説明

2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンの製造方法

【課題】簡素で安全な方法によって、高収率で2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを製造する方法の提供。
【解決手段】2,7−ジブロモフロオレンと、脂肪族アルコールと、アルカリアルコキシドと、銅および/または酸化銅とを含む混合物を加熱し、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンは、例えば液晶装置の光学補償膜の原料として用いることができる。
従来、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを製造するには、複雑で、危険な操作が必要であった。また、工程数も多かった。さらに、得られる2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンの収率も低かった。
【0003】
例えば特許文献1の実施例4には、2,7−ジヒドロキシ−9−メチルフルオレンの製造方法が記載されている。この製造方法は第1〜第4段までの多工程からなり、−70℃に冷却する操作や、34%過酸化水素水を用いる操作などが含まれ、危険で複雑である。さらにここで得られる2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンの収率は10%程度であり低かった。
【特許文献1】特開2003−238491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような従来の問題点を解決するものである。つまり、簡素で安全であり、かつ高収率な2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題は、2,7−ジブロモフロオレンと、脂肪族アルコールと、アルカリアルコキシドと、銅および/または酸化銅とを含む混合物を加熱し、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを製造する方法により解決することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡素で安全であり、かつ高収率な2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、2,7−ジブロモフロオレンと、脂肪族アルコールと、アルカリアルコキシドと、銅および/または酸化銅とを含む混合物を加熱し、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを製造する方法である。
【0008】
本発明において脂肪族アルコールは特に限定されない。本発明において用いることができる脂肪族アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−ヘキサノールが挙げられる。
【0009】
本発明においてアルカリアルコキシドは、前記脂肪族アルコールの水酸基の水素をアルカリ元素で置換した化合物である。つまり、前記脂肪族アルコールとしてR−OHで表されるものを用いる場合は、アルカリアルコキシドとしてR−OM(Mはアルカリ元素)で表されるものを用いる。より具体的には、例えば前記脂肪族アルコールとしてエタノールを用いる場合、アルカリアルコキシドとしてはアルカリエトキシドを用いる。また、このような脂肪族アルコールとアルカリアルコキシドと用いると、9位のアルキル基がRである2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンが得られる。ここで前記脂肪族アルコールと前記アルカリアルコキシドとの種類が異なる場合、例えば前記脂肪族アルコールとしてメタノールを用い、アルカリアルコキシドとしてアルカリエトキシドを用いると、2,7−ジヒドロキシ−9−メチルフルオレンの他に、2,7−ジヒドロキシ−9−エチルフルオレンも生成するため低純度となる。
【0010】
本発明においてアルカリアルコキシドのアルカリ元素は特に限定されないが、価格の点からナトリウムが好ましい。
【0011】
本発明において銅および酸化銅は、2,7−ジブロモフロオレンの9位の位置の水素とアルキル基とを置換する反応、および2,7−ジブロモフロオレンの臭素の水酸基への置換を促進する触媒としての役割を果たす。
本発明においては銅または酸化銅を用いてもよいし、銅および酸化銅を混合して用いてもよい。ここで混合比は特に限定されない。また、粉末状態(例えば平均粒径で10〜100μm程度)の銅および/または酸化銅を用いてもよい。
【0012】
本発明では、2,7−ジブロモフロオレンと、前記脂肪族アルコールと、前記アルカリアルコキシドと、前記銅および/または酸化銅とを含む混合物を得た後、これを加熱する。
密閉容器内で前記混合物の加熱を行う場合、220〜260℃で12〜24h反応させることが好ましい。
【0013】
ここで反応時間が上記のような範囲であると2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンが生成する反応の反応率が高まる。また、反応時間が長すぎると2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンが反応して重合物が形成される場合がある。
【0014】
上記のような方法で2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを製造することができる。
【0015】
2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを精製するには、上記のように加熱された後の混合物に酸を入れて中和する。酸の種類は特に限定されない。例えば塩酸、硝酸などを用いることができる。
この中和においては通常多量の熱が生じるので、前記混合物を冷却しながら中和することが好ましい。例えば氷を入れた酸を用いる方法が挙げられる。
【0016】
中和後は、中和液を酢酸エチル、メチルイソブチルケトンなどの溶媒に添加し、これら溶媒に2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを溶解し、必要に応じてさらに水洗した後、再結晶を行うことで2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを得ることができる。
【0017】
このような簡潔で安全な本発明の製造方法によって、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを高い収率で得ることができる。概ね40〜70%程度の収率で得ることができる。したがって、本発明は2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンの安価な製造方法であるといえる。
【0018】
なお、本発明において収率は、下記式(1)から求めた値である。
【0019】
【数1】

【実施例】
【0020】
<実施例1>
オートクレーブの容器にメタノール:460gおよび金属ナトリウム:23gを投入した。そして水素ガスの発生が終了してから、2,7−ジブロモフルオレン:227g(0.7mol)および銅粉末:2.0gを投入し密閉し、220℃で20h反応させた。そして加熱後の混合物Aを得た。
得られた混合物Aを徐冷した後、塩酸(35質量%塩酸73gに氷220gを投入したもの)に注ぎ込み中和した。そして酢酸エチル400gを加え、しばらく静置し水相と油相とを分離させた後、デカンテーションにて水相を除去した。その後、油相の水洗を数回行った後、減圧下で酢酸エチル300gを留去した。そして析出した固体を乾燥して、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを90g得た。収率は60%であった。
【0021】
<実施例2>
オートクレーブの容器にエタノール:460gおよびナトリウムエトキシド:68gを投入した。そして水素ガスの発生が終了してから、2,7−ジブロモフルオレン:227g(0.7mol)および銅粉末:2.0gを投入し密閉し、220℃で20h反応させた。そして加熱後の混合物Bを得た。
得られた混合物Bを徐冷した後、塩酸(35質量%塩酸73gに氷220gを投入したもの)に注ぎ込み中和した。そして酢酸エチル400gを加え、しばらく静置し水相と油相とを分離させた後、デカンテーションにて水相を除去した。その後、油相の水洗を数回行った後、減圧下で酢酸エチル300gを留去した。そして析出した固体を乾燥して、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを115g得た。収率は72%であった。
【0022】
<実施例3>
オートクレーブの容器にn−ヘキサノール:500gおよび金属ナトリウム:11.5gを投入した。そして水素ガスの発生が終了してから、2,7−ジブロモフルオレン:113.5g(0.35mol)および酸化銅(CuO)粉末:2.0gを投入し密閉し、230℃で20h反応させた。そして加熱後の混合物Cを得た。
得られた混合物Cを徐冷した後、塩酸(35質量%塩酸37gに氷200gを投入したもの)に注ぎ込み中和した。そして酢酸エチル400gを加え、しばらく静置し水相と油相とを分離させた後、デカンテーションにて水相を除去した。その後、油相の水洗を数回行った後、減圧下で酢酸エチル300gを留去した。そして析出した固体を乾燥して、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを81g得た。収率は41%であった。
【0023】
<比較例1>
オートクレーブの容器にメタノール:460gおよび金属ナトリウム:23gを投入した。そして水素ガスの発生が終了してから、2,7−ジブロモフルオレン:227g(0.7mol)を投入し密閉し、220℃で20h反応させた。銅および/または酸化銅は使用しなかった。そして加熱後の混合物Dを得た。
得られた混合物Dを徐冷した後、塩酸(35質量%塩酸73gに氷220gを投入したもの)に注ぎ込み中和した。そして酢酸エチル400gを加え、しばらく静置し水相と油相とを分離させた後、デカンテーションにて水相を除去した。その後、油相の水洗を数回行った後、この油相をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、この油相中に2,7−ジヒドロキシ−9−メチルフルオレンや、2,7−ジブロモ−9−メチルフルオレンが含まれないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンは、液晶装置の光学補償膜の原料と用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,7−ジブロモフロオレンと、脂肪族アルコールと、アルカリアルコキシドと、銅および/または酸化銅とを含む混合物を加熱し、2,7−ジヒドロキシ−9−アルキルフルオレンを製造する方法。

【公開番号】特開2008−150327(P2008−150327A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340183(P2006−340183)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】