説明

2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテル化合物

【課題】 光学材料用組成物原料として有用な脂肪族系の低分子化合物であり、アリル基を2個有する化合物として、未反応の水酸基が少なく効率的にアリルエーテル化された、不純物の少ない2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテルを工業的に生産し、提供する。
【解決手段】 水素化ビスフェノールAを前駆体としてハロゲン化アリルとアルカリ金属水酸化物とを用い脱塩反応させる方法において、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのアルカリに対して非反応性のエーテル系溶剤を使用することにより、高収率で目的化合物が得られるだけでなく、有効な純度のものが工業的製造方法で得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用組成物原料として有用な脂肪族系の低分子化合物でSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個有する新規の化合物およびその製造法に関する。
詳しくは、耐熱性、光学的透明性を与える化学構造として水素化ビスフェノールA骨格を有する高純度化された水素化ビスフェノールAのジアリルエーテルと水素化ビスフェノールAジメタリルエーテル、およびこれらを高純度で得ることのできる製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アリルエーテル化合物を製造する場合、水酸基含有化合物とハロゲン化アリル(通常は塩化アリル)を過剰のアルカリ金属水酸化物の存在下で、最大80℃程度で脱塩反応によって製造される。
出発原料の水酸基含有化合物が反応温度以下でも液状のものや、ハロゲン化アリルと相溶性の良いものであれば反応の進行は容易である。また、ビスフェノールAのようなフェノール性の水酸基を含有する出発原料の場合は、反応温度以下で固体であってもフェノラート化してアルカリ水溶液に溶解するため、相関移動触媒などを用いれば水中でエーテル化反応が進行する。
しかしながら、水素化ビスフェノールAは融点が約145℃であり、塩化アリルとの相溶性も悪く、アルカリ水溶液を使用した場合もアルコラート化せず溶解しない。したがって、ほとんど反応が進行しない。
【0003】
下記の特許文献1には、水素化ビスフェノールAのジビニルエーテルを合成する技術としてその合成例に、アルカリ触媒存在下、溶剤としてジメチルスルホキシドを用い、アセチレンガスを反応させる方法が開示されている。しかしこの方法は、非常に収率が悪く、さらにシリカゲルカラムを用いて精製を行なっており、工業的な製造方法としては実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−286216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、光学材料用組成物原料として有用な脂肪族系の低分子化合物でSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個有する化合物として、未反応の水酸基が少なく効率的に アリルエーテル化された、不純物の少ない2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテルを工業的に生産し、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、水素化ビスフェノールAを前駆体としてハロゲン化アリルとアルカリ金属水酸化物とを用い脱塩反応させる方法において、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのアルカリに対して非反応性のエーテル系溶剤を使用することにより、高収率で目的化合物が得られるだけでなく有効な純度のものが工業的製造方法で得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記化学式(1)および(2)で表され、塩素含有量が100ppm以下であり、両末端のアリルエーテル化率または両末端のメタリルエーテル化率が95%以上であることを特徴とする2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテル化合物、およびその製造方法である。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【発明の効果】
【0009】
本発明の新規な高純度の化合物は脂環式化合物であることから、芳香族化合物に比べ、光学的透明性、耐光性に優れた硬化物を与え得る組成物であり、さらにSiH基との反応により架橋することに由来する優れた物理的、熱的、電気的性質を示す光学材料用硬化性組成物原料となる。
目的物質であるジアリルエーテル化合物は、さらに酸化することによって産業上、特に電子材料として有用な水素化ビスフェノールAエポキシ化合物に誘導できる。現在はビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合物を水添することにより得られているものが最も高純度である。しかし、この方法では全塩素含有量は200〜500ppmの塩素を含有している。例えば、電子材料用途では塩素が電気絶縁性の低下などの原因となる。特に、最近のエレクトロニクス分野や高機能塗料分野などの技術革新により、不純物塩素が極端に少ない高純度の液状エポキシ樹脂への要求が高まっている中で本発明の前駆体は有益である。また、現行品はエピクロルヒドリンを用いた縮合物なので単分散ではなく、分布を有しているため、粘度が高い。低粘度化という点で分布の単分散化が望まれている。その点、本発明の単分散の前駆体が合成できる点で非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明化合物2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物の赤外スペクトルを示すものである。
【図2】図2は、本発明化合物2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】図3は、本発明化合物2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】図4は、本発明化合物2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテル化合物の赤外スペクトルを示すものである。
【図5】図5は、本発明化合物2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテル化合物の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】図6は、本発明化合物2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテル化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の新規な高純度の化合物は、上記化学式(1)で表され、塩素含有量が100ppm以下であり、両末端のアリルエーテル化率が95%以上であることを特徴とする2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物(A)、および上記化学式(2)で表され、塩素含有量が100ppm以下であり、両末端のメタリルエーテル化率が95%以上であることを特徴とする2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテル化合物(B)である。すなわち、片末端だけしかアリルエーテル化またはメタリルエーテル化されていない不純物が、5%以下、好ましくは3%以下しか含まないことを特徴とする。
【0012】
本発明の化合物である2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物(A)および2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテル化合物(B)[以下、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物(A)と2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテル化合物(B)を2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテル化合物を略称することがある。また、アリルとメタリルを(メタ)アリルと総称することがある。]の原料である2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[別名:水素化ビスフェノールA])は、工業原料として市販されているものを使用することができる。
【0013】
市販の水素化ビスフェノールAは、通常、水酸基がエクアトリアル位またはアキシャル位にある配座異性体の混合物であり、エクアトリアル位にある方が熱エネルギー的に安定で含有割合も多い。エクアトリアル/アキシャルはおおよそ7/3の割合である。これらは再結晶法により分離することもできる。ハロゲン化アリルを用いてエーテル化反応をさせた場合、これらの立体異性は保持されたままエーテル化される。
【0014】
本発明の化合物である2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテル化合物の製造では、例えばジエチレングリコールジメチルエーテルなどの非反応性エーテル系溶剤(E)を必須成分として、この溶剤中に水素化ビスフェノールAとアルカリ金属水酸化物(D)を攪拌して分散させ、40〜90℃の範囲でアリルクロライド、メタアリルクロライドなどのハロゲン化アリル(C)を滴下させ、さらに反応効率を上げるため水酸基とハロゲン化アリルのエーテル化反応を二段階で行うことが好ましい。
【0015】
一段目の反応として、まず水素化ビスフェノールAの1モルに対して、1〜1.5モルのアリルクロライドまたはメタアリルクロライドとアルカリ金属水酸化物(D)を反応させることで、水素化ビスフェノールAの(メタ)アリルエーテル化物を液状化させる。続いて、反応物に水を加え生成した塩化ナトリウムを溶解しその水層(下層)を除去する。二段目の反応として、残った有機層(上層)に再度1〜1.5モルのアリルクロライドまたはメタアリルクロライドとアルカリ金属水酸化物(D)を追加し反応を行うことで、収率よく高度にエーテル化された2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテル化合物が得られる。反応効率を上げるということは、エーテル化反応の律速段階であるアルコラート化を促進させるということであり、液状化により水酸基が活性化され、大量に生成する水と塩化ナトリウムを一旦除去することで固形アルカリ金属水酸化物の固体表面が更新されアルコラート化しやすくなると考えられる。
【0016】
本発明の2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテル化合物を製造する際には、原料の水素化ビスフェノールAの水酸基の両末端共をアリルエーテル化させる必要がある。このアリルエーテル化率を、95%以上、好ましくは97%以上にするためには、溶剤として非反応性エーテル系溶剤(E)を用いる必要がある。
【0017】
そのための非反応性エーテル系溶剤(E)としては、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)などのグライム類、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランが好ましい。水素化ビスフェノールAの溶解性、反応後の除去性の観点から、エチレングリコールジメチルエーテルとジエチレングリコールジメチルエーテルがさらに好ましい。
【0018】
本反応に使用されるアルカリ金属水酸化物(D)としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムの固形物が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。これらの固形アルカリ金属水酸化物は単独でも、2種類以上の混合物であっても良い。これらの固形アルカリ金属水酸化物の形状は、粒状、フレーク状、粉状の何れでも良い。大きさは、粒状物は好ましくは直径1〜5mm、フレーク状物は好ましくは0.5〜3cm角、粉状物は好ましくは30〜100μmであるが、本発明はこれに限定されない。作業従事者の取り扱い上、粒状が好ましい。
【0019】
反応温度は通常40℃〜90℃であり、好ましくは60〜80℃であり、より好ましくは70〜80℃である。40℃未満であると反応の進行が非常に遅く効率的でない。90℃を超えると、容器の材質が耐久性の良いSUS316Lであっても腐食を起こす可能性がある。
【0020】
反応は、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下(酸素濃度が好ましくは100ppm以下)で行うことが好ましい。水素化ビスフェノールA、非反応性エーテル系溶剤(E)、(メタ)アリルクロライド(C)、固形アルカリ金属水酸化物(D)の混合投入の順序は、水素化ビスフェノールAと非反応性エーテル系溶剤を混合し、固形アルカリ金属水酸化物を分散させ、室温で減圧と窒素等による不活性ガスでの置換を繰り返した後、減圧にして(メタ)アリルクロライドを滴下する方法が好ましい。
水素化ビスフェノールA、非反応性エーテル系溶剤、(メタ)アリルクロライドを混合し、最後に固形アルカリ金属水酸化物を混合投入する方法では、アルカリ金属の溶解熱で(メタ)アリルクロライドが突沸したり、エーテル化物が着色し易くなる。
【0021】
一段目の反応後の反応混合物に水を投入し、過剰のアルカリ金属水酸化物と生成塩を溶解させ分液する。分液後、有機層にさらに固形アルカリ金属水酸化物を投入し、窒素置換後、減圧下で(メタ)アリルクロライドを滴下して70〜80℃で約6〜8時間で反応を完結させる。
【0022】
二段目の反応後の反応混合物に再度水を投入し、過剰のアルカリ金属水酸化物と生成塩を溶解させ分液する。分液後、有機層にアルカリ吸着剤を投入し、好ましくは70〜120℃、減圧下(好ましくは−85KPaG以下)で非反応性エーテル系溶剤、過剰の(メタ)アリルクロライド及び水を共に留去した後、ろ過することにより、収率よく高度にエーテル化された2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテル化合物を得ることができる。
【0023】
2段目の分液後の有機層に投入する該アルカリ吸着剤(F)は、例えば合成珪酸マグネシウム(例えば、「キョーワード600」:協和化学工業社製)、合成珪酸アルミニウム(例えば、「キョーワード700」:同上)、ハイドロタルサイト類(例えば、「キョーワード2000」:同上)、活性白土(例えば、「ガレオンアース」:同上))等が挙げられ、好ましくは合成珪酸マグネシウムである。
これらの吸着剤と共に、ケイソウ土ろ過助剤(例えば、「ラヂオライト」:同上)を使用しても良い。アルカリ吸着剤の添加量は、分液後の有機層に対して好ましくは0.1〜2.0重量%である。非反応性エーテル系溶剤、過剰の(メタ)アリルクロライド及び水を留出する温度は好ましくは70〜120℃であり、より好ましくは90〜115℃である。留出温度が70℃以上であると実用的な留出速度が得られ、120℃以下であると非反応性エーテル系溶剤が効率よく回収でき、リサイクル使用が可能となる。圧力は好ましくは−85KPaG以下であり、より好ましくは−95KPaG以下である。−85KPaG以下であると実用的な留出速度が得られる。
【0024】
本発明の化合物(A)および(B)中の塩素含有量は、100ppm以下、好ましくは50ppmである。塩素含有量を少なくすることにより、電子材料への用途に使用することができる。
【0025】
本反応には必要により公知の相間移動触媒(G)を使用してもよい。
相間移動触媒(G)としては、好ましくは第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級アルソニウム塩等が挙げられ、より好ましくは第4級アンモニウム塩である。第4級アンモニウム塩には、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムハイドロサルフェート、トリオクチルアンモニウムクロライド、n−ラウリルピリジニウムクロライド等が含まれる。第4級ホスホニウム塩には、例えばテトラエチルホスホニウムクロライド、ジメチルジシクロヘキシルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムヨーダイドが含まれる。第4級アルソニウム塩には、例えばテトラメチルアルソニウムクロライド、テトラエチルアルソニウムブロマイド、テトラエチルアルソニウムヒドロオキサイドが含まれる。
これら相間移動触媒を本発明の反応系に添加する場合の添加量は、水素化ビスフェノールAに対して、好ましくは0.5重量%以下であり、より好ましくは0.2重量%以下であり、特に好ましくは0.1重量%以下である。0.5重量%以下の使用で、著しい着色がなく、かつ実用的な反応速度が得られる。混合する方法、時期には特に限定はないが、反応前に添加を行うのが好ましい。
【0026】
本発明の製造法によれば、未反応の水酸基が少なく、かつ効率的にアリルエーテル化された、不純物の少ない2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテルが工業的に製造できる。また、本発明の実施により得られる2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジ(メタ)アリルエーテルは、シリコーンの変性剤やエポキシ樹脂への中間体として利用され、電気・電子材料、塗料分野、接着剤分野等で使用される樹脂の中間体として特に有益である。
【0027】
以下、実施例により、本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されない。以下において、部は重量部を示す。
【0028】
<塩素含量測定法>
反応液A:ナトリウムメチラート28%メタノール液2.67gを精秤し、メタノール110ml、アセトン405mlを加えて均一とし、ブロムフェノールブルー指示薬を1ml加える。
試料10g(S)を100mlビーカーに秤かりとり、反応液Aを50mlホールピペットで加え、10分間スターラーで撹拌する。これに硝酸約10滴を加え、電位差自動滴定装置(例えば、京都電子株式会社製 AT-500自動滴定装置)を用いて、0.0025mol/L硝酸銀標準溶液で滴定する(Aml)。ブランクについても同様の操作を行い(Bml)、式(1)に従い算出する。
塩素イオン含有量(ppm)={(A−B)×2.5×35.5×f}/S 式(1)
但し、f:チオシアン酸アンモニウム滴定用溶液の力価、 S:試料採取量(g)
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
実施例1
底に内容物の取出口が付いた1Lの簡易加圧反応装置に水素化ビスフェノールA(新日本理化株式会社製、リカビノールHB)を240g(1.0モル)、ジエチレングリコールジメチルエーテル240g、粒状水酸化ナトリウム60g(1.5モル)及びベンジルトリメチルアンモニウムクロリド50%水溶液2gを混合し、撹拌、分散させながら、窒素置換を行い、減圧下に30〜40℃でアリルクロライド114.8g(1.5モル)を滴下した。滴下後、圧力を見ながら温度を徐々に上げ、80℃で8時間反応させた。反応液に320gの水を加え、10分撹拌、20分静置後、下層(水層)を分液除去した。残った上層は均一な淡黄色の液状であった。
この上層に再度、粒状水酸化ナトリウム60g(1.5モル)及びベンジルトリメチルアンモニウムクロリド50%水溶液2gを混合し、撹拌、分散させながら、窒素置換を行い、減圧下に30〜40℃でアリルクロライド114.8g(1.5モル)を滴下した。滴下後、圧力を見ながら温度を徐々に上げ、80℃で10時間反応させた。反応液に320gの水を加え、10分撹拌、20分静置後、下層(水層)を分液除去した。上層(有機層)にアルカリ吸着剤としてキョーワード600S(協和化学工業社製)を2.5g加え、120℃、減圧下で脱溶剤を行った後、ろ過して本発明の2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物を得た。
得量は310gであり、原料の水素化ビスフェノールA換算による理論得量320gに対して収率97%の高収率であった。塩素含量の分析値は5.4ppmであった。水酸基価は10.4であり、原料の水素化ビスフェノールAの水酸基価467から水酸基のエーテル化率は97.8%であった。得られた2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物の赤外スペクトル、1H−NMR、13C−NMR分析を行った。
【0031】
図1〜3に赤外スペクトル、1H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルを示す。
赤外スペクトル:2925,2860,1650(C=C),1454,1369,1350,1127,1077,1030,993,915cm−1
1H−NMR(CDCl,300MHz):δ5.90(m,2H),5.25(dd,2H),5.12(dd,2H),4.00−3.93(d,4H),3.58−3.18(m,2H),2.1−1.7(m,8H),1.5−0.9(m,10H),0.7(s,6H)
13C−NMR(CDCl,300MHz):δ135.7,115.8,78.0,72.3,68.5,43.5,36.4,32.7,24.8,20.5
【0032】
実施例2
2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテルもアリルクロライドをメタリルクロライドに変えて同様の合成方法で製造することができ、塩素含量7.5ppmであった。水酸基価は8.4であり原料の水素化ビスフェノールAの水酸基467から水酸基のエーテル化率は98.2%であった。赤外スペクトル、1H−NMR、13C−NMR分析を行った。
【0033】
図4〜6に2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテルの赤外スペクトル、1H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトルを示す。赤外スペクトル:2925,2860,1650(C=C),1442,1356,1341,1100,1087,1030,971,893cm−1
1H−NMR(CDCl,300MHz):δ4.92(s,2H),4.81(s,2H),4.02−3.83(d,4H),3.58−3.18(m,2H),2.1−1.65(m,8H),1.7(s,6H),1.5−0.9(m,10H),0.7(s,6H)
13C−NMR(CDCl,300MHz):δ143.1,111.4,77.8,71.8,65.8,43.4,36.6,33.6,32.8,30.7,25.0,20.6,19.5
【0034】
比較例
実施例で用いたジエチレングリコールジメチルエーテルをトルエンに換えて一段目の反応を同様に実施しようとした。
しかし、水素化ビスフェノールAは80℃で一部トルエンに溶解するが、アルカリ金属水酸化物が有機層に移行しなかった。また、相関移動触媒のベンジルトリメチルアンモニウムクロリドも効果的ではなく、反応が進まなかった。水素化ビスフェノールAは固体のまま回収された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の新規な高純度の化合物は、前述したように、脂環式化合物であることから、芳香族化合物に比べ、光学的透明性、耐光性に優れた硬化物を与え得る組成物であり、さらにSiH基との反応により架橋することに由来する優れた物理的、熱的、電気的性質を示す光学材料用硬化性組成物の原料として利用できる。
さらに、本発明の新規な高純度の化合物を酸化することによって産業上、特に電子材料として有用な水素化ビスフェノールAエポキシ化合物に誘導できる。特に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合物を水添することにより得られている現行品が全塩素含有量は200〜500ppmの塩素を含有しているのに対して、本製造で得られた高純度の前駆体を参加していられるものは、実質上塩素を含有しないものを得ることができる。従って、塩素が電気絶縁性の低下などの原因となる電子材料への用途に使用できる。
また、最近のエレクトロニクス分野や高機能塗料分野などの技術革新により、不純物塩素が極端に少ない高純度の液状エポキシ樹脂への要求が高まっている中で、本発明の化合物は分子量分布が単分散で粘度が低い点で、高純度の液状エポキシ樹脂、その変性物として有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表され、塩素含有量が100ppm以下であり、両末端のアリルエーテル化率が95%以上であることを特徴とする2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジアリルエーテル化合物(A)。
【化1】

【請求項2】
下記化学式(2)で表され、塩素含有量が100ppm以下であり、両末端のメタリルエーテル化率が95%以上であることを特徴とする2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジメタリルエーテル化合物(B)。
【化2】

【請求項3】
水素化ビスフェノールAを前駆体として、ハロゲン化アリル(C)とアルカリ金属水酸化物(D)とを用いて脱塩反応させてジ(メタ)アリルエーテル化合物を得る方法において、非反応性エーテル系溶剤(E)を使用することを特徴とする請求項1または2記載のジ(メタ)アリルエーテル化合物の製造方法。
【請求項4】
該非反応性エーテル系溶剤(E)が、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルおよびテトラヒドロフランから選ばれる1種以上のである請求項3記載のジ(メタ)アリルエーテル化合物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−280566(P2009−280566A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19309(P2009−19309)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】