形混在の可能性を低下させながら、工業化に適した条件で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を1−プロパノールまたは2−プロパノールまたはアセトニトリルに溶解し、これを冷却することを特徴とする2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法である。
【0017】
ここで、溶解時の溶質/溶媒の比であるが、1−プロパノールまたは2−プロパノールの場合は、0.01−0.1g/mLの範囲であることが好ましい。一方アセトニトリルの場合には、0.005−0.05g/mLの範囲が好ましく、またA晶の種晶を少量添加するのがより好ましい。
【0018】
本発明の製造方法における冷却操作の条件は、晶析としての効果を発現する限り、特に限定はない。
かかる条件としては、冷却前後の温度や冷却時間(さらには液温の時間曲線)、冷却装置等の冷却手段、攪拌の有無、攪拌をする場合の攪拌装置や攪拌速度、用いる容器などが考えられる。
【0019】
これらについては、当業者であれば、結晶の必要量、時間、コスト、現有設備等も考慮しつつ、後述する実施例を参考に、与えられた前提に対して適切な条件を見出すことができよう。
【0020】
必要があれば予備実験により条件を定めることもできる。なお、冷却前の温度は用いる溶媒の沸点が考慮されるべきである。また、冷却後の温度が低いと、用いる溶媒によっては溶媒和物を生じることもあるので、予め確認しておくことが望ましい。
冷却操作の一例として、15分程度で45℃から室温まで冷却する条件が挙げられる。
【0021】
また、溶解時に水を5%(V/V)以下添加してもよい。ここで、5%(V/V)の水とは、例えば全体溶媒量が100mLなら、5mLの水を意味する。5%(V/V)程度の水を貧溶媒として添加することは、得られる結晶多形体には影響しないから、収率、操作性を考慮して適宜添加することができるのである。
【0022】
ここで、5%(V/V)以下の水は、2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を溶媒に溶解する時点からこれを冷却する時点までに加えられる。なかでも、1−プロパノールまたは2−プロパノールまたはアセトニトリルにより溶解する時点で加えることが好ましい。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸2.2gに1−プロパノール50mLを加えて45℃で加熱攪拌し、溶解させた。この溶液を室温まで冷却し、析出した結晶をろ取して乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。また、溶媒を2−プロパノールに代えて同様の操作を行ったところ、A晶が得られた。
【0025】
[実施例2]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸量を1.8−2.4gの範囲で変化させ、1−プロパノール50mLを加えて50℃で加熱攪拌し、溶解させた。この溶液を室温まで冷却し、析出した結晶をろ取して乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。
また、溶媒を2−プロパノールに代えて同様の操作を行ったところ、A晶が得られた。
【0026】
[実施例3]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸1.5gに1−プロパノール47.5mLと水2.5mlを加えて50℃で加熱攪拌し、溶解させた。この溶液を室温まで冷却し、析出した結晶をろ取して乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。
また、溶媒を2−プロパノールに代えて同様の操作を行ったところ、A晶が得られた。
【0027】
[実施例4]
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸0.43gにアセトニトリル50mLを加えて45℃で加熱攪拌し、溶解させた。この溶液を室温まで冷却し、A晶の種晶を1−10mg程度添加して結晶を析出させ、析出した結晶をろ取して乾燥した。得られた結晶の粉末X線回折を行ったところ、A晶であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法によって得られる2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶は、医薬品として用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を1−プロパノールまたは2−プロパノールまたはアセトニトリルに溶解し、これを冷却することを特徴とする2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法。
【請求項2】
2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸を溶媒に溶解する時点からこれを冷却する時点までに、5%(V/V)以下の水を加える、請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−20950(P2011−20950A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166754(P2009−166754)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(505086613)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】