説明

2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の合成方法

2,5−ジヒドロキシテレフタル酸は、塩基性条件下での銅源および銅に配位する配位子との接触によって2,5−ジハロテレフタル酸から高収率および高純度で製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間体として、またはポリマーを製造するためのモノマーとしての使用などの様々な目的に役立つ、ヒドロキシ安息香酸の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシ安息香酸は、医薬品および穀物保護で活性な化合物をはじめとする多くの価値ある物質の製造で中間体および添加物として有用であり、そしてまた、ポリマーの製造でのモノマーとしても有用である。特に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸(式I、「DHTA」)は、ポリ[(1,4−ジヒドロジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジン−2,6−ジイル)(2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニレン)]から製造されるものなどの高強度繊維の合成用の有用なモノマーである。
【化1】

【0003】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸および他のヒドロキシ安息香酸の様々な製造は公知である。Marzinは、非特許文献1で、銅粉の存在下での2,5−ジブロモテレフタル酸(式II、「DBTA」)からの2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の合成を教示している。
【化2】

【0004】
Singhらは、非特許文献2に、KOHおよび銅粉の存在下でのDBTAとフェノールとの縮合によるDHTAを含む生成物の製造を報告している。
【0005】
非特許文献3は、様々な配位子の存在下でCu(I)によって触媒される反応での2−ブロモ安息香酸のサリチル酸、安息香酸、およびジフェン酸への変換を記載している。第三級テトラアミンは、Cu(I)と一緒での使用でジフェン酸の形成を最小限にする。
【0006】
非特許文献4は、2−クロロ安息香酸からのサリチル酸の合成方法を記載している。1モルの2−クロロ安息香酸当たり少なくとも1.0モルのピリジンなどの化学量論量のピリジン(1モルの2−クロロ安息香酸当たり0.5〜2.0モル)が使用される。銅粉がピリジンと一緒に触媒として使用される。
【0007】
ヒドロキシ安息香酸を製造するための様々な先行技術方法は、長い反応時間、著しい生産性損失をもたらす限定された転化率、または適度の速度および生産性を得るために圧力下におよび/またはより高温(典型的には140〜250℃)で行う必要性によって特徴付けられる。それ故、固有の運転困難性が低く、かつ、小規模および大規模運転の両方で高収率および高生産性で、そして回分式および連続運転で、2,5−ジテレフタル酸を経済的に製造することができる方法に対するニーズは依然としてある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal fuer Praktische Chemie、138(1933)、103−106ページ
【非特許文献2】Jour.Indian Chem.Soc.、Vol.34(1957)、No.4、321−323ページ
【非特許文献3】Rusonikら著、Dalton Transactions、2003、2024−2028ページ
【非特許文献4】Comdomら著、Synthetic Communications、32(13)(2002)、2055−59ページ
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様は、(a)2,5−ジハロテレフタル酸(III)
【化3】

(式中、X=Cl、Br、またはIである)
を水中で塩基と接触させて2,5−ジハロテレフタル酸の相当する二塩基性塩をそれから形成する工程と、(b)2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下に銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHで2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から形成する工程と、(c)場合により、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を、それが生じている反応混合物から分離する工程と、(d)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて2,5−ジヒドロキシテレフタル酸をそれから形成する工程とによる2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法を提供する。
【0010】
本発明のさらに別の実施態様は、上記の方法で2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を製造し、次に2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に転化することによる2,5−ジアルコキシテレフタル酸の製造方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに別の実施態様はその結果として、(a)2,5−ジハロテレフタル酸(III)
【化4】

(式中、X=Cl、Br、またはIである)
を水中で塩基と接触させて2,5−ジハロテレフタル酸の相当する二塩基性塩をそれから形成する工程と、(b)2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下に銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHで2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から形成する工程と、(c)場合により、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を、それが生じている反応混合物から分離する工程と、(d)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて2,5−ジヒドロキシテレフタル酸をそれから形成する工程と、(e)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に転化する工程とによる2,5−ジアルコキシテレフタル酸の製造方法を提供する。
【0012】
本発明のさらに別の実施態様は、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸または2,5−ジアルコキシテレフタル酸を、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーが製造される反応に供する工程をさらに含む、上記のような2,5−ジヒドロキシテレフタル酸および/または2,5−ジアルコキシテレフタル酸の製造方法を提供する。
【0013】
本発明のさらに別の実施態様はその結果として、(a)2,5−ジハロテレフタル酸(III)
【化5】

(式中、X=Cl、Br、またはIである)
を水中で塩基と接触させて2,5−ジハロテレフタル酸の相当する二塩基性塩をそれから形成する工程と、(b)2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下に銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHで2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から形成する工程と、(c)場合により、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を、それが生じている反応混合物から分離する工程と、(d)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて2,5−ジヒドロキシテレフタル酸をそれから形成する工程と、(e)場合により、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に転化する工程と、(f)2,5−ジヒドロキシテレフタル酸および/または2,5−ジアルコキシテレフタル酸を、化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーをそれから製造するための反応にかける工程とによる化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーの製造方法を提供する。
【0014】
さらに別の実施態様では、本明細書に記載される方法の1つまたはそれ以上における配位子は、ジケトンであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、2,5−ジハロテレフタル酸を塩基と接触させて2,5−ジハロテレフタル酸の相当する二塩基性塩を形成する工程と、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を塩基と、および銅に配位する配位子の存在下に銅源と接触させて2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を形成する工程と、次に2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて2,5−ジヒドロキシテレフタル酸生成物を形成する工程とによる2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の高収率および高生産性製造方法を提供する。用語「二塩基性塩」は、本明細書で用いるところでは、1分子当たり2個の交換可能な水素原子を含有する酸である二塩基酸の塩を意味する。
【0016】
本発明の方法がスタートする好適なジハロテレフタル酸には、2,5−ジブロモテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、および2,5−ジヨードテレフタル酸、またはそれらの混合物が含まれる。2,5−ジブロモテレフタル酸(「DBTA」)は商業的に入手可能である。しかしながら、それは、例えば、水性臭化水素中でのp−キシレンの酸化によって(McIntyreら著、Journal of the Chemical Society,Abstracts,1961,4082−5ページ)、テレフタル酸もしくは塩化テレフタロイルの臭素化によって(米国特許第3,894,079号明細書)、または2,5−ジブロモ−1,4−ジメチルベンゼンの酸化によって(独国特許第1,812,703号明細書)合成することができる。2,5−ジクロロテレフタル酸もまた、商業的に入手可能である。しかしながら、それは、例えば、2,5−ジクロロ−1,4−ジメチルベンセンの酸化によって合成することができる[Shcherbinaら著、Zhurnal Prikladnoi Khimii(Sankt−Peterburg,Russisan Federation,1990)、63(2)、467−70ページ)]。2,5−ジヨードテレフタル酸は、例えば、2,5−ジヨード−1,4−ジメチルベンセンの酸化によって合成することができる[Perryら著、Macromolecules(1995),28(10),3509−15ページ]。
【0017】
工程(a)において、2,5−ジハロテレフタル酸を、水中で塩基と接触させて、2,5−ジハロテレフタル酸の相当する二塩基性塩をそれから形成する。工程(b)において、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下に銅源と接触させて、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から形成する。
【0018】
工程(a)および/または工程(b)に使用される塩基は、イオン性塩基であってもよく、そして特に、Li、Na、K、MgまたはCaの1つまたはそれ以上の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩またはリン酸水素塩の1つまたはそれ以上であってもよい。使用される塩基は、水溶性、部分水溶性であってもよく、または塩基の溶解度は、反応が進行するにつれて、および/または塩基が消費されるにつれて増大するかもしれない。NaOHおよびNaCOが好ましいが、他の好適な有機塩基が、例えば、トリアルキルアミン(トリブチルアミンなど)、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、およびN−アルキルイミダゾール(例えば、N−メチルイミダゾール)からなる群から選択されてもよい。原則として、pHを8より上に維持するおよび/または2,5−ジハロテレフタル酸の反応中に生成する酸と結合することができるいかなる塩基も好適である。
【0019】
工程(a)および/または(b)に使用されるべき塩基の具体的な量は、塩基の強度に依存する。工程(a)においては、2,5−ジハロテレフタル酸を、好ましくは、2,5−ジハロテレフタル酸の1当量当たり少なくとも約2当量の塩基、好ましくは水溶性塩基と接触させる。1「当量」は、この文脈で塩基について用いられるところでは、水素イオンの1モルと反応するであろう塩基のモル数であり;酸については、1当量は、水素イオンの1モルを供給するであろう酸のモル数である。
【0020】
工程(b)において、少なくとも約8、または少なくとも約9、または少なくとも約10、そして好ましくは約9〜約11の溶液pHを維持するのに十分な塩基が使用されるべきである。従って、典型的には工程(b)において、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩の1当量当たり少なくとも約2当量の、水溶性塩基などの塩基と接触させる。
【0021】
しかしながら、代わりの実施態様では、反応の開始時に元々使用される2,5−ジハロテレフタル酸の1当量当たり反応混合物において、合計少なくとも約4〜約5当量の、水溶性塩基などの塩基を使用することが工程(a)および(b)において望ましいかもしれない。上記のような量で使用される塩基は、典型的には強塩基であり、典型的には周囲温度で加えられる。工程(b)に使用される塩基は、工程(a)に使用される塩基と同じものであっても、またはそれとは異なるものであってもよい。
【0022】
上述のように、工程(b)において、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、また、銅に配位する配位子の存在下に銅源と接触させる。銅源および配位子は、反応混合物に順次加えられてもよいし、または別途組み合わせられ(例えば、水もしくはアセトニトリルの溶液で)、そして一緒に加えられてもよい。銅源は水中で酸素の存在下に配位子と組み合わせられても、または水を含有する溶媒混合物と組み合わせられてもよい。
【0023】
銅源と配位子との反応混合物中に、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩の塩基性溶液中に一緒に存在することから、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩、銅化学種、配位子、およびハロゲン化物塩を含有する水性混合物が得られる。必要ならば、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩は、この段階でおよび工程(d)における酸性化の前に[任意の工程(c)として]混合物から分離されてもよいし、そして別の反応にまたは他の目的向けに二塩基性塩として使用されてもよい。
【0024】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を次に、工程(d)においてそれをヒドロキシ芳香族酸生成物に転化するために酸と接触させる。m−塩基性塩をプロトン化するのに十分な強度の任意の酸が好適である。例には、限定なしに塩酸、硫酸およびリン酸が挙げられる。
【0025】
工程(a)および(b)についての反応温度は、好ましくは約60〜約120℃、より好ましくは約75〜約95℃であり、本方法は従って、様々な実施態様で反応混合物を加熱する工程を含む。溶液は典型的には、工程(d)における酸性化が実施される前に放冷される。様々な実施態様では、酸素は反応の間ずっと排除されてもよい。
【0026】
銅源は銅金属[「Cu(0)」]、1つまたはそれ以上の銅化合物、または銅金属と1つまたはそれ以上の銅化合物との混合物である。銅化合物は、Cu(I)塩、Cu(II)塩、またはそれらの混合物であってもよい。例には、限定なしにCuCl、CuBr、CuI、CuSO、CuNO、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、およびCu(NOが挙げられる。CuBrか好ましい。提供される銅の量は典型的には、2,5−ジハロテレフタル酸のモルを基準として約0.1〜約5モル%である。
【0027】
銅源がCu(0)であるとき、Cu(0)、臭化銅および配位子は、空気の存在下に組み合わせられてもよい。Cu(0)またはCu(I)の場合には、前もって定められた量の金属および配位子が水中で組み合わせられてもよく、そして生じた混合物は、着色溶液が形成されるまで空気または希薄酸素と反応させられてもよい。生じた金属/配位子溶液は、水中に2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩および塩基を含有する反応混合物に加えられる。
【0028】
配位子は、式IV
【化6】

(式中、Aは、
【化7】

であり、
およびRはそれぞれ独立して、置換および非置換C〜C16のn−アルキル、イソ−アルキルおよび第三アルキル基;ならびに置換および非置換C〜C30アリールおよびヘテロアリール基から選択され、
は、H;置換および非置換C〜C16のn−アルキル、イソ−アルキルおよび第三アルキル基;置換および非置換C〜C30アリールおよびヘテロアリール基;ならびにハロゲンから選択され、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、Hまたは置換もしくは非置換C〜C16のn−アルキル、イソ−アルキルもしくは第三アルキル基であり、そして
n=0または1である)
で一般に記載されるジケトンであってもよい。
【0029】
用語「非置換」は、上記のようなジケトン中のアルキルまたはアリール基に関して用いられるところでは、アルキルまたはアリール基が炭素および水素以外の原子を全く含有しないことを意味する。しかしながら、置換アルキルまたはアリール基において、生じる構造が−O−O−または−S−S−部分を全く含有しないという条件で、かつ、どの炭素原子も2個以上のヘテロ原子に結合していないという条件で、1つまたはそれ以上のOまたはS原子が場合により鎖中のまたは環中の炭素原子の任意の1つまたはそれ以上と置き換えられてもよい。好ましい実施態様では、RはHである。
【0030】
一実施態様では、配位子として本明細書での使用に好適なジケトンは、2,2’,6,6’−テトラメチルヘプタンジオン−3,5(式V):
【化8】

である。
【0031】
配位子として本明細書での使用に好適な他のジケトンには、限定なしに、2,4−ペンタンジオンおよび2,3−ペンタンジオンが含まれる。
【0032】
本明細書での使用に好適な配位子は、上記の名称または構造で記載された配位子の全集団のメンバーの任意の1つまたはそれ以上または全てとして選択されてもよい。しかしながら、好適な配位子はまた、全集団のサブグループのメンバーの任意の1つまたはそれ以上または全てとして選択されてもよく、ここで、サブグループは任意のサイズ(例えば、1、2、6、10または20)であってもよいし、およびここで、サブグループは上記のような全集団のメンバーの任意の1つまたはそれ以上を除外することによって形成される。結果として、配位子は、かかる場合には、上記のような配位子の全集団から形成されてもよい任意のサイズの任意のサブグループのメンバーの1つまたはそれ以上または全てとして選択されてもよいのみならず、配位子はまたサブグループを形成するために全集団から除外されたメンバーの不存在下に選択されてもよい。
【0033】
様々な実施態様では、配位子は、銅の1モル当たり約1〜約10、好ましくは約1〜約2モル当量の配位子の量で提供されてもよい。本明細書で用いるところでは、用語「モル当量」は、1モルの銅と相互作用するであろう配位子のモル数を示唆する。
【0034】
2,5−ジハロテレフタル酸が2,5−ジブロモテレフタル酸であるとき、銅源はCu(0)および/またはCu(I)塩であってもよく、それは、水、または水を含有する溶媒混合物中で酸素の存在下に配位子と組み合わせられてもよい。あるいはまた、Cu(I)塩がCuBrであり、そして配位子が上で具体的に名前が挙げられたジケトンの1つ(2,2’,6,6’−テトラメチルヘプタンジオン−3,5など)であるとき、配位子は、銅の1モル当たり2モル当量の量で提供されてもよく、CuBrは、水および空気の存在下に配位子と組み合わせられてもよい。
【0035】
配位子は、触媒としての銅源の作用を容易にすると考えられ、および/または銅源および配位子は、触媒としての役割を果たすために一緒に機能して反応の1つまたはそれ以上の属性を改善すると考えられる。
【0036】
上記の本方法はまた、式VI:
【化9】

(式中、RおよびR10はそれぞれ独立して、置換または非置換C1-10アルキル基であり、RおよびR10は、非置換であるとき、炭素および水素のみを含有する一価の基である)の構造で一般に記載されてもよい、2,5−ジアルコキシテレフタル酸などの、関連化合物の効果的なおよび効率的な合成を可能にする。しかしながら、それらのアルキル基のいずれにおいても、生じる構造が−O−O−または−S−S−部分を全く含有しないという条件で、かつ、どの炭素原子も2個以上のヘテロ原子に結合していないという条件で、1つまたはそれ以上のOまたはS原子が場合により鎖中の炭素原子の任意の1つまたはそれ以上と置き換えられてもよい。
【0037】
本発明の方法によって製造されるような、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸は、2,5−ジアルコキシテレフタル酸に転化されてもよく、かかる転化は、例えば、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を、式R10SOのジアルキル硫酸と塩基性条件下に接触させることによって成し遂げられてもよい。かかる転化反応を行う好適な一方法は、オーストリア国特許第265,244号明細書に記載されている通りである。かかる転化に好適な塩基性条件は、上記のものなどの1つまたはそれ以上の塩基を使用して、少なくとも約8、または少なくとも約9、または少なくとも約10、好ましくは約9〜約11の溶液pHである。
【0038】
ある種の実施態様では、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を、それを2,5−ジアルコキシテレフタル酸に転化する前にそれが形成された反応混合物から分離することが望ましいかもしれない。
【0039】
上記の本方法はまた、化合物、モノマー、またはそれのオリゴマーもしくはポリマーなどの、生じた2,5−ジヒドロキシテレフタル酸または2,5−ジアルコキシテレフタル酸から製造される生成物の効果的なおよび効率的な合成を可能にする。これらの製造される物質は、エステル官能性、エーテル官能性、アミド官能性、イミド官能性、イミダゾール官能性、カーボネート官能性、アクリレート官能性、エポキシド官能性、ウレタン官能性、アセタール官能性、および酸無水物官能性の1つまたはそれ以上を有してもよい。
【0040】
本発明の方法によって製造された物質、またはかかる物質の誘導体を含む代表的な反応には、例えば、米国特許第3,047,536号明細書(あらゆる目的のために本明細書の一部として全体が援用される)に開示されているような、窒素下に1−メチルナフタレン中0.1%のZn(BOの存在下での2,5−ジヒドロキシテレフタル酸と、ジエチレングリコールかトリエチレングリコールのどちらかとからのポリエステルの製造が含まれる。同様に、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸は、米国特許第3,227,680号明細書(あらゆる目的のために本明細書の一部として全体が援用される)において熱安定化ポリエステルを製造するために二塩基酸とグリコールとの共重合に好適であるとして開示されており、ここで、代表的な条件は、200〜250℃でブタノール中チタンテトライソプロポキシドの存在下にプレポリマーを形成する工程、引き続く0.08mmHgの圧力で280℃での固相重合を含む。
【0041】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸はまた、強ポリリン酸中でテトラアミノピリジンの三塩酸塩一水和物と、米国特許第5,674,969号明細書(あらゆる目的のために本明細書の一部として全体が援用される)に開示されているように、減圧下に100℃より上、約180℃以下でゆっくり加熱すること、引き続く水中での沈殿によって;または国際公開第2006/104974号パンフレットとして公開された、2005年3月28出願の米国仮特許出願第60/665,737号明細書(あらゆる目的のために本明細書の一部として全体が援用される)に開示されているように約50℃〜約110℃、次に145℃の温度でモノマーを混合してオリゴマーを形成し、そして次にこのオリゴマーを約160℃〜約250℃の温度で反応させることによって重合させられてきた。そのように製造されてもよいポリマーは、ポリ(l,4−(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン−2,6−ピリド[2、3−d:5,6−d’]ビスイミダゾール)ポリマーまたはポリ[(1,4−ジヒドロジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジン−2,6−ジイル)(2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニレン)]ポリマーなどの、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーであってもよい。しかしながら、それのピリドビスイミダゾール部分は、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾールおよびピリドビスオキサゾールのどれかまたはより多くで置き換えられてもよく;それの2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン部分は、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−キノリンジカルボン酸、および2,6−ビス(4−カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾールの1つまたはそれ以上の誘導体で置き換えられてもよい。
【実施例】
【0042】
本発明は、以下の実施例でさらに明確にされる。これらの実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すが、例示の目的のみで与えられ、添付の特許請求の範囲を限定しない。上記の議論およびこれらの実施例から、本発明の本質的な特性が確認されてもよく、そして、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明の修正がそれを様々な使用および条件に適合させるために行われてもよい。
【0043】
原材料:以下の原材料を実施例で使用した。全ての試薬は受け取ったまま使用した。生成物純度は、H NMRで測定した。
【0044】
2,2’,6,6’−テトラメチルヘプタンジオン−3,5(>98%純度)は、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin,USA)から入手した。2,5−ジブロモテレフタル酸(95+%純度)は、Maybridge Chemical Company Ltd.(Cornwall,United Kingdom)から入手した。臭化銅(I)(「CuBr」)(98%純度)は、Acros Organics(Geel,Belgium)から入手した。NaCO(99.5%純度)は、EM Science(Gibbstown,New
Jersey)から入手した。
【0045】
本明細書で用いるところでは、用語「転化率」は、どれだけ多くの反応体が理論量の分率または百分率として使い尽くされたかを意味する。本明細書で用いるところでは、用語生成物Pの「選択率」は、最終生成物混合物中のPのモル分率またはモル百分率を意味する。転化率×選択率は従って、Pの最大「収率」に等しく、実際のまたは「正味」収率は普通、単離、ハンドリング、乾燥などのような作業の過程で被るサンプル損失のためにこれより幾分少ないであろう。本明細書で用いるところでは、用語「純度」は、手持ちの単離サンプルの何パーセンテージが実際に特定の物質であるかを意味する。
【0046】
用語「HO」および「水」は蒸留水を意味する。省略形の意味は次の通りである:「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「g」はグラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「mol equiv」はモル当量を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「NMR」は核磁気共鳴分光法を意味する。
【0047】
実施例1
本実施例は、CuBrおよびジケトン配位子2,2’,6,6’−テトラメチルヘプタンジオン−3,5(式Vに示されるような)を使用する2,5−ジブロモテレフタル酸からの2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の形成を実証する:
【化10】

【0048】
窒素下に、2.00g(6.2ミリモル)の2,5−ジブロモテレフタル酸を15gのHOと組み合わせ、0.679g(6.4ミリモル)のNaCOを次に加えた。混合物を、窒素雰囲気下のままで、撹拌しながら30分間加熱還流した。別の0.940g(9.0ミリモル)のNaCOを反応混合物に加え、還流を30分間続行した。別に、9mg(0.06ミリモル)(0.01モル当量)のCuBrおよび25mg(0.14ミリモル)(0.02モル当量)の2,2’,6,6’−テトラメチルヘプタンジオン−3,5を窒素下に2mLのHOと組み合わせた。生じた混合物を、CuBrが溶解するまで空気雰囲気下に撹拌した。この溶液を、撹拌される反応混合物に窒素下に80℃でシリンジによって加え、80℃で30時間撹拌した。25℃に冷却した後、反応混合物をHCl(濃)で酸性化し、暗黄色沈殿を生み出した。黄色沈殿を濾過し、水で洗浄した。乾燥後に、合計1.26gの粗2,5−ジヒドロキシテレフタル酸および2−ヒドロキシテレフタル酸が得られた。2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の純度は約89%であるとH NMRによって測定された。2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の正味収率は92%であると測定された。
【0049】
本発明の実施態様が、ある種の特徴を含む、包含する、含有する、有する、それらからなるまたはそれらによって構成されるとして記述されるかまたは記載される場合、その記述または記載がそれとは反対を明確に提供しない限り、明確に記述されるかまたは記載されるものに加えて1つまたはそれ以上の特徴がその実施態様に存在してもよいことは理解されるべきである。しかしながら、本発明の代わりの実施態様は、ある種の特徴から本質的になるとして記述されてもまたは記載されてもよく、その実施態様において実施態様の操作の原理または特徴的な特性を実質的に変えるであろう実施態様特徴はそれには存在しない。本発明のさらなる代わりの実施態様は、ある種の特徴からなるとして記述されてもまたは記載されてもよく、その実施態様において、またはそれのごくわずかな変形において、具体的に記述されるかまたは記載される特徴が存在するにすぎない。
【0050】
不定冠詞「a」または「an」が本発明の方法における工程の存在についての記述または記載に関して用いられる場合、その記述または記載がそれとは反対を明確に提供しない限り、かかる不定冠詞の使用は本方法における工程の存在を数で1つに限定しないことは理解されるべきである。
【0051】
数値の範囲が本明細書に列挙される場合、特に明記しない限り、その範囲は、その終点、その範囲内の全ての整数および分数を含むことを意図される。本発明の範囲は、ある範囲を定義するときに列挙される具体的な値に限定されることは意図されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式III
【化1】

(式中、X=Cl、Br、またはIである)
で一般に記載されるような、2,5−ジハロテレフタル酸を水中で塩基と接触させて前記2,5−ジハロテレフタル酸の相当する二塩基性塩をそれから形成する工程と、
(b)前記2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を水中で塩基と、および銅に配位する配位子の存在下に銅源と接触させて、少なくとも約8の溶液pHで2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を前記2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩から形成する工程であって、前記配位子が式IV
【化2】

(式中、Aは、
【化3】

であり、
およびRはそれぞれ独立して、置換および非置換C〜C16のn−アルキル、イソ−アルキルおよび第三アルキル基;ならびに置換および非置換C〜C30アリールおよびヘテロアリール基から選択され、
は、H;置換および非置換C〜C16のn−アルキル、イソ−アルキルおよび第三アルキル基;置換および非置換C〜C30アリールおよびヘテロアリール基;ならびにハロゲンから選択され、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、Hまたは置換もしくは非置換C〜C16のn−アルキル、イソ−アルキルもしくは第三アルキル基であり、そして
n=0または1である)
で一般に記載されるジケトンを含む工程と、
(c)場合により、前記2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を、それが生じている反応混合物から分離する工程と、
(d)前記2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の二塩基性塩を酸と接触させて2,5−ジヒドロキシテレフタル酸をそれから形成する工程と
を含む2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の製造方法。
【請求項2】
工程(a)において、2,5−ジハロテレフタル酸を、前記2,5−ジハロテレフタル酸の1当量当たり少なくとも約2規定当量の水溶性塩基と接触させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)において、2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩を、前記2,5−ジハロテレフタル酸の二塩基性塩の1当量当たり少なくとも約2規定当量の水溶性塩基と接触させる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)および(b)において、2,5−ジハロテレフタル酸の1当量当たり合計約4〜約5の規定当量の水溶性塩基を、反応混合物に加える請求項1に記載の方法。
【請求項5】
銅源がCu(0)、Cu(I)塩、Cu(II)塩、またはそれらの混合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
銅源がCuCl、CuBr、CuI、CuSO、CuNO、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、Cu(NO、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
がHである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
配位子が2,4−ペンタンジオン、2,3−ペンタンジオンまたは2,2’,6,6’−テトラメチルヘプタンジオン−3,5(下に示されるような)である請求項1に記載の方法。
【化4】

【請求項9】
銅源を配位子と、それらを反応混合物に加える前に組み合わせる工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
銅源がCuBrを含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
銅源がCuBrを含み、配位子が2,2’,6,6’−テトラメチルヘプタンジオン−3,5であり、前記配位子が銅の1モル当たり2モル当量の量で提供され、そして前記CuBrを水および空気の存在下に前記配位子と組み合わせる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
塩基が、Li、Na、K、Mg、またはCaの1つまたはそれ以上の水溶性の水酸化物、リン酸塩、炭酸塩、または重炭酸塩の1つまたはそれ以上を含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
塩基がNaOHまたはNaCOを含む請求項1に記載の方法。
【請求項14】
銅が2,5−ジハロテレフタル酸のモルを基準として約0.1〜約5モル%の量で提供される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
配位子が銅の1モル当たり約1〜約2モル当量の量で提供される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を2,5−ジアルコキシテレフタル酸に転化する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項17】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を、式R10SO(式中、RおよびR10はそれぞれ独立して、置換または非置換C1-10アルキル基である)のジアルキル硫酸と塩基性条件下に接触させる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーが製造される反応に供する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項19】
製造されたポリマーがピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーを含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
2,5−ジアルコキシテレフタル酸を、それから化合物、モノマー、オリゴマーまたはポリマーが製造される反応に供する工程をさらに含む請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2010−511048(P2010−511048A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539297(P2009−539297)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/024472
【国際公開番号】WO2008/066825
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】