説明

2鎖2親水基含有陽イオン性化合物

【課題】可溶化剤、乳化剤、抗菌剤、殺菌剤、繊維柔軟剤、頭髪処理剤、無機担体の表面処理剤、顔料分散剤、相間移動触媒として用いられる2鎖2親水基含有陽イオン性化合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)


(式中、R1は炭素原子数8から20までのアルキル基又は2−ヒドロキシアルキル基、R及びRは低級アルキル基又は2−ヒドロキシエチル基を示し、Sは一般式(2)−O−M(R)−O−を少なくとも1つ含有する炭素原子数が8から16の炭化水素鎖、MはTi原子、Si原子、Zr原子、Ge原子から選択される1つの原子を示し、Rは炭素原子数1から4のアルキル基またはアルコキシル基、Xは塩素原子又は臭素原子を示す。)で表わされることを特徴とする2鎖2親水基含有陽イオン性化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン性化合物に関し、更に詳細には、2鎖2親水基含有陽イオン性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、従来の1鎖1親水基含有化合物2分子を共有結合で2分子連結させた2鎖2親水基含有化合物が、そのすぐれた界面活性能のために低濃度の配合で済み、環境への負荷が低減化され、皮膚刺激もほとんどないなどの特徴から、研究開発が進められてきている(特許文献1参照)。実際、本願発明者は、2鎖2親水基含有化合物が対応する"モノマー"に比べて皮膚安全性にすぐれることを明らかにした(非特許文献2参照)。しかし、2鎖2親水基含有化合物の新たな機能を探索すべく、新たな2鎖2親水基含有化合物が望まれているが、その開発は十分にはなされていない。
【0003】
【特許文献1】特許第3426493号公報
【非特許文献2】Kazuyuki Tsuboneら著、ジャーナル オブ サーファクタント アンド ディタージャント(Journal of Surfactant & Detergent, 第6巻、1号、39−46頁、2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みなされたものであり、連結部にTi原子、Si原子、Zr原子、Ge原子から選択される1つの原子を含む2鎖2親水基含有陽イオン性化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、後記一般式(1)で表される連結部にTi原子、Si原子、Zr原子、Ge原子から選択される1つの原子を含む2鎖2親水基含有陽イオン性化合物が、既存の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物にはない高い機能を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1は炭素原子数8から20までのアルキル基又は2−ヒドロキシアルキル基、R2及びR3は低級アルキル基又は2−ヒドロキシエチル基を示し、Sは下記一般式(2)
【化2】

を少なくとも1つ含有する炭素原子数が8から16の炭化水素鎖、MはTi原子、Si原子、Zr原子またはGe原子を示し、Rは炭素原子数1から4のアルキル基またはアルコキシル基、Xは塩素原子又は臭素原子を示す。)で表わされることを特徴とする2鎖2親水基含有陽イオン性化合物である。
【0007】
本発明の連結部に上記一般式(2)を含む炭化水素鎖を含有の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物は、界面活性に起因する可溶化作用だけでなく、抗菌作用を有するので、抗菌剤、殺菌剤として利用することができる。また、繊維柔軟剤、頭髪処理剤、無機担体の表面処理剤、顔料分散剤、乳化剤、相間移動触媒としても用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物は、一般式(1)において、疎水基R1として、8から20までの炭素原子数を持つ長鎖アルキル基又は2−ヒドロキシ長鎖アルキル基を、R2及びR3として、1から3の炭素原子数を持つアルキル基又は2−ヒドロキシエチル基、2つの4級窒素原子間の連結基Sとして、化2の一般式(2)を含有する炭素原子数が8から16の炭化水素鎖を含む。Xは塩素原子又は臭素原子である。
【0009】
尚、一般式(1)において、連結基のsに含まれるMがSi原子のときのみ、R1が直鎖アルキル基(炭素原子数12〜18)、R2とR3がメチル基のとき、R1が直鎖アルキル基(炭素原子数12〜18)、R2およびR3のうちいずれかが2−ヒドロキシエチル基であるときと比べて、焼成してもメソポーラス構造が消失しないという後述の効果の点でやや劣る。
【0010】
また、R1、R2およびR3が同じ場合で、連結基のsに含まれるMのTi原子,Si原子,Zr原子またはGe原子の、焼成してもメソポーラス構造が消失しないという後述の効果は、Si原子<Ti原子=Zr原子=Ge原子の順に勝れ、すなわち、特にTi原子、Zr原子あるいはGe原子の場合に顕著な効果を発揮することができる。
【0011】
化3における2鎖2親水基含有陽イオン性化合物は、N−長鎖アルキル−N,N−ジメチルアミン(3)と1,3−ジクロロプロパン(4)を原料として無水エタノール中で反応させて得られる(ジャーナルオブアメリカンオイルケミスツソサイエティー、第73巻、7号、907頁〜911頁)。本発明の一般式(1)で表される2鎖2親水基含有陽イオン性化合物は、化3における(4)の代わりにビス(1−クロロ−2−プロパノラート)チタニウム(5)を用いる他は同じ操作によって得られる。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
N−長鎖アルキル−N−ジメチルアミン(3)とビス(1−クロロ−2−プロパノラート)チタニウム(5)を反応させて本発明の物質(1‘)を得る反応は、有機溶媒中室温〜100℃、好ましくは45℃〜80℃で10時間〜50時間攪拌することにより行われる。有機溶媒としては、例えばアセトニトリル、エタノール、ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0015】
より詳しく、化4のスキームに基づき本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物を製造する場合の実施態様を化4中の(3)の長鎖疎水基としてテトラデシル基を用いて説明すれば次の通りである。
【0016】
塩化メチレン20mlに1,2−プロピレンオキシド(4g、70ミリモル)を溶解させて塩化メチレン20mlに溶解させたTiCl2(OEt)2(2g、9.6ミリモル)に滴下して0℃〜35℃の温度で2時間〜48時間攪拌する。減圧下溶媒を除去した後、蒸留後、化3における(5)を得る。
【0017】
化4における(5)(3.25g、0.01モル)およびN−テトラデシル−N,N−ジメチルアミン(12.75g、0.05モル)をエタノール50ml中還流下10時間から48時間攪拌する。減圧下溶媒を除去し、アセトンを再結晶溶媒として用いて精製後、化5の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物5.2gを得る。
【0018】
【化5】

【0019】
上記のN,N−ジメチル−N−テトラデシルアミンの代わりに、N,N−ジメチル−N−ドデシルアミン、N,N−ジメチル−N−ヘキサデシルアミン、N,N−ジメチル−N−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−N−2−ヒドロキシドデシルアミン、N,N−ジメチル−N−2−ヒドロキシテトラデシルアミン、N,N−ジメチル−N−2−ヒドロキシオクタデシルアミンを用いることにより一般式(1)における長鎖疎水基鎖長R1の異なる本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物を得る。また、化4の(5)の代わりに化6で表される化合物又は1,2−ブチレンオキシドとTiCl2(OEt)2から得られる化7で表される化合物を用いることによっても一般式(1)における連結部sの構造の異なる本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物を得る。
【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
TiCl2(OEt)2の代わりにTiCl2(O−Pr)2、TiCl2(O−Bu)2用いても本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物を得ることができる。TiCl2(OEt)2の代わりにTiBr2(OEt)2を用いることにより、対イオンとして臭素原子を用いることができる。
【0023】
かくして得られる本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物は、可溶化剤、乳化剤、抗菌剤、殺菌剤、繊維柔軟剤、頭髪処理剤、無機担体の表面処理剤、顔料分散剤、乳化剤、相間移動触媒としても用いられるだけでなく、化粧料、鉱石の浮遊選鉱、油井採掘においても有用である。また、本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物は、水溶液中で規則性をもって分子状に配列したメソポーラス構造の鋳型(テンプレート)としても利用することができる。連結部に上記一般式(2)を含まない2鎖2親水基含有陽イオン性化合物の集合体を鋳型とする場合、例えば硫酸チタンを用いてTiO2メソポーラス材料調製後、物質を除去するために焼成すると、メソポーラス構造は消失する。一方、本発明の連結部に上記一般式(2)を含む2鎖2親水基含有陽イオン性化合物の集合体を鋳型とする場合、焼成してもメソポーラス構造が消失しない。
【0024】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0025】
参考例1
塩化メチレン20mlに1,2−プロピレンオキシド(4g、70ミリモル)を溶解させて塩化メチレン20mlに溶解させたTiCl2(OEt)2(2g、9.6ミリモル)に滴下して10℃で10時間攪拌する。減圧下溶媒を除去した後、蒸留後、化4における(5)1.8gを得る。沸点は125℃/0.01mmHgである。
【0026】
実施例1
参考例1で得た化4における(5)(3.25g、0.01モル)およびN−テトラデシル−N,N−ジメチルアミン(12.75g、0.05モル)をエタノール50ml中還流下48時間攪拌する。減圧下溶媒を除去し、アセトンを再結晶溶媒として用いて精製後、化5の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物5.2gを得た。これを試料としてメチレンブルー法により試験を行った結果、水溶液相が濃青色になり陽イオン性化合物としての定性反応を示した。
【0027】
実施例2
参考例1で得た化4における(5)(3.25g、0.01モル)およびN−2−ヒドロキシテトラデシル−N,N−ジメチルアミン(12.85g、0.05モル)をエタノール50ml中還流下48時間攪拌する。減圧下溶媒を除去し、アセトンを再結晶溶媒として用いて精製後、得られた白色結晶の13C−NMRスペクトルを図1に示した。52.4ppmに4級窒素に結合するメチル基が確認されたことから、得られた化合物は化8で表されるものであることがわかった。また、これを試料としてメチレンブルー法により試験を行った結果、水溶液相が濃青色になり陽イオン性化合物としての定性反応を示した。
【0028】
【化8】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物は、その会合体を鋳型として用いて、硫酸チタニア又は硫酸ジルコニウムと反応させた後、鋳型構造を維持しながらも、物質を焼成により除去が可能な耐熱性にすぐれるメソポーラスシロキサン、メソポーラス酸化チタン、メソポーラス酸化ジルコニウム等を調製することができる。メソポーラス物質は、細孔内に様々なビタミン類、有効成分、薬効成分を取り込ませることができることから、化粧料への応用が可能である。メソポーラスシリカは物質の分離分析のための充填剤としての応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例2で得られた本発明の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1は炭素原子数8から20までのアルキル基又は2−ヒドロキシアルキル基、R2及びR3は低級アルキル基又は2−ヒドロキシエチル基を示し、Sは下記一般式(2)
【化2】

を少なくとも1つ含有する炭素原子数が8から16の炭化水素鎖、MはTi原子、Si原子、Zr原子またはGe原子であり、Rは炭素原子数1から4のアルキル基またはアルコキシル基、Xは塩素原子又は臭素原子を示す。)で表わされることを特徴とする2鎖2親水基含有陽イオン性化合物。
【請求項2】
MがTi原子、Zr原子またはGe原子であることを特徴とする請求項1に記載の2鎖2親水基含有陽イオン性化合物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156319(P2008−156319A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350025(P2006−350025)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】