説明

2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの精製方法

【課題】本発明は、簡便且つ経済的に有利な条件でHFO-1234yfとHFの混合物からHFを除去し、HFO-1234yfを精製する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの精製方法であって、
(1)前記精製方法は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びフッ化水素を含む混合物を、蒸留塔Aで抽出剤を用いて抽出蒸留することにより、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含み且つ2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに対してフッ化水素の含有割合が前記混合物より低下したフラクションIを得るとともに、フッ化水素を含み且つフッ化水素に対して2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が前記混合物より低下したフラクションIIを得る工程を含み、
(2)前記抽出剤は、
(i)Rは炭素数1〜5のアルキル基とし、ROHで表されるアルコール類、
(ii)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、ROR’で表されるエーテル類、
(iii)Rfは炭素数1〜3のフルオロアルキル基とし、RfOHで表されるフッ化アルコール類、
(iv)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOR’で表されるケトン類、
(v)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOOR’で表されるエステル類、
(vi)Rは炭素数1〜4のアルキル基でありnは2〜3の整数とし、R(OH)nで表されるポリオール類、及び
(vii)R1及びR2は同一又は異なって水素又は炭素数1〜4のアルキル基でありnは1〜3の整数とし、R1O(CH2CH2O)nR2で表されるエチレングリコール類、
からなる群から選択される少なくとも1種を含有する精製方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3CF=CH2、HFO-1234yf、以下、「HFO-1234yf」とも言う)の精製方法に関する。より詳細には、HFO-1234yf及びフッ化水素(HF)を含む混合物からHFを除去して、HFO-1234yfを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化係数(GWP)が低いことからカーエアコン用などの冷媒として有望視されているHFO-1234yfの製造方法には種々ある。例えば、特許文献1には、反応原料(CCl3CF2CH3)に対して化学量論的に必要な量を超えるHFを供給する製造方法が記載されている。また、特許文献2には、フルオロカーボン(CF3CFHCFH2)の脱HF処理をする製造方法が記載されている。これらの製造方法において、反応器からの流出物は、目的生成物であるHFO-1234yfとHFO-1234yfに対して当モル以上のHFとの混合物となる。
【0003】
HFO-1234yfとHFの混合物からHFを取り除き、HFO-1234yfを製品として精製するには、有機物とHFとの混合物からHFを除去する一般的な方法として知られるように、HFO-1234yfとHFの混合物を処理し、水又はアルカリにHFを吸収させる方法がある。しかしながら、この方法は多量の水やアルカリが必要となり、結果的に多量の工業廃液の排出につながり、環境保全の観点からも製造コストの面からも有益ではない。また、HFを除去する一般的に知られる他の方法としてH2SO4を用いてHFを弗硫酸として回収する方法がある。しかしながら、この方法は、生成する弗硫酸の腐食性が大きく、使用する機器類の材質が耐食性の高い材質に限定されるため、製造コストの増大につながる。また、上記の方法によるHF除去方法では、除去したHFを再び反応に使用する(リサイクル使用する)には高い技術を要するため、回収したHFをリサイクルする場合でも廃棄する場合でも、製造コストの増大につながる。
【0004】
これらの問題点を解消する方法として、次のものがある。例えば、特許文献3には、HFO-1234yfとHFとの混合物を蒸留し、蒸留塔の塔頂部からHFO-1234yfとHFの共沸様混合物を抜出し、蒸留塔の塔底部からHFO-1234yfを得る方法が記載されている。この方法は塔頂部からHFとともに多量のHFO-1234yfを抜き出すことが必要であるため、蒸留塔のサイズが大きくなり、また、共沸混合物をリサイクルする方法を採用する場合でも、循環するHFO-1234yfとHFの混合物が多量となり、プロセスに使用する機器サイズが大きくなるため、機器コストや運転コストが増大する要因となる。また、例えば、特許文献4には、HFO-1234yfとHFの混合物を共沸蒸留した後、流出物を冷却液化し、液−液分離後、更にそれぞれを蒸留し、HFO-1234yfとHFを分離する方法が記載されている。この方法は、分離工程で多量の分離物を加熱した後、冷却し再び加熱することを繰り返す必要があり、エネルギー消費量が大きく運転コストが増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2996555号公報
【特許文献2】WO 2008/002499A1号パンフレット
【特許文献3】WO 2009/105512 A1号パンフレット
【特許文献4】WO 2008/024508 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便且つ経済的に有利な条件でHFO-1234yfとHFの混合物からHFを除去し、HFO-1234yfを精製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、HFO-1234yfとHFを含む混合物からHFを除去し、HFO-1234yfを精製する方法について研究を重ねた結果、HFO-1234yfとHFを含む混合物に特定の抽出剤を添加し抽出蒸留を行うことにより、抽出剤相側にHFを濃縮し、HFO-1234yfを気相側へ濃縮し、HFO-1234yf及びHFを精製分離することができることを見出した。
【0008】
具体的には、抽出蒸留において、HFO-1234yfに比べHFとの相溶性が高い抽出剤を用い、HFに対するHFO-1234yfの比揮発度αが1より大きくなるような条件で抽出蒸留を行うことにより、HFO-1234yfを気相側へ多く分配し、HFを抽出剤側へ多く分配できる。
【0009】
比揮発度αは、少なくとも着目成分A及び着目成分B(成分Aの沸点<成分Bの沸点)から本質的に成る溶液が気液平衡状態にある場合において、液相の低沸点成分Aのモル分率をxAとし、高沸点成分Bのモル分率をxBとし、その液相と平衡状態にある場合の気相の低沸点成分Aのモル分率をyAとし、高沸点成分Bのモル分率をyBとした場合、以下の式により定義される。
【0010】
α = (yA / xA) / (yB / xB)
HFに対するHFO-1234yfの比揮発度αは、上記式において、成分AがHFO-1234yfであり、成分BがHFである場合の比揮発度である。比揮発度αは温度依存性があり得るが、HFに対するHFO-1234yfの比揮発度が、抽出蒸留操作を実施する温度範囲において、本発明では1より大きくなる条件を選択する。
【0011】
また比揮発度αは液組成に依存することもあり得るが、HFに対するHFO-1234yfの比揮発度は、抽出蒸留を実施するHF、HFO-1234yf及び抽出剤の組成比範囲において1より大きい条件を選択する。すなわち、特定の抽出剤を用い比揮発度が1より大きくなる条件のもと抽出蒸留を行うことにより、抽出剤側にHFを多く分配し、気相側にHFO-1234yfを多く分配できる。本発明を実施する際に使用する抽出剤は、抽出蒸留の実施条件の範囲内で比揮発度が1より大きくなる条件で実施できるが、好ましくは比揮発度が30以上、より好ましくは50以上で実施する。
【0012】
本発明で用いる抽出剤として、
(i)Rは炭素数1〜5のアルキル基とし、ROHで表されるアルコール類、
(ii)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、ROR’で表されるエーテル類、
(iii)Rfは炭素数1〜3のフルオロアルキル基とし、RfOHで表されるフッ化アルコール類、
(iv)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOR’で表されるケトン類、
(v)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOOR’で表されるエステル類、
(vi)Rは炭素数1〜4のアルキル基でありnは2〜3の整数とし、R(OH)nで表されるポリオール類、及び
(vii)R1及びR2は同一又は異なって水素又は炭素数1〜4のアルキル基でありnは1〜3の整数とし、R1O(CH2CH2O)nR2で表されるエチレングリコール類、
からなる群から選択される少なくとも1種を用いる。
【0013】
具体的には、メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール,イソプロパノール,2-メトキシエタノール,トリフルオロエタノール,ペンタフルオロプロパノール,テトラフルオロプロパノール,アセトン,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピル,酢酸ブチル,1,4ジオキサン,1,3,5トリオキサン,ジメチルエーテル,ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル及びビス(2-メトキシメチル)エーテルからなる群から選択される少なくとも1種を含む抽出剤が好ましい。この中でも特に、メタノール,エタノール, 2-メトキシエタノール,ペンタフルオロプロパノール及び1,4ジオキサンの少なくとも1種は抽出剤としての能力が高く非常に好ましい。
【0014】
本発明を実施する場合の1つの様態を図1に示す。
(1)HF及びHFO-1234yfを含む混合物と抽出剤とを蒸留塔Aに供給し、蒸留塔Aで前記混合物を抽出蒸留し、HFO-1234yf及び抽出剤を含み、かつHFO-1234yfに対してHFの割合が前記混合物より低下したフラクションF101(フラクションI)を蒸留塔Aの塔頂部より得、HFO-1234yfに対してHFの割合が前記混合物より増加したフラクションF102(フラクションII)を蒸留塔Aの塔底部より得る。
(2)前記フラクションF102を蒸留塔Bに供給し、蒸留塔Bで前記フラクションF102を蒸留する。(2-1)用いる抽出剤の沸点がHFの沸点より高い場合には、HFを含み且つフラクションF102より高いHF濃度を有するフラクションF103(フラクションIII)を蒸留塔Bの塔頂部より得、抽出剤を含むフラクションF104(フラクションIV)を塔底部より得る。
(2-2)用いる抽出剤の沸点がHFの沸点より低い場合には、HFを含み且つフラクションF102より高いHF濃度を有するフラクションF104(フラクションIII)を蒸留塔Bの塔底部より得、抽出剤を含むフラクションF103(フラクションIV)を塔頂部より得る。
【0015】
ここで、用いる抽出剤の沸点がHFより高い場合には、図2で示すように、(2-1)で得られたフラクションF104(フラクションIV)は抽出剤の少なくとも一部として蒸留塔Aに供給してよい。これにより抽出剤をリサイクル利用することができる。
【0016】
また、用いる抽出剤の沸点がHFより低い場合には、図3で示すように、(2-2)で得られたフラクションF103(フラクションIV)は抽出剤の少なくとも一部として蒸留塔Aに供給してよい。これにより抽出剤をリサイクル利用することができる。
【0017】
更には、図1、図2又は図3に示す蒸留を実施する際、用いる抽出剤量、各蒸留塔の運転条件を制御することにより、実質的にHF及び抽出剤を含まないHFO-1234yfをフラクションF101(フラクションI)として、実質的にHFO-1234yf及び抽出剤を含まないHFをフラクションF103又はF104として得ることも可能である。
【0018】
ここで、蒸留塔の運転条件とは、蒸留塔の塔頂部のコンデンサーの温度、塔底部の温度、蒸留塔の圧力、還流比などを指す。
【0019】
また、ここで得られたHFは種々の反応原料に再利用してもよい。
【0020】
本発明の精製方法は、HFO-1234yfを精製する方法としてだけでなく、HFO-1234yf及びHFを含む混合物からHFO-1234yfを含み且つHFO-1234yfに対するHFの割合が前記混合物より低下した精製物を得ることを含むHFO-1234yfの製造方法としても理解され得る。
【0021】
本発明では、精製処理に供するHFO-1234yfとHFの混合物はどのような装置からの流出物でもよく、例えば、フルオロカーボンの脱HF処理を行った反応器からの流出物や、クロロフルオロハイドロカーボンのフッ素化処理を行った反応器からの流出物でもよく、これらを組み合わせた反応器からの流出物でもよいが、これらに限定されない。また、これらの反応器の流出物を一旦蒸留することにより得られる流出物や、液−液分離することに得られる流出物を蒸留塔Aに導入して抽出蒸留を実施してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、HFO-1234yfの精製方法であって、HFO-1234yf及びHFの混合物からHFを除去してHFO-1234yfを効率的に精製できる新規な精製方法が提供される。
【0023】
本発明の方法によれば抽出蒸留を利用することにより、硫酸やアルカリ、水などを使用せずHFO-1234yf及びHFの混合物からHFを除去することが可能となる。これにより、硫酸やアルカリ、水などを使用してHFを除去する方法に比べて、より経済的に且つより安全にHFO-1234yfを精製でき、かつ廃棄物量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一つの実施形態におけるHFO-1234yfの精製方法を説明する概略図。
【図2】沸点がHFの沸点よりも高い抽出剤を用いる場合であって、抽出剤をリサイクル使用する場合の本発明の一つの実施形態におけるHFO-1234yfの精製方法を説明する概略図。
【図3】沸点がHFの沸点よりも低い抽出剤を用いる場合であって、抽出剤をリサイクル使用する場合の本発明の一つの実施形態におけるHFO-1234yfの精製方法を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一つの実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0026】
図1に示すように、HFO-1234yf及びHFを含む混合物を蒸留塔Aに中段から供給する。この混合物はHFO-1234yf製造プロセスにおいて、原料となる塩素化合物、例えば、CF3CCl=CH2で表される2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFC-1233xf)、CF3CClFCH3で表される2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC−244bb)などを触媒存在下にてHFと接触させHFO-1234yfを合成する反応工程より得られる生成物が挙げられる。また、前記生成物を蒸留や液−液分離、膜分離等などの分離操作に供して得られる流出物であってよい。また、蒸留塔Aに供給するHFO-1234yf及びHFを含む混合物としては、HFO-1234yf製造プロセスにおいて、原料となるフッ素化合物、例えば、CF3CF2CH3で表される1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)やCF3CHFCH2Fで表される1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)などを、触媒存在下もしくはアルカリ存在下にて脱HF反応処理してHFO-1234yfを合成する反応工程より得られる生成物が挙げられる。また、前記生成物を蒸留や液−液分離、膜分離等などの分離操作に供して得られる流出物であってもよい。また、HFO-1234yf及びHFを含む混合物には上記工程の未反応物や中間物、副生成物である、HCFC-1233xf,HCFC-244bb, HFC-245cb,HFC-245eb,CF3CH=CHFで表されるE,Z-1,3,3,3ペンタフルオロプロペン(HFO-1234ze),CF3CH=CH2で表される3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf),CF3C≡CHで表される3,3,3-トリフルオロプロピンなどを含んでもよい。
【0027】
HFO-1234yfに対するHFの含有割合は限定的ではないが、HFO-1234yfを合成する反応工程により得られる生成物(精製に供する前の生成物組成)であればHFO-1234yf 1molに対してHF 0.01〜100mol程度である。また、前記生成物を蒸留により大まかに分離処理した後の流出物であればHFO-1234yf 1molに対してHF 0.01〜10mol程度である。更に、前記生成物を液−液分離、膜分離等の分離度が高い分離処理に供した後の流出物であればHFO-1234yf 1molに対してHF 0.01〜1mol程度である。
【0028】
他方、抽出剤を蒸留塔Aに塔頂部から供給する。抽出剤はHFO-1234yfに比べHFとの相溶性が高いものを用いる。本発明では、
(i)Rは炭素数1〜5のアルキル基とし、ROHで表されるアルコール類、
(ii)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、ROR’で表されるエーテル類、
(iii)Rfは炭素数1〜3のフルオロアルキル基とし、RfOHで表されるフッ化アルコール類、
(iv)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOR’で表されるケトン類、
(v)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOOR’で表されるエステル類、
(vi)Rは炭素数1〜4のアルキル基でありnは2〜3の整数とし、R(OH)nで表されるポリオール類、及び
(vii)R1及びR2は同一又は異なって水素又は炭素数1〜4のアルキル基でありnは1〜3の整数とし、R1O(CH2CH2O)nR2で表されるエチレングリコール類、
からなる群から選択される少なくとも1種を用いる。
【0029】
用いる抽出剤として,より好ましくはHFO-1234yfの溶解度が低いものであり、具体的には、メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール,イソプロパノール,2-メトキシエタノール,トリフルオロエタノール,ペンタフルオロプロパノール,テトラフルオロプロパノールなどであり、これらを単独で用いてもよくまたこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
また、用いる抽出剤として好ましくは、HFの溶解度の高いものであり、化学的性質としては極性の高いものほどHFの溶解度が高くなり好ましい。具体的にはメタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール,イソプロパノール,2-メトキシエタノール,トリフルオロエタノール,ペンタフルオロプロパノール,テトラフルオロプロパノールなどであり,これらを単独で用いてもよくまたこれらの混合物が挙げられるが,これらに限定するものではない。
【0031】
更には、用いる抽出剤は、その沸点が高いほど目的物であるHFO-1234yf(沸点:−29℃)との分離性がより良くなるため好ましく、HF(沸点:17℃)より高い沸点の抽出剤を用いる場合には、HFの沸点との差が大きいほどHFと抽出剤との分離性も高まるためより好ましい。抽出剤の機能はその化合物の構造に寄与するところが大きく、同様の構造を持つ化合物は同様の抽出剤機能を発揮すると期待できる。
【0032】
抽出剤(S)とHF(F)との比(S/F)は用いる抽出剤にもよるが、例えば約1〜20が好ましく、約5〜10がより好ましい(いずれもモル比)とすることができるがこれに限定されるものではない。
【0033】
そして蒸留塔Aにおいて抽出蒸留を行う。このときの圧力は、約0.1MPa〜1.3PMa、塔頂温度を約−30℃〜30℃、塔底温度約10℃〜100℃と設定できるが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明によれば、HFO-1234yf及びHFを含む混合物を抽出蒸留に供することにより、抽出剤相側にHFを濃縮し、HFO-1234yfを気相側へ濃縮することができ、前記混合物よりもHFに対するHFO-1234yf濃度が増加したHFO-1234yf留出物が得られ、且つ、前記混合物よりもHFO-1234yfに対するHF濃度が増加したHF留出物が得られる。好ましくは、抽出蒸留の運転条件を制御することにより、前記混合物からHFを除去し、実質的にHFを含まないHFO-1234yfを得ることが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を用いたHFO-1234yf及びHFの分離に関連する実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
【0036】
実施例1
以下の表1に示すHFO-1234yfとHFの混合物に、各々、抽出剤としてメタノール,ジイソプロピルエーテル,アセトンをそれぞれ混合し、該混合物を25.5℃に保持した。抽出剤導入の前後にて液相及び気相のHFO-1234yf及びHFを定量し、抽出剤導入前後のHFに対するHFO-1234yfの比揮発度αを比較した。
【0037】
【表1】

【0038】
Run No.1〜3において、「抽出剤/HFO-1234yfモル比」及び「抽出剤/HFモル比」がそれぞれRun No.1〜3で同程度となるように設定し、比揮発度αを比較した結果、メタノールが他の抽出剤に比べてHFに対するHFO-1234yfの比揮発度αを増加させる効果が高い。すなわち、本特許を実施するに当たり,メタノールは抽出剤として非常に好ましい。
【0039】
ここで、HFに対するHFO-1234yfの比揮発度αは、液相の低沸点成分HFO-1234yfのモル分率をxAとし、高沸点成分HFのモル分率をxBとし、その液相と平衡状態にある場合の気相の低沸点成分HFO-1234yfのモル分率をyAとし、高沸点成分HFのモル分率をyBとした場合、以下の式により定義される
α = (yA / xA) / (yB / xB)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの精製方法であって、
(1)前記精製方法は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びフッ化水素を含む混合物を、蒸留塔Aで抽出剤を用いて抽出蒸留することにより、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含み且つ2,3,3,3-テトラフルオロプロペンに対するフッ化水素の含有割合が前記混合物より低下したフラクションIを得るとともに、フッ化水素を含み且つフッ化水素に対する2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が前記混合物より低下したフラクションIIを得る工程を含み、
(2)前記抽出剤は、
(i)Rは炭素数1〜5のアルキル基とし、ROHで表されるアルコール類、
(ii)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、ROR’で表されるエーテル類、
(iii)Rfは炭素数1〜3のフルオロアルキル基とし、RfOHで表されるフッ化アルコール類、
(iv)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOR’で表されるケトン類、
(v)R及びR’は同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基とし、RCOOR’で表されるエステル類、
(vi)Rは炭素数1〜4のアルキル基でありnは2〜3の整数とし、R(OH)nで表されるポリオール類、及び
(vii)R1及びR2は同一又は異なって水素又は炭素数1〜4のアルキル基でありnは1〜3の整数とし、R1O(CH2CH2O)nR2で表されるエチレングリコール類、
からなる群から選択される少なくとも1種を含有する精製方法。
【請求項2】
前記抽出剤は、メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール,イソプロパノール,2-メトキシエタノール,ジメチルエーテル,ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,トリフルオロエタノール,ペンタフルオロプロパノール,テトラフルオロプロパノール,アセトン,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピル,酢酸ブチル,1,4-ジオキサン,1,3,5-トリオキサン,ジイソプロピルエーテル及びビス(2-メトキシメチル)エーテルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記抽出剤として沸点がフッ化水素の沸点よりも高い抽出剤を用いて、前記フラクションIを蒸留塔Aの塔頂部から得るとともに前記フラクションIIを蒸留塔Aの塔底部から得、前記フラクションIIを蒸留塔Bに供給して蒸留することにより、フッ化水素を含み且つ前記フラクションIIよりフッ化水素の含有割合が高いフラクションIIIを蒸留塔Bの塔頂部から得るとともに前記抽出剤を含むフラクションIVを蒸留塔Bの塔底部から得る工程を含む、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記フラクションIVを、蒸留塔Aで用いる前記抽出剤の少なくとも一部として用いる、請求項3に記載の精製方法。
【請求項5】
前記抽出剤として沸点がフッ化水素の沸点よりも低い抽出剤を用いて、前記フラクションIを蒸留塔Aの塔頂部から得るとともに前記フラクションIIを蒸留塔Aの塔底部から得、前記フラクションIIを蒸留塔Bに供給して蒸留することにより、フッ化水素を含み且つ前記フラクションIIよりフッ化水素の含有割合が高いフラクションIIIを蒸留塔Bの塔底部から得るとともに前記抽出剤を含むフラクションIVを蒸留塔Bの塔頂部から得る工程を含む、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項6】
前記フラクションIVを、蒸留塔Aで用いる前記抽出剤の少なくとも一部として用いる、請求項5に記載の精製方法。
【請求項7】
前記混合物は、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン, 2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン, 1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン, 1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン, E,Z-1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン, 3,3,3−トリフルオロプロペン及び3,3,3−トリフルオロプロピンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の精製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−521275(P2013−521275A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555683(P2012−555683)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際出願番号】PCT/JP2011/067179
【国際公開番号】WO2012/011609
【国際公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】