説明

2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)の製造方法

【課題】簡便で高純度な2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)の製造方法を提供する。
【解決手段】式R1−CHO(II)(式中、R1は水素又はアルキル基を表す。)で示されるアルデヒドと、ジアルキルフェノールとを、陰イオン系界面活性剤、水及び炭化水素の存在下に縮合反応させる縮合工程を含む式(I)


(式中、R1は前記と同じ意味を表し、R2及びR3はアルキル基を表す。)で表される2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)の製造方法であり、上記縮合工程が、特定の式で示されるジアルキルフェノール100重量部に対し、水90〜200重量部及び炭化水素5〜30重量部の存在下で行われ、上記縮合工程における反応温度が40℃以上、80℃未満であることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)

(式中、R1 は水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2 及びR3 はそれぞれ独立に炭素数2〜5のアルキル基を表す。)
で表される2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)(以下、ビスフェノール(I)と記すことがある。)は、天然ゴム、合成ゴム、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂や油脂などの酸化防止剤などに汎用されている。
ビスフェノール(I)の1種である2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−エチルフェノール)の製造方法としては、例えば、2−tert−ブチル−4−エチルフェノール及びパラホルムアルデヒドを粉状シリカゲルアルミナ及びn−ヘキサン存在下に副生する水を反応系外に除去しながら加熱還流して、純度が89.2重量%の2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−エチルフェノール)を得ることが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51−110547号公報(実施例1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高純度な2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)を、さらに簡便に製造する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らが鋭意検討した結果、
[1]:式(II)
1−CHO (II)
(式中、R1 は水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
で示されるアルデヒド(以下、アルデヒド(II)と記すことがある。)と、式(III)

(式中、R2 及びR3 はそれぞれ独立に炭素数2〜5のアルキル基を表す。)
で示されるジアルキルフェノール(以下、ジアルキルフェノール(III)と記すことがある。)とを、陰イオン系界面活性剤、水及び炭化水素の存在下に縮合反応させる縮合工程を含む式(I)

(式中、R1 、R2 及びR3 は前記と同じ意味を表す。)
で表される2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)の製造方法であり、上記縮合工程が、式(III)で示されるジアルキルフェノール100重量部に対し、水90〜200重量部及び炭化水素5〜30重量部の存在下で行われ、上記縮合工程における反応温度が40℃以上、80℃未満であることを特徴とする製造方法;
【0006】
[2]:陰イオン系界面活性剤が、アルキル基が置換していてもよいナフタレンスルホン酸ナトリウム及びアルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン系界面活性剤であることを特徴とする[1]記載の製造方法;
[3]:炭化水素が、炭素数5〜10の脂肪族炭化水素及び炭素数6〜12の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素であることを特徴とする[1]又は[2]記載の製造方法;
[4]:式(III)で示されるジアルキルフェノールが、2−t−ブチル−4−エチルフェノールであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか記載の製造方法;
[5]:縮合工程が、さらに、酸存在下で行う工程であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか記載の製造方法;
[6]:さらに、以下の工程を含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか記載の製造方法;
前記縮合工程で得られた反応溶液と炭化水素とを混合させる希釈工程、
前記希釈工程で得られた反応液を塩基により中和する工程
前記中和工程で得られた反応溶液を冷却する結晶化工程

等の発明に至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高純度なビスフェノール(I)をさらに簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるR1 としては、水素又は炭素数1〜3のアルキル基であり、該アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピル等が挙げられる。
アルデヒド(II)としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒドまたはイソブチルアルデヒド等を挙げることができる。好ましくは、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。
アルデヒド(II)としては、パラホルムアルデヒドなどのように無水のアルデヒド(II)であってもよいし、水溶液のアルデヒド(II)であってもよい。
【0009】
好ましいアルデヒド(II)の使用量としては、例えば、ジアルキルフェノール(III)1モルに対して、0.5〜1モルなどが挙げられ、より好ましくは、例えば、0.5〜0.8モルなどが挙げられる。
【0010】
2 及びR3 で表されるアルキル基とは、炭素数2〜5のアルキル基であり、例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、 sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、t−ペンチルなどを挙げることができる。R2 及びR3 は同一であっても異なっていてもよい。
好ましいR2 としては、例えば、エチルなどを挙げることができる。また、好ましいR3 としては、例えば、 sec−ブチル、t−ブチル、t−ペンチルなどを挙げることができ、より好ましくは、 t−ブチル、t−ペンチルなどが挙げられる。
好ましいジアルキルフェノール(III)としては、例えば、2−t−ブチル−4−エチルフェノール、2−t−ブチル−4−プロピルフェノールなどを挙げることができ、より好ましくは、例えば、2−t−ブチル−4−エチルフェノールなどが挙げられる。
【0011】
本発明で用いられる陰イオン系界面活性剤としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基を有していてもよいナフタレンスルホン酸ナトリウム、炭素数1〜20のアルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウム、炭素数1〜20のジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及び炭素数1〜20のジアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどを挙げることができる。好ましくは、例えば、モノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができ、より好ましくは、例えば、ジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0012】
モノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムとしては、「ペレックスNB−L(花王(株)の登録商標)」が市販されており、該市販品をそのまま使用すればよい。アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウムとしては、「サンデットAL(三洋化成(株)の登録商標)」が市販されており、該市販品をそのまま使用すればよい。ジアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとしては、「センデールS(第一工業製薬(株)の登録商標)」が市販されており、該市販品をそのまま使用すればよい。ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムとしては、「ネオペレックスOT−P(花王(株)の登録商標)」が市販されており、該市販品をそのまま使用すればよい。
【0013】
好ましい陰イオン系界面活性剤の使用量としては、例えば、ジアルキルフェノール(III)100重量部に対し0.01〜1重量部などを挙げることができる。より好ましくは、例えば、0.05〜1重量部などが挙げられ、とりわけより好ましくは、例えば、0.1〜0.9重量部などが挙げられる。
【0014】
本発明の縮合工程で存在する炭化水素としては、例えば、n‐ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、シクロヘプタン、シクロヘキサンなどの炭素数5〜10の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、シメン、クロルベンゼンなど炭素数6〜12の芳香族炭化水素などを挙げることができる。
好ましくは、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどが挙げられ、より好ましくは、例えば、n−ヘキサンなどが挙げられる。
【0015】
縮合工程における炭化水素の存在量は、ジアルキルフェノール(III)100重量部に対し5〜30重量部である。好ましくは、7〜25重量部などが挙げられ、より好ましくは、9〜2重量部である。
【0016】
縮合工程における水の存在量は、ジアルキルフェノール(III)100重量部に対し90〜200重量部である。好ましくは、95〜160重量部などが挙げられ、より好ましくは、100〜150重量部である。
尚、水溶液のアルデヒド(II)を用いる場合には、水溶液のアルデヒド(II)に水が含まれていることから、上記重量範囲の水として、水溶液のアルデヒド(II)に含まれる水の重量が含まれる。
【0017】
縮合工程においては、さらに、酸存在下に反応させることが好ましい。酸としては、例えば、硫酸、塩酸、燐酸などの鉱酸、トルエンスルホン酸などの有機酸等が挙げられる。好ましくは、例えば、塩酸、硫酸等が挙げられ、より好ましくは、例えば、硫酸等が挙げられる。
酸の使用量としては、例えば、ジアルキルフェノール(III)1モルに対し、0.01〜0.1モル等を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.015〜0.10モル等が挙げられ、より好ましくは、0.017〜0.09モル等が挙げられる。酸は、水等で希釈したものであっても、高濃度のものであってもよい。
【0018】
縮合工程における反応温度は、40℃以上80℃未満であり、好ましくは、例えば、60℃以上80℃未満等などが挙げられる。
【0019】
縮合工程は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれで行ってもよいが、好ましくは、大気圧下で行う。
また、縮合工程における反応時間は、アルデヒドの種類によっても異なるが、例えば、10分〜24時間等を挙げることができる。好ましくは、例えば、2〜18時間等が挙げられ、より好ましくは、例えば、1時間〜15時間等が挙げられる。
【0020】
縮合工程において、結晶のビスフェノール(I)を種晶として、予め存在させることが好ましい。種晶の添加量としては、ジアルキルフェノール(III)100重量部に対し、例えば、0.005〜0.5重量部等が挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法で得られるビスフェノール(I)としては、例えば、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−プロピル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−エチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−エチレンビス(4−プロピル−6−t−ブチルフェノール)等を挙げることができる。好ましくは、例えば、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0022】
縮合工程で得られた反応溶液は、さらに、例えば、カラムクロマトグラフィー、再結晶、リパルプ等により精製してもよい。好ましい本発明の製造方法は、次に挙げる希釈工程、中和工程、及び結晶化工程を含むことが好ましい。
希釈工程とは、前記縮合工程で得られた反応溶液と炭化水素とを混合させる工程である。ここで、炭化水素としては、前記に例示された炭化水素等を同様に例示することができる。好ましい炭化水素としては、例えば、前記縮合工程で用いられた炭化水素等を挙げることができる。
希釈工程における炭化水素の使用量としては、例えば、ジアルキルフェノール(III)100重量部に対し、10〜100重量部等を挙げることができる。好ましくは、例えば、10〜90重量部等が挙げられ、より好ましくは、10〜80重量部等が挙げられる。
【0023】
中和工程とは、前記希釈工程で得られた反応液を塩基により中和する工程である。
ここで、塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム等を挙げることができる。好ましくは、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられ、より好ましくは、例えば、アンモニア等が挙げられる。
塩基は、例えば、塩基をそのまま用いてもよいし、水に溶解させて用いてもよい。好ましくは、例えば、塩基として1〜40重量%を含有する水溶液等を挙げることができ、おり好ましくは10〜35重量%を含有する水溶液等が挙げられ、とりわけより好ましくは、20〜35%重量%を含有する水溶液等が挙げられる。
中和工程で得られた水のpHとしては、例えば、5〜7.5等を挙げることができ、より好ましくは5.0〜7.3等が挙げられる。
【0024】
結晶化工程とは、前記中和工程で得られた反応溶液を冷却する工程である。
結晶化工程における冷却温度としては、例えば、5〜60℃の温度範囲等が挙げることができる。
結晶化工程は、上記温度範囲にて、例えば、0.5〜72時間等、冷却する工程等を挙げることができる。
【0025】
結晶化工程において、結晶として取り出せるビスフェノール(I)としては、例えば、結晶中におけるビスフェノール(I)含有量が95重量%以上などを挙げることができ、好ましくは、例えば、98重量%以上などが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
実施例において、得られた結晶における2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)の含有量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって求めた。
【0027】
(実施例1)
縮合工程:水172gを40℃に調整した後、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウムとしてサンデットAL(三洋化成(株)の登録商標)0.8g、98%硫酸2g、n−ヘプタン18g、4−エチル−2−t−ブチルフェノール149g及び37%ホルマリン水溶液38gを加えた。37%ホルマリン水溶液は水18gで洗いこんだ。種晶として2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)31mgを加えた後に、内温73℃まで昇温し、71℃から75℃の温度範囲で5時間撹拌した。
希釈工程:縮合工程で得られた結晶を含む混合液にn−ヘプタン54gを加えた。
中和工程:希釈工程で得られた結晶を含む混合液に25%アンモニア水を加えてpH6.1に調整した。
結晶化工程:中和工程で得られた結晶を含む混合液、内温15℃まで冷却し、同温度で20時間保温した後、ろ過した。
n−ヘプタン及び水で洗浄した。乾燥して2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)を収率88%、得られた結晶における2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)の含有量は98.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、高純度なビスフェノール(I)をさらに簡便に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)
1−CHO (II)
(式中、R1 は水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
で示されるアルデヒドと、式(III)

(式中、R2 及びR3 はそれぞれ独立に炭素数2〜5のアルキル基を表す。)
で示されるジアルキルフェノールとを、陰イオン系界面活性剤、水及び炭化水素の存在下に縮合反応させる縮合工程を含む式(I)

(式中、R1 、R2 及びR3 は前記と同じ意味を表す。)
で表される2,2’−アルキレンビス(4,6−ジアルキルフェノール)の製造方法であり、上記縮合工程が、式(III)で示されるジアルキルフェノール100重量部に対し、水90〜200重量部及び炭化水素5〜30重量部の存在下で行われ、上記縮合工程における反応温度が40℃以上、80℃未満であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
陰イオン系界面活性剤が、アルキル基が置換していてもよいナフタレンスルホン酸ナトリウム及びアルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
炭化水素が、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素及び炭素数6〜12の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
式(III)で示されるジアルキルフェノールが、2−t−ブチル−4−エチルフェノールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
縮合工程が、さらに、酸存在下に縮合反応を行う工程であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、以下の工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
縮合工程で得られた反応溶液と炭化水素とを混合させる希釈工程、
希釈工程で得られた反応液を塩基により中和する工程
中和工程で得られた反応溶液を冷却する結晶化工程

【公開番号】特開2010−241701(P2010−241701A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89777(P2009−89777)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】