説明

2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の合成方法

塩基性条件下で銅源および銅に配位する配位子と接触させることによって、2,5−ジハロテレフタル酸から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸が高収率および高純度で生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間体として、またはポリマーを作製するためのモノマーとしての使用などの様々な目的に有用なヒドロキシ安息香酸の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシ安息香酸は、医薬品および作物保護に有効な化合物を含む多くの有用な材料の製造における中間体として有用であり、ポリマーの製造におけるモノマーとしても有用である。特に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(式I、「DHTA」)は、ポリ[(1,4−ジヒドロジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジン−2,6−ジイル)(2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニレン)]から作製されるものなどの高強度繊維の合成に有用なモノマーである。
【化1】

【0003】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸および他のヒドロキシ安息香酸の様々な調製法が知られている。非特許文献1には、銅粉末の存在下での、2,5−ジブロモテレフタル酸(式II、「DBTA」)からの2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の合成が教示されている。
【化2】

【0004】
非特許文献2には、KOHおよび銅粉末の存在下で、DBTAをフェノールと縮合させることによる、DHTAを含む生成物の調製法が報告されている。
【0005】
非特許文献3には、様々な配位子の存在下で、Cu(I)によって触媒される反応において、2−ブロモ安息香酸を、サリチル酸、安息香酸、およびジフェノール酸へと変換することが記載されている。第3級テトラアミンが、Cu(I)と共に使用されて、ジフェノール酸の形成を最小限に抑える。
【0006】
非特許文献4には、2−クロロ安息香酸からサリチル酸を合成するための方法が記載されている。化学量論量のピリジン(2−クロロ安息香酸1モル当たり0.5〜2.0モル)(例えば、2−クロロ安息香酸1モル当たり少なくとも1.0モルのピリジン)が用いられる。Cu粉末が、ピリジンと共に触媒として用いられる。
【0007】
ヒドロキシ安息香酸を作製するための、様々な先行技術の方法は、長い反応時間、限られた変換率による大幅な生産性の損失、あるいは適度な速度および生産性を得るために加圧下および/またはより高温(典型的に140〜250℃)で運転する必要があることを特徴としている。したがって、固有の運転上の困難性が低く;かつ、小規模および大規模な運転、ならびにバッチ運転および連続運転のいずれでも高収率および高生産性で、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を経済的に製造可能な方法が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Marzin、Journal fuer Praktische Chemie、1933年、138、103〜106
【非特許文献2】Singhら、Jour.Indian Chem.Soc.、第34巻、4号、321〜323頁(1957年)
【非特許文献3】Rusonikら、Dalton Transactions、2003年、2024〜2028
【非特許文献4】Comdomら、Synthetic Communications、32(13)、2055〜59(2002年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、(a)2,5−ジハロテレフタル酸(III)
【化3】

(式中、Xが、Cl、Br、またはIである)
を水中で塩基と接触させて、それから2,5−ジハロテレフタル酸の対応する二塩基性塩を形成する工程と;(b)2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下で銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHにおいて、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を形成する工程と;(c)任意選択的に、形成された反応混合物から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を分離する工程と;(d)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて、それから2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を形成する工程とによる、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の調製方法を提供する。
【0010】
別の実施形態では、配位子は、アミン配位子であってもよく、さらなる実施形態では、配位子は、テトラアミン配位子である場合、少なくとも1つの第1級または第2級アミノ基を含む。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態は、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を上記の方法で調製し、次に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に変換することによる、2,5−ジアルコキシテレフタル酸の調製方法を提供する。
【0012】
したがって、本発明のさらに別の実施形態は、(a)2,5−ジハロテレフタル酸(III)
【化4】

(式中、Xが、Cl、Br、またはIである)
を水中で塩基と接触させて、それから2,5−ジハロテレフタル酸の対応する二塩基性塩を形成する工程と;(b)2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下で銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHにおいて、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を形成する工程と;(c)任意選択的に、形成された反応混合物から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を分離する工程と;(d)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて、それから2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を形成する工程と;(e)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に変換する工程とによる、2,5−ジアルコキシテレフタル酸の調製方法を提供する。
【0013】
本発明のさらに別の実施形態は、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸または2,5−ジアルコキシテレフタル酸を反応させて、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを調製する工程をさらに含む、上記のような2,5−ジヒドロキシテレフタル酸または2,5−ジアルコキシテレフタル酸の調製方法を提供する。
【0014】
したがって、本発明のさらに別の実施形態は、(a)2,5−ジハロテレフタル酸(III)
【化5】

(式中、Xが、Cl、Br、またはIである)
を水中で塩基と接触させて、それから2,5−ジハロテレフタル酸の対応する二塩基性塩を形成する工程と;(b)2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下で銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHにおいて、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を形成する工程と;(c)任意選択的に、形成された反応混合物から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を分離する工程と;(d)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて、それから2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を形成する工程と;(e)任意選択的に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に変換する工程と;(f)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸および/または2,5−ジアルコキシテレフタル酸を反応させて、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを調製する工程とによる、化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーの調製方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、2,5−ジハロテレフタル酸を塩基と接触させて、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を形成し;2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、塩基と、および銅に配位するアミン配位子の存在下で銅源と接触させて、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を形成し;次に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸生成物を形成することによる、高収率で高生産性の、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の調製方法を提供する。本明細書で用いられる際の「二塩基性塩」という用語は、1分子当たり2つの置換可能な水素原子を含有する酸である二塩基性酸の塩を意味する。
【0016】
本発明の方法を開始させるために好適なジハロテレフタル酸としては、2,5−ジブロモテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、および2,5−ジヨードテレフタル酸、あるいはそれらの混合物が挙げられる。2,5−ジブロモテレフタル酸(「DBTA」)は市販されている。しかしながら、それは、例えば、水性臭化水素中でのp−キシレンの酸化によって(McIntyreら、Journal of the Chemical Society、Abstracts、1961年、4082〜5)、テレフタル酸または塩化テレフタロイルの臭素化によって(米国特許第3,894,079号明細書)、または2,5−ジブロモ−1,4−ジメチルベンゼンの酸化によって(独国特許発明第1,812,703号明細書)合成することができる。2,5−ジクロロテレフタル酸も市販されている。しかしながら、それは、例えば、2,5−ジクロロ−1,4−ジメチルベンゼンの酸化によって合成することができる[Shcherbinaら、Zhurnal Prikladnoi Khimii(Sankt−Peterburg、ロシア連邦、1990年)]、63(2)、467〜70。2,5−ジヨードテレフタル酸は、例えば、2,5−ジヨード−1,4−ジメチルベンゼンの酸化によって合成することができる[Perryら、Macromolecules(1995)、28(10)、3509〜15]。
【0017】
工程(a)では、2,5−ジハロテレフタル酸を水中で塩基と接触させて、それから2,5−ジハロテレフタル酸の対応する二塩基性塩を形成する。工程(b)では、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下で銅源と接触させて、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を形成する。
【0018】
工程(a)および/または工程(b)で用いられる塩基は、イオン性塩基であってもよく、特に、Li、Na、K、MgまたはCaの1つまたは複数の、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩または水素リン酸塩の1つまたは複数であってもよい。用いられる塩基は、水溶性、部分的に水溶性であるか、または塩基の溶解性は、反応が進むにつれて、および/または塩基が消費されるにつれて上がり得る。NaOHおよびNaCOが好ましいが、他の好適な有機塩基が、例えば、トリアルキルアミン(トリブチルアミンなど);N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン;およびN−アルキルイミダゾール(例えば、N−メチルイミダゾール)からなる群から選択され得る。基本的に、8を超えるpHを維持し、および/または2,5−ジハロテレフタル酸の反応の際に生成される酸と結合することが可能な任意の塩基が適している。
【0019】
工程(a)および/または(b)で用いられるべき塩基の具体的な量は、塩基の強度に依存する。工程(a)では、2,5−ジハロテレフタル酸が、2,5−ジハロテレフタル酸の1当量当たり少なくとも約2当量の塩基、好ましくは水溶性の塩基と接触されるのが好ましい。これに関して、1「当量」は、塩基について用いる場合、1モルの水素イオンと反応し得る塩基のモル数であり;酸については、1当量は、1モルの水素イオンを与え得る酸のモル数である。
【0020】
工程(b)では、少なくとも約8、または少なくとも約9、または少なくとも約10、好ましくは約9〜約11の溶液pHを維持するのに十分な塩基が用いられるべきである。したがって、典型的に、工程(b)では、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩が、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩の1当量当たり少なくとも約2当量の塩基(水溶性塩基など)と接触される。
【0021】
しかしながら、別の実施形態では、工程(a)および(b)において、反応の開始時に当初用いられる2,5−ジハロテレフタル酸の1当量当たり、反応混合物において、合計で少なくとも約4〜約5当量の塩基(水溶性塩基など)を用いるのが望ましいことがある。上記の量で用いられる塩基は、典型的に強塩基であり、典型的に周囲温度で加えられる。工程(b)で用いられる塩基は、工程(a)で用いられる塩基と同じかまたは異なっていてもよい。
【0022】
上記のように、工程(b)では、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩はまた、銅に配位する配位子の存在下で銅源と接触される。銅源および配位子は、連続して反応混合物に加えられても、または(例えば、水またはアセトニトリルの溶液中で)別個に組み合わされ、そして一緒に加えられてもよい。銅源は、水中の酸素の存在下で配位子と組み合わされても、または水を含有する溶媒混合物と組み合わされてもよい。
【0023】
2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩の塩基性溶液中に、銅源および配位子の反応混合物が一緒に存在することから、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩、銅種、配位子、およびハロゲン化物塩を含有する水性混合物が得られる。必要に応じて、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩は、この段階においておよび工程(d)における酸性化の前に、[任意選択の工程(c)として]混合物から分離されてもよく、別の反応において二塩基性塩として、または他の目的のために用いられてもよい。
【0024】
次に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩は、工程(d)において、酸と接触されて、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸生成物に変換される。二塩基性塩をプロトン化するのに十分な強度のいかなる酸も適している。例としては、限定はされないが、塩酸、硫酸およびリン酸が挙げられる。
【0025】
工程(a)および(b)のための反応温度は、好ましくは約40〜約120℃、より好ましくは約75〜約95℃であり;したがって、様々な実施形態では、本方法は、反応混合物を加熱する工程を含む。この溶液は、典型的に、工程(d)における酸性化が行われる前に冷却される。様々な実施形態では、酸素が反応の際に除かれてもよい。
【0026】
銅源は、銅金属[「Cu(0)」]、1種または複数の銅化合物、あるいは銅金属と1種または複数の銅化合物の混合物である。銅化合物は、Cu(I)塩、Cu(II)塩、またはそれらの混合物であってもよい。例としては、限定はされないが、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、CuNO、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、およびCu(NOが挙げられる。CuBrが好ましい。得られる銅の量は、典型的に、2,5−ジハロテレフタル酸のモルを基準にして約0.1〜約5mol%である。
【0027】
銅源がCu(0)である場合、Cu(0)、臭化銅および配位子が、空気の存在下で組み合わされてもよい。Cu(0)またはCu(I)の場合、所定の量の金属および配位子が、水中で組み合わされてもよく、得られた混合物は、有色の溶液が形成されるまで、空気または希薄酸素と反応されてもよい。得られた金属/配位子溶液は、水中の2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩および塩基を含有する反応混合物に加えられる。
【0028】
配位子は、直鎖または分岐鎖または環状、脂肪族または芳香族、置換または非置換のアミン、あるいは2種以上のかかる配位子の混合物であってもよい。化合物か、オリゴマーかまたはポリマーとして形成されるかにかかわらず、配位子中に存在するアミン基の数を表すのに、モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−、ヘプタ−またはオクタアミンなど、従来の命名法を使用することができる。非置換形態では、配位子は、炭素、窒素および水素原子のみを含有するオルガノアミンであってもよい。置換形態では、アミン配位子は、酸素または硫黄などのヘテロ原子を含有してもよい。様々な実施形態では、特定的に、ただし限定されずに、テトラアミンに関するとき、アミンは、少なくとも1つの第1級または第2級アミノ基を含有し得る。
【0029】
配位子として本明細書で用いるのに適した第1級または第2級モノアミンとしては、下式11によって一般に表されるものが挙げられる。
【化6】

式中、RおよびRが、それぞれ独立して、
H;
〜C10直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;
〜C12環式脂肪族、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;または
〜C12芳香族の置換または非置換のヒドロカルビル基
から選択される。
【0030】
ある実施形態では、Rおよび/またはRが、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはフェニル基であってもよい。他の実施形態では、RおよびRのうちの少なくとも一方がHでない。配位子として本明細書で用いるのに適した特定のモノアミンとしては、エチルアミン、イソプロピルアミン、sec−ブチルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、エチル−n−ブチルアミン、アリルアミン、シクロヘキシルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、アニリン、N−エチルアニリン、トルイジンおよびキシリジンが挙げられる。
【0031】
配位子として本明細書で用いるのに適した第1級または第2級ジアミンとしては、下式12で一般に表されるものが挙げられる。
【化7】

式中、各Rおよび各Rが、独立して、
H;
〜C10直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;
〜C12環式脂肪族、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;または
〜C12芳香族の置換または非置換のヒドロカルビル基であるか;あるいは
式中、RおよびRが、それぞれ独立して、
H;
〜C10直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;
〜C12環式脂肪族、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;または
〜C12芳香族の置換または非置換のヒドロカルビル基であるか;あるいは
およびRが、結合されて、
〜C12脂肪族、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル環構造;または
〜C12芳香族の置換または非置換のヒドロカルビル環構造
である環構造を形成し;および
式中、a、b、およびcがそれぞれ独立して0〜4である。
【0032】
ある実施形態では、Rの一方または両方がHである。他の実施形態では、Rの一方または両方もHである。他の実施形態では、R〜Rのいずれか1つまたは複数が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはフェニル基であってもよい。
【0033】
様々な特定の実施形態では、a、bおよびcが全て0に等しく、R=R=Hであるか、またはRおよびRが結合して脂肪族環構造を形成するかのいずれかであってもよい。特にb=0である場合、脂肪族環構造は、シクロへキシレン基であってもよく、これは以下に示すように二価基、−C10−であり、したがってシクロヘキシルジアミンをもたらす。
【化8】

【0034】
およびRからのシクロへキシレン基の形成は、以下の構造によって一般に示され得る。
【化9】

式中、R、R、aおよびcが上に記載したとおりである。しかしながら、別の実施形態では、配置されている1つのアミノ基、またはアルキル基が、他のアミノ基に対して、シクロアルキルまたは芳香環上でメタ位またはパラ位にあってもよい。
【0035】
好適な脂肪族ジアミンとしては、N,N’−ジ−n−アルキルエチレンジアミンおよびN,N’−ジ−n−アルキルシクロヘキサン−1,2−ジアミンが挙げられる。具体例としては、限定はされないが、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジ−n−プロピルエチレンジアミン、N,N’−ジブチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N’−ジ−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、およびN,N’−ジブチルシクロヘキサン−1,2−ジアミンが挙げられる。好適な芳香族ジアミンの例としては、限定はされないが、1,2−フェニレンジアミンおよびN,N’−ジアルキルフェニレンジアミン(N,N’−ジメチル−1,2−フェニレンジアミンおよびN,N’−ジエチル−1,2−フェニレンジアミンなど);およびベンジジンが挙げられる。
【0036】
配位子として本明細書で用いるのに適した第1級または第2級トリアミンおよびより高級アミンは、下式13によって一般に表され得る。
【化10】

式中、各R、R、R、R、RおよびRが、独立して、
H;
〜C10直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;
〜C12環式脂肪族、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル基;または
〜C12芳香族の置換または非置換のヒドロカルビル基から選択され;および
式中、aが2〜4であり、bおよびcがそれぞれ独立して0〜4であり;およびm≧0である。
【0037】
ある実施形態では、Rの一方または両方、または少なくとも1つのR、または少なくとも1つのR、またはR、および/またはRがHである。他の特定の実施形態では、m=0、1、2、3、4または5である。さらに他の実施形態では、R=R=R=Hであり;ならびに/あるいはRおよびRの一方または両方がHである。他の実施形態では、R〜Rのいずれか1つまたは複数が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはフェニル基であってもよい。
【0038】
配位子として本明細書で用いられるのに適した式13で表されるアミンとしては、例えば、下式14によって一般に表されるものが挙げられる。
【化11】

式中、xが2〜10である。式14は、様々なポリエチレンアミンを表し、ここで、式13における各R基はHであり、a=2、b=c=0、およびm=0〜8である。
【0039】
配位子として本明細書で用いられるのに適した式13で表される他のアミンまたはより高級アミンとしては、ジエチレントリアミンおよびトリエチレンテトラミン、ならびに以下の構造によって一般に表されるものが挙げられる。
【化12】

【0040】
配位子はまた、少なくとも1つの環原子が窒素である少なくとも1つの閉環構造を有す
る分子である環状アミン化合物であってもよい。ここで、この形態の配位子は、環構造が、窒素原子に加えて、他の原子(主に炭素および水素であるが、また、後述するように酸素および/または硫黄であってもよい)を含有し得るという意味において複素環式である。窒素原子は、例えば
〜C12脂肪族、飽和または不飽和、置換または非置換のヒドロカルビル環構造;または
〜C12芳香族、置換または非置換のヒドロカルビル環構造
のメンバーであってもよい。
【0041】
配位子として本明細書で用いられるのに適した様々な窒素含有環状化合物の例としては、限定はされないが、キノリン(quinolione)、インドール、イミダゾール、エチレンイミン、ならびに以下の構造によって表されるものが挙げられる。
【化13】

【0042】
【化14】

【0043】
【化15】

【0044】
【化16】

【0045】
本明細書で用いられるのに適した配位子の説明において上で言及される「ヒドロカルビル」基は、非置換である場合、炭素および水素のみを含有する一価の基である。同様に、非置換アミンは、その構造中に窒素、炭素および水素原子のみを含有する化合物である。しかしながら、上記のヒドロカルビル基または環構造のいずれかにおいて、1つまたは複数のOまたはS原子が、任意選択的に、鎖内または環内の炭素原子のいずれか1つまたは複数と置換されてもよく、ただし、得られる構造は、−O−O−または−S−S−部分を含有せず、かつ炭素原子が2つ以上のヘテロ原子に結合されない。酸素原子が炭素原子と置換されている好適な配位子の例が、式15に示される。
【化17】

式中、qが、例えば、異なる分子量を有する分子の混合物において約3の平均値を有し得る。
【0046】
本明細書で用いるのに適し、かつ酸素置換を有する配位子の他の例としては、アニシジン、フェネチジン、ならびに以下の構造によって一般に表されるものが挙げられる。
【化18】

【0047】
【化19】

【0048】
特に多用性のある配位子としては、RNH−(CHRCHR)−NHR10(式中、RおよびR10がそれぞれ独立して、C〜C第1級アルキル基の群から選択され、RおよびRがそれぞれ独立して、HおよびC〜Cアルキル基の群から選択され、および/またはRおよびRが結合されて環構造を形成してもよい)として表され得るものを含む、第2級アミン、特にN,N’−置換1,2−ジアミンが挙げられる。
【0049】
式12において、RおよびRが結合されて芳香環構造を形成する場合、および/または環状アミン配位子が1つまたは複数の芳香環構造を含有する場合、反応における高い変換率、選択性、収率および/または純度を達成するためにより厳しい反応条件(例えばより高い温度、またはより多い量の銅および/または配位子)が必要とされ得る。
【0050】
本明細書で用いられるのに適した配位子は、上記の名前または構造によって表される配位子の全群のメンバーのうちのいずれか1つまたは複数または全てとして選択され得る。しかしながら、好適な配位子は、全群の部分群のメンバーのうちのいずれか1つまたは複数または全てとしても選択され得、ここで、部分群は、任意のサイズ(例えば1、2、6、10または20)であってもよく、かつ、部分群は、上記の全群のメンバーのうちのいずれか1つまたは複数を除くことによって形成されてもよい。結果として、配位子は、かかる場合、上記の配位子の全群から形成され得る任意のサイズの任意の部分群のメンバーのうちの1つまたは複数または全てとして選択され得るだけでなく、部分群を形成するために全群から除かれたメンバーが存在しない配位子も選択され得る。例えば、ある実施形態では、本明細書で有用な配位子は、全群から、ピリジン、2,5,8,11−テトラメチル−2,5,8,11−テトラアザドデカン、および/または1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンを除く、また、他の配位子の全群からも除くかまたは除かない、配位子の部分群のメンバーのうちの1つまたは複数または全てとして選択され得る。
【0051】
様々な実施形態では、配位子は、銅1モル当たり、約1〜約8モル当量、好ましくは約1〜約2モル当量の配位子という量で提供され得る。それらの実施形態および他の実施形態では、配位子のモル当量対ジハロテレフタル酸のモル当量の比率は、約0.1以下であってもよい。本明細書で用いられる際に、「モル当量」という用語は、1モルの銅と相互作用し得る配位子のモル数を示す。
【0052】
一実施形態では、Cu(I)塩は、CuBrとして選択されてもよく;配位子は、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジ−n−プロピルエチレンジアミン、N,N’−ジブチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N’−ジ−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N’−ジブチルシクロヘキサン−1,2−ジアミンからなる群から選択され;およびCuBrは、水および空気の存在下で2モル当量の配位子と組み合わされる。
【0053】
配位子は、触媒として銅源の作用を促進するものと考えられ、および/または、銅源および配位子は、一緒に機能して、触媒として作用し、反応の1つまたは複数の特性を向上させるものと考えられる。
【0054】
上記のプロセスはまた、式VIの構造によって一般に表され得る2,5−ジアルコキシテレフタル酸などの関連する化合物の効果的で効率的な合成を可能にする。
【化20】

式中、RおよびR10が、それぞれ独立して、置換または非置換のC1〜10アルキル基である。RおよびR10は、非置換である場合、炭素および水素のみを含有する一価の基である。しかしながら、それらのアルキル基のいずれかにおいて、1つまたは複数のOまたはS原子が、任意選択的に、鎖内炭素原子のいずれか1つまたは複数と置換されてもよく、ただし、得られる構造は、−O−O−または−S−S−部分を含有せず、かつ、炭素原子が2つ以上のヘテロ原子に結合されない。
【0055】
本発明の方法によって調製されるような2,5−ジヒドロキシテレフタル酸は、2,5−ジアルコキシテレフタル酸に変換されてもよく、かかる変換は、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を、塩基性条件下で、式R10SOの硫酸ジアルキルと接触させることによって行ってもよい。かかる変換反応を行う1つの好適な方法は、オーストリア特許第265,244号明細書に記載のようなものである。かかる変換に適した塩基性条件は、上記のような1つまたは複数の塩基を用いた、少なくとも約8、または少なくとも約9、または少なくとも約10、好ましくは約9〜約11の溶液pHである。
【0056】
ある実施形態では、2,5−ジアルコキシテレフタル酸に変換する前に形成された反応混合物から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を分離することが望ましいことがある。
【0057】
上記のプロセスはまた、化合物、モノマー、あるいはそのオリゴマーまたはポリマーなどの、得られる2,5−ジヒドロキシテレフタル酸または2,5−ジアルコキシテレフタル酸から作製される生成物の効果的で効率的な合成を可能にする。これらの生成された材料は、エステル官能基、エーテル官能基、アミド官能基、イミド官能基、イミダゾール官能基、カルボネート官能基、アクリレート官能基、エポキシド官能基、ウレタン官能基、アセタール官能基、および無水物官能基のうちの1つまたは複数を有していてもよい。
【0058】
本発明の方法によって作製される材料、またはかかる材料の誘導体に関与する典型的な反応は、例えば、米国特許第3,047,536号明細書(あらゆる目的のためにその全体を本明細書の一部として援用する)に開示されるように、窒素下で、1−メチルナフタレン中の0.1%のZN(BOの存在下で、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸およびジエチレングリコールまたはトリエチレングリコールのいずれかからポリエステルを作製することを含む。同様に、米国特許第3,227,680号明細書(あらゆる目的のためにその全体を本明細書の一部として援用する)において、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸が、熱安定化されたポリエステルを調製するために二塩基酸およびグリコールと共重合するのに適していると開示されており、ここで、典型的な条件は、200〜250℃でブタノール中のチタンテトライソプロポキシドの存在下でプレポリマーを形成し、その後0.08mmのHgの存在下で280℃において固相重合を行うことを含む。
【0059】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸はまた、米国特許第5,674,969号明細書(あらゆる目的のためにその全体を本明細書の一部として援用する)で開示されるように、減圧下で、100℃超〜約180℃までゆっくりと加熱しながら強いポリリン酸中でテトラアミノピリジンのトリヒドロクロリド一水和物と重合させ、その後水中で沈殿させたか;または2005年3月28日に出願され、国際公開第2006/104974号パンフレットとして公開された米国仮特許出願第60/665,737号明細書(あらゆる目的のためにその全体を本明細書の一部として援用する)に開示されるように、約50℃〜約110℃、次に145℃の温度でそのモノマーを混合してオリゴマーを形成し、次に約160℃〜約250℃の温度でオリゴマーを反応させることによって重合させた。そのように生成され得るポリマーは、ポリ(1,4−(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン−2,6−ピリド[2,3−d:5,6−d’]ビスイミダゾール)ポリマーなどのピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーであり得る。しかしながら、そのピリドビスイミダゾール部分は、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾールおよびピリドビスオキサゾールのうちのいずれかまたは複数で置換されてもよく;およびその2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン部分は、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−キノリンジカルボン酸、および2,6−ビス(4−カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾールのうちの1つまたは複数の誘導体によって置換されてもよい。
【実施例】
【0060】
本発明を、以下の実施例においてさらに規定する。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、あくまで例示として示され、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。上記の説明およびこれらの実施例から、本発明の本質的な特徴が明らかにされるが、本発明の趣旨および範囲を逸脱せずに、様々な使用および条件に本発明を適合させるように本発明の変更をなし得る。
【0061】
以下の材料を実施例において使用した。全ての試薬を、入手したままの状態で使用した。生成物の純度を、H NMRによって測定した。
【0062】
表1に記載の配位子(A〜O、QおよびRと表示される)を、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin)から入手した。配位子Pを、TCI America(Portland,Oregon)から入手した。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例1で用いられるもの以外の2,5−ジブロモテレフタル酸(純度95+%)を、Maybridge Chemical Company Ltd.(英国のCornwall)から入手した。実施例1で用いられる2,5−ジブロモテレフタル酸を、独国特許発明第1,812,703号明細書に記載の方法にしたがって合成した。
【0065】
臭化銅(I)(「CuBr」)(純度98%)を、Acros Organics(ベルギーのGeel)から入手した。臭化銅(II)(「CuBr」)(純度99%)、塩化銅(II)(「CuCl」)(純度97%)、銅(I)トリフレート(「Cu(OTf)」)(純度97%)、および銅(II)トリフレート(「Cu(OTf)」)(純度98%)を、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin、米国)から入手した。硫酸銅(II)(「CuSO」)(純度98%)を、Strem Chemicals,Inc.(Newburyport,Massachusetts、米国)から入手した。銅粉末(純度99.5%)(球状、約100メッシュ)を、Alfa Aesar(Ward Hill,Massachusetts)から入手した。
【0066】
アセトニトリル(純度99.8%)およびNaCO(純度99.5%)を、EM Science(Gibbstown,New Jersey)から入手した。
【0067】
本明細書で用いられる際に、「変換率」という用語は、反応剤を画分として使い切った量または理論量の百分率を指す。生成物Pについての「選択性」という用語は、最終生成物混合物におけるPのモル分率またはモルパーセントを指す。したがって、変換率に選択性を掛けるとPの最大「収率」になり;実際のまたは「正味の」収率は通常これよりいくらか低くなるが、その理由は、単離、取扱い、乾燥などの作業の過程で試料の損失が生じるためである。「純度」という用語は、取得した(in−hand)単離された試料が実際に所定の物質の何パーセントであるかを意味する。
【0068】
以下で用いられる際の「15%のHCl」および「15%の水性HCl」という用語は、濃度が、溶液100mL当たり15グラムのHClである水性塩酸を意味する。「HO」および「水」という用語は、蒸留水を指す。略語の意味は以下のとおりである:「g」はグラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「h」は時間を意味し、「kPa」はキロパスカルを意味し、「M」はモルを意味し、「min」は分を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「NMR」は核磁気共鳴分光法を意味し、「psi」はポンド/平方インチを意味する。
【0069】
実施例1
窒素下で、5.00g(15.4mmol)の2,5−ジブロモテレフタル酸を、20gのHOと組み合わせた。次に、1.71g(16.1mmol)のNaCOを加えた。窒素雰囲気下に保ちながら、この混合物を加熱して、30分間攪拌しながら還流させた。さらに2.38g(22.5mmol)のNaCOを反応混合物に加え、還流を30分間続けた。別個に、28mgのCuBrおよび50mgのrac−トランス−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(配位子F)を、2mLのHOと窒素下で組み合わせた。CuBrが溶解されて青紫色の溶液が得られるまで、得られた混合物を空気雰囲気下で攪拌した。この溶液を、攪拌された反応混合物に窒素下で90℃で加え、90℃で2時間攪拌した。25℃に冷却した後、反応混合物を15%のHClで酸性化すると、黄色の沈殿物が生じた。黄色の沈殿物をろ過し、水で洗浄した。乾燥させた後、合計で2.96g(15mmol、収率97%)の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を回収した。純度をH NMRによって測定したところ、98%を超えていた。
【0070】
実施例2
還流冷却器を備えた丸底フラスコにおいて、1.00g(3.1mmol)の2,5−ジブロモテレフタル酸を、10mLのHOと組み合わせた。0.85gのNaCO(7.8mmol)をこの混合物に加えた。続いて、アセトニトリル中0.12mL(0.031mmol、1mol%)の0.23Mの臭化銅(I)を加え、その後、0.12mL(0.062mmol、2mol%)の0.5Mのrac−トランス−N、N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(配位子F)を加えた。反応混合物を攪拌しながら90℃に加熱し、次に90℃で18時間攪拌した。試料を6時間後に採取し、H NMRによって分析した。出発材料は検出されなかった。18時間後、2−ブロモ−5−ヒドロキシテレフタル酸の変換率は99%より高く、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸に対する生成物の選択性は98%を超えていた。25℃に冷却した後、反応混合物を15%のHClで酸性化すると、薄緑色の沈殿物が生じた。沈殿物をろ過し、水で洗浄し、乾燥させた。H NMR分析によって、水相は、検出可能な有機生成物を全く示さなかった。固体生成物の純度を測定したところ、98%を超えていた。
【0071】
実施例3〜19;比較例AおよびB
窒素雰囲気下で、磁気攪拌子を備えた2mLのバイアルに、25mg(0.077mmol)の2,5−ジブロモテレフタル酸(「DBTA」)を加え、その後、0.308mL(0.308mmol)の1.0Mの水性水酸化ナトリウムおよび0.169mL(0.169mmol)の1.0Mの水性酢酸ナトリウムを加えた。次に、この混合物を、アセトニトリル中0.003mL(0.00077mol、1mol%)の0.23Mの臭化銅(I)および0.003mL(0.00154mmol、2mol%)の、表2で下に示すようなジアミン配位子、またはテトラアミン配位子(比較例A)についてはその半分の量、またはピリジン(Q)の場合にはその2倍の量で処理した。比較例Bでは、配位子を用いなかった。
【0072】
次に、反応器バイアルを窒素下で密閉し、密閉した反応器ブロックに入れた。90℃で3時間後、反応混合物を室温に冷却させた。反応混合物を15%の水性HClで酸性化すると、沈殿物が生じた。沈殿物をろ過し、HOで洗浄し、乾燥された生成物を、H NMRによって分析した。各配位子についてのDBTA(II)の変換率パーセントを表2に示す。また、DHTA(I)および中間体である2−ブロモ−5−ジヒドロキシテレフタル酸(VII)についての選択性も表2に示す。メチル保有第3級テトラアミン(配位子O、比較例A)または配位子なし(比較例B)のいずれかを使用すると、実施例の配位子を用いたよりも変換率が低くなった。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
実施例20〜23
8つの2mLの反応器バイアルそれぞれに、25mg(0.077mmol)の2,5−ジブロモテレフタル酸を入れ、その後、表3に示すような様々な量の0.5Mの水性炭酸ナトリウム溶液を入れた。次に、この混合物のそれぞれを、アセトニトリル中0.003mLの0.23Mの臭化銅(I)および0.003mLの0.5Mのrac−トランス−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(配位子F)で処理した。反応器バイアルを閉じ、8ウェルの反応器中に入れた。次にこの反応器を密閉した。約12psi(83kPa)のN圧力をかけた。反応器を90℃に加熱し、その温度で5時間保ち、次に室温に冷却させた。次に、反応混合物を15%の水性HClで酸性化すると、薄緑色の沈殿物が生じた。沈殿物をろ過し、水で洗浄し、乾燥させ、DMSO−d6中でのH NMRによって分析した。結果を表3に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
実施例24〜29
これらの実施例は、様々な銅化合物およびrac−トランス−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(配位子F)を用いて、2,5−ジブロモテレフタル酸から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を形成することを示す。窒素下で、所定の量の2,5−ジブロモテレフタル酸(表4に記載)を、約5倍の重量のHOと組み合わせ、次に、所定の量のNaCO(表4に記載)を加えた。窒素雰囲気下に保ちながら、この混合物を加熱して、30分間攪拌しながら還流させた。別個に、所定の量の銅化合物(表4に記載)および所定の量のrac−トランス−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(配位子F)を、空気の排除下で2mLのHOと組み合わせた。CuBrおよびCuClについて、次に、得られた混合物を、銅塩が溶解されるまで空気雰囲気下で約30秒間攪拌してから、それを反応混合物に加えた。CuBr、CuSO、Cu(OTf)(トルエン)およびCu(OTf)について、得られた触媒溶液を、空気の排除下で、80℃でシリンジを介して攪拌された反応混合物に加え、80℃で攪拌した。試料を定期的に採取して、DHTAへの変換率を追跡した。表4は、H NMR分光法
によって得られた結果を示す。所与の時間は、出発材料IIの所与の変換率に達するためのおよその反応時間を示す。
【0079】
【表6】

【0080】
実施例30
この実施例は、CuBrおよびrac−トランス−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(配位子F)を用いて、2,5−ジクロロテレフタル酸から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を形成することを示す。窒素下で、2.00g(8.51mmol)の2,5−ジクロロテレフタル酸を、10gのHOと組み合わせた。次に、0.938g(8.85mmol)のNaCOを加えた。窒素雰囲気下に保ちながら、この混合物を加熱して、30分間攪拌しながら還流させた。さらに1.31g(12.34mmol)のNaCOを反応混合物に加え、還流を30分間続けた。別個に、12mgのCuBrおよび24mgのrac−トランス−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(配位子F)を、窒素下で2mLのHOと組み合わせた。CuBrが溶解されて濃い紫色の溶液が得られるまで、得られた混合物を空気雰囲気下で攪拌した。この溶液を、窒素下で、80℃でシリンジを介して攪拌された反応混合物に加え、80℃で20時間攪拌した。25℃に冷却した後、反応混合物を濃HClで酸性化すると、暗黄色の沈殿物が生じた。この暗黄色の沈殿物をろ過し、水で洗浄した。乾燥させた後、合計で1.59g(8.03mmol、収率94%)の2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を回収した。純度をH NMRによって測定したところ、95%を超えていた。
【0081】
本発明の実施形態が、ある特徴を「含む」、「含める」、「含有する」、「有する」、ある特徴「から構成される」または「によって構成される」と言及または記載される場合、矛盾する明示的な言及または記載のない限り、明示的に言及または記載されるものに加えて1つまたは複数の特徴が実施形態に存在し得ることを理解されたい。しかしながら、本発明の別の実施形態は、ある特徴「から本質的になる」と言及または記載されることがあり、この実施形態では、実施形態の動作の原理または際立った特性を実質的に変更し得る特徴が存在しない。本発明のさらに別の実施形態は、ある特徴「からなる」と言及または記載されることがあり、この実施形態では、またはその実質的でない変形例では、具体的に言及または記載された特徴のみが存在する。
【0082】
不定冠詞「a」または「an」が、本発明の方法における工程の存在の言及または記載について用いられる場合、矛盾する明示的な言及または記載のない限り、かかる不定冠詞の使用は、方法における工程の存在の数を1つに限定するものではないことを理解されたい。
【0083】
数値の範囲が本明細書で引用される場合、特に記載しない限り、この範囲は、その端点、ならびにその範囲内にある全ての整数および端数を含めるものである。本発明の範囲は、範囲を規定するときに引用される特定の値に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法であって、
(a)式III
【化1】

(式中、Xが、Cl、Br、またはIである)
によって一般に表されるような2,5−ジハロテレフタル酸を水中で塩基と接触させて、それから前記2,5−ジハロテレフタル酸の対応する二塩基性塩を形成する工程と;
(b)前記2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、水中で塩基と、および銅に配位するアミン配位子の存在下で銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHにおいて、前記2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を形成する工程であって;前記配位子が、テトラアミンである場合、少なくとも1つの第1級または第2級アミノ基を含む工程と;
(c)任意選択的に、形成された反応混合物から前記2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を分離する工程と;
(d)前記2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて、それから2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を形成する工程と
を含む方法。
【請求項2】
工程(a)において、2,5−ジハロテレフタル酸を、前記2,5−ジハロテレフタル酸の当量当たり少なくとも約2規定当量の水溶性塩基と接触させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)において、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、前記2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩の当量当たり少なくとも約2規定当量の水溶性塩基と接触させる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)および(b)において、2,5−ジハロテレフタル酸の当量当たり合計で約4〜約5規定当量の水溶性塩基を、反応混合物に加える請求項1に記載の方法。
【請求項5】
銅源が、Cu(0)、Cu(I)塩、Cu(II)塩、またはそれらの混合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
銅源が、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、CuNO、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、Cu(NO、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
配位子が、モノアミン、ジアミン、トリアミンまたはテトラアミンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
配位子が、N,N’−置換ジアミンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
配位子が、N,N’−ジ−n−アルキルエチレンジアミンまたはN,N’−ジ−n−アルキルシクロヘキサン−1,2−ジアミンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
配位子が、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジ−n−プロピルエチレンジアミン、
N,N’−ジブチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N’−ジ−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、および
N,N’−ジブチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン
からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
配位子が、シクロヘキシルジアミンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
配位子が、環状アミンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
配位子が、ピリジン、ピペリジン、ビピリジル、1,10−フェナントロリン、および1,2−ビス(4−ピリジル)エタンからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
銅源および配位子を反応混合物に加える前に、前記銅源を前記配位子と組み合わせる工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
銅源がCuBrを含む請求項8に記載の方法。
【請求項16】
銅が、2,5−ジハロテレフタル酸のモルを基準にして約0.1〜約5mol%の量で提供される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
配位子が、銅1モル当たり約1〜約2モル当量の量で提供される請求項1に記載の方法。
【請求項18】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に変換する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項19】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を、塩基性条件下で、式R10SO(式中、RおよびR10が、それぞれ独立して、置換または非置換のC1-10アルキル基である)の硫酸ジアルキルと接触させる請求項18に記載の方法。
【請求項20】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を反応させて、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを製造する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項21】
製造されたポリマーが、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーを含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
2,5−ジアルコキシテレフタル酸を反応させて、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを製造する工程をさらに含む請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2010−511044(P2010−511044A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539293(P2009−539293)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/024467
【国際公開番号】WO2008/066821
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】