説明

2次元検出器表面におけるナノ粒子の高分解能検出のための方法

本発明は表面プラズモン共鳴分光器に関し、実質的に単色の放射を発する放射源と、センサ表面と、センサ表面で表面プラズモンが生成可能なように放射源から発せられた放射によってセンサ表面を照射するための光学配置と、複数の結像素子を有する検出器と、検出器上のセンサ表面によって反射された放射を描写するための観察光学系とを備え、観察光学系と検出器との分解能が、回折限界の放射源によって得ることが可能な分解能よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面プラズモン共鳴分光器に関し、
(a) 本質的に単色放射を発する放射源
(c) センサ表面
(b) 表面プラズモンがセンサ表面で生成されるように放射源によって発せられた放射でセンサ表面を照射するための光学アセンブリ
(d) 複数の検出素子を有する検出器、および
(e) 検出器上のセンサ表面によって反射された放射を結像するための観察光学アセンブリ
とを備える。
【0002】
本発明はまた、2次元センサ表面上の個々のナノ粒子の光学的検出のための方法に関する。
【0003】
光学アセンブリの分解能、すなわち光学顕微鏡において微小な対象物を観察するための能力は回折によって制限される。光学顕微鏡で解像可能な最小の粒子は0.2μm(200nmに対応)の範囲の直径を有する。要求されるアセンブリは高価である。
【0004】
電子顕微鏡による粒子の検出には真空が必要である。これもまた、高価であり、検出可能な粒子の選択肢を制限する。
【0005】
ウイルス、または、水中あるいは生体内のバッファ溶液内の、ナノメータの範囲での直径を有する対象の粒子(ナノ粒子)の選択的観察を可能にするラベルフリーな方法は知られていない。
【0006】
光学顕微鏡では、像のある特定の位置における光の強度の変化が分析される。観察が人間の目で行なわれるならば、その観測は網膜で達成される。検出器での検出は、たとえば、電荷結合素子(CCD)で達成される。その変化は、透過、回折指数の変化または色および環境といった、対象物の光学特性の違いによって引き起こされるので、対象物の特性が、それにより特徴付けられることができる。
【背景技術】
【0007】
K.−F. Giebel他による発表“Imaging of Cell/Substrate Contacts of Living Cells with Surface Plasmon Resonance Microscopy”, Biophysical J. Vol. 76, 1999 p. 509−516は、表面プラズモン分光器を開示する。
【0008】
Boecker他による発表“Differential Surface Plasmon Resonance Imaging for High−Throughput Bioanalyses”, Anal. Chem. 2007, Vol. 79, P702−709は、表面プラズモン分光器を開示する。
【0009】
DE 10 2004 033 869 B3は、2次元検出表面による表面プラズモン共鳴測定のための方法を開示する。
【0010】
DE 40 24 476 C1は、液体サンプル中の被測定物質の測定のために用いられるクレッチマンアセンブリ(Kretschmann-assembly)を開示する。
【0011】
DE 10 2005 054 495 A1は、空間分解測定に基づく表面プラズモン共鳴バイオセンサ中の分散測定および参照スポットの使用を開示する。参照スポットは、温度変動の補正を可能にする。一般的なSPR顕微鏡は、積分された測定信号が検出される所定の表面により動作する。十分な信号−雑音比を得るためには、表面に結合する分子の要求される層の厚みが達成されなければならない。この方法では、個々の粒子を検出することができない。
【0012】
Timothy M. Chinowsky, Tony Mctuis, Elain Fu および Paul Yagerによる発表“Optical and electronic design for a high−performance surface plasmon resonance imager”, Proc. SPIE Vol. 5621, 編者 Brian M. Cullum 2004年3月、P.173−182において、CCD検出器を用いた一般的なSPR方法が記述される。
【0013】
Bjorn M. Rheinhard, Hongyun Wang, Guoxin Rong およびLynell Skewinsによる発表“Resolving Sub−Diffraction Limit Encounters in Nanoparticle Tracking Using Linve Cell Plasmon Coupling Microscopy”および同じ著者によるNano Letters 2008, Vol.8, No.10, P.3386−3393は、金属ナノ粒子における局在プラズモン共鳴のための方法を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明の開示
本発明の目的は、個々のナノ粒子、特にウイルスを高い分解能で光学的に検出するための上記の種類のアセンブリおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、この目的は、観察光学系と検出器との分解能が、旧知の(classical)条件のもとで達成可能な放射源で得ることが可能な回折限界分解能よりも高いという点において達成される。驚くべきことに、ナノ粒子の観察は、粒子の直径よりもはるかに大きい波長でも可能であるということが見出された。たとえば、40nmの直径を有する粒子を、600nmより大きい波長で観察可能である。信号がノイズの中に消える状況を避けるために、好ましくは、その信号を正規化するために参照信号が生成される。参照信号は、センサ表面において粒子が結合する前にセンサ表面の同じ位置で検出された信号の平均を計算することによって生成されることができる。
【0016】
プラズモン共鳴の検出は、いわゆるクレッチマンアセンブリで達成され得る。反射の局所的な変化は、ナノ粒子とエバネッセント場との相互の効果によって引き起こされる。40nm未満のサイズを有する粒子がそのようなアセンブリによって検出可能である。さらに、数平方ミリメートルの表面を同時にモニタすることが可能である。そのアセンブリでは、粒子が200nm未満の距離で表面下に近接していること、あるいは、その表面に接触すらしていることが重要である。そのアセンブリは、ウイルス学的研究での使用および公共の場でのウイルスの検出に適している。また、方法は、高感度の医療診断に使用可能である。
【0017】
本発明によれば、粒子によって引き起こされる、センサ表面の反射の変化が観察される。本発明の好ましい変形において、この変化は、階段状であり、数μm2内に局在する。変化は、前もって知られていない位置および知られていない時点において測定される。位置および時点は、各々の粒子の測定の間に個々に発見されるべきものである。
【0018】
一般的なSPR結像方法で、信号が、前もって十分に定義された、比較的大きなスポット(>100×100μm2)で測定される。その位置においてそのように知られた方法でレセプタが適用され、結合が期待された。信号は、結合された粒子または分子の層の厚みに比例して連続的に増大する。表面は、回折指数の変化により反射の強い変化を確実にするセンサとして用いられる。
【0019】
反射の強い変化を有するそのような表面は、クレッチマンアセンブリにおける金の層により実現可能である。クレッチマンアセンブリにおいては、入射角が共鳴角に近いならば、反射は金の層に接触する媒質の回折指数に大きく依存する。
【0020】
粒子が表面と結合しているならば、粒子近傍の反射が変化する。そのような変化は、それ自身が像の対応する位置における輝度の変化であることを明らかにする。個々のナノ粒子によって起こされる変化は、小さくあるべきであり、一般的概念によれば観察することができないものである。本発明の目的は、40nmより小さい誘電体粒子の場合も、そのような変化を現代の技術で検出可能にすることである。一般的なSPR結像方法とは逆に、信号が検出可能な位置は予め決めることができず、測定の間に見つからなければならない。
【0021】
検出の選択性は、一般的なSPR結像方法と同様に、粒子とセンサ表面におけるレセプタとの結合の選択性によって確保される。
【0022】
反射の変化が、粒子のサイズおよび屈折指数に依存するので、それらは粒子の特徴付けに用いることが可能である。
【0023】
代わりに、反射の強い変化を有する表面は、プラズモン励起を可能にする周期的構造によって実現可能である。また、反射防止コートされたガラスまたは結晶表面が適している。反射防止コーティングは、粒子によって壊されて、環境における反射を増大させる。さらに、本発明の代わりの変形において、反射の強い変化を有する表面は、局在プラズモン共鳴の励起を可能にする金属ナノ粒子を有する表面によって実現される。そのような金属ナノ粒子は、センサ粒子として機能する。共鳴近くでは、粒子での散乱は屈折指数に依存する。異なる、非金属の粒子がセンサ粒子に結合されるならば、センサ表面の反射はこの点において変化する。最終的に、反射の強い変化を有する表面は、表面プラズモン共鳴が励起されることが可能な光多層構造によって実現可能である。
【0024】
本発明のさらなる変形は従属請求項の主題である。実施の形態が、添付の図面を参照して以下により詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ナノ粒子およびウイルスの検出のためのクレッチマンアセンブリの概略的表現である。
【図2】粒子の有無での共鳴波長付近の反射信号のグラフを示す。
【図3】粒子が結合している場合における、ある期間での信号の時間依存性を示す。
【図4】粒子直径に対する信号の依存性を示す。
【図5】0.08μmの直径を有するポリスチロール粒子の場合における、さまざまな観察期間のあとの観察された表面の画像を示す。
【図6】ナノ粒子およびウイルスの検出のための金スポットの形態での規則的構造を有するアセンブリの概略的な表現である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施形態の説明
図1は、結像構成におけるクレッチマンアセンブリを示し、それは概して符号10で示される。そのようなアセンブリ10は、それ自体既に知られている。表面プラズモン分光器の動作方法は、したがって、ここでは詳細には説明されない。ガラスプレート12は、50nmの金層14でコートされている。金層14と反対側のガラスプレート12の側16は、プリズム18に固定される。液浸油が、光学的接触を固定し改善するために用いられる。
【0027】
金層14は、スーパールミネッセントダイオード22からの放射20で照射される。適したダイオード22の例は、可視光領域の波長670nmで放射するQフォトニクス(Qphotonix)によるQSDM−680−9である。照射はプリズム18を介して固定された入射角24で達成される。放射源としてのレーザとは逆に、スーパールミネッセントダイオードは、放射プロファイルにおいて不規則性(スペックル)を有していない。入射角24は、ダイオードの波長が共鳴最小(resonance minimum)の左側に現れるように、すなわち最小角に選択される。
【0028】
平行放射バンドルの生成のために、レンズ26が用いられる。曲面鏡もまたここで用いられ得ることが理解される。
【0029】
液体のためのサンプル容積が、フローセル28の形態で金層に配置される。フローセル28は1mmの厚みでS字状のPDMSシールに形成される。フローセル28の背面部(図示せず)はプレキシガラス(Plexiglas)からなる。さらに、チューブの形態での入口および出口がフローセル28に設けられる。フローセル28のセル容積は約300μLである。
【0030】
プレート12のガラス表面はセンサ表面を形成する。センサ表面は、標準的なミノルタ(Minolta) フォトオブジェクティブ(Photo objective)30を有する電荷結合素子(CCD)に結像される。オブジェクティブ30のアパーチャは1/1.7である。CCD検出器は、6.45×6.45μmの画素サイズを有するCappa−100 CCDである。検出器の飽和容量は、画素あたり40000電子である。検出器32は、〜1000×1000画素の表面を有する。7倍の倍率で、1画素が〜1μmのセンサ表面に対応する。センサ表面の増加により、画像は水平面(p平面)における光軸に対して相対的に圧縮される。ここで、1画素が〜1.4μmのセンサ表面に対応する。この増加は、また鮮明な画像が得られ得るセンサ表面の範囲の重大な制限を引き起こす。
【0031】
粒子の観察のために画像が最大で100画像/秒の割合で読出される。画像は保存されて評価される。
【0032】
十分に動作する実施形態において、読出周波数は40画像/秒である。10画像の平均が算出される。この目的のため、強度の平均が画素ごとに算出されて、さらなる処理のために保存される。
【0033】
元の画像の強度分布はとても不均一である。これは、表面の小さな不規則性に関するセンサ表面の高い感度による。概して、多くの点では、最大で70%の、平均値からの偏差を有することが見られ得る。センサ表面の20μmのスポット内での±10%の局所的不均一性が、残っている画像の場合に典型的である。強度分布は時間的に相対的に安定である。不均一性を低減するために、正規化ステップが適用される。参照画像が、期間38(図3)にわたる平均を算出することによって生成されるが、その場合には粒子の懸架(suspension)は存在しない。その後の画像36における各画素の強度は、各画素に対する参照画像中の平均値で正規化される。それにより、局在的な不均一性が、±1%を超えないように実現される。
【0034】
センサ表面12における粒子38(図1)の結合は、対応する画素における跳躍的な強度変化40(図3)をもたらす。そのような階段40は、粒子の結合によって影響されるすべての画素にわたり積分される。これは、図4に示されるように信号を構成する。階段40のための値は、結合粒子38を特徴付ける。
【0035】
ショットノイズは、最小の検出可能な強度の階段の本質的な制限的要因である。ショットノイズを最小化するために、画素容量Cと読出周波数Fとの最大の積が用いられる。40000光電子の画素容量では、〜20000のみ起こり得る。そうでない場合、画像の重大な不均一性による、いくつかの画素の飽和が存在するだろう。
【0036】
この実施形態において、40画像/秒の平均が10画素にわたり積分される。それにより、2×106の電子が結合粒子に対応する表面において蓄積される。これは、7×104のショットノイズに対応する。この方法では、10-3のオーダーの階段を検出可能である。これは、ショットノイズが制限要因であることを意味する。
【0037】
図5における画像は、CCDカメラ32で検出されたものである。粒子の結合は、その後の画像において直接的に観察可能である。粒子は140秒で噴出された。粒子の信号を定量化するために、図3に示されるように、粒子の画像の範囲における強度の時間依存性が測定される。信号の粒子サイズに対する依存性は、図4に見ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴分光器であって、
(a) 本質的に単色の放射を発する放射源と、
(c) センサ表面と、
(b) 表面プラズモンが前記センサ表面において生成されるように、前記放射源によって発せられる前記放射で前記センサ表面を照射するための光学アセンブリと、
(d) 複数の検出素子を有する検出器と、
(e) 前記検出器上の前記センサ表面によって反射された前記放射を結像するための観察光学アセンブリとを備え、
(f) 前記観察光学系と前記検出器との分解能は、旧知の条件の下で達成可能な前記放射源で得ることが可能な回折限界分解能よりも高いことを特徴とする、表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項2】
クレッチマン配置におけるセンサ表面であることを特徴とする、請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項3】
前記放射源は、スーパールミネッセンスダイオードであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項4】
前記センサ表面が金層でコートされていることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項5】
観察される粒子と前記センサ表面との間の接触を確立するための手段を備えることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項6】
前記センサ表面は、プラズモン励起を可能にする周期的構造によって生成された反射の強い変化を有する表面であることを特徴とする、請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項7】
前記センサ表面は、結合される粒子での強い反射の変化を有する非反射のガラスまたは結晶表面である、請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項8】
前記センサ表面は、前記放射源の波長における局在プラズモン共鳴の励起を可能にする結合粒子での反射の強い変化を有する金属ナノ粒子の表面である、請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項9】
前記センサ表面は、表面プラズモン共鳴を励起可能な、光多層構造である、請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項10】
前記検出器は、時間的に続く複数の強度信号を各画素で検出するための電荷結合素子であり、処理手段は、ショットノイズの低減のために時間平均値を生成するように適合されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項11】
知られていない時点において、前記センサ表面上で前もって知られていない位置のいずれにおいても、前記粒子または分子は、前記反射の階段状の局部的変化を引き起こすことを特徴とする、請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光器。
【請求項12】
公共の表面でのウイルスの検出によるウイルス学的研究、または高感度医療診断における、先行する請求項のいずれか1項に記載の表面プラズモン共鳴分光器の使用。
【請求項13】
表面プラズモン共鳴分光器による2次元測定表面における個々のナノ粒子の光学的検出のための方法であって、
(a) 表面プラズモンが前記センサ表面において生成されるように、単色放射源からの放射で前記センサ表面を照射するステップと、
(b) 前記センサ表面上または前記センサ表面の直近の範囲内に、観察のための粒子を導入するステップと、
(c) 複数の検出素子を有する検出器で前記センサ表面からの放射を検出するステップとを備え、
(d) 前記粒子は、前記放射源で得ることが可能な回折限界分解能よりも高い分解能で観察されることを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−519271(P2012−519271A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551477(P2011−551477)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052229
【国際公開番号】WO2010/097369
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(504301856)ライブニッツ−インスティテュート・フュア・アナリティシェ・ビッセンシャフテン−イー・エス・アー・エス−アインゲトラーゲナー・フェライン (2)
【Fターム(参考)】